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うだる様な日差しと湿気が支配する、この季節は夏。 僕は、剣道部顧問として、この夏の合宿に来ている。 この今年の合宿も、滞りなく行われる…ハズだった。 発端は、夏休み前の職員室。 僕がパソコンを使って、合宿先を探していたとき。 「蒼星石~、さっきから何してるですか~?」 「夏の合宿に使う所を探してるんだ」 「そうですか…、ならば翠星石が手伝ってやるですよ♪」 ……。 ここで、僕は予感がした。 何か、とんでもない事になると…。 翠星石の口調には特徴がある。 普通の人ならば、今日の翠星石はいつも通りに映るだろう。 僕は、長年の付き合いだから分かってしまったのかもしれない。 今日の翠星石の口調は、ろくな事が起きないときに出る口調だ。 そして、今回もその例に漏れず、とんでもない事になってしまった。 「へぇ、武道場がある旅館って、結構あるんですねぇ」 何を考えているんだろうか…。 いつもの翠星石なら、めんどくさがってこんな事はやらない。 「ここなんか良いですねぇ…、どうですか?チビ苺」 「ここが良いの~」 いつの間にか雛苺先生まで居るし…。 それに、ここはちょっと高いよ…。 「よし、ではポチっとな、ですぅ♪」 「ポチっとな、なの~♪」 何がポチっとな、って…、あああっ! パソコンの画面に映し出されるのは、「予約」の二文字。 「翠星石…、何を…したの…?」 「何って、予約をしたんですよ、予約を」 さも平然と答える翠星石。 「さぁて、一仕事終えたから休憩するですか。行くですよ、チビ苺」 「はいなの~」 そして、固まっている僕を尻目に、翠星石は職員室を出て行ってしまった。 とりあえず、現状を確認しなければ。 そう思って、僕は翠星石が予約した場所について調べてみた。 どうやら、最近改装した旅館らしい。 場所は…、温泉地。そして、料金も他に比べると割高。 はぁ……。 どうしよう…、教頭になんて報告すればいいんだろうか…。 そう考えて頭を抱えていたら、翠星石が懲りた様子もなく職員室に帰ってきた。 そして僕は、満足そうな表情をしていた翠星石を連れて、人気のないところまで連れてきた。 全てを説明してもらう為に。 「どうしてあんな事をしたの?」 「どうしてって、蒼星石を手伝ってやっただけですぅ」 「そうじゃなくて、何であんなところを選んだの?」 「何でって、そりゃ…、まぁ…アレですよ…」 「 ア レ っ て な に さ ? 」 「いやその…、アレってのはですね……」 やっぱり、翠星石は何かをたくらんでいる。 翠星石の目は泳いでいて、答えもしどろもどろだ。 まったく、困ったものだよ。 「そうです、アレですよ」 何か言い訳を思いついたみたいだ。 「ほら、合宿って大変じゃないですか。 それなのに、おんぼろの旅館になんかに泊めさせられたら、生徒はたまったもんじゃねぇですよ。 だから、温泉や美味しいご飯のある旅館を、翠星石が選んでやったのですよ♪」 そう、自信満々で答えた翠星石。 一見まともな答えのように見える。 しかし、過去の翠星石の言動からしてみれば、これは隠れ蓑だ。 そう、僕は確信していた。 「 本 当 に ? 」 「な、何を言ってるですか…、す、翠星石は生徒のことを考えてですね……」 どう見ても怪しい。 目が泳いでいる。 「とりあえず!そういうわけです。てなわけで、後は任せたですぅ~!」 そう言って、翠星石は逃げるようにその場を後にした。 任せたもなにも、翠星石は剣道部とは何の関係もないじゃないか。 それなのに何で…、翠星石はあんな事をしたのだろうか。 まぁいいや、予約しちゃったものは仕方ない。 翠星石の言ってた言い訳も、教頭への言い訳に使えそうだし。 普段頑張ってくれてるみんなへの、ご褒美だと思えば良いや。 そして、僕は合宿の予算案を提出した。 しかし、そのとき僕は気付かなかった。 旅館の代金に、僕と部員+二名分の代金が追加されていた事に。 つづく
