その遭遇は綻び ◆gsq46R5/OE


  カイザル・リドファルドにとって、蒼井晶の語った『駅』と『電車』の話はまさに夢の様な話だった。
  なんでもそれは、馬を凌ぐ速度で走る鉄の塊。
  屋根と窓も完備されているらしく、それでは最早家と同じではないかとカイザルは驚愕せずにはいられなかった。
  勿論彼の想像は大袈裟であるし、晶の説明にも多少誇張が入っていたのだが、それは仕方のないことといえる。

 「(あー、しんどかったわ。原始人に勉強教えてるみたい)」

  ――このカイザル・リドファルドという男は、晶にとって未知の世界から来たらしい。
  正直な所、先程までは彼が本当にそうなのかについても半信半疑だった。
  しかしだ。彼へ電車と駅について説明している内、晶は彼の言っていることが真実なのだと確信した。
  現代人ならどんな箱入りや引きこもりだろうと知っているような知識を一つ語るたび、彼は新鮮な驚きを見せていた。
  キャラ作りや演技の一環と呼ぶには、あまりにも真に迫った驚きっぷりだった。
  さしもの晶も信じざるを得ない。
  紀元前に遡る過去かはたまた別世界かは兎も角、彼と自分はまったく違う環境を生きていた人間なのだ――と。

  原始人というたとえも、あながち間違ったものではないだろう。
  現代(いま)の常識が通じないという意味では、少なくとも的を外したものではない筈だ。
  無論、それに何かを教えるのは難儀な話。
  事実最初は事細かに教えていた晶だったが、最後の方には随分とアバウトな説明で放り投げてしまった。
  盾目的で利用する魂胆とはいえ、これには人選を誤ったかと結構深刻に考えさせられたが。

 「(でもま、脳筋キャラには脳筋キャラなりの仕事ってやつがあるもんね。
   こんなでも剣を持ってる姿はそれなりにサマになってるし、精々身を粉にして働いてもらおっと)」

  カイザルが支給品を確認すると、中からは一振りの剣が出てきた。
  彼にとっては使い慣れたものらしく、これなら十全に戦えるとか何とかまた暑苦しいことを言っていた。
  とはいえ、それ以外の支給品は端的に言って『使えない』の一言に尽きた。
  いっそ何か使えそうな物でもあれば適当に騙してちょろまかそうかと思っていたのだが、上手くいかないものだ。

  しかしながら、カイザルの語った経歴を信じるならば剣を持った彼はまさに鬼に金棒。
  素の時点でも現代人よりは優れた身体能力を持っているだろうし、そう悲観することもないと晶は踏んだ。
  先程から散々に貶してはいるが、『戦える』というだけでも利用価値は高い。
  騙し合いなどにも慣れてはいないようだし、扱いやすさの面でも悪くない。
  ……現に彼は、晶の口にしたるう子と遊月の悪評を特に疑おうともせず信じてしまったのだし。

  そう考えると、これ以上を望むのは高望みというものかもしれなかった。


 「どうしました、アキラ嬢?」
 「……ううん! なんでもないですよー! 今行きまーすっ!!」


  守ると誓った少女が悪巧みを働かせていることなど露知らぬカイザルへ屈託のない笑顔で返し、駆けていく晶。
  蒼井晶が悪女としての側面を見せるのはあくまでも裏側だけだ。
  表にはそんなことはおくびにも出さないからこそ、カイザルのような善人はすぐに信じ切ってしまう。
  そういう意味でも、カイザル・リドファルドという男は晶にとって絶好のカモであった。

 「む?」

  そんなときだった。
  カイザルが不意に、怪訝な顔をして立ち止まり、晶を背後へ庇うようにしたのだ。
  突然の出来事で流石に呆気に取られる晶だったが、すぐに理解する。
  ――どうやら、誰か来たらしい。

  カイザルの後ろからひょこっと顔だけ出して確認してみて、晶の抱いた第一印象は『こいつもか』だった。
  カイザルは騎士と名乗ったが、今昌達の前方へ姿を現した男の出で立ちはまさに、絵に描いたような騎士のそれ。

 「(うっわ、これまたいかにもって感じのむさいオッサン……こいつの知り合いかな?)」

  顔が背に隠れているのをいいことに、あからさまに顔を顰めて思う晶。
  結論から言えば、彼女の予想は的中していた。
  カイザルはすぐに一瞬は構えた剣を下ろし、「大丈夫だ」と晶へ言う。


