『終わったな~。もういいよね、このドレス脱いでも」
「……何を言っている。お前はそのままだ。というよりここで脱ぐな」
そう言えば、セブルスが制する。
『へ?ああ、大丈夫私室で着替えてくるね、じゃ‼ぐへっ!』
セブルスが照れてるんだ~と思ってポンと手を打ち、くるりと背を向ける。
扉に手をかけて私室に向かおうとしたら、セブルスに首根っこを掴まれた。
え、セブルスなんでそこばかり掴むのさ!!
……まさかのうなじ好き?!とか?
「このホグワーツのクリスマスパーティーにもその姿で出席するのだ。断じて、我輩が照れているとかではない。第一ここでお前が着替えるというのならば、魔法でカーテンでも出せばよい話だからな」
セブルスがきっぱりと言う。
さいですか・・・・・・。
少しさみしいです。
『ええ~、疲れるのに……』
「ちなみに他の生徒は制服だそうだ」
『その他の生徒が羨ましい……』
「パーティーの主役なのだ。それくらい我慢したまえ」
今の時刻は、二十一時。
『けっこう早く退席したおかげで早く帰って来れましたね』
「そうだな」
『あのタラシには困りましたが……』
「……そう言えば、ドラコに何か渡されておったろう?なんだったのだ?」
『ああ、あれはナルシッサ・マルフォイさん特製のレアチーズケーキです』
「なに?あのナルシッサ先輩の」
『あ、そか。セブルスにとってはどっちも先輩でしたね』
「まぁな。だが、学生のころから親同士の決めた結婚でな。あの頃からルシウス先輩は、女の子ばかり追い掛け回していたな…………」
『つまり救いようのないタラシは、ずっと相変わらずっていうわけですね』
美人(ナルシッサさん)に迷惑かけてんじゃねェよ!
マジで一回ボコってやる!
「ゆ、禪」
『ああ、大丈夫よ~。セブルス、大丈夫。これでちゃんと正気です』
気迫に迫っているようで、セブルスがたじろぐ。
そんなに怖くないさぁ~。
何人も殺すヴォル様よか、優しーよ?
ボコボコにするだけでいいんだからねぇ~。
『それで、セブルス。今日の巡回パーティーが終わったらすぐにしましょう』
「ああ、そうしよう」
透明マントに大はしゃぎのハリーとロンを迎えに行かなくちゃ。
あ、そしたらどっかでセブルスとはぐれる必要があるか……どーしよっかな?
仕方ない、クィレルの野郎を巻き込もう。
ちゃんと話したいしねぇ。
『ちなみにその時はさすがにドレスじゃなくていいですよね?』
「もちろんだ。何かあった時に動きづらいだろう?」
『了解です。じゃ、こういう時の為に買っておいた黒っぽい服を用意しておきましょう』
「……もはや何にも言えないな。どうせ予想して買っていたといったところか」
『正解。ただし、今回だけの予想だけではないですけどね』
「つまり、まだいろいろ起こるのか……」
『セブルスには言ったじゃないですか。今はまだ序の口だって』
言いながら席を立ち、自室に戻って黒い服を引っ張り出す。
その服を持って、セブルスの部屋に戻った。
「なんでこっちに持ってくるんだ?」
『安全の為と、行動パターンを一緒にするためですよ』
「…………は?」
『だから、ある程度一緒にいれば、同時に部屋を出るなんてことも可能でしょう?』
「……」
セブルスが顔に手を当てる。
『ああ、うん。何となくわかったけど、安心して?私は他人に見られないようにステルスモードで行くから大丈夫』
「む。そうか、ならいいが……」
一安心するセブルス。
ごめんね、セブルス。
私はいろいろしなくてはならんのだよ。
事が起こっても諦めて、色々受け入れてください。
と、私は内心で合掌しながら南無阿弥陀仏と唱えていた。
「「禪―!」」
二十二時になって大広間へと向かえば、その近くでハリーとロンが呼び止めてきた。
『二人とも、久しぶりです。私用で、隔離されてしまってごめんなさいね』
あれって隔離だよね、特別待遇と言いながら隔離だよね。
「相変わらず、変な言い方だね。それを言うなら保護者による過保護だろ?」
ロンが言う。
ハリーはそれにコクコクと頷いていた。
「そういえば、スネイプは?」
って、もう呼び捨てかい!ハリー君。
『ああ教授なら、ちょっと用があるから先に行っててくれって』
「あのスネイプが?」
「……ロン、やっぱり」
「だよな」
「ああ」
ひそひそと話すハリーとロン。
『ん?どうしたの?』
まぁ、何となく察しは出来たけど、一応聞くにこしたことはない。
「どうする?」
「大丈夫だと思う」
ハリーがロンに聞かれてそう判断し、私に向き直った。
