Ring of Fortune ◆ottfjEMthc


 悪魔は、腰を下ろしていた。
 そもそもからして、今の彼は健康体には縁遠い。
 体中に巻かれた痛々しい包帯がその証拠といえる。
 悪魔なだけはあり、これでも人間よりは頑強な自信はあるが。
 何せ状況が状況だ。予期せぬ疲労の隙を突かれることだけは、絶対に避けねばならない。
 アザゼルは苛立たしげに舌打つ。人間を超えた存在である彼にとっては、こんな考えを余儀なくされる時点で屈辱だった。
 どこで道を踏み外したのか。言うまでもない、あの忌まわしい人間どもに一杯を食わされた日からだ。
 あの日から、坂道を転げ落ちるように没落していった自覚がある。
 もちろん、そんなドン底にずっと甘んじて腐敗するほどアザゼルは腑抜けてはいない。
 必ず元の栄冠まで返り咲き、自分を見下した連中にも然るべき報いを与える。
 その手始めに、まずはこの殺し合いを首謀しているであろう因縁の相手――ベルゼビュートを殺す。
 そうすることが正しいと、疑う余地もなく信じていた……の、だが。

「繭、か」

 其の名を、不機嫌そうな面持ちで口にし、反芻する。
 それは言わずもがな、このバトル・ロワイアルの開催を宣言した女の名だ。
 アザゼルは当初、彼女は単なる張りぼてに過ぎず、その裏にベルゼビュートが潜んでいると睨んでいた。
 一体いかなる手段を使ったのか知らないが、たかが人間一人の手腕で悪魔を嵌めるなど不可能。
 その驕りにも似た決め付けが……かつてアザゼルを敗走させた悪癖が、そう信じ込ませていたのだ。
 しかし、あの人間は言った。神魔の鍵を何らかの手段で分離させ、繭がバハムートを制御しているかもしれないと。
 彼女の背後に、アザゼルが復讐を果たすべき悪魔は存在しないかもしれないと――確かに、一理はある。
 アザゼルは彼と喧嘩別れのような形で離れた後も、ずっと考えていた。
 ベルゼビュートのいない可能性を。たかが人間と侮った白い少女が、自分を完全に凌駕している可能性を。
 一概に妄言と片付けるのは憚られる信憑性が、あの男の言葉にはあった。

 それでも、完全に信用しきってはいなかった。割り切りの悪い悪魔の自尊心が、認めようとしていなかった。
 だが――こうなってはいよいよ、認めざるを得ないやもしれない。
 彼には馴染みのない畳の上へ腰を下ろすアザゼル。その正面には、一枚のカードが置かれていた。
 端正だが人相はよくない彼。その彼が、小さなカード相手に会話を続ける絵面はシュールそのものであったが。
 あいにくと彼はパントマイムをしているわけではない。そのことは、カードの絵柄を注視すれば自ずと理解できる。
 御揃いの髪飾りで結われた髪を動く度小さく揺らす、色彩の白い少女。
 歳はまだ幼いだろう。顔立ちは現実感がないほどに愛らしく、どこか幻想的な雰囲気を醸している。
 カードの中の少女が喋る。現実には起こり得ない不可思議な事象が、このカードが普通のものでないことを証明していた。
 彼女が動き、喋れることを知った彼は、しかし外で会話を試みるほど愚策ではなかった。
 殺し合いの重大さも、厄介な参加者がいることも承知している。
 武器を手に入れたことと元のスペックを加味しても、手負いの身ではやはり不安が残る。
 だから安牌を選択した。幸い近くに施設があったことから、その中へ休息がてらに足を踏み入れて。

「度し難いが、信じる他ないようだな。
 ベルゼビュートが存在していようがいまいが、あの繭という女は脅威と見なすに値すると……」

 どうやら、嘘を吐いているわけでもないようだからな――
 アザゼルは悪魔だ。
 嘘や悪意には人一倍敏感であるし、こんな年端も行かない娘が相手ならば隠し事の一つや二つはすぐに分かる。
 だから彼は、彼女の語ったことを信用することにした。

 カードの少女……説明によると『ルリグ』の彼女は自らを『タマ』と名乗った。
 ルリグは、この会場ではアーツなる力を用いて持ち主をサポートすることが出来るらしい。
 それだけでもアザゼルにとっては有益な存在だったのだが、真の利益はそこではなかった。
 『るう』はどこかとしきりに問う彼女。その正しい名前は、小湊るう子――それは名簿にもあった名前だ。
 タマの様子からして、その『るう』は殺し合いを良しとはしない性格らしかったが、それでも他の参加者について情報を得られるに越したことはない。良い機会だと話を聞いていく内に、明らかとなったのは衝撃の事実。
 何と――このタマというルリグは、繭と面識があるというのだ。

