女はそれを我慢できない ◆NiwQmtZOLQ

段々と明るくなり始めた空の下、一人の少女が街を彷徨っていた。
紅林遊月というその少女が探しているのは、桐間紗路というこれまた少女だった。
元々、彼女達は異なる世界にいた。
それは単純に世界が違う、という事ではない。紅林遊月と桐間紗路は、その身を投じる日常そのものに大きな隔たりがあって。
遊月の世界は、それ自体が他人を蹴落とす、それこそ殺し合いじみたバトルに身を投じていた日常。
シャロの世界は、殺し合いなど存在しない筈の、平凡でも穏やかな日常。
そんな中で、自分が自分の都合しか考えていなかったせいで、大きく傷付けてしまったかもしれない少女。
彼女に謝り、二人でラビットハウスに戻る。そして、チノとシャロの間で元々あった蟠りを解いて貰う。
そうすれば、シャロは普通の───平穏な日常を、僅かでも取り戻す事が出来るのだから。
少しでも贖罪が叶うのであれば、せめてそれくらいはしなくてはいけない。
そう思いながら、遊月はシャロを探していたのだが。

「…いないなあ」

H-7からH-6へ移る境界の辺りで、遊月は溜息を吐く。
まずはラビットハウスを出てその周辺を探し、その次には右回りの方向に大きく円を描くように進みながら歩いたのだが、一向にその姿が見当たらないのだ。
そもそもシャロの支給品は定晴だ。通常の人間より遙かに勝る速度で駆け回る超大型犬に乗っているのだから、シャロはとうに先回りして目的地に着いている筈だった。少々迷ってしまったとしても、彼女がラビットハウスを目指していたなら、とうに辿り着いていると考えていい。
なのに、彼女はいなかった。
ここから考えられる可能性は二つ。
一つは、こことは違う方向を目指したという可能性。先程のドッグフードだけで定晴が素直に言う事を聞くようになったとは限らないし、そうなってしまえばシャロに止める術はないだろう。一つあるとすればカードの中に戻す事だが、先程散々それを嫌がっていた彼女がするかと言われれば首を傾げざるを得ない。
そして、もう一つ。
単純に、何らかの理由でここへと来る事が阻まれたという可能性。
途中で殺し合いに乗った人間や、そうでなくとも危険な人物に遭遇した為に、ラビットハウスに向かえなくなった場合。
最悪の場合、シャロは───

「…考えちゃダメだ」

頭に浮かんだ嫌な想像を振り払い、ポジティブな思考に切り替える。
そもそも自分が何の障害もなく辿り着けた以上、そんな危険人物が道中に現れた可能性は低い。
移動したという可能性も勿論あるが、定晴の暴れん坊っぷりを見ている遊月としては、あの犬が暴走してどこかへ行ってしまったと考える方が納得も出来るし、何より楽だった。

「…よし」

そうとなれば、シャロが何処へ行ったのかを考えるべきだろう。
先程別れたのがF-5。どちらにせよ、北上した方が遭遇する確率が高いと考えていいだろう。
そこからの移動だが───こればっかりは絞りようがない。
こうなれば、後は足で探すしかない。だが、かといってあてもなく探していては見つかるものも見つからないだろう。

「駅、行ってみよう」

だから、まずは情報を集める。
シャロが乗っている定晴は、遠目に見ても簡単に分かるくらいの特徴となる。となれば、目撃した人間がいる可能性は高い。
その第一目標として、彼女は駅を目指す事にした。
ここから歩けば丁度放送くらいに到着出来るし、交通機関に乏しいこの島の中で移動手段としてはかなり優秀な部類に入る電車を利用しようとする客は少なくない筈だ。

