変わりゆく平和 ◆3LWjgcR03U

F-7。
島の東端に位置するこのエリアの海辺に一人の青年が現れた。

「臨也ァ……」

青年の容姿は端正といっていい。
どこかの男性アイドルグループの一員、と言われても通用するかもしれない。
しかし彼の形相は今は大きく歪み、本来の面影を残していない。

「臨也……何処だ……いざや……」

彼を突き動かすのは、少女――越谷小鞠の死。
そして、彼女を殺した――と思いこんでいる――宿敵、折原臨也への怒り。

「いざ、や……」

仇の名を呟き、がっくりと膝を付く。
肉体的な疲労以上に、折原臨也の影すら見つけられない焦りが、彼を苛んでいる。

「畜生」

拳を砂浜に叩きつける。
そのたびに、大量の砂が空中に舞い上がる。

「畜生、畜生、畜生」

砂が滝のように降り注ぐ光景はどこか芸術的ですらあったが、当の本人はそんな精神状態ではない。

「馬鹿野郎……何が池袋最強だ……ガキ一人守れねえ奴が……畜生……ッ!」

彼の心を満たすのは喪失感、そして後悔。
怒りのままに力を振るい、何かを傷つけてしまうたびに、味わってきたもの。
しかし、今まで何度もそんな経験をしたから乗り越えられるというほど、越谷小鞠の死は生易しいものではなく。

「畜生ォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッッッッッ!!!!!!!!!!」

朝日に輝く海に、怪物の慟哭が響きわたる。






「どこにいやがる、臨也……」

無我夢中でゲームセンターを飛び出してからここまで、出会ったのはあのいけ好かない筋肉野郎の外国人のみ。
その前にも後にも、臨也どころかネズミ一匹にも出会えないまま彷徨い歩き、あげく元いた市街地を外れてこんな場所に来てしまった。

「闇雲に探し回ってもどうしようもねえ……」

多少クールダウンしたとはいえ、まだ怒りはおさまってはいない
青のカードから水を取り出し、それを頭に浴びながら、懸命に考える。
そもそも、こんなところまで来るハメになった原因は何だったか?

「あの時妙なアナウンスが流れて、それでどうだっけか……?……ああ糞ッ! こういうのは性に合わねえよ!」

小鞠が死んだときのことを思い出そうとすると、怒りに塗りつぶされてとても冷静な思考などできそうになくなってしまう。
だいたい、頭脳労働は同級生の闇医者や、数少ない友人である黒いライダーの仕事だ。
静雄にとっては直接ぶちのめして吐かせた方がはるかに手っ取り早い。

手がかりが欲しい。
何も本人に直接たどり着けなくてもいい。
臨也の居所を、少しでも示す手がかりが。

「何かねえか、何か……」

腕輪から黒のカードを取り出す。
現れたのは携帯電話。

「あいつの番号が入ってる……わけねえか」

携帯電話が支給されていること自体は最初に確認したものの、中身までは見ていない。
操作し電話帳の項目を片っ端から調べるが、入っているのはまるで意味不明の見知らぬ番号だらけ。
最初の画面に戻り他の項目も調べるが、まともに使えたのはせいぜいカメラくらいのもの。
メールやチャットの機能は時間がたたないと使えないとのことだった。

「クソッ、役に立たねえ」

毒づきながら携帯電話をカードに戻そうとする。

『此度の放映をご覧頂けた幸運なる皆様』

「あァ!?」






(……胸糞悪ぃ)

携帯電話の小さな画面の中で、奇抜な面相の男が弁舌を振るっている。
もっともらしいことをペラペラとまくし立てているが、静雄には分かる。
カラーギャングやヤクザのような連中は池袋には掃いて捨てるほどいるし、経験は浅いが取り立て人の仕事を始めてからは信じられないようなひどい人間も見てきた。
こいつはその同類だ。

