聖杯戦争異伝・世界樹戦線
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聖杯戦争異伝・世界樹戦線
ja
2018-05-28T17:17:42+09:00
1527495462
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参加者名簿
https://w.atwiki.jp/yggdrasillwar/pages/30.html
*参加者名簿
|No.|>|BGCOLOR(#ff6347):マスタ
ー|>|>|BGCOLOR(#87ceeb):サーヴァント
|~|BGCOLOR(#ff6347):名前|BGCOLOR(#ff6347):出展作|BGCOLOR(#87ceeb):クラス|BGCOLOR(#87ceeb):真名|BGCOLOR(#87ceeb):出展作|
|BGCOLOR(#c0c0c0):No.01|[[葛葉紘汰]]|仮面ライダー鎧武|セイバー|[[アルファモン]]|DIGITAL MONSTER X-evolution|
|BGCOLOR(#c0c0c0):No.02|[[鯨木かさね]]|デュラララ!!|セイバー|[[アヌビス神]]|ジョジョの奇妙な冒険|
|BGCOLOR(#c0c0c0):No.03|[[美樹さやか]]|[新編]魔法少女まどか☆マギカ 叛逆の物語|セイバー|[[レオン・ルイス]]|牙狼-GARO- 炎の刻印|
|BGCOLOR(#c0c0c0):No.04|[[シノン]]|ソードアート・オンライン|アーチャー|[[シエル・アランソン]]|GOD EATER 2|
|BGCOLOR(#c0c0c0):No.05|[[湊耀子]]|仮面ライダー鎧武|アーチャー|[[円環の理]]|[新編]魔法少女まどか☆マギカ 叛逆の物語|
|BGCOLOR(#c0c0c0):No.06|[[東郷美森]]|結城友奈は勇者である|アーチャー|[[ゲルトルート・バルクホルン]]|ストライクウィッチーズ|
|BGCOLOR(#c0c0c0):No.07|[[鹿目まどか]]|[新編]魔法少女まどか☆マギカ 叛逆の物語|アーチャー|[[星矢]]|聖闘士星矢Ω|
|BGCOLOR(#c0c0c0):No.08|[[黒咲隼]]|遊戯王ARC-Ⅴ|ランサー|[[駆紋戒斗]]|仮面ライダー鎧武|
|BGCOLOR(#c0c0c0):No.09|[[犬吠埼風]]|結城友奈は勇者である|ライダー|[[剣鉄也]]|真マジンガーZERO VS 暗黒大将軍|
|BGCOLOR(#c0c0c0):No.10|[[雅緋]]|閃乱カグラ SHINOVI VERSUS -少女達の証明-|ライダー|[[ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア]]|コードギアス 反逆のルルーシュR2|
|BGCOLOR(#c0c0c0):No.11|[[立花響]]|戦姫絶唱シンフォギアG|キャスター|[[スバル・ナカジマ]]|魔法戦記リリカルなのはForce|
|BGCOLOR(#c0c0c0):No.12|[[小日向未来]]|戦姫絶唱シンフォギアG|キャスター|[[パスダー]]|勇者王ガオガイガー|
|BGCOLOR(#c0c0c0):No.13|[[衛宮士郎]]|Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ ドライ!!|キャスター|[[神崎士郎]]|仮面ライダー龍騎|
|BGCOLOR(#c0c0c0):No.14|[[天羽奏]]|戦姫絶唱シンフォギアG|バーサーカー|[[トーマ・アヴェニール]]|魔法戦記リリカルなのはForce|
|BGCOLOR(#c0c0c0):No.15|[[忌夢]]|閃乱カグラ SHINOVI VERSUS -少女達の証明-|バーサーカー|[[呀]]|牙狼-GARO-|
|BGCOLOR(#c0c0c0):No.16|[[サガラ]]|仮面ライダー鎧武|バーサーカー|[[乃木園子]]|結城友奈は勇者である|
|BGCOLOR(#c0c0c0):No.17|[[キリト]]|ソードアート・オンライン|アサシン|[[ヘルマン・ルイス]]|牙狼-GARO- 炎の刻印|
|BGCOLOR(#c0c0c0):No.18|[[マリア・カデンツァヴナ・イヴ]]|戦姫絶唱シンフォギアG|キーパー|[[エデン]]|聖闘士星矢Ω|
|BGCOLOR(#c0c0c0):No.19|[[両備]]|閃乱カグラ SHINOVI VERSUS -少女達の証明-|キーパー|[[ハービンジャー]]|聖闘士星矢Ω|
|BGCOLOR(#c0c0c0):No.20|[[憤怒のラース]]|鋼の錬金術師|クリエイター|[[アルバート・W・ワイリー]]|ロックマンシリーズ|
|BGCOLOR(#c0c0c0):No.21|[[ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール]]|ゼロの使い魔|メンター|[[高町なのは]]|魔法少女リリカルなのはシリーズ|
|BGCOLOR(#c0c0c0):No.22|[[羽佐間カノン]]|蒼穹のファフナーEXODUS|シールダー|[[我愛羅]]|NARUTO|
|BGCOLOR(#c0c0c0):No.23|[[暁美ほむら]]|[新編]魔法少女まどか☆マギカ 叛逆の物語|セイヴァー|[[美国織莉子]]|魔法少女おりこ☆マギカ|
*主催サイド
|立場|名前|出展作|
|BGCOLOR(#87ceeb):ルーラー|[[アンドレアス・リーセ]]|聖闘士星矢 黄金魂 -soul of gold-|
|BGCOLOR(#ff6347):監督役|[[サガラ]]|仮面ライダー鎧武|
*マスターの身分・居住地
|名前|身分|住所|
|BGCOLOR(#c0c0c0):葛葉紘汰|フリーター|-|
|BGCOLOR(#c0c0c0):鯨木かさね|物流関係の商社勤務|-|
|BGCOLOR(#c0c0c0):美樹さやか|中学生(※1)|C-5|
|BGCOLOR(#c0c0c0):シノン|-|E-2|
|BGCOLOR(#c0c0c0):湊耀子|入町管理官|-|
|BGCOLOR(#c0c0c0):東郷美森|中学生(※1)|(自然保護区)|
|BGCOLOR(#c0c0c0):鹿目まどか|中学生(※1)|B-4|
|BGCOLOR(#c0c0c0):黒咲隼|マフィアの用心棒|D-9|
|BGCOLOR(#c0c0c0):犬吠埼風|一般中学校の学生|D-3|
|BGCOLOR(#c0c0c0):雅緋|マフィアのボス|(歓楽街)|
|BGCOLOR(#c0c0c0):立花響|一般高校の学生|E-4|
|BGCOLOR(#c0c0c0):小日向未来|高校生|-|
|BGCOLOR(#c0c0c0):衛宮士郎|浮浪者|なし|
|BGCOLOR(#c0c0c0):天羽奏|高校生(※2)|-|
|BGCOLOR(#c0c0c0):忌夢|魔術大学の学生|-|
|BGCOLOR(#c0c0c0):サガラ|-(監督役)|なし|
|BGCOLOR(#c0c0c0):キリト|-|-|
|BGCOLOR(#c0c0c0):マリア・カデンツァヴナ・イヴ|役所の事務員|H-6|
|BGCOLOR(#c0c0c0):両備|高校生|-|
|BGCOLOR(#c0c0c0):憤怒のラース|軍司令官|G-4|
|BGCOLOR(#c0c0c0):ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール|-|G-3|
|BGCOLOR(#c0c0c0):羽佐間カノン|高校生(※2)|-|
|BGCOLOR(#c0c0c0):暁美ほむら|中学生(※1)|C-4|
(※1:美樹さやか、東郷美森、鹿目まどか、暁美ほむらは、同じ中学校の生徒)
(※2:天羽奏、羽佐間カノンは、同じ高校の生徒)
*NPC一覧
|名前|身分|出展作|
|BGCOLOR(#c0c0c0):ラ・ヴァリエール卿|魔術師・ヴァリエール家頭首|ゼロの使い魔|
|BGCOLOR(#c0c0c0):カリーヌ・デジレ・ド・ラ・ヴァリエール|魔術師|ゼロの使い魔|
|BGCOLOR(#c0c0c0):エレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエール|魔術師|ゼロの使い魔|
|BGCOLOR(#c0c0c0):アニエス・シュヴァリエ・ド・ミラン|軍人・少佐・銃士隊隊長|ゼロの使い魔|
|BGCOLOR(#c0c0c0):ミシェル|軍人・銃士隊所属|ゼロの使い魔(アニメ版)|
|BGCOLOR(#c0c0c0):リザ・ホークアイ|軍人・中尉|鋼の錬金術師|
|BGCOLOR(#c0c0c0):友里あおい|役所の事務員|戦姫絶唱シンフォギアG|
|BGCOLOR(#c0c0c0):ケイネス・エルメロイ・アーチボルト|魔術師・一時滞在中|Fate/Zero|
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2018-05-28T17:17:42+09:00
1527495462
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遠足の留守番はとっても暇
https://w.atwiki.jp/yggdrasillwar/pages/127.html
「討伐司令って……。」
自室のホテルで士郎は、あのDJからの放送を聞いた後、暫く考え込んでいた。
いや、別段躊躇があるわけではない。只、その誘いに乗るかどうかの話だ。
(令呪は多ければ多い程良い……)
魔力消費が膨大なオーディンなら、尚更だ。
もし令呪の魔力をデッキに喰わせれば、オーディンの戦力は上昇する。
そうすれば、士郎の力は格段に上がる。
(だが、その分乗り越えるリスクも倍になるはずだ)
現状では、士郎の戦力はとてもではないが高いとは言えない。
頼みのオーディンのデッキは魔力を喰い、まともに扱えるデッキも三枚。
後はキャスターが手駒を増やし、そして、あの切札が完成すればの話だが……
(……そう言えば、キャスターからの報告がまだだったな。)
士郎は念話を掛け、キャスターに何かあったか、と念話で問う。
『どうした、マスター。』
キャスター……神崎の声が、衛宮の脳内に響く。
何時もなら、少なからず金属音の様なノイズが走るはずなのだが、そんな物も無くサーヴァントの声はマスターに伝わる。
『何か、分かったことはあるか?』
『現状では有るが、幾つかの事は教える。』
キャスターは、繁華街で見掛けた幾つかの事例を話す。
まずは、此処らを仕切っていたマフィアのリーダーが負傷した事。
「じゃあ、あの空気は……。」
『恐らく、リーダーを失い、彼等も騒然としているのだろう。
そして―
『赤い目をした住人?』
『そうだ、俺が繁華街の周囲を探索した所、幾つかの人間の目が、時折紅い光を見せていた。』
赤い目と聞けば些細なことかもしれないが、念のため聞いておくべきだ。
もしかしたら一種の呪いの様な魔術も掛かっているかもしれない。
『それで、その特徴は。』
『2つある、一つは眼球がルビーの様に光るタイプ、もう一つは、目の周りから光を発するタイプだ。』
『もしかしたら、何か暗示を掛けられている可能性は。』
『恐らくだがな。少なくとも、そのようなNPCにはデッキは渡していない。』
『……済まないな、其処も引き続き調査を頼む……それと。』
『何だ。』
『……お前にも聴こえたか、先程の討伐令。』
『乗るのか、だが我々の現状の戦力は些か心許ないぞ。それだけではない。多くのマスター達が討伐令に食らいつくはずだ。
その中には対聖杯派が含まれる可能性すらある。』
嘗て戦いに消極的だったものに力を与えた神崎なら、分かる話だ。
自身も幾つかのループで、戦いたくないと思っていた者二人に、ある特別なカードを渡した物だった。
その名は「SURVIVE―サバイブ」、ライダーデッキの力を極限にまで高める、正に生存するための切札。
マスターに渡しているオーディンのデッキも、サバイブのカードを組み込んで構成されている物だ。
『……作れるか、サバイブのカードを。』
確かに、神崎はミラーモンスターを捨てた。
彼が鏡に描き続けたのを怪物から、人々の笑顔へと変えたのを切っ掛けに。
だが、アドベントカードの製作なら決して難しくはない。
事実、オリジナルなカードを作成した教授も存在するのだ。
十三枚のカードデッキと全く同じ環境下でなら、作成することなど屁でもない。
それに他の十二枚―現在残っているのは九枚だが―は、オーディンと比べると然程魔力は喰わない。
NPCでも問題なく動かせるだろうし、何より、自分達の存在を秘匿できるのは、大変都合がいい。
『作るのは不可能ではない。だが問題はいくつか存在するぞ。』
『……そうだな。』
顎に手を置き、士郎も肯定する。
確かに、いくつかの欠点も出てくる。
一つは、やはりオーディン程サバイブの力は発揮できないこと。
オーディンには、契約モンスター・ゴルドフェニックスの力がある程度残っている。
が、他のブランクデッキとなればそうは行かない。
況してや十二枚のデッキは程度の違いこそあれどオーディンよりも弱めに設計されている。
力はあるが、頼りすぎるのも良くないことだ。
『それに、サバイブはオーディン程ではないが、魔力は相当に喰らう。
事実、サバイブ形態は体力の関係から時間制限が掛けられている。』
『そうか……そうなれば実戦投入は。』
『今揃っているライダーだと難しいだろうな。寧ろ、仮面ライダーの数を増やしていった方が、よっぽど効率が良い。
……使う用意は整っているがな。』
―討伐はお預けか。
その結論に至った後、士郎はキャスターと共に、その次の話に移行する。
『で、サバイブを入れるデッキは……。』
『俺が勧めるのは龍騎、王蛇、そしてリュウガの三体だな。』
何れもパワーバランス的には、非常に高いスペックを有した仮面ライダーだった。
数値的に最も高いのはリュウガ。
だが極めて高い精神性と肉体を有した犯罪者に与えた王蛇は、多くのライダーにとって脅威になったものだった。
また龍騎も、ポテンシャルは非常に高く、とあるループにおいてはリュウガをいなした程の高いポテンシャルを有し、神崎も散々手を焼かされた経験を持っている。
この3人のデッキの基本スペックの高さはライダーバトルの均衡にも大きく関わった。
『金棒を持たせるなら鬼が一番、てことか?』
『作成できるのは烈火・疾風のカードだが、高性能なデッキに与えれば戦闘力は向上するだろう。だが……。』
その理屈は、ライダーバトルでなら尚更通じただろう。
だが、この戦いにおいて仮面ライダーは、蹴り落とす者ではない、生き残らせる者なのだ。
殺すために戦わせるのではなく、生き残るために戦わせるのだ。
なるべく生き残らせるためにも、比較的弱めのデッキにカードを渡すと言う手もあるはずだ。
『じゃあ、デッキは他の……』
『性能が低めのライダーに優先して渡すと言う手段が、戦力バランスとしては最適だろう。』
事実、最後のループでオーディンを討ったナイトサバイブの基本スペックは比較的低い方にある。
それに、上に挙げた三枚を切札として隠匿する手段もある。
金集め役のベルデに渡すと言う選択肢すらあるのだ。
『とにかく、今動く訳にはいかないが―。』
『念入りは必要だな、分かった。サバイブのカードは出来る範囲内で作成しておく。
同時に、それを扱うライダーもな。』
『ああ、引き続き頼む。』
キャスターとの念話を切った後、士郎は胴体の角度を90度曲げる様にしてベッドに倒れ込む。
ポケットからオーディンのデッキを取り出す。
電灯の薄明るい光に、デッキの金メッキが反射する。
試しに士郎は、デッキからカードを一枚、取り出してみる。
捲れば其処には、先の羽が描かれていない、不死鳥の胴体を象ったカードが、一枚。
(SURVIVE、か)
カードをデッキに仕舞い、士郎はそのまま横になりながら何かを考える。
【B-8/歓楽街・安ホテルの一室/一日目 午前】
【衛宮士郎@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ ドライ!!】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]干将・莫耶
[道具]オーディンのライダーデッキ
[所持金]数日寝泊りできるほど
[思考・状況]
基本行動方針:優勝狙い
1.情報収集に出た神崎が帰還するのを待つ
2.宿を拠点として、他のマスターを探す
3.赤毛のマスター(=羽佐間カノン)を警戒。多分ミラーワールドからの奇襲は、二度と通用しない
[備考]
※護衛として、仮面ライダータイガ、仮面ライダーインペラーに変身するNPCが近くにいます。
戦闘時には即座に現れ、士郎を援護するように洗脳されています。
※シールダー(=我愛羅)およびそのマスター(=羽佐間カノン)の外見特徴を把握しました
【キャスター(神崎士郎)@仮面ライダー龍騎】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]ライダーデッキ×7
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針: マスターの戦いを見届ける
1.歓楽街が騒がしい。緊張の原因を調査する
2.ユグドラシル全域からNPCを選別し、仮面ライダーを増やす
3.赤毛のマスター(=羽佐間カノン)を始末する
4.サバイブカードの作成を考慮する、デッキの選定は状況に併せて
[備考]
※町のNPC3人を洗脳し、ベルデ、インペラー、タイガのデッキを渡しています。
また、現時点でガイ、ライアのデッキが破壊されています。
【『ライダーデッキの仮面ライダー』】
【仮面ライダータイガ(歓楽街のゴロツキNPC)】体力100%・現在地 B-8 歓楽街・安ホテルの一室
【仮面ライダーインペラー(歓楽街のゴロツキNPC)】体力100%・現在地 B-8 歓楽街・安ホテルの一室
[備考]
士郎の護衛として、常に近くで行動しています。
戦闘時には即座に乱入し、士郎を守りながら戦闘を行います
【備考】
・サバイブカード
ライダーバトルを加速させるための切札として作り出された三枚のアドベントカード。
それぞれ「疾風」「無限」「烈火」の三枚の名を持つ。
これをカードから引き抜くだけで余波エネルギーが巻き起こる(烈火は炎、疾風は風)程のパワーを有する。
強化された召喚機に装填することで「サバイブ」へと変化し、パラメータが向上する。
アドベントカードが強化・追加され、契約モンスターも新たな形態へとパワーアップする。
ただし、その分エネルギーの消費も激しく、ある程度の時間しか変身できない。
その上デッキには一枚しか入っていないので、一度使えば再変身時まで変身不能。
因みにオーディンのデッキには「無限」のサバイブが常時発動していると言う状態になっており、他のライダーを圧倒するほどの戦力を発揮できたのはそれも関与している。
最も、例えサバイブを使おうとも、オーディンには敵わぬ様に設計されているのだが。
ただし、この聖杯戦争において再現されたサバイブカードは、ミラーモンスターがいない関係から戦闘力が大幅に減少している。
◆ ◆ ◆
「学校に討伐司令……それに、ロボットのサーヴァントか。」
朝方の閉された病院。
その一室にて、雅緋、それにライダー……ルルーシュもまた、現状において入ってきた情報の整理を行っていた。
ベッドの側にあるデスクに腰掛けたルルーシュはファイルに挟まった紙をパラパラと捲り、ペンをくるりと一回しして情報を整理する。
ファイルには、部下からの話をメモした情報が、筆記体の英語で記されている。
生涯の半分以上を日本……エリア11で過ごしていたとは言え、ルルーシュもブリタニアの人間だ、癖とは付く物である。
「しかし、お前以外にロボットを使う者がいたとは、つくづく奇妙な話だ。」
「KMF(ナイトメア)等、私がイレブンに送られた頃には既に開発が始まろうとしていた。
寧ろ、私からすればお前の忍転身とやらが驚きものさ。」
「まあ良い話を戻すぞ、それで、あのロボットの外見だが……」
メモを見直しながら雅緋は、ルルーシュと共にそのロボットの情報を整理する。
「特級住宅街にロボット……大きさは、ざっと50m。」
苦虫を噛み潰したような笑みで雅緋はライダーに顔を向ける。
「驚いたなぁライダー、確かお前のロボット軍団は5m前後だったはずだぞ……行けるか?」
「戦術面では確かに困難だろう、だが、情報さえ揃えば、後は戦略で徹底的に叩きのめすだけだ。
戦略が、戦術に負けるはずは……無い、はずだ。」
その言葉に雅緋はハァと溜息を付き、話題を切り替える。
「ロボットに関しては……情報の整理が必要だな、ライダー。」
「後で偵察を頼む。それはNPCからでも、お前の部下からでも構わん。」
ファイルのページを捲り、部下の名簿、及びギアスを掛けた人間の身元が書かれたファイルに一旦互いに目を通す。
それを閉じた後、先程の討伐司令について話し合う。
「戦力は出来る限り蓄えておいた方が良い。何なら、学校にトラップを仕掛けると言う手もある。」
「だが、私の魔力はあまり多い方ではない。令呪が再び手に入る、というのは嬉しい話ではあるのだが……。」
「となれば、まずは下準備……魔力の問題だな。直に書物が届く、後はそれを調べ上げるだけだ。」
現在、図書館に人間を三人、向かわせている。
魔力関係における書物を持ってこさせるためだ。
やってきた後は取りに行くだけだ。その為にも、地雷の類たるトラップは周囲に設置していない。
「済まないな、やはり知識が我々には足らんか。」
雅緋もライダーも、互いに神秘の類に近づいた人間では有る。
が、このユグドラシルシティに浸透しているそれは、ギアスともコードとも、忍ともカグラとも、全くの別物だ。
聖杯に送られた一握りの知識では足りない、情報の整理が必要だ。
「それに、図書館は討伐主従が隠れ住む学府にも近いはずだ。
道の周りの情報も聞ければ良かったな。」
しかし、雅緋とライダーは知るだろうか。
先程まで図書館に、彼女の仲間がいたという事実を。
【B-8/歓楽街・病院/一日目 午前】
【雅緋@閃乱カグラ SHINOVI VERSUS -少女達の証明-】
[状態]胴体にダメージ(中・回復中)、魔力残量7割
[令呪]残りニ画
[装備]病院着
[道具]妖刀、秘伝忍法書、財布
[所持金]そこそこ裕福(マフィアの運営資金を握っている)
[思考・状況]
基本行動方針:優勝を狙う
1.傷の回復に専念する。動けるようになったら、再び戦場へ赴く
2.万一襲撃されてもいいように、部下からの報告には、慎重に耳を傾ける
3.聖杯にかける願いに対する迷い
4.討伐令は見送りたいが、令呪は必要だと思う
[備考]
※ランサー(=駆紋戒斗)の顔を見ていません
※黒咲隼がランサー(=駆紋戒斗)のマスターであることに気付いていません
※投薬により、肉体の回復速度が上がっています。
そのかわり、無理に治癒能力を高めているため、反動で傷の痛みが強くなっています。
【ライダー(ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア)@コードギアス 反逆のルルーシュR2】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]各種トラップの起動スイッチ、無線機
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:雅緋を助け、優勝へと導く
1.なるべく雅緋の傍に控え、身の安全を確保する
2.魔力確保の方法を探る
3.雅緋の迷いに対して懸念
[備考]
※ランサー(=駆紋戒斗)の顔を見ていません
※黒咲隼がランサー(=駆紋戒斗)のマスターであることに気付いていません
[全体の備考]
※歓楽街全域で、雅緋の息がかかった組織のマフィア達が、敵マスターの襲撃に備え見回りをしています。
D-9にある雅緋のアジトには、雅緋本人はいませんが、外敵をごまかすために、周辺に多めの人員が配置されています。
不審な人物がいた場合、それぞれが所有している無線機を通じて、すぐさまルルーシュへと情報が伝えられます。
※B-8の病院周辺に、ルルーシュが破壊工作スキルによって設置した、無数のトラップが仕掛けられています。
罠にかかった場合、サーヴァントであっても、ダメージを負うことになります。
※行政地区にて敵マスターを捜索していた、マフィア達が撤収しました
※NPC三名に、魔力関連の書物を持ってこさせています。
それぞれ別のルートを通らせて病院に向かわせています。
途中で殺されそうになりそうな可能性は頗る高いですが、なるべく動くべき。
ギアスに操られた一般人か雅緋の部下かは、後述の書き手にお任せします。
|BACK||NEXT|
|[[第一回定時放送]]|[[投下順>本編目次投下順]]|[[]]|
|-|[[時系列順>本編目次時系列順]]|[[]]|
|BACK|登場キャラ|NEXT|
|[[ホライズン]]|[[衛宮士郎]]|-|
|~|キャスター([[神崎士郎]])|-|
|[[膠着状態]]|[[雅緋]]|-|
|~|ライダー([[ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア]])|-|
2017-06-23T18:42:28+09:00
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&bold(){指輪を担いしジークフリート、大神オーディンの槍を断つ。}
&bold(){役目を終えた世界樹は、神の手によって砕かれ、金の炎へと変わるだろう。}
&bold(){全ては神々の世界を、黄金の黄昏へと誘うために。}
当@wikiは「&color(red){聖杯戦争異伝・世界樹戦線}」というリレーSS企画のまとめサイトです。
聖杯戦争とは、
ゲーム作品「Fate/stay night」の用語です。
魔術師達がサーヴァントと呼ばれる使い魔を操り、戦わせて優勝することを目指す戦いを指します。
&color(red){企画性質上、キャラクター同士の殺し合いや、残酷な描写を含む場合があります。閲覧の際は十分にご注意ください。}
複数の書き手さんによって進行される企画であるため、SS執筆の際には、事前に登場キャラクターの予約が必要となります。
予約期間は7日間、申請があれば3日まで延長可とします。
**まずはこちらをご覧ください。
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**分からないことは?
