貴方に穏々日和(やわ)らぐ ◆7fqukHNUPM


『ここまでで17人、素晴らしいペースよ。余程叶えたい願いがあるのね。
でも、無理をして自分が死んでしまったらそこまでよ。それだけは承知しておきなさい。
それじゃあ、これで放送を終了するわ。次は正午、また私の声が聞けるといいわね』

その声が終わって。
世界から、音が消えた。

朝の小鳥が囀る声も。
朝風が、街路樹を揺らす音も。
朝の陽ざしが街を明るくしていく、きらきらとした気配(おと)も。

その放送があることは、皆が知っていたのに。
その放送で『名前を呼ばれる』かもしれないことを、知っていたのに。

誰もが、沈黙を守ってしまった。
次に口を開いてしまえば、その喪失を言葉にしてしまえば、何かが終わる。
そんな暗黙の了解でもあるかのようだった。

いや、違う。
暗黙の了解は、あるのだ。
少なくとも、『仲間や友人の死』という大きな壁を前にした、少女たちにとっては。

しかし、その了解を分かっていてなお破る者はいる。
それも当然だ。
彼女たちは、その喪失を認めたくないけれど、だれかに『分かってほしい』とも思っているのだから。



「ヴィヴィオ?」



最初に名前を呼んだのは、コロナ・ティミルだった。



「樹ちゃん……」



連鎖するように、結城友奈が呟く。



「にこ……それに、」



絢瀬絵里が震える声を詰まらせて、



「南ことりと、満艦飾マコ」



鬼龍院さつきがそう引き継いで、瞑目した。



桂小太郎は、何も言わなかった。
ただ、いくつかの名前が呼ばれてから、目を見開いてじっと坂田銀時の方を注視していた。
だから、彼らもまた喪ったことを、皆が理解した。



呼ばれた名前が、波紋のように空気を伝わって。
しかし、その中で一人だけ口をつぐむ少女もいた。
誰にも聞こえないように、口だけを動かす。



「ダメなのん……」



何がどうダメなのかは、分からない。
けれど、彼女だけは、呼ばれてしまった名前を、口にしたくはなかった。
皆に『宮内れんげはこういう名前の友達を喪ったのだ』と、知られたくなかった。
幼い彼女だけが知られたくないと思い、そして幼い彼女にはその理由がわからない。

しかし、破られてしまった暗黙の了解を、維持しようとする者はいなかった。
その場にいる全員に向かって、鬼龍院皐月が呼びかけようとする。
それもまた当然だ。
彼女はそれまでその場を率いてきた。
そして、ここにいる7人が潰れてしまうほど弱くないことを知っているのだから。

「数多くの、名前が呼ばれてしまったな」

そう切り出して、その場をまとめる言葉をかけようとする。

しかし。
れんげの体は、なぜかその言葉に恐怖するように、びくりと震えた。
皐月の言葉は難しくて、分からないことも多いけれど。
でも、分かる。
それは、きっと皆の心をひとつにするための言葉だ。
これから言われるのは、『みんなつらかったね』という意味合いの、分かりあおうとする、まとめるための言葉だ。

「皆、それぞれにかけがえのない者を喪ったのだと思う――」

やはり、その予感はあたっていて。
それは、名前が呼ばれたことを、『過去』にしようとする言葉。
『それぞれに名前が呼ばれたもの』の中には、あんりんがいて、コマちゃんもいる。
十七人ぐらいの人間の名前といっしょに、ひとまとめに一緒くたに、中に入っている。
『みんなおなじようにかなしいんだから』になって、あんりんと一番いっしょにいたのは宮内れんげで、七人の中でこまちゃんのことをよく知っているのはれんげだけで、『みんなかなしかったけど、がんばりましょう』じゃないの、かなしいけど、そうじゃないの、皆かなしいの知ってるけど、そうじゃないの、『がんばりましょう』っていったら、終わっちゃうのん――



「違うのん!!」



自分でもちょっとびっくりするぐらいの、大きな声が出た。
全員がびっくりして、れんげの方を見る。
注目されている。そのことが、幼い少女にとってはさらなる興奮材料になった。

