なんかまた厄介なことになってしまった。
『………』
私はただひたすら無言で羊皮紙にペンを走らせる。
書いているのは、三日後に迫ったクリスマスのタイムスケジュール。
起床:四時
この間にプレゼントの開封と着替え
朝食:六時(セブルスの部屋にて)
と、ここまではいいとしよう。
問題はここから。
二十時十五分前:マルフォイ邸に参上
クリスマス・パーティーに参加
二十一時過ぎ(おそらく十五分頃):マルフォイ邸を去る
二十二時:ホグワーツにてクリスマス・パーティー
及び、
誕生日・パーティー
朝食から二十時までどうするかまだ考えていないが、その間に身支度を済まさねばなるまい。
しかもドレスを着る前に、化粧するとか髪をセットするとか……
ややっこやしい。
困るんだよ。
今の今まで化粧とかあんましてないんだよ。
ツケマツゲなんてしたくねぇ!!!
絶対目に入るでしょ?!
あれだ、ホボすっぴんでいこうよ!!
ナチュラルメイクでいこうよ!!
メチャ盛なんて、ご免じゃぁああああ!!!!
と、ゴチャゴチャした思考を切り捨てて、兎にも角にも朝の魔法薬づくりにセブルスの部屋で励んでいた。
もちろん、横には部屋の主であるセブルスがいる。
「そうだそのリズムで混ぜて――」
『はい。あ、これはどうのタイミングで入れるんです?本には、なんかあいまいな表現でしか書かれてませんけど』
「ああ、それはあと一分ほどしたら入れればよかろう」
『一分後ってことは、ちょうど再沸騰した時あたり?』
「そうだ」
魔法薬となるとやはりイキイキしているセブルス。
薬を完成させ、二人で紅茶を飲みながら一息つく。
「なんだ?」
私がじろじろ見ているのでセブルスが聞いてくる。
『いえいえ、やはりセブルスは魔法薬やっぱり好きなんだなぁっと』
「ふっ、今更だな」
『ですよねー。好きじゃなきゃ教員になりませんよねー』
「で、何か言いたい事でもあるのか?」
『私が素直に言うと思いで?』
「思わんな、だからこうして聞いているのだが?」
ため息をついて言うセブルス。
『……セブルスが、セブルスが大人しいだとっ?!!』
「うるさい。この前、お前が怒ったろう?それで懲りた」
驚けば、セブルスが間髪入れずに突っ込む。
『…………やっぱり、セブルスはセブルスで、容赦ないね』
「褒め言葉と受け取っておこう」
『効いてないですね』
「それも褒め言葉と受け取ろう」
『……はぁ。喰えない……アルバスじいちゃんだけ喰えないと思ってたのに……』
「ふん」
どうやら、見解が違ったらしい。
『……んじゃ、とにかくクリスマスの時の対応を考えましょうか』
「ああ、そうしよう」
こうして私とセブルスはルシウス対策を進めるのであった。
問題は、アルバスじいちゃんとそのゆかいな仲間たちの動向。
アルバスじいちゃんはあの後、ミネルバをはじめとする教員たちに、私の誕生日の事を教えてまわった。
ということで、教員たちは生徒も巻き込んでの大忙しである。
……ハリーたちもプレゼントや会場のセッティングに大わらわだ。
私事ながら、『どんまい!』という感じである。
ただ、樅(モミ)の木を運び入れたり、ポインセチアやヤドリギを飾ったり、テーブルや椅子をどんなデザインにするか変身術の応用で変えて選んでいたりしている様を見ていたら、やっぱりその光景に私はポカンとしてしまった。
『……なにこれ』
「お前がまいた種だな」
『こんなんでいいの、セブルス。けっこうドタンバタン音たってるけど……』
「緊急すぎて、魔法を使うという概念すら忘れているようだな。まぁ変身術は使っているようだが……」
『……マジでか、みんな浮遊呪文習ったはずなのにその事まで忘れてるよ……。樅の木とか重いじゃん。それ使って運んだ方が楽じゃん』
「はぁ。困ったものだ、校長にも禪にもな」
『う、面目ございません』
ほんとなんでこうなったの……
「では、戻って魔法薬の続きをするぞ。結構な数が足り取らんのでな」
『え、あんなに作ったのに?』
「春先に風邪になるやつもいるのでな。あと、皆寝ぼけて怪我を良くする季節が待っておる」
『ああ、クディッチシーズン再来か……』
「そういう事だ、さぁ、急げ」
『ぐへっ、セ、セブルスちゃんと歩くしついてくから首放してぇええ!!』
「禪は嘘つきですからな、油断ならん」
と、言うのが朝食後の出来事。
思わず手伝おうとしたが、「祝われる本人だろう」と有無を言わさずこうしてセブルスの部屋に連行されてしまった次第である。
……確かに祝われる本人の私ですけど……
それでもいろいろ忠告とかしたいじゃん!