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等をご活用ください
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-[[画像入力>>http://www1.atwiki.jp/guide/pages/2645.html]]
-[[表組み>>http://www1.atwiki.jp/guide/pages/2646.html]]
**その他にもいろいろな機能満載!!
-[[@wikiプラグイン一覧>>http://www1.atwiki.jp/guide/pages/264.html]]
-[[@wikiかんたんプラグイン入力サポート>>http://www1.atwiki.jp/guide/pages/648.html]]
**バグ・不具合を見つけたら? 要望がある場合は?
お手数ですが、[[お問合せフォーム>>http://atwiki.jp/helpdesk]]からご連絡ください。
2016-07-30T17:28:03+09:00
1469867283
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ルール
https://w.atwiki.jp/yggdrasillwar/pages/12.html
*ゲームルール
【ルール】
・当企画はTYPE-MOON原作の「Fateシリーズ」の設定の一部を元にした、リレーSS企画です。同作中の魔術儀式「聖杯戦争」を元にし、参加者達が聖杯を賭けて戦う企画となっております。
・最終的な参加者の数は、20組前後を予定しております。
・サーヴァントについては、原作における通常7クラスの他に、エクストラクラスを割り当てることも可能です。
・最終予選のルール上戦闘が発生する可能性がありますが、無理に戦闘を書く必要はありません。最終予選を戦わずに勝ち抜く参加者もいると思うので、そのあたりは後から企画者が調整します。ただし、そうした調整が必要になるため、1作で2組以上の参加者を脱落させることはご遠慮ください。
・最終予選の間は、ルーラーが出張ってきたり干渉したりしてくることはありません。
・投下作品数に制限は設けません。一人の書き手さんが一作書くのも、100作書くのも自由です(全部採用するとは言ってない)。
・投下がない場合は、企画者が一人でちまちま投下していく形になります。泣き出す前に構ってもらえると嬉しいです。
【設定】
・「Fate/EXTRA」に登場する月の聖遺物・ムーンセルによって形成された、電脳空間が舞台となります。
・高さ数百メートルの巨大な「世界樹」の上に建造された、「魔術都市ユグドラシル」という舞台設定です。
・ユグドラシルは「Fateシリーズ」設定における、現代の魔術師達が作り出した街という設定です。街並みも現代の欧州のものです。文化水準は現代のものですが、科学よりも魔術の産物によって支えられています。特に通信技術は顕著となっており、固定電話がせいぜいで、インターネットや携帯電話は存在していません。
・世界樹自体が莫大な魔力を内包しており、その魔力によってユグドラシルでの生活が成り立っています。電線は通っていませんが、魔力の伝達によって代用されています。また、この魔力が守りとなっているため、滅多なことがない限り、火事で世界樹が全焼したりはしません。
・魔術師達は、魔力を汲み上げるための何らかの術を用いて、研究用の魔力を確保しています。こうした術か、あるいは各家庭に繋がっている魔力線を用いない限り、不正に魔力を汲み上げることはできません。エネルギー泥棒ダメ、ゼッタイ。
・街の足元は石畳で舗装されており、自然保護区エリアには、植物を植えるための土もあります。立地が立地なので、ところどころにクソデカい枝が飛び出してたりします。
【NPCについて】
・ユグドラシルは曲がりなりにも街であるため、NPC(ノン・プレイヤー・キャラクター)が生活しています。ほとんどが電子的に生成された仮初の人格ですが、一次予選に落選した人間も数十人ほど紛れています。
・作られたNPCの中には、マスター及びサーヴァントと縁があった人物がいるかもしれません。彼らは、そのマスターやサーヴァントが見ても、自分がよく知っている人物だと思うほど、完全に見た目も性格も再現されております。ただし、固有の能力は再現されておらず、他のNPCと同程度の存在として扱われています。
・魔術都市という設定なので、NPCの中には、戦闘能力を持った魔術師も存在します。万一戦闘になってもサーヴァントであれば瞬殺できますが、戦闘能力を持たないマスターの場合は、危険な目に遭うかもしれません。
・サーヴァントによる「魂食い」は制限されていません。ただしあまりやり過ぎると、NPCの間で噂が立ち、他のマスターから感知されやすくなります。一応ユグドラシルには警察機関もありますが、基本ガバガバ警備であり、聖杯戦争の妨げとなることはありません。
【サーヴァント及びマスターについて】
・参加マスターは元の記憶を封印された上、偽りの経歴と記憶を与えられた形で、ユグドラシルへ送られています。その中で本来の記憶を取り戻すことが、本聖杯戦争の一次予選です。
・マスターが記憶を取り戻すと、聖杯戦争の知識とサーヴァントが与えられます。登場話SSの開始時点で記憶が戻っているのか、SSの最中に記憶が戻る展開になるのかは、書き手さんの自由とします。
・マスターが死亡した場合、サーヴァントは魔力が切れると同時に消滅します。しかし、消滅する前に他マスターと契約を交わせば、これを免れます。
・サーヴァントが死亡した場合、マスターは数時間後に脱落と見なされ、「強制退場」となります。しかし、消滅する前に他サーヴァントと契約をかわせば、これを免れます。
【予約ルール】
予約開始は2015/9/6(日)0:00となります。
予約期間は7日間、申請があれば3日まで延長可とします。
【時刻の区分】
深夜(0~4)
早朝(4~8)
午前(8~12)
午後(12~16)
夕方(16~20)
夜間(20~24)
毎日0時および12時に、定期放送が行われます。
【状態票テンプレ】
本戦開始後にご利用ください。
【X-0/場所名/○日目 時間帯】
【名前@出典】
[状態]
[令呪]残り◯画
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:
1.
2.
[備考]
【クラス(真名)@出典】
[状態]
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:
1.
2.
[備考]
----
2016-07-30T17:27:15+09:00
1469867235
-
求める未来を目指せ
https://w.atwiki.jp/yggdrasillwar/pages/117.html
*求める未来を目指せ ◆7CTbqJqxkE
「休憩入りまっす!」
商業地区の食事処。そこで日雇いのアルバイトとして働いている葛葉紘汰は、朝の忙しい時間を終えたこともあり、来る昼の書き入れ時に備えて束の間の休息に入った。
《――――セイバー、朝食に来た人たちの中でマスターらしい奴はいたか?》
《いや、少なくともサーヴァントの気配を伴った来客はなかった。見れる範囲で令呪がないかも見て回ったし、あの中にマスターはいなかったと思う》
《そうか……悪いな、せっかく調べてもらったのに》
《別にコウタが悪いわけじゃないさ。すぐに見つかるわけも無いんだし、焦らずにいこう》
休憩室に入ってすぐ、紘汰は霊体化した状態で隣にいる自身のサーヴァントに話しかける。
その会話の内容は、今朝の時点で他のマスターを見つけることができたかどうか、というものだ。
聖杯戦争を、殺し合いを食い止めるという目的を持つ紘汰にとって、いくら必要なことであるとはいえただ無意味にバイトをしているわけにもいかない。ただでさえ昨夜のアーマードライダーらしき強盗を見つけることができなかった今は、出遅れている状況なのだから。
そこでパートナーであるドルモンに、霊体化した状態で朝食に来た客の手の甲など体の露出している箇所を確認してもらってマスターがいないかを探ってもらったのだが、残念ながら収穫はゼロだった。
しかし駄目で元々のつもりで行った、気休めのような調査である。だから空振りであったとしても気にすることはないとドルモンは紘汰を気遣う。
《それはわかってんだけど…………でも……》
《特級住宅街や行政地区で起こった爆発が気になるのもわかるし、歓楽街でなんの手がかりも得られなかったことが悔しいのもわかる。
だからって急いだところで状況が好転するわけじゃないんだし、今はできることを一つずつしていこう。コウタと俺なら、きっと聖杯戦争を止めることができる》
《セイバー…………そうだよな、こんなところでウジウジ考えててもしょうがないよな!》
昨夜、商業区で起きた強盗騒ぎが聖杯戦争と関わっているのではないかと踏んで紘汰たちが歓楽街を探索している間に、特級住宅街と行政地区で火災や爆発が発生していた。
仮面とベルトという言葉に紘汰がアーマードライダーを意識し、歓楽街で徒に時間を浪費しなければ、あるいはどちらかの現場を押さえることができたかもしれない。
追跡が空振りに終わり、消沈して戻った今朝爆発の話を聞いてから、紘汰はそのようなことをずっと考えていた。
だがそれはあくまでも仮定の話に過ぎないし、もし歓楽街を探索しなくても行政区や特級住宅街に足を運んでいた可能性は低かっただろう。
ならば過ぎたことを悔やむよりも、今できることをしていくことで確実に歩を進めるべきなのだ。
そんなドルモンの理詰めの慰めが、自分が単純であると理解している紘汰にとっては有り難いものであった。
(そうだ、セイバーの言うとおりじゃねえか。どうせ俺たちがやることは変わりないんだし、だったらそれを全力でやるだけだ!)
「よぅしっ!! やってやるぜぇ!!!!」
《コウタ、あんまり大きな声で叫んだら――》
他の人に聞こえるよ。そうセイバーが続けようとしたその前に、ある男の横槍がそれを遮った。
それはセイバーも聞いたことがある声だ。だが、紘汰にとっては、おそらくこのユグドラシルにいる誰よりも聞き馴染んでいる声であった。
インターネットラジオのDJとして何度も耳にしたその声。
更にはユグドラシル側の人間の――そして、ユグドラシルでさえ与り知らぬヘルヘイムの森の真実を知る者の言葉として、聞いたことのある声。
「――――本当に聖杯戦争を止めることができると思ってるのか?」
聖杯戦争の開幕にも携わった、その声の主の名は――――
「な!? あんた――――サガラ!」
「よっ」
サガラ。そう呼ばれた男は、友人に挨拶するような気軽さで紘汰に応えた。
「なんでここに……? いや、それよりなんなんだよあの放送!
あんたここで何をしてる? 何を企んでるんだ?」
そんな男の応答に若干毒気を抜かれつつ、紘汰はサガラに疑問を投げつける。
聞きたいことは山のようにあるが、まずはこの男の真意についてだ。
「何も企んでなんかいないさ。俺はただお前たちの戦いを見守り続ける。それだけだ。
それにあの放送だって、お前たちマスターに聖杯戦争の情勢を連絡する監督役としての大切な『役割(ロール)』の一環だ」
「ロールって…………じゃあやっぱりあんたも」
だがその疑問も、やはり軽い調子であしらわれる。腹の底は一切見せないつもりらしい。
しかしそんな答えにも二つの情報が含まれていた。それはサガラがこの聖杯戦争の監督役であるということ。
そしてそれが自身のロールであると認識しているということだ。それはつまり――――
「ああ、聖杯に召喚されたマスターの一人って訳だ。おっと、勘違いするな。別に戦いに来たんじゃない」
サガラもマスターとして聖杯戦争に参加している。その事実が男の口から告げられた時にはすでにセイバーはドルモンの状態で霊体化を解いていた。
あの放送も手伝ってか、ドルモンは敵意を隠そうともせずに牙を覗かせ、サガラを睨みつけている。
「その言葉を信じろっていうのか?」
「セイバー……」
「戦いに来たんじゃないなら何をしに来た。まさか目的も教えずに信じろなんて言わないよな?」
棘のある言葉で男がここに来た目的をセイバーが問い質すと、男は肩を竦める素振りをひとつ打ち、再び軽い調子で話し始める。
「お前のサーヴァントは随分と疑り深いみたいだな。
なに、ちょっとした忠告だ」
「忠告?」
そう紘汰が聞き返した途端、男がそれまで纏っていたふざけた雰囲気は消え――――
「ああ……聖杯戦争を止めようだなんて無謀なことを考えている、お前たちへな」
さきほどまで話していた男とは別人と思わせるほど真面目なトーンで、紘汰たちへ語り始めた。
「さっきも聞いたが、お前たちは本当に聖杯戦争を止めることができると思っているのか?」
「当たり前だ。俺とセイバーは必ずこのふざけた殺し合いを止めてやる。
それに、希望の対価に犠牲を要求するこの世界のルールを壊せって言ったのはあんただ」
「確かに俺はお前にそう言った。だがな、聖杯戦争ってのは真に犠牲なくしては成り立たないルールでできているんだぜ」
そこでサガラは含むように間を置くと、微かに表情を引き締めて続きを述べる。
「誰も脱落することがなければ、そこでご破算だ。誰も奇跡を手にすることはできない」
「それこそ望むところだ。犠牲を強いるような奇跡なんて、俺は欲しくない」
それが紘汰の偽らざる気持ちだ。
如何なる奇跡を実現できようと、そこに犠牲を求める聖杯を認めることなどありえない。
いっそ無くなってしまった方が良いと、紘汰は本気で考えている。
しかしそんな紘汰の答えに対し、サガラは先ほどとは異なる笑顔を貼り付け再び語り始める。
「ふ、そうか」
「なにがおかしい!」
「犠牲を強いる奇跡を拒むのはお前の希望だ。お前の力があればそれを叶えることもできるかもしれない。
だが他のマスターは違う。どれだけの犠牲を払ってでも叶えたい希望を胸のうちに宿しているやつだっている。
サーヴァントを失わない限り、そいつらはお前たちの前に立ちはだかり続けるだろう」
「……だったらその度に、俺たちは戦うだけだ。どれだけ牙を剥かれても、絶対に犠牲になるような人を出しはしない」
「そうしてお前は、自分の希望のためにそいつらの希望を踏み躙るのか」
「なに……?」
サガラの指摘に紘汰は理解が追いつかず、言葉を失う。
しかしそんな隙を見逃してくれるほど、今回のサガラは甘くは無かった。
「言われなきゃわからねぇか? 聖杯戦争は万能の願望器を巡る戦い。単なる力を求める果実の争奪戦とは違う。奇跡を求めて集まったのは私利私欲に走る極悪人だけじゃなく、中にはのっぴきならない理由に覚悟を決めた善人だっているわけだ」
わかりきったことを出来の悪い生徒に言い聞かせるように話していたサガラはそこで視線を下げ、セイバーを一瞥する。
「自分のサーヴァントを見ればわかるだろ。この樹と繋がった世界は一つだけじゃない。中にはヘルヘイム以外の脅威に晒されているところも――
お前の安っぽい正義感で邪魔された結果、滅びる世界もあるかもしれないんだぜ?」
「――っ!」
容赦のない物言いに、今度こそ紘汰は言葉を失う。
考えもせず、目も向けなかったエゴを突きつけられて。
紘汰たちが戦いを止めるのも結局、暴力で自らの主張を押し付けているのに過ぎず。
そんな方法で他者の希望を取り上げることに、どんな正当性があるのだと。
「そ、それは……」
「――違う」
言い淀むしかなかった紘汰の代わりに、サガラの詰問に応える声があった。
「コウタが誰も止めなければ、結局殺し合いの末に残った一人以外の希望は叶わない!
そんなの絶対に間違っている。だからこそ、俺たちは聖杯戦争を止めるんだ!」
「セイバー……」
力強く断言する相棒に、紘汰は思わず声を漏らす。
紘汰より余程理性的である彼が、この程度の命題に気づいていなかったはずはない。
それでも何の逡巡も見せず、己を信じてくれたセイバーの姿に紘汰は胸を打たれ――そしてサガラは、新たな興味を惹かれたとばかりに笑みを零す。
「間違っている……か。だったらお前たちが正しいという証拠はどこにある?
他の全てのマスターの希望を絶ち、自分たちの希望を押し通す。その結末は最後に残った一人と何が違うと言える?」
「命だ」
何ら竦むこともなく。ドルモンは己が信じた道を行く理由を、飾ることなくサガラに示す。
「俺たちは命を守るために戦う。すべての命が生きられるようにする。ただそのために、俺たちは戦うんだ」
「生きられる、か。ならば願いを叶えなければ死んだも同然のようなマスターはどうする?」
「それでも、だからって他の命を犠牲にして良い訳じゃない」
「聖杯の奇跡に縋らなければ助けられない命があるかもしれんぞ。ここに残ったマスターのためにその命は切り捨てるのか?」
「詭弁だ」
「詭弁じゃないさ。確かに憶測の話でしかないが、もしそんな願いを持ったマスターがいた場合にお前たちはどうする。
ここにいるマスターたちを殺したくないし殺させたくないから、悪いが死んでくれとでも言うのか?」
「それは違う! マスターたちも、その救いたい人も、誰も犠牲になって良いはずがないって言っているんだ!」
「違わないさ。お前たちは気安く聖杯戦争を止めると言っているが、その意味をもっと理解するべきだ。
ま、お前はまだわかっている方みたいだが……」
そこでセイバーが更に反論する前に、サガラは彼から視線を外した。
それを辿って、セイバーもまた首を巡らせ……
「……コウタは」
「え?」
舌戦の渦中から離れた場所にいた紘汰は、不意に両者の注目を浴びたことで思わず声を漏らしていた。
「コウタは、どう思う……?
こいつの言っていることがもし本当になったら、コウタならどうする?」
「そう、お前ならどうする葛葉紘汰? 結局最後にどうするかを決めるのは、マスターであるお前なんだぜ」
共に歩む者と、疑問を投げかける者と。意見を戦わせていた二人は、今は等しく紘汰を見守っていた。
己の命一つ思うがままにならない人間に、未来をその手で選べるか――その重荷を背負えるのかと。
マスターとして選ばれた運命に抗えない者に、それでも答えを見出せと。
数多の命を左右するかもしれない決断を下せと、求めていた。
「俺は……」
言い淀む。視線が落ちる。
しかしその落ちた視線の先――戦う覚悟を決めた時、友の形見を身に着けている部位を目に収めて、紘汰は決意を取り戻す。
「俺も……どうしたらいいのかわからねえ。聖杯でしか助からない命があるんだとしたら、その命を救うために聖杯を使ってほしい」
「それはつまり、お前は聖杯戦争を容認するということか」
「でも…………でもよ! 俺は誰かが犠牲になるなんて嫌だ。そんなの見過ごすなんて絶対できない!
だから、だから俺は……! 俺は、聖杯戦争を止めるっ!!」
言い切った。
既に吐いた唾は飲み込めない。最早訂正は効かない。そして他の誰より、自分自身を欺けない。
それをわかっているのだろう。サガラは満足げにほくそ笑んだ。
「なるほどな。お前は他のマスターの希望を砕く覚悟をしたわけだ」
「そんな覚悟、できちゃいない……だからって、何もせずに傍観するなんてできるわけない。
だから答えが出るその時までは、迷いながらでも、俺は戦い続ける。あるのはその覚悟だけだ」
聖杯でしか救えない命があるのだとしても。ならば聖杯に焼べられる命を救えるのは今、自分達しかいないのだから。
すべての命が生きられる未来を実現するには、今、目の前の命を諦めるわけにはいかないのだ。
「……答えというには些か足りないものがあるが、それがお前の決めた道ということか。
そいつは茨の道を往くよりも険しい道のりだぜ。そのことはわかってるんだろうな?」
サガラの問いに、紘汰は一瞬の躊躇いもなく頷きを返した。
「いいだろう。だったら止めはしない。だがな、世界ってのはそんなに優しくはできていない。
予選の時と同様に、お前たちの手が届かない命ってのは必ずある。
それにもしも聖杯戦争を停滞させることができたとしても、その時はお前たちも討伐対象とされるだろう」
「討伐対象……?」
「ああ。聖杯戦争の運営を阻害する事態になれば、その原因を取り除こうと考えるのは当然のことだろう。
ついさっきも中学校で大きな戦闘があってな。その場にいたあるサーヴァントが討伐対象となったばかりだ」
「……なんだって?」
サガラから伝えられた情報は、紘汰にとって青天の霹靂といえるものであった。
「まあ詳しくは正午の俺のホットラインで連絡するが、結構な数の死傷者が出たことでユグドラシルの維持に問題が生じる可能性ができた。同じ事を繰り返されないようにするためにもその芽を摘む、という名分だ。
さあどうする葛葉紘汰? お前たちがちんたらしてる間に、聖杯戦争は着実に進んでいっている。死んだ連中の大半はNPCだろうが、ひょっとしたら予選脱落者も中にはいたかもな」
「NPCも予選脱落者も関係ない! でも……そんな…………」
聖杯戦争は基本夜半に行われる。予選の時もそうだった。
人目につくような昼間にサーヴァントが戦闘を行えば……どうなるかは想像に難くない。
だというのに――
「まさかこんな白昼堂々と人が密集している施設に襲撃をかけるようなやつがいるとは思ってもいなかったか?
