■■■■ your enemies ◆NiwQmtZOLQ




定時放送を聞いて、セルティの心に浮かんだのは、彼女自身にもよく分からない感情だった。
尤も、それを覚えたのは、今更死者の数や橋を直すどうこうについてではなかったのだが。
正真正銘の悪魔だの、勇者に変身する少女だの、果ては喋るTCGのカードだのと、自分以上に常識を超えた存在がいるという事もあるし、実際にそんな超人的な身体能力を以て人を殺すマーダーにも遭遇した。
だから、死者の多さや早すぎる橋の修復などについては、そこまで思い悩むような事柄ではなかった。
彼女が、その心を動かされたのは。

─────折原臨也

(死んだのか、お前)

「やっぱりな」という呆れと、「まさか」という驚きが同時に心に去来する。
臨也という人間の人物像は、正直セルティには完全に掴めてはいなかった。
常に飄々として、目立つ事を恐れずに情報屋なんて職業を生業にし。
趣味の人間観察とやらは大概趣味が悪く、あの男に運ばされたものはたまに思い出したくないようなものもあった。トランクケースに入った女の子とか。
そして、あの静雄と致命的に仲が悪く、常に殺し合い同然の喧嘩を─────少し違うな、命懸けの追いかけっこといった方が近いか─────まあそんな事も繰り返していた。
案外、ここで臨也が殺されたのも、静雄が何らかの原因なのかもしれない。
というか、そうでなければ、あの男が死ぬ様なんてあまり思い浮かばない。
杏里の死を知った時とはまた違う、名状しがたい感情に包まれていたセルティ。
だが、思考が現実に引き戻されるのは早かった。

「………シャロ」

その夏凜の一言で、臨也への感情は一先ず置いて現実に意識を向けた。
シャロ………桐間紗路。確か、夏凜やアインハルトと共に行動し、第一回放送の時にいざこざで別れ、その後は。

「確か、小湊るう子と共にいた筈の少女だったな」

そう。
現状主催に対抗する為のキーパーソンであると思われる、小湊るう子と一緒にいるはずの少女だ。
その少女が呼ばれたとなれば、冷静な計算という点から考えても心を乱さずにはいられない─────長く彼女達といた夏凜にとっては、それ以上に平静ではいられないだろう。

「考えられるのは……大まかに分ければ二つか。
まず、小湊るう子が桐間紗路を殺害したとい━━━━━」

そこで、アザゼルは言葉を止めた。
何も敵を察知したとか、そういう訳ではない。
夏凜が纏う空気が変わり、剣呑とした視線がアザゼルに向けられているだけだ。
というか、この悪魔は多分それを狙って今の言葉を口にし、そしてあえて途中で切ったのだろう。

この二人、決して相容れないという事はないだろうが、かといって簡単に分かり合えるような間柄でもない。
積極的にアザゼルが夏凜を煽るような言動を繰り返せば、夏凜も彼に対しての態度は逆戻りだ。
何か起こればすぐに止められるよう影を控えさせながら、一先ずは目の前の流れを観察する。

「………るう子がシャロを殺す必要なんて、どこにもないじゃない」
「どうかな?」

案の定、夏凜が叫び、アザゼルは飄々とした笑いでそれを受け止める。
今のところは論争だが、気は抜けない。何処かでこの空気を断ち切らなければ、いつまでも二人の間には不穏な空気が残りかねない。

「数時間を共にしただけで相手が無害だと判断するのは不可能だ。無論万が一といったレベルだが、警戒しておくに越した事はないだろう?」

その発言は、確かに一理ある。
本性を隠しているような人間が存在しないとは言い切れないし、それが夏凜とアインハルト二人の評価だけ、という以上、100%信用という訳にはいかない、というのは確かに一理あるのだ。
一理ある、が、わざわざ仲間となった人物の目の前でそれを言う、しかも今のような場で問題として取り上げるのは亀裂の種となるのは当たり前で。

「或いは、逆もあるな。桐間が小湊を何らかの理由で殺害を試み、小湊が応戦して返り討ちにした。
こういう筋書きなら、小湊自身は信頼に足る人物であると考えられるだろうな」

尚も流れるように語るアザゼルに対し、夏凜の渋面は晴れることはない。
いや、寧ろ紗路の方から襲い掛かったという話が始まった辺りから、明らかにその表情は悪化している。
当たり前だ、と思う。
先程の理論だけでも一般人はそこまで考えを巡らせないだろうが、悪魔であるこの男が語る「可能性」はその本質に相応に悪辣なものばかりを提示してくる。
自分ならする、という事だろうか─────そう思い至り、気分がより悪くなる。
と、彼女達の感情を漸く察したのか、アザゼルはやれやれといった表情で首を振る。

「あくまで可能性、だ。
それに、言わずもがなもう一つの可能性の方が起こり得る可能性としては高い」
『何者かの襲撃、だな』

ここぞ、とばかりに二人に割り込み、話題を逸らしに動く。
咄嗟に打ち込んだ、セルティのPDAの画面に表示された文字列に、アザゼルは見透かしたような笑顔を浮かべながら頷く。
その笑顔に心中を覗かれるような感覚を覚えつつも、負けじと見返すような仕草を見せておいた。

「小湊は何らかの形で殺されるのを免れた、と見るべきだろうな、この場合」
『ああ。というかそれ以外だと、放送を丁度跨ぐように殺される事になる。そんな事をする理由がわからない』
「案外こうして、不安を煽る事が目的かもしれんぞ?」

何処か愉しげにそう言うアザゼルに、セルティも無い顔を顰めた。
本当に、頭が良いだけに悪知恵も随分と働いている。性格の悪さなら、まだ善意になる可能性が(本当に僅かだが)存在する臨也より酷いかもしれない。

「今は運良く逃亡………運が悪ければ拷問や人質といったところか
可能性は薄いだろうが、俺達と同じく小湊の─────セレクターとしての適正に価値を見出したという可能性もある」

だが、その一方でこうして真面目な考察や冷静な立案を忘れないというのは非常に頼りになる点だ。
この悪魔一人だけで、下手すれば脱出の手筈まで整えてもおかしくない手際の良さを見せているのは確かなのだ。
慢心しながらも抜け目なく、見下しながらも適切な対応を選択する。

─────敵にならなかったのは、本当にラッキーだったな。

心の中でそう呟く。
もしも敵として戦う事になっていれば、と思うとぞっとしない。
先程の温泉での交戦や先程の夏凜との戦いを見た、その僅かな時間だけでこの悪魔の力量が桁違いだととことん思い知らされた。
単純に、強い。
その上にこの悪巧みなのだから、悪辣と言う他ないだろう。
そんな彼がこちらの味方になってくれている、という事には、少なからず安心感がある。

