またこのパターンか。
見たことのある天井と、嗅ぎ慣れてしまった薬草の匂い。
て、マジで穴があったら入りたい……
「気が付いたか」
これまた聞きなれたべルベッドヴォイスが横から聞こえた。
いや、斜め上からだ。
『私、いったい……』
「昨日、この部屋に倒れていたのだ。高熱を出してな」
『……私どのくらい寝ていたのですか?』
三日とか言ったらシャレにならない。
「昨日の夕方、ちょうど十六時ごろだ。そこから先程まで寝ていた」
『情けないなぁ、私。……まさか、変な寝言とか言ってませんか?』
うっかり本音とか言っていたら、私はどうすればいいか分からない。
「確か言ってたな」
なんだとー!!
「確か“タキトリテルエンベルグ”だったか……」
なに言ってんの私――!!!!
告白じゃなくてよかったけど、そんな意味不明の言葉なんなんですか!!
「さてとにかく、これを見ろ」
セブルスが、私のリアクションなどいろいろスルーして、私に鏡を差し出す。
『ほへ?』
セブルスにしては珍しいことをするなぁと思いながら、私は鏡を見た。
そこには私の元の姿が映っていた。
『ええええええええ!?』
「うるさい」
『あ、すみません。え、でも、ええ?なんで??』
大きな声を出したためにセブルスに怒られて、テンションが一時的にでも下がったが、それでも私は戸惑い続けた。
今は子供の姿になってしまっているはずだ。
なぜだ。
なぜ、おばさんという領域に片足を突っ込んだこの年の姿となってしまっているんだ。
「戸惑うのも分かるが、我輩とて戸惑っている。校長や、マクゴナガル、マダム・ポンフリーも禪がその姿に戻るところを見ていた」
なんだと?!
「昨日。高熱を出したおまえを、とにかく看病するために、服やらなんやら着替えさせたんだ。その時に、ネックレスを外したんだ。そしたら、その姿になったというわけだ」
『……このネックレス。そんな機能だったんですか…………』
ベッドの横のサイドテーブルを見れば、私の杖とネックレスが置いてある。
変幻自在か。
「これで、ますますそのネックレスを外せなくなったな。その姿では、授業に出席などできまい」
『ですね。……さて、どちらだろう?』
「ん?どういうことだ?」
『このネックレス自体の効力か、それとも使われている石の効力か、使われている金の効力か。それだけで意味合いが違ってくる。機能が二つか一つか…………』
「そう急くこともあるまい。少しづつで良い。…………ところで、その姿になってから考えるのが速くなった気がするが……」
『そういえば、そうですね。やっぱり、脳が小さくなっていたせいでしょうか?』
作戦やらなんやらを立てる時は、この姿になったほうが大人らしい戦でできるという事か。
んで、子供の時は奇抜なアイデアを出す事が出来ると…………
まるで物語を作って、推敲するときと同じだな。
あれは最初、勢いだけで書き、後に冷静な視線(客観的ともいう)で書いたそれらを整理し、訂正などをしてゆく。
マジで、来年から使わなきゃあかんかねぇ。
あの永遠のナルシスト中二病に。
*もちろん、永遠のナルシスト中二病とは、リドル君のことです。
『あ』
「どうした?」
何か、青い結晶のようなものが空中を漂っていた。
「ああ、それか。それは確か、朝方からおまえの周りに出始めたものだ」
セブルスが、さして驚かずに言う。
『ま、まさか……』
私の中にとある仮説が生まれた。
「心当たりがあるのか?」
『ええ…………。セブルスも既に一度は体験していますよ』
「なに?」
