私とルッスーリアはキッチンにいた。
「ま~!櫻ちゃん、上手ね!」
『いやいや、ルッスの生地が上手いんだって。じゃなきゃ、こんなに綺麗に型抜きできないよ』
「褒めても何も出ないわよ~ん。大体生地だって、最初は櫻ちゃんが混ぜてたんだから~。私は最後の仕上げを手伝っただけよ~ん」
作っているのは、クッキー。
まぁ他にもタルトとフィナンシェを同時進行で作っている。
どうしてこんな事をしているかと言うと、ベルフェゴールの一言から始まった。
「で、何作ってくれるの?」
たったこれ一言であるが、それに眉を顰めたザンザスが、何か作れと言ってきて、マーモン、スクアーロ、ルッスーリアの順に彼に呼応したのだ。
思えば、私が街に出た時にベルフェゴールにそうしてあげるからと言ったのを、彼は覚えていたのだろう。
ザンザスがなぜそれに乗っかたのかわからない。
ただ言えることは、作らねばザンザスの怒りを買うという事だ。
それを阻止するために、他のヴァリアーメンバーは呼応したに過ぎない。
ちなみに、レヴィはいるが今ワイン倉庫に行っている。
ザンザスが所望したからだ。
この場所もボンゴレ本部ではない。
街に行ってきた三日後、ティモッテオおじいちゃんがザンザスに城のような別邸を与えたのである。
これは、原作のような危険排除の為ではなく、和解とヴァリアーのボスとしての矜持を保つためであった。
ザンザス自身もそれがわかり、穏やかな気持ちでそれを受け取った。
私としては”本来これでよかったのだろうな”と思いながら、将来を少しだけ不安に思っていた。
で、引っ越し作業をたった半日で完了したヴァリアーは、ティモッテオおじいちゃんと共に訪れた私にお菓子を作れと言ってきたのである。
『でもさ、ルッス。なんでザンザスがあんなムキになってるの?』
オーブンに入れた生地が少しづつキツネ色になっていくのを見ながら、問う。
「あら?わからないの~ん?」
『……うん』
「うっそ~ん!ああ、ボス。ご愁傷さ・まっ!」
??
「あ、タルトがそろそろ焼き上がりね!櫻ちゃん見てちょうだい」
『はーい』
焼きあがったタルト生地にフルーツを盛り付ける。
それが終わると、クッキーとフィナンシェが焼きあがった。
それらを皿に盛る。
ルッスーリアがそのあいだに珈琲をいれ、彼と共に皆のところへと戻る。
「お待たせ~!」
『出来たよ~』
気配に気づいたスクアーロに、ドアを開けてもらってからそう言う。
「できたかね?」
「ししし」
「早く置きなよ」
ティモッテオおじいちゃん、ベルフェゴール、マーモンの順に口を開く。
「ヴォオイ!うまそうな匂いだな」
私達がテーブルに置くのを見ながら、スクアーロがソファに座る。
ザンザス以外のヴァリアーメンバーは横のソファに座っており、上座のソファにはティモッテオおじいちゃんとザンザスが座っていた。
ちなみに、下座のソファもあるが、そこに座っているのはレヴィである。
クッキーなどを置くと、私はどこに行けばいいかなと考えながら、席を見渡す。
空いているのは、スクアーロの横とレヴィの横。
うわぁ、悩む。
「おい」
ザンザスが手招きをしたので、横まで行く。
すると、膝上に抱っこされた。
おいおい!
横にティモッテオおじいちゃんいるのに!!