つまりはそれだけ本気のやつらがいるということだ。お前らも本気で聖杯戦争を止めたいってんなら、遊んでる時間なんざありはしないぜ」
「くそ……! 行こうセイバー!」
「そう急ぐな。あともう一つ、お前らマスターに連絡することがある」
駆け出そうと背を向けた紘汰をサガラがなおも呼び止める。
気にすることなく行こうとした紘汰だが、マスターとしてならば先ほど以上に衝撃的なその内容に立ち止まり、振り返らずを得なかった。
その内容とは。
「聖杯に起こった不具合についてだ」
聖杯戦争の基盤である聖杯に、不具合が生じているというものだ。
聖杯など必要としない紘汰でさえ、無視するには大きすぎる情報だった。
「……」
「聖杯の……不具合?」
「ああ。お前のサーヴァントならそれがなんなのか大体察していると思うが――――――今は聖杯から英霊に関する知識を得られない状態になっている」
「な、なんだよそれ!?」
幸いなことに一定時間内に誰も脱落しなければ全員助からないとか、そのような最悪の事態ではなさそうなので一安心しつつも。
なぜ、そのようなことが起こったのか――そんな真っ当な疑問を抱いた紘汰は、なぜセイバーがそのことについて察していると言われたのかまでは、この時まだ思い至らなかった。
「ちょっとしたイレギュラーが紛れ込んでてな。図書館からも英霊に関するデータが閲覧不可能になってしまっている。
中には他の英霊が関わる自身の宝具の発動条件すら把握できないやつまで出てくる始末でな。
とはいえそのイレギュラーが消滅すれば自動で聖杯の情報にサーヴァントはアクセスできるようになるし図書館も利用可能になるから、真名を隠し続けなければいずれ不利になるという事実は変わらない。
まあこの連絡は、すでに戦闘を行って敵のサーヴァントの情報を調べようとしているマスターから苦情が来るのを防ぐただの予防線だけどな」
「まあ、その程度なら別にいいけどよ……」と呟く紘汰を尻目に、サガラはわざとらしく聞こえる程度までボリュームを下げた独り言を漏らした。
「これも、ムーンセルの精一杯の抵抗なんだろうな」
「抵抗? どういう――」
「とにかく急ぐことだな。誰も死なせないというなら、当然討伐対象となったマスターも助けるんだろう?」
紘汰の追求をわざとらしくはぐらかすと、サガラはいつものように飄々とした笑みを見せた。
「早めに見つけておかないと、駆けつけた時には手遅れなんてことになりかねないぜ」
「あ、おい!」
そして言うが早いか。紘汰が呼び止めた時には既に、サガラの姿は手品のように失せていた。
「消えた……コウタ、あいつはいったい何者なんだ?」
「……俺にもわからねえ」
警戒心を抱いたセイバーの問いに、満足に答えられない己を紘汰は不甲斐なく思う。
「……でも、サガラの言ってることが本当なら、急がねーと不味い」
だが、そんな感傷や逡巡にばかり構ってはいられないのだと、決意したばかりであったことを思い出した。
「バイトなんかしてる場合じゃねぇ!」
叫ぶまま、勢い良く仕事着を脱ぎ捨てた紘汰は、自らの剣となってくれた英霊に改めて呼びかけた。
「行くぜ、セイバー。これ以上誰かが犠牲になっちまう前に、今度こそ!」
「――ああ、行こう!」
かくして、覚悟を決めた一人と一匹の主従は駆け出した。
すべての命が、あるがままに生きられる――自分達の求めた未来を目指して。
【C-6/商業地区・商業地区と学術地区を繋ぐ橋近辺/一日目 午前】
【葛葉紘汰@仮面ライダー鎧武】
[状態] 普通
[令呪] 残り三画
[装備] 戦極ドライバー
[道具] オレンジロックシード
[所持金] やや貧乏(一日分のアルバイト給料)
[思考・状況]
基本行動方針: ユグドラシル(聖杯戦争)を許さない
1. 中学校に向かい、関わったサーヴァントを見つけ出し、討伐令に備える。誰にも誰も殺させない。
2. 昨夜の強盗(アーマードライダー?)のことも気になるけど、今は中学校だ!
3. 味覚を取り戻す方法、魔術都市なら………ないよなぁ
[備考]
※ズボンの右腰にオレンジロックシードをつけてます。他のロックシードの手持ち状況は、後の書き手の皆様にお任せします
※職場を紹介した鯨木かさねの『罪歌』の洗脳を受けているかは不明です
※アーマードライダーがユグドラシルにいる可能性を考えてます
※バイトを途中で抜けました。無断なので多分解雇されます。
【セイバー(アルファモン)@DIGITAL MONSTER X-evolution】
[状態] 普通(ドルモン状態)
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針: 命を受け継ぎ、生き、託す
1. 紘汰と一緒に中学校に向かい、これ以上の犠牲を防ぐ。
[備考]
※戦闘時以外は魔力の消費を抑えるため、ドルモン状態でいることにしました
【共通備考】
※第一回放送で討伐令が発令されることを知りました。
※聖杯の不具合で、現在サーヴァントに関する知識を得られなくなっていることを知りました。
◆
「……悪いが俺は誰の味方でもなければ、誰の敵でもないんでね」
そんな二人とのやり取りを終えたばかりのサガラは、どことも知れぬ場所にその姿を現した。
誰に向けたものかも知れぬ、能書きのようなものを嘯きながら。
「不利な奴を見てると、つい肩入れしたくなっちまうのさ」
遠からず自らの行う放送により窮地に立たされるイレギュラーを思い描いた彼は、不意に苦笑する。
「……ま、それも何の誤解もないまま事が運べば、だがな」
葛葉紘汰とそのセイバーを炊き付けはしたが、すべての真実を伝えたわけではない。
嘘を吐いたわけでもないが……果たして彼らは、大量の死者が出る原因となったというサーヴァントと、何の衝突もしないで済むだろうか。
「世界ってのは果てしないもんだ。全てが誰かの思うが侭、なんてことにはならないのさ」
そんな、最強の黄金聖闘士と衝突する可能性のあるサーヴァント――ルーラーですら見通せない空白の席の主の神話を思い返して、サガラの口調に真剣な成分が戻った。
数多の世界を渡って来たサガラでさえも、不確かな伝聞でしか知らぬその神話を前にすれば、余裕でばかりはいられない。
「……ユグドラシルが暴走を始めようとしたならば、アレが召喚されても不思議ではないかもしれんが…………まさか禁断の果実の一部を取り込んだ今の葛葉紘汰でも、十全の力を発揮させることができんとはな」
名高きオリンポス十二神族とも拮抗する力を携えて、イグドラシルの下に秩序を守る聖騎士たちへの抑止力――本来ならば、サーヴァントの規格になど到底納まるようなものではない。
そんなものが召喚されているというのも、おそらくは聖杯を悪用されたムーンセルの抵抗の一つなのであろう。もっとも無理やりに規格を落とした分、竜の因子は正しく機能もしていないようであったし、おそらくはパラメーターにも少なからぬ影響が出ているのであろうが……
それだけグレートダウンをしたところで、その存在が規格外であるということに変わりはない。
如何にオーバーロードの域に達しているとしても、禁断の果実そのものを手にしていない今の葛葉紘汰程度では、手に余るのもむしろ必定と言ったところか。
おまけに自身も前衛として戦おうとする葛葉紘汰の性格も手伝って、上手い具合に他のサーヴァントでも抗し得る可能性が出来ている。
「――いや。葛葉紘汰の拘束具としては、あれぐらいでなければ足りないということか」
此度の聖杯戦争において、マスターには純粋な戦闘能力だけでならサーヴァントに拮抗、もしくは凌駕する力を持つ者も数こそ少ないがいるにはいる。
その大半は、力でこそ勝っていようと英霊の生涯が培った技能や経験、そして英霊が英霊たる意志の前には及ばないのだとしても……中には例外となる者もいるだろう。
その筆頭候補こそが、葛葉紘汰だ。
もはやその身は幻想へと足を踏み入れており、下手なサーヴァントを宛がおうものならばその性能に関わらず、自らの力のみで戦い抜くことも可能なバランスブレイカーだ。
――だからこそ、彼にはアルファモンが与えられた。
アルファモンの圧倒的なまでの力は、葛葉紘汰でさえも満足な魔力を供給することが適わぬ足枷となり、そして葛葉紘汰自身の力をも封じる足枷となる。
互いが互いの足を引っ張り合うというのは、この世界樹に集った主従の中でも最良といえる関係を持つ彼らに対しての最高の皮肉と言えるだろう。
とはいえ、それでも彼らの戦闘能力はやはり頭一つ飛び抜けている。仮に聖杯を掴もうと望んだならば、その願いが叶う公算は極めて大きいかもしれない。
だが力だけではどうしようもない戦いへと彼らは身を投じている。それも、限りなく勝算の小さい戦いだ。
この先、何度も何度も辛酸を舐めることとなるだろう。
「それでももし、おまえ達が自らの希望を貫き通せたなら、その時には――――――」
彼らが求める未来を、その手で実現させることができたなら。
「――――その時こそ、俺がマスターとなったことに意味ができるということかもな」
自らに架した話を進める者としての役目。それは間違いなく彼らの行く末と衝突することになる。
バーサーカーがセイバーに力で勝つことなど不可能。だが、魔力供給というただ一つの差が、彼らと自らの間に絶望的なまでの差を生んでいた。
精霊による守りは、力を削がれていてはアルファモンですら突破することは叶わないだろう。
神樹の化身となった勇者に、抑止の騎士は敗れ去る――それが彼らの最期に辿る未来だ。
「因果なもんだね……ま、それも――あいつの思惑通り運んでいたら、だけどな」
アルファモンの敗北――しかしその未来は、サガラたちと葛葉紘汰たちの主従が、一騎打ちした場合の話だ。
葛葉紘汰たちが求めた未来を実現した時、彼の傍にいる者たち次第では、覆ってしまう想定に過ぎない。
それこそ、いくら半神の勇者であっても――究極の聖騎士(ロイヤルナイツ)と、最強の黄金聖闘士(ゴールドセイント)、二人の神殺しを纏めて相手取ることになってしまっては、敵う道理などありはしないのだから。
「さて……アーチャーにご執心なのは結構だが、周りにも気をつけておかないとこの聖杯戦争――――――本当にご破算になっちまうかもしれないぜ?」
この場にはいない同業者に語りかけるように、冗談めかした言葉を残しながら……サガラもまた、自らの役割のために歩み出した。
【サガラ@仮面ライダー鎧武】
[状態]普通
[令呪]残り三画
[装備]???
[道具]???
[所持金]???
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の進行を見守る
1. 次の放送に備える
2. 葛葉紘汰の動向が気になる(無自覚)
[備考]
※現在位置は不明ですが、転移できるのであまり関係ありません。詳しくは後続の書き手さんにお任せします。
[全体の備考]
※第一回放送にて、聖杯の不具合(サーヴァントの情報閲覧の制限)についても言及される予定です。
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|[[空戦 -DOG FIGHT-]]|[[投下順>本編目次投下順]]|[[ホライズン]]|
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|~|セイバー([[アルファモン]])|~|
|[[カーテン・コール]]|[[サガラ]]|[[第一回定時放送]]|
2016-07-27T23:52:00+09:00
1469631120
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空戦 -DOG FIGHT-
https://w.atwiki.jp/yggdrasillwar/pages/116.html
*空戦 -DOG FIGHT- ◆nig7QPL25k
学術地区に存在する、一般学生向けの中学校。
魔術都市にこのような学校があるのを、意外に思う人間もいるかもしれない。
しかし魔術師の街とはいえ、全員が魔術を使えるわけではないのだ。
たとえば才能に恵まれなかった者。兄弟に継承者の座を譲り、自身はそうでない人生を送ることを選んだ者。
あるいは一般人でありながら、たまたま魔術師に嫁いだ末に、このユグドラシルへ移り住むことになった者。
故に魔術都市においても、魔術が使えない人間というのは、決して珍しい存在ではないのだ。
だからこそ、それに合わせた職業や、教育機関というものも、この街ではきちんと用意されていた。
「おはよう、さやかちゃん」
鹿目まどかも美樹さやかも、そんな一般学校に通う、魔術を使えない中学生だった。
少なくとも、表向きには。
「おはようまどか。昨日は本当に大丈夫だった?」
「えーっと、うん、大丈夫。ちょっと危なかったけどね」
騒がしいホームルーム前の教室の中、二人は前日の一件について話す。
純粋に心配してということもあるが、もちろんさやかの側にとっては、理由はそれだけには留まらない。
事故から生還したというのが、本当に起きた出来事なのか。
彼女は襲撃を免れた、サーヴァントのマスターなのはではないのか。
会話の中で、確かめようとしたのだ。戦うことができずとも、せめてそれだけでも知るためにも。
「あっ、鹿目さんおはよー」
「ねー昨日どうしたの? 学校にも連絡なかったって聞いたけど」
「あー、えっとね、その……」
やがて他の学生達が、まどかが登校したことに気付き、口々に昨日の欠席の理由を問う。
事故という鮮烈なワードは、子供達の関心を強く刺激し、あっという間に人だかりができた。
一応会話に矛盾がないか、聞き耳を立て確かめることはできる。
だがこうなると、踏み込んだ質問を、さやか自身が行うことはできなさそうだ。
(………)
そんなことを考えながら、セイバーのサーヴァント――レオン・ルイスは、その光景を傍観していた。
隣の男子の机の上に、霊体化した不可視の体で、無造作に腰を下ろしながら。
(サーヴァントの気配は……ない)
念のため、周囲を見回してみる。
相手が霊体化していれば、その気配を察知することは困難だ。それは理解している。
しかし同じ教室に、自分と同じサーヴァントが、息を潜めている可能性があると考えると、どうしても意識せずにはいられなかった。
この温厚そうな少女がマスターであるなら、いきなり派手な行動を起こすことはないはずだ。そう信じたい。
(にしても……)
そうして教室を見渡していると、別のことが気になってくる。
具体的には、数十もの席が並んでいる、この学校の教室というものがだ。
レオンの暮らした時代には、こんな大掛かりな教育機関などなかった。
中世ヨーロッパにおいては、学校とは職人や僧侶を育てるための教室であったらしく、現代とは大きく意味合いが異なっている。
らしい、というのは、他ならぬレオン・ルイス自身が、学校に通ったことがないからだ。
彼自身は特殊な事情を抱えてはいたが、彼のように学校に通えない子供や、さやかの歳で働いている子供ですらも、全く珍しいものではなかった。
(変われば変わるもんだな)
それが良い変化なのか、悪い変化なのかは分からない。現代は自分の時代に比べて、何かと面倒になっているらしい。
それでも、読み書きや算数を分けけ隔てなく、誰でも学べるというのは、羨ましい時代だと思った。
父親に習っていた自分とは、大違いだ。
そんなことを考えながら、レオンは賑やかな学び舎を、一人静かにぐるりと見渡す。
(……そういえば、アイツがいないな)
そうしていると、ふと、あることに気がついた。
まどかと入れ替わるようにして、姿が見えなくなった人間がいるのだ。
昨日さやかが話しかけ、まどかのことを尋ねていた、車椅子の少女がいない。
確か、あの娘の名前は――
◆
《そうですか……やっぱり、登校していましたか》
東郷美森が、バルクホルンから念話を受け取ったのは、キャスター達の元を離れて、しばらくしてからのことだった。
学校には向かわず、不審な建物を調べてみたが、もしかしたらその間に、鹿目まどかが姿を現しているかもしれない。
そう考え、自らのサーヴァントを先行させて、学校の様子を探らせていたのだが、どうやら当たりだったようだ。
まどかは無事に登校し、美樹さやから級友と共に、教室で授業を受けている。
突如姿を消した時には、マスターでないかと疑ったのだが、無事に生きて帰ったからには、その可能性は高そうだ。
《どうする? 仕掛けるにしても、こんなところで、派手に行動を起こすわけにもいかないだろう?》
バルクホルンが指示を求めてきた。
最後の確認をするのなら、やはり直接攻撃を仕掛けて、出方を伺うのが分かりやすい。
だがそれには、相手サーヴァントからの反撃という、大きなリスクがつきまとう。
おまけにマスターでなかった場合、悪目立ちするだけに終わるため、これまた損だけが残るのだ。
さて、これをどうするか。この場は大人しく見逃すべきか。
(そういえば……)
そこまで考えた、その時。
それらのデメリットを解消する、便利なアイテムがあることを、東郷美森は思い出した。
ポケットに入れていたキャスターの宝具――『機界結晶(ゾンダーメタル)』を取り出す。
三つしか持っていないこれを、いきなり使ってしまうのは、もったいないことかもしれない。
それでも、使うべき時は間違いなく今だ。第一なくなったものは、また彼らに会って、ねだればいいだけの話だ。
《渡したいものがあります。一度戻ってきてください》
東郷はそう決断し、バルクホルンへと念話を飛ばす。
《……あれを使うんだな》
アーチャーのサーヴァントからの返事は、ほんの一拍だが、遅れていた。
《その通りです》
《本当にいいのか?》
問いかけは先の同盟を非難したような、鋭い口調のものではない。
人の道を外れた行いをする自分を、気遣っている声色だ。
たとえNPCであっても、その尊厳を穢す行為は、勇者の使命とは相反するものだ。
本当にそんなことをしていいのかと、心配してくれているのだ。
《構いません。今更後戻りはできませんから》
その心遣いは、嬉しいと思う。
英霊の魂を受け継ぐサーヴァントが、精霊とは違うものであることを、ようやく実感できたとは思う。
されど、今はそれを受け入れるわけにはいかない。
東郷は不退転の決意と共に、この場に銃を携えているのだ。
使えるものは全て使う。良心などいくら引き裂けても構わない。
そうしなければ、結城友奈を救うという、己が大望は果たせないのだ。
《合流地点を指定します。すぐにそこまで来てください》
令呪はもったいないから使えない。車椅子での移動速度には限りがある。
であれば、ストライカーユニットとやらを履いているバルクホルンの方に、戻ってきてもらう方が手っ取り早い。
指示を出すと、東郷美森は、指定した場所へと進み始めた。
最愛の仲間たちを救うための、外道の道を歩むために。
◆
(不甲斐ないな、今の私は)
ゲルトルート・バルクホルンは思う。
日陰の壁にもたれかかりながら、アーチャーのサーヴァントは思考する。
今の自分の行動の、どこに正義があるのだろうと。
少女一人止められない自分は、ひどく情けなく見えるのだろうと。
同じカールスラント軍の友人であれば、もっと器用にたしめられたかもしれない。
リベリアンの悪友からは、嘲笑われてしまうかもしれない。
(せめて彼女の目的だけでも、聞き出すことができたなら)
後戻りはできないと、彼女は意味深に口にしていた。
その心さえ分かったならば、声をかけられたかもしれない。
手段を選ばず、性急に、勝利と聖杯を求める東郷を、諭し導くことができたかもしれない。
それでも、それはかなっていない。未だ彼女はその心を、固く閉ざしたままでいる。
悲しいかな、不器用な性分の自分では、その扉の内側を、察してやることができない。
何と声をかけるべきか、どうすれば止まってくれるかも、今のバルクホルンには分からない。
「ゾンダァァァ……」
呻くような声が聞こえる。
蠢く金属の光沢が見える。
それが学校の校舎裏へと戻った、バルクホルンを我に返らせる。
既に作戦準備は整ってしまった。後は彼女が指示を出すだけだ。
今更なかったことにしようにも、『機界結晶(ゾンダーメタル)』を植えつけたNPCは、もはや元には戻らない。
(そうだ)
今は進むしかないのだ。
それ以外の道を見つけられないまま、ここまで来てしまったのだ。
であれば、迷いも躊躇いも捨てろ。これしかできないというのなら、今はそのことに集中するのだ。
「――行け」
短く放った命令が、作戦開始のコマンドだった。
バルクホルンの指示を受けた、紫色のゾンダー人間は、建物の入り口へと進み始めた。
全ては命令を実行するために。
この学校を襲撃し、盛大に暴れ回ることで――鹿目まどかの正体を、白日のもとに晒させるために。
◆
「きゃぁあああっ!」
八方から響き渡る悲鳴と、押し合いへし合いの人混みの中。
思ったより派手好きな奴がいたものだと、暁美ほむらは思考する。
得体の知れない化物が、隣のクラスに現れた。
その事実はジュニアハイスクールを、一気にパニックへと陥らせていた。
《セイヴァー、まどかのことはマークしている?》
まさに隣のクラスにいたまどかのことは、混乱の中で見失ってしまった。
姿を隠しているサーヴァントへ、ほむらは念話で問い掛ける。
《大丈夫よ。見えているわ》
《ならそのまままどかを守りなさい。私はこの騒動を起こした犯人を探す》
美国織莉子の返事を聞くと、ほむらはそのように指示した。
現れたのは怪物だそうだ。明らかにサーヴァントではない。
であれば、その怪物を操るサーヴァントが、学校のどこかに潜んでいるはずだ。
そしてそのマスターも、恐らくは同じように身を隠している。
事を起こした何らかの意図の下、手下へ的確な指示を出すために。
《構わないけれど、しばらくこのまま、様子を見させてもらっていいかしら?》
反抗ではなく、意見具申。
それならば令呪の制約の外ということか。
《何故?》
思わぬ織莉子の提案に、ほむらは人混みを押しのけながら、眉をしかめてそう尋ねる。
それはつまり、まどかを助けず、放置しておくということだからだ。
《彼女が死亡する未来は、未だ予知できていない。であれば、鹿目まどかの死の未来を、誰かが食い止めているということになるわ》
《……まどかの家にいたサーヴァントね》
《彼が現れるというのなら、今後のためにもその力を、見せてもらいたいと思わない?》
一理ある。
まどかのサーヴァントの力は未だ未知数。彼女を守り抜く上で、どの程度あてにしていいものかは不明瞭だ。
彼が脅威を払うというのなら、その戦いの瞬間を織莉子に見せ、対応を考えさせるのも手ではある。
理屈の上では、間違いなくそうだ。
《……好きにしなさい》
もっとも、まどかを囮に使っているようで、心理的には最悪な気分だったが。
不承不承ながらも了承した、暁美ほむらの顔立ちは、随分と不愉快そうに歪んでいた。
◆
「ゾンダァァァッ!」
金属の体が不気味に光る。
意味も分からない雄叫びが、一層の恐怖心を煽る。
おぞましい気配を纏うヒトガタ崩れが、爛々と光る瞳でこちらを睨む。
血だまりの中心で蠢いているのは、人間大の怪物の姿だ。
美樹さやかの教室に現れ、教師を嬲り殺した紫の魔物だ。
それは突然に忍び寄り、教室の扉を叩き割り、二時間目の授業に乱入してきたのだ。
「くっ……!」
恐慌に包まれた教室の中、さやかは敵の姿を睨む。
誰が何のために呼び寄せた、いかなる魔物であるのかは知らない。
だがその誰かというものが、聖杯戦争の参加者であることは、間違いないと断言できた。
「なんだよっ、なんだよこれぇ!」
「ひぃぃっ!」
NPC達が騒ぎ立てる。
混乱の渦中に落とされた教室で、紫の怪物が蠢く。
どうする。どうすればいい。
ここにいる者のほとんどはただのデータだ。だがもしかしたら、予選を通過できなかった、本物の人間もいるかもしれない。
「あ、ああ……!」
何より壁際で竦んでいるまどかは、人間である可能性がかなり高い。
どうすべきだ、美樹さやか。
このままでは遠からず全滅だ。本物の人々も、鹿目まどかも、恐らくは等しく食い殺される。
(やっぱり、ここは……!)
