やつがれ、ヤクザの武器になります。

「舐められたものだ…奴らは余に殺し合いをさせる気があるのか。本と手斧と人形。火縄銃来たら一発じゃな」

信長は胡座をかいて座り込んだ自分の目の前に広がる『支給品』たちを見ながら、少し怪訝な表情をした。
先ほど遭遇してから二時間は経っただろうか。彼女ら(厳密にいえば彼と彼女だが)はの道場で休憩をとっていた。
そこで折角だということで身支度を整える事にしたのだが。信長に与えられた支給品らはおそらくハズレという部類に入るだろう。
『鉄砲』の強さは信長は何より知っている。長篠の戦いで武田勝頼率いる騎馬隊を殲滅させたその強さ、戦力はただしれない。

故に銃が入っていれば多少は違ったのだろうが───女子でも持てるような軽い手斧だけではそういった銃、いや弓でも相手取って戦うことは難しいかもしれない。
手斧を持ち直すと、どこか血なまぐさい臭いがした。

思い返す、戦場の血の臭いだ。おそらくこれを使ってた物は獣か魚か、あるいは───人間かなんかを殺していたのだろう。

人間五十年。
慣れ親しんだ敦盛の歌通り終えた人生だった。
だがもう一度、手に血を染めることになるかもしれないとは不思議なこともあるものだ。

信長は自分の状況を少し不思議に思い直すとフィギュアに手を取った。本は後で読むとして、これが中々クオリティは高い。かの狩野派を彷彿とさせるような豪快な着物の色は美しさを感じさせる。ゆえに、曲線美的な女性の肢体が映えて見える。
未来のフィギュアも、技術は中々。
信長は感心してしまい、それを様々な角度から見回していた。

「お!信長そのキャラ知らねーのか?人気なんだぜ」
「キャラというのは、いわば作品の登場人物か。何と言うのだ、この女は」
「あたしもその手は見ないから詳しくないけど確か『へし切長谷部』ちゃん?だったかな」
「なにぃ!?」

『へし切長谷部』といえば、余の刀ではないか!とまで言いかけてその言葉を飲み込んだ。
アースCにおいては他の世界軸の存在を他の世界軸の人物の介入という形で垣間見ることができる。
自分の親衛隊の一人が言っていた『織田信長が女体化する作品』も最初聞いた時は怒りのあまり学校を焼き討ちしかけたが、なるほどそういったジャンルのものの一つだと考えると今ならば納得できる。

もう一度見つめる。
この女に長谷部要素、あるか?とも考えたが(逆に長谷部要素ってなんだよとも同時に考えた)、自分の外見もかつて男だった時とはかけ離れているからそれと似たものなのだろう。まあ、自分の場合は安倍晴明によってこんな姿にされた上に、そのまま他の世界に飛ばされてしまったので長谷部のパターンと一致、とは言えないかもだが。

「…長谷部…その、なんだ。すまんのこんな姿にしてしまって」
「おいおい信長、カメラが回ってたらどうすんだよ!信長キャラならもっと堂々とした方がいいんじゃね?」
「うつけが!余はキャラじゃないと言ってるじゃろう!」

言い張る信長をスルーして、優芽は自分のディパックを持つとそのファスナーを全開にして、ひっくり返す。
一斉に様々なものが出てくる。どうやら食料や水も入っているようだ。おそらく3日間ほどは生きれるだろうという量。

その他コンパスや地図などサバイバルに必要な物があったが、優芽はまず真っ先に『参加者候補者リスト』というリストに手を伸ばし、それを開く。

「信長。どうやらこの番組一般人参加型でもあるみたいだぜ。アイドルか芸能人だけが参加してるもんだと思ったけどさ。ほら、見てみ?」

相変わらずどすっ、と胡座をかいたままの信長にリストを突きつける。
信長はそれを手に取り、優芽と同じようにリストを開いた。
おおよそ100人超はいると思われる候補。自分も与えられたが、どうせ知らない者ばかりであろうと無視していた。
しかし、おそらくこれを優芽が突きつけてきたとしたら、彼女の知人か、信長の知人がこの中にいるのか。

一番上の『片桐花子』の名前を見たあとに、見るのを一旦やめて優芽にふと聞いてみる 。

「知り合いがおるのか」
「ん、まぁーね。行きつけの上山先生に小野寺館長。いつもボディーガードしてくれるイエスマンさん…ま特撮ヒーローだの探偵だの魔法少女だの色々気になることはあるけどさ…。
まーそのへんほっといて一番気になるのは…コイツ。平沢茜」