兎も角。
これで定時放送についての話が終わった、となれば、次の行動は決まっている。

「さて、そろそろこちらも動くべきだろう。
三好、頼むぞ。ああ、もう蒼井についての話をする必要はないだろうな」
「…………ええ、分かってるわよ」

尚も暗い顔をしたままの夏凜が立ち上がり、階段へと足を進めていく。
向かう先は、この施設が放送局たる所以─────つまり、放送室。
その背中に、セルティは心配を募らせ、アザゼルはただ薄く笑っていた。

放送局から放送するにあたって、その人選は必然だった。
アザゼルは、元の世界で悪魔として行動し、今生き残っている知り合いには顔が割れている。
その上、角や背中など、初対面の相手にも怪しまれること請け合いな恰好。
現状パワーバランスでは一番であり、何を言いだしても止められない、という要素も手伝い、彼の登用にはセルティが頑として首を横に振っていた。
続いてセルティだが、こちらは性格面はともかく見た目がアザゼル以上に問題。
あくまで信頼という点から考えれば、彼女の友人である平和島静雄、それに先程名前を呼ばれた折原臨也からの情報で信用を集められる─────尤も、この二人の方が信頼されるかという問題はあるらしいが。
しかし、 それ以上に「話せない」「顔を見せられない」という、放送においては致命的に向いていない。
デュラハン─────首無しという存在の放送など、信用してくれる人間はたかが知れている。

だからこそ、三好夏凜に絞られる。
元の世界での友人同士での信頼は強い─────既に殺人者となった、或いは殺人を犯しているかもしれない二人も、決して仲間を売れるような人物ではないと夏凜は主張した。
見た目も、三人の中では唯一一般的な人間のもの。
しかし、考察までこなした事を言ってしまうと、所詮子供の言う事かと軽んじられる可能性もある。そこまで考えた上で、改めて放送で話す事は絞られる事となった。

結局、放送で話す内容は単純に「小湊るう子、紅林遊月、浦添伊緒奈への呼びかけ」となっていた。
タマの存在、いや、そもそもルリグがどうこうという話は、こんなところで公に呼びかけるのは危険性が高い。
こうやって放送させ、根拠のない希望のみを伝播させること、それ自体が主催の罠と考えることも出来る。
そんな状態で無闇にこの情報を広めるのは下策。 重大な手掛かりだからこそ、慎重に扱わなければならない―――――という議論の結果、こうなった。

改めて放送室に入ると、そこには多くの機材が揃っていた。
とはいえ、放送局についてから定時放送まではそれなりに時間が余っており、その間にどこをどうすれば録画やその映像の発信が出来るかは確認済みだった。
実際に放送するのを定時放送の後に回したのは、より注目が集まりやすく、更に万が一が起こる可能性が放送前より低いという理由から。

夏凜はカメラの電源を入れると、マイクと一枚のメモを握りしめて顔を上げた。







『─────あ、ええっと……これでいいのかしら?
いきなりでごめんなさい、放送局から放送しているわ。
私の名前は三好夏凜。この島の中で、人を探しているの。

るう子…小湊るう子、紅林遊月、それに浦添伊緒奈。

この三人に、聞きたい事があるわ。
他にも、『セレクター』と聞いて分かる人がいたら教えて欲しい。

ええっと、見えるかしら?これが私の端末のアドレスよ。
さっきの放送で、メールが使えるようになったみたい。
もし遠くにいても、もし施設の中にパソコンや端末があればそれで連絡も取れると思う。

最後に―――――東郷、それに風。あんまりバカなことはやめなさい。
友奈、私はちょっとここから動くかもしれない。また連絡するわ。

それじゃあ、また』






カメラの録画停止ボタンを押し、定期的に流すための配信システムをオンにする。
ふう、と大きく息をした。
場所のせいもあって、思ったより緊張してしまった。殺し合いの場で今更何を、と思われるかもしれないが、それとはまた別の緊張に身を包まれた。
友奈、風、東郷について話すことは、アザゼル達には言っていなかった。が、このくらいは問題ないだろう。
友奈が放送局に来ているというのはあるが、チャットルームより秘匿性が高いメールで簡単に連絡が取れるようになったし、ずっとここで待っているというのも夏凜の性分には合わない。
それならば、こちらからも目的の人物を探しつつ連絡を取り合って合流を目指す方がやりやすい。
最後に、ちゃんと放送されたかどうかをもう一度確認し、部屋を出て階下に降りる。

「終わったわよ」
「遅い」

その一言に少なからずむっとするが、しかし表情を見て困惑に変わる。
アザゼルが顔に浮かべている薄笑いが、自分に向けるような、嘲笑うようなものでは無く、まるで何かを掴んだかのように勝ち誇った笑いであり。
それに、セルティの様子も、先程までとは別種の緊張に包まれているように見えた。

「聞きたい事がある。あれは、小湊るう子で合っているか?」

その声と同時に指差された方向を向くと、そこには一人の少女が立っていた。
黒髪にシュシュ、そしてあの服は―――――

「夏凜ちゃん!?」
「るう子!」

そこに居たのは、紛れもなく小湊るう子。
声も聞こえたが、間違いなく先程まで聞いていたあの声だ。
確認してこい、というアザゼルの言葉を聞くまでもなく、るう子の下へと駆け出していた。
再会できた、と。
心から、夏凜は喜んでいた。
だからこそ、駆け寄った時―――――最初に抱いたのは、疑問だった。
なぜ、るう子の表情はこんなにも、まるで何かに怯えているように暗いのか、と。

「…夏凜、さん」

そして、その答えは―――――るう子自身が、持っていた。
彼女が、ポケットから取り出した紙を、近づいてきた夏凜へと見せる。

『今、小湊るう子には銃口を向けている』

顔が驚愕に歪むのが、自分でもわかった。
るう子を見るが、彼女も半分泣きそうな顔で俯いている。

『悪魔の男を、るう子の背後に移動させろ。
そうすれば、るう子は殺さない』

そこで、文面は終わっていた。
短いが、夏凜を揺さぶるには十分だった。
何を意味しているかなど、火を見るより明らかなのだから。

どうにかして。
どうにかして、回避の方法は無いかを探る。
この場で、二人を殺さずに済む方法を、頭の中で必死に探し。


―――――答えは、案外早く見つかった。


「―――――アザゼル」
「どうした?」

夏凜の声に、アザゼルは立ち上がる。

「外に、見せたいものがあるみたい。ちょっと来てくれる?」

一瞬眉を顰めるが、特に疑問もなく歩んでくる。
俯いている夏凜の表情は、不安そうにこちらを覗きこんでくるるう子には見えていないだろう。
だが、その表情は決して折れてはいない。


