聖杯戦争異伝・世界樹戦線
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聖杯戦争異伝・世界樹戦線
ja
2017-06-23T18:42:28+09:00
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遠足の留守番はとっても暇
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「討伐司令って……。」
自室のホテルで士郎は、あのDJからの放送を聞いた後、暫く考え込んでいた。
いや、別段躊躇があるわけではない。只、その誘いに乗るかどうかの話だ。
(令呪は多ければ多い程良い……)
魔力消費が膨大なオーディンなら、尚更だ。
もし令呪の魔力をデッキに喰わせれば、オーディンの戦力は上昇する。
そうすれば、士郎の力は格段に上がる。
(だが、その分乗り越えるリスクも倍になるはずだ)
現状では、士郎の戦力はとてもではないが高いとは言えない。
頼みのオーディンのデッキは魔力を喰い、まともに扱えるデッキも三枚。
後はキャスターが手駒を増やし、そして、あの切札が完成すればの話だが……
(……そう言えば、キャスターからの報告がまだだったな。)
士郎は念話を掛け、キャスターに何かあったか、と念話で問う。
『どうした、マスター。』
キャスター……神崎の声が、衛宮の脳内に響く。
何時もなら、少なからず金属音の様なノイズが走るはずなのだが、そんな物も無くサーヴァントの声はマスターに伝わる。
『何か、分かったことはあるか?』
『現状では有るが、幾つかの事は教える。』
キャスターは、繁華街で見掛けた幾つかの事例を話す。
まずは、此処らを仕切っていたマフィアのリーダーが負傷した事。
「じゃあ、あの空気は……。」
『恐らく、リーダーを失い、彼等も騒然としているのだろう。
そして―
『赤い目をした住人?』
『そうだ、俺が繁華街の周囲を探索した所、幾つかの人間の目が、時折紅い光を見せていた。』
赤い目と聞けば些細なことかもしれないが、念のため聞いておくべきだ。
もしかしたら一種の呪いの様な魔術も掛かっているかもしれない。
『それで、その特徴は。』
『2つある、一つは眼球がルビーの様に光るタイプ、もう一つは、目の周りから光を発するタイプだ。』
『もしかしたら、何か暗示を掛けられている可能性は。』
『恐らくだがな。少なくとも、そのようなNPCにはデッキは渡していない。』
『……済まないな、其処も引き続き調査を頼む……それと。』
『何だ。』
『……お前にも聴こえたか、先程の討伐令。』
『乗るのか、だが我々の現状の戦力は些か心許ないぞ。それだけではない。多く
2017-06-23T18:42:28+09:00
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第一回定時放送
https://w.atwiki.jp/yggdrasillwar/pages/126.html
*第一回定時放送
決められた枠組みの中に留まることに、人は窮屈さを覚える。
幼少の頃には学生として、成人を迎えれば組織人として、出世を重ねれば管理者として。
どのような立場に置かれても、人は相応の責務を課せられ、自由に振る舞うことを許されない。
真実、人が束縛を受けず、自由でいられる瞬間など、責務をこなす力のない、赤子か老人の時分くらいだろう。
しかし人には、その枠組みを、放棄する権利も与えられている。
学校に通うことを嫌うのならば、学校を辞めてしまえばいい。
仕事に縛られることを嫌うのならば、仕事を辞めてしまえばいい。
それでも人は、その選択を、滅多に選ぶことをしない。
何故ならば、人は枠組みの中に在る限り、責務の見返りとしての保障を、常に与えられているからだ。
学生であれば、将来の進学や就職について、ある程度の面倒を見てもらえる。
会社員であれば、生きていくための資金を、給料としてもらうことができる。
反対に、それらを失えば、人は生きていく上で、大きな不利益を被ることになる。
それを恐れているからこそ、人は社会の規範や枠を、飛び出すことができずにいるのだ。
なればこそ。
なればこそ、だ。