「禪が考えている事は大体わかっておるが、あまり言わぬ方がいいぞ」
『って、なんで思考が読み取られてんですか!』
「お前は意外と顔に出ているからな、何を言いたいかが」
『……』
ポーカーフェイスなどできませんというのが丸わかりだと指摘される。
私はため息をつくが、指摘した彼は紅茶を一口飲んだ。
「まぁ、到底我輩のような事は出来ぬだろうが、校長側についているのだ。問題なかろう?」
『うわぁ、あからさまにそれ言っちゃう?』
「事実だろう?」
『……うーん、なりきればそうでもないんだけどなぁ~』
「なりきる?」
『ほら、女優さんとか俳優さんがやってるじゃない。役とかその人物になりきるって。あれ』
「お前に出来るのか?」
『元の世界じゃ、必要な事でしたよ。けっこう小さいうちから行事ごとに劇とかやらされるんです。ヒーローだったり、お姫様だったり、悪役立ったり。あ、でも人数が多すぎてやるべきではない役まであるんですよ?』
「ほう、どんな?」
『木の役。動かない事がその役の仕事』
「……もはや、人ではないのか」
『誰でも出来る簡単な役。ただ突っ立てるだけでいいんだからね』
私も一口紅茶を飲む。
「で、そんな役をしていてどうなると?」
『根本的な解決にはなりませんねぇ。ああ、ご心配なく。二十年以上の人生で、結構スレましたから、悪役とかはお手のものです』
「……我輩と同じことはするな」
『もち、しませんよ。じゃなきゃ、グリフィンドールには入りませんて』
「……(複雑だ)」
私はそのまま、魔法薬やら呪文の練習をしていったが、その横でセブルスが何かに悩んでいるとはツユにも思わなかった。
と、そんなこんなでクリスマスイヴである二十四日になった。
これでセブルスの魔の手から逃げられるぜ!!
と意気込んで他の場所(必要の部屋)に行こうとすれば、
「させるか」
と、また首根っこを掴まれて阻止された。
ということで、すっかりクリスマス。
「さて、起きているか?」
『……セブルス。予告も無しに開ける癖治りません?』
「プレゼントが届いておろう?開けたまえ」
『スルーかい!って、なんで朝から指図?』
「どうせお前のことだ。何か変なものもプレゼントに混ざっておろう?」
『その言葉セブルスにそっくり返します』
とにかくベッドから降りて山積みになったプレゼントの山に歩み寄る。
『んじゃ、開けていきますか。あ、その前に仕分けしよ』
眠いながらもグリフィンドール(ハリーたち)と先生方、他の寮、それ関係の父兄方にと仕分けてゆく。
当然ながら、グリフィンドールと先生方が多く、その他はあまりなかった。
というよりあったらかなり不自然である。
だが、その不自然さをもろともせず、やはりマルフォイ親子が品物を送ってきていた。
うん、ドラコ君はどこからどー見てもお菓子と何かだよね。
甘いクッキーの匂いするし……
問題はその親のルシウス・マルフォイの方。
送ってきた品は、どこからどう見ても高級そうな漆黒の箱。
『うわぁ。マジでタラシだよ、やっぱり』
箱を開ければ、ドレス一式と装飾品全般とラブレターにしか見えないカード。
しかも、すべてスリザリンカラー。
『……緑と銀。確かに相性がいい色だけど……すべてそれに染める事は無いだろうに。装飾品の緑として使われているのは……うわぉ、ペリドットにエメラルド、あ!こっちはマカライトとメノウだ』
……せめて統一しろよ…………
『相性はいいだろうけど、統一されていない…………。よし!売り払おう!!』
「…………」
この対応に、セブルスが唖然とした。
え、それしかなくね?
