私が戦士になった理由

かつて夫婦仲の良い家庭に生まれた、恵まれた少女がいた。
名前はラモサ。永久の幸福を祈って名付けられた彼女は、その名の通り笑顔が絶えない元気な少女である。
この時代は決して平和とは言い難い。常人の手に負えない者が悪行の少なくない世の中であり、毎日のように凶悪犯罪が起こっている。

されどこの世界には、もう一つの勢力――ヒーローと呼ばれる者たちが存在する。
正義の代行者たる彼らは、どんな悪行も許さない。市民を護る為にも血肉を撒き散らし、悪党に対抗している。

だから、無駄な心配は必要ない。ラモサはヒーローを信じて、この素晴らしき日々が永劫に続くと思って暮らしていた――――。


学校の帰り道。
何の変哲もない幸せな日々を壊すように、ラモサの家から見知らぬ少年が突き飛ばされていた。
喧嘩でもしたのだろうか? 彼は酷い重傷を負っていて、立ち上がるのもやっとだという様子である。

「諦めの悪いガキだ。ヒーローに私情を挟むな」

玄関から歩き出た灰色の男が、見下すように少年を眺めた。
生気を失い濁り果てた瞳は、まるで死人のようで、見ているだけで彼が只者ではないと知らされる。
対する少年が瞳に宿しているものは――希望だ。絶体絶命の窮地であるにも拘らず、彼は一向に諦める気配がない。

「うるせェ! 政府直属のヒーローだかなんだから知らねえが――その人たちは、人間だッ!」
「それがどうした? 元が人間であろうが、今や彼らは怪物同然。殺すべき悪だと政府から連絡も入っている」
「理解も納得も出来ねェな。俺の知ってるヒーローは――――師匠は、罪のない人を殺したりしない!
 そしてそれは俺も同じだ。まだ人間の心が残ってるなら――俺はこの人達を全力で守ってやる!」

この二人は何を言っているのだろうか?
突如の事態に、頭が追いついていかない。状況を理解することが出来ない。
辛うじて解ることは、少年が対峙している男は政府直属のヒーロー、早乙女灰色だということだけだ。
だから普通に考えればヒーローが悪人を追い詰めているようにも見えるが――少年の言葉の内容から察するに彼が悪人ではないのだろう。
考えれば考えるほど、わけがわからない。そもそも少年は何を守ろうとしているのか。

「それが俺の――ヒーローの王道だぁっ!」

気合いを振り絞り、立ち上がった少年が拳を固く握り締める。
真っ直ぐな瞳が灰色を見据える。/生気の宿らぬ死人がヒーローを見据える。
実際は灰色がヒーローで少年は素性すら知らないのだが、今のラモサにはそんな風に見えた。

互いの視線が交わった刹那に――少年が疾走り、灰色が身を構える。
助走をつけて振り抜かれた正拳突きが、灰色に迫り――――数瞬後のラモサが見たものは、全身全霊で放った一撃を躱され、態勢を崩す少年だった。

「ガキが」

――――無慈悲な銃声が響き渡る。
結城陽太は政府に悪と認定されていない少年だ。命を奪う必要はないが、彼は仕事の邪魔をした。
ゆえに灰色は容赦をしない。足を撃ち抜き、少年の自由を一時的に奪うとラモサの家へ再び戻ろうとして――。

「お前も止めてみるか?」

陽太に駆け寄るラモサを一瞥した。
意味不明だ。何らかの事件に巻き込まれたことは間違いないが、どうして灰色はラモサに声を掛けたのか。

「……もしかしてラモサちゃん、か?」
「え――どうして私の名前を?」
「あの人たちが呼んでたんだ。家族3人で笑っている写真に、何度も何度も……。
 それで俺は確信した。二人はまだ意識がある。姿形は変わっても、ラモサちゃんの両親は怪物なんかじゃねェハズだっ!」

「え? それってどういう――」
「――――何も難しい問題ではない。政府に悪と認定されたから殺す、それだけのことだ」

再びラモサたちの目の前へ立ち塞がる灰色。2つの異形を手にした彼は、それらを悪と断じて殺すと宣言した。
未練がましく家族写真を抱えて涙を流す怪物たち。肉体の至る所からギロチンの突き出した形状はとても人間だとは思えないが、彼らの一挙一動はどこまでも人間臭くて――。

