スマイルメーカー ◆zUZG30lVjY

無機質な、しかし見慣れた様相の市街地において、その一画だけは異質な雰囲気を放っていた。
鉄筋コンクリートの家とアスファルトの街とはまるで似ても似つかない、木組みの家と石畳の街。
まるでヨーロッパかどこかに迷い込んでしまったかのようだ。
遊月は予想外の風景に気後れしながらも、地図機能を頼りに目的地へ辿り着いた。

「ここが……ラビットハウス……」

ファンシー趣味の店舗を勝手にイメージしていたが、実際の建物はいい意味で想像からかけ離れている。
ラビットハウスが喫茶店であるとシャロから教えられていなければ、これが飲食店であると気付けなかったことだろう。
扉に手をかけ、暫し逡巡する。
理性では分かっている。ここを訪れるべきだと。訪れなければならないと。
ラビットハウス――ここは遊月とシャロを繋ぐ唯一の場所。
彼女との再会を願うなら、ラピッドハウスの扉を叩くより他にない。
さもなければ広い島を当て所もなく彷徨うだけだ。

「おじゃまします……!」

意を決して扉を開ける。
視界に飛び込んで来たのは、建物の外観に見合ったシックな内装。
板張りの床に木組みの味わいを活かした天井と、そこから吊り下げられたシンプルでお洒落な照明。
そして、店の雰囲気から盛大に掛け離れた、不良の姿。
とてつもなく鋭い眼光が遊月を捉える。

「……おじゃましました」

思わず扉を閉めてしまった。
シックな喫茶店の唯一の客が見るからに危なげな不良だなんて、一体誰が想像できるというのだ。
しかも遠近感がおかしくなったのではと思ってしまうほどの長身で、学生服がはちきれそうなくらいの体格ときた。
ましてや何時誰に襲われるかも分からないこの状況。
遊月がつい現実から目を背けてしまったことを誰が責められるというのだろう。

「……もう一回……」

恐る恐る扉を開け直し、隙間から中を伺う。
不思議なことに店内が全く見えない。
代わりに、隆起した筋肉で張り詰めたシャツと強靭な胸板がそこにあった。

「ひあっ!?」

咄嗟に扉を閉じようとするも、不良の手に扉をがっしりと掴まれて阻まれてしまう。
これは危険な状況だと理性でない部分が警報を鳴らしている。
生命の危機だけでなくそれ以外の面も含め。
咄嗟に逃げ出そうとする遊月に投げかけられたのは、存外に優しい響きの言葉だった。

「入りな。取って食いはしねぇ」

長身の不良は扉を大きく開いて身をずらした。
改めて店の中に目をやると、カウンターの向こうに誰かがいるのが見えた。
先ほどは小柄すぎたせいで気が付かなかったのだろう。
淡い髪色の少女が、店主然とした態度でこちらをじっと見つめている。
あの子が――
遊月は直感した。
あの子が、シャロが話していたラビットハウスの店主の娘、香風智乃だと。


  □  □  □


「はい、どうぞ」
「あ……ありがと」

智乃が入れてくれたコーヒーを、一条蛍という少女が運んできてくれた。
結局、遊月はなし崩し的にラビットハウスに招き入れられ、コーヒーまで御馳走になることになってしまった。
大柄な不良――空条承太郎は少しばかり離れた席に腰を下ろしてグラスを傾けている。
グラスの中身がなんとなくアルコールに思えるのは気のせいだと思いたかった。

「……」

品の良いカップに口をつける。
苦味と甘味が絶妙に混ざり合った液体が喉を滑り落ちていく。
ふと、深夜から殆ど水分を補給していなかったことを思い出した。
誰にも遭わないようにラピッドハウスを目指すことばかりに気が向いていて、喉の渇きすら忘れていたのだ。
そんな初歩的なことすら頭になかったなんて、我が事ながら情けなくなってしまう。

「……あったかい」

それはきっと、コーヒーの温度だけへの感想ではなかった。
遊月は半分ほど飲み終えたカップをソーサーに置き、静かに息を整えた。

「あのね、智乃さん。私……シャロさんに会ったんだ」
「ほんとですか!?」

これは罪の告白。どんなに苦しくとも、どれだけ責められようとも、決して避けてはならない報いの時。
ひとつひとつの出来事を思い返しながら、遊月は事の成り行きを説明した。
シャロと出会った経緯。
ピルルクの力でシャロの願いを覗き見てしまったこと。
定春の暴走で謝る暇もないまま喧嘩別れになってしまったこと。
どうしてもシャロに謝りたいと思っていること――
全てを語り終えたところで、遊月は自分の頬に冷たい何かが伝っているのを感じた。