抗する術は魔法しかない。
ソウルジェムの魔力を解き放ち、変身して斬りかかるしかない。
ここで正体を明かせば、程なくして正体がばれるだろう。そうなれば聖杯戦争を戦う上で、不利になることは間違いない。
だが、これしか手がないのだ。自分の命可愛さに、友達を見殺しにできるほど、さやかは薄情ではないのだ。
左手の指輪を光らせる。
内なる魔力を渦巻かせる。
魔法少女の本体にして、力の源たるソウルジェム。
命を対価に奇跡を具現し、結晶化させたその宝石が、光と共に解き放たれる――
《――待て!》
と思われた、その瞬間。
斬――と鋭く音が鳴った。
念話の声と重なって、視界の中心で白い衣と、赤い炎が舞い踊った。
赤は燃える炎の色。
そして男の髪の色。
振り向く瞳もまた赤く。猛る炎のごとく熱く。
「セイバー……!」
そうだ。すっかりと忘れていた。
今の自分は一人ではない。一人きりで戦っているのではない。
誰一人仲間のいない世界でも、新しくできた仲間がいる。
最優のクラスと共に現界した、黄金騎士のサーヴァント。
燃える剣騎士、レオン・ルイス――今はその力が、共に在る!
◆
《さやかは何もするな。ここは俺が押さえる》
《えっ!? それは……》
《今なら俺の顔が割れただけで済む。このまま身を隠していれば、お前の正体は隠し通せるはずだ》
主へと念話を送りながら、レオンは油断なく気配を探った。
この学校内に蠢く気配は、今の一つきりではない。
同じ邪気を纏った魔物が、まだ他の学生を襲っている。
それがいつ美樹さやかを捕捉し、襲いかかってくるか分からない。
であれば、ここは戦うべきだ。この刃で全てを斬り伏せるべきだ。
「早く行け! 学校の外まで逃げろ!」
怯える学生達に叫んだ。
言うやレオンは跳躍し、教室を出て廊下を走った。
霊体化によって実体をなくし、人混みの中を駆け抜ける。
人の波にも臆することなく、姿なき疾風へと変わる。
魔力の気配はこの下からだ。
ねじれた階段を下ることなく、三階の廊下から飛び降りると、見事に二階へと着地した。
「ゾンダァァァ!」
姿を見せたその瞬間、現れたのは紫の魔物だ。
飛びかかる鋼鉄の亡者に、レオンは刃を振りかざす。
突撃の勢いを利用した剣は、微動だにすることもないまま、魔物の肉体を両断した。
ソウルメタルによって鍛え上げられた、心の映し身、魔戒剣。
守りし者としての修練を積み、曇りなき信念で固められた刃にとっては、鋼であっても土くれ同然。
塵となり消えた敵には目もくれず、レオンは次なる獲物を探る。
研ぎ澄まされた神経の前では、たかだか使い魔崩れの動きなど、赤子のそれも同然だ。
(こいつらを操っている奴は、どこだ)
三体目の怪物を捉えながら、レオン・ルイスは思考する。
この程度の連中ごときが、サーヴァントであるはずがない。
であれば、これはただの使い魔だ。操っている本体が、この近くのどこかにいるはずだ。
どこかで戦いを見ていた奴が、さやかの命を狙ってきたのか。
あるいは自分達と同じように、まどかに目をつけていたのか。
斬り伏せた三体目の魔物を、踏みつけ床へと押しつけた瞬間。
(――そこか!)
突如として、迫る気配を感じた。
何もないところから現れた気迫だ。これまでとは比較にならない殺気だ。
セイバーとしてのレオンに与えられた、高ランクの直感スキルは、襲撃者の存在を見逃さなかった。
刃を携えて振り返る、その先に実体となって現れたのは――
「うぉぉぉりゃあああああッ!」
パンツだ。
否、女性の臀部だ。
こちらに尻を向けた女が、怒号と共に突っ込んでくる。
一瞬の光景だ。ツッコミすら浮かんでこなかった。
その動作が、脚部の推進装置を逆向きにして、急制御をかけるためのものだったことにも、レオンは気付くことはなかった。
理性で状況を受け止めるより早く、女がこちらに放った何かが、炸裂し爆音と業火を生じた。
◆
(あれが本当に、奴のサーヴァントなのか?)
あまりにも呆気無い幕切れだ。
ロケットランチャーの爆炎を見ながら、バルクホルンは思考する。
姿を現した白衣の剣士は、それほど強そうな相手ではなかった。
あれが鹿目まどかを救い、本戦へと進ませた力だとは、到底信じられなかった。
この程度の爆撃で、為す術もなく吹っ飛ぶようなら、それこそ労力の無駄というものだ。
東郷美森の指示通り、『機界結晶(ゾンダーメタル)』全てを使う価値が、あの男にあったとは思えない。
(まぁいい。これで任務は完了だ)
思考し、パンツァーファウストの発射筒を引っ込める。
あのサーヴァントは明らかに、鹿目まどかの教室に姿を現した。
戦闘能力がどうであれ、彼女はサーヴァントを失い、聖杯戦争から脱落したのだ。
あとは姿を見られる前に、とっとと退散してしまおう。
「……っ!?」
そう思考した、瞬間だった。
彼女の周囲を取り巻く空気が、まばたきの間に一変したのは。
振り返り視線から逸れた炎が、ごうごうと渦を巻き始めたのは。
「これは……!?」
我知らず、ゲルトルート・バルクホルンは呟く。
うねる真紅の光の向こうに、ただならぬ何者かの存在を感じる。
その気配は敵を射殺し、竦ませる殺気などではない。
相対する者に畏怖を抱かせ、ひれ伏させる神々しき威容だ。
刹那、赤は金へと変わった。
突風と共にほとばしる光が、熱気をことごとく吹き飛ばしたのだ。
「――フンッ!」
豪腕が灼熱を吹き飛ばす。
翻るマントが炎を払う。
燃える業火の真っ只中から、姿を現したのは、黄金。
目もくらむ太陽のごとき甲冑を、その身に纏った剣の騎士だ。
その堂々たる威容は、さながら神話の英雄譚から、そのまま飛び出したかのようであり。
されども頭部をすっぽりと覆った、人狼のごときフルフェイスヘルムのみが、獰猛な眼光を放っていた。
「それがお前の本当の姿か」
狼の瞳は、赤く燃える。
それは先程爆弾を浴びせた、恐らくはセイバークラスであろうサーヴァントの真紅だ。
恐らくは自分のそれと同じ、ステータスをアップさせる類の宝具だろう。
事実として、黄金騎士の纏うオーラは、一瞬前に感じたそれとは、桁外れのものになっていた。
ただ鎧を着ただけではない。そんな生やさしいものではない。
油断をすれば呑まれそうな――否、その顎によって食い千切られそうな。
強く気高く猛々しく、迫り来る全てを退ける。まさに最優の剣騎士に相応しい、堂々たる風格を身に纏っていた。
これが神代の時代を戦い抜いた、古の英霊の威容というものか。
長く戦ってこそきたものの、自分など未だ若輩であることを、否が応にも思い知らされる。
「そういうお前の方こそ、アイツらを操っていた奴で間違いないな」
言いながら、金のセイバーは剣を構える。
右手で刃を正面に向け、左手を沿わせる独特な構えだ。
刃金と黄金の鎧が擦れ、細かな火花が虚空に散った。
ぎりぎりと聞こえる金属の音は、獣の威嚇のようにも聞こえた。
「さてな。自分で確かめてみることだ」
冷や汗を感じた。
されどにやりと不敵に笑った。
呑まれれば負けだ。バルクホルンは己を律し、両手に愛用の機関銃を生じる。
大型機関銃、MG42S。本来ならばウィッチであっても、二丁で用いるような代物ではない。
されど身体強化を得意とする、ゲルトルート・バルクホルンは、それすらも難なく実現してみせる。
「………」
空気が、見る間に固まった。
互いにそれぞれの得物を構え、油断なく睨み合い、間合いをはかる。
先に動くのはどちらだ。相手はどのような手で来るか。それに対処することはできるか。
思考が交錯し、緊迫が張り詰め、びりびりと振動する錯覚すら覚える。
「――ッ!」
先に動いたのはセイバーだ。
床を蹴り、本物の狼のように、一挙に間合いを詰めてきた。
見るや否や、バルクホルンも動く。前進する敵とは逆に引き下がる。
アーチャーの武装は遠距離用だ。剣の間合いに入られては、その威力を発揮することはできない。
トリガーを引き、弾丸を放つ。
だだだだだっ――と途切れることなく、殺意の銃弾が遠吠えを上げる。
異なる世界の戦場においては、電動鋸とあだ名され、恐れられた名銃だ。
破壊力も連射性も申し分ない。その弾丸は人間はおろか、魔獣ネウロイであったとしても、一瞬で蜂の巣へと変える威力を有する。
「オォォォォ――ッ!」
その、はずだった。
(凌ぐのか!? この弾丸を!?)
されど、セイバーは止まらなかった。
剣をかざし、鎧で受け止め、黄金の騎士はなおも走った。
獰猛な獣と化したサーヴァントは、迫り来る必殺の魔弾ですらも、まるで意に介さず突っ走る。
「ダァッ!」
壁が迫り、減速したバルクホルンに追いついた金狼は、遂にその牙を振り下ろす。
荘厳に輝く黄金の剣は、身をかわすアーチャーの背後の壁を、轟音と共に爆砕した。
斬ったのではない。砕いたのだ。
切り傷をつけるどころか、完全に刃を貫通させて、壁を粉々に吹き飛ばしたのだ。
(ここでは埒があかん!)
身を立て直しながら、バルクホルンは思う。
サーヴァントとの交戦は初めてではない。
だが、さすが本戦まで勝ち残った相手というべきか。その時に危なげなく倒した敵とは、まるで別次元の強さだ。
あれをシールドで受け続けるのにも、閉所でかわすことにも限度があるだろう。
屋内という戦場が大きなハンデだ。
なれば、場所を変えるべきだ。
「ぬぉおおおっ!」
雄叫びと共に、銃弾を放つ。
マシンガンの咆吼とともに、後退ではなく、敢えて突っ込む。
単純な攻め手だ。通じるはずもない。当然セイバーは剣を振りかざし、弾丸のことごとくを捌いてのける。
「りゃあッ!」
「!?」
だが、本命はそれではない。今のはあくまで牽制なのだ。
銃を消し突っ込むバルクホルンは、敵の脇腹へと飛び込む。
掴みかかったタックルの姿勢で、なおも推進力を増大させる。
光り輝くのは魔力の光だ。固有魔法・身体強化を、全開で発揮した証明だ。
不意打ちに面食らったセイバーは、呆気無いほどに押し出され、虚空へとその身を放り出される。
そうだ。虚空だ。
ゲルトルート・バルクホルンの狙いは、敵ごと廊下の外へと飛び出すことだ。
大きな窓ガラスをかち割り、躍り出た空間は、すなわち空。
宙を舞う術を持たないセイバーは、重力の魔の手に引きずられ、校庭へと見る間に落下していく。
「フン!」
壁面に剣を突き立てた。
それが勢いを殺すブレーキになった。
腕力で重力を強引に殺し、セイバーはその身を減速させて、粉塵を纏いながら着地する。
剣を引き抜き、埃を払い、すぐさま戦闘態勢へと戻った。
再び武器を取り出して、眼下を睨むバルクホルンと、赤い瞳が向き合った。
(もう言い訳は許されん)
開けた空中はバルクホルンの戦場だ。
逆に言えば、これで負ければ、完全に実力での敗北ということになる。
銃と共に覚悟を携え、仕掛けた得意の空中戦。
果たして黄金の英霊は、この状況に対して、どう出るか。
◆
「面白い。この状況、利用させてもらうとしよう」
◆
「はあ、はぁっ……!」
混乱の最中、まどかは走った。
名前を呼ぶさやかとははぐれてしまったが、それでも必死に出口を目指した。
ここには守ってくれるアーチャーがいない。この身一つで逃げるしかない。
サーヴァントのマスターであったとしても、鹿目まどか自身には、戦う力など何一つないのだ。
できることと言えば、こうやって、敵から逃げることくらいしかない。
自分のために戦ってくれる、あの黄金のサーヴァントの、足を引っ張らないためにも。
「うわぁああっ!」
前方から少年の悲鳴が聞こえた。
すぐさまそれは血しぶきへと変わった。
下駄箱へと向かう曲がり角から、姿を現したのは、新手だ。
「ォオオオオ……!」
「えっ……!?」
その姿は、怪物ではない。
鎧を纏い、瘴気を放つ、中世の兵士達のような軍団だ。
黒々としたオーラを纏い、呻き声を上げるその姿からは、生気というものが感じられない。
ホラー映画に出てくるゾンビ――装いはだいぶ違っているが、雰囲気はあれに近いのか。
先ほど校舎に現れたものとは、どこか違うものを感じる相手だ。
されど命を狙うべく、姿を現したことだけは、間違いなく共通していると言えた。
「あ、ああ……!」
ここまで来ておいて、出てくるのか。
あと一歩で校舎から出られる、そんなところで阻まれるのか。
数が多い。十人くらいはいるかもしれない。これでは逃げることができない。
「グォオオオオ……!」
敵はおぞましい唸りを上げて、じりじりと間合いを詰めてくる。
もはやここまでか。
これで何もかも終わりか。
大切な家族達のところへも戻れず、こんな得体の知れない地で死ぬのか。
――すぐに俺を呼んでくれ。たとえ令呪を使ってでもな。
胸に、蘇る声があった。
それはあの夜にそう言ってくれた、心強い男の言葉だ。
そうだ。まだ手は残されている。たった三回しか使えない手だが、今使わずして何とする。
こんなところでは死ねない。絶対に帰らなければならない。
左手の甲に光が走った。三画のエンブレムの一つが消えた。
絶対に生きて帰る。そのために力を貸してくれる人がいる。
まどかは強く決意を固めた。ほとんど悲鳴に近い声で、その名をめいっぱいに叫んだ。
「来て――アーチャーッ!」
瞬間、視界を金色が覆った。
ほとばしる黄金の閃光は、幾千幾万の拳撃となって、死霊の兵士達をなぎ倒していた。
◆
空を飛べるという利点。
それは単に、移動が楽になるだとか、そんな低次元なものではない。
地上の者は縦と横の、二次元的な行動しか取れない。
たとえ跳躍したとしても、それもただ上に跳ぶだけだ。二次元よりも更に狭い、直線的な動きでしかないのだ。
対して空を飛ぶ者は、縦横のみならず高さすらも、自在にコントロールすることができる。
つまり陸の者が地を走るよりも、更に行動の自由度が高いのだ。
三次元と一次元。その動きの自由度の差は、戦闘においては絶対的なものと言えた。
「オォォォッ!」
レオン・ルイスが跳躍する。
黄金騎士ガロが天へと躍る。
振りかざす牙狼剣の一閃は、触れれば万物を両断する、文字通り必殺の一撃だ。
「っ!」
されど、それは当たればの話。
一直線の攻撃であれば、回避するのは容易いこと。
ゲルトルート・バルクホルンは、最小限の動作で難なくかわし、反撃の一打を叩き込んでくる。
構えた銃口は大柄な、MG151のもの。もはや歩兵の武器にすらとどまらない、戦闘機向けの機関砲だ。
「ガァッ!」
ばりばりと轟く弾丸を浴びては、魔戒騎士であってもひとたまりもない。
脇腹にクリーンヒットしたそれは、太陽のごとき光であっても、容易に地面へと叩き返す。
そうだ。ガロは太陽そのものではない。空を舞うようには生まれていないのだ。
土埃を上げ転がりながらも、レオンは何とか立て直し、身を起こして片膝をつく。
「これもだ!」
地上に向けて雄叫びが響いた。
バルクホルンの追撃は、先ほど放ったものと同じ爆弾だ。
パンツァーファウストという正式名も、レオン・ルイスには知るよしもない。
現代に生きていない黄金騎士は、予備知識を与えられているだけだ。それ以上のことは分からなかった。
「フッ!」
白煙を上げて迫る爆弾を、バックステップにて回避。
熱風にばたばたとマントを揺らし、炎の先の敵を睨む。
厄介な敵だ。現代の銃というものが、これほどの性能の武器に変貌していたとは。
その上相手は空を飛べる。遠距離戦に長けた武器を、こちらの手の届かない位置から、自由自在に放ってくる。
自分にないものを数多持った、疑いようもない難敵だった。
(翼の鎧は……使えないか)
一瞬、炎の翼を思う。
かつてメンドーサとの戦いで用いた、金と銀のガロを回想する。
あの姿になって戦えたならば、恐らくはこれほど苦戦することもなく、逆転することができただろう。
だが、それはかなわない。翼を纏い飛ぶためのピースが、今のレオンには欠けている。
(やっぱり、あの鎧はアイツのものだ)
歳の離れた弟を想った。
ガロが空を飛ぶためには、もう一つの魔戒騎士の鎧――『絶影騎士・ZORO(ゾロのよろい)』が必要不可欠だ。
されどその鎧は当の昔に、別の人間に受け継がれている。
本来の継承者ではなく、あくまで借りただけのレオン・ルイスに、与えられているはずもない。
(無いものねだりはしてられない……か!)
とはいえ、そのことを悔いている暇はない。
手札が揃っていないのならば、ないなりに戦うしかないのだ。
確かにアーチャーは素早い。空を飛ぶことに関しては、間違いなくスペシャリストだろう。
翼を持たない魔戒騎士には、あれほど器用な立ち回りはできない。
(だが)
だとしても、それがどうした。
魔戒騎士の相手とは、条理から外れたホラーなのだ。
奴らはあらゆる場所に息を潜め、舌なめずりし人を狙う。
それは陸地のみならず、時には夜の闇空から現れ、深き水底からも現れる。
陸も空も海ですらも、ホラーの戦場となりうるのだ。
そして黄金騎士ガロは、それらをことごとく討滅してきた。
あらゆる戦場での経験が、レオンには蓄積されているのだ。
自身に空を飛ぶ術はない。
されど空飛ぶ敵との戦いに関して、レオン・ルイスは百戦錬磨だ。
「ウォオオオッ……!」
内なる魔力を炎へ変える。
魔界の炎を解き放つ、烈火炎装と呼ばれる技だ。
煌々と燃え盛る緑の炎が、ガロの鎧を眩く染めて、やがて牙狼剣をも包み込む。
(仕掛けてくるか!)
もちろん、対するバルクホルンも、このまま終わるとは思っていない。
あれほどの気配を纏う敵だ。必ず反撃をしてくるはずだ。その警戒は抱き続けていた。
あの炎が何であるかなど、初対面のバルクホルンには、到底知るよしもない。
だとしても、満を持して現れたあれが、状況打開の切り札であると、予想できない馬鹿でもなかった。
//
「ハァッ!」
剣を振るう。
炎が躍る。
切っ先を照らしていた炎は、スイングに合わせて魔弾へと変わる。
牙狼剣から放たれた炎が、そのまま飛び道具へと変貌して、バルクホルンへと襲いかかった。
「これしき!」
だが、あくまでもそれだけのこと。
見た目も大きさも派手だが、決してかわせない攻撃ではない。
身をよじってすぐさま回避。そのまま反撃へと転じる。
背後で爆裂の音が響いたが、そんなものには構うことなく、機関砲の射程距離を詰めた。
「フン!」
対するレオンも跳躍する。
黄金騎士ガロが加速する。
互いに真っ向からの突撃。銃撃で返している暇はない。
されどゲルトルート・バルクホルンは、まっすぐしか飛べない敵とはわけが違う。
狙いをつけるより早く、容易く回避することが可能だ。現に牙狼剣は届かず、両者の影は交錯した。
明後日の方向へ跳んだガロへと、バルクホルンは向き直る。今ならあの無防備な背中に、容赦なく銃弾を浴びせられる。
「何ぃっ!?」
その、はずだった。
こともあろうに、目の前の鎧は、空中で停止していたのだ。
否、それはあくまでも一瞬のこと。ガロは次の瞬間には、再びこちらへと飛びかかってきた。
回避不可能。間に合わない。シールドで受け止めるしかない。
魔力の光を展開し、円形の盾として生成する。
「オォォッ!」
「ぐぁっ!」
衝突の勢いは、ガロが勝った。
なにしろフルスピードで突っ込んできたレオンと、ターンのために立ち止まったバルクホルンだ。
踏ん張りも追いつかず、圧力を真っ向から食らったバルクホルンは、悲鳴と共に吹っ飛ばされる。
それでも彼女は屈することなく、空のレオンをなんとか睨んだ。
瓦礫の降り注ぐ空の中、マントをはためかす騎士を見据えた。
そしてようやく目の当たりにしたのだ。奴が空中制御を可能とした、そのとんでもない理由と原理を。
(そんな馬鹿な!?)
