色即絶空空即絶色-Dead end Strayed-(後編) ◆gsq46R5/OE



  ファバロは走る。
  背中に夜兎族の少女を背負い、走る。
  走りながら、彼は強く後悔していた。
  言わずもがな、あの場面で神楽を助けたことへの後悔だ。

  ふざけんじゃねえ。
  ありえねえだろ。
  あの場面で、なんだって厄介事を背負い込む。
  一歩間違えりゃ、殺されてたかもしれねえんだぞ。

  自分への怒りにも似た訴追で、彼の胸中はいっぱいだ。
  神楽を圧倒して沈めたあの少女は、明らかに次元の違う存在だった。
  聖女ジャンヌや悪魔アザゼルに匹敵、下手をすれば上回る。
  カイザルや自分などが真っ向勝負を挑んだ日には、ものの数秒で背中のガキより酷い血袋だ。
  そんな場面で、よくもまああんな行動に出たもんだと、今更ファバロは肝を冷やす。

  キャスターから逃げ回るのは、率直に言って訳はなかった。
  案の定彼の身体能力は低めのようで、体の動きが悪くとも、技であしらうことが出来たからだ。
  最終的には体もだいぶマシになり、いざ逆襲と洒落込もうと思ったところで、奴が来た。纏流子が現れた。
  立ち込めた暗雲に彼は方針を転換。花京院が刺されたのを見て、本格的に逃げを視野に入れ始めた。
  花京院については――彼には悪いが、あまり感傷のようなものはない。
  共に過ごした時間が短かったこともあるだろうが、やはり状況が状況だからか、他人の死を普段に輪をかけてドライに囚えてしまう自分がいるようだった。

  神楽が圧倒されているのを見て撤退を決めた。
  そこまではいい。 
  その後が落第だ。
  何故自分はあそこで、神楽を助けに入ったのか。

  暫く無我夢中で走った頃、ようやくファバロはその足を止める。
  安全地帯とはとても言えないだろうが、橋は渡りきった。
  地図によると、この辺りに基地なる施設があるという話だ。
  とりあえず、一旦そこへ転がり込んで休もう。
  このまま動き回っていたんじゃワーカー・ホリック、いずれガタが来るのが見えている。
  痺れも今や行動に支障が出ない程度には回復しているが、念には念を入れだ。
  もっとも、あんなアクロバティックな立ち回りが出来る時点で、そこについての心配は無用だろうが。

  それに、考えなければならないこともある。
  背中の重み、よせばいいのに助けた少女。
  幸いなのは、怪我の様子からしてすぐには目を覚まさなそうなところか。

 「……どうすっかねえ」

  さっきは化物女が勝ったが、あれと張り合えていた時点でこの少女も相当おかしい。
  まっとうな人間であるファバロでは、手に負えない存在だ。
  ざっと浮かんだ選択肢は、三つ。

  一つ目は、彼女が目覚めるまで待って、行動を共にすること。
  今でこそ瀕死の体だが、ちゃんと手当てしてやれば案外、頼れる味方になってくれるかもしれない。

  二つ目は、彼女をどこか適当な場所へ置き去りにして、荷物を軽くすること。
  味方として使えるかもしれないとは言ったものの、このまま再起しない可能性だって考えられる。
  そうなったなら、長々とお荷物を背負い続けるなどファバロは御免だった。

  三つ目は――

  彼女を、殺すこと。
  殺し合いの参加者としては、一番正しい答え。
  今でこそ腹に一物抱えたままで宙ぶらりんとしていられるが、どちらの道を選ぶにしろ、腹をくくらねばならない場面はきっと遠からぬ内に来る。
  そういう意味でも、未来の脅威を排除しておくというのは、決して見当外れな答えではない筈だ。
  幸い、目覚める前なら抵抗もない。いくら強者だろうと、寝ている間なら一撃で殺す自信がある。


