逆境に耐える ◆7fqukHNUPM

改まっての自己紹介は、『ハイディ・アインハルト・ストラトス・イングヴァルト』という、聞きなれない言語圏のフルネーム。
いや、『ヴィヴィオさん』という名前を呟いていた時点で、えらい独特のネーミングセンスだとは思ったけれど。
そして、『Stヒルデ魔法学院中等科』という学校名と、『覇王流』という流派による、身分の開示だった。
しかも、貴女はどこかで『魔法戦』競技をしている方なのですか、という質問までされた。
最初は、漫画やアニメの見過ぎじゃないのかと思った。
しかし、この少女が大人の女性に『変身』した姿を見てしまったのも、見間違えようのない事実なわけで。
彼女――アインハルト・ストラトスの語る出自は、『大赦』という一般人の入れない世界にいた三好夏凜にとっても、にわかには受け入れにくかった。

この宇宙にはいくつもの並行世界――次元世界があり、彼女はそのひとつ、魔法文化の世界『ミッドチルダ』の住人だということ。

「じゃあ、私はあんたから見て『管理外世界』とやらの人間だってことになるの?」
「はい――私も夏凜さんの『勇者』なる変身が、魔導と別のものは分かりませんが」

一方で、アインハルトの驚きはさほどでもない。元から『魔法を知らない人たちの暮らす世界もある』と知っていたからだろうか。
いや、ポーカーフェイスなだけで内心は驚天動地なのかもしれないけれど、少なくとも顔には出ていない。

「あれこれ聞き出して、今さら『信じられません』ってわけじゃないけど……実感がわきにくいのよね」
「申し訳ありません……」
「そこ、謝らなくていいから」

『自分たちが守った世界』以外にも『世界』があった、というのがまず常識やぶりなことで。
途方もない話という感じ方しか、今はまだできなかった。
それも、両手の指では足りないような、数十とか、百とかの単位にわたる数の世界だ。
夏凜たちがいる『世界』は、地球という星の、それも海岸線にして2千キロほどの『四国』という島だけがすべてだった。

その、『四国だけ』の世界さえ、戦うことだけが全ての殺風景な場所にしていたのが、かつての自分だったけれど。

「だったらこの場所も、その『世界』のどこかなのかしら。
四国にはこんな形の小島は無かったと思うけど」
「すみません。私も異世界の地形まで詳しくは……あ、夏凜さん。そろそろ道が見えてくるはずです」
「ええ。こっちもだいぶ足場が楽になってきたわ」

夏凜が森林をかきわけ、アインハルトが後方について白いカードから進路を修正する。
応急処置の後とはいえ、脳震盪の後から激しい運動をするリスクを鑑みれば、さほど急がない速さで、そして夏凜が先行することが望ましいだろう。

「さて、と。大きな道には出たけど、どっちに行こうかしら。
アインハルトの怪我のこともあるし、今後のためにも病院は押さえたいんだけど……東回りでも、西回りでも、けっこう遠いのよね……」
「いえ、そんなに私の都合ばかり考えていただかなくとも……夏凜さんにも、探している方がいるそうですし」

アインハルトは、眉をハの字にして申し訳なさそうな顔をする。
腰の低いというか、頼ることを苦手とするタイプなのかもしれない。

「別にそんなの気にしないわよ。探してる奴らのアテがないのはお互い様だし、
だったら一緒に行動した方が人探しだってしやすいでしょ?」
「それはそうかもしれませんが……」
「それともアンタ、私の言うことに従うのがそんなに気に入らないのかしら?」
「いえ! 決してそんなことはありませんが……」

あ、この子けっこう押しに弱い、と気づく。
『お前が言うな』とか言われそうな気もしないことはないけど、弱い。

「だったら良いじゃない。年長者の言うことは聞いときなさい」
「はぁ」
「……それに、『勇者部』が異世界で活動しちゃいけないって決まりは無いしね」
「は?」
「な、なんでもない!」

恥ずかしいことを聞かれそうになって、あわてて地図とにらめっこする振りをしった。
他の勇者部メンバーだったらもっと自然に優しい年長者らしく振る舞えるのかもしれないけど、これが三好夏凜にとっての精いっぱいだったりする。
殺し合いという『災害』に巻き込まれた一般人(と言えるかは怪しいが)の少女を見つけたら、安全を確保する。
それは、『大赦の勇者』である夏凜としても、そうすべき正しい行動なのかもしれない。
けれど、もしかしたら別の理由もあるように思えた。
それは、脳震盪の休息がてらに、お互いの情報を交換し合っていた時のことだ。
守るべき友人たちのことを、彼女はこう言って紹介した。