「それ言ったら、ダメなのん! こまちゃんが死んだこと、遠くにやっちゃダメなん!!」

己にとっても、支離滅裂な叫び。
でも、それ以上の言葉が思いつかない。
なので、ばっと身をひるがえし、後ろを向いてダッシュ。
ここは市街地なのである。隣を見れば、駆け込むのにもってこいの民家がある。
今の自分を、どんな顔をしているのかを、誰にも見られたくない。
理由もわからないけれど、れんげはそう感じた。
その家は、まるで田舎のように鍵がかかっていなかった。
ばたむ、とドアを開けて、ばたばたとひきこもる。

「「れんげちゃん!?」」

大声の衝撃がさめやらぬまま、コロナ・ティミルと結城友奈は当然に心配した。
とっさにあとを追いかけようとするが、



「止めることないんじゃねぇの」



大人の男性の声が、ばっさりとそれを止めた。
なんと、そいつはよりにもよって鼻くそを、ほじっていた。


□ □ □


ほてほてと家の中を歩き、二階へとあがり、ガラガラと窓を開ける。
通りに面した窓とは反対側の窓で、広いベランダがあった。
なんとなくひきこもりたい、バツの悪い心境の少女は、そこをすわり場所として選択する。
窓がらすから横を向いて、体育すわりのように丸くなって。



宮内れんげは、聡明な少女である。
だから、園原杏里が無惨に殺害されるところを見ても、これが『死』なのだと理解できていた。
だから、その残酷な光景を見せつけられても、皆を助けるためには何ができるのかを、考えることができた。
だから、強くなろうとしていた。

だから、自分の言っていることがいわゆるワガママだとか八つ当たりだとか駄々だとか、あるいは空気読めてないとか、皐月のような表現をすれば『士気にかかわる』とか、そう言われる類のものであることも理解している。
でも、仕方ない。
いくら賢かろうとも強かろうとも、小学一年の、子どもなのだから。
子どもとは、わがままを言うものなのだから。
彼女はあまりわがままを言わない子どもではあったけれど、それでも、有り余る感情を処理しきれるほど、成熟してはいないのだから。

越谷小鞠の名前が呼ばれた。
園原杏里が死んだことを、改めて思い出した。

悲しい。つらい。苦しい。さびしい。
どうしようもなく、心がからっぽ。
でもそれは、誰だってそうだ。ほかの六人だってそうだ。それは皆だって同じことだ。

でも、名前を呼ばれたということは、皆が死んだ夜が明けたということで。
今日は、こまちゃんがいなくなってからの新しい一日で、
明日がくれば、この悲しい夜がもっと遠くに行って。
『悲しいけどがんばろうね』と言ってしまったら、死んだ人たちはもっと遠くに行って。
いつか、あんりんやこまちゃんを置き去りにして、皆が先に進んで行って、気にしなくなって。
それが、ひどく悪いことみたいで。
とても怖いことみたいで、心があふれそうになって。

こんなことを考えるのは、ウチだけらしいと気づく。
みんなれんげよりお姉さんやおじさんだから、きっと『出会って別れて』をたくさん知っているのだろう。
『別れる』ことをたくさん経験して、そういうものだと慣れてしまったのかもしれない。
れんげだけの、わがままだと分かっているけれど、それでも、やりきれなかった。

さびしくて、カードからコロッケのタッパーを出してしまう。
本当は、ごはんの後でおやつを食べるのがよくないことも知っているけれど、今はなんとなく、やさぐれたれんちょんだから。
コロッケをもう一個、ぱくり。
それは、じゃがいもや合いびき肉のコロッケではなかった。
たぶん、×××の肉と〇〇〇の皮と◆◆◆の骨と■■■の果肉と、あと●●●の卵とか、他にもたくさんのものを、みんな一緒にぐちゃぐちゃにした、そんなコロッケだと、推測することができる。
れんげは、まだミルクしか飲めないような乳幼児のころにカレーを口にしても(しかもそれが『カレーのおひめさま』な幼児向けカレーではなく小学生中学生の食べる給食用カレーでも)、その美味しさを堪能して喜べるほどの味覚を持っているのだから、それぐらいのことは。

魔法の才能が、人に分からないものを理解したり感じたりすることだというのなら、これだってもしかして『才能』になるのだろうか。

でも、このコロッケの隠し味はこれだと、わざわざ断言してしまうのも野暮になるから、れんげは何も言わない。
『なんだかわからないもの』だけど、みんな『なんだかわからないもの』だと知っている。
それでいい。
でも。
越谷兄姉妹のこまちゃんが死んだというのは、分かっているのに、分からない。
死ぬことは、よく分かる。
田舎に暮らしていれば、どうしたって分かるものだから。
毎年、夏の終わり頃に転がっているセミの死体。
地面の下に埋めた、ひらたいらさんたち。
夏に飼うとすぐに弱ってしまう、川かにのお塩。

でも、それが人間だったら、友達だったら、どうすればいい?

