恋島達哉1


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1.あるジャーナリストの不運


地図と睨めっこをしながら、俺はこのだだっ広い町を詮索している
――貳名市。どんな町かと聞かれたら返答に困るようなありふれた地方都市だ
歩けど歩けど代わり映えのしない景色。公園、交番、マンション、学校…あぁーくそったれ!
俺は喉の渇きを癒す為自動販売機で飲料物を買った。何故だか生ぬるく感じる
俺の疲れのせいだろうか。喉の渇きを癒しながら、俺は数日前を思い出していた

「恋島!どうせ暇だろ?なら受けてくれるよ…な?」
デスクで淡々と事務処理をしていた俺に、編集長である九鬼が何時もの張り付いた笑顔で話しかけてきた
あぁ、暇さ。売れもしないオカルト誌を出版してる出版社に勤めてりゃあな
…と心で毒づくが、大学を何浪もした俺を拾ってくれたのはこの出版社にしてコイツだ。逆らえる訳が無い
…にしても仕事の依頼が毎回酷すぎる
海に潜ってサメと戦って来いだの、UFOをおびき寄せる為に崖で踊れだの…
思い出しただけで身震いする。悪い意味で。っと俺が感慨に更けるのを中断する様に、九鬼が一枚の写真をデスクに置いた

「何です?」
「超能力者」
九鬼がそう言いながらにやける
…この野郎と思いながらも、俺は九鬼が提示した写真をじっと見てみる
読者投稿の写真だからぼやけて全体像が良く掴めない。だが何となく変な状況なのは分かる
少女と男が戦っており、男の周りに正方体?の物体が舞っているのである。CG加工という線もあるが…
「…で、何が言いたいんですか? 編集長」
俺が恐る恐るそう聞くと、九鬼は口元を吊り上げニヤリとしたまま、こう言い放った
「その写真が投稿された場所に取材してこい。取材費は自費な」
…俺の頭で預金がパタパタと飛んでいく光景が浮かんだ

ふぅ…思い出しても腹が立つ。だがこれも仕事は仕事だ
空き缶をゴミ箱に捨て、俺は地図を確認する。この先に目立つ建物は…国崎薬局か
もしかしたら世話になるかもしれない。まぁ只の取材旅行(自費)だからそ――

『駄目。このまままっすぐは、駄目』

…またうぜえ耳鳴りか。俺は両耳を軽く叩いて、真っ直ぐ向かう
一応国崎薬局がどんな建物か確かめておくか。そういや空き地を通るんだったな
俺はこれからの出費に軽く鬱になりながら、歩き始める




それにしても…路地をとぼとぼと歩きながら俺は周辺をきょろきょろと見回す
奇抜な建物があるわけでもなく、妙な人物や動物が歩いている事も無い。全く…
しかし九鬼から良く聞かされていたが、こうゆう一見何の変哲も無い環境から都市伝説などが生まれるらしい
…ホント、蛇でも鬼でも出てこいよ。スクープになるんだから

『駄目!止まって!』
……いった~。耳元で甲高く子供の声が響いた。慣れてるは慣れてるけど警告くらい出せ
だが昔からこの耳鳴りには色々と助けられたからな…俺は一応その場で止まってみる
…確かに止まった方が良いな。数メートルの先には、明らかに異常な光景が広がっていた
額から血をダラダラ流して倒れている男と、奇妙な正方形の…オブジェだろうか。いや、違う
拘束具か?それにしてはどう考えても形がおかしい。とにかく正方形の物体に両手両足を拘束された白衣の男が横たわっている

そしてその真ん中に肩を震わせている制服を着た少女が立っている。背中を向けているから表情は分からないが、多分ヤバイ
俺は近くの電柱に身を隠した。このまま行けば確実に厄介な事になる
はぁ~…もし俺が死んだら化けて出るぞ、九鬼

電柱に身を隠しながら、ジャンパーに忍ばせていた叔父のカメラを取り出した
結構年代が古いが未だに現役だ。コイツのお陰で仕事が続けられてると言っても大げさじゃない
だが…ちくしょう、腕が震えて電柱から出られねえ! 頑張れよ、俺!
出てバチィーって今の状況をカメラで取ればいいんだよ!後で超能力だの謎の心霊現象だのでっち上げれば…

…駄目だ。耳鳴りが起こらなくてもわかる。今電柱から出ること=死亡って事を
つくづく情けねえな…ガキの頃からどうも俺は…と自己嫌悪に陥ろうとしたその時
「ぐっ……おいおい、譲ちゃん。俺はただのイケてる薬局店主だぞ?
みんな殴られたら痛いんだから、無闇に暴力を振るってはいけません
って、学校で習わなかったか?
あと、乳臭いって呼ばれたくないならもう少し胸と色気身に付けやがれ。」