というか、みんな見てるんですが……。
『おにいちゃん?』
「いいから、そこにいろ」
えー、そう言われましても。
皆、ガン見しているわけで……。
というか、レヴィが顔を歪めて泣きそうです。
ルッスーリアはスクアーロの横に座り、レヴィに睨みを利かせていた。
って、その顔で睨みはちょっと無理が……。
どっちかと言うと、スクアーロがした方が様になるんじゃ…………。
メンバー的にどうにもならないので、大人しくそこで珈琲を飲みはじめる。
珈琲といっても、エスプレッソだ。
イタリアかフランスでいう珈琲とは、このエスプレッソなのである。
もちろん、豆の種類やトッピングもあるから、ある程度の自由がきく。
酸味が好きな私は、ルッスーリアにモカにしてもらった。
牛乳か、バニラアイスを入れるという提案もしてくれたが、気分ではない為やめてもらった。
まぁ、ザンザスはワインを片手にそれらを食べているのだが……。
あ、ティモッテオおじいちゃんもワイン飲んでる。
「おいしいよ、櫻ちゃん。上手いね」(ティモッテオ)
『いえ、麺棒まで手が届かなくってルッスーリアに手伝ってもらいましたから』
「いや~ん、櫻ちゃん。生地は既にあなたが作ってたんだから~ん。味は貴女の配合よ~」(ルッスーリア)
「おいしいよ」(マーモン)
「しし、上手いんだからいいじゃね?」(ベルフェゴール)
「あんま悲観すんなぁ」(スクアーロ)
「……うまい(くそ、反論できない)」(レヴィ)
『う~ん、いいのかなぁ。かなり前世の知識フル活用して作ってみたものだから、どうかと思ってたくらい微妙な選択してた気が……』
「何をだ?」
『フルーツの種類』
「……良い色合いだと思うが?」
ザンザスが不思議に思ってくるので教えると、さらに首をかしげた。
前世でも日本生まれだから色々なフルーツが乗っているものにしたが、こちらでは一種類だけ使うというのが主流だ。
「櫻ちゃん、やはり家光は来ないね」
『……まったく、あの人は』
「ちっ」
ひと息ついて、本題に入る。
『家光さんやっぱり、分かってないんだね』
「それと、厄介な事が起こり始めている」
「なんだじじい」
ザンザスが問う。
ティモッテオおじいちゃんの顔があまりにも真剣だ。
「エンリコとマッシーモが病にかかった。見た事の無い奇病で、医者も匙を投げだした」
『なっ!?』
「っ!」
抗争で打たれるばずの彼らが、病に倒れる。
それは私にとってもショックが大きかった。
『ウソ。じゃ後の候補二人しかいないの?!』
「そうだ。しかし、本来どちらもボスの資質はあまり望ことは出来ない。そこで、櫻ちゃん。君に聞きたい。私はどうすればよいのだろう?」
問われた私は、その場にいた全員に視線を注がれることになった。
…………
……………………
『私が知る物語は、あくまで、最悪の未来を何とか繋いでいくもの。もし、この地にいる候補者が死ねば、その未来に繋がるが……果たしてそれは良い事なのかどうか』
「やっぱり、君の知る未来とはそういうものだったか。弟に関する物語と聞いた時に、何となく気づいていたが……」
『だけれど、その後の軌跡を考えれば、その人が重責に耐えられれば良いのだけど……』
「なぜだい?」
『私の知る物語は、最悪といった最大の理由。それはこのボンゴレファミリーを一度ならず、何度も壊滅の危機が襲うからだよ』
「「「「「「!!?」」」」」」
「おい、どういうことだ。櫻」
そこにいる全員が目を見開くのを見て、ザンザスが聞いてくる。
『もちろん一度目は、私が止めたお兄ちゃんの暴走。土台に、親子のすれ違いがあるから、それを正した』
「……なるほど。俺の炎なら確かにそれくらいの事にはなる。それ以外に危機は?」
『言えない。多分言ったら、そのきっかけも変わる。助かる道筋も……』
「っち、厄介だな」
『ごめん』
「おめぇを責めてるわけじゃねぇ。ただ単に、そんなものを持っていることが厄介だと言っているだけだ」
「そうじゃ。櫻ちゃん、君自身は悪くない。それに危機は外から来るのじゃろう?」
