インタビュー・ウィズ・纏流子 ◆Oe2sr89X.U
流子が縫と共謀して戦うことを予め拒否したのは、別に彼女のことが気に入らないからというわけではない。
かつての流子ならばまだしも、今の彼女は生命戦維を尊重し、自分の神衣を心から愛しているのだ。
当然、母なる鬼龍院羅暁への叛意など欠片ほどすら抱いていない。
父の仇を許さないという怒りはすっかり薄れ消え、相棒だった神衣鮮血を紛い物と痛烈に罵倒する。
そんな纏流子にとって、針目縫とは同じ母と同じ理想を愛する同胞であり、啀み合う理由はどこにもない。
流子は事ここに至るまでの間、数々の敵と戦ってきた。
簡単に殺せた敵も居れば、殺せなかった相手、逆に殺されかけた相手も認めたくないが、居る。
その代表はやはりセイバー……堕落した騎士王だろう。
もう一度戦えば前のようにいかない自信はあるが、縫と二人がかりならばまず負けることはないとすら思える。
単純に効率的な意味合いでも、縫と組んだ方が殺し合いは遥かに手っ取り早く推し進められる筈。
縫の言う通り、戦力としてはややオーバーキル気味であるのは確かだったが、釘を刺すような形で組まないことを伝えなければならないほどのことではない。
では何故、纏流子は針目縫に拒絶的とすらいえる態度を取ったのか。
……正直なところその答えは、当の流子自身、よく理解していなかった。
「此処でいいかな」
今しがた殺した男――衛宮切嗣と針目縫が邂逅した、槍兵の屍が転がる教室。
数の少ない席の一つに彼女は腰掛けて、対面の席に流子も座るよう示した。
「けったいな場所だな」
「まあ、室内だってのにぱんぱか銃を乱射してくれちゃったからねぇ。お行儀悪いの何の」
「ハッ」
室内でハサミを振り回す奴が言えたことかよ。
呆れたように愚痴る針目の台詞を、流子は鼻で笑い飛ばす。
五人の子ども達が毎日足繁く通う片田舎の学舎は、今や血腥い悪臭で満たされていた。
常人が踏み入ったならば、あまりの臭気に嘔吐さえしよう。
そんな地獄絵図の中、顔色一つ変えずに軽口を叩き合う彼女達はやはり怪物なのだと言わざるを得ない。
「それで? 話ってのは何だよ」
「つれないなあ。せっかく可愛い姉妹と涙の再会を果たしたっていうのにさ」
およよ、と縫は泣き真似をしてみせる。
「何もねえってんなら帰るぜ」
「まあまあ。とりあえず今後の為にも、お互い此処に来るまで何があったかだけは話しておこうよ。
えーと、なんだっけ? 虫ケラみたいな子たちが必死な顔でやってるやつ。――ああ、情報交換だ!」
此処に来るまで、何があったか。
情報交換をしようと切り出された流子の顔は、得も言われぬ苛立ちの色を帯び始めた。
縫はそれに気付いているのかいないのか、ペラペラと聞いてもいない"情報"を語り出す。
ガンマンと首のない化け物と戦い、糸使いの少女を殺したこと。
紅林遊月なる娘を利用して立ち回ろうとしたが失敗、大きな戦いに巻き込まれたこと。
空条承太郎という男が非常に腹立たしく、醜く汚らわしい人格の持ち主だったこと――等々。
承太郎の下りは多少の私怨が入っていることが流子にも分かったが、縫は概ね順調に進んで来れたらしい。
とはいえ、彼女の戦闘能力を加味すれば意外に思えるほどのダメージを、見てくれだけは可愛らしいボディの節々に刻まれてもいた。
恐らく市街地での戦いでは、相応に痛い目を見たのだろうと流子は推察する。
「あ~。流子ちゃん、今失礼なこと考えてるでしょ」
「……別に」
「ウッソだぁ。こいつ大したことないなー、とか考えてたよ、絶対っ」
ぷんぷん。そんなわざとらしい擬音を口にして怒りを表す姿には流石にうんざりとする。
姉妹を名乗るなら少しはそれらしく振る舞えばいいのに、彼女は初対面時から一度も変わらずこの調子だ。
復讐に燃えていた頃どうだったかは忘れてしまったが、彼女に対して冷静に接せるようになった今は、針目縫という怪物の本性にも察しを付けられるようになっていた。
針目縫は猫を被っている。というよりは、化けの皮を被っている。