もしもその枠組みを、踏破してしまえる者がいるのなら――
◆
一通りの外回りを終えて、壁をすり抜け部屋へと入る。
ここに至るまでの間に、念話による呼び出しはなかった。ということはつまり、全てが万事、平穏に片付いたということなのだろう。
「………」
昼間からホテルのベッドで眠る、己がマスターの顔を見て、キーパー――オリオン座のエデンは安堵した。
思えばここに至るまでに、マリア・カデンツァヴナ・イヴが辿った道は、正しく激動の茨道だった。
開幕早々何者かに、仮の住居を特定されて、謎の使い魔の襲撃を受ける。
自らの頼みの綱だった、シンフォギアシステムに不具合が生じ、己が足場が揺らぎかける。
そしてそこへ立て続けに、ライダーとそのマスターが襲いかかり、絶体絶命の窮地を味わう。
これらに数時間のうちに見まわれ、ようやく寝床へありついたのだ。できることならこのままずっと、眠らせてやりたいとも思う。
(しかし)
だがそれでも、状況は未だ予断を許さず、マリア
2016-07-27T23:29:23+09:00
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鋼人相打つ
https://w.atwiki.jp/yggdrasillwar/pages/125.html
*鋼人相打つ
生きることを諦める気はない。
ここから生きて帰るためにも、戦う覚悟はできている。
それでも、きっとそれだけでは駄目だ。
ただ襲ってきた敵を、戦って倒すだけでは駄目なのだ。
ルイズ・フランソワーズもそうだった。あの両備もまたそうだった。
彼女達は皆、何らかの願いを携えて、この戦いの場に集った。
そうした者達と戦うということは、願いを叶えたいという意志と、戦いねじ伏せるということなのだ。
だからこそ、このままではいられない。
何も知ろうともしないまま、黙っているわけにはいかない。
彼女も願いがあると言った。それは聖杯でなければ、叶えられないとまで言い切った。
それを知らぬふりをしたまま、無情に踏みにじることなど、自分には到底できるはずもない。
戦う覚悟はできている。
次に決めるのは、背負う覚悟だ。
なればこそ、今取るべき行動は――
◆
格下が格上の周囲を回る――ある者が語った戦いの常道だ。
力と力がぶつかり合うなら、力の弱い者の方が、付け入る隙を探そうとするからだ。
そして今まさにスバル・ナカジマは、その理屈をその身で実践していた。
(夕べの奴もすごかったけど……)
モーター音を轟かせる。
不整地をガリガリと削りながら、ローラーブレードを走らせる。
黄金のサーヴァントは確かに手強かった。
あれだけ激烈なパワーの持ち主には、そうそう巡り合うことはないだろうと、一瞬前まではそう思っていた。
しかし違う。あれは違う。
今まさに周囲を回って、隙を探している相手は、もっと根本的に違う相手だ。
『――グレートタイフーンッ!!』
拡声器越しの雄叫びが上がった。
轟――と唸って襲いかかるのは、恐るべき破壊力を宿した竜巻だ。
読んで字のごとく龍のような、巨大で苛烈な風の叫びが、スバルめがけて襲いかかる。
「っ!」
跳躍。飛び退って回避。
されど規模が桁違いだ。一度跳んだだけでは避けられない。
家屋を伝う。更に伝う。
襲いかかるテンペストは、たっぷり建物三軒分を経て、ようやく鼻先を掠めるに至った。
瞬間、猛烈な余波が体を煽り、スバルを勢いよく吹き飛ばす。
地を離れればウィングロードは出せない
2016-07-27T21:47:39+09:00
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膠着期間
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*膠着期間 ◆nig7QPL25k
無法者という連中は、元来日陰を好んで生きる。
腕っ節に秀でていても、国家権力と喧嘩をすれば、不利になるのは目に見えているからだ。
世界を裏から操った気でいる、支配者気取りのフィクサーも、正面きって戦えば、勝ち目は見えてこないという、臆病な打算の産物でしかない。
特に魔術を持つ者と持たざる者の、力差が大きく際立つユグドラシルでは、その傾向はより顕著であった。