 「嫌になるぜ、ったく」

  何はともあれ、まずは基地を目指そう。
  こちとら既にバタンキューだ。
  ゆっくり腰を落ち着けてからでも、あれこれ考えるのは遅くない。



【一日目/午前/D-2】

【ファバロ・レオーネ@神撃のバハムート GENESIS】
[状態]:疲労(大)、全身に痺れ(軽度、行動に支障なし)、精神的疲労(小)
[服装]:私服の下に黄長瀬紬の装備を仕込んでいる
[装備]:ミシンガン@キルラキル
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(8/10)
    黒カード:黄長瀬紬の装備セット、狸の着ぐるみ@のんのんびより、小型テレビ@現実、グリーンワナ(緑子のカードデッキ)@selector infected WIXOSS、カードキー(詳細不明)、ビームサーベル@銀魂
[思考・行動]
基本方針:女、自由、酒ってか? 手の内は明かしたくねえんだよ
   0:基地を目指す。休む。
   1:それから、神楽をどうするかについて考える
   2:カイザルの奴は放っておいても出会いそうだよなあ。リタにも話聞かねえとだし。
   3:『スタンド』ってなんだ?    
   4:寝たい。
 [備考]
※参戦時期は9話のエンシェントフォレストドラゴンの領域から抜け出た時点かもしれません。
 アーミラの言動が自分の知るものとずれていることに疑問を持っています。
※繭の能力に当たりをつけ、その力で神の鍵をアーミラから奪い取ったのではと推測しています。
 またバハムートを操っている以上、魔の鍵を彼女に渡した存在がいるのではと勘ぐっています。
 バハムートに関しても、夢で見たサイズより小さかったのではと疑問を持っています。
※今のところ、スタンドを召喚魔法の一種だと考えています
※第一回放送を聞き流しました
どの程度情報を得れたかは、後続の書き手さんにお任せします


【神楽@銀魂】
[状態]:気絶、疲労(大)、頭にダメージ(極大)、胴にダメージ(極大)、右足・両腕・左足の甲に刺傷(行動に支障なし)
[服装]:チャイナ服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、黒カード:不明支給品0~2枚
[思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らないアル
   1:………………。
   2:神威を探し出し、なんとしてでも止めるネ。けど、殺さなきゃならないってんなら、私がやるヨ。
   3:銀ちゃん、新八、マヨ、ヅラ、マダオと合流したいヨ
[備考]
※花京院から範馬勇次郎、『姿の見えないスタンド使い』についての情報を得ました。
※第一回放送を聞き流しました
どの程度情報を得れたかは、後続の書き手さんにお任せします


 ●  ◯


  纏流子がヴァニラ・アイスとキャスターの二人を「殺す」と決めるまで、コンマ一秒も要さなかった。
  それを察知したヴァニラとキャスターが迎撃姿勢を取るまでにも、その程度の時間で事足りた。

  ヴァニラが暗黒空間へと飛び込む。
  すると必然、彼を目掛けた朱槍は空を切る。
  流子は気に入らなさげに目を細め、しかし未練なくすぐにターゲットをキャスターへと変えた。

  猛進。
  まさにそう称するのが相応しい速度であったが、そこに猪突の二文字は付かない。
  確かに彼女は猛獣の如く荒々しい戦い方の持ち主だ。
  しかし、そこには確たる考えや戦闘論理が存在している。
  記憶の曇りも消えた今、純潔纏いし流子は完全な生命戦維の化物と呼ぶべき戦いの才覚を遺憾なく発揮できる。
  キャスターが何をしてくるかを事前に読んだ行動は、断じて猪の直進と同一視されるようなものではなかった。

  血を吸われ、干涸らびた肌に変わり果てた花京院典明の亡骸が幽鬼のような足取りで立ちはだかる。
  しかしながら、五体まで連れ歩けるゾンビたちは先の戦闘で全滅。
  今やキャスターが手足として動かせるゾンビは、死にたての花京院ただ一人だった。
  胸を貫かれた挙句血まで吸われ惨死を喫した彼の哀れな遺骸が、血気に逸る纏流子を止められるか?

  問うまでもなく、否だ。
  流子が壮絶な笑みと共に真横へ槍を薙げば、花京院の首が胴体と泣き別れになる。
  流子は更に学生服の血に汚れた腹部を蹴り飛ばし、キャスターの下まで飛ばしてやる。

 「ぬッ!?」

  自分へと人間砲弾さながらの勢いで返ってきたゾンビに、キャスターは瞠目した。
  さりとてそこはサーヴァントだ。
  充足した魔力は、彼の体を不自由なく動かす。

  人外の、人間の頭程度ならば容易く握り潰せる膂力を駆使して、飛んできた死体を跳ね除けた。

  しかし、それは悪手と言わざるを得ない。
  そのことを、キャスターもすぐに理解した。
  片手が使えなくなると同時に、学生服で塞がれていた視界が晴れる。
  言うまでもなくそこには、満面の笑みで槍を構えた纏流子の姿がある。
  防ごうにも、間に合わない。

