第二回放送 -その老人は黒幕- ◆DbK4jNFgR6

白い部屋。このゲーム二度目となる死の宣告を下すべく、口を開いたのは主催者の『一人』である繭だった。

「ごきげんよう。皆、ゲームを楽しんでくれているかしら」

繭の声には自らが加害の立場にあるという優越感が含まれていた。
元の世界でどれだけ圧倒的な力を持つ人物であろうとも、この会場では等しくゲームの駒でしかない。
繭という絶対的な存在の前に成すすべもない塵芥にも劣る虫けら共である。
にもかかわらず、身の程知らずにもゲームに乗らず脱出を目指しているものがいる。
最初の内は見逃していたが、いい加減あの駒たちには自分の立場を分からせなければならない。。

「でもね、楽しむのは結構だけど、あんまり生意気な態度を見せて私を不快にさせない方がいいわ」

歌うように、けれども若干声のトーンを落として繭が言う。

「ここからの脱出なんて、できるわけがないんだから。脱出なんて無駄な事を考えるのはやめなさい」

それはあまりにも残酷な恫喝であった。お前らはここから出られない、ここで殺しあうしかないという呪いのい言葉。ゲームの過酷な現実を再度参加者に突きつける悪魔じみた宣言である。

「例えゲームに乗っていても、繭に露骨な反抗心を持ってる奴は気に入らないわ」

ギリッ、と歯をかみ締める。

「まさかとは思うけど、優勝した後、繭を倒そうと考えてる奴なんていないわよねぇ?」

反抗心を持つのは構わないにしても、それを隠そうともしない一部の参加者の態度は非常に不愉快だ。
ここでは繭が支配者であり、参加者はゲームの駒でしかない。駒が支配者に生意気な態度をとるなど許されることではない。

「もう一度、思い出した方がいいわ。今あなた達の命を握っているのが誰なのか」

再び声に加害の立場にいる人間特有の優越感が宿る。

「優勝しても、繭の機嫌を損ねたら、その場でカードにすることも、できるってことを、理解しなさい」

命を握られている人間の立場からすれば恐ろしいことこの上ない発言。それが分かっているからこそ、繭はその言葉を一言一言、刻みこむように参加者たちに告げた。

「それじゃあ、禁止エリア……今回も発表してあげるから感謝しなさい」


【B-7】
【C-2】
【G-7】


「次は脱落者ね」


【ランサー】
【保登心愛】
【入巣蒔菜】
【雨生龍之介】
【蒼井晶】
【カイザル・リドファルド】
【範馬刃牙】
【高坂穂乃果】
【桐間紗路】
【花京院典明】
【キャスター】
【ジャン=ピエール・ポルナレフ】
【折原臨也】
【蟇郡苛】