何らかの原因でそれが剥がされれば、此奴は途端に醜い本性を晒して怒り狂うのだろう。
そう考えると空条承太郎は、限りなくその領域まで近付いた、ということか。
「でもね、否定はしないよ。ボクもあんな虫ケラどもや、さっきのネズミなんかに此処までされたのはちょっとショックなんだ。普段のボクなら仮に傷を付けられても、今頃には綺麗さっぱり消えちゃってるハズなのに」
「はん」
皆まで言う前に、流子は彼女の言わんとすることを理解した。
纏流子は針目縫の怪物ぶりを知っている。
彼女の強さを知っている。
だから、分かるのだ。
針目縫がこんな有様になっていることの異常さが。
「制限か」
「そういうこと」
縫は今、その反則的なまでの肉体性能に大きな制限を施されている。
再生能力は普段の何十分の一レベルまで衰え、精神仮縫いのような小技まで徹底的に縛られていた。
幸いそういう状況にはまだ出会していないが、即死級のダメージ――例えば、頭を木端微塵に吹き飛ばされるようなことがあれば。再生が始まる前に死んでしまう可能性さえ、今の針目にはある。それほどの弱体化を受けていたからこそ、針目縫は先程衛宮切嗣にあと一歩のところまで追い詰められてしまったのだ。
「実はさ、最初――ホントの最初の頃は、羅暁さまが一枚噛んでると思ってたんだ」
「……お母様が、か」
「うん、だってボクや流子ちゃんをこうやって駒みたいに扱える人なんて、普通に考えたら羅暁さまだけだもん。あの繭とかいう根の暗そうな女の子も、あの人が看板役に起用しただけかなーってね。
そう思ってたんだ……本当に少しの間だけは」
鬼龍院羅暁……纏流子、針目縫、そして鬼龍院皐月をこの世に生み出した偉大な母。
大いなる野望を世に広め、世界を正しい方向へ導かんとする母には、流子も縫も心から心酔していた。
羅暁ほどの人物であれば、これだけの規模の殺し合いを主催していたとしても何ら不思議はない。
流子は当初から繭の一枚岩だろうと適当にも程がある思考で動いていたが、言われてみれば納得のいく話だ。
「けど、すぐに違うと分かったよ。
もし本当にあの人が黒幕なら、ボクに――いや。生命戦維をこんな風に扱うわけがない」
縫の声には少しずつ、だが確かな怒気が宿り始めていた。
当然だ。彼女は羅暁だけでなく、生命戦維に対しても愛慕を寄せている。
母に仕えるグランクチュリエ、最後の神衣を縫い上げるこの両手に細工を施す存在など、断じて許せる筈がない。
「回りくどいのはなしにしようぜ。要はてめえも、あのクソ女をぶち殺してえってことだろ」
「まあ、簡単に言っちゃうとそういうことだねっ。ボクらや羅暁さまに歯向かった罪の重さを、この世に生まれてきたことを後悔したくなるような拷問の中でしーーっかり分からせてあげないと☆」
「悪趣味だが、殺してえってのには同意だよ。あいつが何か喋る度に全身の血が沸騰しそうになる」
本心だった。
流子は縫ほどの高いプライドを持たない。
制限で体を縛られることに苛立ちこそ覚えても、縫ほどの殺意を滾らせることはない。
彼女はただ彼女の物言いと、趣向と、声と、姿と――あらゆるものに対して怒りを燃やしている。
最初は繭に対してだけだった。しかし今、流子の怒りの対象は目に入る全てだ。全てが、苛立ちの材料に見える。
「さてと。ボクの話はこれでおしまいっ。次は流子ちゃんのお話を聞かせてほしいな~?」
「……」
交差させて組み、机の上へと行儀悪く上げた両足が一瞬強張った。
それから数秒の間があったが、縫は急かすような真似はしない。
ニコニコ微笑みながら、流子が話し始めるのを待っている。
ぎり、と変な音が鳴った。
それが、自分の強く噛み締めた奥歯が鳴らした音だとついぞ気付かないまま、ポツリと流子は口を開く。
「……皐月の野郎に会ったよ」
「へぇ?」
「虫を飛ばす男を殺した。
ワケの分からねえことを喋る女を殺した。
勝てもしねえ勝負を挑んだバカを殺した。
ムカつく面の優男を殺した。
それで、蟇郡を殺した」
「皐月ちゃんは殺せなかったの? 流子ちゃんらしくないなあ」
