戦のあとには悪魔が嗤う ◆NiwQmtZOLQ


時は、少し遡る。
小湊るう子と浦添伊緒奈は、既に放送局の外へと出て走っていた。
二人とも、共に年頃の少女として持ちうる体力にそう大きな差が有るわけではない。
しかし、どちらかといえばどんくさい方にカテゴライズされるるう子では、そう簡単には追い付くことが出来ない。
そのため、二人の間は徐々に開いていく一方。

(この、まま、じゃ………!)

るう子の胸に、焦りが去来する。
伊緒奈に逃げられれば、単に脱出が遠退くだけではない。
ゲームに乗っている側である彼女が自由になれば、最悪の場合被害者が出る可能性が出てくる。
焦る頭の中で、その考えは咄嗟に浮かんだ。

「定春、お願い!」

叫びながら、黒いカードを眼前に掲げる。
飛び出てきた白い犬は、一声鳴いて周囲を見渡したかと思うと、自分が呼ばれた目的を理解したかのようにウリスへと駆け出した。

「くっ…!」

人間の背丈を上回る大きさの獣に襲われれば、肉体的には一般人である伊緒奈に出来ることはない。
すぐさま定春に追いつかれ、覆いかぶさるように飛びかかってきたその犬に対して
どうやら、上手く取り押さえられたらしい。
怪我をしていなければいいけど、と思いつつも、息を切らせて彼女に近寄る。

「っ、ふふふっ……」

しかし。
そこで伊緒奈が浮かべていた表情は、笑顔だった。
え、とるう子が行動を停止させたのを見て、更にその笑いを深くしながら伊緒奈が口を開く。

「こんなものまでけしかけられるようになったなんて…やっぱり貴方、変わったわね」

どういう意味か、分からない。
ますます疑問符が頭に浮かび、それが表情にも出ていたのかこちらを見ながらより一層愉快そうに笑いながらウリスは言葉を続ける。

「あの悪魔に言われるがまま、とりあえず私を捉えて………しかも、こんなに乱暴に。
そこまで落ち着きのない性格だったかしら、あなた」

その言葉に、酸欠になって回らない頭は混乱を増す。
確かに、定春に頼ったのは早計だったかもしれない。
しかし彼に頼らなければ、伊緒奈に追い付く事が出来なかったのも事実だ。
だから、と言おうとしたその一瞬前に、目の前のウリスが再び口を開いた。


伊緒奈からすれば、意外だったのは本当だ。
あの犬があることは知らなかったが、それをけしかけるという行為が本当に意外だった。
先にも言ったように、疲弊したような目をしながら─────それでも、これだけの事を何の違和感も抱いていない様子でやってのけた。

言うなれば、遠慮が無くなった、か。
自分がまだルリグだった頃に見た、ウィクロスでのバトルを楽しんでいた時と、僅かに似ているだろうか。
自分のやっている事に認識が追い付いていない、というのが近いかもしれない。
弱り切った目でありながら、しかし意思だけはやたらと強い。
その矛盾の落とし所といえば、その辺りが妥当であるのではないのだろうか。

理由が何かと言えば、もちろんこの殺し合いで、幾つか修羅場を潜ってきたという事もあるだろう。
ならば、その中で。
彼女の中にあった暴力の箍が、僅かに剥がれたとするなら。
即ち、この殺し合いで少なからず「暴力に慣れた」、或いは「暴力を使っても良い場面」を知ったと言って差し支えないだろうという感情を、彼女が心の何処かで抱いていると。
だからこそ、彼女もまたこうやって、自覚しないままに暴力的になっている、と。

そして、そう捉えた伊緒奈は。
るう子の心へと、深く強く楔を打ち込んだ。
晒され続けて磨耗し、小さな疵が生まれた心の表面に。
壊れるきっかけとなり得る、罅を入れた。


「貴方自身─────このゲームの中で、何か大事なものを失くしてはいないかしらね?」


「っ─────!?」

唐突な、発言。
しかしるう子は─────言葉に、詰まる。
違うと言い返そうとしても、そこから上手く繋がる言葉が出てこない。
落ち着いて、と自分に言い聞かせる。

そうして、とりあえずでも何かを言おうとして。


そこで。
パシリ、と。
るう子の首筋に、何かが叩き込まれる感触があった。


─────え?