「───そうだ、もう放送が近いんだった」

その事を改めて自覚し、せめてシャロやその友達、るう子が呼ばれないようにと願いながら遊月は再び足を進め始めた。

「…ふう」

暫く歩いて駅が見えてきた頃、遊月の腕輪からも放送が聞こえてきた。
禁止エリアというものの存在にも驚いたが、それよりも。

「よかったぁ…」

彼女の知り合いは、誰一人として呼ばれる事は無かった。
あの蒼井晶だとしても、こんなところで死んで欲しいとまでは思わないが、それを含めて全く呼ばれないというのは素直に安心するべきことだった。
けれど、遊月はそれと同時に不安も抱えつつあった。
十七人。
この殺し合いの参加者が七十人だから、実に二割以上もの死人が出ている事になる。
そしてそれは、殺し合いに乗っている人間も同程度いる筈だという結論が出る。
───早くシャロさんを見つけて、ラビットハウスに戻ろう。
その決意も新たに、遊月は駅へと向かっていく。
恐らく駅にいる人も、放送前に動くよりは放送後に動こうと考える筈。それなら、次の電車を待っている人間はきっといる───

「と、思ったんだけどね…」

───なんてことがない辺り、現実は非情である。
駅の構造は、いつも彼女が使用している地下鉄のようなものではなく、いかにも田舎のローカル線のものといった感じで、休むにも適している作りだった。
ホームや改札も一目で見渡せる為に、人が居ない事は一目で分かった。
最後の希望として調べてみた反対側のホームの立ち食い蕎麦屋も調べてみたが、結局誰一人として他の参加者を見つかる事は無かった。

「ゲームに乗った人がいなかっただけ、いいと思うか…」

見つからなかったものはしょうがない。
そうなれば次は電車を待つか、はたまた映画館など他の施設に行ってみるか、などと遊月が考えていた時。

「ねえねえお姉さん、ちょっといーい?」

ふと、声が聞こえた。
突然の声に驚いて振り返ってみると、金髪の小柄な少女が立っている。

「ああ、驚かせちゃった?ごめんなさい。私、針目縫っていうんだ。
貴女、この殺し合いの参加者でしょ?ちょっと話を聞きたいんだけど、いいかな?」

そう言って微笑む少女の姿は天真爛漫といった感じで、素直に好感が持てる───訳では無かった。少なくとも、遊月の感覚では。
確かに見た目はただの少女そのものだが、出てくるまで全く気配を感じられなかったという事や、そもそもこの殺し合いという場の中でここまで明るいという事実そのものが、この針目縫という少女から何処か危険な匂いを感じさせている。
例えるなら、それこそ蒼井晶だ───見た目は可愛く取り繕っていても、その内側に何かが隠されているといった感覚。

「…私は、遊月。紅林遊月」
「へえ、よろしくね!
あ、それじゃあここで話すのも何だし、近くの…そうだ、映画館にでも行かない?」

得体の知れなさを感じつつも挨拶した遊月に、縫は満面の笑みを崩さないまま。
だが、かといって無碍にする訳にもいかず───結論として、二人は映画館へと向かう事となった。

映画館への道程は、大して時間がかかるようなものではなかった。
入り口に落ちていた、丁度二本あった清涼飲料水を拾わせていただき───隣にあった明らかに禍々しい漆黒の物体は敢えてスルーして───二人は中に入る。
中は特に何の変哲もない映画館といった感じで、そこそこ広いロビーには売店や受付があり、奥のシアターホールは特に何を映すでもなく静謐に保たれていた。
人が居ないか入念に確かめた後に売店を改めて調べてみると、意外にもポップコーンやナチョスが残っていた。酒やタバコも残っていた辺り、嗜好品くらいは案外置いてあるのかもしれない。

「カードを使わないで飲み物も食べ物も手に入った…っていうのは、運がいいのかな」
「そうだねーっ、と。うんうん、節約は大事」

食べられるものを拝借し、ホールで朝食代わりに食べ始める。
その食べている表情自体には、特におかしい点は見受けられない。
あんまり用心深すぎるのも問題だったかな、なんて思いながらナチョスを齧っていると、唐突に縫が話しかけてきた。

