買い物




 コンコン



『おはようございます』

 早起きして身なりを整え、三十分ほど座禅という瞑想をした後。


 隣のセブルスの部屋の扉を叩いた。










「……Ms.蔡塔か。入りたまえ」










 耳に心地よいベルベッドヴォイスが中からした。


『失礼します』

 そう一言いい、部屋に入った。
 
 扉を閉め、声の主はどこかと探すと、ソファで優雅に紅茶を飲んでいる。




(そう言えば、紅茶好きでしたね)
 



「さて、Ms.蔡塔。君もここにきて少し付き合いたまえ。それからでも十分に、買い物には間に合う時間だ」

 セブルス・スネイプがそう言って、禪をソファへと促した。
 禪は笑顔で頷き、彼が示す通り、彼の前のソファに座る。
 紅茶のいい匂いが鼻孔をくすぐった。



(真実薬でも入っていそうだねぇ)



 魔法薬の天才で、疑り深い彼ならばやりかねない。
 

(でも、ここは飲むか。別に入っていてもなんともないし。ショックはない)


 差し出されたカップを手に取り、口をつけた。
 コクリと飲むと、独自にブレンドしてあるのか、今までに飲んだことのない香りが咥内に広がる。


『いい匂いですね。それにとってもいい味です』

「……驚きだな。我輩が真実薬を入れていたらどうするつもりかね?」

『別にどうもしませんよ。ただ、素直に真実を述べるまでです。ただ、教授の紅茶は一度飲んでみたかったんですよ。元いた世界では茶葉を選ぶほど紅茶が好きでしたし、例の物語で教授が飲む紅茶の味と匂いには興味がありましたし』

「……」

『それに、教授程の人が味が変わるほど真実薬を入れるとは思いませんし、そのような劣化版真実薬を作るとは思いません』



 そう、禪はもともと紅茶好きだ。
 コーヒーも緑茶もほうじ茶も、色々飲みはしたし、親しんでも来たが、やはり一番紅茶がしっくりとくる。
 紅茶好きで、あの“ハリポタ”で有名な紅茶が飲めるというならば、そこに真実薬が入っていても問題はない。
 いや、そのような些細なことは気にしない。



(……流石に闇側の紅茶ならご遠慮いたしますけど)


「当然だ。味がわかるほどのような悪い出来にしてしまうなど、我輩はしん。常に完璧な魔法薬を作る」

 眉を片方あげ、スリザリン特有の言い方をしながら、セブルス・スネイプは言う。







「さて、では少し話してもらおうか」


 彼は口の端を上げて、怪しい笑みを作った。







(やっぱり入れてたか。流石は、疑い深い人だねぇ。さて、享年三十八なんてさせてやんないぞ?現在三十一歳陰険根暗引き籠り教授)

 禪も内心だけ口の端に笑みを浮かべていた。
 

『いいですよ。何をお聞きになりたいのですか?』

 禪は温かい目を向け、笑みを浮かべたままセブルス・スネイプに言う。

「……怖くないのか」

 セブルス・スネイプは戸惑うように聞いてきた。
 実際戸惑っているのだろう。
 彼が相手してきた相手に、禪のような人はそうそう居ようはずもない。

『怖くないかと言えば、怖いです。でも、どうせバレるなら先に言ってしまった方が良いでしょう?』

 にっこりとほほ笑んで、セブルス・スネイプに言う禪。

「……確かにそうですな。では、まずは我輩達に名乗った名前は本当か?」

 いつもの調子に戻ったようで、彼は尋問を開始した。

『本当よ。禪が名前で、蔡塔が苗字』

「出身地に偽りはないかね?」

『偽りは少しだけある。わざと分かりにくく言っていたが、私は異世界の日本という国から来たの』

「なぜわざとそのように分かりにくく言ったのかね?」

『私の癖。それ以外の何でもない』



(うん、嘘っぽくてもそう言う風に言ってしまうのよね。自分でも悪い癖だと思うけど、これは結構愛着ある癖になってるのよね)



 恥じる様子もない禪を見て、彼は目を細めながらも質問を続けた。


「予言の本を読んだというのは本当か?」

『予言というより、第三者またはハリー視点の物語を読んだに過ぎない。でもそれらの行動は貴方達にとっては予言でしかない』

「それを狙われると、なぜおもう?」

『誰がいつどこで何をどうやってするのかわかるなら、狙うでしょう。彼らならば、喉から手を出してでも欲しがる情報が私の脳内にあるのだから』

 真実薬は素直な答えが聞ける。
 しかし、同時にその人でなければわからない言葉で提示されることも多々あった。

「ふむ……もう少し聞き方を変えよう……では、ハリー・ポッターはこの後どこでホグワーツからの手紙を受け取るのかね?未だ見ていないようなのだが」

『海の上』

 即答した禪に、セブルス・スネイプが目を見開く。


「なぜそのようなところで……」

『ダーズリー家が邪魔していたから。一時的に家を転々とし、辿り着いたのがそこだっただけ』

「…………今年、何が起こるかも知っているのか」

『もちろん。しかしこれは言うつもりがない』

「なぜだ?」

『ハリー・ポッターには試練が必要だから』

「貴様はどうするつもりだ?」

『私に出来る限りの事はするつもり、まだ内容は未定』

「……」

『……』

「……」

『……』

「……」

『……』










 しばらく沈黙が続き、五分ほど経過した。









『教授、他に聞きたい事は無いですか?』

 禪は未だに温かい目で、セブルス・スネイプを見て笑いながら言った。
 

 


 