「……」
呆気なく殺されながらも、皐月曰く自分へ勝って死んでいった男。
皐月とその仲間を逃がして一人残り、結果として殺された女。
勝ち目など一パーセントもない戦いを挑んで、虫ケラのように潰された女。
ワケの分からないことを喋りながら、満足したように死んでいった生きた盾。
――――足下に転がった、もう喋らず、微笑まない、虚ろな瞳で流子を見つめる、砕かれた顔。
「イラつくんだよ」
「え?」
気付けば、意味不明な言葉が漏れていた。
縫は虚を突かれたような顔で首を傾げている。
どうでもいい。顧みることもなく、流子は言葉を続ける。
「皐月も、知ったような口を叩いて死にやがった女も、ニヤニヤ笑って知ったような口を叩くジャンキーも、
救いようのねえ馬鹿女も、蟇郡のデカブツも、――どいつもこいつもよぉ、何だってこんなに人様の神経を逆撫でしやがるんだ?」
「えーと、流子ちゃん?」
「教えてくれよ、針目縫。私はあと何人にこれだけイラつけばいい? 全員殺すのと、私の頭の血管がブチ切れるのはどっちが早いんだ?」
纏流子は心から思う。
どいつもこいつも死ねばいいと。
死なないというなら、この手で一人残らず黙らせてやると。
そうでもしなければ、こちらの方が憤死しそうな思いだった。
「なるほどね。分かったよ、流子ちゃん」
縫は一瞬だけ驚いたような顔をしたが、その表情はすぐににこやかな笑顔に戻った。
いつもの、針目縫の顔だ。
記憶にある、いつもへらへらと誰かを嘲笑っている顔だ。
「流子ちゃんも、おかしくなってるんだね。繭って子の細工のせいで」
「……私が? 馬鹿も休み休み言いやがれ」
「ううん、流子ちゃんはおかしくなってるよ。だって、そうじゃないならさ」
その顔は、断じて――姉妹に向けるものじゃ、ない。
「さっきから、どうしてボクをそんな目で見ているの?」
そしてそれは、纏流子も同じだった。
針目縫の対面に座り、彼女と語らうその目は。
縫の記憶にある、煮えた熱湯のような殺意を宿した、あの頃の纏流子の目だ。
衛宮切嗣の奇策から、流子は縫を助けた。
彼女はそれで命を救われ、哀れな魔術師殺しは害獣として殺された。
助けられた礼を述べる縫の姿を見て、流子はこう思った。
鬼龍院羅暁の子として道を共にする筈の少女へ、理屈に合わない感情を抱いてしまったのだ。
何故、助けてしまったのだろう――と。
一度その感情を自覚してからは、もう止めようもなかった。
縫が微笑み、語り、動く度に、形容しがたい感情が胸の奥からじわじわと染み出してくる。
笑うな。喋るな。動くな。
目障りだし、耳障りだ。
その感情はこれまで嫌というほど味わってきた苛立ちの味とは明確に異なる情。
繭へ抱くものと同種の感情……すなわち、ごく分かりやすい嫌悪感だった。
「……」
口角が釣り上がる。
縫も鏡のように、口を釣り上げて笑みを作った。
この光景を前にして、まさか仲睦まじいなどという感想を抱く者は居まい。
笑顔とは、何も友好の証としてのみ用いられる表情ではない。
怒りや殺意、敵意。そういったものを表現する際にも、人はしばしば笑ってみせる。
「ありがとよ、"針目縫"」
神衣純潔が、生物的な挙動を見せた。
その意味は一つ。
「てめえのお陰で……真っ先に殺さなきゃならねえ奴のことを思い出せた」
伸びた純潔の魔の手が、対面に座る縫の席を文字通りぐしゃぐしゃに押し潰した。
しかし、そこに縫の姿はない。咄嗟の動作で飛び退いて、流子の攻撃を回避してのけたのだ。
纏流子を突き動かす殺意が弱まったわけではない。だが、此処に来て経験した――本来纏流子が経験するはずのなかった数々の死と"わけのわからないもの"が、そこに一筋の綻びを産んだ。
纏流子が針目縫という存在に抱いていた感情が、そっくりそのまま帰ってきた。
となれば、どうなるかは自明だ。
「どういたしまして。でも、残念だなあ。流子ちゃんは本当に壊れちゃったんだね……そんな子を羅暁さまのところに帰すわけにはいかないから、ボクが流子ちゃんの家族として、責任持って始末してあげる☆」