驚くべきことに、黄金の騎士は、空中の瓦礫を蹴って進んできたのだ。
跳躍とは足場を蹴ることによって行われる。地面を蹴れば必然的に、上に向かってしか跳べない。
しかし空中で他のものを蹴り、別方向へと跳躍すれば、空中でも軌道を変えることは可能だ。
問題はそんな理屈など、ただの屁理屈でしかないということだが。
「ハッ!」
それでも奴はやってのけた。
降り注ぐ瓦礫を次々と蹴り、着実に角度を修正してきた。
このままではまた激突する。同じように直撃をもらう。
「させるかぁぁぁっ!」
そんなものはまっぴらごめんだ。
あんなちまちまとした小細工ごときに、空のプロが追いつかれてたまるか。
怒号と共に制御をかけて、落下する体を強引に操る。
着地するスレスレで横向きに加速し、地表を滑るように飛行する。
「うぉおおおおっ!」
マシンガンを斉射した。
上空より迫る騎士を狙った。
魔力によって強化された、大口径の弾丸は、瓦礫すら粉微塵に吹き飛ばす。
たまらずガロも瓦礫を蹴って、横合いへと大きく回避する。
立て直したバルクホルンは身を起こし、再び上空へと舞い上がった。
今度こそ届きもしない高度へ、一直線に上昇するためだ。
「ヌォオオオッ!」
「なぁっ!?」
それでも、レオンは止まらない。
黄金騎士は引き下がらない。
こうなると本当に獣のようだ。
今度は何をするかと思えば、校舎の壁面に足を貼り付けたように、垂直に壁を走って上がってきたのだ。
(飛ぶ以外のことなら何でもアリか!?)
これ以上相手の距離には付き合えない。
必殺の覚悟でパンツァーファウストを取り出し、金の鎧目掛けて発射する。
爆裂。炎上。煙が上がる。
砕け散った校舎の壁が、無数の瓦礫になって宙を舞う。
これでやったか。さすがに止まるか。
(――こんなもので!)
それでも、奴はやって来る。
黄金の魔戒騎士・ガロは、必ず立ち上がり舞い戻る。
黒き煙を切り裂いて、金の光が天に躍る。
壁を蹴って、瓦礫を蹴って、次々と飛距離を稼ぎながら、空の敵へと襲いかかる。
金色に輝く騎士の鎧は、最強の魔戒騎士の証だ。
誰よりも多くの敵を倒し、誰よりも多くの命を守る。遥かな古から受け継がれてきた、最も優れた騎士の証だ。
それが止まることなど許されるものか。
こんな程度の苦境ごときで、立ち止まることなどできようものか。
「ウゥゥオオオオオッ!」
「ぐぅ……っ!」
遂に距離がゼロへと詰まる。
振りかざされた金の剣が、バルクホルンのシールドへ叩きこまれる。
吹き飛ばしはしない。離れない。
緑の炎と魔力の光が、弾け合い眩いスパークを散らせた。
このまま地上に落ちるまで押し込み、限界までシールドに負荷をかける。
忌々しい盾をぶち破り、今度こそとどめを刺してやる。
(そんなこと……!)
それが騎士の目論見だろう。
だがそんなことを許すものか。
襲いかかる衝撃の中、歯を食いしばりながら、バルクホルンは思考する。
相手が神話を戦い抜いた、歴戦の英雄であったとしても、そんなことは知ったことか。
こちらもカールスラントの、全ての民の命を背負い、命を懸けて戦ってきたのだ。
これ以上私の戦場で、好き勝手をさせてなるものか。
これ以上この大空を、我が物顔で走らせてたまるか。
私を誰だと思っている。
ゲルトルート・バルクホルンだ。
帝政カールスラントの、誇り高き軍人なのだ。
「カールスラント軍人を――」
瞬間、バルクホルンの姿が消えた。
いいやレオンの視界の外へと、ふわりと身を翻したのだ。
それは回避運動ではない。推進力をカットして、重力に任せて落下したのだ。
「何っ!?」
驚愕にガロが目を見開く。
三次元の戦いとは、何も上に昇るだけではない。
高さを支配するということは、どこまでも上昇するだけでなく、時に下降することも意味する。
敢えて自らの高度を落として、敵の懐へと潜り込んだ。
飛び上がることしか知らないレオンには、思い至らなかった発想だ。
これが空を戦うということだ。
カールスラント軍のウィッチの、空の戦闘技術なのだ。
「――なめるなぁぁぁッ!」
怒号と共に、光が走る。
黄金騎士ガロの腹部を、痛烈な衝撃が襲う。
それは弾丸の直撃ではない。伸びてきたのは大きな筒だ。
バルクホルンの身の丈に、倍するほどの長さを有した、巨大に過ぎるほどの砲身だ。
「なっ――」
レヌスメタルBK-5・50mmカノン砲。
ウィッチの常識を軽々と凌駕し、本来ならバルクホルンすらも、まともに扱えない超巨大兵器。
その重量を制御するには、通常のストライカーユニットでは、魔力の供給が追いつかない。
されど今はゼロ距離だ。狙いをつける必要も、支え続ける必要もない。
この一発だけを叩き込めれば、今はそれだけで十分だ。
「吹き飛べぇぇぇぇーッ!!」
雄叫びが上がった。爆音が上がった。
炸薬が弾け弾頭が飛び立ち、圧倒的な暴力が炸裂した。
巨大砲塔のゼロ距離射撃は、過たずレオン・ルイスに直撃し、学校全体を轟音で揺らした。
◆
「すごいわね……」
東郷美森の感想だ。
学校から少し離れた建物の上で、スナイパーライフルのスコープ越しに、戦況を見ていた東郷の言葉だ。
勇者となり現場に追いつきこそしたものの、この戦闘には、彼女は参加していなかった。
それはレオンがさやかを制止し、戦闘に参加させなかった理由と同じだ。
考えなしに飛び込んでいれば、正体を晒すことになっただろう。
そうなれば、学園に姿を現した、あの黄金の騎士のマスターに、命を狙われることになる。
もっとも彼女は、レオンを従えるマスターを、鹿目まどかではないかと考えていたのだが。
(それでも状況によっては、加勢に出た方がいいかもしれない)
戦況は全くの互角だ。
いいや、切り札の50mmカノン砲を、無理やりに使っているからには、バルクホルンの方が不利かもしれない。
もう一つの宝具を使わせる手もあるが、あれは正真正銘の奥の手だ。
これほどの戦いの後で使い、いたずらに魔力を消耗するくらいなら、直接出向いた方がいい。
(ならば、ここは――)
枝先に行かねば熟柿は食えぬ。
リスクを恐れていたならば、勝てる戦いも勝てはしない。
幸いにしてセイバーは、己のマスターを引き連れていない。こちらが先に出て二対一になれば、大きく有利になるはずだ。
そう考え、学校へ接近すべく、スナイパーライフルを引っ込めようとした瞬間。
「……あれは……?」
不意に、レンズに映るものがあった。
視界がズレたその先に、姿を現す何者かがいた。
マスターである東郷の瞳は、その正体を正確に見抜く。
そんなはずはない。鹿目まどかのサーヴァントは、あの剣騎士であったはずだ。
であれば、第三者の存在か。はたまた自分の読み違えか。
「新しい、サーヴァント……?」
いるはずのないもう一人の弓騎士。
想定しなかった三人目の戦士。
自分のバルクホルンと同じ、アーチャーのクラスを持つサーヴァントの姿に、東郷の目は釘付けになっていた。
◆
「はぁ……はぁ……」
土煙から浮き上がりながら、バルクホルンは肩で息をする。
無理やり放ったカノン砲は、容赦のない反動を発揮し、彼女を校庭へと叩き落としていた。
エースの肌に土をつけたのは、敵ではなく自分自身の武器だったのだ。
全くもって情けない。こんな真似をしなければならないとは。
「はぁ、はぁ……」
おまけにそれほどの無理をしてなお、未だ敵を倒せてはいない。
対峙する黄金のサーヴァントもまた、息を切らせているものの、五体満足のまま生存している。
であれば、これからどうするか。
マスターの援護を要請し、二対一で仕留めにかかるか。
あるいはもう一つのストライカーを使い、純粋なパワーで圧倒するか。
果たして考えている余裕を、あの黄金騎士が与えてくれるか。
「――そこまでだ」
その時だ。
聞き覚えのない新たな声が、戦場に割って入ったのは。
そしてこれまでに覚えのない気配が、バルクホルンに襲いかかったのは。
「っ……!?」
ぞわり、と肌の産毛が逆立つ。ジャーマンポインターの使い魔の、長い尻尾がぴんと立つ。
彼女とセイバーのサーヴァントが、声の方を向いたのは同時だった。
振り向いた先にあったのは、学校の校舎の入り口だ。
そこから、誰かが歩いてくる。ゆらゆらと揺らめく大気の向こうから、煌々と近寄る光がある。
「これ以上事を荒立てる気なら、今度は俺が相手になる」
がちゃり、がちゃりと具足の音。
地の石を踏み潰す金属の音。
そこから現れた男は――またしても、黄金の鎧だった。
違いがあるとするならば、巨大な翼を背負っていることと、兜を被っていないことだろうか。
剥き出しになった男の顔は、扶桑の人間の顔立ちか。鋭い視線は真っ直ぐに、自分達へと向けられている。
(何だ、あいつは……!?)
対峙するセイバーの宝具も、相当な気配を纏っていた。
だが今現れた鎧の男は、その男ともまた別の存在だ。
纏っている気配の濃さが違う。噴き出る魔力の絶対量が、自分達とは次元が違う。
翼を広げた金色の姿が、二倍にも三倍にも感じられた。
数多のネウロイと対峙し、死闘を繰り広げてきたバルクホルンが、この瞬間だけは完全に、確実に敵の気配に呑まれていた。
(あれはまずい)
本能がそう告げている。
このまま戦ってはいけない。
少なくとも疲弊した現状で、まともにやり合える相手ではない。
《マスター、援護を!》
すぐさまバルクホルンは念話を送った。
すぐ近くまで来ているであろう、東郷美森へと声を飛ばした。
このままタイマンを張るのは危険だ。少しでも勝機に近づくためには、頭数を増やすしかない。
守るべきマスターを頼る情けなさを、ぐっと堪えながらも呼びかける。
《いえ、すぐに離脱してください。彼が構えるその前に》
しかし返ってきたものは、交戦でなく撤退の指示だった。
《しかし、この作戦の目的は……!》
《鹿目まどかの排除は成りませんでしたが、マスターであることは判明しました。
その情報を、キャスターへの手土産にすれば、成果としては十分でしょう》
東郷の言葉はやや早口だ。
このジュニアハイの敷地に入っていない以上、恐らく敵の恐るべき気配を、直接感じているわけではないだろう。
傷を負ったバルクホルンの前に、二騎目のサーヴァントが現れた。それ自体が重要な問題なのだ。
《……了解した》
マスターの命令だ。
であれば、逆らうわけにはいかない。
セイバーにも新たなサーヴァントにも一言も告げず、バルクホルンは霊体へと変わる。
不可視の状態となったバルクホルンは、そのまま速やかに天へと上がり、東郷の居場所へ向かって離脱した。
(なんてザマだ)
情けない。
初戦からこれほどの苦戦を強いられ、おまけにおめおめと逃げ帰るとは。
東郷の心配をする前に、まず自分の無力さを、気にかけるべきだったではないか。
己の不甲斐なさが許せない。涙すら零れそうになる。
しかしそれだけは堪えた。カールスラント軍人たる者、泣き言を言ってなどいられないのだ。
(思ったよりも早く、使い時が来るかもしれない)
己の戦いを振り返る。
己が愛機たる『天に挑みし白狼の牙(フラックウルフ Fw190)』が、優れたストライカーユニットであるのは確かだ。
しかし初戦からこの調子では、それだけでは届かない相手にも、遠からずぶち当たることになるかもしれない。
そうなれば、使うことになるだろう。
己がもう一つの宝具を。
呪いのかかった忌まわしき機体を。
重大な欠陥をその身に宿し、不採用の烙印を押された赤い靴。
かつてその身を蝕んだ、試作型ジェットストライカー――『蒼天に舞え赤鉄の靴(Me262v1)』を。
【D-4/学術地区・一般中学校周辺/一日目 午前】
【東郷美森@結城友奈は勇者である】
[状態]魔力残量6割
[令呪]残り三画
[装備]勇者の装束、『機界結晶(ゾンダーメタル)』(肉体と融合)
[道具]通学鞄
[所持金]やや貧乏(学生のお小遣い程度)
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、聖杯の力で人類を滅ぼす
1.中学校から撤退し、キャスター(=パスダー)の元へと向かう。その際、放置していた車椅子を回収する
2.未来達と協力し、他のサーヴァントに対処する
3.金色のサーヴァント達(=レオン・ルイス、星矢)を警戒
[備考]
※『機界結晶(ゾンダーメタル)』によって、自身のストレス解消(=人類を殲滅し、仲間達を救う)のための行動を、積極的に起こすようになっています。
『機界結晶(ゾンダーメタル)』を植え付けられていることには気づいていません。
※レオン・ルイスか星矢のどちらかが、鹿目まどかのサーヴァントであると考えています
※小日向未来&パスダー組と情報を交換し、同盟を結びました。
同盟内容は『他のサーヴァントが全滅するまで、協力し敵を倒す』になります。
※D-4の路地裏のどこかに、車椅子を放置しました
【アーチャー(ゲルトルート・バルクホルン)@ストライクウィッチーズ】
[状態]ダメージ(中)
[装備]『天に挑みし白狼の牙(フラックウルフ Fw190)』
[道具]ディアンドル
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、聖杯を手に入れる
1.中学校から撤退し、キャスター(=パスダー)の元へと向かう
2.金色のサーヴァント達(=レオン・ルイス、星矢)を警戒。特に星矢を強く危険視
3.未来およびキャスターに対する不信感
4.自分でも使いたいとは思うが、聖杯はマスターに優先して使わせる
[備考]
※美森の人類殲滅の願いに気付いていません。言いにくいことを抱えていることは、なんとなく察しています
※レオン・ルイスが鹿目まどかのサーヴァントであると考えています
※小日向未来&パスダー組と情報を交換し、同盟を結びました。
同盟内容は『他のサーヴァントが全滅するまで、協力し敵を倒す』になります。
◆
撤退したアーチャーのサーヴァントが、どの方角へ行ったのかなど分からない。
故にレオンは目で追うことをせず、目前の相手を真っ直ぐに見据える。
突如として姿を現した、黄金の光を放つサーヴァント。
魔戒騎士と似通っていながら、しかし根本的に異なる意匠を有した、謎の甲冑を纏うサーヴァント。
武器は持っていない。故にクラスが推測できない。
身に纏う気配も相まって、得体の知れない相手だった。何をしでかすか分からない恐ろしさがあった。
「彼女は退いたが、お前はどうする」
低く、されどよく通る声だった。
退かなければ安全は保障しないと、言外に伝えていることは、誰の耳も理解できただろう。
涼しく構えているものの、それだけの凄みが宿っていた。
「……俺だって馬鹿じゃない。この体で、あんたとやり合うつもりはないさ」
こちらは手負い。あちらは無傷。
であれば、他に選択肢などない。
攻撃の意志がないことを示すため、鎧を解除しながら、レオンは言う。
黄金の甲冑が虚空へと消え、白いコートの姿へと戻る。
「俺も目的は果たした。潔く退散させてもらう」
「……そうか」
信用してもらえたのだろう。
翼の鎧を着たサーヴァントは、その場から壁伝いに跳び上がると、校舎の向こうへと姿を消した。
そうして誰もかれもいなくなって、校庭にただ一人になり。
《セイバー! 大丈夫!?》
たっぷり五秒ほどは経った後に、マスターからの念話が届いてきた。
恐らくはこれまでの戦況を、校舎の窓あたりから見ていたのだろう。逃げろと言ったのに、しょうがない主人だ。
《ああ、とりあえず敵は追い払えた。俺もまだ何とか生きてる》
返事をしながら、レオンもまた、自らの体を霊体化させた。
その辺りをきょろきょろと見回して、さやかのいる場所を特定すると、そちらに向かって歩き出す。
《それにしても、すごかったね今の……》
《多分あの金色の鎧が、鹿目まどかのサーヴァントだ》
《あれが!? まどかの!?》
空飛ぶサーヴァントも難敵ではあった。だが今それ以上に気がかりなのは、あの黄金の鎧を着たサーヴァントだ。
彼は自分達をこの学校から、明らかに遠ざけようとしていた。
それは奴の守るべき者が、学校にいることの証明に他ならない。
学校を攻撃した女と、学校を守ろうとした男。どちらがまどかのサーヴァントかは、考えるまでもなく明白だった。
《そっか……本当に、まどかが……》
返ってきたさやかの声は、暗い。
当然だ。守るべきだと考えていた友が、敵であると決まってしまったのだから。
あの美樹さやかのことだ。恐らくこのことに対して、悩み続けることになるだろう。
宿敵の命すら救って、仲間に戻ろうとする少女だ。元からの友人の命など、犠牲にできるはずもない。
(何とかしなくちゃならない、か)
真剣に考える必要があった。
この先美樹さやかに対して、どのように接していくのかを。
そして同時に自分自身も、この先どのように戦うのかを。
自分と互角以上に渡り合い、手傷を負わせた空飛ぶ女。
戦場に突如として割り込んできた、翼持つ黄金の鎧の男。
(特にアイツと戦うのなら……恐らくは、死力を尽くすことになる)
気がかりなのは後者の方だ。
あの絶大な魔力の気配は、明らかに並のサーヴァントのそれではなかった。
恐らくはかのヘラクレスやアーサー王のような、最上級クラスの大英霊。
それほどのライバルがよりにもよって、マスターと同じ学校にいるというのは、はっきり言って最悪だった。
奴と戦うというのなら、こちらも万全を期さなければならない。
持てる力の全てを尽くして、対峙しなければならないような、そういう類の強敵だ。
こうなるとなお、最大の切り札――『双烈融身(ひかりのきし)』を使えないことが、惜しくてならないと思える。
(それにしても……)
しかし、そのように考えると、別のことが気になってきた。
それほどの力を有していながら、何故奴は直接戦おうとせず、自分達を追い払うにとどめたのか。
傷を負った自分達ならば、たとえ一人であったとしても、撃退できたのではないか。
(そうまでして、戦いたくない理由があるのか?)
考えにくい話ではあった。
それでも、考えなければならないと思った。
あのサーヴァントの正体を探ることは、すなわち、鹿目まどかとの接し方にも、大きく関わってくることなのだから。
【D-4/学術地区・一般中学校校庭/一日目 午前】
【セイバー(レオン・ルイス)@牙狼-GARO- 炎の刻印】
[状態]ダメージ(中)
[装備]魔戒剣
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターを守って戦う
1.さやかと合流し、今後のことを考える
2.空飛ぶ女サーヴァント(=ゲルトルート・バルクホルン)、および翼の鎧のサーヴァント(=星矢)を警戒
3.翼の鎧のサーヴァントの行動が気になる。もしかしたら、おいそれと戦えない理由があるのかもしれない
4.まどかを敵だと思いたくないさやかに対して懸念
[備考]
※星矢が鹿目まどかのサーヴァントであると考えています
※ゲルトルート・バルクホルンが、中学校を襲撃した犯人であると考えています
◆
怪物騒ぎから、謎の戦闘。
立て続けに事件が起こったことで、中学校の生徒達は、一様に疲弊しきっていた。
それはまどかも例外ではない。
星矢のおかげで切り抜けたものの、ギリギリの死線を彷徨ったことは間違いないのだ。
「まどか、大丈夫?」
合流したさやかが声をかけてくる。
自身も大変な思いをしただろうに、他人の心配をしてくれるなんて。
その優しさが嬉しくもあり、同時にその気丈さに対して、申し訳ないとも思えていた。
「うん……ごめんね、さやかちゃん」
「ばっか、何で謝るのよ」
額を小突かれ、軽く悲鳴を上げる。
にひひと笑うさやかの顔は、空元気だとしても、元気そうだ。
情けない。本当はマスターである自分にこそ、これくらいの力が必要なのに。
何もできずに逃げ惑っていた自分が、これまでにないほどに貧弱で、惨めな存在に思えていた。
(そういえば、アーチャーさん……)
その時、ふと思い出した。
結局あの後アーチャー――星矢は、一言だけ念話を飛ばして姿を消した。
もう心配はない。また何かあったら呼んでくれ。
それだけを短く言い残して、顔を合わせることもなく、即座に学校から離れたのだ。
(やっぱり、無理させちゃったのかな)
理由は察することができる。彼が身に負った怪しげな傷だ。
あれが力の行使を阻害し、魔力を使おうとする星矢の体を、傷つけてしまっているのだという。
であれば、姿を消した星矢は今頃、どこかで苦しんでいるのかもしれない。
逃げられなかった自分のせいで、代わりにサーヴァントの彼が、痛みに喘いでいるのかもしれない。
(私って、本当にダメだ)
自分一人では何もできず、迷惑ばかりをかけている。
そんな自分が情けなくて、一層強く、膝を抱えた。
【D-4/学術地区・一般中学校・一階廊下/一日目 午前】
【美樹さやか@[新編]魔法少女まどか☆マギカ 叛逆の物語】
[状態]魔力残量6割5分
[令呪]残り三画
[装備]財布
[道具]なし
[所持金]やや貧乏(学生の小遣い程度)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れる
1.レオンと合流し、今後のことを考える
2.翼の鎧のサーヴァント(=星矢)を警戒
3.まどかに対して……?
