第一章 フロイトの手記。
今日、このノートとペンが届いた。
デジタルで何でも記録できる時代に、こんなものを企業に頼んで取り寄せるのは、
ヴェスパーワンとしての職権乱用かもしれないな。
デジタルで何でも記録できる時代に、こんなものを企業に頼んで取り寄せるのは、
ヴェスパーワンとしての職権乱用かもしれないな。
言葉が、誰かに何かを伝える為に使うものだとしたら
このノートに書く、誰に対して伝えたいわけでもない言葉は、
一体なんと呼べばいいのだろうな。
私が、このノートに何かを書くという行為が、私に必要だったのだろう。
その不可解さもまた、人間の面白さというものだ。
このノートに書く、誰に対して伝えたいわけでもない言葉は、
一体なんと呼べばいいのだろうな。
私が、このノートに何かを書くという行為が、私に必要だったのだろう。
その不可解さもまた、人間の面白さというものだ。
私は、この世界を知っている。
いや、私はアーマードコアというゲームを知っていたと言うべきだろう。
そして同時に、私がこの世界の主人公ではない事を、先ほど知った所だ。
この世界の主人公は、きっと、あのウォルターの猟犬の方だ。
いや、私はアーマードコアというゲームを知っていたと言うべきだろう。
そして同時に、私がこの世界の主人公ではない事を、先ほど知った所だ。
この世界の主人公は、きっと、あのウォルターの猟犬の方だ。
アーマードコアというゲームを遊んでいた私が、
何の因果か、偶然にもアーマードコアの世界に来た時点で、
この世界の主人公は私なのではないかと、正直思っていた。
この世界の誰よりも、この戦場を楽しんでいたような実感があった。
だが、アーマードコアというゲームを知っていたからこそ、分かってしまった。
私は主人公などではなかったと。
何の因果か、偶然にもアーマードコアの世界に来た時点で、
この世界の主人公は私なのではないかと、正直思っていた。
この世界の誰よりも、この戦場を楽しんでいたような実感があった。
だが、アーマードコアというゲームを知っていたからこそ、分かってしまった。
私は主人公などではなかったと。
だからと言って、特に気落ちはしない。
むしろ自分が、よりアーマードコアを楽しめる事に、期待すら感じる。
きっとこの世界の本当の主人公は、
誰よりも、私にアーマードコアというものを楽しませてくれる存在だ。
戦場で戦う時、私は相手の人生を感じる。
手ごわい相手も、簡単な相手も、それぞれの戦い方の向こうに、人間性を感じる。
それがどうしようもないほど、私にとっては魅力的だった。
それは、アーマードコアがゲームだった頃も、
この世界で実際にアーマードコアに乗って戦っている時も、
変わらず、私にとっての最高の楽しみだった。
むしろ自分が、よりアーマードコアを楽しめる事に、期待すら感じる。
きっとこの世界の本当の主人公は、
誰よりも、私にアーマードコアというものを楽しませてくれる存在だ。
戦場で戦う時、私は相手の人生を感じる。
手ごわい相手も、簡単な相手も、それぞれの戦い方の向こうに、人間性を感じる。
それがどうしようもないほど、私にとっては魅力的だった。
それは、アーマードコアがゲームだった頃も、
この世界で実際にアーマードコアに乗って戦っている時も、
変わらず、私にとっての最高の楽しみだった。
ただ、こうしてその事をノートに書きたくなるぐらいには、
自らの死というものは、それなりに私を感傷的にさせるのだろう。
感傷ついでに、少し私の自己紹介をしておこう。
自らの死というものは、それなりに私を感傷的にさせるのだろう。
感傷ついでに、少し私の自己紹介をしておこう。
第二章 彼を、彼たらしめたもの。
アーマードコアラストレイヴン、それが私の大好きなゲームの名前だ。
24時間の戦いの中で、多くのレイヴンが戦い、死んでいく。
その中でそれぞれのレイヴンが、その人生を反映させたアセンを使い、
その人間性を感じられる言葉を話す。
主人公の選択が変われば、それらのレイヴンの生き様も変わる。
とても魅力的なゲームで、ミッションを全てクリアした後も、
全てのセリフを回収するために、何度も同じミッションを周回したものだ。
24時間の戦いの中で、多くのレイヴンが戦い、死んでいく。
その中でそれぞれのレイヴンが、その人生を反映させたアセンを使い、
その人間性を感じられる言葉を話す。