「家族じゃねえよ――虫唾の走るコトをべらべら喋ってんじゃねえぞォッ!」
純潔の猛威が教室内に、まさしく暴風のような勢いで吹き荒れる。
だが、少し考えれば分かることだ。生命戦維を切り裂くことを可能とする片太刀バサミを振るう縫にしてみれば、如何に純潔といえども相性のいい敵の域を出ない。
縫にとって、流子が"おかしくなった"のは残念なことだが、羅暁に逆らう時点で論外だ。
元々いずれは殺すつもりだったが――これで何の心配もなく、彼女を殺すことが出来る。
「遅い遅いよっ☆」
純潔の隙間を縫って肉薄する縫。
片太刀バサミの刀身が、流子の額を貫かんと突き出される。
……しかしそれは、流子がカードから抜き放った長刀の一撃を以って打ち払われた。
縫の顔が驚愕に染まる。その刃は皮肉にも、この場にはいない"三人目の家族"が振るっていたものだった。
縛斬・蛟竜。折れた縛斬の片割れにして、超硬化生命戦維で作られた刀身を持つ業物。
生命戦維さえ切り裂く切れ味は、片太刀バサミと打ち合うことさえ容易に可能とする。
「遅ぇのはどっちだよ、えぇ?」
「そりゃあ勿論、流子ちゃんしかありえないッ☆」
「ほざいてろ!」
純潔と縛斬、二つの武器が災害としか思えない猛威で縫を襲う。
縫が生み出す分身は、成立した瞬間に純潔で粉々に吹き飛ばされた。
精神仮縫いのような細工を仕掛ける暇さえない。
それだけの攻撃を前にしておきながら、致命傷を避けて立ち回り続けている縫も十分に脅威であるのだが。
「イラつくんだよなぁ、本当によ」
「アハハ、それさっきも聞いた~。流子ちゃんは頭の出来まで制限されちゃったのかな?」
「どいつもこいつもわけのわからねえことばかり言うし、わけのわからねえことばかりしやがる。
何もかも取り返しが付かねえくらい遅すぎるってのに、それを知った上でもあいつらはペラペラ喋るのをやめねえ。てめえなんかよりよっぽどイカれてると思うぜ、針目縫ちゃんよぉ」
「知ったことじゃないなぁ」
教室の中は最早、筆舌に尽くしがたい有様となっていた。
槍兵の死体が弾け飛んだ。
机がひしゃげて、ロッカーが潰れる。
壁には互いの剣筋が刻み込まれ、黒板は所々が抉られて本来の役目を果たさない。
それでもなお、流子に対して縫は互角以上に渡り合っている。
動きが派手だから流子が優っているように見えるが、見てくれが地味でも縫の立ち回りはごく堅実なのだ。
それだけに、後先を考えない乱発を繰り返す流子に比べて消耗の度合いは小さい。
ちょろい。
縫はそう思うと同時に、一歩飛び退いて縛斬の袈裟懸けに放たれる斬撃を回避。
次の瞬間で一歩踏み込み、流子の腹を串刺しにするところまでビジョンが見えた。
ぐぐっ、と足に力を込める――しかし。
「へ?」
そこで、バキィ、という嫌な音を聞いた。
瞬間体を襲うのは浮遊感。その意味を理解して縫は飛び上がり、激戦の余波を受けて抜けた老朽化した床の上から退くものの、その隙を見逃す流子ではない。
「オラァァァァァ!!」
「へぶっ――!?」
ハンマーを思わせる形に変形して伸びた純潔の一撃が、縫の腹部に猛烈な勢いで叩き付けられた。
縫の華奢な体がくの字に折れ曲がり、黒板を突き抜けて隣の教室までノーバウンドで吹っ飛んでいく。
だがそれでは終わらせない。縫の腹部に触れたままの生命戦維がその体へと巻き付いて、ハンマー投げの要領でその体を振り回し始めた。
校舎を破砕させながら、縫の体がダイナミックに叩き付けられ、痛め付けられる。柱をぶち抜き、ガラスを破り、床を更に砕いて、青空さえ拝んで。
どうにか機を窺って片太刀バサミを振るい、自分に結び付けられた生命戦維を切断する縫。
床へと膝を突く彼女の表情は相変わらずにやけていたが、そこにはこれまでにはなかった焦りの色が浮いていた。
「はぁッ……はぁ……はぁ……調子、乗ってくれちゃってさぁ……ッ!」
自分の手で開通させた教室間の穴を潜り抜けて、縛斬を携えた純潔の魔人が歩んでくる。