「何だ。ジロジロ見やがって」
その、はずだった。
「すっ、すみません!」
低い声で凄まれた女性が、悲鳴混じりの声を上げる。
そそくさと立ち去る背中を見ながら、スキンヘッドの厳つい男は、不機嫌そうに唾を吐き捨てた。
《やはり、あの後ではこうもなるか》
偵察から戻ってきたランサー・戒斗が、やれやれといった様子の念話を寄越す。
マスターからの返事は、ない。歓楽街の町並みで、人波に紛れる黒咲隼は、その様子をじっくりと見つめていた。
先の無法者の習性からすると、午前10時のこの町の様子は、明らかに異常だと言ってよかった。
日の当たっているはずの往来に、見知った顔がちらほらと見える。
それも両目をぎらつかせながら、周囲の様子を伺っている。
こんな時間から、マフィアの連中が、警戒を強めているというのは、異常だ。
《奴の居場所は分かったか》
《あの傷だ。今は病院に身を潜めているらしい》
恐らくは追及を逃れるためだろう。アジトには姿はなかったと、戒斗は黒咲へと返す。
暗黒街の女王・雅緋が、深手を負って引きこもった。
それが末端中の末端である黒咲の耳にも、明け方の時点で届いてきた噂だ。
今まさにこの歓楽街で、神経を張り巡らせている連中は、その雅緋を守ろうとしているのだ。
混乱に乗じた何者かが、追い打ちをかけようとした時に、即座に取り押さえることができるように。
《こうなると俺達の正体は、未だ割れていないと見てよさそうだな》
それも雅緋を襲った襲撃者が、よりにもよって身内の中で、息を潜めているも知らずに、だ。
この一件について、黒咲は、特に追及を受けることはなかった。
これだけの警戒態勢を敷きながら、それをしなかったということは、黒咲を容疑者と見なしてはいないと
2016-07-27T21:49:00+09:00
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空白の騎士と暗黒の騎士
https://w.atwiki.jp/yggdrasillwar/pages/123.html
*空白の騎士と暗黒の騎士 ◆lkOcs49yLc
紘汰は、中学校へと足を急がせていた。
サガラの言葉から出た「イレギュラー」、月の脳にこびりついたバグ。
ムーンセルは、それを取り除こうと、英霊に関するデータを抹消した。
紘汰は、かつて迷い込んだ武神世界にいた武神鎧武を思い出した。
14の武神ライダーの前に現れた、将を持たぬ謎の武神。
そのイレギュラーが、戦極時代における武神鎧武だとしたら。
コウガネの時の様に、多くの参加者に被害が及ぶ危険性がある。
もしそれが本当なら、何としてもそのサーヴァントを見つけなければならない。
そして分かり合うか、倒すかにする。
そう考えながら、紘汰は足を急がせていた。
それから時間が過ぎ、紘汰とセイバーは、廃ビルが並んでいる廃れた区域を走っていた。
明らかに街から離れてしまってはいるが、学術地区にある中学校にはこちらが近いということで
今此処を走っている。電車やバス等の交通機関は、敵に見つかってしまうために使えない。
無論、ロックビークル、スイカアームズに至っては論外だ、其の上ローズアタッカーは
予選中に破損してしまった。なので、こうして走っている。
人っ子一人いないこの通りを、十分ほど走った頃だろうか。
何やら、人らしき影が目の前に近づいていた。
セイバーも、そこからおぞましいオーラ・・・いや、魔力を感じ取っていた。
◆ ◆ ◆
葛葉紘汰が学術地区へ急ぐ中、偶然か否か、忌夢もまた商業地区へと足を運んでいた。
多くの人が行き交うそこに行けば、サーヴァントが見つかる可能性が高いからだ。
通り魔がいるかは分からないが、それでも他の参加者が見つかることは
あるだろう。そんな事を考えながら、街中を走っていたその時。
<<マスター、サーヴァントの気配を感知した、此方に近づいて来るぞ>>
バーサーカーの、淡々とした、しかし何処か狂気を感じる声が響いた。
<<本当なのか?それは、何処から来ている>>
<<ああ、5時の方向から気配を感じられる>>
ホラーを狩ることを生業としてきた魔戒騎士の鎧たるバーサーカー。
故に、魔力探知はそれなりに出来る。
それを聞くと、忌夢は直ぐ様その方向へと駈け出した。
2016-05-22T21:33:36+09:00