「ねーねー遊月ちゃん」
「ちゃ、ちゃん付けなんだ…まあいいや。どうしたの?」
「ちょっと聞きたいんだけどさ、遊月ちゃんは今までこの殺し合いでどんな人と会ったーとか、どんな人と話したーとか教えてくれない?」

やけにフレンドリーな口ぶりの彼女の口から出たのは、意外にも現実的な疑問だった。…いや、意外にもと言うのは失礼かもしれないが。
小学生───いや、ギリギリ中学生であろうこの少女もまた、もしかしたらこの殺し合いに呼ばれるような理由が、何となくそこにありそうな気がした。
どちらにしろこちらもそれを聞きたかったので、まずは自分から話すのもいいだろう。

「分かった、話すよ。
まず、私が最初に出会ったのは───」

シャロと出会ったこと、そこからラビットハウスに向かったこと。そしてその会話の内容について、かいつまんで語る。
縫もたまにリアクションをする程度で、しっかりと話を聞いていた。
まるで、全てしっかりと暗記しようとしているかのように───

「ふーん、なるほどー。
ボクは西から来たんだけど、生憎誰とも会えて無いんだよね」
「あ、そうなんだ」

一方の縫は、海沿いを辿って来たものの特に何かある訳でもなく駅へ辿り着き、そこで遊月を見つけ、初めての遭遇者に声を掛けてみたという事らしい。

「にしては、全く気配とか感じなかったけどね」
「こう見えてもボク、強いんだから。気配を消すなんてへっちゃらだよー」

それに、その時点では遊月ちゃんが乗ってるかどうか分からなかったからね、と付け足す縫。
なるほど、と遊月が納得したところで、縫は更に口を開いてきた。

「それでね?さっきも言った通り、ボクは強いんだ。だから、繭を絶対に倒してやりたいんだ」

その時の一瞬、再び遊月はその不気味さを感じ取った。
今の発言から感じられた苛立ちに───何か、とても悍ましい気配を感じたから。
そして、その次の縫の台詞もまた、遊月を更に混乱させるに足るものだった。

「だからさ、お願い。繭が言ってる、魂とかについて…心当たりがあれば、教えてくれないかな?」
「…そんな、いきなり魂って言われても…」

咄嗟には出てこない。
当たり前だ───彼女は平成の日本に住むただの少女。
科学技術が発展している世界では、魂の存在を信じる人間こそ少数。
無論、この殺し合いに招かれ、繭の所業を見た後では存在自体の否定は出来ないが、かといっていきなりその具体例を示せと言われれば困惑するしか他にない。

「やっぱり、ない?
何だかそういう、スピリチュアルなものなら何でもいいからさ」

縫に催促され、遊月は唸りながら考える。
スピリチュアルなもの。非科学的なもの。現実的ではないもの。
そんなもの、一般人である自分に心当たりなんて───

「あ」

ある。
すぐさま黒カードを取り出し、そこからブルーアプリのデッキを取り出す。
そして、その蓋を開けて、ルリグであるピルルクを取り出した。

「これ、ウィクロスのデッキなんだけどさ。聞いたことない?ルリグが動き出すっていう噂」

取り出したピルルクを、縫からよく見えるように置く。
尚も話を続けようとした遊月だが、ふと縫の顔を見てその口を止めた。
縫が、何故だかとても険しい顔をしていたからだ。
だが、すぐに元の和かな表情に戻ると、「うん、それでそれで?」と催促してきた。

「…そっか。じゃあ、話を続けるけど。
その噂、本当って言ったら…どうする?」

縫への違和感を抱きつつも、遊月はセレクターバトルについての説明をした。
セレクターと呼ばれる、ルリグに選ばれた少女達がウィクロスで戦うこと、三回勝利して夢幻少女という存在になれば願いが叶うこと。そして、反対に三回負ければその願いが「反転」することも。