優芽が寄ってきて、リストの前半に名を連ねていた『平沢茜』へと指を指した。
近くに来た時に、柑橘系の優しい匂いがした。おそらく彼女のシャンプーの匂いだろうか。
活発でややガサツなところもあるが、彼女もやはり年頃の少女なのだ、と再確認。

「うちのシャバを滅茶苦茶にしててさ。夜地下で殺し合いの闘技場開いたり小学生に殺し合いさせたり───悪趣味なヤツだよ」

平沢茜の名はアースRにおける裏社会においてももはや有名であった。
名が割れているというのに、被害を出しているのに。人を殺しているというのに何故か捕まらない謎の女。
ほかの世界においては通常である異常が目立つアースRにおいても、平沢茜の異常さは、他の世界においても異常とカテゴリされるはず。
そう言えるほど、彼女は生まれ持っての『悪』であった。

「いっぺんシメとかないかなって思ったけど丁度いいよな…!あ!今の発言はカットで!頼むぜー。一応清純派活発系アイドルとして売ってんだからさ!」

あたふた、と怒気のこもった声から明るい口調に変え、にこやかにアピールする優芽。
隠しカメラでもあるのだろう、と自分のイメージを崩されないようにしておくために先程のことは彼女的にはよくない。
信長にも聞こえるように笑いながら、どこか申し訳なさそうに優芽はしていたが、信長はその話を聞いたあと、少し時間を置いてリストを床に置くと呟いた。

「…余は、これを見て正直戸惑っておる。竹千代殿にエロクソザルハゲネズミ、そしてあの憎き、憎き光秀。さらにはあの平蜘蛛ボンバーマンこと久秀。そういったたわけどもらが名前を連ねておるのだ」

信長は最初からアースCにいたのではなく、安倍晴明によって復活され女体化された直後にアースCへと迷い込んだ。
ゆえに彼は他の戦国武将たちも、おそらく晴明により復活されてしまったのだろう。特に光秀と久秀はマズイ。間違いなく危険とも言える。多くの者たちに裏切られてきた信長にとっても、彼らは厄介者。
二人とも連れてこられていたら、と思うと少し悪寒が走るくらいだ。

「スライムちゃんもおるし、保護したいところであるが…奴らも余と同じようにこの世にまた蘇った者だとすると、どうもこの殺し合いにはそういった『術』の使い手が関わっているかもしれんな」

彼を復活させた安倍晴明もまた黄泉の国から復活した人物だ。
ゆえに陰陽師とはいえ明らかにその陰陽道を逸脱したような術を使うことが出来ていた。らしい。

名簿の中には彼の知り合いの1人、スライムちゃんが居ることも不安ではあるが…。信長にとっては何よりそれが心配すべき点だった。
黄泉がえりを行えるのはおそらく安倍晴明ほどの陰陽師でなくてはならない、
それをこの場で可能としたのであれば、間違いなく陰陽師の一族か、呪術を使えるものなのだろうと考え、優芽を見つめた───

「え?何?術?ごめんよくわかんね☆」
「昔の余なら怒りのあまり焼き討ちするレベルじゃぞその対応!!」

つい昔延暦寺を焼き討ちしたというある意味黒歴史に近いようなブラックジョークを持ち出して信長は盛大にずっこけた。
昔の信長ならばマジで首跳ね飛ばすくらいのことはしただろうが、それをせずに突っ込んだだけというのはある意味カオスな人々がいるものの比較的平和な世界で過ごしてきて丸くなった証拠か何かか。

「あたしの武器はっと…手帳?なになに。お!巴竜人ってあの人気俳優谷内剛(たにうち ごう)が演じてるヒーローじゃんっ!すげーなぁ特撮ファンはここまで詳しく…うわ!刀だ」

詳しく特撮ヒーローのことについて書いてあった手帳をすぐにポケットの中に入れると、優芽は置いてあった刀へと手を伸ばそうとした。
信長はそれを見て、すぐに気づく。その刀には、どこか禍々しい妖気を感じる、と。