『一人で戦うことしか知らなかった私に……興味深いことや、新しいことをたくさん教えていただきました。チームメイトで、得難い後輩の方々です』

それは、自分にとっての勇者部の面々のようなものだろうかと思った。
戦って自分の力を証明することが全てだった夏凜に、これから全部が楽しくなると言ってくれた。
義務だからと戦うわけじゃない、戦いに勝った後で笑いあえる幸せをもらった。
それはきっと、同じことだ。
異世界の人間なんて未だに実感はわかないけれど、別に宇宙人というわけでは無かった。
自分より二つぐらい年下の、ただの戦う女の子だと思った。
だからこそ、ここは先輩らしく適切な判断をしたいところだけれど――

進路について考える夏凜の耳に、エンジンの唸るような音が聞こえてきた。


  1.   +  +  + 


小湊るう子は、ほんの数か月前までは普通の中学生だった少女である。
むしろ、いわゆる『クラスのカースト』では、どちらかと言えば下位に所属する方だったとさえ言えるだろう。
セレクターバトルを知ったことで、精神力だとか社交力だとかについては目覚ましい成長をしたけれど、それでも『酔っ払いの運転する乗り物に同乗してしまった時の対処法』なんてものは覚えようもない。

「きゃっはー!!」

つまり、シャロの運転を止める方法が分からない。
よくよく考えてみれば、遊月は市街地の近くにいたんだから引き返した方がいいんじゃないかなぁと思ったりもしたのだが、いかんせん風の抵抗はきついし、頭は少しぼーっとするし、シャロは話を聞いてくれないし。
せめて、誰かが進路上に見えてきたら、接触すべきか回避すべきか、シャロに叫べるようにしておこう。
それだけは気を付けて目をこらしていたら、少女らしき人影を二つ見つけた。

「シャロさん! 前! 前に人がっ」
「うん?」

相手もこちらに対して気付いたらしく、年上の方の少女がこちらに手を振って止まるよう促している。
これは接触すべきだろう。車椅子の少女の時のように油断したところを襲われる可能性も無いではないが、どっちにせよ会話するだけの余地はあるような雰囲気だ。
シャロに停まるよう伝えると、あっさりとブレーキをかけてくれた。
良かった、シャロさんもちゃんとお話に臨んでくれるんだ、とるう子は安心したのだが、

「へーいnice to meet you!! お元気れすかー!」

バイクから地に足をつけたとたんに、ダッシュですっ飛んでいかれた。
なぜ、そんなハイテンションかつフレンドリーに。
そしてなぜ、ろれつが回らないのに英語だけきれいな発音なのだろう。

「すごーい!この子、目の色が左右違っててきれーい!!きらきらー!!」
「あ、あの……」

二人組のもう一人の少女にタックルのようなハグをして、きらきらとした瞳で顔を寄せる。
これが不審者の類であれば、今ごろは痛烈な腹パンか何かをされても文句は言えない行動だった。
しかし、シャロから伝わるのはダイレクトな好意表現、それも過剰にオーバーなスキンシップのためか、困った顔で赤面することしかできないでいる。

「髪もミントグリーンできれーい! ハーブの色らー!」
犬か何かにでもするように、髪に頬を寄せて気持ちよさそうにモフりはじめた。
るう子も止めようとしたのだが、追いつくには距離があり、

「少し、頭を冷やしましょうか」

隣にいた少女が、業を煮やす方が早かった。
ウォーターカードによって出現した水が、シャロの火照った顔にばしゃりと襲いかかった。


  1.   +  +  + 


カフェインによるドーピングが切れると、それはもうたいそうに落ち込んで体育座りをしたシャロの姿がそこにあった。
るう子を運ぶためにやむを得ずしたことだったと知ると、アインハルトも気にしていないと言ってくれたのだが。