 「こッ、この――」

  売女めが、と。
  ぎょろりとした目を見開いて、その顔を憤怒で彩るキャスター。
  口汚い罵言の続きを吐く暇さえない彼は、苦し紛れに空いている片手でそれを防ごうとすることしか出来なかった。
  されどその内心には、この逆境を打破する上でのアテがあった。
  ヴァニラ・アイスだ。
  暗黒空間へ逃げ込んだ彼が未だ顔を見せないということは、つまり『そういうこと』。
  彼の能力を前にしては、あらゆる強さは意味を成さないと、キャスターは短い時間の共闘の中で知っていた。


  ガ オ ン ッ !


  そして、悪夢の音が響いた。


 「な!?」

  流子は目を見開く。
  幸い、彼女は一撃で暗黒空間に消し飛ばされることはなかった。
  攻撃性能においては限りなく最強に近いだろう『クリーム』だが、暗黒空間へ潜るという性質上、確実に仕留めるという一点に関してだけは少々難がある。
  流子は荒々しい戦い方の持ち主であるため、彼が定めた狙いが、奇襲の段階になって僅かにブレていたのだ。
  ヴァニラは舌打ちをしたが、それでも成果は大きかったな、と口元が緩む。

  破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)。
  紛れもない尊き幻想、生半可な攻撃では傷付けることさえ難しい宝槍の三割ほどが、綺麗さっぱり消失していた。
  魔力の循環を遮断する驚異の効能を秘めたる一槍も、スタンドパワーという概念を前にしては無力。
  纏流子の得物は、敢えなく粉微塵になって、伝説もろとも消滅した。

 「チッ」

  だが、彼女にとって宝具など、仮初の武器でしかない。
  彼女が誇る真の武器は、その身に纏う純白の花嫁衣装――神衣・純潔以外にあり得ない!
  一切の未練なく、暗黒空間へ舞い戻らんとするヴァニラ・アイス目掛け、流子は刃を失いただの長棒と成り果てた紅薔薇を投擲した。疾い。ヴァニラは迅速に行動したものの、擲たれたそれは彼の左腕を貫いていた。


 「ぐ……! ちっぽけな黒蟻にも劣る、品性下劣な糞売女めが…………」

  暗黒空間の中で、ヴァニラ・アイスは傷の痛みへ怒りを燃やす。
  DIO以外に、この殺し合いで生き残るべき人間などは存在しない。

  無論それは自らも同じだ。
  そして己には、喜んで彼の踏み台となる覚悟がある。
  だというのに、つまらない義憤や事情で彼に仇成さんとする者のなんと多いことか。
  考えるだけで腸が煮えくり返るし、その不信心者どもに自分が決して小さくない手傷を負わされたという事実に、許されるならばこの喉笛を抉り出して自死したいほどの憤激が沸く。

  堪えろ。
  まだだ、まだ死ぬわけにはいかん。
  ヴァニラ・アイスは自らを自罰しながらも、今やるべきことを見据える。

  今は兎に角、あの少女を殺さねばならない。
  花京院は死んだ。
  この手でその血を吸い、奴の死体はDIO様へ反逆した者に相応しい惨めな有様となって転がっている。
  ジル・ド・レェを殺すのは後回しでもいいとして、吸血鬼をも圧倒する身体能力の持ち主を撃破した彼女は、まず間違いなく優先的に処分すべき対象だ。


  ガオンッ
  ガオンッ
  ガオンッ

  クリームの優位性を活かした、闇雲な破壊の連打。
  当たらないのならば、当たるまで繰り返せばいい。
  そんな子供の理屈を大真面目に行えば、クリームは無敵のスタンド能力だ。


  喰らうように、貪るように、続ける。
  恐らく、室内は悲惨な有様となっていることだろう。
  床も壁も抉れ、散乱した死者の残骸は無残。
  されど、死者の冥福などに頓着するヴァニラ・アイスではない。
  彼にそれだけの倫理観が残っていたならば、そもそも彼は、邪悪の化身へ心酔などはしなかった。
  やがて、手応えがあった。
  一瞬だけ覗いた視界に、何かが写り。
  『クリーム』は、過つことなくそれを食らった。