「――大丈夫ですよ」

何もかもを聞かされたばかりにも関わらず、智乃の声は、優しかった。
糾弾され、責め苛まれることすら覚悟していたのに。

「確かにシャロさんは気にしてたみたいです」
「…………」
「けど私達はみんな、がっかりなんてしてません。嫌いにもなりません。シャロさんはシャロさんです」
「……でも、私は……」
「ごめんなさいと謝って、それでおしまいでいいと思います。シャロさんもそう思ってるはずです」

友達だから、分かるのか。
遊月が押し黙った代わりに、今度は智乃が色々なことを話し始めた。
それは何の変哲もない思い出話。
笑って、遊んで、慌てて、少し怒って、謝って。
智乃が語る、シャロと友人達とのありきたりの日々は、羨ましいくらいに輝いていた。

――なんて、空回り。

自嘲という言葉ですら生温い。自分があまりにも滑稽に思えた。
シャロは満たされていた。多少のコンプレックスはあっても、温かい友人達に囲まれて、幸せに過ごしていた。
そして全てを奪われた。
極論すれば、遊月にとってこの殺し合いはセレクターバトルの延長戦。
今まで続けてきた、願いを叶えるために他の誰かを不幸にする、ハイリスク・ハイリターンな戦いの続きでしかない。
けれど、シャロにとってはまるで違う。
シャロはここに連れて来られた時点で全てを失ったも同然なのだ。
仮に、最後の一人になって友人達との元通りの日常を願ったとしても、それはマイナスがゼロに戻るだけ。
いわばハイリスク・ノーリターン。恐怖と苦痛の記憶が残るならゼロにすら戻れない。
そんな子によくも『叶えたい願いがあるのか』なんて聞けたものである。

手元にない幸せを求めて腕を伸ばした遊月。
腕いっぱいに抱えていた幸せを根こそぎ取り上げられたシャロ。

ピーピング・アナライズが覗き見たシャロの願いは、奪われた日常の続きに他ならない。
ごめんなさいと謝って、気にしてないよと受け止められて、それでおしまい。
たったそれだけのことだったのだ。
たったそれだけを望んでいたのだ。

「でもおかしいです……みんな気にしてないって言ったのに、シャロさんはまだ気にしてたんですか……?」

智乃が何事か訝しがっているが、もう遊月の意識には入っていない。
遊月は残りのコーヒーを飲み干して勢い良く立ち上がった。

「私、もう行くね。シャロさんを探しに」
「え……危ないです!」

そう言われるのは想像していた。
この島にいる人がみんな優しい人であるわけがない。
無力な参加者を食い物にしようと手ぐすねを引いて待っている者もいるだろう。
それでも、いや、だからこそ遊月はじっとしていられなかった。

「遊月さんも私達と一緒にいましょう。承太郎さんの他にも強そうな人がいっぱいいるんです。一人じゃ危ないです」

申し訳ないくらいに有難い申し出ではあったが、遊月の決意は揺らがない。

「ごめんね。でも、危ないのはシャロさんも一緒。みんながここで待ってるより、誰かが探して回った方がいいと思う」
「でも……」
「……コーヒー、美味しかった。ありがとう」

自然と頬に笑みが浮かぶのを感じながら、椅子から立ち上がり、踵を返す。
と、二人のやりとりを静かに聞いていた蛍が、店を後にしようとする遊月の背中にささやかな声援を投げかけた。

「あの……上手く言えないですけど、がんばってください」
「……うん」

ラピッドハウス――ここはとても良いところだ。
シャロもこの店に戻って来れれば、きっと心安らぐことだろう。
振り返ることなくラピッドハウスを出た遊月は、視界の隅に大きな人影が映っていることに気がついた。
そういえば、いつの間にか店内から承太郎の姿が消えていたような気がする。
きっと自分達に気を使って席を外していてくれたのだろう。

「待ちな」

承太郎はラピッドハウスの外壁にもたれかかったまま、一枚の黒いカードを遊月に投げ渡した。
……承太郎の手ではなく、横のあたりから生えてきた別の手が投げたように見えたのは気のせいだろうか。

「餞別だ。余り物で悪いがな」
「あの……本当に、いいんですか?」
「気にするな。俺には"こいつ"が憑いてる」

承太郎の背後から別の人間の輪郭がぬうっと現れる。
憑いているという表現は言い得て妙で、まるで背後霊のようだ。
支給品なのか、それとも元々憑いていたのかは知らないが、さっきカードを投げたのも背後霊らしきモノの仕業なのだろう。
あれが守護霊だとしたら、並大抵の悪霊は拳で殴り飛ばしてしまいそうだ。