というか、宝石使ってる時点でひと財産じゃん。
んなら売るって。
『さて、他に厄介そうな……あ、クィレル来てるし』
「何?!」
何とか復活したセブルスが、驚く。
クィレルの奴が送ってきたのは、レイブンクローのカラー青を中心とした花束と香水。
しかも、どう見ても闇へのお誘い文のような文章を連ねたカード付き。
『懲りてないねぇ。行かねェっつの』
「…………」
『という事で、無視。後で焼却処分』
「それは我輩がしておこう。他には厄介なものはないか?」
『うーん、あ。双子たちからも来てますねェ、って!』
箱を開けると同時に花火が発射スタンバイした。
『うぇい!』
「ちっ!」
セブルスが杖を振り、花火が発射する前に消える。
『セ、セブルス。ありがとう』
「まったく、アヤツらは……」
いたずらに困るのは、新旧とも同じ。
『んで、送ってきたのは悪戯用品か』
「困ったものだな」
厄介な人物とは、敵にも味方にもいるものである。
『んじゃ、他の安全そうなのを開けていきますか』
「そうしたまえ」
セブルスの了承を得て、グリフィンドール生たちからのプレゼントを開け始める。
ハリーからのプレゼントは、お菓子の詰め合わせと羽ペンと手紙だった。
……無難だねぇ。
あ、手紙の内容がほぼ謝罪……。
ちなみにロンも同じ内容の手紙と、お菓子の詰め合わせと小さなツリーを送ってきている。
「直接謝ればよいものを……」
『面と向かって言う暇がなかったんでしょう。なにしろ、私だけ特別待遇のようにセブルスとアルバスじいちゃんに護られているわけですし……』
「ふん」
『……まぁ、セブルスがそこまで言うのも分かりますけど……というより、ハリーの親がいけないんでしょうけど……』
「分かっておるではないか」
『……伊達に“知っている”訳じゃありませんって』
次にハーマイオニーからのプレゼントを開ける。
彼女はお菓子の詰め合わせと大きなぬいぐるみ(ウサギ)と、手紙。
……手紙の内容はやっぱり、謝罪とお願い(ニコラス・フラ……を教えて!!)か……
『あらら、やっぱり皆いいとこまで知ってるし』
「……」
そう私が言えば、セブルスが頭を抱えていた。
『セブルス、諦めて。アルバスじいちゃんが原因だから諦めて』
「はぁ~」
この世の終わりの様にため息をついた。
『お、ネビルからも……お菓子の詰め合わせと手紙、違うのは柊が鉢ごと送られて来てきてるだけ?』
「柊は魔除けだからな。枝より鉢ごと送る方が良いと考えたのだろう。……お菓子の詰め合わせが多いのは、クリスマスのマイナーなプレゼントであるという事でもあるが、主に禪の日ごろの行いが悪いせいだな」
『へ?』
「いつも、デザートをかなり食べておるだろう?」
『うっ』
「それでだ。その印象でお菓子の詰め合わせなのだろう」
『……ちなみにセブルスは、大体何が送られてきてるんです?』
「我輩は主に魔法薬の調合に使う珍しい材料だな。……まぁ、後は黒いマントと黒い羽ペンばかり送られてくるが……」
『……セブルス。それって黒いという印象が残ってるんじゃぁ……』
「……否定は致しかねるな。まぁ、今となっては好都合だが」
いわく、黒ければ闇に潜むのが簡単だからだそうだ。
……セブルス、それ泥棒の服装です。
先生方(クィレル以外)もお菓子の詰め合わせと何かひと品という形で送ってきていた。
ありゃりゃ、すっかり甘党イメージだ。
という事で、お菓子の詰め合わせを除いた状態で紹介していきます。
ミネルバからは紫色の手袋。
ハグリッドからはクリスマスの飾り(なぜか、ロンのミニツリーにぴったりとマッチ)。