晴明に復活させられた日から、信長には妖気が見えるようになった。
禍々しいような、黒いその気を刀は纏っている。

「…まて!それに触るのは───!」

優芽を止めようと、信長が優芽の伸ばす腕を掴もうとするが、その伸ばす速度は早く、優芽はがっちりと鞘の部分を握り締めた。
すると、その時、纏われていた妖気が刀を包み込み、数秒すると優芽の手には鞘ではなくて刀の柄が握られていた。
そして二人の目の前には、漆を彷彿とさせる艶のある黒に、真っ白な、雪のような肌。黒色の瞳は鋭い。一人の背の高い少女が立っていた。
少女は優芽の握っていた妖刀の前にふわり、と降り立つと、少しお辞儀をすると二人に対して口を開いた。

『…奴(やっこ)は…初めましてだね。やつがれは妖刀、小烏丸の鞘。名を黒羽という者だ』

妖刀「小烏丸」の鞘、黒羽。
アースEにおける陰陽師の一人で、妖刀「小烏丸」の鞘となることで小烏丸を使い、敵を倒してきた人物である。
突然現れた美少女に、二人はぽかんとしている。無理もない。突如として目の前に人が現れただけでも驚くのにそれが信長に並ぶような美少女なのだから。ある意味アースRでは味わえないような、初めて見る美しさが感じられたほどだった。
そんな二人をほっとく様にふぅ、と一息つくと黒羽は口を開いた。

『…さて。自己紹介はこの辺にして、と。奴。やつがれの小烏丸を返してくれないか。小烏丸はやつがれ自身だ。それを同化させないとやつがれも困る』
「…え、はい、どうぞ」
『ややや。すまないね。やつがれもこれが壊れると困るんだ。すまないけど返してもらう──!?』

黒羽が優芽に差し出された刀に手を触れようとした瞬間に、黒羽の手が弾かれた。
黒羽は唖然に取られながら、もう一度手を伸ばす。
ばちん。
見えない壁に守られてるかのように、黒羽は小烏丸に触れることができない。

『やや?ややや??触れない…小烏丸とやつがれは一心同体なのに…』
「え?あたし触れるぞ、ほら」
『こ、こらやめたまえそんなところ…ひゃんっ!…こら!やつがれと小烏丸は一体化してるんだ。あまりいじるなよ小娘え!…ぴっ!』
「お前も小娘だろーがいっ!見たところアンタもアイドルかなんか?」
「なぁーんだとぉ!」
(…これさっきの余と優芽じゃね?)

デジャブに近い光景を見ながら、しかし信長は黒羽がただのアイドルではないことを見破っていた。
あの類の能力は、陰陽道の使い手が持ち合わせるもの。いわばあの安倍晴明が持っていた妖気とよく似ている。
陰陽師とは、単なる妖気の強さではない。本人の才能、身体能力も大きく関わる。
信長も完全には妖気を感じられないが、あの黒羽の妖気は始めてみた物であり、おそらく彼女も腕は立つのだろう。
信長は立ち上がると、黒羽と同じ視線にあわせて口を開く。

「見たところ、貴様も中々の手練のようだ。余も女になったとはいえ腕が鈍ったワケではない。貴様が何者かは知らんが───おそらくあのうつけども、主催者どもが貴様が反抗しないように仕向けている可能性があるかもな」
『ややや…つまり奴の刀にならないとやつがれは帰れないということかい?』
「まぁ、つまりはそういうことだろう」

黒羽はそれを聞くと顎に手を当てふむ、と考えるようなそぶりをみせ、ゆっくりと目を瞑る。
やがて小さな声で念仏のようなモノを唱え出して数秒後に、目を開いた。

『…ふむ。本来ならば、やつがれが小烏丸を扱うんだが…逆にやつがれが拠り所を小烏丸に変えればいいだけの話だ。つまりのところ、やつがれが小烏丸となって奴の武器になることは出来るかもしれない。小烏丸との妖気を伝達してみたところ、そういった趣旨のことを言っている』
「え!?喋るのソイツ!?」
『まあ、やつがれしか分からないけどね…よし。行くよ、小烏丸』

黒羽がそう言った瞬間に、全身が禍々しい妖気になり、液体から気体に蒸発したように、ふわりふわりと漂う。
やがてそれが小烏丸の周りに向かうと───真っ黒な、優芽が握る前の鞘に入れられた小烏丸がそこにはあった。

『…その、今ばかりは協力してあげよう…なんか、色々ついて行けてないのでね。少し休ませてくれ。それと、金髪美少女信長ちゃんがなぜここにいるのかも気になるところだしね』