「外道メー」
「義輝、追い打ちは止めなさい」
「ううぅ……」
「やはり顔が赤いようですが、ご気分のほどは?」
「うん、風が涼しくて気持ち良かったから……」

しかし、幸いにもアインハルト・ストラトスが支給品として風邪薬を持っていた。
よく薬局で見かけるタイプの風邪薬だったけれど、効能を調べるときちんと『解熱』の二文字は書かれている。
るう子の青いカードからミネラルウォーターを出現させると、まずは座って薬を飲みましょうということになった。
しかも、夏凜が食べ物カードと飲み物カードを手にはりきった顔で「解熱にはリンゴとしょうが湯と葛湯とヘルシー野菜と、サプリは牛黄とイノシトールとビタミンB6に……」と呟き始めたので、それはさすがに皆で止めた。
明らかに用法容量を逸脱した健康食品のために、食料カードを全消費されても困る。

「横になってなくていいの?」
「そこまでは重くないです。のどが痛いわけじゃないから、説明もできるし」

さらに酔い覚ましも兼ねて、シャロの青いカードからハーブティーのポットを出した。
ハーブにはカモミールを選択する。
疲労回復とリラックス効果があり、気を鎮めるには最適。
発汗作用もあるから、風邪の初期症状にだって有効。
苦味もきつくないから、ハーブ初心者にもおすすめ。

少し道を外れた野辺で、適当な切株をテーブルの代わりにして、少女たち四人は茶話の席についた。
4人で飲むためのティーセットを取り出すのは『1回につき1人分』というルールに照らし合わせると怪しい気もしたけれど、どうやらカードは『ティーポット1個で1回』というカウントをしてくれたらしい。
それぞれのカップに口をつけながら、交代でこれまでの経緯を話すことになる。

最初は小湊るう子から。
薬を飲んだばかりだから最後でいいと言われたけれど、『どうしても伝えなければいけないこと』もあったので、「聞いてください」とお願いをする。
まずは、ここに至るまでの経緯について。
シャロに一度話していたこともあり、話は手短にまとめられたものだ。
殺し合いが始まってから間もなく、神社より南の山頂付近で、宮永咲という少女と出会い、友好に接していたこと。
そこに殺し合いに乗った参加者から襲撃を受け、咲に庇われながらも逃げ切ったけれど、咲が命を落としてしまったこと。
そこまで話を聞いて、アインハルトたちが焦ったように質問した。

「それはもしかして、金髪に筋骨たくましい大男ではありませんか?」
「それとも、でかい剣を持った眼帯の女?」
「ううん……銃を持った、女の子です」

そう答えると、二人は安堵したような、それでいて苦いような顔をした。
二人にも何か思い当たることがあったのかもしれないが、まずは全てを伝えてからにしようと説明を続ける。
咲の埋葬を終えて、咲のカードとともに山をくだったこと。
スクーターで市街地を目指そうとした矢先に、桐間紗絽と出会ったこと。

ここで、一緒に話した方が分かりやすいだろうと、紗絽がそこに至るまでの流れを語った。
支給品の定春を持て余していた時に、紅林遊月と出会ったこと。
そのまま東の市街地まで向かう予定だったけれど、紅林遊月が『願い』に関する話題になってから豹変し、定春の暴走もあって喧嘩別れに近い別離となってしまったこと。
そして小湊るう子と合流したところから、るう子が話を戻した。
遊月と別れた経緯を聞いて、それはまるで少し前までの遊月のようだと思ったこと。
この場にいる紅林遊月は、自分の知る彼女よりも過去の彼女かもしれないということ。

「待ちなさいよ。いくらなんでも、それは考えすぎじゃないの?」

何を根拠としてそうなるのかが、夏凜には分からなかった。
『主催者は過去にタイムスリップして、過去の友人を攫ってきたのではないか』なんていう推測は、あまりにも飛躍しすぎている。
普通は『紅林遊月に記憶の混濁があるのでは』とか考えるのが自然だろう。

「実は……遊月のことだけじゃなかったから」

カモミールの湯気に目をしばしばさせながら、るう子は話した。
それは、まだ宮永咲が生きていて、お互いの知り合いのことなどを教えあっていた時に聞いたことだ。
元はと言えば、最初に全員が集められた白い部屋で。
『アーミラ』と呼ばれていた少女がアフロヘアーの男と行動を共にしていたように、宮永咲もあの場で知り合いの顔を見つけていた。
ところがその少女――池田華菜は、咲の顔を見るなりこう言ったのだという。

『あっ! 決勝で戦うはずの清澄の大将だし!』

咲が彼女とも対局した県予選の決勝は、もう二か月も前に過ぎたことだ。
それなのに、まるで咲とこれから試合をするかのような物言いをしていたことが不思議だったと、彼女は言っていた。