  ヴァニラ・アイスは笑みを浮かべる。
  勝った。
  その確信を帯びた笑みで、彼だけの世界から姿を現す。
  跡形もなく粉砕してしまったならそれまでだ。
  とはいえもしもまだ息があるならば、血を吸っておきたい。
  悠々と外界へ姿を現した彼は、快く出迎えられた。


 「よう」


  まず、血の臭いがした。
  噎せ返るような臭気だ。
  それに顔を顰める暇も、ヴァニラにはなかった。
  それどころではない。
  それどころではない衝撃が、笑顔でそこにいる。
  手で何かを鷲掴みにしながら、立っている。
  鎖骨から下を綺麗さっぱり失って、憤怒の形相を浮かべたまま事切れた、その人物。
  その大きな目、脂ぎった肌、化物をすら思わせる造形。
  見間違える筈など、ありはしない。

 「ありがとよ。おかげで手間が省けた」

  ジル・ド・レェ。
  魔領の主が、朽ちていた。
  その髪の毛を鷲掴みにして、纏流子が笑んでいた。
  次はお前だと、告げるように。


【キャスター@Fate/Zero  死亡】



 ●  ◯


  纏流子は、何度目かの舌打ちをした。
  相当な業物と思われた槍が呆気なく破壊された上に、敵はどうやら自分だけの世界とも呼べる場所へ逃げ込めるらしい。
  そうされては、此方には手出しする手段が一切ない。
  如何に神衣の力といえども、空間を飛び越えるような真似は不可能だ。
  彼女にとって厄介なのは、あくまでもその一点だった。
  一撃で敵を消し去る驚異の攻撃性能などは、所詮二番手。
  隠れている内は『倒せない』……それだけが、ただひたすらに鬱陶しい。

 「おやおや、お手上げのようですねぇ」

  喜悦を浮かべて嗤うのは、もう一人の敵だ。
  死人を操る能力の持ち主。
  本来の所は違うのだが、少なくとも流子はそう認識していた。
  ぎろりと、彼の方を睥睨する。

 「おんぶにだっこのてめえにとやかく言う資格があんのかよ」
 「いやはや、耳が痛い。しかし私も、手段を選んではいられない身でして」

  そうか、死ね。
  流子は決断するなり、そいつを殺すために踏み出した。
  瞬間、ガオンッ、と『消える方』の攻撃が邪魔をする。
  頬を掠める程度だったが、触れてみると肉が抉られたようになっていた。
  傷の面積が小さいからよかったものの、あと一歩で即死の危ないところだったのは間違いない。

 「鬱陶しいんだよ腰抜け野郎!」
 「さあ、お逃げなさいお嬢さん。貴女を冥府へ導く死神は、すぐそこまで来ているようですよ」
 「うるせえ!」

  流子は駆け出す。
  すると、背後で見当違いの場所が削り取られるのが見えた。
  一度ならばまだしも、二度、三度と繰り返されれば、自ずと彼の力の弱点に気付かされる。
  要はあの力、隠れている空間から此方の世界が見えないのだろう。
  威力は絶大だが、それだけに命中精度にやや難があるようだ。
  だがそれも、周囲へ頓着せずに連打すればデメリットではなくなる。

  面倒だ。
  ある程度攻撃の軌道は予測できるが、このまま追い詰められた日には、ゆっくりと削り殺されるのがオチか。
  どうすべきか。
  流子は少しだけ考え、とりあえずいざという時に邪魔立てしてくる可能性がある『ゾンビ使い』を先に殺すべきだろうと判断した。最悪、『消える方』へ対処するのはその後でいい。
  癪だが、一旦この部屋を出るという手もある。
  その為にもまずは自分の立ち位置を調整しつつ、あの鬱陶しいインスマス面を殺す。
  話はそれからでも、遅くはない。


  神衣を至高のものと信じる纏流子が考え至ったかは定かではないが。
  ヴァニラ・アイスのスタンド能力『クリーム』は、極制服を始めとした生命戦維に対して特攻の性能を持っている。
  耐久力も再生力も、暗黒空間の前には全てが無意味だ。
  人類を脅かす服の魔の手も、極論は彼の力で排除することが出来るほどに、そこには破格の相性差が存在する。
  神衣がどれだけ優れていようが関係なく、ヴァニラ・アイスは消し去れる訳だ。
  まさしく、纏流子にとってヴァニラ・アイスは最悪の敵だった。
  実力で勝るセイバーや、拮抗し得る神威にも優る、圧倒的相性という暴力。