 問い質して、返ってくる答えは要領に欠けていたが、しかし苛立ち任せに放り捨てていい局面ではない。
 らしくもない辛抱強さで、どうにかアザゼルはタマの持つ情報を引き出し、理解を深めていった。
 繭という少女の素性。セレクターという特別な少女達による、札遊びを発展させた潰し合いのゲーム。
 勝ち続けたセレクターは夢限少女となり、其の末に悪魔以上に悪辣な末路を迎えるという仕組み。
 人間を見下しながら、悪魔として人間に触れ続けた彼には話を聞くだけで理解できた。
 繭という少女は、一言で言って只者ではない。
 編み出す趣向が人間のそれとは思えないほど悪辣に尽きる。
 そのことは、このバトル・ロワイアルのルールからも分かる話だったが。

 友人を探す少女から無遠慮に情報を聞き出す辺りは、流石に悪魔か。
 しかし殺し合いに背く者としては、彼の行動で得た成果はあまりにも大きかった。
 誰も近付くことの出来なかった繭の情報を、一足先に手に入れることが出来たのだから。

「……アザゼル」
「何だ」
「アザゼルは、るうを……殺す、の?」

 アザゼルとしては、現状単なる道具であるタマに名など教える理由があるとも思えなかったが――
 頑として名前を聞かせてときかない為、埒が明かないと判断したアザゼルが折れる形となり名を名乗った。

「生憎だが、今の俺にはそれよりも優先すべきことがある。そして」

 小湊るう子を殺すか否か。
 こんな有様となる前のアザゼルであれば、答えるまでもないことだった。
 人間ごときと足並みを揃える理由はどこにも存在せず、ただ殺すだけだ。
 しかし今のアザゼルは、皮肉にも敗北と手傷がきっかけで冷静となっていた。
 繭であれベルゼビュートであれ、この自分を嵌めるという屈辱を働いた輩を殺すためにも。
 今必要なのは殺戮ではなく、主催の牙城へ踏み入るための備えを揃えること――そうアザゼルは理解している。
 タマから繭の話を聞いた今では尚更のことだった。
 加え、小湊るう子に限って言えばそれ以外の理由もある。

 ・・・・・
「小湊るう子――お前のいうその女は、接触を図るだけの価値がある」

 タマのみではなく、セレクターとして彼女と関わったというるう子の話も耳に入れておきたい。
 下剋上を志す悪魔は、現状の身の丈に合った堅実さで、しかし確実に……繭への距離を詰めつつあった。

 と。
 その時、不意にアザゼルは時計へと目を向けた。
 ――時刻はじきに、最初の節目の時刻へ達そうとしている。
 午前六時。第一回放送の刻限が、目の前にまで迫ってきていた。


【G-3/宿泊施設/1日目・早朝】

【アザゼル@神撃のバハムート GENESIS】
 [状態]:ダメージ(大)
 [服装]:包帯ぐるぐる巻
 [装備]:ホワイトホープ(タマのカードデッキ)@selector infected WIXOSS
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:不明支給品1~2枚(確認済、武器がある)、イングラムM10(32/32)@現実、タブレットPC@現実、ヘルゲイザー@魔法少女リリカルなのはVivid、矢澤にこの不明支給品1枚
 [思考・行動]
基本方針:繭及びその背後にいるかもしれない者たちに借りを返す
   0:放送を聞いてから、小湊るう子を捜す
   1:借りを返すための準備をする。手段は選ばない
   2:ファバロ、カイザル、リタと今すぐ事を構える気はない。
   3:繭らへ借りを返すために、まずは邪魔となる殺し合いに乗った参加者を殺す。
   4:繭の脅威を認識。
   5:この死体(新八、にこ)どもが撃ち落とされた可能性を考慮するならば、あまり上空への飛行は控えるべきか。
 [備考]
※10話終了後。そのため、制限されているかは不明だが、元からの怪我や魔力の消費で現状本来よりは弱っている。
※繭の裏にベルゼビュート@神撃のバハムート GENESISがいると睨んでいますが、そうでない可能性も視野に入れました。
※繭とセレクターについて、タマから話を聞きました。
 何処まで聞いたかは後の話に準拠しますが、少なくとも夢限少女の真実については知っています。


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072:クラッシュ・オブ・リベリオン アザゼル 096:ノーゲーム・ノーライフ