「お嬢さん、場所借りるぜ」

のんべんだらりとした大人の声が聞こえて、窓が開けられた。
知っている大人だ。
銀さんと呼ばれている、大人なのに何だかあんまり大人っぽくない大人。

見つけられた緊張で、れんげの背中が震える。
叱られるかもしれないし、踏み込まれるかもしれないから。
しかし彼は、それ以上の言葉をかけなかった。
その大人がどっかと腰を下ろしたのは、れんげの後ろだ。
大きな背中と小さな背中の、背中合わせ。
二階のベランダ。
空と地面は遠く、人と人は近く。

言葉どおり、場所を借りに来ただけ。

「銀さん、何しにきたん?」
「お嬢さんと一緒だよ」

男は、それだけを答えた。
つまりそれは、この人も『身近な人が死んで』『その感情を誰とも分かち合いたくないから』ここに来たということか。

「大人でも?」
「大人だからさ」

れんげのコロッケに倣ったわけではないだろうが。
食べ物のカードから何かを出したらしく、何かを手に取る気配と、箸と茶碗が触れ合う音がした。
バクバクと咀嚼する音にまじり、愚痴が聞こえる。

「いつの間にか背負い込んで、いつの間にか家族だとか抜かして、いつの間にか同じ事件に巻き込まれて、いつの間にか救い出す羽目になって。
大人になると、『ああ、またか』って、慣れるより、うんざりしてくるのさ」

『誰とも分かち合いたくない』はずなのにしゃべっているのは、れんげが子どもだからかもしれない。

「……なんでまた万事屋なんつぅ仕事を始めたのかねぇ。また色んな人間を背負うことになるのは分かり切ってたのによ」
「よろずや?」
「何でも屋のことさ」
「よろずや」

発音が、なんとなく『駄菓子屋』に、似ていた。
だがしや、と、よろずや。それだけのこと。
だけど彼女は、『銀さん』よりも、そっちの方が呼びやすいなと思った。

「万事屋。万事屋。よろずやー」
「一回で聞こえるよ。どうした」
「万事屋は、何人だったのん?」

誰だった、とは聞かない。
聞いてしまえば、これこれこういう人を亡くしたと、説明させてしまうから。

「……三人だったよ」
「多いのんなぁ……大丈夫?」
「大丈夫じゃねえよぉ? 心はぽっかりだし、足は生まれたてのバンビだったし、何より今一番壊れてるのは舌だし」

壊れるほど何を食べてるんだろう、とちらりと後ろを向く。
銀時の左手には、白いご飯のお椀に、たっぷりとマヨネーズをかけたものがあった。
れんげでも、これには、うへえ、と顔をしかめる。

「たくさんお別れしたあとは、いつ大丈夫になるのん?」
「一日の終わりに飲む酒が、美味いと思えるようになった日からだろうな」
「子どもがお酒飲んだらダメなのん」
「そいつぁ心配いらねぇよ。お子様にはいちご牛乳っつーものがあるんだ」
「飲んだことないのん」
「マジでぇ? 最近のゆとり教育どうなってんの? あんなに食育に良い飲み物はないよ、いやほんと」
「嘘くさいのん。っていうかそのマヨネーズおいしいのん?」

お互いに、相手の顔は見ない。
それでよかった。それがよかった。
万事屋もきっと、大切な人を喪った自分の顔なんて、見られたくはないはずだから。

「まずい。そっちのコロッケは美味いの?」
「美味しいのん」
「そうか。いいねぇ」
「あんりんは、都会の池袋にも、こういうごちゃごちゃに焼く食べ物があるって言ってたのん。バクダン焼きって」
「そうかい」
「それから、お寿司屋もあるって言ってたのん。ロシアから来たアメリカのおじさんが、よく分からない国のおさかなを安く食べさせてくれるって言ってたのん」
「そうか」
「それから、あんりんにも、友達、いたのん。
 男の子の友達だって、二人いるって、言ってたのんなぁ」
「そーかい」
「万事屋、ちゃんと聞いてるのん?」
「聞ーてるよ」
「それから、こまちゃんは――」