「そのこともあったから……遊月の話を聞いて、時間を戻したような時から来たみたいだなって思ったんです」
「また、急には信じがたいような話よね……あ、でも……」

過去から来たかのような食い違いがある。
そう言われたら、夏凜にも思い当たることがあった。
夏凜が誘拐される前に立ちあっていたのは、犬吠埼風の暴走を止めた現場だった。
だから理不尽な勇者の真実も知っていたし、風が殺し合いに乗った理由にも思い当たることはあったけれど。
友奈から『先輩が人を傷つけるところなんて見たくない』と説得された風が、
そして、樹からも復讐で大赦を潰すことを止められて、皆の前で泣き崩れたばかりなのに、
あんなに追い詰められた顔で暴走するだろうか。
仮に、もしもだけれど、『友奈たちに止められるよりも前の時点で、殺し合いに呼ばれた』としたら――

「私にも、もしかしたらそうかもって奴がいるわね……」
「でも、時を操る魔法なんて、今の時代には失われた技術のはずです。
あの『繭』という人はいったい――」
「それなんですけど!」
「「「わっ!」」」

ここが唯一の機会とばかりに、るう子が話を切り出した。
これを伝えないことには、殺し合いを解決する何もかもが進まないのだから。

るう子たちの世界で、どこかに『繭』という名前の少女がいたこと。
繭は全てを奪われて、閉じこめられた場所にいたこと。
友達も、遊ぶことも、会話することも、身体を動かすことも、愛されることも。
生きていれば、大きなものから小さなものまでたくさんある、無数の『選択肢』を全て取り上げられ、どんな願いも叶わない一生を強制されていたこと。
やがて少女は、『願いを叶えるチャンスがある』『外の世界で活きられる』『幸せというものを知っている』『選択肢がある』すべての少女を、呪うようになったこと。
そんな少女たちに復讐するために、『WIXOSS』というカードゲームを使った『遊び』を作り出したこと。
空想の友達――白い少女と黒い少女から始まった、カードの中にいる『ルリグ』も、
負けたら願いが反転して一生の傷を背負うセレクターバトルのシステムも、
勝ち残っても、新たなルリグとなってカードの中に閉じ込められるという結末も、
すべて、繭の生みだした空想の世界が、現実に投影されたものだということ。

「じゃあ、私たちは繭が八つ当たりするために殺し合いをさせられてるの?」

怒りのこもった声で抗議したのは夏凜だった。
しかし、彼女たちの表情にあのは純粋な義憤ばかりではない。
それも無理からぬことだった。
四人の少女たちには、生い立ちや戦場を経験した数の差こそあれ、皆が自分自身で選び、がんばった結果として今がある。
だから、彼女たちの誰もが想像してしまう。
もし、アルバイトをすることも、友人とお茶を飲むこともできず、ずっと独りきりだったら。
もし、覇王流を極めたくとも、病気で外に出ることさえできない身体だったら。
もし、満開をするまでもなく初めから動けなくなり、戦うための訓練も勇者部の面々と出会うことも無く、狭い部屋でお荷物として腐っていくだけの毎日だったら。
まさに自分たちは、『それら』があることを憎まれたのではないかと。

「……でも、だからと言ってヴィヴィオさんたちのような、
平和な時代に生まれた格闘技選手が、こんな戦いをするなんて間違ってます」

しばらくしてアインハルトがそう言うと、四人は確認するように頷き合った。

「とにかく、繭のことが少しでも分かったのはプラスだわ。
じゃあ、次は私たちが話す番だったわね」

とは言っても、夏凜とアインハルトは既にお互いの間で情報共有を済ませている。
アインハルトが金髪の格闘家と交戦した出来事についても、夏凜がまとめて説明すれば良かった。
あとは、それぞれが互いの世界の関することを語る。
アインハルトが、次元世界のことやミッドチルダのこと、そして覇王流のことを紹介した時には、シャロたちもやはり『魔法』という用語に驚いていた。
そして、夏凜はバーテックスのことや、勇者システムのことについて(満開の副作用については、気を遣わせると思ったので伏せて)、世界を守って来たことを語った。