「もし縫にもセレクターの適正があれば、このルリグ───ピルルクが寝ているように見える筈なんだけど…どうしたの?」

そう締め括り、話を終える。
縫は暫く考え込んでいるようで、険しい顔に戻っていたが、説明が終わると改めて笑顔へと変わった。

「うん、大丈夫だよ。
確かに、私にも寝てるように見える…けど」

カードを覗き込んだ縫は、暫くカードを眺めた後。

「これって、本当にセレクターにしか動いてるように見えないのかな?」

そんな事を、言い出した。

「え?いや、勿論でしょ。
そんな事があったら、もっと話題に───」
「いや、そうじゃなくて。わざわざ殺し合いの支給品として配られたのに、特定の人しかその言葉を聞けないのは変じゃないかな?」

その言葉に、あっ、と思わず声が出た。

確かに、私が偶然セレクターだっただけで。
例えば花代さんやタマが他の人に支給されていたら、それはただのカードゲームの紙切れだ。
折角支給品として用意したのに、もし捨てられでもしたら勿体無いどころの話ではない。
それに、ピルルクと同じようにアーツが使えるルリグもいる筈なのに、それを伝えようがないのでは弊害も出てこよう。
となると。

「じゃあ、もしかしたら他の人にも」
「うん、動いてるのは見えると思うよ?」

なるほど、と納得する。
尤も、今の問題の焦点はそこでは無いのだが。

「…でも、魂っていうのはどうなんだろうね。ルリグに魂がある…でも、そもそも魂って何なんだっていう話だし」
「うん、あるんじゃない?」
「そうだよね………って、え?」

なんとなしに零した言葉に、縫が軽く言葉を返した。
呆然とした様子で聞き返した遊月に、縫が説明するように話してくる。

「だって、カードに入った魂って、そのまんまこの白カードに当てはまるでしょ?それに、夢を叶えるっていうのもそのまんまじゃない」
「…言われてみれば」

そうだ、そのままだ。
セレクターバトルを殺し合いじみた、と例えたのは、それじゃあ案外間違ってはいないのか。
あの戦いが、更に残酷に先鋭化されたのが、この殺し合い。
それもその筈。今の遊月は知る由も無いが、そもそもセレクターバトルを作った張本人が、この殺し合いの管理者たる繭なのだから。

「…待って。という事は、ルリグってもしかして…」

そこで、遊月は思い当たる。
ならばルリグとは、少女の魂そのものなのではないか。
カードに囚われた少女───それこそが、ルリグなのではないか。

「ピルルクが起きたら、聞いてみないとなあ…」

明らかになった、想像もしていなかった事実の連続に圧倒され、遊月は溜息を吐き天井を仰ぐ。
ともあれ、この発見は大きな進歩になるかもしれない。そうなれば、よりこの話は広めていくべきだろう。
だが、少々長居をし過ぎたかもしれない。早くシャロを探しに行きたいという気持ちが、遊月の中で大きくなっていた。
彼女は立ち上がると、大きく伸びを一つ。そして、縫の方を向き───

「縫、ありがとう。
それじゃあ、そろそろ私は行くよ。ラビットハウスは安全だから、困ったらそこに行くといいよ」





「あはは、ダメだよ?遊月ちゃん」





え、と思った時には遅かった。
どこから取り出されたのか、紫に鈍く輝く刃が首筋に当てられていた。
そして、それを持つ縫は。


「だって貴女は、ここにいてもらわなきゃいけないんだから」


満面の、悍ましい笑みを浮かべて、そう言った。

「ぬ、縫…?」
「なーに?遊月ちゃん」

遊月の震える声に、あくまで笑顔を崩さない縫。
それで、遊月にも分かった。
彼女は最初から、自分を狙っていたのだという事を。
その事を自覚し───恐怖で、舌が上手く回らなくなる。