気づけば、れんげは自然と、亡き友のことを話していた。
濡れた目元を、袖でごしごしとこすりながら。


□ □ □


その家の芝を敷いた庭には、コロナ・ティミルと結城友奈がいた。
今のれんげが近寄られたくないことは理解したけれど、
残された皆は皆で、ひと足先に立ち直っていましょう、というわけにもいかない。
彼女たちだってやっぱり『死んだのは悲しいけどがんばりましょう』で済むほど、喪ったものは軽くないから。
彼女たちにとっても、その友達は、大事だから。
それに、彼女たちも大人ではないから。
この悲しみは私だけの悲しみだとは理解しながらも、どこかで分かってほしいと、伝え合いたいと思っているから。



コロナ・ティミルは聡明な少女である。
だから、この殺し合いが始まった時にも、自分ことと、皆のことをよくよく考えた。
だから、これが格闘技ではない本物の『殺し合い』なのだと認識してもなお、だれかと熱い拳を交わすためではなく、巨悪を『倒す』ための戦いをするのだと決意していた。
だから、皆を殺そうとする強大な吸血鬼相手にも逃げ出すことなく、リスクのある拳を容赦なく振るうことができた。
だから、本物の戦場を駆け抜けてきた侍からも、ともに戦うにふさわしい仲間だと認められた。

だが、しかし。
彼女は、友人である高町ヴィヴィオのように、人の命や生き方が懸かった『事件』を経験して育つことはなかった。
彼女は、師匠であるノーヴェやその姉のスバル、そして彼女たちの上司であり前世代からのエースオブエースである高町なのはや元機動六課のメンバーのように、エゴや利害が衝突するし命も失われるような『悲劇』に居合わせることなく生きてきた。
平和な時代に生まれて、普通に学校に通い、同年代の少女たちと同じく授業を受けて、放課後には命の遣り取りではない『競技』としての戦い方を習得してきた。
彼女は、命の現場に立つのも、事件らしい事件を経験するのもこれが初めてなら、
当たり前の『日常』が崩壊していくことにも、まるで耐性がなかった。

「ヴィヴィオがいて、リオがいて、アインハルトさんがいて……それが、当たり前なんだと思ってました。
 でも、違ってた……当たり前じゃないことを、知ってたはずなのに」

結城友奈と、そしていつもそばにいる魔導器ブランゼルを前にして、
聞いてくれる誰かがいるという事実に甘えて、思い出を語っていく。

「ヴィヴィオから、お母さんの大変なお仕事の話とか、聞いたことがあります。皆が訓練するところも見てます。
アインハルトさんと会ってから、戦争をしてた時代のことも、勉強しました。
だから、平和って当たり前のものじゃないって、分かってたつもりで……分かってなかった」

コロナと友奈は、これがほとんど初対面に近い関係だ。
それでも、放送で呼ばれた友人の名前をそれぞれ呼んだことで、お互いが『日常』の誰かを失ったことを知っている。

「きっと、私たちの世界では、どこかで平和のために戦ってくれる人達がいて、そのおかげで私たちは幸せだったんです。
 さっきヴィヴィオが死んだって聞いて、まだ信じられなくて……。
でも、今まで私たちがどれだけ幸せだったのか、守られてたのか、こうなるまで、考えもしなかった!」
「コロナちゃん……」

ブランゼルを、突起が手に食い込まんばかりに強く握り締めている。
それを黙って見ていられず、友奈は駆け寄り、手をにぎってその指をはずした。
代わりに握手するように、ぎゅっと。

「格闘技(ストライク・アーツ)には、ヴィヴィオが誘ってくれたんです」

己の拳を見つめ、コロナはくしゃりと顔を歪める。

「練習した技がきれいに打てた時も、皆で泳ぎながら練習した時も、楽しかったんです。
ネフィリムフィストって言って、身体が動かなくなっても動かせるような魔法も、色んなことを、勉強できたんです」

