森は相変わらず鬱葱としていた。
……来た時とそう変わってないよね。
セブルスを悠々とストーカーしながら、そんなことを思う。
セブルスはこんなことになっていないと思っているようで、無言で森の一角まで来た。
……あ、ここら辺って低い木が多いね。
まったく違うことを考えながら、セブルスに近づいてくる気配の方へと目をやると、やはりクィレルがいた。
ちゃんと釘を刺して置くセブルスは、やはり優しいのだろう。
「……な、なんで……よりによって、こ、こんな場所で……セブルス、君にあ、会わなくちゃいけないんだ」
「このことは二人だけの問題にしようと思いましてね」
セブルスの声は、やはり氷のようだった。
ま、私にとってはツンデレにしか聞こえない声だけどね!
「生徒諸君に”例の石”のことを知られてはまずいのでね」
あ、ハリー達がまだ辿りついてないから、”賢者の石”って明確に言うところが”例の石”になってる。
ん?なんか斜め背後に気配が…………
ハリー!!
そうだよ、ハリー箒に乗ってセブルス付けて来てんだった!!
そんなに身を乗り出すなよ、ハリー!
見つかるぞ!!
て、そんな事よりクィレルがもごもごいう仕種してる。
ちゃんとどちらにも演技できているようで、安心だわ。
うん、今のところだけど、安心した。
「あのハグリッドの野獣をどう出し抜くか、もう分かったのかね」
「で、でもセブルス……私は……」
「クィレル、私を敵に回したくなかったら」
セブルスは一歩前に出る。
「ど、どういうことなのか、私には……」
「私が何が言いたいのか、よく分かっているはずだ」
クィレルが言葉を詰まらせ、セブルスは威圧する。
「……あなたの怪しげなまやかしについて聞かせていただきましょうか」
「で、でも私は、な、何も……」
「いいでしょう」
セブルスがさえぎった。
「それでは、近々、またお話しすることになりますな。もう一度よく考えて、どちらに忠誠を尽くすのか決めておいていただきましょう」
セブルスはそのまま、マントをかぶって森から去ってゆく。
うん。
やっぱり黒が似合うよね、セブルス。
ハリーも次第に遠ざかっていった。
残ったのは、その場に立ち尽くすクィレルとステルスモードの私。
さて、どう行きますかねぇ。
……やめとこうか。
あれはまだ疲労しているとこで隙もあったし、色々と下準備したんだよ。
ファーストコンタクトだったからね!
……薬は既に定期的になってるし、けっこう依存されてるし……。
ただ、これ以上の依存はやばい。
頼られ過ぎても、ちょい困る。
ということで、今日はそのまま帰って寝よう!
私はクィレルを置き去りにして、ゆっくりと寮へ帰っていった。
「禪!どこ行ってたのさ!」
寮に戻ると、ハリーが駆け寄ってきた。
『ハリー、走っては危ないですよ?』
「そんなことより!わかったんだよ!」
微妙にハリーが興奮してる?
『?』
「さっき残ってた蛙チョコをみんなで食べてたんだ。そうしたらやっとこさダンブルドアが出てね」
疑問マークが浮かんでいる私を見て、ロンが言い出す。
「禪が言ってた通り、載ってたよ!ニコラス・フラメルが!」
……見つけたか。
てかなんで、今まで”みんなで食べる”という選択しなかったんだろ?
!
疲れる事がクディッチしかないからか!
『見つけられたのですね』
「そうだよ!」(ロン)
「それに、禪は知らないだろうけど、スネイプがクィレル教授を脅してたんだ!やっぱりスネイプが狙ってるんだよ!」(ハリー)
口早に二人が言う。
後ろではハーマイオニーが難しい顔をしていた。
『……』
ああ、うん。
やっぱり、ハリーにはそう見えたか……。
実際、釘刺しに行っただけなんだけど。
「禪、スネイプなんだろ?」(ロン)
「ダンブルドアから聞いてないの?」(ハリー)
……パワフルだねぇ~。
男の子って。
『ハリー、ロン。部屋借りていいです?』
「「?なんで?」」
『ここがどこだかお分かりで?談話室ですよ?みんな聞いてますというか、聞き耳立ててます』
「「……あ」」
忘れてたんですね。
『ではともかく、先導お願いしますよ。いろいろ締め出してあげますから、案内してください。ハーマイオニーも来ますか?』
「ええ、行くわ」
ハーマイオニーはため息をつきながら、座っていたソファから立ち上がる。
……男子二人の迂闊さにため息ついたな。
そうして、一行は男子寮のハリーたちの部屋に向かったのだった。
『それで、ハリーたちは何が言いたいのです?』
私は杖を振ってからそう聞いた。
既に部屋にいた人には外でていてもらっている。
杖を振ってかけたのは人払いと防音魔法だ。
「あのね。ハリーが森の中でこっそり会ってるスネイプ教授とクィレル教授を見たの。どうも、クィレル教授が脅されている光景だったんだって」
ハーマイオニーが説明しだす。
『へぇ。それで?』
「禪には悪いけれど、やっぱりスネイプ教授が犯人だと思うわ」