『三頭犬のところに行く際に、私はセブルスを宙吊りにしたこと覚えてますか?』
「忘れるはずが無かろう。あんな醜態……!?」
どうやら相当悔しかったらしく、肩を震わせている。
『……なんか、すみません』
「すみませんで済むか!」
キッ!とセブルスが睨む。
『……とにかく、その時使った魔法にも、これと同じようなものを出現させてるんです。その時は、セブルスがこの水晶の中心になる感じで魔法が発動していたんです』
「……ほう。そうだったのか」
『といっても、まさかこういう風に自然に発動するとは、思いませんでした。ただ、何となく、この魔法の発現方法は察しました』
「どのような?」
『元々私は察するなんて高度なやり方はしません。いや、できないんです。ですが、もともとの知識の方が、それらをできるまでに支えている。……発現方法は、私の深層意識に反応しているのだろう、と思われます』
「…………深層意識か」
『ええ、いわば無意識とも取れるような条件下ですが……。今では世界で“東”と言われる方の人間であれば、それは根付いているかもしれない』
「それはどういうのだ?」
『……神域。境域。堺。簡単に言えば、結界。そこから入ってはいけないという意識』
「……わからないな」
『でしょうね。こちらでいけば、神様の顔をじかに触れてはいけないとか言えば、分かるかな?』
「……協会の十字架とかか」
『まぁ、そんなところです。ですが、私の中で存在する結界の範囲はもっと広い。例えば、柵か、紐で何かを囲った、としましょう。その範囲が全て結界になります』
「全てか」
『はい。全てです』
「広いな」
『ええ。いわば、敷地全てですからね。そこには入っちゃいけないし、何も捨ててはいけない』
「……聖域か」
『ああ、こちらにはそう言う言葉もありましたね。たしか、サンクチュアリでしたっけ?』
『ま、そういう聖域は、私の住んでいた国ではたくさんあった。そこらかしこに。なにしろ職場でも、食卓でさえもありました』
職人だけ入れるの場所とか、食卓だと箸(はし)がそうだったなぁ。
『そんなこんなで、この魔法は無意識の産物です』
「……わかった。だが、それより先にネックレスをつけたまえ。やることがあろう?」
セブルスが話をそらす。
『ほへ?』
今日やることがあっただろうか?
「……また忘れているのか。今日は土曜日だ」
『あ!』
すっかり、ドレスのこと忘れてた!!
「また、曜日感覚がくるっているのだな。お前というやつは……」
ああ、うん。
呆れてものが言えない、っていうんでしょ?
「仕方のないやつだな」
え?
ええ??
セブルスがなんか違う。
これって、吉?
それとも、凶?
って、え、期待してもいいんですか?!
「とっととつけたまえ」
セブルスにネックレスを手渡される。
戸惑いながらも、私はネックレスを受け取り、それをつけて再び小さくなった。
……なんか、聞くタイミングを逃した。
「さて、とりあえず、校長室に行く」
『アルバスじいちゃんとこ?』
「ああ。報告せねばならんからな。それにお前の無事な姿も見たかろう」
………
『やっぱり、心配してましたか?』
「してた。校長に限らず、マクゴナガルも、マダム・ポンフリーも」
『そっか……』
こそばゆい感じがして、セブルスの手を握ろうとする。
それにセブルスが気づいて、ちゃんと握ってくれた。
「いくぞ」
彼はそう言って、クローゼットに入っていった。
て、クローゼットが繋がってるなんてどっかのファンタジー小説だな。
いや、この世界も、小説の世界なんだが……
アルバスじいちゃんが即興で作ったか?