そうして。
アザゼルの身体が、るう子の背後へと移動した瞬間。

「―――――今よ、伏せて!」

夏凜は、アザゼルを突き飛ばすように手を伸ばしながら、その背後へと飛び出した。
同時に、東の方角から蒼い弾丸が飛来する。
射線上には夏凜だけが残り。
精霊の守りがあるとはいえ、生き残れるかは五分五分。
けれど、これが多分、一番いい賭けの筈だと。
そう信じて、夏凜は静かに目を瞑った。



東郷。
あんたがどうしてそんなことをしてるのか、私はわからない。
だけど、友奈はまだ生きてる。ちゃんと話し合いさえすれば、あんたの味方になってくれる筈。
だから、もうこんなことは―――――止めてほしい。



風。
樹が死んだって聞いたあんたが何をしてるかは、正直あまり考えたくない。
だけど、一つだけ言っておくなら…樹は、どんなことになってもあんたに着いていく筈よ。
だから、あんまり自分を粗末にするんじゃないわよ。



………友奈。
私が死んだって聞いたら、多分あんたは泣いてくれるんでしょうね。
でも、まだあんたには仲間がいる。
東郷だって風だって、まだあんたの味方になってくれる筈よ。
だから―――――できれば、泣かないで。
友奈の泣き顔なんて、見たくないから。







そうして。
地面が爆ぜるような、巨大な破壊音が響いた。







「殊勝な心掛けだな、三好」

気付いた時には、首根っこを掴まれて宙ぶらりんになっていた。

「身を挺して俺を庇ってくれるとは、中々」

まるで余裕綽々、といった雰囲気をこれでもかと滲ませながら、アザゼルが笑っている。
反対の手では庇うようにるう子を守り、それでいて弾丸は掠ってすらいない。
まるで奇襲が来ることが分かっていたかのような、流れるような動き―――――いや、実際気付いていたのか。
いつから、という言葉が漏れかけて、それを飲み込む。
コイツの事だ、多分呼ばれた時から不意打ちに注意していたのだろう。
いつでも反応できるようにしておいたし、ならば私は相当な無様を見せたことになる。
そのことに顔を赤くしつつも、もっと優先すべきことを思い出す。

―――――ともかく、今は。

「―――――先行ってて!」
「言われなくても」

そのまま私を放り投げ、アザゼルは翼を広げる。―――――放り投げ?
直後に浮遊感、そして地面に叩きつけられる感触。無駄に痛い。

「か、夏凜さん…」
「大丈夫よ」

身体は大丈夫だ、動く。
とにかく、今は一刻も早くアザゼルを追わないと。
アザゼルの事を知っている相手なら、あいつの力は多分身を以て知っている。
だからこそ、油断を誘った上での遠距離からの狙撃という手段を選んだ。
となれば、敵が―――――東郷が選ぶのはおそらく逃亡だ。

そう、東郷。
あの弾丸は、間違いなく東郷の勇者の力だった。
ならば、自分も倒れている暇はない。
今すぐ行って、話し合わなければならない。
どうして、あんなことをしているのか。
本当に、樹を殺したのか。
色んなことを聞いて、その上で、あいつを絶対に止めなければならない。
それが出来るのは、今この場では夏凜だけなのだから。







「―――――えっ?」


そして。
ほどなくして、彼女の目に、それが飛び込んできた。
まず、勝敗は決していたと言えるだろう。
余裕綽々といった雰囲気を漂わせながら立っているアザゼルは、間違いなく勝者。
そして、そんな彼に踏みつけられている少女―――――驚いた事に勇者の装束を纏いながら、それでも地に臥している少女が、敗者。
そして。

「うそ、でしょ?」

敗者は、もう一人。
アザゼルが、何でもないかのようにその腹部を握った鋏で刺し貫いている少女。

やめて、と切に願う。
その顔を、こっちに向けないで。
そうしなければ、まだ希望が持てる。
ただのよく似た別人だって、そう思っていられるから―――――

その思考は、とても勇者のそれとは言い難かった。
自分の都合の良いだけの現実を望む思考は、勇者のそれとは程遠い。
けれど。
勇者である以前に、ただの女子中学生である彼女に、今なおその精神を保てというのも、酷な話だっただろう。

ゆっくりと、壊れた人形のように少女が振り向く。
腹から飛び散った自身の血が僅かにかかる、その顔は。

「かりん、ちゃん………?」
「………………とう、ごう?」

東郷美森の、顔をしていた。



「……ほう」

放送が終わり、ラヴァレイは僅かに眉を顰めていた。
カイザル、晶、高坂穂乃果─────彼がここに来てから出会った内の実に三人が、僅かなこの六時間の内に命を落としている。
更に、ジャン・ピエール=ポルナレフと花京院典明の名前も呼ばれていた。
これは痛いな、と一人呟く。
知り合いの死亡は、そのまま変身のレパートリーの減少となる。
出来るなら、特に蒼井晶あたりにはもう少し生き延びて欲しかったところだが。
それに対して、本部以蔵─────彼が知る中でも屈指の道化がそれでも生存しているというのも、中々に笑える話ではある。

さて。
改めて己の現状を把握しつつ、今後の行動方針を立て直す。

ひとまずは、この出口から放送局へと上がる事にした。
ヴァニラ・アイスとの接触は惜しいが、もし今のあの男が『クリーム』というスタンドの中に入り移動しているとすれば。
それなりの速さを持つあのスタンドに追いつけるか怪しい上に、逃げ場が少ないこの通路では下手に近付けば話も出来ず削り取られる可能性すらある。
それでも時間があれば何らかの策を講じたかもしれないが、放送が終わったという事は今に地下通路そのものから弾き出される。そうなっては完全に骨折り損だ。

次に悩むべくは、どの姿で出ていくか。
これには、少し悩んだ結果「ラヴァレイ」のままで出る事を決めた。

今の放送局には、本部以蔵がまだ残っている可能性がある。
完全に四面楚歌という程に追い詰められていたらその時は見限り見捨てればよし、ある程度信頼を得ているなら信用されている自分は簡単に潜り込める。