「じゃあ、夏凜ちゃんは私たちの時代よりずっと未来から来た人なの?」
「それは、分かりません……よく似た別の世界かもしれません」

そして、ここで夏凜の世界とシャロたちの世界が決定的に異なることがはっきりする。
シャロとるう子の世界では未だ神世紀に突入しておらず、西暦の年代で呼ばれている。
それは、この世界が四国を残して滅亡してしまう前――時代が『神世紀』に切り替わる、三百年近くも前に使われていた暦の呼び方だ。
もちろん、シャロたちが暮らしている町も四国以外の地名だった。

「アインハルト以外は同じかと思ってた……普通に同じ国の人っぽかったし」
「そうね……夏凜ちゃんもあんまり『未来の人』って感じじゃないし」
「三百年ぐらい未来の人でも、今の時代みたいな服を着るんだね……」
「た、確かにぱっと見は似てるかもしれないけど、アンタ達の時代よりずっと進んでるんだからね!
アンタ達の時代じゃ、車椅子でも階段を登れるレーンとか、まだほとんど無いでしょ」

真っ先にハーブティーを飲み終え、黒いカードから出した一袋分のにぼしをぱくつきながら夏凜があれこれと異文化(?)自慢をする。
なぜ、ハーブティーの後ににぼし?
三人はそう思ったが、突っ込んではいけない気がした。
とにかく、何かを言わなきゃと思ったらしくるう子が曖昧に笑って言う。

「で、でも……だったら、この世界は少なくとも、夏凜さんの世界じゃないですよね。
だって、場所が四国だけなのに、こんな殺し合いが開かれたらすぐ分かるはずだし」

にぼしを口に運ぶ手が、止まった。



「……え、だったらどうして私、勇者に変身できたの?」

そう訊ねても、三人が答えを持っているはずも無く。

だからつまり、と夏凜は言葉に迷いながら、疑問点について説明していった。
バーテックスとの戦いでは、勇者が『戦う』という意思を示してアプリを起動した時に、神樹との間に霊的な回路が生成されて、勇者になるための力が供給される。
満開をするにしてもそれは同様だ。勇者自身のレベルアップはもちろん必要だけれど、神樹からの恩恵が無くてはならない。
勇者部のメンバーたちがかつて満開をした時に、地面から根のようにエネルギーが吸い上げられ、勇者たちに力が注がれるところを夏凜も見ていた。
だとしたら、神樹の存在しないこの土地で、夏凜たちが勇者に変身して、すでに交戦まで終えてきたというのは、明らかにおかしい。

「精霊だって、神樹の意思を受けて派遣されたようなものよ。
それが精霊ごと連れて来られてるってことは、神樹が出し抜かれたようなものじゃないの?」
「たとえば……神樹の代替になるエネルギーが確保されているのでは?」

そう言ったのはアインハルトだった。
彼女の暮らしているミッドチルダには『聖王教会』という宗教組織が存在するけれど、
そこで祀られている『聖王』という存在は、過去に実在して、現実の質量兵器を持っていた人間だった。
しかも、その有していた兵器である『聖王のゆりかご』は、伝承によれば月面の土地から魔力を吸い上げることができたという。
アインハルト自身も聖王関係の史実については詳しかったこともあり、神の力だろうと魔力に類するもので代替できるのではないかという発想を述べた。

「じゃあアインハルトちゃんは、繭が神様の力を手に入れたって思ったの?」
「そこまでは……私も学者型ではありませんし」
「でも、あの繭ってやつ……確かに得体が知れないけど、ただの女の子なんでしょ?
神様の代わりをするなんて、そんな無茶なことができるのかしら」

神樹が恵みを与えているおかげで四国の文明そのものが成立している夏凜からすれば、
不思議な力があったとしてもただの女の子がそれに匹敵するなんて、あまりにも荒唐無稽なことだ。

「たぶん、今までの繭にはできなかったと思います。
世界や時間を超えて人を連れてくるのも、武器や食べ物が出てくるカードも、セレクターの女の子以外を巻き込むのも初めてのことだし。
それに、あんなドラゴンみたいな生き物の腕、ウィクロスのカードにもいない」
「確かに、召喚龍を呼び出す術は私たちの世界にもありますが……あんなに大きなものは、見たことがありません」
「で、でもるう子ちゃんの話だと、繭は人の願いを叶えられるんでしょ?」
「ううん、願いを叶えるのはルリグだし、ルリグも普通の女の子だから、夢限少女になっても普通の女の子に叶えられない願いは、叶えられないんです」
「そっか……ごめんなさい」