引き籠りのセブルスのために。
「おお、禪。来たな」
『アルバスじいちゃん!!』
顔を見て思わず飛びついた。
「熱が下がったんじゃな。よかった」
『心配させてすみません』
アルバスじいちゃんに心配させてしまったのは、後悔がある。
元々この人はいろいろ抱えているのだ。
ここに来た時だってそうだった。
それを増やしてしまうなんて、迷惑というものだろう。
私は感謝と謝罪の意味を込めて、少しきつめに抱きついた。
「……禪。我輩も心配していたのだがね」
『セブルス。さっき言いましたよ?』
「……言われてない」
『……そうでしたか?』
「そうだ」
『……』
「……」
お互いゆずらない私とセブルス。
「まぁまぁ、二人とも落ち着きなさい。さて、禪。そろそろ何か起こるかね?」
何とも言えない空気にいたくなくて、アルバスじいちゃんは、沈黙を破るように言った。
『……アルバスじいちゃんは分かっているんじゃない?』
大体仕掛けてのはこの人だ。
「……確信が欲しいんじゃよ。もともと、ワシもセブルスも不確かなものに委ねるつもりはないのじゃ」
アルバスじいちゃんがそう言うと、セブルスがとても辛そうな顔をした。
と言っても、些細な顔の変化しかできていないので、いつもの表情に近い。
……そっか。
予言のことだね。
『そういうことであれば、深夜セブルスと見回って来ましょうか。不確かなら、その目で見てきてしまった方が確実ですし』
「禪の口から聞きたいんじゃよ」
『……そうですか。事はまだ起こりませんよ。ただ、とある少年が彷徨っているだけ』
もちろん、ハリーのことである。
「やはりそうか……」
アルバスじいちゃんは眼鏡を光らせて、確信を得たような顔をする。
来年、別の少年が彷徨うとは、夢にも思っていないだろう。
しかも、ある意味親玉だ。
『……見回りはどうします?』
「そうじゃな。してくれるとありがたい。ワシでも手の届かぬことはあるのでのぅ」
真剣にあるバスじいちゃんが言うものだから、私も真剣に返した。
『アルバスじいちゃんだからこそ、手が届かぬのでは?』
「こりゃ、一本取られたのぅ。そうじゃ。じゃから頼むぞ。禪、セブルス」
話を振られた。
いや、結局流れ出押し付けられたセブルスが、顔をしかめる。
「ところで、禪のドレスは何色かの?」
アルバスじいちゃんは一変して、茶目っ気たっぷりの顔で質問してきた。
『えっと……』
ちらりとセブルスを見やる。
「スミレ色だ」
それにセブルスがため息をついて答えた。
「ほう」
アルバスじいちゃんが長いひげをなでながら、少しだけ目を見張る。
「セブルスが選んだのかね?」
『そうですよ。いまいちドレスの色は考えていませんでしたから……』
「禪は、ドレスをギリギリで作ろうと思っている節もありましたからな」
『仕方ないでしょう、セブルス。私はドレスなんて、ほぼ着た事ないに等しいんですよ?』
「ふん。常識を知らぬ方が可笑しいのだ」
『いや、あのね、セブルス。私の国はドレスを着る常識より、着物という伝統衣装の方を着る常識が濃いんです』
「……常識は常識だ」
ぷぃっとセブルスは横を向いてしまう。
ああ、うん。
セブルスはこういう人だよね。
それを好きになっちゃった私もどうとか思うけど…………
しかたないよね。
物好きだもの。
「行くぞ、禪。報告はした。ダイアゴン横丁へ。ドレスを仕上げて、もらってこなければならぬ」
セブルスがそう急かした。
彼は背を向けて先に、校長室にある漆黒色のクローゼットの中へと入っていってしまう。
その様子に、私は呆気にとられ、アルバスじいちゃんが苦笑した。
『……アルバスじいちゃん』
私は、セブルスが去ってから、アルバスじいちゃんに問う。
「なんじゃ?」
アルバスじいちゃんは微笑んだ。
『私の本当の姿は――』
「別に怖くはなかったよ」
…………
『でも……』
「ワシは、禪の元の姿はもっと怖い顔しているのかと思っておった。しかしそれは間違いじゃった。禪の元の姿は、普通の女性じゃったよ」
……
『私は…………』
「自信を持ってもよいのじゃ。禪の悪いとこは、その自信の無さだとワシは思う」
私は、息をつく。
『いいのかな、生きてても……』
「だれも、文句は言わんよ」
とても、優しい、アルバスじいちゃんの言葉。
そして――
朝の柔らかな日差しが、校長室に降りそそいでいた。
◇~~~~~~~~~~~~~~~~~◇
「遅いぞ、とにかく煙突に入って我輩につかまりたまえ」
アルバスじいちゃんと話を終えて、セブルスの後を追ったら、まずこの台詞が彼の第一声であった。
『すみません』
「ふん、禪は謝る事しかしてないな。しかし、いいだろう、後でたっぷりと聞かせてもらう」
セブルスがどこか見下すように、暗い表情で目を細めて言う。
あ、やばい。
このパターンってセブルスマジで尋問する気だ。
一番初めに“真実薬は効かん!”とか言って、上手く躱していたのだけど…………
色々秘密を抱えざるを得なくなった今。
言わぬべき事が多々あり過ぎて、使われたら本末転倒。
という事で―――マジやべぇ!!!