友奈は、いっしょに悲しそうな顔をしてくれている。

「でも、ヴィヴィオは、もう、身体を動かせないんですよね……」

それを聞いて、友奈もまた耐えるように目を閉じる。
そして、語り始めた。

ともすれば、唐突な話題の転換に聞こえることを。

「私の親友にね……足が動かなくて、車椅子に乗ってる子がいるの。
その子でも、そんなふうに魔法を使えたら、足が動くようになったかな?」
「なりますよ……ネフィリムフィストなら、義手や義足の人の手足だって、自由に動かせますから」
「じゃあ、私の先輩みたいな人で……体の色んなところが動かなくて、寝たきりの人もいるの。
その人でも、私たちと一緒に、学校に来たり、できるようになるかな?」
「できますよ。操り人形みたいになっちゃうけど、体に負担をかけないようにすれば、自由に動けます」

もっとも、コロナ自身の魔法でそれを一朝一夕にできるかと言われたら難しい。
それができるなら、とっくにコロナは競技戦でも『相手の身体を操ることで勝利する』ための戦術を実行しているはずなのだから。
しかし彼女は、そんなことを言わなかった。

「じゃあ……じゃあ、ね……」

友奈の声が、だんだん震えてきていたのだから。

「例えば、声の出せなくなった女の子がいたら、その子ののどを何とかして、また声を出せるような……そんな魔法も、どこかにあったのかな?」
「ありますよ……きっと!」

どこかには、あったと思う。
世界には、失われた魔法だってたくさんあるのだから。

「樹ちゃんは、またお話したり、歌えるようになってたのかな。
世界を救うためにがんばって、世界を救えたら声が出なくなって、そのまま殺し合いに呼ばれて死んじゃうような、そういう終わり方をしなくても、良かったのかなぁ……?」
「良いんです。幸せになっちゃいけないはず、ないじゃないですか……!」

ブランゼルには悪いけど、彼を手放し、両手で友奈の手を強く握り締めた。
こんな時にも、仲間を失った自分の悲しみより、失われた仲間が報われることを考えるこの人は、きっと強くて、脆い人だから。

「ありがとう……」

友奈は祈るように、その重なった拳に額をこつりと充てる。

コロナの頬が、涙で濡れた。
コロナの手の指先が、友奈の涙で、少しだけ濡れた。

「本当に、ありがとう……」

それは、友人の死を分かち合ってくれたことへの感謝だったのか。
それとも、『犬吠埼樹には声を取り戻せる可能性があった』と教えてくれたことへの感謝だったのか。

それとも、住んでいる世界は違うけれど。
そして、コロナは『その言葉』を、犬吠埼樹に対して言ったわけではないけれど。
『私たちの知らないところで必死に戦ってくれた人達のおかげで平和な日常があったのに、そのことに無自覚でごめんなさい』という言葉を言ってくれたことへの、感謝だったのか。


□ □ □


その庭と道路の境界線にある門柱の影で、絢瀬絵里はひとり立っていた。
悲しんでいる少女ふたりに混じろうという気持ちには、なれなかった。



絢瀬絵里は聡明な少女である。
だから、その放送を聴き終えた時に、叫びそうになったのを我慢した。
叫ぼうとしたことは、ひどくワガママだと理解できていたからだ。



こんなことなら、やっぱり放送局に行けば良かったのよ、と。



絵里も阿呆ではない。だから分かっていた。
あのテレビを見てから放送局に向かっていたとしても、絶対に間に合わなかった。

魂を食らうとか、カードになってないとかはよく分からなかった。
けれど、誰がことりたちを殺したのかは明らかだ。
銀時も言っていた。
あの放送は『キャスター』なる人物が、参加者をおびき寄せるためにことり達を捕えて行ったものだと。
つまり、ことりたちが死んだということは、あのキャスターに殺されたということに他ならない。
なぜ人質を殺すような真似をしたのか、人質はあの巫女服の少女一人で十分だと判断したのか、理由は見当もつかないけれど。

あの放送のあとで、気が変わったキャスターはことりとマコなる少女を殺した。
仮にあの放送を聴いた絵里がすぐに放送局へと走っていたとしても、死亡者の発表が告げられるまでの一時間足らずで放送局に到着してことりたちの危機に間に合うなど、絶対に不可能だっただろう。
誰も悪くなかった。あの場にいた、誰のせいでもなかった。
にこが死んでしまったことは、なおさらだ。
彼女を探す手がかりは、皆無だった。
秋葉原よりもずっと広そうなこの島の中で女の子をピンポイントで探し出すなんて、誰に頼んでも難しいと言われるだろう。