「さっきはキツイ言葉をかけたけど、あなた達には期待もしているわ。その期待を裏切らないように、ゲームに励みなさい」


◆◆◆


放送を終えた繭は背後に控える協力者に向き直り言葉をかけた。

「それで、聞きたいことは分かっているわよね」

協力者は男であった。整った顔立ちに真紅のスーツを見事なまでに着こなした中年男性はオルゴールを片手に握っている。

「さて、まずは怒りを静めてもらえないかな。君に怒った顔は似合わない」

猫なで声で繭を宥めながら男性は繭にチョコレートを差し出した。
繭はそれを乱暴に受け取ると、ビニールを破って中身を取り出し口に運び、もきゅもきゅと租借する。

「君が何を言いたいのかは理解しているとも。タマヨリヒメが何故、参加者の支給品に紛れ込んでいるかだろう」

男性は、まるで舞台役者のような素振りで両手を翳しながら、繭の疑問を言い当てる。

「そうよ、私の質問に答えてくれるわよね……ヒース・オスロ」

その男はヒース・オスロと名乗る人物だった。

「非常に申し上げにくいのだが、あれは私の手違いだ。君には大変申し訳ないと思っている」

全く焦った様子もなく、オスロは淡々と告げた。

「ッ! 手違いで済む話ではッ!」
「落ち着くんだ、繭。腕輪がある限り奴らは我々に反抗できない。それに例の保険もあるだろう」

子供に言聞かせるような調子でオスロ。

「それは、そうだけれど」
「タマヨリヒメを誤って支給品に紛れ込ませてしまったことは改めて謝罪する。すまなかった」
「……もう、いいわ」

言いながら手のひらを差し出す繭。その意を汲み取ってオスロは再びチョコレートを手渡す。

「一つじゃ足りないわ」

更に三つほど受け取ってから、繭は満足げに頷き、その場を後にした。


◆◆◆


繭が去った後、オスロの周りに一匹、また一匹とおぞましい何かが集まり始めた。
その正体は蟲だ。ゲーム参加者の一人である間桐雁夜が使役していたのと同種の蟲であった。
しかし、これはおかしい。間桐雁夜は既に脱落しており、現在はカードになっている。
そもそも、仮に脱落していなかったとしても、参加者の一人でしかない間桐雁夜が、この部屋の中に入ってこれるはずがない。
となればこの蟲を使役するのは、間桐雁夜とは別の人物であることになる。
ならば蟲が同種であることには、どう説明をつければよいのか。
その答えは至って単純である。蟲を使役する人間が間桐雁夜の関係者であれば説明がつく。

「カカカ、クカカカ、娘の世話が随分と板についているようじゃな」

姿を現したのは老人であった。
名を間桐臓硯。否、マキリ・ゾォルケンと呼ぶのが適切であろうか。
500年の時を生きる、正真正銘の妖怪であり、この舞台を整えた黒幕とも呼べる人物だった。
元の世界ではテロリストでしかないオスロが繭にこの舞台を提供できたのも、裏でこの老人が動いたからである。

「順調、順調、実に順調に儀式が進んでおる」
「全てこちらの目論見どおりですね」

グラスを二つ用意してそれにワインを注ぎながらオスロはそう口にした。
『タマヨリヒメ』が参加者の手に渡ったのも計画通り、言外にそう言い含める。

「ゲーム、いやあなたの言葉を借りるなら儀式か。その儀式が完成すれば、貴方は願いを叶える」

優勝者にはどのような願いも叶えるというのは欺瞞であった。
それはある意味では聖杯戦争やセレクターバトルと同じような仕組み。
勝ち残れば願いが叶うなどといったふわふわした言葉など、本気で信じる方が間抜けなのである。
単に願いが叶う、叶わないで言えば叶う、セレクターバトルではなく聖杯戦争寄りなこのゲーム。
しかし、その願いを叶えるのは優勝者ではなく間桐臓硯なのだ。

ではオスロはどうなのか。願いを叶えられるのは一人だけである。隙を突いて臓硯を出し抜くつもりなのか。
否である。あの妖怪を自分がどうこうできると思うほど、オスロは自意識過剰ではない。
確かにオスロは戦闘のプロであり、特にナイフによる近接戦に秀でているが、あの怪物を殺しきる自信はなかった。
オスロが欲したのは願いを叶える権利ではなく優勝者の肉体である。優勝者を元の世界に返すつもりなど初めからありはしなかったのだ。
臓硯は願いを叶え、オスロは優勝者の体を手に入れる。利害の一致によって両者は手を結ぶことができた。

「ご子息については残念でしたね。早々に退場することになってしまって」
「所詮あれは生き残れる器ではない。が、死に方が気に入らんがな」
「というと?」
「あれはもっと無様に見苦しく足掻いて死ぬと思うとったが、期待はずれにも程がある」

カッ、と臓硯が不愉快そうに白い床に杖を付く。

「そんなことより、貴様はどうなのだ。確か目をかけていた小僧がいただろう。風見雄二だったか」
「正直なところ、期待以上ですね」

雄二に殺しの技を仕込んだのはオスロであり、彼の戦闘技能の高さはオスロ自身が一番よく分かっていた。
しかし、このゲームには人間を超越した化け物たちが参加している。どれだけ一般レベルで強かろうと、あれらにその常識は通用しない。

「あの環境で雄二はここまで生き残った。他人と共闘したとはいえ針目縫を相手にして生存しているのも評価に値する」

優勝者として雄二が再び手元に戻ってくるのであれば、それはそれで良いかもしれない。
そんなことを思いながらオスロは自らがグラスに注いだワインに口をつけた。