「禪。後で話があるんだ。パーティーが終わってから」
『わかりました』
三人とも話は終わりにして広間へと行こうとする。
『あ、二人ともプレゼントありがとうね』
「僕こそありがとう、眼鏡の汚れにはいつも困っていたんだ」
「ありがとう、これで家にあるお古の奴でもピカピカにできる」
二人とも、やっぱそういう悩みあったんだ。
だよねー、私も前の世界じゃ眼鏡っ子で、眼鏡の汚れには、ほとほとしてたし。
ハリー君は家が家だけにケースも貰ってないんだろうと思ってたし……。
それが当たるとは……災難だね、ハリー君。
ロンの場合は大所帯で、上の兄たちからのおさがりっていう事なんだろう。
というか、家にマジで箒あるのね。
あ、フーチ先生のカタログどうしよ……。
まぁ、セブルスのはペンダントではなくストラップだが、それは仕掛けの為だ。
『喜んでもらってよかったです』
「ドレスも似合ってるよ」
「うぁ、そういえば、その裾の宝石なに?色がころころ変わるけど」
ませてるな二人とも。
『ありがとう、ハリー。ああ、ロン。その宝石はアレキサンドライト。これは質が悪いですけど、一級物は億に届くくらい高いんですけどね』
「そんなに?!」
二人とも目を丸くする。
『まぁ、これは質が悪いものなので安いですから……』
と言ったものの、二人は驚いたまま。
『ふ、二人とも?とにかく大広間に入ろう??』
二人が驚きから立ち直るのに、少しだけ時を要した。
「えー、では皆さんメリー・クリスマス!あーんど、ハッピー・バースデー禪!」
孫バカ丸出しでアルバスじいちゃんがそう宣言したのち、パーティーが開始する。
はずい。
『ごめんね、ハリー、ロン。あんなじいちゃんで』
アルバスじいちゃんの振る舞いに呆れながら言う。
「やり過ぎだとは思うけど、僕にはうらやましいよ」
「そうだぜ!なんたって、あのダンブルドアの身内になったんだからいいじゃないか!」
と、言う二人。
そりゃぁ、この世界でダンブルドアの身内になる事はかなりの幸運だよ。
でも、性格に難ありです。
意外と悪戯好きですし…………
『…………しかし、まぁ。ホグワーツのクリスマス・パーティーって結構にぎやかですね』
しかも人数が少ないのに……って、はしゃいでるのほとんど教授たちじゃない?
……セブルスは静かだけど、あ、クィレルもだ。
まったく、似てるんだか似てないんだか……
『そういえば、ロンは家に帰らなかったんですね』
「パパもママもチャーリーに会いに、ルーマニアに行ってるんだ。だから、今年はホグワーツに残れってさ。双子もパーシーもいるぜ」
『へぇ、いいですね。ルーマニア。一度行ってみたいです』
というより、行きたいとこ全てに行ってみたい。
デンマークだろ、フランスだろ、ドイツ、イタリア、スイス、ブルガリア、アイスランド…………ヨーロッパだけでもあり過ぎだな。
大体イギリス国内もまだ旅行してないのに……
「ハリー、ママがごめんね。特製セーターを送っちゃって」
「ううん。僕は嬉しいから」
「あ、それでね、禪。ママが君にもって」
そういって、ロンは私に袋を渡した。
え、マジでか。
開けて袋の中身を確認すれば、案の定。
ロンのまま特製セーター(紫色)が入っていた。
『これって?』
「ママの特製のセーターだよ。禪のカラーは、紫か……」
「って、いつ禪のイメージカラー知ってたのかな?君のママ」
『だよね、そこだよね、ハリ-。ちょとその事を考えると、怖いよ……』
たぶん、不死鳥の騎士団繋がりでだろうけど、そこまですんの?アルバスじいちゃん………………
少し先が思いやられるなぁと思いながら、私は少しため息をついた。
『ところで、ハリー。いつの間に私のイメージカラーなんてついたの?』
疑問だ。
「えっと、確かハグリッドがスミレがどのこうのっていうから、ハーマイオニーがスミレ色っぽいって言い始めて、色々知ってるし確かにそうかもって僕も同意見で、ロンがそれに頷いて……」
マジですか。
そんな流れでか。
って、ハグリッド何を言おうとした。
『へぇ、そうだったんだ』
言おうとした内容次第では、少し怒ろう。
「あ、そうだ。禪なら――」
「禪ならどうしたのかね?Mr.ウィーズリー」
ロンが言いかけたその時、背後からセブルスが現れた。
セブルス、その登場の仕方は怖いぞ。
ロンとハリーがおののいて、私の背後に隠れた。
君ら、少しは勇気を振り絞ろうとしないと……
グリフィンドール生だろーが。
『スネイプ教授、どうしました?』