分かった上で、それでも叫びたくなった。
そんな自分がいたから、悲しみを共有しあう彼女たちの中に入っていくことを、気が咎めた。

絢瀬絵里にはどうにもできないところで、μ’sが9人集まることは無くなってしまった、なんて。
μ‘sの衣装を制作できるのは、ことりしかいなかった。
にこは同じ三年生だったから、いつかライブをする日の朝にでも、希とともに迎えに行って、三人でいっしょに登校できたらいいなと思っていた。

どちらも、欠けてはならない二人だった――



「皐月殿。ひとつ提案があるのだが、いいだろうか」
「構わないが、何を?」



その時、不意の話し声が耳朶を打った。
門柱の向こう側から、道路の上で話しているのは、桂小太郎と鬼龍院皐月の声だった。
放送が終わってから聴いた中では、比較的冷静に聞こえる声。
それもそうかもしれない、と思う。
皐月にとって満艦飾マコは、大事な人間ではあってもどちらかと言えば『妹の友人』『部下の友人』という間接的な立ち位置だったらしいし、
桂も仲間の名前が呼ばれはしたが、すぐに銀時の方を気にしていたことから、呼ばれた名前はむしろ銀時の方がずっと繋がりの深い名前だったと察せられる。
だからといって悲しくないはずも無いのだろうが、相対的な衝撃の大きさを測れば、彼らはまだ冷静になれる方だったのだろう。
その桂は言った。

「皆が落ち着いたら、改めて話し合いたいのだが――やはり我々は、二手に別れるべきではないかと思う」

どきり、と心臓が不自然に跳ねる。
なぜ、と思ったのが、驚いた理由のひとつ。
もうひとつ思ったのは、もしかして『放送局に行けばよかったと思ったこと』を見抜かれたのではないかと、あらぬ想像をしてしまったから。

「理由を聞きたい」
「放送で呼ばれた名前の多さが気にかかった。
 俺たちにとって付き合いの浅からぬ連中が呼ばれたこともそうだが、既に参加者の四分の一近が犠牲となってしまっている。
ここは施設をひとつひとつ巡ってから放送局を目指すよりも、より多くの生存者と合流することに重きを置くべきではないかと懸念したのだ。
 それに、俺個人にとっても立ち寄りたい場所ができた。『万事屋銀ちゃん』に、残された仲間の一人が向かっているやもしれん」

当初は、仲間の実力を信用しているからこそ、『万事屋銀ちゃん』へと向かうことを遠ざけていた。
しかし、『万事屋』の一人である志村新八の名前が呼ばれた。
そして、どこかで生きている神楽もその放送を聞いて衝撃を受けていることは想像するまでもない。
そのことが認識を改めさせたのだと、桂は説明する。

「西回りでまっすぐに放送局を目指す一行と、東回りで学校や万事屋を巡る一行に分かれてみてはどうだろうか。
すでに放送で二人の名前が呼ばれたとはいえ、テレビを見た人質の知人が『もう死んでいるから諦めて引き返しましょう(裏声)』とはならんだろう。
むしろ仲間を思う人物であればこそ、死を告げられたことに愕然として放送局へ突撃する可能性は低くない」

そう言われてどきりとする。
もし穂乃果が、希が、あのテレビ放送を見ていれば。
特に穂乃果などは、ことりが死んだなどと言われたら、動揺からそのまま放送局という死地へ突っ込んでいく可能性は――十分にある。

「しかし、万事屋の主は坂田さんなのだろう。
人数を割り振るとしたら、万事屋に向かうのは貴方ではなく坂田さんになるのではないか?」

皐月がそう問いかけると、しばらくの間が空いた。
でも、銀さんが万事屋に向かうとしたら、放送局に向かいたい私とは別行動になるのかしら。
そんな可能性が絵里の脳裏によぎったのと、桂が口を開いたのはほぼ同時だった。

「銀時は……はるか以前に、恩師の命を救けるか、戦友の命を救けるかのどちらかを、選べと迫られたことがある」

え、と。
声にすらならぬ、驚きの吐息が漏れた。

「俺は二度と、己にも仲間にもそのような天秤を迫りたくはない。
天秤にかけられる側だったとしても、天秤にかける側だったとしてもだ」

知らなかった。
あんな、自分と同じようにトイレの中で震えていたような――でも、あのDIOと戦っても生きて帰ってきた不思議な侍に、それほどの過去があったなんて。

だから、もし銀時が『仲間の仲間』と『己の仲間』を天秤にかける時が来たとすれば、それを回避するためにも、己が万事屋に向かい、仲間を守る。
もとより、万事屋にいた少年少女は、桂にとっても仲間と呼べる存在だったのだから。
それが、桂の理由だった。