  距離を詰める。
  超人じみた流子の脚力を前に、閉所での距離概念はほぼ意味がない。
  テーザー銃の電極を裂け、片手で銃口と電極を繋ぐ糸を切断する。

  キャスター目掛け振るった拳は、しかしひらりと躱された。
  だがそれも、最初だけだ。
  すぐに余裕が消え始める。
  予想通りだ、と流子は笑った。

 「そら見ろ。やっぱり、おんぶにだっこじゃねえか」
 「ぬ、ぐ、――がッ」

  彼は魔術師のクラスで召喚されたサーヴァントだ。
  にも関わらず、彼は魔術の行使による戦闘において、サーヴァントの水準に達していない。
  彼が万全に戦うためには、自身の宝具『螺湮城教本』を用い、物量作戦を仕掛ける必要があるのだ。
  それを失い、性能の劣化した魔導書を代わりに握ったところで、その力量はたかが知れている。
  魔力が充足していようが、少なくとも、纏流子と正面から戦って勝てるだけのものは間違いなく、彼にはない。

  キャスターは流子を侮っていたのだろう。
  正しくは、その神衣を。
  武器さえ破壊されてしまえば取るに足らない相手だと、そう思っていたのだろう。
  それが間違いであったと、今彼は思い知る羽目になった。
  腹を打つ剛拳の鋭さでもって、思い知らされる羽目になった。

 「っと」

  背後が、削り消える。
  髪の毛が数本持っていかれたらしい。
  つくづく鬱陶しいが、そちらへ意識を割くのは後だ。
  キャスターの胸板へ蹴りを叩き込んで吹き飛ばし、着地するよりも先に追い付いて、壁へ向けて殴り飛ばした。

 「が――ぐッ、貴様、この……売女めがァァッ!!」
 「何でもいいけどよ。さっきまでの威勢はどうした?」
 「おのれェ……おのれおのれおのれおのれェェェ!!!!」

  髪の毛を掻き毟って咆哮するキャスターに、打つ手はない。
  仮にあのビームサーベルがまだ彼の手にあったとしても、流子を倒すには至らない。

 「んじゃ、まぁ、そろそろ」

  流子は歩く。
  背後で世界が削り消えるのも厭わずに。
  或いは適合したように、往く。

 「死んどけ」

  手刀の形にした右手で、彼女は勿体ぶることもなくキャスターの腹を文字通り、ぶち抜いた。

  口から血の泡を吐き出し、未練半ばで朽ち果てる魔術師は怨嗟の声を紡ぐ。
  死ね、だとか。
  呪う、だとか。
  そういうことを口にしているんだろうと、流子は思った。

 「呪い、あれ……! 貴様の行く末に、災いあれェ……!!」
 「あぁ? てめえが勝手に呪われてろよ」

  一蹴したのも、束の間。
  ガオンとあの音がして、流子の左耳が半分ほど削り取られた。
  鋭い痛みに顔を顰めるが、優先順位だ。
  腹を貫いたまま、キャスター共々飛び退いて距離を取る。
  その際にも左肩の一部を削り取られたが、行動に支障が出るほどのものでもない。
  問題は、ない。

 「鬱ッ陶しいんだよてめえはよッ!」

  その顔に浮かぶのは憤怒の色。
  黙っていればいい気になりやがって、と彼女は赫怒の念を禁じ得ずにいた。
  しかし、為す術がないのも確かだ。
  此方から干渉する手段がない以上、認めたくはないが完全にお手上げである。

  それこそ、奴が自分から顔でも出してくれない限りは――

  と。
  そこまで考えた所で、纏流子は貫いたままの魔術師へ視線を落とした。

  ああ。
  そうか、そうすればいい。
  顔を出させる為には、簡単な手段がある。
  手応えを、くれてやればいいのだ。

  だから、彼女は差し出すことにした。
  曰く、死神。
  纏流子を冥府へ導く者へ。
  供物を差し出して、一度だけ見逃してもらうことにした。

 「貴様ァ、何を!」

  叫ぶ声には耳を貸さず。
  突き刺した手を抜いて、ぽんと軽く目の前へ押し出した。

 「お。おのれェェェェェェェ―――! 貴様ァァァァ―――ッ!!!!」


  ――刹那。キャスターの鎖骨から下は、その右腕のみを残し、一瞬の内に消え去った。


  魔元帥ジル・ド・レェは、これにて散る。
  その信仰は届かず、また誰にも聞こえない。
  ただ、爪痕が残るだけだ。
  それ以外に、彼が残せるものも、成せることも、何もない。
  過去の怨念は、二度と這い出ることの出来ない闇の底に消え、二度とは戻らない。