「じゃあな」

用件が済むなり、承太郎はラピッドハウスの中へ戻ろうとする。
遊月は慌てて承太郎を呼び止めると、餞別のお礼代わりを送り返した。

「蒼井晶には気をつけてください。見た目は良くても中身は陰険で最悪です」
「……蒼井晶だな。こちらからも一つ言っておくぜ。衛宮切嗣と折原臨也には心を許すな」
「衛宮……折原……」
「連中はゲーセンの方にいるはずだ。一応は俺達の仲間ってことになってるが、どうにも信用が置けねぇ。分かったな」
「は、はいっ」

そうして本当に扉が閉ざされる。
遊月は名残りを惜しむようにラピッドハウスを見つめ、やがて足早に立ち去っていった。
駆け足で先を急ぎながら、受け取ったばかりの黒のカードに念じてみる。
本来であればそれで何かしらの支給品が手元に現れるはずだ。
しかし――

「痛っ!」

焼けつくような痛みが右手の甲に走る。
そこにあったのは綺麗な三つの痣。不思議な力を感じる赤い紋様だった。





【G-7/市街地/一日目・早朝】
【紅林遊月@selector infected WIXOSS】
 [状態]:健康、決意
 [服装]:普段着
 [装備]:ブルーアプリ(ピルルクのカードデッキ)@selector infected WIXOSS、令呪(残り3画)@Fate/Zero
 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(10/10)
     黒カード:不明支給品0~2 (確認済み)
 [思考・行動]
基本方針:叶えたい願いはあるけれど、殺し合いはしたくない
   1:シャロを探し、謝る。 そしてラビットハウスに戻る。
   2:何かあった場合もラピッドハウスに戻る。
   3:るう子には会いたいけど、友達をやめたこともあるので分からない…。
   4:蒼井晶、衛宮切嗣、折原臨也を警戒。
 [備考]
  ※ピルルクの「ピーピング・アナライズ」は(何らかの魔力供給を受けない限り)チャージするのに3時間かかります
  ※参戦時期は「selector infected WIXOSS」の8話、夢幻少女になる以前です

【G-7/ラビットハウス/一日目・早朝】
【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:不明支給品0~2、越谷小鞠のカード
噛み煙草(現地調達品)
[思考・行動]
基本方針:脱出狙い。DIOも倒す。
   1:切嗣と臨也への疑念。
   2:DIOの館に向かいたいがまずはこの状況について考える。ゲームセンター行き組が戻ってきたらきっちり問い詰める
   3:平和島静雄と会い、直接話をしたい。
   4:静雄が本当に殺し合いに乗っていたなら、その時はきっちりこの手でブチのめす。
[備考]
※少なくともホル・ホースの名前を知った後から参戦
※折原臨也、一条蛍と情報交換しました(衛宮切嗣、蟇郡苛、香風智乃とはまだ詳しい情報交換をしていません)

【一条蛍@のんのんびより】
[状態]:健康、泣き腫らした痕
[服装]:普段通り
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:不明支給品0~3
[思考・行動]
基本方針:れんちゃんと合流したいです。
   1:ここでみんなを待ちます。
[備考]
※空条承太郎、折原臨也と情報交換しました。

【香風智乃@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:健康
[服装]:私服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
     黒カード:果物ナイフ@現実
     黒カード:不明支給品0~1枚、救急箱(現地調達)
 [思考・行動]
基本方針:皆で帰りたい
   1:ラビットハウスの店番として留守を預かる。
   2:蟇郡さんに早く戻ってきてほしい。
   3:ココアさんたちを探して、合流したい。
   4:衛宮さんと折原さんには、一応気をつけておく。
   5:シャロの状態に違和感。
[備考]
※参戦時期は12話終了後からです


【令呪@Fate/Zero】
空条承太郎に支給。
聖杯戦争に参加するマスターに与えられる、自身のサーヴァントに対する絶対命令権。
期間が短く具体的な命令ほど効果が強く、命令の幅が広すぎたり長期間に及ぶ場合は効果が落ちる。
令呪を宿すことは奇跡といえるレベルの現象だが、一度宿った令呪は普通の魔術師でも移植や譲渡が可能。

支給品として見た場合、絶対命令権としての効力は実質的に無意味。
ただし令呪が持つ魔力を転用して使い捨ての魔力源とすることは問題なく可能。
魔術師でない参加者も、一部の支給品の使用不能時間を短縮し即座に使用するといった使い方ができ、
所有者の同意があれば他人に譲渡することもできる(一画ずつから可。譲渡した令呪は独立した黒カードになる)
体表に顕現させた状態で装備者が死亡した場合、令呪は消滅する(カードに戻されていた場合は消滅しない)


時系列順で読む


投下順で読む


035:シャロと殺意なき悪意 紅林遊月 094:女はそれを我慢できない
055:夏色の風景 空条承太郎 082:195×(144+164)
055:夏色の風景 一条蛍 082:195×(144+164)
055:夏色の風景 香風智乃 082:195×(144+164)