銀時には、この殺し合いで最初に出会った絢瀬絵里との約束がある。
『なんでもする』『音ノ木坂学園に行く』。
それは他愛のない口約束だし、後者については現状で後回しになってしまっているが、銀時の中ではまだ義理立てがある。
よって、銀時は自分の口からは『万事屋銀ちゃんに寄り道したくなったんで、別行動させてください』などとおいそれとは言い出さないだろう。
それに、絵里のことを抜きにしても、『分校に寄ってから放送局に向かう』という経路の決定に、銀時自身は積極的な同意をしている。
だから桂は、己の口から別行動を提案することにしたのだと言う。

「なるほど。たしかに、『一蓮托生が各々の妥協と諦めの上に成り立つものではない』と言ったのは私だ。
皆がまた集まったら、私の口からそれとなく切り出そう。だが、今は――」
「ああ、まだ、今だけは――」


そんな一連の会話を、全て聞いてしまって。
絢瀬絵里は、色々な感情が胸を埋めようとするのを感じながら、そこにただ、手をあてていた。


□ □ □


ねえ、忘れないで。
振り返れば、はるか遠く。
ここで会った日をなつかしみ、思いを馳せる――


【B-5/市街地/1日目・朝】

【坂田銀時@銀魂】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(中)
[服装]:いつもの格好
[装備]:無毀なる湖光@Fate/Zero
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(10/10)
    黒カード:不明支給品0~3枚(本人確認済み)、包帯とガーゼ(残り10分の7)、担架
[思考・行動]
基本方針: ゲームからの脱出
0:まだ、今だけは――
 1:駅、旭丘分校、放送局の順で移動する
 2:神楽と合流したい
 3:神威、流子、DIOは警戒
 [備考]
※【キルラキル】、【ラブライブ!】、【魔法少女リリカルなのはVivid】、【のんのんびより】の世界観について知りました
※友奈が左目の視力を失っている事に気がついていますが、神威との戦闘のせいだと勘違いしています。
※ジャンヌの知り合いの名前と、アザゼルが危険なことを覚えました。

【絢瀬絵里@ラブライブ!】
[状態]:精神的疲労(中)、疲労(中)
[服装]:音ノ木坂学院の制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(9/10)
    黒カード:不明支給品0~2枚(本人確認済み)
[思考・行動]
基本方針:皆で脱出
 0:???
 1:にこもことりも死んでしまって、私は――
2:μ'sのメンバーと合流したい、銀さんが心配
 [備考]
※参戦時期は2期1話の第二回ラブライブ開催を知る前。
※【キルラキル】、【銀魂】、【魔法少女リリカルなのはVivid】、【のんのんびより】の世界観について知りました
※ジャンヌの知り合いの名前と、アザゼルが危険なことを覚えました。

【鬼龍院皐月@キルラキル】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(中)、こめかみに擦り傷
[服装]:神衣鮮血@キルラキル
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)、 黒カード:神衣鮮血@キルラキル
[思考・行動]
基本方針:纏流子を取り戻し殺し合いを破壊し、鬼龍院羅暁の元へ戻り殺す。
0:まだ、今だけは――
1:皆が集まったら改めて作戦会議を開く。西と南の二手に分かれることを提案する。割り振りは話し合いで決める予定。
2:ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲を調べてみたい。
3:鮮血たちと共に殺し合いを破壊する仲間を集める。
4:襲ってくる相手や殺し合いを加速させる人物は倒す。
5:纏流子を取り戻し、純潔から解放させる。その為に、強くなる。
6:神威、DIOには最大限に警戒。
7:刀剣類の確保。
[備考]
※纏流子裸の太陽丸襲撃直後から参加。
※そのため纏流子が神衣純潔を着ていると思い込んでいます。
※【銀魂】、【ラブライブ!】、【魔法少女リリカルなのはVivid】、【のんのんびより】の世界観について知りました
※ジャンヌの知り合いの名前と、アザゼルが危険なことを覚えました。