振り返ろうとするよりも、早く。
るう子の意識は、そのまま闇に落ちた。



「─────何のつもり?」

伊緒奈が、鋭く言葉を飛ばす。
それは当然の反応だった。
何故なら、目の前にいる少女を気絶させ、今目の前に立っているのは─────放送局の内側にいた、ラヴァレイという男だったから。
噛みつこうとする定春を即座にカードに戻し、男は見下ろしたまま口を開いた。

「アキラ殿から、君の話は聞いていた。だからこそ、言わせてもらおう」

晶─────蒼井晶。
自らが籠絡し、此処で既に生命を落とした、憐れな少女。
しかし、彼女に私の話を聞いていたからといって何だというのか。

「─────何かを望む心は、人を強くする」

その言葉に、頭に浮かぶのは疑問符と苛立ち。
いきなり何を言っているのか。
晶云々とも関係無さげに思えるその台詞に、一体何の意味があるのか。
それを問い詰めようと、口を開きかけたところで。

「─────そしてその強い心が折れる音は」

悪魔の唇が、歪み。

「何よりも、心地好い─────そうは思わないか、『ウリス』殿」

にやり、と笑った。
その表情が、きっとその言葉を聞いて自分の浮かべたものと同一のそれと自覚して。
ウリスもまた、己の顔がより歪む事を感じた。、


「これから、どうするの?」

未だに戦場となっている放送局のその中。
向こうが戦闘に気を取られている内に潜入した二人は、そのまま地下通路へと潜り込んでいた。
ウリスの問いかけに、ラヴァレイは薄ら笑いを浮かべたまま言葉を続ける。

「まずは、ここから北に行こうと考えている。こちらの知り合いがまだ数人残っている可能性があるからな」

そうは言いつつも、アテになるのは実質本部以蔵だけだ。
元の世界の住人はアザゼルと既に死んだカイザル以外は何処にいるか未だ不明。殺し合いの中で出会った参加者に関しても、駅で出会った人間は本部以外は全滅している。
或いは、高町ヴィヴィオを殺したという宇治松千夜という少女と接触出来るかもしれないが、それも希望的観測だ。
しかし、セルティが先行しているということもある。
自分を疑っている節もあったが、それをわざわざ言いふらして不和を起こすタイプでも無さそうな彼女ならば、変装こそ効果はないが取り入る隙はありそうだ。
それに、自分と同じ変装能力を持つあの少女と結んだ契約もある。どちらにしろ、最適解は北のはずだ。
そう思いながら歩き出そうとして─────背後から、ウリスが言葉をかけた。

「…それで?
それで終わりじゃ無いんでしょう?わざわざ私に本性を明かしたんだもの」

振り返り、微笑むウリスの表情を見て。
ラヴァレイはそうだな、と顎に手を当て。

「あの悪魔と、勇者を名乗る少女。二人の悪評をばらまき、孤立させた上で処理する─────それでどうかな?」

事も無げに。
まるで、取るに足らない事を語るかのように。
あっさりと、それを言ってのけた。

行動を起こした時点で、自分がアザゼルに強く疑われるだろうことはわかっている。
だからこそ、対立した際の味方を増やす。
変身による様々な身体を駆使して、彼等の信用を抹殺する。
ウリスはともかくるう子も生かしているのは、彼等が下手な事を出来なくなる為の保険でもある。

「悪く、ないわね」

返ってきた答えは、それに返すに相応しくない明るい声音。
何を想像したのか、如何にも愉しげに口元を歪めたウリスが、そう言ってラヴァレイを一瞥し。
その返答に、ラヴァレイもまた改めて満足したように微笑んだ。


