灰色の楽園を壊したくて

「殺し合い――だと?」

ICプレイヤーから流れる音声を聞き取り、信じられないとばかりに青年は目を見開いた。
殺し合い――その単語だけで過去に一度だけ強制的に参加させられたことがある、史上最悪の催しを思い出す。

気が狂った友人が、生き残る為に他者を殺害する道を歩んだ。
自分に優しくしてくれた人が、過酷な環境に耐え切れず、自殺して楽になる道を選んだ。
普段ならば頼りになるはずの警察官が、己が命の為に無差別殺人を嬉々として行っていた。
幼馴染の少女が、自分を助ける為に身を挺して不意討ちから守ってくれた。
主催者――平沢茜は安全地帯で待機して、参加者が必死に殺し合う姿を嗤いながら眺めていたらしい。
彼女にとって参加者は道化以外のなにものでもなく。ゆえに最後まで生き抜いた自分を見る目つきや態度も、まるで道化に対するソレであった。

「たしか世界観測管理システムAKANE――と名乗っていたな。やはり、平沢茜の仕業か」

平沢茜――かつて殺し合いを開催した魔女の姿が思い浮かぶ。
優勝した報酬として殺し合いを二度と開催させないことを望んだが、それは却下された。彼女曰く、あの舞台こそが楽園らしい。
だからせめて、自分や身内を二度と巻き込まないことを誓わせたが――強引に無関係の人々を巻き込んだ彼女は、そんな約束を律儀に守る性格だろうか?
彼女からしてみれば駆は道化であり、舞台役者だ。更に優勝者という称号まで有しているのだから、これまで再参加せずに済んだことは奇跡的だとも考えられる。

「優、幸太、あざみ、桃子――――それに会長や副会長まで候補、か。……これはあくまで候補だが、平沢茜のことだ。最低でもここから数人は選ばれているに違いない」

以前の殺し合いもそうだった。
候補者リストではなく、名簿という形で紙切れ一枚に自分の幼馴染や友人、知り合いの名前が並べられていたことは衝撃的で、よく覚えている。
それに自分以外の参加者も大小の違いはあれど、必ず一人は関係者が存在していたらしい。中には愛人を優勝させる為に他者を殺している者までいた。
きっと効率的に殺し合いを促進させる手法はこれが一番なのだろう。更にいえば、平沢茜は親しい者同士を争わせるという行為自体が好きそうだ。

「……しかし一つ疑問が残るな。どうして平沢茜本人まで候補リストに名前が載っているんだ」

自分の知っている平沢茜は、高みの見物をしているだけの主催者だ。
気まぐれで本人が参加している可能性もあるが、あの女が死亡する可能性を孕んでいる危険地帯に自ら赴くだろうか?

「いや――考えるだけ無駄か。相手が何者でも俺には関係ない」

疑問は尽きないが、今は考えるだけ無駄だと切り捨てる。
次いで取り出したものは――見たこともない特殊な武器であった。
ご丁寧に付属された説明書には、持ち主の意思でナイフにも銃にも変形する便利武器だと書いてある。
更に銃も様々な形状に変化するもので、狙撃や近距離射撃のどちらも使える上に、弾切れという概念のない優れものだという。

「ほう」

武器を手に取り、ナイフや銃の形態に変化させる。
成る程。説明書に記されている内容は本当らしい。生まれて初めて見るタイプの武器であるが、なかなかの当たりだ。
ナイフや銃には幼い頃から触れている。性能が良くても慣れない武器を支給されるよりも、自分が得意とする武器に複数変化してくれるものを支給されたことは有り難い。

「それにしても、チーム戦か。生き残りが一人に限られない分、以前よりも厄介なことになりそうだ」

己が首輪の記号を確認して、うんざりとため息を吐いた。
優勝者が一人しか発生しない前回の殺し合いでも、死に怯えて生き残る為に他人を殺す者がいたのだ。
チーム戦で自分以外にも味方が多数いるとなれば、自分が勝ち残る為に他チームを殺す者は以前よりも多いだろう。
なにせ他のチームを全滅させるだけで殺し合いが終わるのだ。一人だけで全滅させる必要があった前回よりも個人の負担が少なく、自チームが勝ち残る可能性も大いに有り得る。

しかも生き残りが一人でないということは、同チームに親しい者がいれば一緒に帰ることが出来る可能性まで存在するのだ。
他人のみならず、自分を犠牲にしてでも特定の者だけを生き残らせると決意することは難しいが、他者を殺すだけで親しい者と一緒に生き残ることが出来るのなら――それを実行する者は意外と多いかもしれない。