『やっぱり人多いですねぇ。まずはどこに行くのでしたっけ?』





 生まれて初めてのダイアゴン横丁は、とても宝物のように思えた。
 

 禪は三十路近いというのに、子供のように(身体は子供だからいいじゃんか)はしゃぎながら、セブルス・スネイプに聞く。


「はしゃぐな。まずはグリンゴッツに行く。資金がなければ準備も何もなかろう」

 彼は額を抑えながら、溜め息混じりにそう言った。



 真実薬の効き目はとうに切れており、彼女とともに騒がしいダイアゴン横丁に彼は来ていた。
 移動手段は敷地外からの姿現しだ。



(なぜ、こやつが平然としているのかわからぬ。先程まで真実薬を使われていたというのに、さほどショックが無い。校長が言った“例のあの方に似ている”というのは、間違いではないのか)




 元死喰い人の彼は、間近で例のお方を見たことだけあって校長の早とちりではないかと思う。
 
 玩具を目の前にしてはしゃいでいる子供のような彼女が、ヴォルデモート卿と似ているなどという事を。


『あ、そっか。ふふ~、子鬼さんが間近で見られる!』


(子鬼も楽しみなのか……)


 グリンゴッツの子鬼は癖がある。
 必要最低限の事しか言わぬし、トロッコは最悪だ。



(それを見たいと言う彼女は、あの森番と同じようなところがあるのだろうか)



「……とにかく、行くぞ」

 はしゃぐ彼女の腕を引っ張り、彼はグリンゴッツ魔法銀行へと歩いて行った。








『ホワアアアアアアアアー!』

「……黙らんか」







 数分後、彼らは最悪と言われるトロッコに揺られていた。
 行く先はアルバスが禪にあげた金庫の一つである。
 彼女は、銀行を視界に入れた途端に目をキラキラさせていた。

(物好きだやつだ)

 このトロッコは最悪の揺れのはずであるというのに、彼女の目は未だにキラキラしている。
 口から漏れる奇声も、恐怖で出たというより、興奮して出たようなものだった。


「着きましたよ。お嬢様、鍵を」


 真っ青な顔をしたセブルスを尻目に、ニッコニッコの顔で禪は子鬼の手に鍵を乗せた。
 

 

 

 子鬼が扉を開ければ、一面の金貨。

 

 

(え、金銀ざっくざく?)




 それが、その金庫の感想だった。

『ほへー』

 禪は持ってきていた袋に入るだけそれらを詰め込む。
 セブルス・スネイプは気分が良くなさそうだし、助言など期待ができないので、適当だがそうするしか彼女には方法がなかった。




『じゃ、帰りましょうか。子鬼さんお願いします♪』



 (これで買い物できるぜ!)と興奮する彼女は、ルンルン気分で子鬼にそう言った。



 

  ◇~~~~~~~~~~~~~~~~◇





 トロッコから無事に帰還した後、禪はセブルス・スネイプの顔色を窺った。
 その顔はまだ青く、酔いがさめていなさそうである。


『喫茶店にでも行きましょうか?』

「いや、いい。さっさと用を済ませたまえ」


 心配して休憩させようと思えば、きっぱりと断られた。




(意地ですかね)




 確かにセブルス・スネイプという人物はこういう性格だ。
 無理を多少してでも目的を遂げてしまう。




『了解です。では、どこに行きましょう?』

「マダム・マルキンだ。そこで、制服を作ってもらえ。ついでに私服も何着か用意しもらうがよかろう」

『教授はどうします?』

 男性が見ているには、服屋というのは退屈なところのはずだ。

「我輩は書店に行ってくる。貴様の教科書も買っておこう」



(うん、上から目線。調子が悪くとも、口調は変わらんのね)


 それでも、教科書を買ってくれるという彼は優しい。



『……マダム・マルキンの店ってどこです?』


「すぐそこに見えぬか?」


『いえいえ、私初めてなので分からないんですよ?』


「……そういえば、そうだったな」





(忘れておいででしたか……)





 禪は苦笑して、彼の言葉を待った。
 

 

 

 

『すみませーん』

「あらあら、いらっしゃい。お嬢さんはどこかしらホグワーツ?」

『ええ、ホグワーツです。あと、制服の他にも私服をいくつか買いたいのですが……』

「まぁ!では、まずサイズをお計りしますから、こちらへ!」


 マダム・マルキンはとてもノリのいいおばちゃんだった。









 ここへはセブルス・スネイプに連れてきてもらった。
 その彼は現在書店にいるはずである。
 

(なんだかんだでエスコートしてくれるとは、優しいツンデレ紳士だよね)









 鏡の前まで連れてこられ、マダムにサイズを計られた。
 出来上がりを待つ間に、私服にといくつか服を見て回る。
 途中、店員がフリルがゴテゴテ付いた服を薦めてはきたが、やんわりと断った。

 見た目は十代だが、中身は二十代後半。
 流石に着る気は起きない。

 シンプルで少し大人しめの服を選び、出来上がった制服とともに会計してもらうようにしてもらう。

 

 その際にフリルを薦めていた店員が、苦い顔をしていたが見て見ぬふりをする。





(せめて肉体的に、もう少し大人になってからセクシーでもエレガントでも着こなすので、今は我慢してくれませんかね)




 しばらくして制服が出来上がり、それを宅配で送ってもらうようにマダムに言う。

 マダムは了承し、住所を聞いてきた。
 住所を告げると、あれっとマダムは首をかしげる。

 (そりゃ、ホグワーツですって言ったらこうなりますよね)

 事情の一部――ダンブルドアの孫になった事――を伝えれば、彼女は納得し快く承知してくれた。
 






 そして、お礼を言って店から出た時、失敗したと禪は顔をしかめた。

(やべぇ、次どこ行けばいいんだ?)

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