4.人を襲うことには若干の抵抗。できればサーヴァントを狙いたい
[備考]
※C-2にある一軒家に暮らしています
※サーヴァントを失い強制退場させられたマスターが、安全に聖杯戦争から降りられるかどうか、疑わしく思っています
※星矢が鹿目まどかのサーヴァントであると考えています
※ゲルトルート・バルクホルンが、中学校を襲撃した犯人であると考えています
【鹿目まどか@[新編]魔法少女まどか☆マギカ 叛逆の物語】
[状態]魔力残量9割、自己嫌悪
[令呪]残り二画
[装備]財布
[道具]なし
[所持金]やや貧乏(学生の小遣い程度)
[思考・状況]
基本行動方針:帰りたい
1.あまり戦いたくない
2.何かあったら星矢を呼ぶ。令呪による強制転移もケチらずに使う
3.何もできない自分に対して、強烈な自己嫌悪
[備考]
※B-4にある一軒家に暮らしています
※美樹さやかがマスターであることに気付いていません
◆
《凄かったわ、彼女のサーヴァントは。恐ろしいほどの力を見せていた》
美国織莉子からの念話を、暁美ほむらは静かに受け取る。
それは察していたことだ。屋上に立っている彼女は、あの金色のアーチャーの姿も、現実に目の当たりにしていた。
これまでに相対してきたどの相手とも、明らかに次元の異なる存在だ。
あれこそが神秘を具現化した、サーヴァントというものなのかもしれない。
《あれだけの強さなら、彼女のことは、任せてもいいんじゃないかしら》
《だったら私と合流しなさい。今から行くべきところがある》
まどかから目を離すのは心苦しいが、それでも今のほむらには、為さなければならない用事があった。
故に彼女は織莉子に対して、護衛の任を解かせて合流を指示した。
《行くべきところ?》
《敵のマスター……恐らくは、空飛ぶアーチャーのマスターを見つけた》
《あら、そうなの》
意外だ、と言わんばかりの返答だった。
当然と言えば当然だろう。
仮に学校内にマスターがいれば、未来予知の使える織莉子が、移動中にマスターに遭遇する未来を予知する可能性がある。
それがかなわなかったからこそ、彼女はマスターを、見つけられないと考えていたのだろう。
(敵は学校の外にいた)
実際、標的は校内にはいなかった。
たまたま三階の窓から、偶然校外のビルを見た時、そこに人影を見出したのだ。
彼女が人のいる校内ではなく、誰もいない屋上に立っていたのには、そういう理由が存在した。
(けれど、あれは……)
確かに、マスターの所在は校内ではない。
されどそこにいたマスターは、学校と無関係な人間ではなかった。
魔法少女を思わせる、奇妙な装束を身にまとった、黒髪と大きな胸が特徴的な少女。
自分の隣のクラスにて、まどかと共に授業を受けていた、車椅子を使っていた少女。
この日奇しくも、学校を休んでいたはずだった、東郷美森がそこにいたのだ。
【D-4/学術地区・一般中学校/一日目 午前】
【暁美ほむら@[新編]魔法少女まどか☆マギカ 叛逆の物語】
[状態]魔力残量9割
[令呪]残り二画
[装備]ダークオーブ
[道具]財布
[所持金]普通(一人暮らしを維持できるレベル)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れる
1.一度まどかの守りを金色のアーチャー(=星矢)に任せ、自身は東郷を追跡する
2.まどかを殺すことなど考えられない。他のマスターからまどかを死守する
3.まどかを生かしつつ、聖杯を手に入れる方法を模索する
[備考]
※星矢が鹿目まどかのサーヴァントであると知りました
※東郷美森が、何らかの特殊能力を持っていることを把握しました。
同時に状況から察して、ゲルトルート・バルクホルンのマスターではないかと考えています
【美国織莉子(セイヴァー)@魔法少女おりこ☆マギカ】
[状態]健康
[装備]ソウルジェム
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、聖杯を手に入れる
1.とりあえずはほむらの言う通りに動く
2.一度まどかの守りを金色のアーチャー(=星矢)に任せ、敵マスター(=東郷)の追跡に向かう
3.まどかを生かすことは、道徳的な意味ではともかく、戦略上はさほど重要視していない
[備考]
※令呪により、「マスターに逆らってはならない」という命令を課せられています
※星矢が鹿目まどかのサーヴァントであると知りました
◆
「ぐぅっ……!」
がちゃり、と金属音が鳴る。
路地裏でうずくまった黄金の男が、壁に手をつきながら呻く。
身に纏う豪奢な甲冑を、輝きと共に解除しながら、男は額に汗を流した。
コート姿のサジタリアス星矢は、膝をついた態勢で、ぜえぜえと苦しげに息を吐いた。
(やはり、この傷は無視できないか……)
外套の下で蠢く闇に、視線を落とし思考する。
マルスによってつけられた魔傷は、小宇宙の燃焼を阻害し、聖闘士を傷つける呪いだ。
故に星矢は、無駄な戦いを避け、敵を威嚇することを選んだ。
割と多くの魔力を一度に燃やし、必要以上に気配を大きくしてみたが、どうやら少々やり過ぎたらしい。
敵を退散させることには成功したものの、結局魔傷から少なからず、ダメージをもらうことになってしまった。
(それでも)
背負ったハンデはあまりにも大きい。
だとしても、苦しんでいる暇などないのだ。
あのいたいけな少女を守り抜き、共にそれぞれの世界に帰るためにも、立ち上がらなければならないのだ。
身を起こし、コートを整えると、星矢はやや覚束ない足取りで、路地裏の闇を進んでいく。
(そういえば……)
その時になってようやく、思い出した。
聖衣石になって懐に収まった、己が『射手座の黄金聖衣(サジタリアスクロス)』を見やった。
あの校舎で、死霊の兵士をなぎ倒した時、聖衣が妙な反応を示していた。
何を伝えたいのかは、具体的には分からなかったが、それでも何かを知っているような、そんな印象を抱いたのだ。
(奴らを知っているのか、アイオロス……?)
黄金聖衣はただの聖衣ではない。
その身にはこれまで選ばれてきた、黄金聖闘士達の意志が宿されている。
かつてこの聖衣を纏い戦った、偉大なる前任者の魂が、警告を告げているような。
聖衣石を見つめる星矢には、そんな気がしてならなかったのだ。
【D-4/学術地区・路地裏/一日目 午前】
【アーチャー(星矢)@聖闘士星矢Ω】
[状態]ダメージ(小)、魔傷
[装備]『射手座の黄金聖衣(サジタリアスクロス)』(待機形態)
[道具]コート
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターを守り抜く
1.世界樹から脱出し、元の世界へ帰る方法を探す
2.霊体化ができない以上、どうにかして身を隠す。マスターに呼ばれればすぐに駆けつける
3.聖杯を悪用しようとする者がいれば、戦って阻止する
4.中学校に現れた敵(=エインヘリヤル)が気になる
[備考]
※霊体化を行うことができません
※『反魂の葬送騎士団(エインヘリヤル)』について、『射手座の黄金聖衣(サジタリアスクロス)』から、おぼろげに警告を受けています
◆
「そうか、あの男は手負いか」
ユグドラシル政庁・フレスベルグ。
その市長室でくつくつと、一人笑う男がいる。
赤髪を長く伸ばした男は、ルーラー――アンドレアス・リーセだ。
彼は市長室の席から、事の全てを見下ろしていた。
星矢のマスターが通う中学校で、怪物騒ぎが起きた時、星矢について調べるいい機会だと思った。
故に『反魂の葬送騎士団(エインヘリヤル)』を発動し、亡霊の兵士達を何名か、中学校のまどかへとぶつけた。
「どう処分したものかと考えていたが……おかげで妙案が浮かんだぞ」
その結果手に入れた成果は二つ。
何らかの呪いを受けた星矢が、小宇宙を燃焼させることで、身にダメージを追うようになっていること。
そして怪物の襲撃事件の現場に、星矢が現れたという事実だ。
これは使える。
たとえ最強の聖闘士であったとしても、その力が削がれているのなら、他のサーヴァント達で倒すことができる。
特にキーパーのクラスで現界した、牡牛座の黄金聖闘士の例もある。
同等の存在であるのなら、健康体でいるキーパーの方が、星矢より優位に立つのは必定だ。
「見ているがいい、射手座(サジタリアス)」
既に大義名分は整った。
戦場に居合わせた主従は三組しかいない。
おまけに真相を全て把握しているのは、パスダーの宝具を使用した、ゲルトルート・バルクホルンの組だけだ。
下手人さえ口を塞いでいれば、いくらでも誤魔化しようはある。
そもそも自分の存在を隠したいなら、こちらの報告に異を唱え、真実を伝えようとする理由などない。
「今にこの街の全てが、お前とお前のマスターの敵になる」
学術地区の中学校で、大規模な襲撃事件が起きた。
大勢のNPCが一度に殺害されたことで、ユグドラシルを維持するに当たり、若干の問題が生じるようになった。
このまま犯人を野放しにしていれば、聖杯戦争そのものの続行が危ぶまれる。
犯人は黄金の鎧を着た、アーチャークラスのサーヴァント。
このサーヴァントを排除した者には、今後聖杯戦争を勝ち抜く上で、有利になる報酬を与えよう。
「ははは……」
それがアンドレアス・リーセの紡いだ、事の偽りの筋書きだった。
[全体の備考]
※D-4の中学校にて、怪物の襲撃事件及び、サーヴァントの戦闘が発生。大勢の死傷者が出ました
※第一回放送にて、鹿目まどか&アーチャー(星矢)組の討伐令が発令されることになりました
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2016-07-27T23:51:42+09:00
1469631102
-
第一回定時放送
https://w.atwiki.jp/yggdrasillwar/pages/126.html
*第一回定時放送
決められた枠組みの中に留まることに、人は窮屈さを覚える。
幼少の頃には学生として、成人を迎えれば組織人として、出世を重ねれば管理者として。
どのような立場に置かれても、人は相応の責務を課せられ、自由に振る舞うことを許されない。
真実、人が束縛を受けず、自由でいられる瞬間など、責務をこなす力のない、赤子か老人の時分くらいだろう。
しかし人には、その枠組みを、放棄する権利も与えられている。
学校に通うことを嫌うのならば、学校を辞めてしまえばいい。
仕事に縛られることを嫌うのならば、仕事を辞めてしまえばいい。
それでも人は、その選択を、滅多に選ぶことをしない。
何故ならば、人は枠組みの中に在る限り、責務の見返りとしての保障を、常に与えられているからだ。
学生であれば、将来の進学や就職について、ある程度の面倒を見てもらえる。
会社員であれば、生きていくための資金を、給料としてもらうことができる。
反対に、それらを失えば、人は生きていく上で、大きな不利益を被ることになる。
それを恐れているからこそ、人は社会の規範や枠を、飛び出すことができずにいるのだ。
なればこそ。
なればこそ、だ。
もしもその枠組みを、踏破してしまえる者がいるのなら――
◆
一通りの外回りを終えて、壁をすり抜け部屋へと入る。
ここに至るまでの間に、念話による呼び出しはなかった。ということはつまり、全てが万事、平穏に片付いたということなのだろう。
「………」
昼間からホテルのベッドで眠る、己がマスターの顔を見て、キーパー――オリオン座のエデンは安堵した。
思えばここに至るまでに、マリア・カデンツァヴナ・イヴが辿った道は、正しく激動の茨道だった。
開幕早々何者かに、仮の住居を特定されて、謎の使い魔の襲撃を受ける。
自らの頼みの綱だった、シンフォギアシステムに不具合が生じ、己が足場が揺らぎかける。
そしてそこへ立て続けに、ライダーとそのマスターが襲いかかり、絶体絶命の窮地を味わう。
これらに数時間のうちに見まわれ、ようやく寝床へありついたのだ。できることならこのままずっと、眠らせてやりたいとも思う。
(しかし)
だがそれでも、状況は未だ予断を許さず、マリアを苛み続けている。
恐らくは最初の襲撃者の主人が、軍や警察の関係者だったのだろう。
先ほどから周辺のあちらこちらに、彼女の名前と顔写真が載った、指名手配書が貼り付けられている。
その上遠目に見る限りでは、検問らしきものまでもが、準備を進められているように見えた。
このままここに長居していては、思うように逃げられなくなる。
なればこそ、早急な対応が必要だった。心苦しくも、平和な寝顔を、揺り起こすことになったとしてもだ。
「マスター、そろそろいいだろうか」
幸いと言うべきかは微妙なところだが、もうすぐ定時放送が始まる。
今回の聖杯戦争においては、人数が多すぎることもあってか、脱落者などの情報が、12時間ごとに告知されるようになっているのだ。
エデンが代理で聞いてもよかったが、これを聞くためということであれば、起こすきっかけとしても角が立たないだろう。
故に彼は、己がマスターを、目覚めさせることを選択した。
これから迫り来る過酷な運命を、くぐって切り抜けるためにも。
◆
――さーて、前置きはこのあたりにして、いよいよ本題のスタートだ!
既に開戦から12時間! といってもここまでの半日は、俺的には序盤も序盤って考えでいた。
だけどこの街のあちらこちらで、ホットなバトルが見られたっていうのは、やる気たっぷりって感じで嬉しいねぇ。
ユグドラシルを騒がせる、超人サーヴァント同士の激戦、激戦! どれもこれも見応えバツグン、まさに群雄割拠ってやつだ!
そしてそいつを証明するように、ここまでの12時間で遂に、初めての脱落者が登場した!
エクストラクラスのサーヴァント・メンターと、そのマスター・ルイズ・フランソワーズ!
当人達にしちゃ残念だったが、彼女はサーヴァントを失って、敢えなくリタイアしてしまった。
ゲームの駒がなくなった以上、出場権は取り消しだ。今はもうこのユグドラシルには、彼女の姿はないはずだぜ。
もっとも、こいつは聖杯戦争を戦う、ハリキリボーイズ・アンド・ガールズにとっては、嬉しい知らせかもしれないな?
何にせよ、ここまではいいペースだぜ! この調子でボルテージを高めて、聖杯をゲットするその瞬間まで、頑張って戦い抜いてくれ!
さてと、ここからはインフォメーションだ。
今度は良いニュースかもしれないし、悪いニュースかもしれない。
残念なことに俺達からすりゃ、バッドなニュースになっちまうんだけどねぇ。
実は今回出揃った、23人のマスターの中には、何の因果か偶然か、インチキで生き残っちまった奴がいた!
ホントはいちゃあいけないはずの、バグで現れたサーヴァントと、うっかり契約しちまったんだそうだ!
こいつがなかなかの曲者でな。学術地区の学校で、とんでもない大騒ぎを起こして、サーバーに大きな負荷をかけちまってる。
おまけにこいつ一人のおかげで、聖杯とサーヴァントのリンクに不具合が生じて、情報伝達が困難になっちまった!
宝具や真名が明らかになっても、相手がどんな奴か分からないし、そいつを調べる方法もない――ホントだったらこんなこと、起こるはずもなかったんだけどねぇ。
とにかくも、きちんと聖杯と繋がってない以上、こっちとしても強引に、そいつを消しちまうこともできない。
だから本当に申し訳ないが、ここでエクストラ・ミッションだ!
会場の不具合を解決するため、この勝手放題やってるサーヴァントを、優先して退治してほしい!
もちろんただお願いするだけじゃ、やる気も湧いてこないだろうからな。お楽しみのポイントと、ボーナスも用意させてもらうぜ。
ルールは簡単、早い者勝ちだ! こっちが与えたヒントを元に、目的のサーヴァントを探し出して、素早くぶっ飛ばしてやってくれ!
そうすればこのDJサガラが、素敵な特典をプレゼントする! どうだい、簡単だろ? ワクワクしてきただろ?
どうやら相手のサーヴァントは、珍しく霊体化が使えないらしい。
だから見つけたらその時がチャンスだ! 絶対にどこにも逃さずに、一気呵成にフィニッシュしてくれ!
みんなが探すサーヴァントは、ゴールデンな鎧を纏った、アーチャークラスのサーヴァントだ!
ミッションも、もちろん通常のバトルも、きっちり楽しみにさせてもらうぜ!
それじゃ、今回はここまでだ! DJサガラのユグドラシル・ホットライン! 次回も無事にチェックしてくれ!