「……校長が呼んでおる。ついてきたまえ」
と言われて、私はロンとハリーの元を離れ、教員席の方へ行った。
その後、私はハリーたちに合流せず、セブルスの部屋へと帰ることになった。
「さぁ、行こうか。禪」
『って、なんでセブルスがやる気出してんですか』
「いけないかね?」
『いえ、なんか雰囲気が違うだけです。ただそれで違和感があるだけです』
「……我輩はスリザリン出身で、スリザリンの監寮だ。それ以前に今は教師。悪戯などをするやつらを放ってはおくわけなかろう」
『………………セブルス。それ罰則受けさせたいだけなんじゃ……』
「身から出た錆だ。構うことなどあるまい」
さすがはセブルス。
容赦ありませんね。
でもすみません、はぐれる気満々なので少しだけショック受けててください。
「では、どこから見回ろうか」
『って、見回りルートは私任せですか』
「禪は物知りでしょうからな」
『……そこまでして捕まえたいのね』
そう言いながら部屋を出る。
もちろん私はステルスモードだ。
『じゃ、とにかく廊下から始めましょうか』
「そうだな」
いつも通りのルートを見回り始める。
いつも、地下牢からはじめ一階の西から東、二階三階と徐々に上へと見回っていく。
道理で、この後に来るであろうノーバードの時に捕まるはずだ。
『そろそろかなぁ~』
「なにがだ?」
『あ、やっぱりフィルチさん来た』
一階に上がり少し歩いていると、横の通路からフィルチさんがミセス・ノリスと歩いてくる。
私はステルスモードを解き、フィルチさんに見えるようにした。
『フィルチさん、こんばんわ』
「……なんで生徒がいるんだ」
難しい顔をしつつ言うフィルチさん。
ミセス・ノリスは大人しく座っている。
『アルバスじいちゃんに頼まれてるんだよ。ね、セブルス』
「ああ」
私達がそういえば、フィルチさんはやっぱり疑うような顔。
って、元からそんな顔なんでしょうけど……
『まぁ、色々と話がこんがらがってるんですよ。アルバスじいちゃんの為にもこうして行動してるんです』
「そうか、それならいい」
一応納得したのか、フィルチとミセス・ノリスを加えた一行は、また校内を巡回し出す。
「それで、例の件はどうなんだ?」
フィルチがセブルスに小声で聞いてくる。
まるで、私を警戒するように。
「フィルチ、小声で話すのは結構だが、禪は知っておるぞ」
『そうそう。というより、ある意味守り人っぽくなって見てやろうかとも考えてますから、そう不振がらないよう、お願いします』
二人してそう言えば、彼は目を見開く。
「そうなのか?」
まぁ、確かにそう驚くだろう。
って、私の言葉にセブルスまで吃驚してる。
「禪、我輩はそこまで聞いていないのだが?」
『そりゃぁ、セブルス。ある程度計画が煮詰まるまで無暗に言うのは控えていますからね。考え始めてから約半年かけて完成したんですから、まぁ期待はしてくださいね』
「校長には?」
『それは大丈夫ですよ、フィルチさん。そこは許可とっておきますから』
「つまり、まだなんだな」
『今日の事が終わらなければ、言えませんからねぇ』
そう言えば二人は顔をしかめた。
『そんなこんな言う内に、図書館まで来てしまいましたね。あ、マダム・ピンスまだいるのかな?』
図書館の入り口まで来たためセブルスに聞く。
「マダム・ピンスは自室で寝ているはずだ」
『ということは、やっぱり本から離れずに休みもほとんどホグワーツにいるわけですね』
「まさに本の虫だ。まぁ、防犯にはなるし、監視の目も行き届く」
『って、フィルチさんそれは……まぁ、確かに似たようなものでしょうね。本が大好きな人は大体その本から離れませんからね。私も昔は本が部屋に山積みに……』
ジャンプとかは立ち読みだから溜まらなかったけど、単行本とか小説、ハードカバーは積もり積もってたなぁ。
「それで、Ms.蔡塔はまだ見回りつづけるか?」
『そうですね、まぁ、今日はここまでかなぁ。結界やらなんやら維持するのは疲れるし、そろそろ、寮とかに戻って慣れなきゃいけないでしょうし。あ、でも見回りは明日もやりますよ』
フィルチさんの問いにそう答える。
「ほぅ、結界の維持がそんなに疲れるものなのか。あと、まだ寮に戻らなくとも休み明けでよいではないかね?」
『それじゃぁ、いきなり人が多いとこに放り込まれて、またセブルスの横の部屋に逆戻りですよ。人がいない今のうちに慣らしておくんです』
セブルスが怪訝そうに聞いてきた。
って、さりげなく戦線離脱を計ってるの丸分かりかい?