普段の縫ならば苦もなく倒せる相手のはずなのに、今、彼女は誰の目から見ても明らかな窮地にあった。
劣化した体には承太郎たちとの戦いで負った疲労が蓄積され、切嗣の手榴弾の破片によって受けた傷が残り、そこにダメ押しのように今の猛攻を叩き込まれた。
この状況においては、纏流子は針目縫の上を行っている――その屈辱的な事実が、縫の心にのしかかる。
「どうしたよ、針目縫」
がしゃがしゃと瓦礫を踏み締めながら歩いてくるその顔には、表情と呼べるものがなかった。
「お母様のために、私を殺すんじゃなかったのか」
羅暁への忠誠心はまだ残っている。
少なくとも、今のところは。だがそれも、いつ揺らぐか分かったものではない。
現に針目縫に対しての嫌悪と敵対心が蘇った流子はこうして、彼女に引導を渡そうとしている。
縫は立ち上がり、片太刀バサミを構えた。
怒りに満ちた表情で地を蹴り駆け出し、一瞬の内に流子の懐まで肉薄。
プランも何もない我武者羅な突進だ。当然、そんなものに不覚を取る纏流子ではない。
がしり。針目縫の頭を、鷲掴みにする。
そのまま力を込めると、流子は彼女の頭を果実か何かのように握り潰した。
「――――あぁ?」
だが、砕いた頭は軽い音と共に消え、頭蓋を失った胴体も同じように失せてしまう。
一瞬だけ思考を空白に染められた流子だが、その意味を理解するなり、チッと舌打ちをした。
相手は針目縫だ。彼女は神衣を纏えないが、その代わりにとにかく器用な戦いをする。
その一環が分身能力。この戦いでは生み出す度に潰していたそれを使う隙が、一瞬だけあった。縫が流子の拘束を斬り解いてから、流子が穴を通してやって来るまでの僅かな間。
そこで縫は分身を生み出し、それを校舎内に残しつつ、自分は割れた窓から逃走した……そんなところだろう。
殺し損ねた。その事実がまた、流子の苛立ちを別ベクトルから刺激する。
針目縫を殺すことが出来れば少しは気も晴れると思ったが、分身を殺しても何も感じない。
また、思い通りにいかなかった。此処に来てからというもの、思い通りにいかないことだらけだ。
「――チッ」
まだ無事な壁に凭れて床に座り、大きく一息をつく。自分でも分かるくらいの疲労が溜まっていた。この辺りで一度身を休めておかなければ、要らない所で不覚を取ってしまいかねない。
流子は目を瞑り、束の間の睡眠に入る。
その頭の中に、彼女なりのわけのわからないものを渦巻かせながら……怪物の片割れは、疲弊した身を休ませる。
【F-4/旭丘分校/一日目・日中】
【纏流子@キルラキル】
[状態]:全身にダメージ(中)、疲労(大)、精神的疲労(極大)、数本骨折、説明出来ない感情、睡眠
[服装]:神衣純潔@キルラキル(僅かな綻びあり)、縛斬・蛟竜@キルラキル
[装備]:
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(19/20)、青カード(19/20) 、黒カード1枚(武器とは判断できない)
黒カード:不明支給品1枚(回収品)、生命繊維の糸束@キルラキル、遠見の水晶球@Fate/Zero、花京院典明の不明支給品0~1枚
[思考・行動]
基本方針:全員殺して優勝する。最後には繭も殺す
0:休む。
1:次に出会った時、皐月と鮮血、セイバーは必ず殺す。
2:神威を一時的な協力者として利用する……が、今は会いたくない。
3:消える奴(ヴァニラ)は手の出しようがないので一旦放置。だが、次に会ったら絶対殺す。
4:針目縫は殺す
[備考]
※少なくとも、鮮血を着用した皐月と決闘する前からの参戦です。
※DIOおよび各スタンド使いに関する最低限の情報を入手しました。
※満艦飾マコと自分に関する記憶が完全に戻りました。
※針目縫に対する嫌悪感と敵対心が戻りました。羅暁への忠誠心はまだ残っています。
※旭丘分校の一角が流子が暴れたことで半壊状態です。倒壊の心配は今のところありません。
支給品説明
【縛斬・蛟竜@キルラキル】
花京院典明に支給。