「もう、遊月ちゃんったら。何が言いたいのか分からないよ?」

おどけるようにそう言いながら、縫はその体を赤い繭に包む。
その繭が割れ、その中から出てきたのは、それまでと同じ衣装を纏いながらも雰囲気が全く異なる少女。

「ふふーん、やっぱりボクにはこの姿が一番似合ってるね。遊月ちゃんもそう思わない?」

声すらも変化したようで、それまでとは全く違う声でかけられたその質問に、それでも遊月は答えられなかった。
嫌な予感が的中したという焦燥、話をしてしまった皆が危機に陥ってしまうのではないかという危惧、そして何より目の前に突き付けられた『死』への恐怖。
それらは遊月から自由を奪うには充分過ぎる程であり、ともすればこのまま失神すらしてしまいそうな気さえする。
そんな遊月を可笑しそうに眺めながら、縫は彼女にその顔を近づける。

「あはっ、そんなに心配してもらわなくても大丈夫だよ?
ボクにとっても遊月ちゃんに死んでもらっちゃ困るワケだし───まあ」

カラン。
ハサミがホールの床に当たる音が、やけに大きく響いているように感じる。

「もし抵抗するっていうなら───その足、切っちゃうけど?
ああ、抵抗しなくても無駄な動きをしないように切っちゃった方がいいのかな?」

何でもないように針目縫は言う。
それが当然で普遍の原理であるかのように針目縫は言う。
そして、それがあまりにも恐ろしくて───紅林遊月は、ただ震えながら従うことを選んでいた。
否、選ばざるを得ないのだ。
彼女が何をしようと───今この時点で、この場所から、針目縫から無事に逃げ出す術など存在すらしていないのだから。

「…分かった。大人しく、捕まるよ」

辛うじて回った舌で、遊月は縫にそう言った。
縫もまた、満足そうにその言葉を受け入れ───




「うん、悪くないや」

数分後。
紅林遊月へと再びその姿を変えた縫は、トイレの鏡の前で呟いた。
先程とは違い、髪型もしっかり同じに揃え、服装も本人の物を着ている。
これまでの会話で、遊月の会話のクセも大体理解した。ある程度の人物像や人間関係も掴めたし、彼女の演技力を以ってすれば少なくともこの殺し合いで初めて出会った相手くらいなら『紅林遊月』を演じ切るのは容易い事。
恐らく問題になるのは、唯一の友達であるという小湊るう子だが───都合のいいことに、今現在は不仲であるらしい。それを理由に逃げ出せば、出会ってからも深い接触を回避出来る。
総じて言えば、この見た目は中々都合のいい部類に入るだろう。

「ありがとう、遊月ちゃん。あなたの姿、使わせてもらうね?」

そう捨て台詞を残し、縫は女子トイレから出て行く。
その背を追うような声はせず───彼女自身もまた、それを分かっているように振り返る事などせず。


得るものは得られた───そう針目縫は判断していた。
演技はしっかり騙せて及第点、成果も有力な情報と人望もそこそこな身分。
途中のカードゲームについては全く知らず焦ったが、適当に話を合わせておいて正解だった。
ホールに戻った縫は、地図を広げこれからの行き先を考える。
元々駅から映画館に移ったのは遊月の姿を奪う為。多くの乗降者が利用すると考えられる駅に戻っても何の問題も無い。
それ以外にも、この周辺には様々な施設が点在しており、人を探すのには中々向いていそうだ。唯一避けたいのはラビットハウスか。既に遊月が一度訪ねており、その折に話をしていたらしいから、万一細かい話になればバレるリスクが若干伴う。

「ねえ、ピルルクちゃんはどう思う?」
「…別に、好きなところで良いんじゃあないの?」

軽い調子で、彼女が今は右手に持つピルルクに話しかける。
何時の間に起きていたのか、あくまでカードとしてポーカーフェイスに徹するピルルクに対し、縫が浮かべるのは愉しげな笑顔。
このカードの仕組みは、先にも考えた通りこの白いカードと酷似している部分が多い。
或いはこれが、一つの突破口となる可能性もある───