うだる様な日差しと湿気が支配する、この季節は夏。 僕は、剣道部顧問として、この夏の合宿に来ている。 この今年の合宿も、滞りなく行われる…ハズだった。 発端は、夏休み前の職員室。 僕がパソコンを使って、合宿先を探していたとき。 「蒼星石~、さっきから何してるですか~?」 「夏の合宿に使う所を探してるんだ」 「そうですか…、ならば翠星石が手伝ってやるですよ♪」 ……。 ここで、僕は予感がした。 何か、とんでもない事になると…。 翠星石の口調には特徴がある。 普通の人ならば、今日の翠星石はいつも通りに映るだろう。 僕は、長年の付き合いだから分かってしまったのかもしれない。 今日の翠星石の口調は、ろくな事が起きないときに出る口調だ。 そして、今回もその例に漏れず、とんでもない事になってしまった。 「へぇ、武道場がある旅館って、結構あるんですねぇ」 何を考えているんだろうか…。 いつもの翠星石なら、めんどくさがってこんな事はやらない。 「ここなんか良いですねぇ…、どうですか?チビ苺」 「ここが良いの~」 いつの間にか雛苺先生まで居るし…。 それに、ここはちょっと高いよ…。 「よし、ではポチっとな、ですぅ♪」 「ポチっとな、なの~♪」 何がポチっとな、って…、あああっ! パソコンの画面に映し出されるのは、「予約」の二文字。 「翠星石…、何を…したの…?」 「何って、予約をしたんですよ、予約を」 さも平然と答える翠星石。 「さぁて、一仕事終えたから休憩するですか。行くですよ、チビ苺」 「はいなの~」 そして、固まっている僕を尻目に、翠星石は職員室を出て行ってしまった。 とりあえず、現状を確認しなければ。 そう思って、僕は翠星石が予約した場所について調べてみた。 どうやら、最近改装した旅館らしい。 場所は…、温泉地。そして、料金も他に比べると割高。 はぁ……。 どうしよう…、教頭になんて報告すればいいんだろうか…。 そう考えて頭を抱えていたら、翠星石が懲りた様子もなく職員室に帰ってきた。 そして僕は、満足そうな表情をしていた翠星石を連れて、人気のないところまで連れてきた。 全てを説明してもらう為に。 「どうしてあんな事をしたの?」 「どうしてって、蒼星石を手伝ってやっただけですぅ」 「そうじゃなくて、何であんなところを選んだの?」 「何でって、そりゃ…、まぁ…アレですよ…」 「 ア レ っ て な に さ ? 」 「いやその…、アレってのはですね……」 やっぱり、翠星石は何かをたくらんでいる。 翠星石の目は泳いでいて、答えもしどろもどろだ。 まったく、困ったものだよ。 「そうです、アレですよ」 何か言い訳を思いついたみたいだ。 「ほら、合宿って大変じゃないですか。 それなのに、おんぼろの旅館になんかに泊めさせられたら、生徒はたまったもんじゃねぇですよ。 だから、温泉や美味しいご飯のある旅館を、翠星石が選んでやったのですよ♪」 そう、自信満々で答えた翠星石。 一見まともな答えのように見える。 しかし、過去の翠星石の言動からしてみれば、これは隠れ蓑だ。 そう、僕は確信していた。 「 本 当 に ? 」 「な、何を言ってるですか…、す、翠星石は生徒のことを考えてですね……」 どう見ても怪しい。 目が泳いでいる。 「とりあえず!そういうわけです。てなわけで、後は任せたですぅ~!」 そう言って、翠星石は逃げるようにその場を後にした。 任せたもなにも、翠星石は剣道部とは何の関係もないじゃないか。 それなのに何で…、翠星石はあんな事をしたのだろうか。 まぁいいや、予約しちゃったものは仕方ない。 翠星石の言ってた言い訳も、教頭への言い訳に使えそうだし。 普段頑張ってくれてるみんなへの、ご褒美だと思えば良いや。 そして、僕は合宿の予算案を提出した。 しかし、そのとき僕は気付かなかった。 旅館の代金に、僕と部員+二名分の代金が追加されていた事に。 