 ◯  ●


  真の意味で人を逸脱し、魔道に足を踏み入れた筈の彼。
  吸血鬼DIOを狂信し、彼のために全てを捧げる血の殉教者。

  ヴァニラ・アイスは、その光景を前に一も二もなく逃走を選択した。
  それは彼にとってこの上ない屈辱であったが、しかし、まだ死ねないと思えばこそ、そうせずにはいられなかった。
  自分の力で食い荒らした爪痕が広がる空間で、笑みすら浮かべて待ち受けていたあの少女。

  その姿が――重なったのだ。
  状況こそ違えど、かつて己を殺し、忠義を業腹にも断罪したスタンド使いの男と重なったのだ。
  心の臓が高鳴る嫌な感覚は、自分が未だあの敗北を引きずっている証。

  だが、それでいいとも思う。
  過去を忌み、ただ憎悪するのではなく、そこから学習して進化する狂信者。
  それが、今のヴァニラ・アイスだ。
  だからこそ、彼は狂おしいほどの憎悪と苛立ちよりも優先して、生を選んだ。
  このまま戦い続ければ、自分は間違いなくここで命を落とすことになる――そういう確信があった。

 (この命は、DIO様に捧げる最期の供物でなくてはならないッ!
  あの方を足労させるようなことが起こらぬ為にも――わたしは死ねないのだッ)

  ヴァニラ・アイスは全てを殺す。
  花京院典明は既に殺した。
  空条承太郎も、役立たずのホル・ホースも。
  信奉する彼の者以外の参加者は一人とて残すことなく、暗黒空間にばら撒くだろう。
  たとえ一度自分に土を付けた、J・P・ポルナレフが相手であろうとも、それは変わらない。

  むしろ、だからこそだ。
  次こそはポルナレフをも殺し、この信仰を、忠を貫かねばならない。
  そう思うから、ヴァニラは生きる道を選ぶ。

  狂犬から、猟犬へ。
  その狂信はそのままに進化を遂げながら、彼は泥を啜る。
  最後に笑う為だけに、今は雌伏に徹する――


【E-1/放送局/一日目・午前】

【ヴァニラ・アイス@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:ダメージ(中) 、疲労(中)、左腕に刺傷(回復中)、暗黒空間に篭もり移動中
[服装]:普段通り
[装備]:範馬勇次郎の右腕(腕輪付き)、ブローニングM2キャリバー(68/650)@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
    黒カード:双眼鏡@現実、不明支給品0~1(確認済、武器ではない)、範馬勇次郎の不明支給品0~1枚(確認済)、ブローニングM2キャリバー予備弾倉(650/650)
[思考・行動]
基本方針:DIO様以外の参加者を皆殺しにする
   1:今は逃げる
   2:承太郎とポルナレフも見つけ次第排除。特にポルナレフは絶対に逃さない
   3:白い服の餓鬼(纏流子)はいずれ必ず殺す
[備考]
※死亡後からの参戦です
※腕輪を暗黒空間に飲み込めないことに気付きました
※スタンドに制限がかけられていることに気付きました
※第一回放送を聞き流しました
 どの程度情報を得れたかは、後続の書き手さんにお任せします
※暗黒空間内に潜れる制限時間については後の書き手さんにお任せします。



 ●  ◯


  ようやく暗黒の世界から顔を出したそいつと、目が合った。
  流子は笑った。
  次はてめえの番だと笑ってやった。
  すると、どうだ。
  敵は目を見開き、流子が手を出す速度さえ凌駕する速さで、再び暗黒空間へと身を投じ。
  地面に削る軌跡を刻みながら、逃げていったではないか。
  待ちやがれ、と咄嗟に追い打ちをかけようとしたところで、流子は自分のリーチの短さを嘆いた。

  あの槍が壊されていなかったら、少なくともみすみす逃がすようなことはなかった筈だ。
  何ならチャイナ女の使っていた傘でもいい。
  やはり、武器は何かしら持っておくべきだったな。
  頭をボリボリ掻きながら反省しつつ、流子は無造作に転がる血の付いた番傘を拾い上げ、二度、三度と素振りした。