二つに折れた鬼龍院皐月の愛刀『縛斬』から作られた二振りの刀の一本。長い方。
縛斬同様、刃が超鋼化生命戦維で作られており、とてつもない硬度と切れ味を誇る。
皐月が不在の間は生徒会四天王によって用いられていたあたり、これ自体は使用に特別な資質を必要としないもよう。
旭丘分校から逃れ、自然の道を歩む縫の体はボロボロだった。
そもそも生きていること自体が不思議なほどの攻撃を加えられても、普段の縫ならば平然と回復し、次の戦いへ向かうなり何なりしただろうが、今の縫は制限という枷で身を戒められている状態だ。
傷の治りは襲いし、体に蓄積された疲労も同じ。
屈辱的なことに、今の有様で普段の感覚で殺し合いをしたなら下手をすれば殺されかねないという程に、現在の縫は疲弊し、弱体化を喫していた。
「許さないよ、流子ちゃん……」
自分にこれほどの傷を刻んだ流子へと、縫はもう隠そうともせずに殺意を剥き出す。
空条承太郎に抱く怒りにさえ優るほどの殺意を滲ませたその形相は、まさに鬼のようであった。
縫は決めた。纏流子は必ず殺す。神羅纐纈を完成させるために欠かすことの出来ない自分の両手を脅かす、故障した神衣使いなど生かしておく理由は欠片もない。
母なる羅暁のために、そして針目縫(じぶん)のプライドのために、流子は絶対に殺すと縫は決めた。
「絶対、ズタズタのバラバラにしてあげるんだから……☆」
そのためには、まずは体を癒やしておかなければならない。
のんびり休むなどは論外だが、少しペースを考えて軽い殺し程度に止めておく必要があるだろう。
地図を確認し、縫は宿泊施設なる場所へと目を付ける。
そんな場所に滞在している人物があるとすれば、施設の用途からして身を休ませている可能性が高い。そこを突いて遊び感覚で殺すのも楽しそうだし、効率的だろう。
仮に当てが外れたなら、そこからまたゆっくり北上なり何なりすればいい。
そうと決まれば善は急げだ。縫はゆっくり、ゆっくりと歩いて行く。
余裕の崩れた顔に、再び可憐な微笑みを浮かべて。
【F-4/森林/一日目・日中】
【針目縫@キルラキル】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(大)、全身に細かい刺し傷複数、繭とラビットハウス組への苛立ち、纏流子への強い殺意
[服装]:普段通り
[装備]:片太刀バサミ@キルラキル
[道具]:腕輪と白カード、黒カード:不明支給品0~1(紅林遊月が確認済み)
[思考・行動]
基本方針:神羅纐纈を完成させるため、元の世界へ何としても帰還する。その過程(戦闘、殺人など)を楽しむ。
0:宿泊施設へ向かう。
1:紅林遊月を踏み躙った上で殺害する。 ただ、拘りすぎるつもりはない。
2:空条承太郎は絶対に許さない。悪行を働く際に姿を借り、徹底的に追い詰めた上で殺す。 ラビットハウス組も同様。
3:腕輪を外して、制限を解きたい。その為に利用できる参加者を探す。
4:何勝手な真似してくれてるのかなあ、あの女の子(繭)。
5:神羅纐纈を完成させられるのはボクだけ。流子ちゃんは必ず、可能な限り無残に殺す。
[備考]
※流子が純潔を着用してから、腕を切り落とされるまでの間からの参戦です。
※流子は鮮血ではなく純潔を着用していると思っています。
※再生能力に制限が加えられています。
傷の治りが全体的に遅くなっており、また、即死するような攻撃を加えられた場合は治癒が追いつかずに死亡します。
※変身能力の使用中は身体能力が低下します。少なくとも、承太郎に不覚を取るほどには弱くなります。
※疲労せずに作れる分身は五体までです。強さは本体より少し弱くなっています。
※『精神仮縫い』は十分程で効果が切れます。本人が抵抗する意思が強い場合、効果時間は更に短くなるかもしれません。
※ピルルクからセレクターバトルに関する最低限の知識を得ました。
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最終更新:2016年06月09日 13:57