フリットウィック先生からはフワフワクッション(スミレの刺繍付き)。
スプラウト先生からはピンクのポインセチア。
ビンズ先生からは歴史書(……来ることも意外だけど、この本はいらねぇ)。
シニストラ先生(この人は天文学の先生だよーん)からは純白の毛布(日ごろ寒いからだろうね)。
フーチ先生からは箒のカタログ(……つまり、自分のを選べと?!マイホウキ作れってか!)。
マダム・ポンフリーからは常備薬(私おてんばでしたっけ?)。
マダム・ピンスからは季節を感じられる一二か月ごとの栞(しおり)。
『……私って、いったいどんなイメージなの??』
疑問に思いながら、残った黒い箱に手を付ける。
もう既に分かってはいると思うが、これはセブルスからのプレゼントである。
『おお!?』
開けてみれば、セブルスはイヤリングを送ってきていた。
しかも、ネックレスと同じように、ラピスラズリと金のイヤリングである。
『セブルス、ありがとう!!』
「ふん」
彼は少しだけ赤くなって顔を背けた。
やべぇ!
セブルスめっちゃかわええ!!
てか、選んだもの的に女子力高いんじゃ!?
『で、アルバスじいちゃんは……はぅあ!?』
「どうした?!」
『……アルバスじいちゃんのプレゼントが……過激な下着なんです!!』
「なっ……」
どうやら、一番困るプレゼントを送ってきたのは、身内になってくれた人らしい。
『で。なんで、セブルスのプレゼントを整理させられてるわけ?』
「禪は侮れませんからな」
『つまり、勝手な行動を制限したというわけですか』
「分かっておるではないか」
という感じで、私はセブルスのプレゼントを整理していた。
彼はプレゼントのほとんどを床の上に置いていた。
……私はさっき危険人物以外の物はちゃんとしまったのに…………
ちなみに、ドラコ君のもしまいました。
だって、悪意の一欠けらもなかったからね。
あ、プレゼントの中身はお菓子の詰め合わせとハンカチだったよ。
……色はやっぱりスリザリンカラーだったけど。
ちなみにアルバスじいちゃんのは、黒い袋に入れて床にほっぽいてあります。
『セブルスこの黒い羽ペンは?』
「机の上に置いておいてくれ」
『じゃ、こっちの黒バラは?』
「……捨てろ。いや燃やせ」
『じゃ、後で一緒に焼却処分で』
ひらりと落ちたカードを見る。
…………どうやら、黒バラはルシウスからだったようだ。
何…………このタラシ。
後輩にも花とか送るんだ……。
「ああ、そうだ」
『ん?』
「これありがとうな」
そう言ってセブルスが取り出したのは、アクアマリンと銀の鍵がついたストラップ
何を隠そう、私が送った品である。
え、秘密機能?
付けてあるけど、まだ教えてあげません。
『気に入りました?』
「ああ、意外とセンスが良い」
……セブルスが大人しいだと?!
と、いう驚きは少々控えておきましょうか、この際。
カモフラージュの為にもね。
その後、昼食をセブルスの部屋で済ませ(いえ、外に出してもらえませんでした……トホホ)、夕暮れが空を染め上げてゆく。
さてさて、問題のマルフォイ邸への参上、じゃないご招待されたパーティーの時間が迫ってきた。
『じゃ、セブルス着替えてくるね~』
「……と言いながら逃げる訳ではなかろうな?」
『さすがにもうその考えはないですからねェ』
私は大人しく、自室に戻りドレスを着用する。
やっぱり、着てるだけで疲れる………………………
『よし、行くわよ!セブルス!!』
気合をみなぎらせ、ガッツポーズする私。
タラシは嫌だが、やるからにはやってやるぜ!