「あなたが知ってる事、後で色々聞かせてもらおっかなー。ね、ピルルクちゃん?」

暗い映画館を出て、新たに上った太陽の下。
縫が───いや、『紅林遊月』が歩き始める。
あくまで彼女自身とその主たる鬼龍院羅暁の為だけに、この世界から脱出を図る生命繊維の化け物が。

【G-5/映画館外/朝】

【針目縫@キルラキル】
[状態]:紅林遊月にそっくりな女の子に変身中、繭への苛立ち
[服装]:紅林遊月の普段着
[装備]:片太刀バサミ@キルラキル、ブルーアプリ(ピルルクのカードデッキ)@selector infected WIXOSS
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(18/18)、青カード(20/20)、黒カード:不明支給品0~1(紅林遊月が確認済み)、歩狩汗@銀魂×2
[思考・行動]
基本方針:神羅纐纈を完成させるため、元の世界へ何としても帰還する。その過程(戦闘、殺人など)を楽しむ。
0:駅、ゲームセンター、万事屋。何処にしようかな♪
1:腕輪を外して、制限を解きたい。その為に利用できる参加者を探す。
2:何勝手な真似してくれてるのかなあ、あの女の子(繭)。
3:流子ちゃんのことは残念だけど、神羅纐纈を完成させられるのはボクだけだもん。仕方ないよね♪
[備考]
※流子が純潔を着用してから、腕を切り落とされるまでの間からの参戦です。
※流子は鮮血ではなく純潔を着用していると思っています。
※再生能力に制限が加えられています。
 傷の治りが全体的に遅くなっており、また、即死するような攻撃を加えられた場合は治癒が追いつかずに死亡します。
※変身能力の使用中は身体能力が低下します。度合いは後の書き手さんにお任せします。
※分身能力の制限がどうかは、後の書き手さんへお任せします。
※紅林遊月そっくりな女の子に変身しています。
※ピルルクの「ピーピング・アナライズ」は(何らかの魔力供給を受けない限り)チャージするのに3時間かかります




「───ッ、─────ンッ」

映画館の女子トイレ、その用具入れ。
そこに、紅林遊月は囚われていた。
結局、痛みに慣れていない遊月がショック死する事を警戒したのか、彼女の腕と足はしっかりと縛られているだけだったが、その口は縫によって縫い合わされている。
大きく暴れれば、トイレの中くらいまではその存在を示せるが、流石にトイレの外まではその音は届かない。
更には内側から掃除用具でバリケードが築かれ、縫が上の隙間から出ていった後からその上も何かで塞がれてしまっていた。
光源も無く、暗闇の中に閉ざされた遊月は───しかし。

(……よし、もう行ったかな)

しかし、彼女もまだ諦めてはいなかった。
体を思い切り反らし、手探りで右足の親指を掴もうとする。
狭い用具入れの中では中々上手くいかず、暫く悪戦苦闘を繰り広げたが、何とかその爪を摘む事に成功する。
普通の爪に偽装された付け爪が剥がれ、その下に再び付け爪が現れた。
それは、超硬化生命繊維で作られた鬼龍院皐月の隠し武器。
最初の支給品確認の際に念の為着けておいた、羅暁ですら悟れなかったその武器を縫が発見する事もまた無く。
カードの類は全て没収されたものの、これと令呪だけは何とか隠し通す事が出来た。
付け爪を手に取り、後手で試みる事数分───何とかその手を解放する。
腕の拘束が解けてしまえば、残りを処理するのは楽な作業だった。
全ての拘束を取り払い、バリケードを撤去して用具入れの外に出る。

(まんまと騙された、か…)