放送局の地下への入り口では、多くの奇怪な箱がぼんやりと発光しながら擦れ合うような音を出していた。
カリカリと鳴り響くその音に顔を顰めつつ近くに寄って詳しく見てみると、文字列が並びかなりの速さで下から上へとスクロールしている。
それが放送を島中へと届ける為のコンピューターという機械だ、と知る事は、機械文明が未だ発達の兆しすら見せていない世界に住むラヴァレイには分かるわけもなく。

「扱える代物ではなさそうだな」

ラヴァレイはそう判断を下し、改めて道なりに進んでいく。
ドアを開けて外の様子を伺いながら、慎重に地上階へと足を進めていくラヴァレイの耳に、ふと謎の音が届く。
何か、砲弾のようなものが着弾した、と思われるその音。

(外で、戦いでもやっているか)

本部以蔵ということも考えられる。慎重に外へ出て、戦局を正しく見極める必要がありそうだ。
頭の中で一分を数え、改めて歩を進める。
最後の扉を開いて、廊下を外に続くと思われる方向に進んだ時。

「─────誰だ」

廊下の突き当たりから、二人の人影が出てきた。
一人は特に変わったところのない少女、もう一人は全身が黒く、その頭部に被り物をした女。
突然現れた男に動揺を隠せない、といった様子の少女とは対照的に、女は冷静にこちらへと近寄ってくる。
返事も無しに迫ってくる、という状況に、ラヴァレイは警戒心を更に高め軍刀の柄へと手を掛ける。
互いの距離が、残り数歩ほどとなった時─────女が、不意によく分からない何かを懐から取り出し、指でそれを叩き始めた。
何をしているのか、と訝しみ、口を開こうとしたその前に、彼女から突きつけられたのは。

『すまない、あなたは誰だ?』

ふむ、と思考を巡らせる。
最初にすまないという接頭語がある、そしてその態度も僅かにこちらに警戒している程度であるのを見るに、どうやらそこまで敵意はないらしい。
それに、彼女の隣にいる少女とて、この女に心を許しているという様子は見えない。未だに警戒しているところを見ると、こちらの二人も出会って間もないようだ。
となれば、思わぬ情報交換が出来るかもしれない。
一先ず明確な敵意を解き、交流を図ったほうが良いだろう。

「すまないな。私はラヴァレイという者だ」
『私はセルティ・ストゥルルソン。訳あって話す事が出来ないので、こういう会話方法をとらせてもらっている』
「あ……あの、小湊るう子です」

そこで、最後の少女の自己紹介に、つい目をそちらへ向けてしまう。
いきなり目を向けられたことに驚いたのか、僅かに身動ぎした彼女を見ながら、一人思考を巡らせる。

(成程、彼女が小湊るう子か)

蒼井晶から聞いた人物像とは一致しないが、あの少女の心の内に隠れていたものを考えれば妥当といったところだろう。
だが、それを差し置いても、この少女から感じるものは―――――いや、後にするべきか、と一人考えを改める。
考える事なら後でいい上、まだ確証もない。まずは、この二人と話をするのが先決か。

「…まあ、細かい話は後でしようと思うのだが、どうだ?」
『そうだな。るう子ちゃんとも落ち着いて話がしたい。一旦、落ち着ける場所に移動しないか』



夏凜が、信じられない物を見る目でこっちを見ている。
当然だろう。自分の友人が、目の前で腹を貫かれているのだから。
痛みは、何故か感じない。
かといって何も感じていない訳じゃなくて、腹部の辺りには痺れるような感覚だけはあった。

ずるり。

体がゆっくりと悪魔から離れていき、それと同時に悪魔が握る鋏が私の腹から這い出てくる。
血に塗れる前から赤に染まっていた鋏が抜け落ちたと同時に、微妙な浮遊感が体を襲った。
倒れている、と視界では感じながら、しかし足から地面の感触は伝わってこなくて、何となく浮いている気分になる。
一番最初に地べたに着いた右腕が、漸く倒れた事を体が認識できた。
背中も地面に着きそうだ、と思っていたところで、誰かに背中を支えられる感触。
見上げて―――――予想はしていたが、それが夏凜だと改めて分かった。

「か、り」
「………ここは、受け止めてやる場面らしいわよ」
「……えっ?」

何で、ここで友奈ちゃんの名前が出てくるのだろうか。
回らない頭で考えてみても、彼女には思い浮かばない。

「友奈が言っていたのよ。こういう時は、駆け寄って受け止めてやるんだって」

いつかを思い出すように、夏凜は言葉を紡いでいく。
なんで今そんなことを、と考えている一方で、夏凜は尚も口を止めない。

「風の奴は、」

勇者部の、思い出。
それを、噛み締めるように彼女は呟いていく。
何でもないような日常から、ちょっとしたお祭り騒ぎ。
そんな、いくつかの思い出を。

「私に、そういうのを教えてくれたのは、あんた達だったじゃない」

そう、彼女は締めくくった。
それで、彼女の言葉の意味を理解する。
彼女は、信じているのだと。
最期まで、何があろうと、勇者部を―――――東郷美森の事を信じているのだと、そう伝えたいのだ。

「……ねえ、東郷。
樹を殺したのは、あんたなの?」

何を言わんとしているかは、分かった。
あのチャットだ。
ふる、ふると首を振る。
樹ちゃんを殺したのは、私ではない―――――これは、事実だ。

「……そう、よね」
「で、も」
「良いわよ」

懺悔のように、紡がれようとする東郷の声。
その言葉を遮るように、夏凜が口を開く。
抱きしめる力が強くなり、彼女の温かいぬくもりが冷たくなっていく体を包む。

「あんたが、自分の為だけに人殺しなんてする訳ない。だったら、その責任は私達にもあるでしょ?」

―――――その言葉で、東郷は気付く。
―――――それは、違う。
それでも、それは違う、と東郷は思う。
そんな理屈は、通っていいはずはない。
だって、本当は。

―――――そうじゃないんだから。

―――――そうだ。
救う為だと、言っていた。

だけど。
だけど、こんなにも。

「かりん、ちゃん」

死が、怖いのは。

それは、結局、私が。
私自身が、皆から離れたくなかっただけだったんだ。
散華して、ぼろぼろになって、過ごした記憶さえ失って。
それが嫌だったから、覚えているうちに消そうとした。