やはりか……
「僕らは元々そう思ってたんだ。だから、疑いが確信になったよ。」
ロンもそう言う。
「禪の考えは変わらないの?」
ハリーが聞いてくる。
『まぁ、変わるかどうかは一応、何を狙っているかによりけりですねぇ。で、何を狙っているのか、分かりましたか?』
「それは明日図書館で調べるよ。ハーマイオニーがニコラス・フラメルっていう名前に心当たりがあるっていうから……」(ハリー)
『!ハーマイオニー知ってたんですか?』
「ええ、記憶の片隅に。かなりどうでもいいと括(くく)っていたところにあったものよ。まったく調べるつもりがない本に載ってたはずだわ」(ハーマイオニー)
『そういうことですか。まぁ、調べようと思っていた範囲外の書物なら致し方ないわね。んじゃ、それ待ちってことにしておいてくださいね。私の返事』
私はにっこりと笑って、
『では、今日は解散ってことで。あ、ハーマイオニー。今日私は部屋ではなく、私室の方に用があるのでそっちで寝ますから、よろしく』
同室の彼女に一言いってから、魔法を解いて部屋を出て、そのまま寮を出て行った。
(ハリー視点)
「禪って、いったい何者なんだろ?」
禪が去ってからふと思いついた疑問を言う。
「え?ダンブルドアの孫だろ。義理だけど」
ロンが言う。
「うん、そうなんだけど。なんかそう言うことじゃなくて、なんかもっとこう……」
「違和感があるのでしょ?」
ハーマイオニーが代弁してくれた。
「ああ、うん。そうなんだ」
「そうね、私も感じているわ、その違和感。ロンあなたは感じないの?」
「……してるさ。だけど、それを言い表すにはちょっと何かが足りないんだ」
「でしょうね。具体的に言えないかずっと考えていたのだけど、幾つか疑問点があるのがわかったわ」
「「いくつか?」」
「ええ。まず一つ目は、スネイプ教授に何かとかまっていること。二つ目は私達といることもだけど、ネビルともいる時間が意外と少ないこと。三つ目は冷静すぎること。四つ目は……ああもう!言い表せない!」
ハーマイオニーが髪の毛をかきむしる。
「って、やめなよ!髪が抜けてしまうよ」
慌てて、彼女の手を掴んだ。
もう片方の手はロンが止めている。
「ハーマイオニーこそ、冷静になって。そこまで言えるなら大丈夫だよ。多分、四つ目は先回りされている感じだよ!君が羅列していてなんとなく言葉が浮かんできた!」
「あ!そうよハリー!私が言いたかったのはそれ!」
「……君たち、ヒートアップしているところ悪いけれど。禪の事だから、どこかでちゃんと話してくれるよ。彼女、黙りつづけている様な酷い子ではないと思うよ」
いつの間に入ってきたのか、部屋に入っていたネビルが言った。
「信じてやりなよ」
彼はそう言うと、部屋を出て行く。
僕たちは何が何だか分からなくなっていた。
(ハリー視点 end)
『セブルス~。やっぱり、ハリーたちに不信がられてるよ』
「それは自業自得というものではないのかね?」
私はハリーたちがまさにそんな会話をしているとは思わず、自室に一旦戻り、隣のセブルスの部屋を訪ねていた。
『って、それはセブルスもじゃないですか』
「で、あろうな。まぁ、我輩のは既に地だ。直しようがない」
『ですよねー。私も地なんですけどねぇ』
相変わらず紅茶を飲みながら二人で会話している。
「ところで」
『ん?』
「また我輩に内緒で何かを作っているであろう?!包み隠さず話せ!」
『って、いつお気づきに?』
「ふん。我輩とすれ違った時があったろう?あの時だ」
『……さすが。鼻がいいねぇ。そんなにプンプン臭ってました?結構臭いは消していたつもりなのですが……』
「我輩をなんだとみておる。かすかに臭っていた香りが珍しいものであった。いやでもそう考えざるを得まい」
『やっぱり、セブルスが敵でなくてよかったよ。いきなりツムじゃん』
「つむ?」
『ああ、将棋という日本のボードゲームの用語です。こっちで近いのはチェスですかね。その手より先に行けない、つまり八方ふさがり、袋小路の追いやられた!という感じの意味ですよ』
「つまり、負けた。相手に捕まったということか」
『そんなとこですかね』
説明し終えて私は紅茶を一口飲む。
「それで、何を作っている?」
『あ、やっぱり有耶無耶には出来ないか』
苦笑いしながら、ため息をつく。
『ん~。一言で言えば、今後必要になるものですかねぇ。ま、現在進行形で使用しているのもありますが、有利に展開させるための薬といったところです』
「答えになっているようで、なっておらん。ちゃんと薬品名を言いたまえ」
『え~。言わなきゃダメ?』
上目づかいで言ってみる。
「っ!!ダメだ」
あ、効いてるけど、意見は変わらんかった。
『……しかたないですねぇ。んじゃ、言いますよ。ズバリ――』
私が言おうとするとセブルスが聞き耳を立てる。
そんなに聞きたいん?