 「ラヴァレイ殿……! ご無事のようで何よりです」
 「それはこちらの台詞だ、カイザル君。君の方こそ無事で良かった……そちらは?」
 「……? あ、彼女は――」


  ラヴァレイ。
  それはカイザルが先刻口にしていた名前だ。
  彼の話によれば、オルレアン騎士団なる団体の副官を務める高潔な騎士。
  語る口調にはやけに信頼の情がこもっていたのを覚えている。

 「初めまして! あたし、蒼井晶っていいます! 
  えぇと、ラヴァレイさん? でしたよね。よろしくお願いしまーっす!」
 「ああ、此方こそよろしく。……カイザル君、どうしたね? 何やら不可解げな顔をしているが……」

  それは晶も思っていたことだった。
  せっかく知った人物に会えたというのに、どこか狐につままれたような顔をしている。

 「そーだよ、リドさん。お腹でも痛いの?」

  晶にしてみれば、気が気ではなかった。
  このラヴァレイという男と面識があるのはカイザルであって、晶にとっては赤の他人である。
  信用できるかできないか、危険か危険でないかも事実上彼の裁量に委ねるようなものだ。
  いつ爆発するかも分からない爆弾を抱えながら進むなど、晶はまっぴらごめんだった。

 「……いや。失礼ながら、そこまで想っていただけていたとは思っておらず。光栄の至りです」
 「? 君は何を言っている? 想わないわけがないだろう、君はアーミラの――」
 「!? ラヴァレイ殿、今なんと!?」


  …………。
  ………………。
  ……………………。
  …………………………。


 「(ちょっと……何かむさい男同士で面倒くさいことになってるっぽいんだけど。
   いやいや、ホントに勘弁してっての。こいつらのいざこざに巻き込まれるとか、洒落になってないから――)」




 「……信じ難いことではあるが、どうやら君は、私の知るよりも過去から此処へ招かれたようだな」

  険しい顔をして、ラヴァレイはそんな衝撃の事実を告げた。
  カイザルにとってのラヴァレイは、ある一件でほんの数分関わった程度の間柄だ。
  そんなカイザルのことをラヴァレイが覚えている――否、覚えているだけならばそうおかしなことではない。
  問題は、話しかけてくる彼の声色だった。
  まるで関係の深い相手へ話しかけるような――うまくは言い難いが、そんな雰囲気をカイザルは感じ取った。

  だから彼は怪訝な顔をし、それをラヴァレイが指摘し……やがて語れば語るほど、齟齬が明らかになっていった。

  ラヴァレイの言う『カイザル・リドファルド』の現況について、当のカイザルはまったく心当たりがないのだ。
  第一、彼がアーミラと知り合いだということからしてカイザルにとっては目玉が飛び出すような驚きだった。
  彼女はファバロと共に、オルレアン騎士団から追われていた筈。
  だがラヴァレイによれば、カイザルはそのことについても知っていた筈だという。

  そもそもお互いの居た時間軸が違うというなら、この認識の齟齬にも納得が行く。
  繭はまだ復活していないはずのバハムートを使役するような化物だ。
  彼女にとっては――彼女の『カード』の力を使えば、確かにその程度のことは朝飯前なのかもしれない。

 「しかし、驚きました。私とファバロが、そんな……」
 「……とりあえずは、だ。彼や聖女ジャンヌとも合流し、皆の認識を一つとしておいた方がいいだろう。
  私も君達へ同行させて貰おうと思うが、二人ともそれで構わないか?」
 「……ええ。私はもちろん大歓迎です。アキラ嬢は――」
 「アキラも大丈夫です! 
  ていうか、ラヴァさんみたいな強そうなおじさまも一緒ならもっと心強いですし! アキラッキー♪」


  人懐っこい笑顔の裏で、蒼井晶はほくそ笑む。
  二人が咬み合わない話を始めた時は少しだけ肝が冷えたが、こうして見ればカイザルよりも余程使えそうだ。
  彼がカイザルを快く思っているというのもまた、晶への信用に拍車をかけているのだろう。
  今のところ、彼らが晶を疑う様子は欠片もない。
  もっとも、疑われる要素を晶はまず一切表へ出していないため、それもその筈だったが。