横たわっている白衣の男が、凛とした声で少女にそう言った。おいおい…
明らかに挑発してるじゃねーか!俺よりずっと危ない状況下に置かれてるってのに
空気がさっきよりずっと禍々しくなった。俺はというと背を向け丸まってじっとしているだけ。怖くて動けないんだよ!
そうしていると、白衣の男が二言目を放った

「……ああ。けど、そうだな。もしお前さんが、
 これから5分間生き残れたら条件を飲んでやってもいいぞ?」
条件?少女と白衣の男は何か取引をしていたのだろうか。…いやいや、どうみてもそんな事する雰囲気じゃねーって
くそ!今物凄いネタが飛び交ってるってのに…俺は両手でカメラを見つめた
…叔父さん、俺ココが死に場所になるかもしれない。だが今動かないと一生後悔しそうなんだ
だから…南無三!

ピリピリする空気に怯えながら、俺は電柱から飛び出し、カメラを構えた
…俺の目が捉えられなかったのか。何故か女子高生っぽい少女が凄い勢いで吹っ飛んだ
おいおい…幾らなんでもえぐいんじゃねえか…っと思っていると、白衣の男が体勢を立て直した

っておい!なんでカメラ構えたまんまぼーとしてんだ俺! シャッターを押そうとするがどうも指が震えて押せねぇ
にしてもあんなのからどうやって脱出したのか…白衣の男はマジシャンかなんかか?
だがそれ以上にあの女子高生だ。あんな物を何処から持ってきたやら。まさか自分で作り出した?
いや、発想が飛びすぎてる。…頭を打ったのか、俺の頭を色々と馬鹿馬鹿しい妄想が廻る

ふと気づく。白衣の男が壊した拘束具的な何かが、地上に散らばっているのを。こうまじまじと見てると立体パズルみたいだ
するとその物体は意思を持つかのようにふわりと浮かぶと、白衣の男の頭上に集まり…
「おい!あんた、頭上!」
はっとした。思わず声を出してしまった。一応大声ではないから女子高生は気づかなかったが
すると女子高生が左手を振り下ろす動作をした。その瞬間、さっきと同じ様に白衣の男の頭が四角い拘束具に挟まれた
形勢逆転…ってまたピンチに逆戻りかよ!

そう言いながら俺は忘れない内にその瞬間をカメラに収めた。一回一回丁寧に
どんなカラクリかなんて今は考えない。今この瞬間、常識じゃ考えられない事が起きているという事実だけで十分だ
のだが…ん?俺は目の前の光景が信じられず無意識にカメラを下ろした

何も無い空間から、立方体が女子高生の周りに浮かび上がるように成形されていく
しかも形もばらばらで、なおかつ女子高生に従うように動いているのだ。今まで散々非現実な光景を見てきたが…これ以上の光景は見た事が無い
白衣の男が頭を封じられ、動きが鈍っている。するとだ、女子高生の目の前でやけにデカくて黒い立方体が生み出され…
白衣の男にとんでもない速さで向かっていた。どう考えても当たったら只じゃすまない

この白衣の男がもし倒されてみろ。おそらく俺もこの女子高生に殺されちまう
だが俺にはあの女子高生を負ませる程の力は無い。…どうするりゃ良いんだ!

今更になってだが、今の状況は殆ど死と背中合わせなんだと呆けた頭で実感する
しかし何故だろう。恐怖よりも寧ろワクワクするのだ。目の前で必死な白衣の男には悪いが
ここまでの経緯で非日常に対する常識的な感覚が麻痺してしまったのだろうか。多分そうだろうな
するとだ、白衣の男がかなり危ない状況だってのに悠々と立ち上がった

そして右腕を伸ばして指を鳴らすと、女子高生の方に向き合った
よ、余裕かよ…女子高生も大概だが、あんたも普通じゃないんだな。つーか…
『逃げて! このままじゃ死んじゃうよ!』
『早く逃げるんだ! 達哉!』

あーあ…むしろお前の声のせいで動きにくいんだって。気にしない様にしていたが、さっきから何時もの耳鳴りが鳴り捲る
しかも危険を知らせるサイレンのつもりだろうか? すっごくハウリングするよ!
逃げる訳無いだろ…これでも仕事なんだ。俺は耳栓をしたい衝動に駆られながら、もう一度カメラを構える
っとその時だ、女子高生の周りを浮いていた小粒の立方体が、突然流動的に白衣の男に突撃した

