ストーリー

 2014年の年の瀬、2015年11月のヒラサワと称する男からヒラサワにSkypeコールが来る。男は言った、「2015年11月に来日 予定の外タレがお前にとっての近い将来に来日をキャンセルする。私はキャンセルの瞬間を見計らい、使用者を失ったコンサート会場を即座に押さえた。これを お前がキャンセルすれば大きな損害をおまえ自身が被る。お前は11月のコンサートを実現しなければならない」そう言い残して彼は去った。

 11月のヒラサワ…? 現在のヒラサワは、同じヒラサワである11月の男と自分を区別するために、11月のヒラサワを「過去向く士」と呼ぶことにした。 それは、暦の小の月、二 月、四月、六月、九月、十一月を「にしむくさむらい」と呼び、十一月の十と一を縦に並べて「士=さむらい」と読ませることに由来する。

 過去向く士は、現在のヒラサワが2015年に行う可能性のある全てのTask(仕事)をロックし、その解除Switchを国内外に分散して隠した。そして、11月に向けてライブの準備だけを行うよう現在のヒラサワを監禁し、作業を強制した。

 ところが、過去向く士に異変が起こった。過去の記憶が急激に失われていくことから彼は悟った。彼は11月現在の自分自身の成立に必要な過去を自ら消してしまったのだ。
このままでは自らの存在が消滅する事に気づいた過去向く士は、現在のヒラサワを自由にし、Task(仕事)のUnlock(ロック解除)作業に取り掛かろ うとしたが、手遅れだった。彼は少しずつ消滅し始め、今や半存在とも言える希薄な状態でΨヶ原に居る自分を発見した。

 Ψヶ原とは、我々の住む現実に出現する前の物事が、どのように出現するかについての全ての可能性を持ったまま靄のように漂う空間であり、 我々の現実と重なっているものの我々には見えない領域のことである。この領域で半存在者は物事のたった一つの可能性だけを取り出して実体化させることがで きる。しかしそれを我々の現実に出現させるには、誰かがそれを実在するものと信じて観察しなければならない。

 過去向く士は、自らLockしてしまったTask(仕事)を復活させるための施設、Task Control Center(作業操作センター)をΨヶ原に実体化させた構造物の中に構築し、その画像を現在のヒラサワに送った。残念ながらTask Switchそのものを出現させるには近過去の記憶が不足していた。結果Task Control Center(作業操作センター)は、関連性の薄い記憶を寄せ集めた大仰な施設となった。何も知らない現在のヒラサワが、送られて来たTask Control Center(作業操作センター)の画像を実在するもと信じ込んで認識すると、それは我々の住む現実に出現した。

 薄れ行く記憶の中で過去向く士が頼れるのは、LockしたTask(仕事)を解除するSwitchを埋め込んだ場所のおぼろげな記憶と、 Switchの入れ方を記したメモだけである。かろうじてソロ新譜のLockは自ら解除したものの、その後は残る全てのSwitchの場所を忘れてしまっ た。彼はΨヶ原からTask Control Center(作業操作センター)を通して人々に呼びかけ、彼に代わってスイッチの場所を探し、必要なTask(仕事)をONにするよう求めた。

 これで、やるべき事はやったはずの過去向く士だが、それでも晴れない胸中の黒雲が何なのかが分からない。彼は、外タレが来日公演をキャンセ ルする前に、何か別のことを目撃している。それが全ての中心にあるような気がする。そして、不鮮明に漂う11月のステージ立つ自分の記憶。あれはインタラ クティブ・ライブだったかも知れない…。しかし、全ての記憶は日に日に薄れてゆく。

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最終更新:2015年05月08日 17:21