【E-1/地下通路/一日目・午後と夕方の合間】

【ラヴァレイ@神撃のバハムートGENESIS】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:軍刀@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)
    黒カード:猫車@現実、拡声器@現実
[思考・行動]
基本方針:世界の滅ぶ瞬間を望む。
0:三好夏凜の『折れる』音を聞きたい。
1:一旦は北へ。
2:アザゼルは悪評を広めて孤立させつつ、セレクター二人を切り札として処理したい。
3:セルティ・ストゥルルソンか……一応警戒しておこう。
4:DIOの知り合いに会ったら上手く利用する。
5:本性は極力隠しつつ立ち回るが、殺すべき対象には適切に対処する。
[備考]
※参戦時期は11話よりも前です。
※蒼井晶が何かを強く望んでいることを見抜いていました。
※繭に協力者が居るのではと考えました。
※空条承太郎、花京院典明、ジャン=ピエール・ポルナレフ、ホル・ホース、ヴァニラ・アイス、DIOの情報を知りました。 ヴァニラ・アイス以外の全員に変身可能です。

【小湊るう子@selector infected WIXOSS】
[状態]:全身にダメージ(小)、左腕にヒビ、微熱(服薬済み)、魔力消費(微?)、体力消費(中)、気絶
[服装]:中学校の制服、チタン鉱製の腹巻 @キルラキル
[装備]:定春@銀魂、ホワイトホープ(タマのカードデッキ)@selector infected WIXOSS
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(8/10)
    黒カード:黒のヘルメット、宮永咲の白カード、キャスターの白カード、花京院典明の白カード、ヴァローナの白カード
          風邪薬(2錠消費)@ご注文はうさぎですか?
[思考・行動]
基本方針:誰かを犠牲にして願いを叶えたくない。繭の思惑が知りたい。
0:…………………
1:シャロさん、東郷さん………
2:夏凜さん、大丈夫かな……
3:遊月のことが気がかり。
4:魂のカードを見つけたら回収する。出来れば解放もしたい。
5:私は最低な人間……?
[備考]
※チャットの新たな書き込み(発言者:D)にはまだ気付いていません。

【浦添伊緒奈(ウリス)@selector infected WIXOSS】
[状態]:全身にダメージ(大)、疲労(中)、両手と両足を拘束中
[服装]:いつもの黒スーツ
[装備]:ナイフ@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(17/20)、青カード(17/20)、小湊るう子宛の手紙
    黒カード:うさぎになったバリスタ@ご注文はうさぎですか?、ボールペン@selector infected WIXOSS、レーザーポインター@現実
         宮永咲の不明支給品0~1(確認済、武器ではない)
[思考・行動]
基本方針:参加者たちの心を壊して勝ち残る。
0:ひとまずはラヴァレイと同行。るう子は様子を見つつ壊したい。
1:使える手札を集める。様子を見て壊す。
2:"負の感情”を持った者は優先的に壊す。
3:使えないと判断した手札は殺すのも止む無し。
4:可能ならばスマホを奪い返し、力を使いこなせるようにしておきたい。
5:それまでは出来る限り、弱者相手の戦闘か狙撃による殺害を心がける
[備考]
※東郷美森が犬吠埼樹を殺したという嘘をチャットに流しました。
※変身した際はルリグの姿になります。その際、東郷のスマホに依存してカラーリングが青みがかっています。
※チャットの書き込み(3件目まで)を把握しました。





「あーあ、つまんないの」

ヘルゲイザーに搭乗した針目は、一人上空でそう呟いた。
彼女の体内にある生命繊維からなるエネルギーが魔力の代用としてデバイスを起動させているために、これならかなりの時間飛んでいられそうだな、などと思いつつ。
その言葉に込められているのは、少なくない苛立ち。
そしてその矛先が誰かと言えば、もちろんホル・ホースとアザゼルに、だ。

そもそも、ラヴァレイとの契約は、「アザゼルの気を引き付けると同時に彼の体力を削り、その間にラヴァレイが小湊るう子、浦添伊緒奈という二人のセレクターを彼の元から奪い取る」ということだった。
無論、矢面に立つ針目の危険は少なくない。しかし、その代償としてセレクターの身柄をこちらに渡してくれるという条件を提示された以上は、針目としても賛成せざるを得ない。

