frame_decoration
彼が気付かせてくれたものの後日談になります。←を読むのがめんどくせえ! という方はあらすじをどうぞ。

あらすじ
人と関わることを忌避していたアリス。
霧雨の店で修行中の霖之助に会って考えが変わる。
香霖堂を立ち上げた霖之助とこれからもよろしく、と握手を交わした。


【人は変われば変わるもの】


霖之助と握手を交わしたその日から、アリスは人形作りもそこそこに1つの計画を立てていた。
名付けて、『いろいろな人(人外も可)と仲良くなりたいな計画』。
霖之助が気付かせてくれた、友人がいることの素晴らしさをもっと味わいたい。
そのために交友関係を増やそうと、なんのひねりもない名前の計画を遂行すべく頭をひねり続けるアリスだったが、

「……どうしよう……」

今まで人付き合いをまるでしてこなかったため、何をどうしたらいいのかさっぱりわからない。
霧雨の店で聞いてもいいが、あの店の人間は半妖を従業員として雇うような人間だ。
特殊すぎてあまり参考にならないし、霖之助も同様だろう。

そしてもう知り合いがいない。

人里の人間なんぞ問題外だし、そもそも彼らと仲良くなる方法を彼らに聞いてどうする。
本を漁ってもみるものの、魔法使いと人が仲良くする方法など書いてありはしない。
強いて言うなら、絵本などでよくある命を助けるとか人間が一目惚れするなどだろうが、それを待つのはいかにも気が長すぎるし今のところ恋愛は求めていない。

そして、案を出したり否定したりすること2ヶ月。

「……ふふふ、完璧よ。完璧な計画だわ」

目の下に墨でも塗ったような隈を副産物としてアリスの計画が完成した。
内容としては以下のとおり。

1.まずは頻繁に人里に出る。
 その際ただ歩くだけではなく、できるだけにこやかに挨拶することで好感度を上げる。
 今まで無表情だった分のギャップもあってかなり印象を変える事ができるだろう。

2.さらに魔法の森に迷い込んだ人間を今までのように見殺しにはせず、家に上げて保護する。
 紅茶などを振舞って『実は親切で優しい魔法使い』という噂を広める。

3.ある程度評判が良くなったら、自分が人形を人里で売っていることを公表する。
 「この人形を作っていたのは彼女だったのか!」ということでさらに評価は鰻登り。

4.ここまで来れば少しくらい話しかけても大丈夫。
 話が弾んでいる人間たちに「私も聞かせてもらっていいかしら」などと言って会話に加わる。
 気さくな所をアピールし、なおかつ周囲の人間にもその姿を見せることで芋づる式に会話できる相手を増やす。

よく見ればかなり穴だらけの計画な気もするが、一度も人の輪に加わろうとしたことがないアリスにはこれが限界。
計画の第一段階を達成すべく、意気揚々とアリスは人里へと向かった。

寝不足で隈がべったりついた顔のまま。



「……ぐすっ」

完璧な計画は第一段階で躓いたらしく、香霖堂にトボトボと入ってきたかと思えば、隅で膝を抱えてのの字を書くアリス。
なんともいえない顔をしてそれを見る霖之助だが、アリスは現時点では貴重な(この先もずっとそうだが)常連。
それに、自分にとって彼女は明るくなっていく過程を見守った友人でもある。
とにかく話だけでも聞くことにして、アリスに近寄り、しゃがみこんで視線の高さを揃える霖之助。

「……アリス。僕でよかったら、何があったのか話してもらえるかい?」

「……」

「何々?人間と仲良くなろうと思って人里で挨拶して回ったら?」

「……」

「……会う人会う人みんな怯えるばかりだったから、やっぱり嫌われているのかと改めてショックを受け」

「……」

「家に帰って見たら寝不足のひどい顔で出かけていたことに気付いた。
 普段家ではこんな顔だと思われたかもしれなくて恥ずかしいやら情けないやら、と。
 ……こんなことを言うのもなんだけど、君は意外と思い込んだら周りが見えなくなる性格をしているね」

「……みゅう」

ますます小さくなるアリス。
はあ、と息を吐いた霖之助は、とりあえずアリスを慰めるべく頭を撫でてみることにした。
そっと頭に手を載せ、髪の流れにそって優しく滑らせる。

「まあ失敗したものはもう仕方ないさ。
 今日ダメだったら2度とチャンスがこないというわけでもないんだしね。
 そもそも、今回人間たちが怖がっていたのは君自身を嫌っていたからじゃないんだし、
 今度はちゃんと体調を整えて行ってみればいいじゃないか。」

「……ん」

昔はこうして頭を撫でられたこともあったなあ、と懐かしい気持ちになるアリス。
そうだ、1回や2回の失敗で落ち込んではいられない。
今度はきちんと身だしなみを整えていこう。
何度拒絶されてもいいや。
今までが今までだったわけだし、とにかく誠心誠意頑張っていればいつか結果がついてくるはずだから。
なんとか前向きになることができたアリスだった。


……どうやら落ち着いたようだ。
そう判断した霖之助がアリスの頭から手を離そうとしたところ、

「……ぁ」

なにやら残念そうな声が聞こえたため、アリスの顔に目をやった。
アリスは一瞬名残惜しそうな顔をしていたが、直後霖之助の視線に気付いたらしい。
しまったぁ! とでも言いたそうな顔で少し見つめあった後、ゆっくり俯いてしまった。

「……やれやれ」

また閉じてしまったアリスの心を開くべく、もう一度頭を撫でる。
またすぐに元気になるだろうと思っていたが、頭を撫でてもらいたがっていた事を知られて意地になるアリス。
僕は何もしていないはずだが……とは思うものの、放っておくのも忍びない。
根競べのつもりで撫で続ける霖之助だったが、当のアリスは連日の疲れが出たようで、いつの間にか寝息を立てていた。
ここに放置するわけにもいかないと判断した霖之助は、アリスを抱きかかえて奥の部屋に運び、布団に寝かせることにした。

「おかあさん……」

横たえたアリスがそんな寝言を漏らす。
どうやら昔母に頭を撫でてもらっていたことを思い出したらしい。
最後にもう一度、アリスの髪に手を滑らせ、霖之助は店に戻っていった。


3日後、アリスは再び人里へ向かったらしい。

「さて、泣き顔でそろそろと入ってくるか、笑顔で飛び込んでくるか……」

どちらであっても面白いことにはなりそうだ、と微笑む霖之助だった。