『作っているのはエリクサーです』
「……エリクサーとは?」
『あ、こっちじゃ、そんな魔法薬無いか。んじゃ、効能とかを砕けいて話せば、通じるか。強力な回復薬で、副作用なし、でも麻痺やら毒には効かない。飲めば一週間弱、食事なしで生きていける‼ていう薬』
「!!!なんと、そんな薬を!」
『あ、でもまだ一週間持つとこまで行ってなくて、二日くらいしか持ちません』
「……我輩の立場は……」
『うわ~!セブルス気をしっかり!私のは興味本位でやってみたら成功しちゃっただけだから!というか魂飛び出してる!!カムバック!戻ってきて―!』
――数分後。
『セ、セブルス大丈夫?』
「……禪。そのレベルはもはや我輩を越えて」
『って、戻ってきてない!セブルス!セ・ブ・ル・ス!!いい?!私のは偶然の産物!セブルスのは努力の結晶だって!!誇っていいからあぁぁっ!』
――さらに数分後。
「……禪。我輩に何か言うことは?」
『すみませんでしたあぁ!!』
復活したセブルスに謝る私。
……とにかく、セブルスのダメージが回復してくれてよかったよ。
じゃないと私も、けっこう落ち込んじゃう。
「それで、保管と調合場所は?」
『うっ、三階のトイレ――』
「――バカ者!なぜそのような場所に!!衛生面やらスペースやら不十分であろう!即刻こちらに戻ってこい!!」
『……はい』
セブルスの怒り様には頷くしかない。
まぁ、うん。
そろそろ潮時かなくらいには思っていたんだよ?
スペースを魔法で確保したとはいえ、やっぱ狭いことに変わりないし。
衛生面はマジで、ぎりぎりセーフだし。
「禪!」
『は、っはい!了解です!!ただ今すぐに!!』
ということで、私はステルスモードと浮遊魔法を駆使して、私室に魔法薬を保管するところと作るところを設けました、とさ。
「まったく、これだけの量をよく――」
『……』
セブルスが呆れてる……。
「しかし、よくこんな量を部屋に入れることが可能だったな」
『え、セブルスまさか……。この辺魔法使いまくってるんですけど』
「なに!?だが、魔法の……ああ、するな」
『……セブルス。早とちりしないでくださいよ。それに、ちゃんと別空間へ繋げたのですよ?ハリーたちが入っても見つかられないように』
「……随分と用意周到だな」
『いえいえ、こんなものでしょう』
と、マジで部屋を用意した。
だって、既に五十本くらい作り置きしといたんだよ。
鍋は一個だけど……。
『そういえば、セブルスとかは保管どうしてます?』
「……我輩が言うと?」
『ですよねー。ま、セブルスの事だから大丈夫でしょうし。さて、ハリーたちは見つけちゃったでしょうね。賢者の石って言う名前』
なにしろ、夜中に動き回る事もいとわない彼らですから、ね!
「何!!?」
セブルスがめちゃめちゃ吃驚している。
『セブルス。アルバスじいちゃんの性格を甘く見てんですか?絶対ワザとですって。本気で彼らに見られないようにするなら、もっといろいろ規制してますよぅ』
「ちっ……!」
『ま、そこそこの本気だったってことだね~。でも、追い出すものは追い出せるだろうから、いいけど』
「はぁ……」
『大変だねセブルス。今夜はこっちの私室で寝るから、よろしく』
「……なんで、寮ではないのだ」
『彼らとともに行動することは、必要最低限で行くつもりなんですよ。そろそろ接触が最小限でいかないと、勉強・体力づくり・魔法薬精製・三頭犬との触れ合い。これらをこなせませんって』
「そうか……」
翌朝、ハリーたちから狙われている品物が”賢者の石”だと知らせが来た。
真っ白なヘドウィッグで。
うわーマジで真っ白。
というか、本当に夜中に図書館行ったのね。
?
あれ?ハリーたちって本の場所知らないよね?
ということは……ハーマイオニーも行ったの?!
どんだけ知りたかったのその知識!!
……まぁ、回答がわからないものほど、知りたくなるよね。
しかも、厳重に隠されてるんだから、そりゃぁ、そうか。
んで、私は返事をヘドウィッグに持っていかせた。
あれだよね。
返事は既に決まってたんだよね。
どう彼らが答えても、私はセブルスの方の味方だ。
誤解は解かねばならないが、現時点でそれを解くには完全なネタばらしを行うしかあるまい。
んな事できるか!!っというわけで、誤解は解かずにかなり一人で行動するつもりである。
って、そろそろハグリッドがひと騒動起こす原因を作ってそうだな。
その用意もしておかなくちゃね。
こうして私は、次の騒動への準備を始めた。
あれ?
クィレルはこっちに付けたのにどうなってんだろ?
という疑問をなんとなく胸に留め置きながら。
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