…だから、これは我儘で。
だから、夏凜ちゃん。
あなたが気に病む必要なんて、ない。

それを言おうとして、けれどもう声は出ない。
まるでそれが、東郷美森の罪を三好夏凜に背負わせることが、東郷美森への罪なのだと言わんばかりに。

「―――――大丈夫。いつか私達も、あんたのところに行ってやる。
だから、樹と一緒に待ってなさい」

告げられない。
届かない。
それは、皮肉だった。
仲間の為、と己を偽って。
その為に、真に仲間の為と思った事を成せず。

「だから―――――」

そうして、夏凜が微笑んで。
ふと、既視感を感じた。
赤い衣装を纏った少女の、その笑顔を見ながら堕ちていく。
そんな経験が、何時か何処かであった気がして。


「またね」


どこまでも見覚えがあったはずの、その笑顔の持ち主を。
『東郷美森』が思い出すことは、ついぞ無かった。
それが、何よりも哀しかった。







【東郷美森@結城友奈は勇者である 死亡】












「――――――――――――――ッああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっっ!!!!!!!」



絶叫が、響いた。
紅色の花弁が、夏凜の激情を顕すかの如く舞い上がる。
その顔面に浮かぶのは、ただ憤怒の一色のみ。
両の手に握った双剣を渾身の力で振り下ろさんと、アザゼルへと迫り。

「まあ、落ち着け」

カウンターの形で繰り出された拳が、夏凜の腹に突き刺さった。
ちょうど彼女の小さな体を吹き飛ばすギリギリの強さでのそれによって、勇者の体は簡単に宙を舞った。
が、それに折れることなく、尚も雄叫びを上げながら夏凜は駆ける。
更なる刃を構えて飛びかかり、今度は蹴りによって空へと打ち上げられる。
空中でも姿勢を変え、着地と同時に走り出し、しかし
激情のままに放たれる刃は、アザゼルに届くはずもなく。
そうして、数十の手合いが過ぎて―――――遂に、勇者が立ち止まる。
その目からぼろぼろと涙を流し、ゆっくりと少女は頽れて。
そうして、僅かな静寂が流れた。

「どうして」

静寂を破ったのは、絞り出すような夏凜の声だった。
言葉の節々から抑えきれず滲みだすのは、困惑、悲哀、そして―――――怒り。
混ざり合ったそれらを絞り出すかのように、言葉が漏れ出ていた。

「随分と大層なお涙頂戴の感動物語だったじゃないか。もう終わっ―――――」
「どうして!?」

アザゼルの言葉を意に介さないかのように、夏凜が叫ぶ。
抑えていた感情を爆発させ、夏凜はアザゼルへと詰め寄った。

「どうして東郷を殺したのよ!何で――――――」
「殺し合いに乗った参加者の一人を返り討ちにしたまでだ」

余りにも、単純に。
その一言で、彼女の嘆きも怒りも切り捨てる。
さも当然であるかのように―――――いや、「あるかのように」ですらない。
これが、当然なのだ。

「他人を殺すような輩を、態々生かしてやる必要があったか?」

―――――こちらを殺しにかかってくる相手は、殺しても問題は無いと。
アザゼルの言っていることは、尤もではある。
確かに、殺されそうになりながら、その相手を生かしておけ、というのは我儘なのかもしれない。

「でも、それでも…話を聞くくらいは、」
「話を聞く、か。
だが、もしも相手が巧みな話術の持ち手だったら?或いは、少し時間を稼げれば何らかの切り札が使えるような相手だったら?」

正論。
アザゼルの言葉は、殺し合いにおける考え方ではあくまで正論だ。
それでも、三好夏凜には納得できない。
生まれながらにして道徳教育を施された少女が、悪魔の正論と一致する筈もない。

「それに―――――それなら、貴様は俺を送り出さなければよかった」

そして。
そんな彼女へと、尚アザゼルは言葉を投げる。

「俺が躊躇なく人を殺せる人間だと、貴様は分かっていた筈なのに、送り出してしまった」

夏凜の傷へと、塩を塗りこんでいく。
責任の一端が、「アザゼルを送り出した夏凜」にある、と。
そう、彼女へと囁きかける。

その言葉に、明確な理屈は存在しない。
少なくともこの場で起こったことについて、夏凜に責任を問うのは明確な筋違いだ。
だからこそ、アザゼルのその言葉の真意は別にある。
―――――ならば、何が悪いのか、と。
先んじて禍になるかもしれない芽を摘んだアザゼルは、果たして悪いのか、と。
少なくとも、この場で最も『悪い』のは―――――殺し合いに乗り、殺人を犯した、東郷美森であるのだと。
そう、言外に含んでの言葉を、夏凜へと囁きかけていく。

夏凜が、その手を出せない理由。
アザゼルにその力量が未だ及ばず、勝利するとしても満開を使う他ないこと。
仮に勝利したとしても、ここで彼を失うのは大きな損害であること。
そして、東郷美森が咎人であることが、疑いようのない事実であること。

本来ならば、それらを承知した上で尚、彼女はその感情を溢れるままにしただろう。
けれど。
未だ生きてこの場所にいる、結城友奈と犬吠埼風の存在が。
ついさっき、最期に手向けた言葉が。
未だ彼女に、無駄死にも暴走も許さない。
今ここで、思いのままに荒れ狂うという選択肢を、辛うじて押し留めていた。

けれど、そこに渦巻く感情は、晴れることは決してない。
そこにある、友を殺されたという怒りが、そう簡単に晴れることは無く。
今にも爆発しそうなその感情は、噴火口という行きどころを求めるマグマのように彼女を巡っていた。


そして、だからこそ彼女は。


「…なら、そいつは?」


―――――その言葉を。
ある意味での、彼の肯定を、口にする。


「東郷を殺したって言うんなら、どうしてあんたはそいつを殺してないの?」

その言葉に、アザゼルの口角は釣り上がる。
何か、とんでもなく愉快なものを見たようなその笑顔を止めることもなく、だが敢えてその理由を言葉にはせずにアザゼルは言葉を続ける。

「先程こいつらを抑え込んだ時に知ったが、こいつの名前は浦添伊緒奈、もとい『ウリス』だそうだ。
万が一小湊に何かあった保険として、殺さず手元に置いておく」
「そんな―――――」
「なら、どうする?
―――――なんなら今ここで、貴様がこの女を殺すか?」

その一言に、夏凜の言葉が止まる。
絶句した、のではない。
その一言に、―――――考えてしまった。
今、この悪魔が言ったことについて―――――それを選択肢として選んでしまった。
その事実が、三好夏凜の足を射竦めるように止めていた。

「まあ、スマホだとかいったか。これは回収させてもらうとしよう。
こいつに持たせておくには危険かもしれんし、別の利用価値もあるからな。―――――まあ、一先ずは貴様に渡しておいてやろう。誰に渡すかは任せる」