【桂小太郎@銀魂】
[状態]:疲労(大)、胴体にダメージ(中)
[服装]:いつも通りの袴姿
[装備]:晴嵐@魔法少女リリカルなのはVivid
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
    黒カード:トランシーバー(A)@現実、鎮痛剤(錠剤。残り10分の9)、抗生物質(軟膏。残り10分の9)
[思考・行動]
基本方針:繭を倒し、殺し合いを終結させる
0:まだ、今だけは――
   1:皆が集まったら作戦会議を開く。西と南の二手に分かれることを提案する。割り振りは話し合いで決めるが、できれば己か銀時のどちらかで万事屋へと向かいたい。
   2:コロナと行動。まずは彼女の友人を探す
   3:神威、並びに殺し合いに乗った参加者へはその都度適切な対処をしていく
 [備考]
※【キルラキル】、【ラブライブ!】、【魔法少女リリカルなのはVivid】、【のんのんびより】の世界観について知りました
※友奈が左目の視力を失っている事に気がついていますが、神威との戦闘のせいだと勘違いしています。
※ジャンヌの知り合いの名前と、アザゼルが危険なことを覚えました。

【コロナ・ティミル@魔法少女リリカルなのはVivid】
[状態]:疲労(中)、胴体にダメージ(中)、魔力消費(小)
[服装]:制服
[装備]:ブランゼル@魔法少女リリカルなのはVivid
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(10/10)
     黒カード:トランシーバー(B)@現実
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを終わらせたい。
0:まだ、今だけは――
   1:みんなの知り合いの話をしたい。
   2:みんなと駅へ向かう。
   3:桂さんたちと行動。アインハルトさんを探す
[備考]
※参戦時期は少なくともアインハルト戦終了以後です。
※【キルラキル】、【ラブライブ!】、【魔法少女リリカルなのはVivid】、【のんのんびより】の世界観について知りました
※ジャンヌの知り合いの名前と、アザゼルが危険なことを覚えました。

【結城友奈@結城友奈は勇者である】
[状態]:疲労(中)、胴体にダメージ(回復中)、味覚・左目が『散華』、前歯欠損、顔が腫れ上がっている、満開ゲージ:0
[服装]:讃州中学の制服
[装備]:友奈のスマートフォン@結城友奈は勇者である、エリザベス変身セット@銀魂(未着用。毛布として使用中)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)、黒カード:なし
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止め、主催者を打倒する。
   0:まだ、今だけは――
   1:勇者部のみんなと合流したい。
[備考]
※参戦時期は9話終了時点です。
※ジャンヌの知り合いの名前と、アザゼルが危険なことを覚えました。

【宮内れんげ@のんのんびより】
[状態]:疲労(小)、魔力消費(中)
[服装]:普段通り
[装備]:アスクレピオス@魔法少女リリカルなのはVivid
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
     黒カード:満艦飾家のコロッケ(残り四個)@キルラキル、バタフライナイフ@デュラララ!!
[思考・行動]
基本方針:うち、学校いくん!
0:まだ、今だけは――
   1:うちも、みんなを助けるのん。強くなるのん。
   2:ほたるん、待ってるのん。
   3:あんりん……。
[備考]
※杏里と情報交換しましたが、セルティという人物がいるとしか知らされていません。
 また、セルティが首なしだとは知らされていません。
※魔導師としての適性は高いようです。
※【キルラキル】、【ラブライブ!】、【魔法少女リリカルなのはVivid】、【銀魂】の世界観について知りました
※ジャンヌの知り合いの名前と、アザゼルが危険なことを覚えました。


時系列順で読む


投下順で読む


087:「作戦会議を始めよう」 坂田銀時 097:アイス・ブルーの瞬間
087:「作戦会議を始めよう」 絢瀬絵里 097:アイス・ブルーの瞬間
087:「作戦会議を始めよう」 鬼龍院皐月 097:アイス・ブルーの瞬間
087:「作戦会議を始めよう」 桂小太郎 097:アイス・ブルーの瞬間
087:「作戦会議を始めよう」 コロナ・ティミル 097:アイス・ブルーの瞬間
087:「作戦会議を始めよう」 結城友奈 097:アイス・ブルーの瞬間
087:「作戦会議を始めよう」 宮内れんげ 097:アイス・ブルーの瞬間