主人公の選択が変われば、それらのレイヴンの生き様も変わる。
とても魅力的なゲームで、ミッションを全てクリアした後も、
全てのセリフを回収するために、何度も同じミッションを周回したものだ。
もちろん、対人戦というものに興味はあった。
だが、私の周囲にアーマードコアをやっている友達など、一人も居なかった。
対人戦の風景を妄想しながら、アリーナの敵と何度も戦う日々。
やればやるほど、人と戦いたいという気持ちは強くなった。
アーマードコアラストレイヴンの作中のレイヴン達は魅力的で、
その戦闘スタイルも、彼らのキャラクター性を十分に表現しているが、
実際のアーマードコアをプレイしている人間と戦えば、
より情報量の多い人間性を摂取できるのではないか、という思いはあった。
だが、私の周囲にアーマードコアをやっている友達など、一人も居なかった。
対人戦の風景を妄想しながら、アリーナの敵と何度も戦う日々。
やればやるほど、人と戦いたいという気持ちは強くなった。
アーマードコアラストレイヴンの作中のレイヴン達は魅力的で、
その戦闘スタイルも、彼らのキャラクター性を十分に表現しているが、
実際のアーマードコアをプレイしている人間と戦えば、
より情報量の多い人間性を摂取できるのではないか、という思いはあった。
そんな日々を過ごす中、我慢が出来なくなった私は、
アーマードコアの対戦会を開催している個人サイトを見つけ、
その人が開いている対戦会に参加する事にした。
アーマードコアの対戦会を開催している個人サイトを見つけ、
その人が開いている対戦会に参加する事にした。
オフ会、というものは初めてだった。
リアルネームではなくハンドルネームで呼びかけられたとき、違和感と恥ずかしさを感じた。
対戦会の面々は、いかにも静かめなオタクだな、という風貌の人間が多く、
そこに奇妙な安心感を覚えた事を覚えている。
リアルネームではなくハンドルネームで呼びかけられたとき、違和感と恥ずかしさを感じた。
対戦会の面々は、いかにも静かめなオタクだな、という風貌の人間が多く、
そこに奇妙な安心感を覚えた事を覚えている。
彼らは、何度も対戦会を主催していて、新入りが入ってくる事にも慣れているのか、
こなれた様子で私に流れを説明してくれた。
レンタルスペースに、計画的に割り振って持ち寄ったテレビとPS2を二台づつ配置し、
備え付けのホワイトボードに対戦表が書き込まれる。
アーマードコアの対人戦がしたい、という強い思いが、
集まり、練られ、こうした形式を為しているのかと、思うと、
それだけで、私はそこに彼らの人生を感じてしまっていた。
こなれた様子で私に流れを説明してくれた。
レンタルスペースに、計画的に割り振って持ち寄ったテレビとPS2を二台づつ配置し、
備え付けのホワイトボードに対戦表が書き込まれる。
アーマードコアの対人戦がしたい、という強い思いが、
集まり、練られ、こうした形式を為しているのかと、思うと、
それだけで、私はそこに彼らの人生を感じてしまっていた。
初めての対戦、正直私は結構勝てると思っていたが、ほぼ全敗だった。
オフラインで想像していた対人戦というものとは程遠い、新しい世界だった。
APが高い方がタイムアップで勝つ、という情報は聞いた事があったが、
お互いのAP差で、ここまで互いの動きが変わる事は、想像していなかった。
対人戦を楽しみ、対戦相手の人間性を感じる前に、
私が未熟すぎて、何もわからないまま終わってしまった、という感想だった。
オフラインで想像していた対人戦というものとは程遠い、新しい世界だった。
APが高い方がタイムアップで勝つ、という情報は聞いた事があったが、
お互いのAP差で、ここまで互いの動きが変わる事は、想像していなかった。
対人戦を楽しみ、対戦相手の人間性を感じる前に、
私が未熟すぎて、何もわからないまま終わってしまった、という感想だった。
その後、私は彼らの仲間入りをして、常連になった。
彼らと話し、対人戦での戦い方を教わると、私もすぐに戦えるようになった。
戦い方には、人の癖が出る。彼らのコミュニティの人数は限られているので、
対戦相手の癖を読んで勝利する事も増えてきた。
だがそれもまた、私にはとても対人戦が楽しい要因でもあった。
相手が誰かわかっている方が、より戦いの中で人間性を感じられる。
私のアーマードコアの楽しさは、黄金時代を迎えたかに見えた。