しかし、その計画は完璧な成功とまではいかなかった。
本当ならば、既にこの時点で二人の身柄はこちらへと引き渡されているはずだったのだから。

ホル・ホース─────彼の乱入で、僅かばかり歯車が狂った。

「ほんっと、生意気なんだから」

心の底からの苛立ちを、遠慮することなく吐き捨てる。
生命繊維を体内に吸収させたのは確かに自分だし、トドメを刺さなかったのも自分の落ち度。
それに、あの力も生命繊維によるものだ。自分が気紛れであの余興をやっていなければ、きっとあの男も無惨に死んだに違いない。
そう自分を納得させなければ、きっと彼女は正しく怒り狂っていたことだろう。
なにせ、その肉体─────生命繊維で出来た肉体が、幾度となく傷つけられたのだから。
それも、もとは自分に蹂躙されるしかなかった無力な人間ごときが、だ。
その事実が、とにかく針目を苛立たせていた。
もしも時間などに猶予があれば、その体を粉微塵になるまで切り刻んでやりたいところだったが─────まあ、あの崩落で最後に残った分身がやるだけやってくれた。生きている可能性はゼロと見ても構わないだろう。

苛立っていることはもう一つある。
無論、自分に楯突いたもう一人の悪魔─────アザゼルだ。
ホル・ホースとは違い、こちらはあれで潰されたとも考え辛い。まだ生きている可能性は少なくないだろう。
しかし、こちらについては、苛立ちと同時にもう一つ、沸き上がっている感情があった。

それは、愉悦。
もちろん、かの悪魔が何か針目を惹き付けるものを持っていた訳ではない。むしろ、何から何まで嫌悪しているほどだ。
それでも、彼女は今確かに、彼─────正確には彼の行く末を、非常に心待ちにしていた。
何故なら。


「──────精々首を洗って待っていろ、といったところか」



もし生きているのなら、あの男の悪評を、こうして振り撒いてやるのだから。

ラヴァレイとの、もう一つの協定内容。
アザゼルの悪評を互いに広め合うというそれを初めて聞いた時は、正直なぜそんなことをしなければならないのかと不服に思ったものだ。
しかし、今になってみれば、これを受けて良かったと思えるのだから分からない。

定時放送で彼の名が呼ばれる事がなければ、広めるだけ広めてやるとしよう。
広める先は、いくつか考えたが─────やはり、ラビットハウスがいいだろうか。
このイライラをぶつける上でも、そしてわざわざ拡散した承太郎の悪評と合わせて自滅を誘う上でも。
あの兎小屋は、絶好の場所だった。

まずは、自分の顔面に傷をつけてくれたあの娘あたりをこの姿で仕留めるのがいいだろう。
遊月は出来れば生け捕りにしたいか。ちょうどセレクターという事でも用がある彼女には、死んでもらうのとは別にんこのイライラをとことんぶつけるサンドバッグになってもらう必要がある。
男共、特に承太郎については、変身したままだとさすがに劣勢になるかもしれない。しかし、今回のように逃げ回るだけならなんとかなるだろう。
アザゼルと承太郎、それぞれを筆頭とするグループが互いに嫌悪し、怒りをぶつけ合う─────考えただけで、ざまあみろという感情と共に胸がすくような感覚を覚えた。

さあ、となれば向かうのはまた市街地だ。
禁止エリアを南から迂回し、城がある山は─────このまま飛び越えるか、或いはこちらも南側から迂回するか。
箒を駆りながら、化け物の顔に張り付いていたのは─────やはり変わることの無い、どこか軽薄な笑顔だった。