「俺のチームはRか。一定法則に分けられているということは、同じ高校の生徒も全員Rだろう。
 カップルの幸太か花巻咲が他の参加者を無差別的に襲わなければ良いが――可能性がないとは、言い切れない。困ったものだ」

山村幸太と花巻咲。
同じ高校に通うこの二人は、非常に仲の良いカップルである。
もしも自分の予想する通り二人が同チームだとすれば、どちらかが――最悪どちらもが、他者を襲う可能性が高い。
冷静に考えれば他の突破口を探すという選択肢もあるのだが、殺し合いという環境は精神を狂わせてしまう。冷静に判断出来ない者も、多いだろう。

「あまりネガティブなことを考えても仕方ないか。俺は今度こそ多くの人々が生き残れる道――主催者を殺す為に行動するだけだ」

あの時は殺人狂の襲撃で自分以外は殺されてしまったが――今回こそは自分以外も生き残ってみせる。

「その為にも、まずはこの首輪を外す必要があるな。前回は偶然にもその手の分野に詳しい参加者がいたが――今回も見つかるだろうか?
 とりあえず首輪の解除に利用出来そうな道具を見つけたら、回収しておくか」

主催者に反逆するには首輪解除が必須だ。これは前回と共通しており、その為に何らかの手段で首輪解除を行える仲間と道具を探す必要がある。

「それに加えて、出来る限り早く知り合い合流する必要があるな。身体能力が優れている会長と幸太は兎も角、他の女子――優はあの膨大な見せ筋で乗り越えられるとしても、やはり放っておくのは危険だ。無論、女子同然のあざみと副会長もここに含めている」

物事には優先順位がある。
あまり優先順位を決めるべきではないと理解しているが、やはり最も心配であるのは自分の知人だ。
戦力として数えられる者は自分の知る限りだと、サッカー部で運動神経が良い山村幸太と様々な伝説を残す会長、大空蓮のみ。
副会長の愛島ツバキも射的の腕が抜群だと聞くし、金本優は男顔負けの膨大な筋肉量を誇る。この二人も戦力として数えて良いかもしれないが――男性陣と違い、どうしても不安が残る。ツバキは接近戦が出来るタイプに見えないし、優は筋肉が凄くとも運動神経が特別良いわけではないのだ。

「麻生叫はあの噂が本当ならば戦力として数えるべきだが――十中八九、ただのガセとしか思えない内容だ。
 ――というより、あれが事実であるならば、俺と殺り合うことになるのがオチか」

口を裂いたケガは地元のヤクザとケンカしたときについたもの程度の噂ならば信じるが――口から出る言葉で人を狂わせるが故の口縫いだとか、喧しいからと空手部を壊滅させただとか、酷いものだと気まぐれで電車をぶっ飛ばしたなんてものまである。
流石に自分と同じ高校にそんな化物が潜んでいるとは思えないが――考えてみれば、不本意とはいえ幼い頃から戦闘訓練を施され、一度殺し合いで優勝を果たしている駆自身も一般的な高校生ではない。
ゆえに微粒子レベル程度には噂が実話だという可能性も存在するが、もしもそうなら厄介極まりない存在である。
何せ噂で聞く麻生叫はこれ以上なく凶悪であり、嬉々として殺し合いを楽しむであろう危険人物だ。殺し合いを打破する突破口を探し、主催の打倒を狙う駆と対立することは、避けられない。

「考えれば考える程、問題は山積みだ。せめて麻生叫の噂がガセであることを信じるか」

ある程度自分の置かれている状況を把握した後、バトルロワイヤル優勝者――東雲駆は動き始めた。
平沢茜が作り出した――――死と絶望で満ち溢れる、灰色の楽園を壊す為に。

【C-3/森/1日目/深夜】
【東雲駆@アースR】
[状態]:健康
[服装]:制服
[装備]:変幻自在@アースD
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~2
[思考]
基本:平沢茜が作り出した灰色の楽園を壊す
1:首輪を解除出来る参加者を探す
2:出来る限り早く知人と合流したい
3:山村幸太、花巻咲、麻生叫を警戒
[備考]
※世界観測管理システムAKANEと平沢茜を同一人物だと思っています。

【変幻自在@アースD】
怪盗乱麻の祖父が作り出した怪盗アイテム。
持ち主の意思で様々な銃やナイフに変形する武器で、弾切れという概念がない。
盗みというよりは戦闘を前提に作られた道具なので怪盗乱麻は使用していない。

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最終更新:2015年07月04日 22:05