声だけが響く。おそらく鞘の状態のままで話しているからこういった不思議な形にでもなるのだろう。
驚く優芽に、感心すら覚えてしまう信長。
それと同時に、自分の事を信長だと分かっているということはやはり安倍晴明のグルだろう。
安倍晴明が関わりを持っていると断定はしたくないが少なくとも陰陽道がなんらかの形で関わっていることは確かかもしれない。
あの黒羽という少女が何故小烏丸を持つことができず、ただの刀へと制限をかけれたのたか。
それもまた安倍晴明と同等、または以上の妖力を持ち合わせてる者が成し遂げれる技であろう。

(…ならば、余らが復活したのも───このためだとしたら、この殺し合い、もしや…)
「ひえー。すげー今の技術。ホログラム?ってやつだよなぁ!…信長?」

顔を上げる。疑問そうな優芽が信長を見つめていた。
あそこまで不可思議なものを見たのに平然としているのが不思議なものであるが、まあ今に始まったことではない。
優芽にとってはかなり強い武器になるかもしれない。なんとか彼女にここを『本当』の戦場だと分からさせなければいけない。
そうしないと『暴走』しかねない。下手な正義や断罪は『蛮勇』となり、後にそれは終わりを迎えることになる。
それだけは避けなければ。あのうつけ、主催者を斬るためにはこの少女が必要になるのかもしれないのだ。
だが、どうやって彼女を戦闘に参加させる。ただの非戦闘員である彼女に。刀一本で何ができる───

「…やめるか。今はどうやって主催の元にたどり着くかだ。それを第一に考えよう。…だめだ、やはり最重要要件はあのうつけをなんとかすることではないか…」

信長は考える。深く深く。優芽を『勘違い』から救うために。

【F-6/道場/1日目/黎明】

【織田信長@アースC】
[状態]:健康
[服装]:ファンクラブに作らせた格好良い女子制服(一般人が見れば奇抜な格好)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、世界最終戦争@アースA、手斧@アースR、刀剣これくしょん『へし切長谷部』フィギュア@アースR
[思考]
基本:殺し合いを開いたうつけを斬る!
1:御園生優芽と同行。出来れば現状を理解してほしい
2:この殺し合いには陰陽道の使い手か、それに近い力を持つものが関わっている?

【御園生優芽@アースR】
[状態]:健康
[服装]:アイドル服
[装備]:妖刀『小烏丸』(黒羽)@アース E、木下麻帆の追っかけメモ@アースH
[道具]:基本支給品
[思考]
基本:信長と一緒に撮影をがんばるぜ!
1:ドッキリが終わるまでは信長の部下になってやるか
2;すげー!現代の技術すげー!
[備考]
※殺し合いをドッキリ企画だと誤解しています。
※織田信長を信長系アイドルだと誤解しています。
※黒羽もアイドルと誤解しています。どういう系かは本人に聞いてください。

【妖刀『小烏丸』(黒羽)@アースE】
陰陽師黒羽。しかし本人は刀を握ることが出来ず、その刀に最初に触れたものしか刀には触れられない。
また半径3メートルより先に最初に触った所有者から離れることは出来ない。刀のダメージ=黒羽のダメージで、刀、鞘、どちらかが折れてしまえば双方とも消滅する。
一人称は「やつがれ」。二人称は「奴(やっこ)」。

【木下麻帆の追っかけメモ@アースH】
アイドル追っかけの主婦、木下麻帆のメモ。
若手一押しヒーローのあれやこれやが書いてある。

【世界最終戦争@アースA】
石原莞爾の著書。基本アースRのものと同じ。

【手斧@アースR】
麻生叫が以前の殺し合いで使っていたもの。AKANEの超技術でそのまま持ってこられた。
血塗られており、ところどころ肉片も見れるほど。

【刀剣これくしょん『へし切長谷部』フィギュア@アースR】
人気ブラウザゲーム刀剣これくしょんの人気キャラ「へし切り長谷部」のフィギュア。
クオリティ高め。

035.ダブルクロス 投下順で読む 037.[[]]
035.ダブルクロス 時系列順で読む
008.スマイル全開で明日を目指そうよ 織田信長 [[]]
008.スマイル全開で明日を目指そうよ 御園生優芽 [[]]

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最終更新:2015年06月30日 15:24