歯噛みする。
薄々気付いていた危険性を安易に見逃して、情報を教えてしまった事への後悔が、今更になって押し寄せてくる。
しかし、縫に対する対処の方法はまだ存在する。
そもそも彼女が欲しかったのは魂やそれに類する情報、そして紅林遊月という容姿。
前者については広まって問題になる訳でもなく、むしろプラスになる可能性すらあるのだから特に問題はない。
そして、大きな問題である後者については。
だがこれも、自分が自由になった時点で、その計画は大きく狂ったと言ってもいい。
確かに会話について話はしたが、例えば定晴のドッグフードの件や令呪を渡された事について、といった細かい話は彼女にはしていない。
もし知り合いに接触されても、そこさえ証明出来れば自分が本物であると理解出来る筈。
もしるう子なら、元の世界で共通の友人であった一衣の話をすればいい筈だ。

「───でも」

胸に手を当てる。
縫の顔を思い浮かべれば、すぐに思い出せる。





あの、『死』の感覚。

「ッ!」

考えちゃダメだ、と首を振る。
どうあれこうやって自由になった以上、外に出て縫と出会えば、今度こそ足を切られて動けなくされるだろう。
だが、こうやって捕まっているだけでは。
遊月に話し掛けてきたその目的のうち、一つはもう遊月の姿を借りるという姿で達成されたのだ。
となれば、彼女が求めるもう一つ、魂についての質問に答えられない人間は、縫にとっては必要の無い人間。
そして、彼女が必要の無い人間を前に、どうするかを考えれば───自ずと導き出される、最悪の可能性。

「ダメだ、ダメだダメだダメだ───ッ!」

るう子もシャロもチノも蛍も、そんな目に合わせる訳にはいかない。
承太郎さんなら彼女にも勝てるかもしれないが、チノや蛍を守りながらではどうなるか分からない。
だから、そうなる前に───

「どうにかして、止める…!」

勝算どころか、もう一度あの姿を見ただけで足が竦んでしまうだろうという事は自覚している。
けれど、それでも。
今『紅林遊月』が『針目縫』である事を知っているのは、自分だけなのだから。
───彼女の世界が運命の通り進んだならば、彼女は孤独の部屋に閉じ込められていた筈だった。
───けれどそれでも、友達がいたから、今そこにいる友達の為に恐怖を殺す事が彼女には出来た。
───そして、友達と、謝らなければならない人達の為に、歪められた運命の中でも彼女は恐怖を乗り越える。
まずは服を調達しないとな、なんて思いながら、紅林遊月もまた進み始める。

【G-5/映画館・女子トイレ/午前】

【紅林遊月@selector infected WIXOSS】
[状態]:口元に縫い合わされた跡、決意
[服装]:全裸
[装備]:令呪(残り3画)@Fate/Zero、超硬化生命繊維の付け爪@キルラキル
[道具]:腕輪と白カード
[思考・行動]
基本方針:叶えたい願いはあるけれど、殺し合いはしたくない
0:死ぬのは怖い…けど、縫をどうにかしないと。
1:シャロを探し、謝る。 そしてラビットハウスに戻る。
2:何かあった場合もラビットハウスに戻る。
3:るう子には会いたいけど、友達をやめたこともあるので分からない…。
4:蒼井晶、衛宮切嗣、折原臨也を警戒。
[備考]
※参戦時期は「selector infected WIXOSS」の8話、夢幻少女になる以前です

【超硬化生命繊維の付け爪@キルラキル】
皐月が仕込み武器として右足の親指に装着している付け爪。普通の爪に見せかける為の付け爪もセット。
縛斬や断ち切りバサミと同じく超硬化生命繊維で作られており、斬れ味もさる事ながら生命繊維の切断も可能。


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081:夜と朝の間に 針目縫 111:和を以て尊しと為す(下)
058:スマイルメーカー 紅林遊月 116:Mission: Impossible

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最終更新:2016年02月05日 00:41