「お母さん? お父さん?」

血に塗れても守り抜いた家族写真が、ラモサに状況を理解させた。

「お前の両親は数時間前、Mr.イヴィルの手で怪人に成り果てた。今や政府が害と認めた、立派な怪人だ」

何一つ表情を変えることもなく、灰色は真実を告げた。
つまりそれは、ラモサの両親が理不尽に怪人にされた挙句、政府直属のヒーロー手で殺されてしまうということで。
未だ人としての意思がある生物の命を強引に奪い去ろうとしているということで。
政府は。ヒーローは、姿形が怪物になってしまえば、罪なき人々を見捨てる悪ばかりの集団なのだろう。

「……ラモサちゃんの両親を殺させるわけにはいかないッ!
 ここで負けたら――いのりみたいな子がまた増える……! だから――この戦いは絶対に引けるかぁっ!」

負傷した箇所から血を撒き散らし――それでも立ち上がるヒーローが、そこには居た。
彼は政府直属でもなければ、変身すら出来ない未熟者であるが、如何なる巨悪にも立ち向かうその姿は、正しく正義の味方。
その雄姿にラモサは感動を覚えて――――。

「やっと来たか。――――エンマ」

気が付けば一人の幼女が現れて。

「ラモ――サ?」

ラモサが瞬きをしている間に、両親の片方は呆気無く崩れ落ちていた。
母親か、父親か。もはやそれすらも解らぬ歪な風貌であるが――――最期に聞いたその呼び掛けは、よく覚えている。

「ど――してこ――なこと――に」

次いでもう片方の異形も、真紅に染められていた。
人間とは程遠い存在になっても――――やはり彼らの気持ちは不変で。それを証明するかのように告げられた遺言は、深く胸に刻み込まれている。

                            †

そして現在――――。
悪しきヒーローに人生を狂わされた少女は、自らが正義の執行者となることで悪を滅することになる。
突如として自らの内に宿った変幻自在の幻創武具――――常闇照らせし正義の柱(ボア・ドゥ・ジュスティス)が無力な少女に力を与えたのだ。

「チーム戦の殺し合い、か。悪趣味で吐き気を催す最低最悪の行事だね」

それがICプレイヤーで話を聞いた後の率直な感想だった。
ラモサは己が命を切り捨てることに躊躇のない性格である。彼女の想像する早乙女灰色や早乙女エンマと違い、正義の為に力を振るう少女だ。
この危機的ともいえる状況に怯えたりすることはないが、単純に殺し合いという行為自体が気に入らない。

「終了条件が最後の一人になるか、参加者様方が一チームのみになること?
 早乙女灰色や早乙女エンマは嬉々として他人を見捨てたり、他のチームを襲ったりだろうけど――私は無駄に被害者を増やすことなんて御免かな。あいつらと同じになるくらいなら、死んだほうがマシだ。
 だから私はAKANEや悪を断罪して、皆を救ってみせるよ。
 そして――早乙女灰色と早乙女エンマを見つけたら今度こそ裁いてやる。あの二人がいる限り、皆が笑顔で暮らせる時代は絶対に訪れないから」

「このお母さんとお父さんに託された――――常闇照らせし正義の柱(ボア・ドゥ・ジュスティス)で」

ラモサの呼び掛けに応じて右掌に顕現する正義の柱。
深淵の闇をも照らす白銀の刃は、悪の用意したICプレイヤーを斬首した後、再びラモサの体内へ戻り。

「さあ――征こうか、常闇照らせし正義の柱」

己が正義を貫く為に、戦士は征く。

【F-3/平野/1日目/深夜】

【ラモサ@アースH】
[状態]:健康
[服装]:
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム1~3
[思考]
基本:AKANEや悪を断罪する
1:早乙女灰色、早乙女エンマを見つけたら処刑する


010.鏡面の憎悪 投下順で読む 012.殺人鬼×少女×少女
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GAME START ラモサ 041弱さ=強さ

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最終更新:2017年05月24日 17:14