 「(どんどんムサいパーティーになって来てて、アタシ的にはすっごい気に入らないんだけど。
   でも戦力としても盾としても優秀そうだし、仕方ないから良しとしといてやるわ。
   騎士だか何だか知らないけど、この原始人どもってホンッッットに扱いやすいのね)」

  こいつらは盾であり、剣だ。
  利用の余地も大きい。
  うまく動かせれば、他の参加者を大いに潰してくれるだろう。
  晶は自分の幸運(アキラッキー)を喜びながら、あくまで守られる姫を演じ続ける。


【B-3/地下闘技場近く/深夜】

【カイザル・リドファルド@神撃のバハムートGENESIS】
[状態]:健康、動揺
[服装]:普段通り
[装備]:カイザルの剣@神撃のバハムートGENESIS
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
    黒カード:不明支給品1~2枚(確認済、武器となりそうな物はなし)
[思考・行動]
基本方針:騎士道に則り、繭の存在を挫く
0:『駅』に向かえば早く移動できるらしい。まずはそちらへ…。
1:俺と、ファバロが……。
2:アキラ嬢を守りつつ、アナティ城へと向かう。ラヴァレイ殿も居る以上、体制は万全だ。
3:リタ、聖女ジャンヌと合流する(優先順位はリタ>>>ジャンヌ・ダルク)
4:アザゼルは警戒。ファバロについては保留
[備考]
※参戦時期は6話のアナティ城滞在時から。
※蒼井晶から、浦添伊緒奈は善良で聡明な少女。小湊るう子と紅林遊月は人を陥れる悪辣な少女だと教わりました。
※ラヴァレイから、参戦時期以後の自身の動向についてを聞かされました。

【蒼井晶@selector infected WIXOSS】
[状態]:健康、上機嫌
[服装]:中学校の制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
    黒カード:不明支給品1~3枚(武器があるらしい?)
[思考・行動]
基本方針:ウリスを勝ち残らせるために動く
0:利用できそうな参加者は他の参加者とつぶし合わせ、利用価値が無いものはさっさと始末する。
1:カイザルとラヴァレイを利用しつつ、機会を見て彼らと他の参加者を潰し合わせるなり盾にするなりする。
2:ウリスを探し出し、指示に従う。ウリスの為なら何でもする
3:紅林遊月、小湊るう子は痛い目に遭ってもらう
[備考]
※参戦時期は二期の2話、ウリスに焚き付けられた後からです
※カイザル・リドファルドの知っている範囲で、知り合いの情報、バハムートのことを聞き出しました。




  何かを望む心は人を強くする。
  そしてその強い心が折れる音は、何よりも心地よい。

  蒼井晶は、ラヴァレイ達が自身のことを疑っていないと高を括っていた。
  しかし、それは大きな間違いだ。
  確かに未だ青さを多分に残したカイザルは、彼女を疑おうなどとは微塵たりとも思ってはいないだろう。
  だが、このラヴァレイという男は別である。
  何故なら彼は二人よりも遥かに多くの場数を踏んできた――正真正銘、『悪魔』のような男なのだから。

  彼は感じている。
  明るい表情の裏に隠した、強い願いの心を。
  誰よりも人の堕落に近い存在である彼を相手に己を隠し通すには、蒼井晶はまだ幼すぎた。

  彼は待っている。
  その心がポッキリと、真ん中から折れてしまう瞬間を。
  悪魔(マルチネ)のように顔を歪めて、道化(アキラ)をただ、じっと見つめていた。  


【ラヴァレイ@神撃のバハムートGENESIS】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:軍刀@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
    黒カード:不明支給品0~2枚
[思考・行動]
基本方針:世界の滅ぶ瞬間を望む
1:蒼井晶の『折れる』音を聞きたい。
2:カイザルは当分利用。だが執着はない。
3:本性は極力隠しつつ立ち回るが、殺すべき対象には適切に対処する
[備考]
※参戦時期は11話よりも前です。
※蒼井晶が何かを強く望んでいることを見抜いています。


支給品説明
【カイザルの剣@神撃のバハムート GENESIS】
カイザル・リドファルドに支給。
彼が使い慣れている鉄の剣。

【軍刀@現実】
ラヴァレイに支給。
軍用に供された刀剣のこと。


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013:アキライブ! カイザル・リドファルド 069:それはあなたと雀が言った
013:アキライブ! 蒼井晶 069:それはあなたと雀が言った
ラヴァレイ 069:それはあなたと雀が言った