「待て。化粧はしなくていいのか?」
『してます。ただ、かなり印象が変わってしまうツケマツゲとか変な厚化粧とかしてないだけです』
「……そういうものなのか?」
『そういうものです』
「……確かにいつもより白いな」
『ね、ちゃんと化粧してるでしょう?』
「ちょっとお待ちなさい!!」
セブルスとの話がまとまりかけた瞬間、ミネルバが入ってきた。
『……どうしたんです?ミネルバ』
「これ持っていきなさい」
ミネルバが私に渡したのは、一見フツーのペン。
『なにこれ?』
「仕込みペンです。ここ(一番下)を相手に当てて、カチッと押せば相手を気絶させる事が出来ます」
『……ミネルバ。そこまでする必要性ある?』
「あのルシウスの主催するパーティーに行くのです。これくらいの防犯はしておくのが普通です」
ミネルバの力説具合に、セブルスは頭を抱えており、私は面倒だと思った。
そんなに、ルシウスって好色家だった??
て、ミネルバとルシウスの間に何かあったんだろうか?
私は渋々その(スタンガンもどきの)ペンを受け取り、セブルスと共に煙突飛行した。
「これはこれは、セブルス」
着くなり、早々声が降ってくる。
煙突飛行の反動を何とかこらえて、声のする方を見れば、そこにはプラチナブロンドの長身の男性がいた。
今回のクリスマス・パーティーの主催者、ルシウス・マルフォイである。
「先輩……」
セブルスがつぶやくように言った。
あ、この反応は内心呆れてるな。
「そちらの可愛らしいお嬢さんが、禪・蔡塔かな?」
セブルスのリアクションを無視して、ルシウスは私を見つめてきた。
というか、既に片手が顎の下にあるのは反則です。
『この度のご招待ありがとうございます』
にっこりと笑顔で言う。
「さぁ、こちらへ」
その笑顔で気を良くした――一瞬何か少し考え込んだかして表情が変わったが、――すっかり甘いマスクを張り付けたルシウスは、私の手を引いて会場へと案内する。
セブルスは私達の後ろに張り付くように移動した。
え、慣れてるって?
いえいえ、んな訳ありません。
セブルスの張りつく行動は慣れてるとは思いますがね。
クリスマスの会場は、マルフォイ邸の庭だった。
「ここが、会場だよ。ああ、デザートはそちらにあるのでどうぞ。私は少し大臣と話をしてくるので、失礼するよ」
そう言って、ルシウスは去っていった。
え、敵にまで甘党だと認識されてる?
……ドラコの逐一報告怖い………………。
『……セブルス。』
「言うな。大体は察した」
『じゃ、フルーツタルト貰って来ます』
「……そっちじゃない」
『へ?』
「あまりうろちょろするな」
『……甘いもの嫌いでしたね。では、キッシュがそこにあるのでこれで手を打ちます。この後の予定もありますし』
「………………(そういう意味じゃないのだが)」
という事で、さっそくお皿とフォークを用意し、キッシュを乗せる。
「おっと、甘いものじゃないがいいのかい?」
いきなり話しかけてきたのは、ドラコ君。
家だよね。
そりゃ、いるのがフツーだけど、その話し方少しは丁寧にしようよ。
『ええ、いいのよ。えっと、ドラコ君だっけ?』
「君は付けないでいい。それで。それでいいのか?僕の母特製のレアチーズケーキもあるが」
なに!?
ナルシッサさん特製ケーキ!!?
「やぁ、ドラコ。練習はしておるかね?」
私が動揺しまくっているところを、セブルスが割り込むようにして会話に入ってくる。
「スネイプ先生もいらっしゃったんですか」
え、セブルスには敬語?
監寮だから?
いや、先生だからか……
じゃ、私の場合はグリフィンドール生だから……
べ、別に羨ましいとか思っていませんからね。
どちらかいったら、同世代だからこその会話だと思っています。
「ああ。君の父君に招待状をもらってな。彼とは、後輩先輩の仲だ。もちろん、我輩が後輩だが……」
セブルスがそう言えば、ドラコは少し悦が入ったように笑う。
……将来が心配だなぁ。
ドラコは、ハリーとは違った危うさがある。
ま、似た者同士だがね。
「そうでしたか、スネイプ教授もどうぞお楽しみください。僕はこれで失礼します」
機嫌よく帰るドラコ君。
『セブルス。あと少ししたら帰りましょう』
「そうだな。その方が、良かろう」
……二人とも演技できるのは一瞬だろうな。
セブルスには閉心術があるからいいけど、私はそんな器用なまねはできない。
そのあと、ルシウスが大臣を引き連れて持ってきた。
なぜに?!