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立花響&セイバー
https://w.atwiki.jp/yggdrasillwar/pages/122.html
*立花響&セイバー ◆HOMU.DM5Ns
◇
人の願いを叶える者。
もし英雄とは何かと問われたのなら、俺はこう答えるだろう。
絶大な力を持つ者は、自らの為に戦うべきではないと俺は思う。
無敵の躰(にく)と偉大な剣。あまりに圧倒的で膨大な力。
積み重ねた功績は数知らず。戦の傷は数の内にも入らない。
勝利する。達成する。獲得する。
兵士も、国も、竜すらもが骸に伏す。眩い伝説をいくつも打ち立てていく。
それはさながら天秤の皿に黄金を乗せるかの如く。
組した側に必ず傾く、運命に等しい重り(ちから)だった。
故に。英雄として成熟した俺は自らに縛りをかけた。
自らの意志で自らの願いを叶えず、他者からの願いにこそ己の力を振るうと。
英雄は人の形をしていても内に秘めた力は人の埒外にあるほど強力で、巨大だ。
欲望のままに動くようであれば、残る轍と起こる波紋は時として災厄を生む。
地を震わせるように、大波を引き起こすように。意識無意識の区別なく、ただ在るだけで世を動かしてしまう現象と化す。
大いなる力には、大いなる責任が伴う―――誰が言った言葉だったか。
その通りだと思う。竜が人と関わるには、己の巨躯で踏み潰さないよう気を払わなければならない。
力の代価に心を封じる。苦痛ない。俺は多くのものに恵まれ、愛された。
ならこの手に残った力は、自分以外の為にのみ使われるべきだ。
災害に遭い、涙に暮れる少女が手を伸ばせば、その手を握り締めよう。
魔獣に怯える村の住人に救いを乞われれば、その通りに戦い、救い上げよう。
求める声(ねがい)が絶えず聞こえる。俺の力が必要と必死に叫んでいる。
―――断る理由はなかった。彼らは足りず、餓えているからこそ他の助けを求めている。応えたいと思うのは当然だ。
助けを求める人を救うのに、間違いはないと信じていた。
求められるべき事を成す。
願いはただ願いでしかない。善も悪も、真も偽も、大も小も関係ない。
人を助けるのは趣味や意志ではなく、そうするよう求められただけ。
取るに足らない一人の声でも、国の民の総意であろうとも柄を握る手に緩みはない。
剣を振るう。敵を落とす。
賞賛を浴びる。願いを聞く。
歩く先々は苦難の連続で、その足跡(ライン)は光
2016-05-21T23:56:08+09:00
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恋は盲目、愛は鷹の眼
https://w.atwiki.jp/yggdrasillwar/pages/121.html
*恋は盲目、愛は鷹の眼 ◆yy7mpGr1KA
夜。
街を翔ける影が一つあった。
猫のようにしなやかに、疾風のような韋駄天で。
細身の女性と、その腕の中に抱えられた大きな何か。
周囲を警戒しながらもその速度を緩めることはなく、ひたすらに西へ西へ。
するとすぐに目的地にたどり着く。
魔術都市ユグドラシルの果て、緑の壁の先。
その端に立ち、下を恐る恐る見下ろして
(ごめんなさい…)
腕の中に抱えたもの。
十数ヶ所に銃創を負った亡骸を下界へと放り捨てる。
(賢い手とは言えないし、気の進むことでもないのですけれど……)
アーチャーのサーヴァント、シエル・アランソンは僅かに迷いながらもマスターのためを思って動いた。
正当防衛が成り立つ可能性は高いが、それでも殺人というのは罪だ。
この亡骸が誰かに見つかれば厄介になる。
もちろん真っ当な機関に通報する選択肢もあったのだろうが、シノンはそれを拒んだ。
聖杯戦争の最中に目立つ真似はしたくないと。
半ばパニックを起こしながらも自棄にはならない判断に首肯した。
なら壊れたガラスなどはともかくとして、死体はどうするか。
考えた結果、世界樹の外へと放り捨てることにした。
魔術師は俗世の立ち入りを許さない。
外界で死体が見つかったとして、その捜査がこちらに及ぶには極めて時間がかかる。
聖杯戦争の最中の時間くらいは稼げるだろう。