【F-2/上空/一日目・夕方】

【針目縫@キルラキル】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、全身に細かい刺し傷複数、繭とラビットハウス組への苛立ち、纏流子への強い殺意
[服装]:普段通り
[装備]:片太刀バサミ@キルラキル、ヘルゲイザー@魔法少女リリカルなのはVivid
[道具]:腕輪と白カード、黒カード:なし
[思考・行動]
基本方針:神羅纐纈を完成させるため、元の世界へ何としても帰還する。その過程(戦闘、殺人など)を楽しむ。
   0:アザゼルの悪評を承太郎たちに広め、互いに殺し合わせる。
   1:紅林遊月を踏み躙った上で殺害する。
   2:空条承太郎は絶対に許さない。悪行を働く際に姿を借り、徹底的に追い詰めた上で殺す。 ラビットハウス組も同様。
   3:腕輪を外して、制限を解きたい。その為に利用できる参加者を探す。
   4:何勝手な真似してくれてるのかなあ、あの女の子(繭)。
   5:神羅纐纈を完成させられるのはボクだけ。流子ちゃんは必ず、可能な限り無残に殺す。
[備考]
※流子が純潔を着用してから、腕を切り落とされるまでの間からの参戦です。
※流子は鮮血ではなく純潔を着用していると思っています。
※再生能力に制限が加えられています。
 傷の治りが全体的に遅くなっており、また、即死するような攻撃を加えられた場合は治癒が追いつかずに死亡します。
※変身能力の使用中は身体能力が低下します。少なくとも、承太郎に不覚を取るほどには弱くなります。
※疲労せずに作れる分身は五体までです。強さは本体より少し弱くなっています。
※『精神仮縫い』は十分程で効果が切れます。本人が抵抗する意思が強い場合、効果時間は更に短くなるかもしれません。
※ピルルクからセレクターバトルに関する最低限の知識を得ました。



放送局崩落から、しばらくして。
その跡地に立つアザゼルが、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

「………なるほど、な」

忌々しげに呟き、周囲を改めて見回す。
既に飛行でも確認したが、それでも或いはと確認せずにはいられない。
取り乱してこそいないものの、アザゼルの中の焦りはほとんど最高潮に達していた。

小湊るう子、そして浦添伊緒奈。
彼女たちの姿が、周囲のどこにも見当たらない。

単純な問題だが、しかし深刻度はどこまでも重大だ。
この殺し合いから脱出する最大の鍵を持っていた二人を、みすみす逃してしまった。
恐らくは、自分があの戦闘に気を取られているタイミングで拐われたのだろう。
今なら、序盤でやたら防戦を意識していたかのようなあの小娘の行動原理もわかる。
つまるところ、自分を釘付けにしておきたかったということだ。
更なる協力者の存在─────浮き彫りになったはいいが、しかしではそれは一体だれなのか。
セレクター二人を狙った犯行ということは、彼女たちがここにいると知っていることが最低条件だ。
それをこの短時間で突き止めるなど、一体どのように─────

(………待てよ?)

そこで、ふと思い当たる。
ラヴァレイに変装した針目縫が、ヘルゲイザーを所持していたこと。
無論、殺された、或いは支給品を犠牲にその生を掴みとったのかもしれない。
だが、そう考えれば全ての辻褄が合うのも事実。
そしてラヴァレイなら、ここに二人がいるのも当然理解の上だ。
セレクターを奪う、即ちここにセレクターがいるという前提が確実であるからこそであるようにも思われるこの襲撃において、一枚噛んでいる可能性はかなり高い。

(どうやら、死にたいらしいな)

何を考えているのかは分からない。
自分だけの脱出を試みようとする外道なのか、はたまた自分に囚われている少女たちに何か用でもあったのか。
ともあれ、だ。
セレクターの不在は、ほぼ最悪の事態と言って差し支えない。
すぐにでも捜索しなければ、万が一ということすら有り得る。
そうなれば、脱出への道が限りなく遠くなる。
ラヴァレイ─────二人以外にも、現状ではかなり怪しいあの男の情報を手に入れたい。
せめてまだ何か手掛かりが見つからないものか─────そう思いながら、翼を広げようとする。

だが。

「がっ…………!」

そこで、膝をつく。
身体に残った大小様々な傷が、既に限界を訴えていた。
このまま行動すれば、先程の針目のような強者にはほぼ間違いなく負ける。
夏凜程度の相手ならなんとかなるだろうが、ただでさえ負傷している身体にかかる負担は跳ね上がるだろう。