俺はその立方体のあまりにも攻撃的な動きにビビる。凄ましく精度が高いらしく、的確に白衣の男の体をぶちのめす
白衣の男の体から切り傷からの軽い血飛沫や、明らかに骨が1本2本逝ってる鈍い音がする
…ってちょっと待て。もしこの白衣の男が少しでも防御にミスれば、アレが俺のほうに飛んでくるって事だよな…
…物凄く逃げたい。というか足が軽く引いている。耳鳴りよ、邪険にしてすまない
だがよ、なんか逃げるのは負ける気がするんだ。誰に言われた訳でもないが、俺はこの戦いを見届けなきゃいけない気がする

加勢するか? …馬鹿か、俺に一体何ができるんだ。だが少なくともジャーナリストとして名が知られるまで死ぬ訳には行かない
俺の思考が無駄に回転している間も、立方体の攻撃は一向に勢いを止めずに白衣の男に対して攻撃をし続ける

ふと、白衣の男がこちらを伺うような動作をした…気がする。俺の事は気にしないでくれ!なんて言えない
もしかしたら俺のせいで戦いずらいのか? そうかもしれない。いや、多分そうだ
なら俺はあんたの心意気を理解したって事で退避するぜ。写真も取れたしな

…ぶっちゃけ完全に腰が引けた事に対する言い訳だが、俺は正直死にたくない
死なないでくれよ、白衣の男。そう思いながら振りむく。――誰?つーか何でこんな所に人が!?いや俺が言えた義理じゃないが
しかも女性だ。腕と頭に軽く怪我をしてる。おいおいおい、何故だか物凄く泣きたくなって来たぜ
その時
「 ソ レ ダ ケ カ ? 」
白衣の男から人間の声じゃない、はっきりとした…怪物のような声がした。なんというか地面を揺らすような重低音だ
続くように、拳銃の発砲音…って日本だよなココ!? 何かもう色んな意味で無茶苦茶で何が正常か分からなくなってきた
なんか目の前の女性はほくそえんでるし、俺は一体どんな世界に紛れ込んじまったのか。と、突然
『達哉! 避けて!』
今までハウリングしていただけの耳鳴りが、突然大音量で耳に響いた。俺は驚いて振り返る
…白い立方形の一個が、俺の眼中目前まで迫ってきている
「…マジ?」

死ぬ瞬間ってのは、以外に耽美だ。なんつーかこ~…時間がゆっくり見えるって言うのかな…
ってそんな時世の句を残してる場合じゃねえ! だが実際恐怖で足が動けないのはマジだ
頭上からギロチンのようにゆっくりと四角い立方体が落ちてくる。いや、凄い速さかもしれないが、恐怖のせいでゆっくりに見えるのかもしれない
だがそれ以上に最悪なのは、俺の目の前の女性の頭上にも、立方体が落ちてきていることだ

幾らなんでも目の前の人が死なれたら俺はもっと嫌だ。自分が死ぬ以上にな
俺はどうすればいいか目を閉じ考える。…待て、これは諦めじゃないか? いや、違う!
何かこの状況を打破する方法を考えるんだ。こういう修羅場なら、幾度とでも…

…畜生、マジで思いつかねえ!だんだん立方体の重圧感がびしびし伝わってきた
嫌だぜ…こんな訳も分からないまま巻き込まれて…と言っても俺が首を突っ込んだだけだが
目の前の女性だけでも助けたい。俺は金縛りにあった様に棒立ちの足を動かそうとする
クソ、動け!今だけでも良い!動いてくれ!

その時だ、

「そこで覗いてる奴等! 逃げろっ!!!」

体がビクッっと反応した。白衣の男が俺と女性に向かって怒号を上げたのだ
覗いたのは本当にすまなかった。だが逃げたくても体が動かないんだよ!
さっきから目尻に涙が浮かびそうになるのを必死に堪える。だが涙が出そうでたまらない

すると後方で、地面を抉るような音と共にぶわっと瞬間風速が凄そうな風が舞い上がった
上手く言葉で言えないが、後ろ髪がぐっと引っ張られるような感覚がした、っと
俺の横で、人間…じゃない、多分化け物か…いや、この場合は特撮のヒーローと呼ぶべきなのかもしれない
白衣の男が俺の横にピタリと並んでいた。同時に目尻で溜まって出そうな涙が止まった

…んがっ!?いつの間にか俺は頭上の箱から逃れ、路面をごろごろと転がっていた
白衣の男が助けてくれた? 恐らくそうだろう。にしても…痛え!つうかマジで背中打った!
…だが、白衣の男に比べたらこんなのは軽傷中の軽症だろう。同時に女性の俺の方に突き飛ばされる