気絶していたウリスから奪い取ったスマホを、夏凜へと投げ渡す。
投げた悪魔のその顔は、まさしく―――――悪魔の、表情。

「そら、遺品だ。丁重に持っていてやれよ?」



「……とまあ、こちらはそんな感じだ。まさか、君がアキラが言っていたるう子だとはな」

一先ず、情報交換を終えて。
ラヴァレイの思考に残ったのは、おおまかに分けて二つ。


一つ。
本部以蔵が、いまだにこの放送局に到達した様子がない、ということ。
あの時間に駅を出れば、まず間違いなく先程の定時放送までには放送局に到着している筈。
そして、到着しているなら、紅桜による切り傷の跡などが残っている可能性が高かった。
だが、そんな男は見ていない、放送局に残った戦闘痕にも刀傷はなかった、という、セルティと名乗った女。
彼等が到着したのは放送の約一時間も前だということから察するに、まだ到着していない可能性はそれなりに高い。
何処かで寄り道でもしているのか、なんて想像もしたが、一先ずは保留とした。

もう一つは、小湊るう子が共にいたという『ウリス』―――――浦添伊緒奈だ。
蒼井晶が言っていた、彼女が絶大な信頼を向けていた相手。
彼女は今、先程の悪魔―――――アザゼル、そして三好夏凜という少女が追っており、恐らくはどうにかして連れてきてくれるだろう、との事。
これはいい、と一人
あの蒼井晶が、あそこまで信頼―――――もはや崇拝とでも言うべきレベルで―――――していた相手。
果たしてどんな相手なのか、と気にはなっていたが、こうも簡単に出会えるとは。
小湊るう子にも遭遇出来た事も合わせて、非常に運が良いと言えるだろう。

そして、あらかた主要な情報交換が終わった頃。

『すまない、少し二人で話がしたい』

セルティから、そんな文面を見せられた。
少し考えるが、ここで出来ない話、ということは小湊るう子に聞かせられないような話ということだろうか。
内容に心当たりはないが、一先ず頷きでそれに答える。
るう子にその旨を伝えた後、二人で少し奥まった場所へと移動する。

「どうした、セルティ殿」
『いや─────その、なんだ。貴方、もしかして普通の人じゃ無いんじゃないかと思ってな』

開口一番。
いきなり突きつけられたその言葉に、少なからず動揺する。
何か話の中で失敗をしていたか―――――即座にトレースしつつも、表情の変化は僅かな驚きに留めておく。
ある程度の余裕を孕ませた顔を向けつつ、ゆっくりと口を開く。

「ほう。見破るとは、中々良い目をしているな。何故わかった?」
『私も、そうだからな』

そう言いながら、被っていたヘルメットを外す。
その下にあったものを見て、彼はほう、と声を漏らす。
本来有るべき顔はそこにはなく、代わりに首の断面から漏れるのは漆黒の靄。

「デュラハン、か」

頷くような仕草を見せ、それに続いて、敵意は無い事、出来るなら何事もなく脱出したい事を主張する。
魔に属する筈の存在がこうも平和な思考を持っている事に興味を抱きつつ、だが気は許さない。
今のところ、自分が悪魔だという事を知っているのはこのデュラハンのみ。
どう扱ったものか―――――と思考を巡らせていたところに、セルティから更にPDAの画面を差し出された。

『アザゼル、という悪魔を知っているか?』

特に嘘をつく理由もなく、「ああ」と答えながら頷く。
ラヴァレイとしてもマルチネとしても、少なくない関わりを持つ相手だ。─────尤も、向こうがラヴァレイとしての自分を覚えているかどうかは怪しいところだが。

『奴は今、私たちに協力するつもりのようだ』
「何だと………?」

驚きの顔を見せつつも、内心ではそこまで驚いてはいない。
あのプライドが高い悪魔のことだ、少女に言われただけでわざわざ殺し合いに乗るよりも、主催への反抗心を向ける方が確かに奴らしい。
その為の協力者を求めている、というのが意外と言えば意外だが、どうせ心からの信用などしていまい。都合が悪くなれば切り捨てる、或いは体のいい戦力程度にしか見ていないだろう。

『どうにかしなきゃあいけない相手なのは分かっている。だが、少なくとも今の私達で勝てる相手でもないんだ。下手に不和を増やす事は、避けてくれるとありがたい』
「…それなら、一つ頼みがある」
『どうした?』

「私が人外―――――もとい、悪魔だという事は、伏せておいてもらいたい」

その一言に、セルティはぴくりと体を震わせた。
警戒か、納得か、はたまたその他の何かか―――――彼女と会ったばかりの彼にそれを推し量るのは難しかった。
数秒の後、言葉を選ぶようにゆっくりと打ち込んでいたセルティのPDAに表示されたのは、疑問の言葉だった。

『何故だ?』
「私は、奴と同じ悪魔でありながら逆賊のような存在なのだ。正体がもしあの悪魔に看破されることがあれば、私はきっと処分されるだろう」

嘘は言っていない。
人間・ラヴァレイが悪魔・マルチネであることがアザゼルに知られれば、アザゼルの警戒心は段違いに跳ね上がるだろう。
慢心しているならともかく、警戒を怠っていないアザゼルに対して裏を掻くのは決して簡単な事ではない。
なるべくなら、上手く警戒をすり抜けた上で『処理』しておきたいところだ。
どうやらセルティも納得したようで、頷きながらPDAを見せてきた。

『分かった。皆には伏せておこう』
「すまない、ありがとう」

―――――上手く、いったか。
心の中で、ラヴァレイは小さくほくそ笑んだ。
ともあれ、集団に潜り込むことには成功した。
ここから、如何にしてこの集団を掻き乱していくか―――――それに考えを巡らせようとした、その時。

「あ、あのっ……」

外に待機していたるう子が、二人のいる部屋へと駆け込んできた。
その様子は、酷く慌て―――――いや、半分錯乱しかけているようにも見えた。
近寄り、肩を叩きながら『落ち着け、何があった?』との文面を見せるセルティに、上手く舌が回らない様子ながらも口を開いた。

「今、夏凜さん達が帰ってきたんですけど……」
「ここに居たか。ふん、見覚えのある顔も増えているな」



ラヴァレイと名乗る男との情報交換が済んだのも束の間。
部屋に入ってきたのがアザゼルと夏凜だと分かったセルティは、つい安堵してしまった。
るう子は夏凜の言により信用は出来るが、かといって戦力としては心許なく。
まだ出会ったばかりのラヴァレイも、戦力は未知数な上に信用できるかどうかはまだ分からない。
超人的なフィジカルを持つ参加者を既に何人か見ている今となっては、下手な襲撃を受ければ、最悪彼女一人で何とかしなければならなかった状況は、それなりに不安ではあった。
だからこそ、単純に仲間が帰ってきたということに加え、そういった意味での安心も加わり、彼女の心は確かな安堵に包まれた。