「く、そ……」

ここまで追い詰められた自分、ここまで自分を追い詰めたあの小娘への怒りで、わなわなと肩を震わせる
しかし、少なくとも今は休まなければならない。
現時点の火急の問題であるセレクターの不在は決して甘く見ていい問題ではないが、それでもだ。
もしもこれが原因で致命傷を負いでもすれば、根本的にそんなことを言っている余裕は無くなるのだから。
腹立たしい思いに包まれながらも、悪魔は束の間の休息に身を預けようとして。


「ほう」


目を閉じかけた、その瞬間に─────ようやく、それに気付いた。


あまりにも、簡単だった。
燃える様な思いのままに、勢いのままに振り下ろした刃は、あっさりとそこにあった人間を切り裂いた。

その感触は、彼女が初めて体験したものだった。
バーテックスを斬った時、練習用の藁人形を斬った時とは、あまりにも違いすぎる感触。
或いは、数年前に体験した調理実習が、彼女の経験の中では最も近かったかもしれない。
肉。
皮、脂肪、筋肉、そして骨。
それらから構成される身体を、切り裂くということ。

そして。
それを更に印象付けるように、べたりと何かが身体を汚す。
見れば、赤い液体が、身体の各所に着いていた。
腥さと生暖かさが、それが血だという事を主張して。
温度は、東郷美森のそれを如実に思い出させた。

死の、感覚。
それも、先のものとはあまりにも違う。
自分自身の手で死を与える、感覚。

それは。
既に爆ぜる一歩手前だった三好夏凜の許容範囲の限界を、いとも容易く超えるものだった。

だから、彼女は逃げ出した。
何処へ行くとも知れず、ホル・ホースも置いて。
いつの間にか解けた満開も、それによって失われた何かも気にせずに。
そうして、逃げて、逃げて、逃げて─────不意に、何かが崩落するような音が耳に届いた。
それはちょうど、放送局─────彼女の仲間もいる筈の場所がある方角から、聞こえてきて。
行かなければ、と、壊れかけた神経でそれでも彼女はそう思った。
そこには、まだ仲間がいるのだから。
未だ残っていた勇者としての感情が、そうやって彼女を駆り立てて。
崩れかけの彼女の心に、ほんの小さな火を灯して。

「………あ」

─────そうして、その想いの火も、今吹かれて消えていった。

「あざ、ぜる」

その声は、震えていたと思う。
断言出来ないのは、彼女自身の耳に、朧げにしか届いていないから。

「るうこ、は?」
「知らん、俺が聞きたいくらいだ。少なくともこの下敷きにはなっていない筈だがな」

その言葉が、聞こえているのか否か。
夏凜の手は瓦礫へと伸び、何かを探すように掻き分けていく。
自分が何をやっているかさえ分からぬまま、ただ目の前のそれに手を伸ばす。
そのまま、少しずつ瓦礫の山を崩そうとして─────彼女の首筋に、軽い衝撃が走った。

「お前の話も、聞きたいところだが─────生憎と、俺も休みたくてな。今は貴様もゆっくり眠っていろ」

優しさからくる発言─────では、もちろんない。
彼女自身の話、そしてラヴァレイの話。聞きたいことはあるが、かといって自分が目を離している隙に何処かに行かれても面倒だ─────たったそれだけの理由。
それだけの理由で放たれた手刀が、夏凜の意識を闇へと溶かしていった。

「……さて、俺も少し休むとするか」

そう呟き、アザゼルもその目を閉じる。
苛立ちは未だ収まってはいないが、少なくとも目覚めた時の楽しみは一つ増えたな、と嗤いながら。
無論無意識レベルの警戒は怠らず、しかしアザゼルもまた休息の微睡みへと包まれた。