本当に、ぜんぶ普通の女の子なのかしら。
この時、ふと夏凜はそう思った。
るう子から夢限少女になるまでの話を聞いて思い出したのは、満開のことだった。
勝ち続ければ、『もう夢限少女になれる』といつか条件を満たしたと判断される。
それは、戦いの経験をつむうちに勇者としてのレベルが上がり、満開ゲージを満たすのと似ていると思ったのだ。
しかも、新たな夢限少女を生み出すには、ルリグと少女がいっしょに契約の意思を示し、共に攻撃を行うという。やっぱりそれっぽい。

(もしかして、ここに呼ばれてる女の子にも勇者の適性値があったりして……まさかね)

「とにかく! 繭に力を貸してる神様がいるのかは知らないけど、今の私たちにこれ以上分かりようがないんだし。
まずはおたがいの友達を探すとか、やることがあるんでしょ」

夏凜がそう言って場をまとめようとしたが、アインハルトが「あっ……」と声を漏らした。

「そう言えば、私たちヴィヴィオさん達のことをお二人に教えていませんでした」
「あ」
「言われてみれば……」
「私も、遊月のことしか……」

揃いも揃って、知識の面で伝えることが多すぎて後回しになっていた。
いや、夏凜だけはこれまでのことを話すなかで犬吠埼風については触れたのだが。
べ、別に大事な友達のことを忘れていたわけじゃないんですよ、と互いに暗黙の了解をするような、そんな沈黙が数秒ほど流れる。
義輝がわざわざ出現して、「諸行無常―」と言った。

「そ、そうね……私以外にも四人の『勇者』がいることは言ったんだし。
まずはそいつらの名前を…………って、そうじゃないわ。教えるより見せた方が早いじゃない」

支給されていたスマートフォンを操作する。
電話やメール、勇者レーダーのような通信手段はすべて使えなくなっていたけれど、
これまでにやり取りされたデータ……勇者部の皆が写っている『誕生会』の写真は、ちゃんと夏凜のもとに残っていた。

「え、携帯電話……?」

るう子がそれを見て、何かを思い出したようにつぶやく。

「ほら、この写真に写ってるのがそうよ!」

大きく表示させて、全員に見せる。
それは、色紙でつくった誕生祝いの三角帽子をかぶり、仲良く一列にならんだ5人の少女だった。
「この人達が……」とシャロとアインハルトが写真に見入る中で、
小湊るう子が、息を呑んだ。

「この人……るう達を襲った、車椅子の……!」

全員が、えっと絶句した。
夏凜は言われた意味が飲みこめず、反射的に言い返す。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。嘘でしょ……そんなの……」

しかし、すぐに理性は気付く。嘘や言い間違いではないことを。
写真に写っている東郷美森は、ソファーに座っている。
その彼女を見て『車椅子の』と指摘したのだから、虚偽の類とは考えられない。

「だってこの人……携帯電話を出したと思ったら変身して、変わった形の銃を使って……それで咲さんを……」

これで、決定的にクロ。
犬吠埼風だけではなく、東郷美森も殺し合いに乗った。
しかも、すでにその手による犠牲者までも生まれている。

「どうして……」

まず思ったのは、疑問。
確かに、風だけでなく勇者部の全員が『満開』の秘密を知っていた様子だった。
けれど、東郷はどちらかというと慎重で、冷静で……皆を救うためとはいえ『友奈を殺すことになる』という矛盾に気付かないはずはない、そんな少女だと思っていた。

「『悩んだら相談』じゃなかったの…」

そして、次に感じたのは歯痒さだった。
こんなに衝撃を受けるくらいなら、どうして風を見逃した。
確かに、あの時の風を攻撃することなんて夏凜にはできなかった。
でも、その結果、勇者部の仲間が人を殺すかもしれないと、戻ってこられなくなるかもしれないと、そこまで考えないようにしていたのは、夏凜の甘さではないか。
何より、友奈がいる。
風と東郷のことを知ったら……それも、東郷が1人で悩み苦しんで人を殺してしまったと聞いたら、友奈はきっと泣く。
そんなのは、見たくないのに。