彼らと話し、対人戦での戦い方を教わると、私もすぐに戦えるようになった。
戦い方には、人の癖が出る。彼らのコミュニティの人数は限られているので、
対戦相手の癖を読んで勝利する事も増えてきた。
だがそれもまた、私にはとても対人戦が楽しい要因でもあった。
相手が誰かわかっている方が、より戦いの中で人間性を感じられる。
私のアーマードコアの楽しさは、黄金時代を迎えたかに見えた。
第三章 彼が、彼になった。
アーマードコアの対戦会の楽しさというものは、
私の人生の中で、その存在感を増していったように思える。
私が生きるための仕事は、少し大変だった。
でも、次の対戦会に向けてアセンを考え、次の対戦会を最高に楽しみたいという理由は、
私が明日を生きたいという理由として、十分すぎるものだった。
私の人生の中で、その存在感を増していったように思える。
私が生きるための仕事は、少し大変だった。
でも、次の対戦会に向けてアセンを考え、次の対戦会を最高に楽しみたいという理由は、
私が明日を生きたいという理由として、十分すぎるものだった。
そしてある日、寝て起きると、世界は一変していた。
実際にアーマードコアが兵器として運用され、
コントローラーでアーマードコアを動かすのではなく、アーマードコアに搭乗して操作する世界。
アーマードコアが破壊されれば、自分が死ぬ可能性がある。
そんな、まるでアーマードコアラストレイヴンのゲームの中のような世界に、
私は急に、放り込まれていたのだ。
実際にアーマードコアが兵器として運用され、
コントローラーでアーマードコアを動かすのではなく、アーマードコアに搭乗して操作する世界。
アーマードコアが破壊されれば、自分が死ぬ可能性がある。
そんな、まるでアーマードコアラストレイヴンのゲームの中のような世界に、
私は急に、放り込まれていたのだ。
未だにその理由はわからない、どこかの神の悪戯なのかもしれない。
だが、私には好都合だった。
リアルなアーマードコア、リアルな対人戦、リアルな人生。
ゲームの中よりも解像度の高い世界に、私は期待を抑えきれなかった。
この戦場で生き続ける限り、きっと私は死ぬのだろう。
だがそれすらも、この世界を楽しむための、一つのフレーバーのように感じた。
終わりがあるからこそ、完成しないからこそ、美しいものもある。
だが、私には好都合だった。
リアルなアーマードコア、リアルな対人戦、リアルな人生。
ゲームの中よりも解像度の高い世界に、私は期待を抑えきれなかった。
この戦場で生き続ける限り、きっと私は死ぬのだろう。
だがそれすらも、この世界を楽しむための、一つのフレーバーのように感じた。
終わりがあるからこそ、完成しないからこそ、美しいものもある。
最初にアーキバスに所属したのも、特に理由はなかった。
ただ手っ取り早くアーマードコアに乗り戦う為、というだけの選択だ。
私はただ楽しかった、本物の命を賭けた戦い、戦う相手から感じる本物の人生。
その全てが、私に興奮と快楽を与えてくれた。
ただ手っ取り早くアーマードコアに乗り戦う為、というだけの選択だ。
私はただ楽しかった、本物の命を賭けた戦い、戦う相手から感じる本物の人生。
その全てが、私に興奮と快楽を与えてくれた。
強化人間、という技術がある事も知っていた。
生き残る事、勝利する事を目的とするなら、使った方が良い技術なのだろう。
実際、強化手術そのものに忌避感は少しもなかった。
だが、生身の体でアーマードコアに乗る方が、より戦いの中で相手の人生を感じられる。
昔の私が、対戦会で戦った彼らも、
そこに生身の体があり、リアルな人生があったからこそ、よりそれを楽しむ事が出来た。
彼らと雑談する中で、不意に彼らの人間性を感じ、
その人間性と、対戦中の戦い方の関連性を感じた時など、
私は、危ない表情を隠しきれていなかったかもしれない。
相手の人間性を感じるセンサーを最大化するなら、生身の肉体が、最も効率が良いのである。
生き残る事、勝利する事を目的とするなら、使った方が良い技術なのだろう。
実際、強化手術そのものに忌避感は少しもなかった。
だが、生身の体でアーマードコアに乗る方が、より戦いの中で相手の人生を感じられる。
昔の私が、対戦会で戦った彼らも、
そこに生身の体があり、リアルな人生があったからこそ、よりそれを楽しむ事が出来た。
彼らと雑談する中で、不意に彼らの人間性を感じ、