内心で、悩みまくる私。
結局、待ちきれないセブルスによってがっちりつかまれ、私は彼と共に煙突飛行した。
「まぁまぁ、お久しぶりねぇ!出来てますよ、ささ此方へ!」
店の扉を開ければ、マダムが笑顔で出迎えてくれた。
ここのマダムは相変わらず、いいおばちゃんである。
『ええ、お久しぶりです。では、よろしくお願いします』
私がにこやかに会話している間に、セブルスは脇を通り抜け、さっさと奥へ行ってしまう。
ああ、燕尾服も今日だったか……
「あら、気が早いのね。スネイプ教授ったら。じゃあ、行きましょうか」
急がなくてもいいのに、てきぱきしているセブルスに苦笑したマダムが、促す。
私はそれに応じて、マダムの案内で、店の奥へと入っていった。
右が女性で、左が男性らしい。
このマダム・マルキンの店はそういう作りらしかった。
ま、子供は一緒の場所にコーナーがあるが、こういう計る場所は違うらしい。
「はい、出来上がったものはこちらですよ」
女性用試着室兼採寸場所に行けば、そこに完成したドレスがあった。
『わぁ~』
セブルスが選んだスミレ色は。
シフォン生地と相まって、柔らかな色をしていた。
「どうです?」
『私には、もったいないくらいに綺麗ですね』
感想求められても、それしか言えない。
「では、後こちらからつけるビーズを選ぶのだけど……どれがいいかしら?」
そう言ってマダムは、大きな箱を出してくる。
テーブルに置き、フタを取れば様々な形のビーズが入っていた。
『ん?これって宝石みたいですね?』
「ええ、煌びやかで、品があるものを選ぶとね。実際に、宝石もいくつか入っていますよ。ほら、これはペリドットで、こっちはカーネリアン」
マダムが指差して言ってゆく。
『へぇ~って、それだと値段が高くなっちゃいません?』
「大丈夫よ。これは価値がほとんどないクズ石。でも、使いようによっては見栄えがいいの」
『どこらへんが価値がないんです?』
「ああ、ほら。ここにキズがあるでしょう?あとこっちは透明度が足りてないわ。あ、そこにあるトルコ石は青みがないからよ」
『……理由いろいろですね』
「ええ。あ、その横にあなたがつけてる宝石。ラピスラズリもあるけれど、それも青みと金の含有量が足りてないのよね」
マダムが指差す。
カーネリアンの横にあるそれを手に取ってみた。
そして、自分のネックレスと比較する。
青みも金の含有量もネックレスの方が勝っていた。
というより、クズ石が青ならネックレスのそれは、紺碧。
いや、含まれている金がいい位置でキラキラ輝いていて――まさに夜空そのもの。
……え、ってことは、実はこれ魔法のアイテム以前に、ひと財産なんじゃ…………
ますます手放せません。
元々、いいラピスラズリが目茶苦茶高いのは知っていた。
が、そんなものが私についてくるはずないと思い――クズ石だろうと思って適当に扱っていたのに……
価値がそうなければ、ワンコイン(五百円以内)で手に入ったからなぁ、前の世界。
使われている金も純度によっては価値が高いです。
まさにひと財産。
自分が“持ち歩く資産”を身に着けていると知り、私はわずかに顔を少し引きつらせてしまった。
「それで、どうします?」
マダムが改めて聞いてくる。
『うーん。このスミレ色に合って、なおかつ、このネックレスに合うものでしたら、いいかなと考えているのですが……』
いまいちピンとこない。
紫と青と金に合いそうな色……
赤はない。
銀もない。
緑?
いやここは、オレンジ?