そして、だからこそ。
彼女は、数瞬遅れて気付く。
アザゼルと夏凜が、共に少女の身体を担ぎ、或いは背負っている事に。

『待て』

一人は、まだ顔色もそこまで悪くない。ただ気絶しているだけだろう。
だが、もう一人は。
腹部から流した血が夏凜の背中から垂れ落ちている少女は、どう見ても生きてはいない。
そして、その少女が夏凜やるう子の言っていた東郷美森と特徴が一致していることに気付いた瞬間には、影の鎌を生み出し突きつけていた。

『それは、何だ』
「三好」

セルティの言葉に答えず、アザゼルは夏凜へと声をかける。
びくり、と肩を震わす夏凜に、アザゼルは笑いながら言いつける。
その表情は、セルティには理解し難い程に歪んだ笑みで彩られ。

「説明してやれ」

その一言に、夏凜がアザゼルを睨む目付きが一層歪む。
だが、すぐにその顔を俯け、言いにくそうに歯を食いしばり。
その表情で

「………………東郷は、」

そこまで口を開いたところで、まるで猿轡のように影が夏凜の口に絡みつく。
驚きが隠せない様子の夏凜の肩を叩きながら、アザゼルの方へ向き直るセルティ。
尚も鎌を構えつつ、PDAを突きつける。

『私は、お前に聞いたんだ』
「やれやれ、注文の多いデュラハンだ」

呆れたように肩を竦め、僅かに夏凜を一瞥する。
黙りこくってしまった彼女を、見世物でも見るかのように愉快そうな表情で眺めた後、改めて彼が口を開いた。

「こいつはゲームに乗っていた。
こちらはセレクター…浦添伊緒奈だったから確保したが、そうでもないのに殺し合いに乗った参加者を生かしておく理由があるか?」
『あったな』

影でPDAに打ち込みながら、アザゼルへと更に詰め寄る。
数十センチの近さまで間を詰め、再びPDAを突き付ける。

『少なくとも、お前の悪評は広まらなかった』
「そうら、やはり俺の口から出た言葉は聞かないだろう?」

分かり切っていたことを、と付け加え、彼は静かに笑う。
その言葉に、続く言葉が遮られてしまう。
確かに、今ここでアザゼルから何を聞いたところで、彼の言葉を完全に信用する気にはなれない。
口を出そうとするラヴァレイやるう子を手で制し、セルティは小さく覚悟を決める。

(どうなるかは分からないが―――――これ以上、るう子ちゃんや夏凜ちゃんを変な目には遭わせられない)

アザゼルの思い通りに、彼女たちを彼の玩具にさせることだけは、何としても阻止して見せる、と。
首無しライダーは、そう腹を括った。



―――――つくづく、面白い奴等だ。

アザゼルの内心は、悦びに満ちていた。
セルティ・ストゥルルソンの行動や、東郷美森の無惨な末路もそうだが。
とりわけ、彼の心を揺さぶったのは―――――やはり、三好夏凜。
友を目の前で殺され、なまじ事情が事情であるだけにそれを認めるしか無かった少女。
無念、屈辱、怒り―――――それらを滾らせながら、しかし矛を収めるしかなかった少女。

―――――東郷を殺したって言うんなら、どうしてあんたはそいつを殺してないの?

あの発言をした時の彼女の目に宿っていたのは、違うこと無き『殺意』だった。
面白い。
今後、彼女はどんな道へ進むのだろうか。
恨みを募らせ、どこかでアザゼルに牙を剥くのか。
それとも、覚悟を決め、脱出の為にと言い聞かせながら着いてくるのか。
それを思い浮かべるだけで、彼の口元には自然に笑みが浮かぶ。

それに、だ。
今回の一件で、小湊るう子とウリスという二人の有力なセレクターが手に入ったのは、大きなプラスだ。
主催を打ち砕く策謀を巡らせるだけの材料は、着々と揃ってきている。

自分をはじめとした、中々の戦力が手駒となり。
鍵となりうるセレクターとルリグ、その符号も一致した。
此方を憎んでいるだろうウリスやラヴァレイなどの陰謀は渦巻けど、その芽もいずれ摘んでしまえば問題あるまい。

―――――繭とかいったか。笑っていられるのも、今の内だ。
―――――貴様の泣き喚く声、耳にするのが楽しみだ。

悪魔は笑う。
今自分を嘲笑っている者共を、自分が嘲笑う側となるその未来に。




賞金首はほくそ笑み。
首無しライダーは決意する。
悪魔は更なる悪巧みを巡らせ。
外道は尚も痛ましい崩壊をこそ望む。
心優しき少女はその心を痛ませ。
勇者の少女は行く先に惑う。





「さあ―――――面白くなってきたじゃあないか」





【E-1/放送局/一日目・日中】

【浦添伊緒奈(ウリス)@selector infected WIXOSS】  
[状態]:全身にダメージ(大)、疲労(中)、気絶
[服装]:いつもの黒スーツ
[装備]:ナイフ(現地調達)、スタングローブ@デュラララ!!
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(19/20)、青カード(18/20)、小湊るう子宛の手紙    
    黒カード:うさぎになったバリスタ@ご注文はうさぎですか?
     ボールペン@selector infected WIXOSS
     レーザーポインター@現実
     スクーター@現実
     宮永咲の不明支給品0~1(確認済)
[思考・行動]
基本方針:参加者たちの心を壊して勝ち残る。
     0:………………………
     1:使える手札を集める。様子を見て壊す。
     2:"負の感情”を持った者は優先的に壊す。
     3:使えないと判断した手札は殺すのも止む無し。    
     4:蒼井晶たちがどうなろうと知ったことではない。
     5:出来れば力を使いこなせるようにしておきたい。
     6:それまでは出来る限り、弱者相手の戦闘か狙撃による殺害を心がける
[備考]
※東郷美森が犬吠埼樹を殺したという嘘をチャットに流しました。
※変身した際はルリグの姿になります。その際、東郷のスマホに依存してカラーリングが青みがかっています。
※チャットの書き込み(3件目まで)を把握しました。



【小湊るう子@selector infected WIXOSS】
[状態]:全身にダメージ(小)、左腕にヒビ、微熱(服薬済み)、魔力消費(微?)、体力消費(中)
[服装]:中学校の制服、チタン鉱製の腹巻
[装備]:黒のヘルメット着用
[道具]:腕輪と白カード
    黒カード:チタン鉱製の腹巻@キルラキル
     宮永咲の白カード
 [思考・行動]
基本方針:誰かを犠牲にして願いを叶えたくない。繭の思惑が知りたい。
   0:ええっと、どうしよう…
   1:シャロさん、東郷さん………
   2:夏凜さん、大丈夫かな……
   3:遊月のことが気がかり。
   4:魂のカードを見つけたら回収する。出来れば解放もしたい。
   5:セルティ…さん?優しいのかな…?