来んでいい!!
私は心の中でそう叫ぶ。
が、その叫びは受け入れてもらえず、大臣が来てしまった。
ぉう、なんと無情な……。
タラシ(ルシウス)が説明し始める。
「ああ、大臣。紹介いたします、こちらダンブルドア校長の孫の禪・蔡塔。禪、こちらが魔法大臣:ファッジ殿だ」
って、やっぱりドラコ君逐一報告してるし……
「ほぉ、君がダンブルドアの孫か。言っては悪いと思うが、あまり似ておらず、なかなかの美人」
見た目太っちょの大臣がそう言った。
彼はやはり役人らしく黒いスーツに身を包んでおり、どこか見下すような視線だ。
…………遠まわしにアルバスじいちゃんを貶してるし。
老人は敬った方がいいんだよ??
ってか、こいつ確か後で後悔させてやるきかいあるよな、あるよね。
マジで後悔させてやろう……
『いえいえ、そんな。私ごときが美人とは思うておりませんわ。こちらの奥様の方がなかなかの美人で』
腹に一物抱えながら、本当のことを言う。
だって、ナルシッサさんマジで美人でしょ。
「おお、そうだったな。君の妻も結構な美人であったな」
「記憶におとめいただき、妻も喜んでいる事でしょう。今宵のディナーの一部は妻が作りましたので、どうぞご賞味ください」
突然振られたにもかかわらず、ルシウスは話を料理にずらし、大臣はご馳走へと向かう。
……なんか柳に風ってかんじだね。
「今宵は、存分にお楽しみあれ。今宵は残念だよ、私が選んだ君の豪華ドレスアップ姿を見られなくて」
私に向き直って、そういうルシウス。
『ドレスは結構前から作っていたので、こちらを選びましたの。ええ、本当はそうしたいのですが。生憎、この後に予定を入れていますの』
そう言えば、表情が曇った。
「ご予定が?」
『はい。ホグワーツでもささやかにクリスマス・パーティーをするので、そちらに伺わなくてはいけませんの。残念です』
とても残念そうに言う。
嘘は言っていない。
まあ、正確には”クリスマス・パーティーと私の誕生日祝い”が控えているのだが……
「そうか、それは残念だ。では、今度は妻のナルシッサの誕生日にでも来てくれ。あれも喜ぶ」
彼はそう言って私の手を握り、口づけを落とす。
やべぇ、しつこいぞこのタラシが!
私は別の人からがいい!
ほらそこの黒だよ黒(セブルス)!!
そのままルシウスが去って、私はセブルスと共に帰った。
帰り際に、ドラコが走り寄ってきて何やら箱を渡された。
部屋について、その箱を開けてみればレアチーズケーキが入っていた。
こういうとこだけ気が利くよね、ドラコ君。
↓↓【実はこんな話があったんだよ談】↓↓
セブルスの部屋まで何とか笑みを浮かべて帰ってこれたが、入った瞬間に私の顔はゆがんだ。
『ふぅ、やばかった』
「やはり、禪には演技は無理だと――」
『そっちじゃないです』
「ではなんだというのかね?」
『私の中の怒りがヤバかった』
「は――――――?」
『あのタラシがぁあ!
セブルス無視して、私に気安く触り、あまつさえキスしやがてぇええっ!!』
その場で怒り出す私。
「禪、落ち着け」
『落ち着いてられるかぁあ!!』
「…………(これは、もう先輩に会わせない方がいいな。誘いも断らねば……)」
こうしてセブルスは、私の乱心ぶりにおののきながら、決意を固めたのだった(笑)。
と言ってもこの決意を私が知るのは、もう少し先の話である。
ちなみにこの後で、ドラコ君の箱を開けたのさ。
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