襲い掛かってきた不埒者とはいえ、死体を遺棄・破壊し死者の尊厳を辱めるのに仄かな後ろめたさを覚えた。
それでも戦争を勝ち抜くための最善と捉え、実行した。
(……夜の街、思ったよりも騒々しいですね。やはり皆動いているようです)
死体を抱えているのだから当然、人目につかないよう動いていた。
少なくともサーヴァントの気配や強大な魔力は感じられず、千里眼に映る世界に人影や斥候の類はない。
しかし、誰もいない夜道を駆けながら、どこか彼方に戦士のぶつかる気配を感じた。
それとかち合わないよう、慎重かつ迅速に帰宅する。
「ただいま、マスター」
「あ…おかえり」
びくり、と過敏ともとれる反応を返すシノン。
突然の襲撃で未だに心の整理ができていないらしく、部屋には割れた窓ガラスなどが散らばった出発前の状況ほぼそのままだった。
「休
2016-04-04T22:50:10+09:00
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出撃! 偉大な勇者
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*出撃! 偉大な勇者 ◆nig7QPL25k
《……遅かったか!》
霊体化した鉄也が唸る。
先の作戦会議から、一夜明けた朝のことだ。
謎の音の主を求めて、特級住宅街へ訪れた、犬吠埼風達を待ち受けていたのは、野次馬と警察官の群れだった。
恐らくは夕べの段階で、何者かがこのエリアに侵入し、攻撃を仕掛けたのだろう。
自分達よりも大胆で、監視の目を物ともしない人間が、マスターの中にいたというわけだ。
《どうしよう、ライダー?》
《まだ分からねぇことが多すぎる。奴さんが死んだのか、逃げ延びたのかも含めてな》
《ってことは、情報収集ってわけね》
《そういうことだ。せっかく来たからには、ギリギリまで足掻くぞ》
鉄也からの念話に頷き、風は特級住宅街へと乗り込む。
ターゲットが敗北したのなら、ここにはもはや何の意味もない。
だが、もしも生きていたのだとしたら、無意味で片付けて離れれば、手がかりを見失ってしまう。
であればここは行くべきだ。引き下がるのはもっと後だ。
なるべく警官の目を避けながら、風は廃墟の奥へと消えていった。
◆
「これは……」
三位一体の合体攻撃と、黄金の宝具・『偉大なる金牛の驀進(グレートホーン)』。
それらの正面衝突の結果を、立花響は知らずにいた。
巻き起こった爆発の瞬間、魔力を消耗しすぎた彼女は、その場で意識を失っていたからだ。
故に、特級住宅街を進む響は、自らの引き起こした惨状に、しばし息を呑んだ。
《仕方なかったとはいっても……やっぱり、やりきれないね》
傍らのスバルが、念話で言う。
既に火の手は消えているが、残されたおびただしい瓦礫は、未だ撤去されていない。
崩れた家屋、えぐられた石畳。煤で汚れ、無惨に砕け、積み重ねられた残骸の数々。
これらは全て、自分達が関わった、夕べの戦闘によって引き起こされたものだ。
スバルとなのはの性格を考えれば、ほとんどは相対したあの敵――黄金のサーヴァントによるものだろう。
それでも、最後の一撃のことを思えば、無関係を気取ることはできない。
「ここに暮らしてる人のほとんどは、コンピューターに作られたNPC……」
《だけど、聖杯戦争の予選に参加できず、記憶をなくしたままの人間も、いた可能性
2016-07-27T21:48:10+09:00
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刻まれるカウント
https://w.atwiki.jp/yggdrasillwar/pages/119.html
*刻まれるカウント ◆nig7QPL25k
例の通り魔の目撃証言は、ほとんどが夜に集中している。
当然だ。日本の東京に比べればだいぶ田舎だが、それでも白昼堂々人を襲って、全くバレないような土地ではない。
故に忌夢は、一夜明けた朝を、大学の図書室で過ごしていた。
(ゼイラムに、衝撃ゴウライガン……何だこれは)
ぱらぱらと本をめくりながら、呆れ顔でため息をつく。
自らのサーヴァントについての情報を、もう少し調べてみようと思ったのだが、それがこの有様だ。
魔戒騎士などという存在の資料は、本棚には一冊も見つからない。