僕達剣道部は、合宿をするための旅館に到着した。 豪勢な建物に敷地、いかにも高そうな旅館だ。 部員達は、今までにないような合宿に喜んでいる。 そして、手続きを済ませ、僕は部屋へと向かった。 部外者二名を引き連れて。 合宿初日の朝。 集合場所である駅へと着いた僕は、とんでもない光景を目にした。 荷物を持って、部員達と話している翠星石と雛苺先生の姿を。 「蒼星石、遅かったじゃないですか」 「……なんでここに居るの?」 「なんでって、合宿についていくためですよ」 「……へ?」 そして、僕は翠星石から説明を受けた。 要約すると、「手伝ってやる」とのこと。 嘘だ。 ここで、今までの翠星石の不可解な行動の説明がつく。 翠星石は、学校の予算を使って温泉旅行に行くつもりだ。 僕とした事が、なぜ気付かなかったのだろうか…。 いかにも翠星石が考えそうな悪巧みなのに……。 そうこうしているうちに、僕達が乗る電車の発射時刻が迫ってきた。 さて、翠星石たちをどう説得しようか……、いや、出来そうになさそうだ。 翠星石と雛苺先生は、既に部員達を引き連れて改札を抜けていた。 「蒼星石ー、早く来るですよー、電車が行ってしまうですよー」 もうだめだ……。 部屋から見渡す景色は、見晴らしがよく素晴らしいものだった。 眼下の街には、温泉客が浴衣姿で散策し、軒に連なる店が地元の名品を売っている光景が広がる。 さらに、温泉街独特の辺りから吹き出す湯気が、その雰囲気を一層に盛り上げていた。 その都会離れした光景に、翠星石と雛苺先生は喜んでいる。 僕も、その光景には感動した。 だけど、僕は観光でここに来たのではない。 合宿と言う立派な学校行事に則って、ここに来ているのである。 「さてチビ苺、早速行くですよ」 「行くの行くの~」 「 ど こ に ? 」 すかさず、僕は二人を引き止める。 今は合宿中なのだから。 それに、二人は「手伝い」で来ているんだし。 「ちょ、ちょっと温泉の湯加減を見に―――」 「今から練習だよ。 も ち ろ ん 手伝ってくれるんだよね?」 「あ、あったりめぇですよ、翠星石たちは手伝いに来たんですからね…」 「そ、そうなの~…」 「そう、ならよかった。だって合宿だもんね」 「そ、そうですよ…、合宿ですからね…」 「うゆ~…」 どう見ても落胆している翠星石と雛苺先生。 その二人を引き連れ、僕は武道場へと向かう。 フフ、僕は転んでもただでは起きないよ……。 初日の練習は、長旅の疲れもあるだろうから、軽めに済ませることにした。 まずは、道場で素振りをした後、併設されているグラウンドでランニングをし、その後に再び道場で筋トレといった感じである。 それほどハードな内容にしたつもりはなかったんだけど、二名ほどへとへとになって倒れてている人がいる。 僕は、その二人に話しかける。 「二人とも手伝ってくれて助かったよ」 「そ、そうですか、なら、よかったんですけど……」 「うゆ~……」 「明日も頼むよ、翠星石に雛苺先生♪」 「「……」」 なにやら恨みのこもった視線を感じるけど、気にしない。 だって、これは「合宿」だもん♪ 「鬼です…」 「なの~…」 「今なんか言った?」 「な、何でもねぇですよ」 ある程度体力が回復した二人を連れ、部屋に戻った。 さて、そろそろお風呂の時間か…。 「ほら、お風呂いくよ」 屍状態になっている二人にそう告げる。 すると、二人は見る見るうちに活気を取り戻していった。 「そうです!風呂ですよ!早く行くですよ!」 「早く行くの~!」 まぁまぁ、二人とも落ち着いて…って、いつの間にか二人とも居なくなってるよ。 それだけ早く動けるなら、練習で発揮してくれれば良いのに…。 翌日早朝五時。 今日からは本格的な練習が始まる。 まずは、この手伝いに来た二人を起こさなければ。 「ほら、起きて、朝だよ」 「うぅ~、なんですかぁ?」 