……黄色はないな。
ピンクはおかしい。
あえての黒は――闇側に目付けられそうだから却下。
「あ、これはどう?」
悩みまくっていると、マダムが指差す。
それは水色の石だった。
『いい色ですね』
「ええ、キズが少々あって、すごく安いけど、これも宝石なのよ。ちなみにアクアマリンよ」
『確かにいい石ですが、ネックレスのラピスラズリに被りそうですね……』
「そうなのよね……じゃあ、少しばかり値段が上がるけれど、これでどうかしら?」
何かをごそごそと出すマダム。
それは小さな箱であった。
マダムがふたを開ければ、黒っぽい石が入っていた。
『なんです、それ?』
「アレキサンドライト」
へ?
『なななななな、あの有名な!』
アレキサンドライト
別名:宝石の王様
特徴:光の加減で色が変化する
産地:スリランカ、ブラジル、ロシア、インド、タンザニア、マダガスカル
化学での複製可能ただし、コストがかかりすぎる
絶対にラピスラズリより高い!!
『これ、かなり高いんじゃ……』
「大丈夫よ。これは確かに大きいけど、品質はいまいちのもの。だから比較的安価なの。あ、もうこの石で決定ね!それじゃ、つけるから」
いつの間にか決定事項になってるし……
ああ!
私はまたひと財産付けて歩くことになるのか…………
私は、また、内心ため息をついた。
日光の下では緑色がかった青から深緑に見え、ロウソクの火に照らされるとスミレ色や深紅、赤紫色、紫色、あるいはオレンジ色。
そんな七色変化の宝石をつけたドレスを試着してみる。
なびくスミレ色のシフォン生地。
その胸元には金とラピスラズリのネックレス。
そして、希少価値があり、見事に色を変え、耐久性が高
く、ダイアモンドのような輝きを持つアレキサンドライトが所々に縫い付けられ……………
ああ!
私には不分相応だ!
いや、私が宝石につりあっていない!!
誰かここに、姫様系女子を!!
鏡に映る自分に向かって叫んでいると、
「それが禪のドレス姿か」
セブルスが来た。
うそーん!
『セ、セブルスそのなんか私にはもったいないくらいで、その私が服に着られている感じがぬぐえないというかなんというか――』
うわあぁん!
こんな見苦しいのをセブルスに見られるなんてぇ!!
「……別に似合っているぞ。それに、服に着られているのではなく、服を着こなしているとは思うが……」
そう言うセブルスは、見事に燕尾服を着こなしていた。
どうしよう……。
セブルスがそう言うとは思いもしなかった。
てか、セブルスの燕尾服姿がおいしい!
「マダム、これで完成か?」
セブルスが確認する。
「ええ。お代は少し予算オーバーですが、完成です」
「では、このままもらって行こう。代金はこれで足りるか?」
「ええっと、あ、少し多いですね。はい、こちらはお返しして、おきますね」
いつの間にやら話が進んで、会計まで済ませているセブルス。
「では、これで失礼するか。禪、服を着替えてこい。我輩も着替えてくる」
そう言ってセブルスは去った。
……なんだろう。
なんかセブルスとマダムに振り回された感がぬぐえない…………
箱に詰めてもらったドレスを抱えながら、ダイアゴン横丁を歩く。
隣には、さっそうと歩くセブルスがいた。
『あれ、セブルス。服は?』
「ここだ」
そう言ってセブルスは何やら巾着のようなものを出す。
『なんですかそれ?』
「我輩オリジナルの魔法をかけた袋だ。これに入れれば、重さも量も関係ない」
『ようは、魔法の道具ですね』
自分だけ楽するのか……
「禪はその状態で持ち歩くつもりか?」
『私はそういう便利な道具もってないんですよ……』
「お得意の魔法で創ればよかろう」
『こんな時に創れません』
どこのだれが見ているか分かりゃしない。
「それもそうか。では、そのまま持っていたまえ」
『せめて、そこに一緒に入れてほしかったです』
「…………しかたない。入れたまえ」
『ありがとうございます!』
「その“ですます調”、せめてプライベートでは止めないか」
『普段の口調に出るので嫌です。というより、一応一線引いておきたいですし』
「はぁ…………」
とにもかくにも、二人はこんな会話をしてホグワーツに戻った。
しかし、私自身もセブルスも分かっていなかった。
双方、少しずつ天然が入っているなどとは………………
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