『じゃ、グリフィンドール寮まで戻りますね。お二人とも気を付けて』
手を振りながら遠ざかる。
「待て。出来るだけ一人になるなとあれほど――」
『ああ、そこはステルスモードを使用すれば、姿かたち気配も消せますからご安心を』
と言いながらステルスモードを発動し、二人の視界から消えた。
「妙な生徒に絡まれましたな。スネイプ教授」
「だろうな。まぁ、あの校長の孫と思えば、そうでもない気がするがな」
祖父が変わり者であれば、孫も変わり者。
その場で二人は長い溜息をつきながら、図書館へと入っていった。
セブルスとフィルチさんの遠ざかる姿を見ながら、物陰に隠れた。
確か二人とすれ違ってくるハリーが出てくるのを待つ。
ハリーがほどなく透明マントを着たまま出てきた。
姿はマントのおかげで見えないが、足音を何とか押し殺そうとしている気配は分かる。
……姿見えずとも、気配は消さず、か。
私ステルスモードも、気配消しもできて良かったなぁ…………
兎にも角にも私はその後を追った。
さりげなくとはいえ、セブルスを謀って(←欺くとかそういう意味だよ)一人になったのだ。
このモードを解かなければ、厄介なクィレルに見つかる事は無い。
ま、わざわざ接触しに行くのだが……
ハリーはおそらくみぞの鏡のところに行っただろう。
その様子を目の端に入れて、途中で別方向へと曲がる。
実はクィレルの自室、みぞの鏡が置かれていた部屋の近く。
灯台下暗しとはよく言ったものだ。
まぁ、取り出す資格はないがな。
あ、私もか……
と、そんなこんなでクィレルの部屋の前まで来た。
ハリーがうつ病っぽくなるのを防ぐのを見送っての、早くからのラスボス戦である。
ま、負けないし、クィレルは弱っているはずだ。
それにハリーは、いわゆる五月病のようにすぐ直るもののはず。
後ろめたさは、少し置いておくしかない。
アルバスじいちゃん、ハリーは頼んだよ。
ステルスモードのまま扉に耳をつけて中の様子を探る。
「お許しを、どうかお許しを」
ああ、やっぱりそうなってんの?
か細いクィレルの声が聞こえる。
どうも、脅されているようだ。
ってことは、既にクィレルの身体はもろくなってるわけね。
……寿命、あとどれくらいかな。
寿命が持つことを祈ろう。
さて、どういこっかな?
とにもかくにもドアをノックする。
あ、ちゃんとステルスモードは解いたよ。
コンコン!
クィレルが、はっと気づいて扉の方へ来る気配がした。
「は、ははい。どなたですか?」
『クィレル先生こんばんわ』
まだどもり口調の彼に、にこやかに挨拶する。
「なな、Ms.蔡塔!ど、どうしてこのような夜更けに?」
……あんまりどもってないな、疑ってるか……
『ちょっとした散策ですよ』
ま、しょうがないか。
どうもヴォル様ちゃんと覚醒してるだろーし。
……どうしよっか、あ、この手でいこうかな?
ひそかに魔法を使用し始める。
ヴォル様にも気づかれないよう、微かな量を流してゆく。
『そう言えば、クィレル先生とはあまりお話していませんでしたね。このような夜更けですが、お話していってもよろしいでしょうか?』
と、無謀であり、相手にはめったにない餌と思える提案をする。
「あ、ああ。もも、もちろんい、いですよ」
よし、引っかかった!
『では、失礼します』
内心にやり顔をしながら、中に入る。
ふっふっふ、んじゃミッション開始じゃい!
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