「本当なら今すぐにでもぶちのめしてぇがな……」

しかし今は、臨也への手がかりを探ることが先決。
こいつの元に向かうとしても臨也の後だ。
また沸騰しそうになる頭で何とかそう考え、携帯を黒カードに戻そうとして。

『不肖ジル・ド・レェ、僭越ながらこの可憐な少女達を保護させて頂いております』

――その手は、再び止まる。






映像はそのまま2度ほど繰り返され、やがて消える。
最初に戻ったその画面を、じっと見つめること数分。

ぐしゃりと。
携帯電話が、まるで紙風船か何かのように、静雄の手の中で握り潰された。

「……どいつもこいつも、糞野郎どもがよぉ……」

白のカードで地図を見る。
男がいるらしい「放送局」には、ここからひたすら直進していけば辿り着く。

「いいぜ……」

目的地。東の対極にあるその場所を、まっすぐに見据える。

「そんなに叩きのめされてえなら……」

静雄の頭の中を満たすのは、ゲームセンターを飛び出した時に匹敵する――怒り。

「俺が望み通りにしてやらあああああああああああああああああああああ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛!!!!」

こうして、池袋最強は再び爆走を開始する。







そのまま走り出して、どのくらいの時間がたっただろうか。
耳障りな声が聞こえてきた。

「うる――」

うるせえな、と叫ぼうとして、思い至る。
怒りに満ちた頭でも、忘れてはいない。放送――この糞ったれたゲームが始まった時にあの女が言っていたもの。
今まさに流れているのが、それだということに。






平和島静雄の不運は4つ。

1つめは、携帯電話に入っていた「見知らぬ電話番号」に、「片っ端から電話をかけてみる」という発想ができなかったこと。
静雄にとっては「見知らぬ電話番号」。それは、この島の各施設にある固定電話へとつながるもの。
おまけに、旧式のもので性能に劣るゆえの措置なのか、臨也の持つスマートフォンとは違い、通話には制限がかけられていなかった。
つまり電話をかけまくっていれば、臨也たち一行のいるゲームセンターにも繋がった可能性があったのだ。
――しかし。主催者の怠慢か悪意か、はたまた公平を期すための処置なのか。
電話帳の番号群にはどれも、肝心の「宛先」が書いていなかった。
それゆえ、静雄にとっては「見知らぬ電話番号」としか思えず、「電話をかけてみる」という発想には至れなかった。

2つめは、「発端となったゲームセンターに戻ってみる」という発想に、やはり至れなかったこと。
先に言ったように、まさにこの時間帯のゲームセンターでは、彼の求めてやまない臨也と、そして真の仇である衛宮切嗣が会談を繰り広げていたのだ。

3つめは、そうした発想に至れたかもしれない前に、キャスターの放送が始まってしまったこと。

そして4つめは、怒りのあまり携帯電話を破壊してしまったことだ。


だが、そんな不運だらけの彼にも一つだけ幸運なことがあった。

それは、ジャック・ハンマーとの戦いからここまでの彷徨を経て、噴火状態だった頭にもいくらかの冷静さが戻っていたことだ。
放送局を目指す前に地図を確認したこと、さらに立ち止まって放送に耳を傾けたことからも、それはわかるだろう。
爆発が爆発を呼ぶような数刻前の精神状態のままであったら、放送局の場所も分からないまま、再び彷徨う羽目になったかもしれない。






池袋最強の男、平和島静雄。
折原臨也は、理屈も理論も通用しない「怪物」でありながらまぎれもなく普通の「人間」である彼を嫌悪し、その存在を消し去ることを願った。
だが――越谷小鞠の死というあまりにも大きな喪失。それが、少しずつだが怪物の心の中の何かを変えていっている。
そのことには、彼はまだ気付かない。





【F-6/線路付近/早朝(放送中)】
【平和島静雄@デュラララ!!】
[状態]:折原臨也およびテレビの男(キャスター)への強い怒り
[服装]:バーテン服、グラサン
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
    黒カード:ボゼの仮面@咲-Saki- 全国編
         不明支給品0~1(本人確認済み)
[思考・行動]
基本方針:あの女(繭)を殺す
   0:テレビの男(キャスター)をブチのめし、女の子たちを助ける。そして臨也を殺す
[備考]:激昂・暴走状態はひとまずおさまっていますが、何かのきっかけで再燃するかもしれません。


(支給品説明)
【携帯電話@現実】
旧式の携帯電話。いわゆるガラケー。
確認できた機能は
「通話」「カメラ」(使える時刻に制限なし)
「メール」「チャット」(使える時刻に制限あり)
「テレビ放送受信」(制限は不明)
の5つ。


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063:噴火する平和 平和島静雄 095:あげたかったのは、未来で