◆
ある者は仮初の自宅にて。ある者は与えられた勤め先で。
ある者は戦場から逃れながら。ある者は戦場の只中にいながら。
その時、生き残った22組の、全てのマスターとサーヴァントとが、同時に放送を耳にしていた。
受け止め方は人それぞれだが、それでも単純な情報だけは、平等に届けられていた。
「すぐさまサジタリアスの元へ、乃木園子を向かわせよ」
そしてそれは、ユグドラシル市長――ルーラーのサーヴァント・アンドレアスもまた、同じように耳にしていた。
収録された定時放送が、流れ終わったのを確かめた後に、目の前のサガラへと告げる。
彼に割り当てたバーサーカーを、件のアーチャーの元へと派遣せよと。
「要するに、特典なんてのはハナから嘘で、俺にバーサーカーを使って、アーチャーにとどめを刺させろと?」
「無論、それがかなわなかった場合は、倒したマスターへと便宜を図る。お前と乃木園子に求めるのは、ミッションとやらの円滑な進行だ」
「なるほどね……情けをかける奴が出ないように、上手いこと引っ掻き回せってことか」
サガラの解釈に、アンドレアスが頷く。
要するに、彼が求めるのはこういうことだ。
鹿目まどかの実態を知れば、中には彼女らの境遇に、同情を覚える者がいるかもしれない。
そうして、射手座の星矢に同調して、同盟関係を結ぶことにでもなれば、排除は更に困難になるはずだ。
そうならないよう、場をかき乱して、星矢を倒すべき悪者に仕立てる。
不意打ちなり何なりをしたように見せかけ、奴は討伐対象になるような悪党なのだと、取り込まれかかった者に刷り込ませるのだ。
「恐らく奴めとの戦いとなれば、犠牲が出ることもあるだろう。であれば聖杯戦争は、終結に向けてまた加速する」
「了解だ。余裕があれば、集まった連中も、それなりに間引いておくことにするよ」
そう言うと、サガラはくるりと踵を返し、手をひらひらと振りながら、市長室を後にした。
とはいえ、システムの管理側に立ち、制約の壁を超えたサガラにとって、人並みの振る舞いをすることに、さしたる意味も必要性もない。
行政府の人間に見つかる前に、霞のごとく姿を消し、周りの風景へと溶けこむ。
(どっちのやり方にしたって、俺の趣味ってわけじゃないんだけどな)
肩を竦めながら思い返すのは、先のアンドレアスのオーダーだ。
特定のアーチャーを排除するために、他のマスター達を差し向けよ。
アーチャーの協力者が出ないように、戦況を掻き回し分断せよ。
どちらにしても、特定の誰かに、意図的なペナルティを与えることで、不利な状況を作るやり口だ。
誰かを贔屓することで、ゲームの加速を狙うことならある。結果的にそのことで、不利になる人間も出てくる。
しかしこのやり方の場合は、有利になる人間は出てこない。誰かだけが一方的に、不利益を被ることになる。
五十歩百歩の話だろうがと、ツッコミを受けることになるかもしれないが、少なくとも、嫌いな手ではあった。
(まぁ仕方ない。今は奴の顔を立てておくさ)
それでも、ここで歯向かったところで、サガラに利益がないのも確かだ。
元々そういう類の利など、求める柄でもなかったのだが、議論が紛糾することで、ゲームが停滞することはよくない。
預かり知らない埒外の事態に、一方的に邪魔されることほど、プレイヤーを苛立たせることもあるまい。
どうせ損な役回りも、ゲームが終わればそれまでなのだ。
そうやって自分に言い聞かせながら、サガラはバーサーカーへと念話を送った。
◆
暗黒の中に、光が瞬く。
されど光明は必ずしも、希望と結び付けられるものではない。
天の威光と同じように、地獄で燃え盛る業火もまた、光っていることに変わりはないのだ。
不気味に明滅するランプは、張り巡らされた鋼鉄の血肉を、禍々しくてらてらと照らし上げていた。
「奴めの接触したサーヴァント……異様な気を放つ者ではあったが、よもやこのような結果になるとは」
未だ戦いをマスターに任せ、自身は沈黙を保つサーヴァント・パスダー。
彼は放送で告げられた、黄金のサーヴァントについて、事前に情報を握る者の一人だった。
元々がゾンダーの主である。ゾンダーの存在するところ、すなわち東郷美森のいるところを、監視できない道理などないのだ。
「我が身に力が満たされれば、奴らの施しなど無用ではあるが、心弱き者にとってはそうもいかぬ」
『Extra-Intelligence-01(パスダー)』自身の肉体は、宝具として正確に機能すれば、間違いなく全サーヴァントの中でも最強だ。
しかしその力を解き放つには、今少しばかりの時間がかかる。
そしてそれまでの間に、自身のマスターである小日向未来に、情けなく死なれるわけにもいかない。
であれば、エクストラ・ミッションとやらの特典も、獲得を目指さない道理はなかった。
何とも情けない話ではあったが、これも自らの生命線を、有利な状況へ導いて、生きながらえてもらうためだ。
「最善の結果とまではいかなかったが、既に策も整っている」
もちろん、あの絶大な魔力を有したアーチャーに、その気配に釣られてやって来た、他のサーヴァント達の存在もある。
想定される大乱戦は、シンフォギアとゾンダー人間だけでは、到底切り抜けることは不可能だろう。
東郷とそのサーヴァントを利用したとしても、彼女らが未来の生命を、確実に守り抜けるという保証はない。
なればこそ、別の手が必要だった。
同盟関係などでなく、数頼りの雑兵などでもなく、着実に任務を遂行しうる、強力な手駒が必要だった。
故にパスダーは、それを用意した。
その策がルールに抵触しかねない、危険な賭けであることも理解している。しかしそれを恐れる心は、ゾンダーには存在しなかった。
「やはり完全に掌握せねば、これが限度ではあったが――」
彼が根を張る世界樹の魔力は、すなわち聖杯そのものの魔力だ。
ムーンセルが形成した、このフィールドに干渉することは、言うなればムーンセルそのものの一端に、干渉することを意味する。
完全覚醒には未だ遠い。それでも世界樹に巡らされた魔力の、その一部を汲み取ることは容易い。
なればこそ、できることもある。
試行するだけの価値があり、そして限定的とはいえ、得られた成果も存在する。
ここからは誰にも明かしていない、トップシークレットの領域だ。
他のマスターも、未来自身も、これの存在には気付いていない。
彼女が遅刻した学校から、休校を受けとんぼ返りし、ここにたどり着くまでには、今しばらくの時間を要する。
なればこそ、カードは今のうちに切るべきだろう。
最強のサーヴァント・パスダーが、その手に掴んだ大いなる力を、今こそ世に解き放つ時だ。
「目覚めよ――機界四天王よ」
奇機怪械と蠢くものは、暗がりよりもなお深き闇。
漆黒そのものと形容すべき、四つの風が巻き起こり、瘴気となって形を示す。
空間から何者かのシルエットを、そっくりそのまま切り抜いたような、異様な黒点がそこにはあった。
機械の広間に等間隔に、パスダーを囲みながら見上げるように、姿を現す異形があった。
「ポロネズならここにおります、パスダー様」
最初に口を開いた声は、低く落ち着いた男のそれだ。
ぽうっ――とけたたましく鳴り響くのは、蒸気機関車の嘶きか。
まるで醜い芋虫を、何十倍にも巨大化したようなそれは、臭覚のように伸びた器官から、勢いよく蒸気を噴き出していた。
されど、異様なそのシルエットにも、人間の手足が生えている。
その芋虫を己が頭部として、そのまま載せたような形をしながらも、下で支える胴体は、間違いなく人間のそれだった。
「プリマーダ、もう待ちくたびれましたわ」
続けて響き渡った声は、妖艶な女性のものだった。
回る、回る、くるくると舞う。
全身に円形の意匠を纏う、グラマラスな曲線の肢体が、その身を見せびらかすように踊る。
ひときわ大きく太いリングが、腰まわりを巡るそのシルエットは、さながらバレリーナのそれか。
美しくそして艶やかに、それは存在を示していたが、しかし絢爛なその見せかけが、毒へ誘う誘蛾灯であることは、誰の目にも明白であった。
「ピッツァ、ただ今到着」
その次に空気を揺らした声は、若く鋭い青年のものだ。
鳥か、飛行機か、否これも人だ。
羽毛のように広がったのは、恐らくは羽織った外套であろう。そうした印象を強固にするのは、猛禽のような頭部の形だ。
鷹のように尊大な自信と、烏のように狡猾な野心。
それらを孕んだ声色が、己を射落とすものなどいないと、そう暗示させているかのように、影は静かに現れ佇む。
「このペンチノン、すぐにでも出港可能です」
最後に発せられた声は、もはや人間のそれではなかった。
調子の外れたノイズのように、感情無き合成音声のように。
これまでのどの声とも違った、怖気を孕んだその声は、地響きと共に姿を現した。
そのシルエットもまた、人ではない。何かのようだと言うまでもなく、船のものだと言う他ない。
おおよそ人間に倍する程度の、船のような巨大な異形から、両足とマシーンアームが伸び、がちんと音と火花を散らした。
「マスターと同盟を組んだ者が、先刻遭遇したサーヴァント……それが監督役によって、優先する討伐対象に指定された」
「それは愉快な話ですわ。獲物の匂いに引き寄せられて、舌なめずりをする者達は、さぞ楽しく踊ってくれることでしょう」
「なればこそ、目覚めたばかりの我々が、呼び集められた理由ともなるわけか」
くつくつと笑う女の声に、不敵な鳥頭の男の声。
理性のあるように振る舞っていても、それはあくまでも見せかけに過ぎない。
これなるは機界四天王。
かつて在りし日のパスダーが、星々の生命の在り方を歪め、手駒とした最強の四人衆。
観測された記録こそあれど、その形を失った魂が、英霊の座に留まることは、絶対にありえない存在である。
ありえならざる者達を、ありえならざる方法で、この世に蘇らせたとあれば、それは形だけのフェイクということ。
英霊召喚のプロセスを経ながら、実現性、ないし出力に不都合を生じ、不完全な影としてしか生み出されなかった、サーヴァント手前の失格者達。
影、あるいは幻とあれば、その存在を表す呼び名は――『シャドウサーヴァント』とするのが相応しいか。
「まともに取り合えば敗北は必至。されど並のゾンダーを超えた、お前達の力あればこそ、達成しうる目標もある」
「かしこまりました。我ら機界四天王、この身この力を尽くして、必ずや成果を持ち帰りましょう」
「戦況が大きく乱れれば、孤立したアーチャーのマスターを、仕留めることも容易いこと……ウィィィィ!」
慇懃な芋虫男の声と、奇天烈な笑いを上げる巨人の声。
シャドウサーヴァントに自我はない。これまでのパスダーとのやり取りにも、その実意味は全くない。
人間の思考回路をロールしながらも、彼らの本質はただ単純に、主の命令を実行する人形。
されども、サーヴァントの機能と証がなくとも、サーヴァントに届きうる力を持つ彼らは、地獄の戦線を切り抜けることができる。
孤立したマスターに狙いを絞り、直接交戦を避けさえすれば、一点突破の暗殺も、達成することが可能だ。
それはパスダーの思惑を、誰よりも正確に反映する、彼らなればこそのミッションでもあった。
「すぐさま準備を整えよ。来たるべき戦いの成果を、我が元へと持ち帰るのだ」
「は――!」
容姿も声音もばらばらであったが、返答を発するタイミングまでは、不気味なまでに一致していた。
そして四つの影全てが、完璧すぎるタイミングで、一斉に同時に姿をかき消す。
当然だ。自我のない人形同士であるなら、衝突する個性など持つはずもない。
彼らは完璧な統率のもとに、黄金のサーヴァントのマスターを追い詰め、その命を確実に奪い去るだろう。
後は準備が整うまで、ゆるりと待ち続ければいいだけのこと。
マスターを、同盟を結んだ相手を。そして聖杯の力ですらも。
全てを矢面に立たせて、遠い安全圏から糸だけを伸ばし、我が意のままにと操りながら。
暗く冷たい深淵の中で、自らの完全覚醒の時を、パスダーは悠然と待ち続けていた。
【聖杯戦争異伝・世界樹戦線――――――残り22組】
※全マスターおよびサーヴァントに、念話にて定時放送が行われました
※アーチャー・星矢の討伐令が発令されました。
星矢を討伐したマスターには、監督役から特典が贈られることになります。
またアンドレアス・リーセおよびサガラは、星矢を討伐することで、英霊の情報が公開されると踏んでいます。
全マスターおよびサーヴァントには、星矢について、
「金色の鎧を着たアーチャー」「学術地区に出現している」「霊体化を行うことができない」という情報が与えられています。
※市内各所における検問の準備と、マリア・カデンツァヴナ・イヴの指名手配が完了しました。
※中学校での戦闘を受け、学術地区の各学校が、休校体制を取りつつあります。
少なくとも午後1時までの間に、全ての学校が休校となる予定です。
※E-8のホテルに、マリア・カデンツァヴナ・イヴが宿泊しています。
※パスダーがシャドウサーヴァント「ピッツァ」「ポロネズ」「プリマーダ」「ペンチノン」を召喚し、自らの手駒としました。
シャドウサーヴァントは自我を持たないため、独立した参加者にはカウントされず、状態表を持ちません。
神埼士郎の使役するライダーや、アルバート・W・ワイリーの生み出したナンバーズのような、使い魔型宝具と同様のものとして扱います。
『シャドウサーヴァント・機界四天王』
シャドウサーヴァントとは、サーヴァントとして召喚されながらも、様々な要因から完遂に至らず、不完全な形で誕生した霊体である。
本来の聖杯戦争では召喚されるはずのない存在であり、
彼方の並行世界において、聖杯が引き起こした特殊な事例の最中に、その存在が確認された。
そして今回、世界樹を部分的に侵食し、その魔力と情報を悪用したことで、
同様の状態に至ったパスダーが、独自に召喚したものが、この機界四天王である。
機界四天王は、飛行機の特性を持つ「ピッツァ」、列車の特性を持つ「ポロネズ」、
自動車の特性を持つ「プリマーダ」、船舶の特性を持つ「ペンチノン」からなる、四体の生機融合体・ゾンダリアンである。
元々肉体と自我を有していた生命体を、ゾンダー化し捻じ曲げることで生まれた存在であるため、
これら機界四天王の魂は、英霊の座に存在しておらず、正規の方法でサーヴァント化することはできない。
今回召喚された四体にも、生前の魂は宿されておらず、
あくまでパスダーとムーンセルに記録された情報を元に、それらしい振る舞いを演じているに過ぎない。
完全なサーヴァントになることがかなわなかったため、彼らはクラス・スキル・宝具を有していない。
しかしサーヴァントになるはずだった彼らは、サーヴァントに匹敵するだけの魔力を有している。
まともに戦えば、サーヴァント相手には押し負けてしまうが、それでも並の使い魔ならば、遥かに凌駕するほどの力を発揮するだろう。
また、シャドウサーヴァントの特徴の一つとして、そもそもが粗悪品であるが故に、大量召喚が容易である点が挙げられる。
今でこそ四体で構成されている機界四天王だが、この先パスダーの力が増大した時に、数が増えないという保障はどこにもない。
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2016-07-27T23:29:23+09:00
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百機夜行
https://w.atwiki.jp/yggdrasillwar/pages/112.html
*百機夜行 ◆nig7QPL25k
彼女がそこで目撃したのは、二人分の強者だった。
片や、60代の男。片や、20代の女。
罪歌の洗礼を受けた『子』は、魔術都市の役所の一つで、それらの気配を察知していた。
興味を惹かれたのはうち片方だ。
なにしろ男の方の立場は、軍隊の司令官である。
もちろん程度の差こそあれど、強者であるのは当然のことだ。
それだけでは優先するだけの理由にはならない。故にその『子』は男ではなく、女の方を優先した。
女の方は、同じ役所に勤務している、ただの公務員であるはずだった。
しかし彼女の放つ気配は、その程度の人間が持っているにしては、あまりにも不自然なものだった。
魔力にも似た、捉えどころのないオーラ。訓練された者の身のこなし。
一度に接触できるのは片方だけだ。なればこそ彼女は、そちらの方を優先し、ターゲットとして報告した。
そして聖杯戦争の開幕と同時に、女の家に向かってみれば、その近所で起きたのが大規模な火災だ。
このあたりで戦闘が起きている。であれば、もはや確定だ。
彼女は周辺の人間に、怪しい人影を見なかったかと聞き込みを行い、その行き先へと目星をつけた。
向かったのは西方。この辺りは警備の目も光っている。遠くまで移動することはできないだろう。
彼女は近くにいるであろうターゲットを目指し、即座に行動を開始した。
同じ職場で働く年下の女――マリア・カデンツァヴナ・イヴを求めて。
◆
雅緋の目的地は行政地区だ。
そう戒斗から告げられた黒咲は、バイクのエンジンを始動させ、すぐさま移動を開始した。
両サイドに荷物を括りつけ、後ろには戒斗を乗せるという、半ば無理のある態勢で、ではあったが。
「乗り物くらい持っていないのか! 英霊のくせに!」
窮屈さに苛立ちながら、黒咲が言う。
「ライダーのクラスとして呼ばれていればな。もっともその場合は、お前の言う本当の姿を、見せてやることはできなかったろうが」
当て付けのように言う戒斗に対して、黒咲はヘルメットの下で眉をひそめた。
サーヴァントのクラス適性とは、何も一つきりではない。
戒斗にはランサーのクラスの他に、ライダークラスの適性もある。
その場合、彼の変身した姿である、アーマードライダーなる存在の特徴が強調され、使用できるアイテムが増えるのだそうだ。
もっとも、純粋な戦闘歩兵としてのスペックは、三騎士クラスの方が上回っている。
彼がその真の姿である、真紅の魔神へと変身するには、ランサーか、あるいはセイバーとして、召喚されていなければならないのだった。
戒斗が剣を使うなど、黒咲にとっては初耳であったが。
「……それで、行政地区のどこに行くかまでは、お前は聞いていないんだな?」
「向こうも正確な位置は把握していないらしい。現場に着いてから、捜索すると言っていた」
戒斗が立ち聞きした情報を確認する。
雅緋が行動を起こしたのは、やはり他のサーヴァントの存在を感知し、討伐に動いたからだったのだそうだ。
とはいえ、向こうも存在を知っただけで、正確な位置までは把握していなかったらしい。
故に何人か人手を集め、人海戦術にて捜索し、これを撃破するという作戦を取った。戒斗が確認したのはそこまでだ。
「マフィアが警察の縄張りで家探しか」
妙なことになったものだと、黒咲が言う。
行政地区は、政庁や特級住宅街に次いで、警備の目が厳しいエリアだ。
そんな所で事を起こすような、馬鹿が現れでもしない限り、黒咲にも、そして雅緋にとっても、縁遠いはずの場所だった。
もっとも、無法者が裏で官僚と繋がっているというのは、フィクションではよくある話ではあったが。
「そのこともある。目立つ行動は避けるのが無難だろうな」
「どうせ俺達が動かずとも、事が起これば、向こうから花火を上げてくれる」
それを目印にすると黒咲が言い、バイクを更に加速させた。
◆
報告にあったのは、この辺りで戦火を広げた、戦闘者がいたということだけだ。
それが男であるのか女であるのか、そのことすらも雅緋は知らない。
その上追われる身であろう標的は、身を隠しているに違いないのだ。
大変な捜索になるであろうことは、彼女自身、理解はしていた。
《たとえば、逃げ延びた方の人間が、寝込みを襲われたのだと仮定する》
その助けとなったのが、ライダーのサーヴァント・ルルーシュだ。
生意気な態度は気になったが、彼は戦略家としては、一流の才を持つ知恵者だった。
《家に戻れば警察によって、質問責めに遭うだろう。かといってろくに荷物も持てない状態で、ここを離れるわけにもいかない》
《サバイバルゲームではないからな。町中で食べ物を確保するには、金を払うことが必須条件だ》
《あるいは、衣類の問題もある。マスターも、着の身着のままで、外をうろつきたくはないだろう?》
そういう聞き方をするか、普通。
デリカシーのない言葉に、一瞬むっとしたものの、その気持ちはぐっと飲み込んで堪える。
《まぁ……そうだな》
《ならば、しばらくはどこかに身を隠して、サーヴァントに荷物を取りに行かせ、それから行動を起こす。そう考えるべきだろう》
今まさにそうしているルルーシュのように、サーヴァントには霊体化能力がある。
ガサ入れでもされていない限り、周囲から身を隠して家に忍び込み、財布や服を持ち出すくらいは、造作もないだろう。
故にしばらくは動かないはずだと、そう推理するルルーシュの論は、説得力があるように思えた。
《ではそいつが襲われた方ではなく、襲った方の人間だったら?》
《お手上げだな。躊躇なくこの場を離れようとするだろう。そうなれば現状の手がかりだけでは、ターゲットを見つける術はない》
恐らくは肩を竦めているのだろう。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアとはそういう男だ。
それは霊体化した状態であっても、容易く想像することができた。
《どちらにせよ、通行人や警察には構うな。私の読み通りであるのなら、敵は必ず身を隠している》
もしまだこの行政地区に、ターゲットが潜んでいるのなら、いちいち令呪を確かめることはない。
そこまで豪胆に動ける余裕は、今の奴にはないはずだ。
雅緋はその言葉に従い、敵マスターの捜索に向かった。
◆
知らず渦中の人物となった、マリア・カデンツァヴナ・イヴ。
下着以外の着替えを済ませ、一応の防寒準備を整えた彼女は、未だ橋の下にいた。
近くに、エデンの気配はない。衣服を着替えることができたのも、彼が通帳を取りに行くため、この場を離れたからだった。
(これからどうしようかしら)
夜が明ければ、状況も落ち着いて、また出歩けるようになるだろう。
しかし、それからどうするか。寝泊まりはどこでするべきか。
そもそもそれ以前に、この体たらくで、生き残ることができるのか。
(キーパーのことは信じたい)
あくまで戦いの主役はサーヴァントだ。マスターとは司令塔であり、必ずしも戦闘者でなければいけないというわけではない。
だからもしもエデンが、一人で戦い続けることができたなら、それで問題はないのだろう。
(けれど……)
それでも、自分は見てしまった。
大勢の使い魔に翻弄される、エデンの姿を目の当たりにしてしまった。
サーヴァント並の使い魔を、複数召喚できる敵がいる。さすがに例外的な存在ではあろうが、そういう敵もいることはいるのだ。
もしもう一度まみえることがあれば、その時には傍観してなどいられない。
あれを打倒するためには、サーヴァントとマスターの連携が、必要不可欠になってくる。
それができるのか。
身に余る力に振り回され、撃槍を御しきれずにいる自分に、彼と並び立つ資格があるのか。
「――ああ、いたいたッ!」
その時だ。
不意に橋の上の方から、大きな声をかけられたのは。
思わず、びくりと身構える。追手が来たのかもしれない。どうしてもそう思ってしまう。
しかしそこに立っていたのは、予想に反して、見知った顔だった。
「あ……友里、さん」
「心配してたのよ、マリア? 家の近くで家事があったって聞いたし、電話にも出なかったんだから」
橋の近くに立っていたのは、友里という名前の歳上の女性だ。
マリアと同じ役所に勤めていて、年齢的には、先輩に当たる。
どうやらマリアの身を案じて、探しに来てくれたらしい。
「……それでどうして、こんな所で隠れていたの?」
「ええと、これは……色々と事情があって」
まさか、敵から身を隠しているなどとは言えまい。
上手い言い訳が見つからず、マリアはしばし、言葉に迷う。
「とにかく、ここじゃ何だし、ちょっと場所を変えましょうか」
「そう……ですね」
友里の提案に従い、マリアはその場から立ち上がる。
橋の陰から顔を出しながら、エデンに対して、合流地点を変えようと、念話を飛ばそうとした、その瞬間だ。
「――止まれ、マスター!」
声が聞こえた。頭上から注いだ。
マリアが足を止めると同時に、びゅんと風を切る音が鳴る。
何かが飛来したかと思えば、友里の体が崩れ落ち、足場に隠れて見えなくなる。
「きゃッ! ちょっ、何を……ッ!?」
戻ってきたエデンが、彼女を組み伏せたのだと理解したのは、その声を耳にした時だった。
「なっ……何をしているの、キーパーッ!? その人は私を心配して――」
「助けに来た人間が、何故こんなものを持ち歩いている?」
近くにあった階段を使い、駆け上がるマリアが見たものは、何かを握ったエデンの右手だ。
「それは……ッ!」
「袖口に隠すようにして握っていた。もっとも、こんなもので、何ができるのかは知らないがな」
カッターナイフ。
人に向ければ、十分に凶器となる代物だ。
それを友里が隠し持っていた。明らかにマリアを刺すつもりで、その凶刃を潜ませていたのだ。
思わぬ裏切りに対して、マリアは驚愕に目を見開く。
「く……ッ! このっ、放しなさ……ッ!」
「ッ!」
「ぎゃあああああッ!?」
瞬間、稲妻が弾けた。
取り押さえられた友里の体を、眩い電撃が駆け巡り、焼いた。
断末魔の悲鳴を上げた後、黒く煤けた女の顔は、力なくぺたりと石畳に貼りつく。
「殺したの……人を……?」
「……これはマスターではない。聖杯によって用意された、ただのNPCに過ぎない」
サーヴァントを連れているのなら、こんな呆気無い幕切れはあり得ないはずだ。
実際、見えている部分の素肌には、令呪など影も形もなかった。
「この街では、人を操る礼装の使い手が、手下を増やし続けているという」
そういう噂を聞いたからこそ、その可能性を考慮できた。
なればこそ、躊躇なく殺害したのだと、エデンはマリアに対して言った。
「……そう」
それでも、マリアの顔は暗い。
元来争いを好まず、人の死を悼む感性の持ち主だ。
たとえ人間ですらない擬似人格だろうと、人の姿をしたものが、惨たらしく殺される姿を見て、いい気分ではいられない。
だからこそ彼女は、フィーネを演じることに対して、迷いを抱き続けてきたのだ。
それがこの場に訪れて、フィーネを演じることがなくなっても、同じようなことを繰り返している。
そのことはマリアの繊細な心に、いくらか暗い影を落としていた。
「とにかく、場所を変えよう。今の声を聞きつけて、誰かに――」
『――それは今一歩遅かったな』
「ッ!?」
エデンが移動を促した、その時。
割って入る声があり、直後に爆音と光が轟く。
振り返る方向に光を伴い、突如現れたその姿は、マリアの想像を超えたものだった。
「飛行機ッ!?」
小さめの機体だが、飛行機だ。
四枚の翼を左右に広げ、低空飛行する黒い飛行機が、そこに姿を現していたのだ。
現代的どころか近未来的だ。その光沢を放つフォルムは、明らかに魔術都市には似つかわしくない。
「ライダークラスか……!」
『ご名算だ。もう少しかかると思っていたが、そちらから姿を見せてくれたのは、僥倖だったぞ』
自信満々な声色は、機体のスピーカーから響いているのか。
騎兵のサーヴァントであると認識し、敵意を滲ませるエデンに対し、若い男の声が笑う。
「マスター、シンフォギアを! 盾としてなら使えるはずだ!」
「わ、分かったわッ!」
宝具を纏うエデンに呼応し、自らも聖詠を唱える。
神世の調べが紡ぐのは、奇跡の糸が織り成す鎧だ。
白く輝く『巨人星座の青銅聖衣(オリオンクロス)』と、黒くはためくシンフォギア。
遠き神話に由来する、黒白の鎧が並び立ち、黒鉄の飛行兵器を睨み据えた。
『これはまた。神話のというより、テレビ番組のヒーローのようだな』
「言い過ぎだ、ライダー。それは私にとっても侮辱になるぞ」
くつくつと笑うライダーを、諌める声が聞こえてくる。
機体の影から現れたのは、マリアと同い年くらいの、白い装束の女性だった。
それもシンフォギアや聖衣と同じく、特殊な戦闘装束なのだろうか。
漆黒の剣を光らせて、マントと腰布をはためかせる姿は、明らかに普通の洋服ではない。
古の武人が纏っていたような、剛健な印象を与える衣服だ。
大きく開き露出した、大きな両胸の谷間には、真紅のエンブレムが刻まれている。
間違いない。マスターだ。今度は正真正銘の。
「主人同伴でやって来るとは、随分な自信だ……なっ!」
言いながら、エデンが雷球を投げる。
ごうっと音を立て加速するのは、トニトルイ・サルターレと呼ばれる飛び道具だ。
直撃コース一直線。微動だにしないマスターには、それを止める手段などない。
「何っ!?」
その、はずだった。
突如奔った赤い光が、雷を四散させるまでは。
ばちっ、と弾ける音と共に、光は粉々に弾け飛ぶ。
その向こうに出現したものは、半透明に光る壁だ。
エネルギー障壁。分かりやすく言えば、バリアか。
それがマスターを連れ現れた、ライダーの自信の正体だった。
たとえ弱点を晒そうとも、それを容易には攻めさせない用意が、彼の乗り物には存在したのだ。
恐らくは騎兵のサーヴァントの、宝具であろう飛行兵器には。
『そう、自信だ。だがこれは決して慢心ではない。正しく分相応の自信だよ』
「貴様……」
『ああ、前置きが長かったな。ならばそろそろ始めるとしようか』
睨むエデンの殺気を流し、どこ吹く風でライダーは言う。
そしてその開戦の一言が、浮遊する漆黒の飛行機に、新たな変化をもたらした。
機体が捻れる。各部が蠢く。不可思議な挙動を繰り返しながら、飛行物体のシルエットが変貌していく。
伸びたのは足か。開いたのは手か。
ぬうっと姿を現したのは、まさか頭部のつもりなのか。
「これは……ッ!?」
様変わりしたその姿は、翼持つ暗黒の巨人だった。
ライダーのサーヴァントの宝具は、飛行機などではなかったのだ。
身の丈5メートルはあろうかという、巨大な人型ロボット兵器――それこそが襲撃者の正体だった。
◆
「人の趣味を笑えないな」
威容を見上げ、エデンが言う。
飛行機だろうとロボットだろうと、所詮は同じ機動兵器。サイズにもそれほど変化はない。
しかし縦に大きく見上げる、その人型の気配の何としたこと。
古来より、人は巨人というものに対して、格別の畏怖を抱いたという。
各地の遺跡や神殿に、巨大な神像が祀られているのは、この視覚効果によるものか。
『見てくれだけではないぞ』
ふふんと軽く笑いながら、黒き巨神の操り手は、エデンの声にそう応える。
見下ろす顔面に光るのは四つ目。そして異様に大きなレンズだ。
その窓を覗き込むうちに、自身が吸い込まれていくような。異形の五つ目で形成された、不気味な面構えだった。
この風貌で神だというなら、ライダーが操るその姿は、悪魔か邪神の映し身か。
『せっかく披露したのだからな……力の方も味わってもらおう!』
瞬間、ロボットの両腕が動いた。
突き出された手のひらの、袖下あたりに備わったのは、弾丸を放つ銃口だろうか。
であれば来る。射撃武器だ。
「フッ……!」
反射的に飛び退った。視界の中で光が爆ぜた。
バリアを張れるならビームもありか。禍々しい気配と共に放たれたのは、渦を巻くエネルギーの弾丸だ。
着地し見上げたその先では、既にライダーの巨神像は、より空高くへと上昇している。
戦闘スタイルは聖闘士の真逆――バリアを張りつつ飛び道具を放って、遠距離から一方的に制圧する魂胆だろう。
「はぁっ!」
だが、そうはいかない。
思い通りになどさせるものか。
手近な建物に飛びつくと、その壁を蹴って跳躍し、夜の暗黒へと躍り出る。
虚空の彼方のターゲットへと、見舞うのは銀の左腕だ。
命中。されど、弾けるは閃光。
先ほども見たバリアによって、鉄拳は容易く防がれてしまう。
『仮にも絶対守護領域! 侮ってもらっては困るな!』
大仰な盾の名を謳い上げ、誇らしげにライダーが言った。
赤熱の向こうで銃口が光る。先ほどのエネルギー兵器か。この距離で狙い撃つつもりか。
「チッ!」
舌打ちと共にバリアを蹴って、エデンはその場を離脱する。
どんっとエネルギー弾が放たれた。迫り来る灼熱の凶弾は、両手でサルターレを投げ撃ち落とした。
着地すると同時に、頭上を仰いだ。その時エデンが目にしたものは、何とも奇妙な光景だった。
(何だ……?)