それらしいものを集めてみても、載っているのは見当違いの名前だ。
(ムーンセルとかいうのが、こいつらの世界について知っているのなら)
その情報を何らかの形で、提供する義務があるのではないか。
英霊の真名を知ることが、アドバンテージになるのなら、それに付随する情報は、きちんと開示するべきではないのか。
これでは通り魔のヒントも、得られるかどうか怪しいかもしれない。
街に出よう。もはやここで油を売るよりも、敵を探すことの方が急務だ。
そう考えると、忌夢は席を立ち、本を抱えて歩きだした。
元あった本棚へと戻し、踵を返す。そのまま棚と棚の間を進み、外へと出ようとした瞬間。
「――お前だな。夕べ白いサーヴァントを狙ったのは」
声が、背後から響いた。
闇の奥底から響く、獣の唸りのような声だった。
ぞくり――と背中に怖気が走る。
襲いかかったプレッシャーに、体をびくりと震わせる。
一瞬の驚愕と戦慄を受け止め、何者かの存在を背後に意識し、意を決して視線をそちらへ向けた。
そこに立っていたのは、一人の男だ。
鋭い傷の刻まれた隻眼で、忌夢を高みから見下ろす、筋骨隆々とした大男だ。
ただの人間では、ない。マスターとなった彼女の視覚は、キーパーという未知のクラスの名を、その姿と共に認識している。
「何の用だ」
間違いなく、こいつはサーヴァントだ。
にもかかわらず、倒すべき敵である自分に対して、この男は攻撃を仕掛けてこなかった。
そこには何の意図がある。忌夢は睨みと共に問いかける。
「あの女は俺の獲物だった。次こそケリを着けてやろうと、そう思っ
2016-05-22T21:08:19+09:00
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ホライズン
https://w.atwiki.jp/yggdrasillwar/pages/118.html
*ホライズン ◆nig7QPL25k
街灯煌めく歓楽街にも、光の届かぬ場所はある。
路地の裏へと分け入れば、そこは無明の真っ暗闇。
きいきいと鳴く鼠の声と、がさごそと袋の揺れる音が、暗がりに響くゴミ捨て場だ。
無法者達が潜む町の、そのまた深き闇なればこそ、隠れて潜む者もいる。
「………」
その時そこに立っていたのは、そういう類の存在だった。
全身を覆うのは、灰色の鎧。
一切の光沢を放たない、無機質なその甲冑は、色彩と諸共に大切な何かが、ごっそりと抜け落ちていたようにも見えた。
顔面のフルフェイスヘルメットからは、大きな一本角が生えている。一見して印象に残る特徴といえば、せいぜいそれくらいのものだ。
されど注意深く見てみると、更にもう一つ、腰回りに、大きなベルトが巻かれているのが分かる。
仮面とベルト。それは商業地区のスーパーを襲った、奇妙な強盗の特徴だ。
「――お前だな。逃げ込んだ盗人というのは」
だからこそ彼は、その鎧へと、標的を絞り声をかけた。
「!」
気付いた時にはもう遅い。
灰色の甲冑の足元では、彼の凶器が渦を巻いている。
じりじりと音を立て忍び寄り、マスクが振り返った瞬間に、一気呵成に巻き起こったものは――砂だ。
「!?」
ざあっと大きな音を立て、砂の津波が襲いかかった。
人一人を包み込み、そのまま丸呑みできるような、それほどに膨大な量の砂だ。
それがさながら意志を持ち、大蛇のように振る舞って、鎧へまとわりついたのだった。
たかが砂。手の隙間からも溢れる砂。
されど砂だ。量が量だ。塵も積もれば山となる。
両手にすらも収まりきらない、莫大な質量の塊は、強烈な圧力を伴って、灰色の甲冑を拘束した。
「サーヴァントではないようだな。ならば、それを使うマスターか?」
靴音が鳴る。足音が寄る。
サンダルの音と共に現れたのは、赤毛を短く切り揃えた男だ。
十代後半の少年か。されど黒々とした隈が浮かぶ、その青い双眸の光は、凍えるほどに鋭く冷たい。
そしてその額には、血のように赤々とした色彩で、「愛」の一文字が刻まれていた。
我こそを愛する修羅となれ。
母の愛を継ぎ強く生きよ。
故に我愛羅。
それこそが巨大な瓢箪
2016-02-11T03:49:10+09:00
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