一応命の危機は去ったようだ。すると白衣の男が信じられないほど高飛びすると、頭上の立方体を殴りつけた
が、白衣の男の右腕はずぶずぶと立方体に嵌って、ってこれさっきの状況と同じじゃないか
という事は女子高生は俺たちをダシに白衣の男を罠に嵌めたってことか…そう思うと俺の中で何とも言いがたい感情が沸いてきた

いかんいかん、冷静さを失っては…まぁさっきから失いっぱなしだが
すると腕を飲み込まれながら、白衣の男が俺たちに言った

「あー……あんたら二人、死にたくないなら死ぬ気でここから逃げてくれ。」
そう言いながら、白衣の男は片手に持っていた拳銃を女子高生に投げつけた
自棄になった訳じゃないだろう。何か白衣の男なりの秘策なのだろう。…何様なんだ、俺
ふと両足を見る。怯えが無くなったかのように自由に動く。俺は白衣の男を見上げた

白衣の男がポケットから何かを取り出し、口に入れた。何かは全く予想が付かないが
気づけば俺は今の状況をそれなりに把握できるほどには冷静になっていた。そして俺なりに結論を出す
正直女性は苦手だが…俺は俺自身の意地を見せる。それが今戦っている白衣の男に対する最大の敬意だ

俺は無我夢中で目の前の女性を握って、言った
「ここから回り道で薬局に向かう! 絶対に振り向くなよ!」

手を握ったは――え?
俺なりにカッコよく決めたはずが、女性は俺の手を握る事は無く、返事にも答えなかった、
しかもだ、いつの間にか手元の叔父のカメラが女性に奪われていた。俺が状況を把握できず呆けていると…
「──少し借りるわね」

女性はおもむろにストロボを解除した。ちょ、無理やりやるなよ!壊れちまうだろ!!
すると驚く事に女性はストロボを解除したカメラを掲げ、女子高生の方へと駆け出した
――何してんだ!さっき逃げろって言われたじゃねーかよ!

…ここで一番考えたくなかった事が頭の中をよぎり、ぐるぐると回る
そして色々と考え込むうちに、あぁやっぱりと諦めの境地になった
やっぱりあんたも白衣の男や女子高生と同じ――超能力者かなんかか

俺は何故だろう、激しい自己嫌悪に陥っていた。なーにが付いてこいだよ
どう考えても普通の人間の俺の方が命知らずじゃないか。そう思うと女性が俄然強そうに見える
『達哉、今だよ。早く逃げよう』
耳鳴りが俺にこの場から離れるよう促す。そっすね。一般人が居ちゃいけないっすね

女性は女子高生の近くまで走りこ――うおっまぶし!
突然フラッシュ炊くなや! 目が大変な事になりそうだったぞ!
ストロボから目を守る為、俺は目を塞いで顔を下げる

顔を下げながら、少し泣いた

俺は閉じていた目をゆっくりと開いて、もう一度状況を確認した
事態は一転、功を…成したか?女性が凄い事を言った気がするが聞かない振りをした
あのフラッシュ攻撃(勝手に命名)は女子高生にかなりのダメージを与えたようだ

女子高生は顔を伏せ、目を塞いでいる
そりゃあれだけの閃光を真正面でモロに受けたんだ。普通じゃすまない
…のだが、何故だろう、女子高生から殺気が薄れる事は無く、逆にもっと禍々しくなってきた
その途端、箱に両腕を突っ込んでいる白衣の男が数メートル浮かぶと、痛々しい音を立てて地面に叩きつけられた

俺は無意識に顔が歪む。それと同時にぞわぞわと鳥肌が立つ。俺は思わず女子高生の方を向いた
完全に切れてる。遠めでもはっきりと、俺たちに対して憎悪を浮かべているのが分かる
ぎゃ…逆効果だったか? あぁ…あぁ…お、終わった…

…だがよく観察してみると、女子高生の様子が少しおかしい。そりゃアレほど暴れたんだ。少しは疲れる
すると女子高生はまるで呪詛を唱えるように、しかしはっきりと俺たちに辛辣な言葉を吐いた
「始めは、ついてると思ったんだけどなぁー…。全然ダメじゃんかぁ」

俺たちの前にも、誰かに手を掛けたのか? …つくづく恐ろしいな、女子高生

「やっと掴まえたと思ったらさぁ、いっつも邪魔が入るんだもん。
しかもそれが大した事無い、機関にいても一生下っ端で終わりそうな奴ばっかりで。イラつくよ、マジで」

そ、そうだな、俺なんて平均男性に色んな意味で劣るほどだ。でもな…上手い事を言おうとするが思いつかない
ふと俺のカメラを盗った女性に目を向ける。どう行動していいか、悩んでいるようだ