『――当り』
「内側の最大の危機を止めてくれて、ありがとう」
『うん』
そう、内側からの危機はザンザスの乱。
それ以外はすべて外部だ。
「それでどうすればよい?」
『当面は、このまま行ってくれればいいと思ってる』
「ならば、私は動かなくてもいいという事だね」
『ええ』
それでその日の相談が終わる。
ヴァリアーメンバーは成り行きを見守っていて、誰も言葉を発する事は無かった。
そんな会話をした二日後、事態は急展開した。
秘蔵っ子のフェデリコが毒殺されてしまったのである。
「どうなっていやがる」
『スクアーロ、マーモンは?』
「後から来る」
スクアーロといっしょにボンゴレ本部の廊下を早足で進む。
「待たせたね」
背後からマーモンが追ってきた。
相変わらず飛んでいる。
彼は既に幻術を展開し、私達の移動をみんなに見られぬようにした。
『で、守備は?』
「君の懸念通りだよ」
『くそっ!』
「おい、そう悔しがるな。俺たちが何とかする」
『……そう、だね。起きちゃったものは仕方ないよね』
言っている間にティモッテオおじいちゃんの部屋につく。
部屋に入れば、既に他のヴァリアーメンバーとティモッテオおじいちゃんとその守護者がいた。
「来たか」
『ティモッテオおじいちゃん……』
「サービスで、幻術をかけておくよ」
事がことだからと、マーモンが周りに気づかれぬようにしてくれる。
「さて、我々がここに集まったのは、今後どうすべきかという事だ」(ティモッテオ)
「私達の代は既に年老いてしまっている。あとどれくらい生きていられるものか……」(コヨーテ)
「じじい達なら、かなり長生きできるだろう?櫻」(ザンザス)
『ザンザスおにいちゃんの言う通りだよ。でも、今回は精神的にまいっているね……』
「ああ、よく分かっているね櫻ちゃん」(ティモッテオ)
「だが、困ったな。沢田家の人間は家光以外一般人だ」(ブラバンダー)
「ああ、そうだな」(ガナッシュ)*雷の守護者
「どのあたりで鍛えはじめればよいかだね」(マーモン)
「あら~、じゃ櫻ちゃんも鍛えなきゃ」(ルッスーリア)
「……今のうち音を上げてもいいぞ?(そして、さっさとボスから離れろ)」(レヴィ)
「しし、櫻ちゃんは胆が据わってるから、レヴィの心配は杞憂だよ」(ベルフェゴール)
「交代でヴァリアーの皆に鍛えてもらえばいい」(二―)*晴の守護者
「ま、あと一週間もないが、やらないよりかはいいだろう?」(ビスコンティ)
「それがよいだろう」(クロッカン)*霧の守護者
「必要ならやってやるぜぇ?」(スクアーロ)
「では、櫻ちゃん。まずは君が強くなるということでいいかね?」(ティモッテオ)
『もちろん。そのつもりでしたし。知識は前世で大量に詰め込んだから大丈夫だよ』
皆の意見をまとめたティモッテオおじいちゃんは、本題に移る。
「可愛い甥たちを殺したのは、本当にオッタビオなのかね?」(ティモッテオ)
『ええ。マーモンに調べさせたわ』
「少し手間取ったよ。何しろ彼は、軍に接触していたくらいだからね」(マーモン)
「ししし、マジでか。じゃ、毒とやらもそこから?」(ベルフェゴール)
「やっかいじゃない」(ルッスーリア)
「……どう処理するおつもりで?」(コヨーテ)
「――かっ消す」(ザンザス)
「ヴォオイ!俺がやる!」(スクアーロ)
「……どうします?九代目」(ビスコンティ)
シーンと静まった一同。
守護者の大半が黙ってその決定を待っていた。
「そうだな……。身から出た錆だ。ヴァリアーで処理してくれ」(ティモッテオ)
「いいんだな、じじい」(ザンザス)
「ああ」(ティモッテオ)
「ヴォオイ!そう決まったら、誰がどうするかを相談だぁ!」(スクアーロ)
「ま、この子ったら気が早いわ~」(ルッスーリア)
どうやら、今回守護者は動かないらしい。
その方がザンザス達、ヴァリアーに良いのだろう。
踏ん切りと矜持の為に。
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