その人間性と、対戦中の戦い方の関連性を感じた時など、
私は、危ない表情を隠しきれていなかったかもしれない。
相手の人間性を感じるセンサーを最大化するなら、生身の肉体が、最も効率が良いのである。
ランク1、なんて表現は大げさだ。
確かに、アリーナのランク1というものは、どのアーマードコア作品でも特別な存在だった。
でも私は、ランクが1でも50でも、その戦場を楽しめればそれで良かったのだ。
こんなうすっぺらい私がランク1でいる事は、
アーマードコアという作品に対して、少し申し訳なく思ってしまう。
ただ、楽しかったんだ。
アーマードコアと、その世界に生きる人々の事が。
確かに、アリーナのランク1というものは、どのアーマードコア作品でも特別な存在だった。
でも私は、ランクが1でも50でも、その戦場を楽しめればそれで良かったのだ。
こんなうすっぺらい私がランク1でいる事は、
アーマードコアという作品に対して、少し申し訳なく思ってしまう。
ただ、楽しかったんだ。
アーマードコアと、その世界に生きる人々の事が。
第四章 これからのこと。
この世界の本当の主人公の話を、最初にしたと思う。
ウォルターの猟犬。レイヴンなんて名前を見た時点で、私は察してしまったよ。
その後の彼の躍進劇を見ても、その確信はより強固なものになった。
彼をレイヴンと呼ぶのは、少し嫌だな。
私も自分を、レイヴンの一人だと思っているから。
ウォルターの猟犬。レイヴンなんて名前を見た時点で、私は察してしまったよ。
その後の彼の躍進劇を見ても、その確信はより強固なものになった。
彼をレイヴンと呼ぶのは、少し嫌だな。
私も自分を、レイヴンの一人だと思っているから。
あぁ、きっと彼には勝てないんだろうな。
アーマードコアにおいて、主人公と呼ばれるイレギュラーは、シンプルに最強の存在だ。
私が彼と戦う時、私は誰よりも、その戦場と彼の人間性を楽しめるだろう。
そして私が死ぬとしても、それすらも私が求めるものの一部に過ぎない。
アーマードコアにおいて、主人公と呼ばれるイレギュラーは、シンプルに最強の存在だ。
私が彼と戦う時、私は誰よりも、その戦場と彼の人間性を楽しめるだろう。
そして私が死ぬとしても、それすらも私が求めるものの一部に過ぎない。
この世界のフロイトっていうやつは、そういうやつなんだろう。
実際、私自身そういう生き方をしてきた実感はある。
フロイトという一人のレイヴンの物語の、エピローグとして、
このノートに書いてある事は、ひどい蛇足なのだろう。
それ故、これは誰かに何かを伝える為に書かれる言葉ではない。
実際、私自身そういう生き方をしてきた実感はある。
フロイトという一人のレイヴンの物語の、エピローグとして、
このノートに書いてある事は、ひどい蛇足なのだろう。
それ故、これは誰かに何かを伝える為に書かれる言葉ではない。
フロイトは、ただアーマードコアの戦場を楽しみ、そこに生きる人々の生き様を楽しみ、
少し人の心がないぐらいの方が、かっこいいレイヴン足り得るだろう。
今から何を言うべきか考えておこうか。
少し詩的で、それでいて少しサイコな感じだけど、
ただひたすらにアーマードコアが好きだった事を感じられるセリフを、
主人公に語ってやろう。
少し人の心がないぐらいの方が、かっこいいレイヴン足り得るだろう。
今から何を言うべきか考えておこうか。
少し詩的で、それでいて少しサイコな感じだけど、
ただひたすらにアーマードコアが好きだった事を感じられるセリフを、
主人公に語ってやろう。
ある意味私は、彼の先輩でもある。
先輩として、アーマードコアの楽しさのなんたるかを、しっかり表現してやらないと。
私が、ただこの世界を楽しんだという事以外で、この世界に何かを残してやれるなら、
フロイトという一人のレイヴンの物語を、最後まで完璧に演じ切って見せよう。
さぁ、開演のベルが鳴り、幕が上がる。
ここからは、ノートに何かを書くという感傷的な行為は、もう必要ない。
先輩として、アーマードコアの楽しさのなんたるかを、しっかり表現してやらないと。
私が、ただこの世界を楽しんだという事以外で、この世界に何かを残してやれるなら、
フロイトという一人のレイヴンの物語を、最後まで完璧に演じ切って見せよう。
さぁ、開演のベルが鳴り、幕が上がる。
ここからは、ノートに何かを書くという感傷的な行為は、もう必要ない。