【アザゼル@神撃のバハムート GENESIS】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(小)、脇腹にダメージ(中)
[服装]:包帯ぐるぐる巻
[装備]:ホワイトホープ(タマのカードデッキ)@selector infected WIXOSS、市販のカードデッキ@selector infected WIXOSS
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
    黒カード:不明支給品0~1枚(確認済)、片太刀バサミ@キルラキル、イングラムM10(32/32)@現実、ヘルゲイザー@魔法少女リリカルなのはVivid、弓矢(現地調達)
[思考・行動]
基本方針:繭及びその背後にいるかもしれない者たちに借りを返す
0:いい手駒が揃ったな。さて、どうするかな?
1:三好…面白い奴だ。
2:借りを返すための準備をする。手段は選ばない
3:ファバロ、リタと今すぐ事を構える気はない。
4:繭らへ借りを返すために、邪魔となる殺し合いに乗った参加者を殺す。
5:繭の脅威を認識。
6:先の死体(新八、にこ)どもが撃ち落とされた可能性を考慮するならば、あまり上空への飛行は控えるべきか。
7:『東郷美森は犬吠埼樹を殺害した』……面白いことになりそうだ。
8:デュラハン(セルティ)への興味。
[備考]
※10話終了後。そのため、制限されているかは不明だが、元からの怪我や魔力の消費で現状本来よりは弱っている。
※繭の裏にベルゼビュート@神撃のバハムート GENESISがいると睨んでいますが、そうでない可能性も視野に入れました。
※繭とセレクターについて、タマから話を聞きました。
 何処まで聞いたかは後の話に準拠しますが、少なくとも夢限少女の真実については知っています。
※繭を倒す上で、ウィクロスによるバトルが重要なのではないか、との仮説を立てました。
※東郷美森が犬吠埼樹を殺したという情報(大嘘)を知りました。

【三好夏凜@結城友奈は勇者である】
[状態]:疲労(大)、精神的ダメージ(極大)、顔にダメージ(中)、左顔面が腫れている、胴体にダメージ(小)、満開ゲージ:最大
[服装]:普段通り
[装備]:にぼし(ひと袋)、夏凜のスマートフォン@結城友奈は勇者である
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(26/30)、青カード(26/30)
     黒カード:東郷美森のスマートフォン@結城友奈は勇者である、定春@銀魂、不明支給品0~1(確認済み)、風邪薬(2錠消費)@ご注文はうさぎですか?、ノートパソコン(セットアップ完了、バッテリー残量少し)、東郷美森の白カード
[思考・行動]
基本方針:繭を倒して、元の世界に帰る。
   0: 東郷……私は……
   1: アザゼル……
   2:風を止める。
[備考]
※参戦時期は9話終了時からです。
※夢限少女になれる条件を満たしたセレクターには、何らかの適性があるのではないかとの考えてを強めています。
※夏凛の勇者スマホは他の勇者スマホとの通信機能が全て使えなくなっています。
 ただし他の電話やパソコンなどの通信機器に関しては制限されていません。
※東郷美森が犬吠埼樹を殺したという情報(大嘘)を知りました。
※小湊るう子と繭について、アザゼルの仮説を聞きました。
※セルティ・ストゥルルソン、ホル・ホース、アザゼルと情報交換しました。

【セルティ・ストゥルルソン@デュラララ!!】
[状態]:疲労(小)
[服装]:普段通り
[装備]:VMAX@Fate/Zero ヘルメット@現地調達
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、
    黒カード:PDA@デュラララ!! 、宮内ひかげの携帯電話@のんのんびより
[思考・行動]
基本方針:殺し合いからの脱出を狙う
0:大変なことになってきたな、全く。
1:アザゼル……どうしたものか。
2:静雄との合流。
3:縫い目(針目縫)はいずれどうにかする
4:旦那、か……まあそうだよな……。
[備考]
※制限により、スーツの耐久力が微量ではありますが低下しています。
 少なくとも、弾丸程度では大きなダメージにはなりません。
※小湊るう子と繭について、アザゼルの仮説を聞きました。
※三好夏凜、アインハルト・ストラトスと情報交換しました。


【ラヴァレイ@神撃のバハムートGENESIS】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:軍刀@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)
    黒カード:猫車@現実、拡声器@現実
[思考・行動]
基本方針:世界の滅ぶ瞬間を望む。
0:随分と面白いことになっているじゃあないか。
1:小湊るう子、ウリス、三好夏凜。『折れる』音が楽しみだ。
2:アザゼルにはそれなりに気を付けつつ、隙を見て排除したい。
3:セルティ・ストゥルルソンか…一応警戒しておこう。
4:DIOの知り合いに会ったら上手く利用する。
5:本性は極力隠しつつ立ち回るが、殺すべき対象には適切に対処する。
[備考]
※参戦時期は11話よりも前です。
※蒼井晶が何かを強く望んでいることを見抜いています。
※繭に協力者が居るのではと考えました。
※空条承太郎、花京院典明、ジャン=ピエール・ポルナレフ、ホル・ホース、ヴァニラ・アイス、DIOの情報を知りました。
ヴァニラ・アイス以外の全員に変身可能です。


時系列順で読む


投下順で読む


140:あなたの死を望みます。 東郷美森 GAME OVER
140:あなたの死を望みます。 浦添伊緒奈 166:飼い犬に手を噛まれる
140:あなたの死を望みます。 小湊るう子 166:飼い犬に手を噛まれる
138:心の痛みを判らない人 アザゼル 166:飼い犬に手を噛まれる
138:心の痛みを判らない人 三好夏凜 166:飼い犬に手を噛まれる
138:心の痛みを判らない人 セルティ・ストゥルルソン 166:飼い犬に手を噛まれる
146:退行/前進 ラヴァレイ 166:飼い犬に手を噛まれる