【E-1/放送局跡/一日目・夕方】

【アザゼル@神撃のバハムート GENESIS】
[状態]:ダメージ(大)、脇腹にダメージ(中)、疲労(大)、胸部に切り傷(大、応急処置済み)、睡眠
[服装]:包帯ぐるぐる巻
[装備]:市販のカードデッキの片割れ@selector infected WIXOSS、ノートパソコン(セットアップ完了、バッテリー残量少し)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(16/20)、青カード(15/20)
    黒カード:不明支給品0~1枚(確認済)、片太刀バサミ@キルラキル、弓矢(現地調達)
         市販のカードデッキ@selector infected WIXOSS、ナイフ(現地調達)、スタングローブ@デュラララ!!、スクーター@現実、不明支給品0~2、タブレットPC@現実、デリンジャー(1/2)@現実
[思考・行動]
基本方針:繭及びその背後にいるかもしれない者たちに借りを返す。
0:ひとまず休む。ラヴァレイに対しては警戒。
1:三好…面白い奴だ。
2:借りを返すための準備をする。手段は選ばない
3:ファバロ、リタと今すぐ事を構える気はない。
4:繭らへ借りを返すために、邪魔となる殺し合いに乗った参加者を殺す。
5:繭の脅威を認識。
6:先の死体(新八、にこ)どもが撃ち落とされた可能性を考慮するならば、あまり上空への飛行は控えるべきか。
7:『東郷美森は犬吠埼樹を殺害した』……面白いことになりそうだ。
8:デュラハン(セルティ)への興味。
[備考]
※10話終了後。そのため、制限されているかは不明だが、元からの怪我や魔力の消費で現状本来よりは弱っている。
※繭の裏にベルゼビュート@神撃のバハムート GENESISがいると睨んでいますが、そうでない可能性も視野に入れました。
※繭とセレクターについて、タマとるう子から話を聞きました。
 何処まで聞いたかは後の話に準拠しますが、少なくとも夢限少女の真実については知っています。
※繭を倒す上で、ウィクロスによるバトルが重要なのではないか、との仮説を立てました。
※東郷美森が犬吠埼樹を殺したという情報(大嘘)を知りました。
※チャットの書き込みを(発言者:D)まで確認しました。


【三好夏凜@結城友奈は勇者である】
[状態]:疲労(極大)、精神的ダメージ(ほぼ極限状態)、顔にダメージ(中)、左顔面が腫れている、胴体にダメージ(小)、満開ゲージ:0、身体機能のいずれかを『散華』(少なくとも声、視覚全て、聴覚全て、両足のいずれかではない)、気絶
[服装]:普段通り
[装備]:にぼし(ひと袋)、夏凜のスマートフォン@結城友奈は勇者である
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(16/20)、青カード(15/20)
    黒カード:不明支給品0~1(確認済み)、東郷美森の白カード、東郷美森のスマートフォン@結城友奈は勇者である
[思考・行動]
基本方針:繭を倒して、元の世界に帰る。
0:………………………
1:????????????
2:友奈と風を探したい。
3:樹のことも弔いたい。
4:アザゼル……
[備考]
※参戦時期は9話終了時からです。
※夢限少女になれる条件を満たしたセレクターには、何らかの適性があるのではないかとの考えてを強めています。
※夏凛の勇者スマホは他の勇者スマホとの通信機能が全て使えなくなっています。
 ただし他の電話やパソコンなどの通信機器に関しては制限されていません。
※東郷美森が犬吠埼樹を殺したという情報(大嘘)を知りました。
※小湊るう子と繭について、アザゼルの仮説を聞きました。
※セルティ・ストゥルルソン、ホル・ホース、アザゼルと情報交換しました。
※チャットの新たな書き込み(発言者:D)、友奈からのメールに気づきました。

※本人の魂カードを含めたアインハルトの所持品及び遺体は放送局近辺のメルセデス・ベンツ@Fate/Zeroに載せられています。
※ホル・ホースの腕輪と白カード、遺体は放送局跡に埋まっています。


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175:虚ろなる生者の嘆き:End in…? ラヴァレイ 181:distract
175:虚ろなる生者の嘆き:End in…? 小湊るう子 181:distract
175:虚ろなる生者の嘆き:End in…? 浦添伊緒奈 181:distract
175:皇帝特権:Emperor Xenotranspranted 針目縫 187:ロクデナシの空に
175:皇帝特権:Emperor Xenotranspranted アザゼル 184:前だけを見て進め
175:虚ろなる生者の嘆き:End in…? 三好夏凜 184:前だけを見て進め