「朝だよ」 「朝って、まだ五時じゃないですか」 「練習を始めるよ」 「あと五分…」 「駄目だよ」 そして、僕は翠星石の布団を引っぺがす。 「うぅ~、なにするですかぁ~」 さて、もう一人も起こさなければ。 「雛苺先生、朝だよ」 「うゆ~…、分かったの~…」 雛苺先生は、翠星石と違って素直だなぁ。 まったく、翠星石は自覚を持ってくれなきゃ。 僕は、着替えを済ませ、同じく着替えを済ませた二人を引き連れて、武道場に到着した。 さぁ、今日も練習だ。 練習内容は、昨日と同じく基礎から。 そして、朝食を食べた後に防具をつけての練習。 防具をつけての練習も中ほどに差し掛かった頃、ふと二人の姿を見失ってしまった。 どこに行ったんだ…。 「見るですチビ苺、あれが自由を手にした民衆の姿です」 「うらやましいの~」 「我々は絶対に勝利しなければならんのです、自由を手にするのです」 「うぃ~、翠星石先生あいと~」 「おめぇも頑張るのですよ、チビ苺」 「はいなの~」 見つけた。 どうやら、グラウンドのフェンスから街を見下ろしているみたいだ。 なにやら話していた二人を引きずり、道場へと戻る。 「翠星石死すとも、自由は死せずですぅ~!」 何言ってるんだか…。 翌日。 「いいですか、チビ苺。何事も、静かに素早くですよ」 「了解なの~」 「バカ、声が大きいです」 「ごめんなさいなの…」 「何を静かに素早くするの?」 「げっ、蒼星石…」 「で、何をするの?」 「い、いや~、何でもねぇですよ…」 「そう?なら良いけど」 脱走?駄目だよ。これは合宿なんだから。フフフ。 その後も、二人は何度か脱走を試みたみたいだったけど、全部僕が引き止めた。 まったく、手伝ってくれるんじゃなかったのかな? 合宿最終日前々日夜。 「頼むです。翠星石たちに自由をくれです」 「お願いなの~」 二人はついに折れた。 こそこそと動くのをやめて、僕に対して直接交渉に持ち込んだ。 「駄目だよ、教師が遊んでちゃ示しがつかないよ…」 「……なら、部員みんなと一緒に観光するですよ。折角こんな所に来たんですから、思い出残さなきゃ損ですよ…」 はぁ、まったく…。 「「……」」 頼むからそんな目で見つめないでよ…。 なんか僕が物凄い悪者みたいじゃないか…。 「……わかったよ…、じゃ、明日は自由行動ね、これで良いんでしょ?」 「さっすが蒼星石ですぅ♪話が分かるやつですぅ♪」 「蒼星石先生ありがとうなの~♪」 まぁ、これまで頑張ってくれてたし、これぐらいは問題ないよね。 「じゃ、生徒に伝えて―――」 「その必要はねぇです」 「へ?」 「もう伝えてありますから♪」 ……。 はめられた。 これは、どっちに転んでも自由行動になるようになっていた。 ここで駄目だと言っても、なんだかんだで自由行動にするように言ってくるのだろう。 最後の最後で負けたのは僕か…。 でも、たまには息抜きも必要だよね……、多分。 合宿最終日。 昨日は、翠星石の策によって作られた自由時間だった。 温泉街を心行くまで散策し、夜、旅館に戻ってきたみんなの顔は、とても晴れ晴れとしていた。 今までの疲れを感じさせないような、そんな笑顔。 でも、結局この帰りの電車の中では、みんな疲れて眠ってしまっている。 あの二人も。 ただ、みんなの満足そうな笑顔を見ていたら、自由時間にしてよかったと思う。 練習だけで過ごす。それは正解だ。 けど、こういったあり方も、正解なんじゃないかって思う。 型にはまらないもの。それによって生み出されるものもある。 昨日の時間で、それが生み出されたのだろうか。 それは分からない。 でも、間違った事をしたとは思わなかった。 何か、僕の中で見えなかったものが、見えたような感じがした。 まったく、翠星石にはいつも助けられてるなぁ…。 「ん~、蒼星石は頭のかてぇやつですぅ、もっと遊ばせろですぅ~、ムニャムニャ」 ……。 ……まぁいいや。

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