 「まあ、これでもいいか」

  少し気に入らないものはあるが、この際何でもいい。
  忘れずに、キャスターの右腕から支給品も回収しておく。花京院のものもだ。
  踵を返して、変わり果てた部屋の中を見渡す。
  一言、悲惨に尽きた。
  死者の骸は散乱し、暗黒空間に食い荒らされ、血と死臭で大部屋の中はいっぱいだ。
  乾いた笑い声が漏れた。
  つい数十分前に殺した女に、見せてやりたいと思った。


  高坂穂乃果が求めた希望が何だったのかを、ついぞ纏流子は知り得ない。
  けれど、彼女の大切なものは戦いの中で砕かれ、流子が乱入したことで完全に破壊された。
  流子が来なければ、ひょっとしたら花京院典明は死なず、神楽が重傷を負うこともなかったかもしれない。
  死後を弄ばれた少女たちが、更に跡形もなく破壊されることも、きっとなかった。

 「――はは」

  全部ぶっ壊した。
  だから、勝者は纏流子だ。
  纏流子は、高坂穂乃果に勝った。
  残ったのは殺人鬼と、化け物だけ。
  何一つ。何一つとして、希望らしいものはない。

 「はははははは――!!」

  流子は笑った。
  どんなもんだよと、大声で。
  残骸の散らばる空間に笑い声を響かせた。
  その勝利を祝福する者はおらず。
  歯を軋ませて悔しがる敗者もいない。
  何故なら、敗者となるべき少女は流子自身の手で殺したから。
  端から、彼女は孤独で空虚な色即是空(ストレイド)。
  独り相撲の勝敗に一喜一憂するだけの、空しい伽藍の洞でしかない。

 「――はあ」

  部屋を後にしようとして、流子はふと、地を転がる顔と目が合った。
  首から下は、恐らく暗黒空間の無差別攻撃に巻き込まれてしまったのだろう。
  でもその顔は嫌味なほどにはっきりと残っていた。

  流子の知った顔だった。
  生前では想像もできないような虚ろな目をして、崩れた顔面で、天井を見つめていた。
  流子は、嘆息する。
  深く息を吐いて、それから苦笑いをした。

 「おせえよ」

  もう何もかも、遅すぎる。
  纏流子は救われないし、夜明けの賛美歌は響かない。
  彼女にそれをもたらす可能性は、今目の前で、朽ち果てて転がっている。




【纏流子@キルラキル】
[状態]:左耳、頬に傷(浅い)、全身にダメージ(中)
[服装]:神衣純潔@キルラキル
[装備]:番傘@銀魂
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(19/20)、青カード(19/20) 、黒カード1枚(武器とは判断できない)
    黒カード:不明支給品1枚(回収品)、生命繊維の糸束@キルラキル、遠見の水晶球@Fate/Zero、花京院典明の不明支給品1~2枚
[思考・行動]
基本方針:全員殺して優勝する。最後には繭も殺す
   0:私が勝った。だから、この場所に興味はない。
   1:次に出会った時、皐月と鮮血、セイバーは必ず殺す。
   2:神威を一時的な協力者として利用する……が、今は会いたくない。
   3:消える奴(ヴァニラ)は手の出しようがないので一旦放置。だが、次に会ったら絶対殺す。
[備考]
※少なくとも、鮮血を着用した皐月と決闘する前からの参戦です。
※DIOおよび各スタンド使いに関する最低限の情報を入手しました。
※満艦飾マコと自分に関する記憶が完全に戻りました。


※キャスターの右腕は、腕輪が付いたままで放置されています。
※テーザー銃@現実、リタの魔導書@神撃のバハムート GENESISは暗黒空間に飲み込まれました。


支給品説明
【テーザー銃@現実】
 ヴァニラ・アイスに支給。
 暴徒鎮圧用に使う非殺傷武器で、引き金を引くと電極を射出し、そこから電流を流す。


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133:色即絶空空即絶色-Dead end Strayed-(前編) ファバロ・レオーネ 155:EXiSTENCE
133:色即絶空空即絶色-Dead end Strayed-(前編) 神楽 155:EXiSTENCE
133:色即絶空空即絶色-Dead end Strayed-(前編) キャスター GAME OVER
133:色即絶空空即絶色-Dead end Strayed-(前編) ヴァニラ・アイス 146:退行/前進
133:色即絶空空即絶色-Dead end Strayed-(前編) 纏流子 143:キルラララ!! わるいひとにであった