「風も、東郷まで……バカ。本当のバカ!」

どうする?
今からでも神社に東郷を探しに行く……無理がある。とっくに移動してしまっているだろう。
ならば、東郷のいそうな場所をとにかく探し回る?
夏凜だけならそれも有りだったかもしれないけれど、るう子たち3人がいる。
アインハルトは多少は戦えそうとはいえ敗戦で凹んでいた後だし、るう子も薬を飲んだとはいえ体調は悪い。
そんな3人を東郷の元に連れて行って、的にされたらどうする。
だったら、これ以上の犠牲者を増やさないためにも、人の多そうな街に行って東郷のことを伝えて回る?
ぐらぐらと迷う夏凜の意識を、三人の気遣う声が覚まそうと必死になっていた。

「夏凜さん、その……るうは大丈夫ですよ! 夏凜さんが落ち着くまで、待ちますから」
「い、今もう一杯、ハーブティーを出してあげるわ。気持ちが落ち着くようなの」
「私も……待ちます」

外部からの呼びかけ。
それは、バカみたいに優しく感じられた。
この『バカみたい』は、さっき言ったのとは違う『バカ』だ。
人の家に勝手にあがりこんできて、お誕生会を始めるような、そういう意味の『バカ』だ。

「ごめん……一分たったら、ちゃんとするから」

だから、思ったのだ。
私に『バカ』を教えたあんた達が、『違うバカ』になってどうすんのよ、と。


【E-3/エリア南西部/一日目・早朝】

【三好夏凜@結城友奈は勇者である】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:にぼし(ひと袋)、夏凜のスマートフォン@結城友奈は勇者である
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)
     黒カード:なし
[思考・行動]
基本方針:繭を倒して、元の世界に帰る。
   1:どこに向かう……?
   2:東郷、風を止める。
[備考]
※参戦時期は9話終了時からです。
※夢限少女になれる条件を満たしたセレクターには、何らかの適性があるのではないかと考えています。

【アインハルト・ストラトス@魔法少女リリカルなのはVivid】
[状態]:魔力消費(小)、歯が折れてぼろぼろ、鼻骨折
[服装]:制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(20/20)、青カード(20/20)
     黒カード:0~4枚(自分に支給されたカードは、アスティオンではない)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止める。
0:夏凜さん……。
   1:私が、するべきこと――。
   2:仲間を探す。
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後からです。

【桐間紗路@ご注文はうさぎですか?】
 [状態]:健康
 [服装]:普段着
 [装備]:なし
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(8/10)
     黒カード:不明支給品0~2 (確認済み)
 [思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らない。みんなと合流して、謝る
0:夏凜ちゃんにハーブティーを淹れる。
   1:私は、どっちに行ったら……
 [備考]
  ※参戦時期は7話、リゼたちに自宅から出てくるところを見られた時点です。
  ※小湊るう子と情報交換をしました。

【小湊るう子@selector infected WIXOSS】
 [状態]:微熱(服薬済み)
 [服装]:中学校の制服、チタン鉱製の腹巻
 [装備]:黒のヘルメット着用
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(8/10)
     黒カード:黒のスクーター@現実、チタン鉱製の腹巻@キルラキル、風邪薬(2錠消費)@ご注文はうさぎですか?
          不明支給品0~1枚、宮永咲の不明支給品0~2枚 (すべて確認済)
     宮永咲の魂カード
 [思考・行動]
基本方針: 誰かを犠牲にして願いを叶えたくない。繭の思惑が知りたい。
0:夏凜さん……
   1: 遊月、浦添伊緒奈(ウリス?)、晶さんのことが気がかり。
   2: 魂のカードを見つけたら回収する。出来れば解放もしたい。
 [備考]
  ※参戦時期は二期の8話から10話にかけての間です。
  ※桐間紗路と情報交換をしました。遊月が過去から呼ばれたのではと疑いを持ちました。

[備考]4人が共有している推測は以下の通りです。
1:会場の土地には、神樹の力の代替となる何らかの『力』が働いている。
2:繭に色々な能力を与えた、『神』に匹敵する力を持った存在がいる。

【風邪薬@ご注文はうさぎですか?】
アインハルト・ストラトスに支給。
ココアが熱を出して寝こんだときに、チノが千夜の家まで取りに行った風邪薬。
薬局で市販されているオーソドックスな薬。


時系列順で読む


投下順で読む


023:華の行方 三好夏凜 090:その少女は切望
023:華の行方 アインハルト・ストラトス 090:その少女は切望
053:ハジケなくちゃやり切れない 桐間紗路 090:その少女は切望
053:ハジケなくちゃやり切れない 小湊るう子 090:その少女は切望