「私、そういう奴がいっちばん嫌いなんですよぉ。
弱いくせに。
こんなに近くにいても、肌も震えない程雑魚なくせに。
只後ろ盾がヤバいってだけのくせに。
逃げるしか脳が無いくせに。
目潰し程度しか出来ないくせに。
弱小異能者が、やたらしゃしゃって来やがってさぁ、ホント超目障りだから」

…なんつうか聞いててどこか痛々しく感じてきた。確かに恐ろしいが、まるで自分の願望どおりにいかないのをごねる子供みたいだ
っと、女子高生の呪詛と同時に、女子高生の周りを浮いていた立方体が形態を変える。すぅーと立方体が次第に引き伸ばされていく
どうやら板の様らしい。だがその板は形も色も千差万別で先ほどの戦闘で見せた安定性は一切見られない

その時だ、浮いていた板が弾けるように一斉に女子高生の周りから散った。そして俺達の周りを暴れる様に飛びまわる
コンクリートの壁や地面があっさりと切り刻まれていく。一瞬でも触れれば人体など簡単に斬れてしまうだろう
女性や白衣の男の様子を伺う。白衣の男は両腕を拘束されたまま、空中に浮かんで動かない。女性は身構えて耐えている

目の前の女子高生は耳を塞いで俯いてその場を動かない。やっぱ限界だったのか
『達哉!右!』
耳鳴りが叫んだ。俺は耳鳴りに従って出来るだけ俊敏なステップで前に避けた。スパッといたが俺の顔を横切った
俺の頬からじわっと血が出る。耳鳴り、ありが…待て、俺は足りない頭を必死に回転させる

この状況下で、何のハンデも無いのは俺だけだ。両手を塞いでいたカメラは無いし、今はそれなりに足が動く
そして…今の状況で自由に動けるのも俺だけだ。白衣の男は動けないし、女性も蹲っている。それに目の前の女子高生
あいつさえ抑えれば、この状況は打破できる。確実に

耳鳴り…俺を導け。あの女子高生の下に。俺はお前に全てを委ねる
肝は据わった。心は怯えを見せない。――後は、動くのみ! 俺は女子高生に向かって走り出した
『達哉、後ろだ!』『右上から突っ込んでくるよ!』『下から来る!飛んで!』
しっかりと耳鳴りの声に合わせて体を動かす。普段の運動不足が祟って骨が鈍い音を立てている

それに何度も板は俺の体を切り刻む。だが俺は迷わず女子高生に向かう。足を止めれば死ぬことになる
死にそうな思いをしながら、俺は女子高生のすぐそこまで追いつく。――だが
『――駄目だ!逃げろ、達哉!』

…もう遅いよ。耳鳴りの声を聞いた所でもう遅かった。俺の背中に、かなり厚い板が突き刺さった
――だせぇ。ココが――死に場所かよ

人は余りにもヤバイ傷を負うと、痛みよりも先に感覚が麻痺してくるみたいだ
背中にジンジンと熱い物を感じる。それがダメージを負った事で流れている血だという事は、朦朧とする頭でも理解できる
呼吸が…次第に荒くなってきた。まずい、息が…俺は必死に自分を落ち着けようとする

だが体は正直だ。いつの間にか俺は両膝を地面に付いていた。
意識がプッツリいきそうだ。だが意地と根性でどうにか耐えている
にしても…悔しいなぁ。何でこう、俺って何時も空回りするんだろう

目の前の女子高生がどんな表情をしてるか、目がぼんやりとしていて分からない
だがもし驚いていたり、怖がっているならざまあみろって感じだ
これで懲りて…あれ、懲りて…言葉が…浮かばない…

しまった。完全に視界がブラックアウトだ。今の俺は恐らくその場に突っ伏している
体を動かそうとするが、腕や足はおろか指さえ動かない。体が完全に死んじまってる
意識だけはっきりとしているのが余計に嫌だ。まるで生殺しじゃねーか

…何処からか足音が聞こえる。だが後ろから来ているのか前から来ているのか分からない
もし白衣の男だったら、俺は一生白衣の男を尊敬するな。味方の大ピンチに颯爽と復活なんて、ホントにヒーローじゃないか
…だが恐らく女子高生だな。やっぱ俺の死に場所はココかよ。あぁー情けねえ

…あれ?俺、マジで死んだ?ちょ…