巨神の胸が、開いている。
胸部のハッチが開放されて、内部メカが露出している。
内臓は生身であっても機械であっても、急所と呼べる部位であるはずだ。
ましてや人の乗る乗り物であるなら、そんなところを攻撃されれば、コックピットにダメージが及びかねない。
そんな弱点を晒す行動に、一体何の意味があるというのだ。
『そしてこれこそ、対をなす矛』
瞬間、放たれるものがある。
月光を複雑に反射し、光を放つ結晶体だ。
ここに来て実弾兵器か? そもそもあれは弾丸なのか? 宝石を巨大化させたような、あんな珍妙な物体が?
不可解としか言いようのない光景に、エデンの思考は回転する。
『その光の切っ先――受けるがいい!』
刹那、ロボットの胸部が光った。
その瞬間、思考を直感が凌駕し、脳内にアラートが響き渡った。
何かが来る。これまでの攻撃とは一線を画する、恐らくは危険極まりない一手が。
理屈は未だ分からないが、何か恐るべき攻撃が、あそこから放たれようとしている。
「マスター! 盾をッ!」
「えッ――」
言いながら、エデンは駆け出した。
マスターであるマリアを守るため、方向転換し疾駆した。
雷の小宇宙を解き放つ。周囲にエネルギーを巡らせ、バリアの要領で壁を作る。
間に合え。あれが放たれる前に。恐ろしいことが起こる前に。
「がぁああっ!?」
「きゃぁあああッ!」
瞬間、痛烈な衝撃が襲った。
貫通と灼熱は、一箇所ではない。
視界が光に覆われて、眩く包まれたと思った瞬間、無数の攻撃をほぼ同時に受けた。
まばたきすら追いつかない間に、数十数百の閃光の矛が、エデンの体を貫いたのだ。
「ぐ……」
さしもの聖闘士も、ただでは済まない。焼け焦げた体を震わせて、がくりと力なく膝をつく。
『ハハハハ! 悪くない色になったじゃないか』
煤けた青銅聖衣を見下ろしながら、黒き邪神像は愉悦に笑う。
超然と天に浮かぶその姿は、エデンが生前対峙してきた、神々の姿そのものだ。
違いはあくまで姿を真似ただけで、そこに彼らの神性は、欠片も宿っていないということか。
実物を知るエデンにとっては、大きすぎる違いだが、それでもなお、脅威であることに変わりはなかった。
(マスターは……)
「う……ッ」
痛む体を起こしながら、エデンはマリアの方を見やる。
なんとか、彼女は生き延びていた。漆黒のマントで全身を覆い、いくらかダメージを負いながらも、一命だけはとりとめていた。
『壊すには忍びなくなったが、これも勝負。チェックは打たせてもらうぞ』
更なるライダーの追撃が迫る。
地を砕く巨大なアンカーが、膝から放たれ襲いかかる。
(恐るべき技だ)
これでも防衛態勢スキルの補正によって、防御力は上がっているのだ。どうにか動ける余力はある。
それを身を捩りかわしながら、エデンは敵の技を見定めた。
先ほど放たれた武器は、恐らくはレーザー兵器の類だろう。
原理は不明だが、例の結晶体に放つことで、その光を乱反射して、無数に拡散させたものだ。
その反射角度を巧みに操り、軌道を誘導することによって、オールレンジに近い攻撃を実現している。
亜光速の攻撃が、全方向から迫って敵を包囲し、逃げ場を塞いで焼き尽くすのだ。
(近い技を知っている)
雷撃を纏った鉄拳で、射撃を叩き落としながら、思考する。
獅子座の黄金聖闘士の技には、光速拳を奥義の域まで高めた、ライトニングプラズマというのものがあるのだそうだ。
師であるミケーネは、柄に合わなかったのか、ついぞ使うことはなかった。それもありエデンはその技を、直接身に受けたことはない。
だが知識のみで推測するなら、奴の武器は、それと同じものを、再現し実践するものなのだろう。
(それでも、所詮はカラクリ細工)
だとしても、そこには決定的な違いがある。
歴代の黄金聖闘士達は、この現象を引き起こすために、手品のタネなど要さなかった。
小細工で支えられた技など、タネが割れれば崩すのは容易い。
『さらばだ!』
再び例の攻撃が来る。
放たれたレンズ代わりの結晶体が、エデンの頭上へと向かう。
「キーパー……?」
未だ膝をついたままの、マリアの元へと敢えて戻った。
攻撃を誘い込む、というのとは違う。策を実行するためには、マリアには近くにいてもらわねばならない。
あの技の生命線は結晶体だ。壊してしまうのが理想だが、強度は未だ計り知れない。
それでも。
だとしても。
たとえ壊すことができずとも、この技を打ち破ることができる、最も確実な方法は他にある――!
「トワノ……トルナードッ!!」
雄叫びと共に、荒れるのは嵐だ。
稲妻を響かせて乱れ狂う、雷撃色の竜巻だ。
ばたばたと聖衣の装束が揺れる。ガングニールのマントがはためく。
エデンが持つ奥義の一つ、トワノ・トルナード。
雷撃を纏う竜巻を生じ、敵に向かってぶつける技だ。
「これは……ッ!」
台風の目の只中で、マリアは両目を見開いた。
自らの周囲で轟然と、渦を巻く突風を見定めた。
そして頭上で風に煽られ、傾く結晶体の姿を。
『ほう……?』
ライダーがそう呟いた時には、既に全てが遅すぎた。
放たれたレーザーはまっすぐに、偏光レンズへと命中する。
風に煽られ揺れたことで、入射角も反射角も変化し、照準が破綻した結晶体にだ。
そうなれば全てがご破産だ。光線は見当違いな角度で曲がり、文字通り無茶苦茶な軌跡を描いて、あちらこちらへと撒き散らされる。
建物が射抜かれた。石畳が焼けた。泉の水が少し沸いた。
だがそれだけだ。狙いを狂わされたレーザーは、肝心なエデンとマリアには、一発も命中しなかったのだ。
「お前の放った結晶体が、僕に壊せるものなのかは、分からなかった」
遂に結晶に亀裂が走り、やがて粉々に砕け散る。
兵器ではなく月明を受けて、きらきらと光る欠片達が、烈風に溶けて消えていく。
「それでも、僕にはこの技があった。トワノ・トルナードが巻き起こす嵐は、その風圧で結晶を揺さぶり、お前の狙いを狂わせる」
嵐はやがて凪へと変わる。
風の止んだ只中で、エデンが静かに言葉を紡ぐ。
凄惨な破壊の傷跡は、全て周囲に残されていた。
対してエデンの立つ足場は、至って綺麗なものだった。
「そして今、破壊可能であることも証明された。お前の切り札は、決して僕に届くことはない!」
一度正体を見切った技は、聖闘士には決して通用しない。
邪神の放つ光の雨が、オリオン星座のエデンを射抜く未来は、決して訪れることはない。
漆黒の機体が放つ光が、アルテミスの矢となることは、ない。
「どうする、ライダー? 相性の悪そうな相手だぞ」
機体の肩に立つ、敵マスターが言った。
未だ余裕だとでも言いたいのか。この光景を見せられてもなお、その表情に変化はない。
『……そうだな。方針を変えるべきか』
言うと、ライダーの乗機が、再びその姿を変えた。
元の飛行機の形態へ戻り、そのまま後方へと下がりだす。
撤退する気か。だがそうはいかない。この状況で退かれれば、今後に大きな障害を残す。
追われる立場のマスターを、これ以上ややこしい状況に置くことはできない。
「キーパーッ!?」
「マスターはそのまま! どこかに身を隠していてくれ!」
番人らしからぬ選択だが、ここは攻めに出るべきだ。
マリアをその場へと残すと、エデンは石畳を蹴って、逃げる機影を追いかけ始めた。
大きいとはいえ、5メートルクラスだ。小柄なライダーの機体は、建物の間を巧みに縫って、エデンの追跡を振り切らんとする。
だが、それでも小回りならば、生身の方が利くのは間違いない。この程度の追いかけっこでは、まだまだ見失うには至らない。
『粘るな!』
「抜かせ!」
手のひらより雷撃を放つ。しかしそれは阻まれる。
レーザーは攻略したとはいえ、敵の絶対守護領域とやらは、未だ健在というわけだ。
赤い障壁のその向こうで、飛行機は再び邪神へと化ける。
神像の姿を取った敵機は、身を捻りエデンの方へ向き直ると、再び胸部のハッチを開いた。
「っ……!」
瞬間、迸ったのは光だ。反射的に小宇宙をもって、迫る熱量を迎え撃つ。
結晶体を介したものではない。本来拡散すべきレーザーを、そのままの状態で直射したのだ。
一点に集中した威力は、先ほど以上の突破力と、眩い光をもって襲いかかる。
「……ぇえええいっ!」
負けてなるものか。あと一歩の距離まで追い詰めているのだ。
雷の小宇宙を練り上げた。
極限のせめぎ合いに追い込まれ、セブンセンシズに達した小宇宙が、文字通りのビッグバンとなって弾けた。
爆裂する轟音と閃光は、一瞬エデンの五感全てを、眩い白で埋め尽くす。
純白の闇はやがて晴れた。宙に浮いていたエデンは、勢いを失って着地した。
「何っ!?」
しかし、この光景はなんとしたことだ。
いるはずのものが、そこにいない。
あの禍々しい巨神の姿が、その身に乗っていたマスターの姿が、どこにも見当たらなかったのだ。
「まさか……!」
方針の転換とはこのことか。
要するに自分は嵌められたのだ。派手な囮に気を引かれ、まんまと誘い出されてしまったのだ。
宝具を解除したサーヴァントの姿は、周囲のどこにも見当たらない。
それはマスターも同様だ。先ほどの閃光が弾けた隙に、この場から離れてしまっている。
マスターとサーヴァントを引き離し、目眩ましによって身を隠し、自身は別の場所へ移動。
そうなればこの次の行動は、もはや一つしか考えられない。
(マスターが危険だ!)
エデンがいなくなったあの場所には、襲撃に晒されるマリアを守る者は、もはや一人もいないのだから。
思考し、元来た道を振り返る。守護の任務に戻らなければと、己が足を走らせんとす。
「っ!?」
瞬間、それを遮ったのは、鼓膜を破らんほどの爆音だった。
モーター音か。自動車? 違う。あまりに迫力が違いすぎる。
「何だ、これは……!?」
果たしてビルの陰から現れたのは、またしても巨大なロボットだった。
しかしそれは先程のような、漆黒の邪神像ではない。
紫色をベースに塗られた、より無骨な印象を与える機体だ。足元の車輪で走るそれは、どうやら飛ぶことすらできないらしい。
神々の映し身というよりは、オズのブリキ人形と呼ぶ方が近い。見るからに大量生産品と分かる、無様とすら呼べる姿だった。
そうだ。大量生産品だ。
何せ紫色のロボット兵器は――一度に三体も現れたのだから。
◆
戦況は一体どうなった。
マリア・カデンツァヴナ・イヴは、耳をすませながら思考する。
万一の事態を想定して、シンフォギアは解除せずにいた。恐らくはエデンも、そうすることを望んでいただろう。
(今はまだ、動かない方がいい)
ここで出しゃばるのは得策ではない。
気持ちの整理のつかない今では、エデンにとって、邪魔にしかならない。
迷いが刃を鈍らせることを、武装組織フィーネの首魁は、誰よりも強く理解している。
そしてそんなことに対してばかり、理解の深くなった自分に、またしても嫌気がさしたのだった。
《――マスター、聞こえるか!?》
その時、不意に声が響く。
遠く離れたサーヴァントから、念話が脳内へと届く。
《キーパー? どうしたの?》
《すまない、嵌められた! 恐らくは今、マスターを狙って、そちらに敵が向かっている!》
《ええッ!?》
それは最悪の通達だった。
敵におびき出されたエデンは、敵の増援に囲まれ、完全に分断されたのだという。
そして彼のいる場所には、ライダーのサーヴァントもマスターも、どちらも見当たらないというのだ。
行き先は決まっている。この場所だ。戦場で孤立したマスターという、美味しすぎるこの状況を、敵が放置しておくわけがない。
《いいか、マスター! 今すぐ令――》
令呪を使ってエデンを呼び、この場に強制転移させる。
後から思い返せば、恐らく彼は、そのことを言いたかったのだろう。
しかし、その言葉は届かなかった。状況を打開する一手を、マリアが耳にすることはなかった。
「――はぁあああっ!」
それよりも早く、敵の声が、その場に割って入ったからだ。
「ッ!?」
ほとんど条件反射だった。
訓練された肉体は、素早く殺気に反応し、烈槍をそちらへ構えさせる。
がきんと鋭い音を上げ、火花の明かりがマリアを照らした。
槍と剣が激突し、鋭く散ったその火花は――黒く、禍々しく光っていた。
「よく受けたな」
「さっきの、サムライ……ッ!」
黒々とした熱を放ち、炎上するサムライソードを握るのは、白髪と白装束のマスターだ。
豊かな胸元に刻まれた、赤い三画の令呪が、これ見よがしに主張している。
猛獣か猛禽を思わせる、鋭い金色の瞳が、黒炎を纏う刀の向こうで、真っ向からマリアを睨んでいた。
「それは適切な呼び名ではないな」
言いながら、繰り出されたのは足だ。
鍔迫り合いのその下から、がら空きのマリアの腹部めがけて、痛烈なローキックが叩きこまれた。
「う……ッ!」
どんっと襲う衝撃と共に、神話の装束が吹っ飛ばされる。
襲撃者が使う得物は和刀だ。しかし、彼女は侍ではなかった。
仮に侍であったなら、あれほど巧みに身を隠し、ここまで忍び寄ることもなかった。
そうだ。忍び寄ったのだ。
彼女はそれを生業とする者。闇夜に忍びて敵を追い、命を奪う悪しき花。
「私は――忍だ!」
禍を纏いし妖刀を構え、左手にもまた炎を宿し。
右手に刀、左は拳。黒き炎を殺意より生じ、獲物を狙う暗殺者。
ライダーのサーヴァントのマスターは、自らが背負ったその称号を、月下に高らかに宣言した。
◆
RPI-13・サザーランド。
対ナイトメアフレーム戦を想定して製造された、初のナイトメアフレームだ。
優れた汎用性と安定性を誇る本機は、相当数が生産されて、長らく戦線を支えていたという。
ライダー――ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアもまた、飽きるほどに相手をし、時には手駒として操った機体だ。
それが今、再び彼の手駒となって、この世界樹の魔術都市に、姿を現し立ち回っている。
方針を転換した彼の策は、それを用いた物量戦だった。
「ははは……どうした色男? 個々のスペックだけならば、俺の蜃気楼よりも格下だぞ?」
観測兵の報告を受けながら、皇帝ルルーシュは邪悪に笑う。
元ブリタニア皇帝ルルーシュは、自身は戦闘能力を持たないものの、その身に三つの宝具を携えていた。
一つは、『我は世界を創る者(ぜったいじゅんしゅのギアス)』。強烈な催眠効果により、雅緋の軍団を築いた宝具だ。
もう一つは、『我は世界を壊す者(しんきろう)』。自らが駆る漆黒の機体であり、生前のルルーシュの愛機である。
そして残された最後の宝具が、『我は世界を変える者(オール・ハイル・ルルーシュ)』だ。
自らを讃える号令を、そのまま名前とした傲慢な宝具。
自らを讃える兵士達を、地獄の底から呼び起こし、手下として操ることができる宝具。
それこそ、天才軍師と謳われた、ルルーシュの力を最大限発揮する、真の切り札と呼べる宝具だった。
「S-6、攻撃を仕掛けろ。2秒後にS-7も突撃。両脇から時間差で攻めて態勢を崩す。
その後G-2が背後から砲撃し、標的をマスターから遠ざける。頼んだぞ、G-2」
S-5およびS-6のSは、サザーランドの頭文字のSだ。
無線機で指示を出しながら、Gの頭文字を持つ機体――ガレスを新たに生成する。
蜃気楼の両腕にもあった、粒子ビーム兵器・ハドロン砲を主兵装とする、空戦タイプのナイトメアフレーム名だ。
サザーランドでキーパーをかき乱し、そこにガレスの高火力砲撃を撃って、望む方向へと誘導する。それがルルーシュの戦略だった。
《ライダー、残り五機でその場を抑えろ。私の魔力も残しておけ》
《問題はない。三機出せれば十分だ》
マスターの雅緋からの念話に、応じた。
ルルーシュの指揮する作戦は、あくまで雅緋が目的を果たすまでの、時間稼ぎに過ぎない。
彼女が敵マスターを直接攻め、撃破するまでの間、キーパーを繋ぎ止めておく。それがルルーシュの役割だ。
本来守られるべきマスターが前線に立ち、逆にサーヴァントが闇に身を隠す。ともすれば、暴論とすら言える作戦である。
それでも、今はこの策がいい。隠密性に優れた雅緋は、奇襲作戦という観点で言えば、ルルーシュ以上に適任だ。
(それにしても、奴もこんな手にかかるとは)
守護者(キーパー)のクラスも名ばかりだなと、ルルーシュは内心で嘲笑った。
雅緋の同道を許可したのは、何も自信だけが理由ではない。
次善策として用意していた、この作戦を実行する上で、その方が挑発効果が見込めたからだ。
マスターとサーヴァントが一箇所に固まっていれば、敵の狙いもそこに絞られる。
その状態で逃げ去れば、敵はそれを追いかけるしかなく、結果容易に誘き出すことができる。
そんなことすらも予測できず、結果無数のナイトメアフレーム相手に、苦戦しているキーパーの姿は、滑稽としか言いようがなかった。
◆
緒川慎次という男がいる。
二度交戦したシンフォギア装者・風鳴翼の付き人であり、自身も忍術を修めた強者だ。
特異災害対策機動部二課と、事を交えると決めた時から、いつか忍者と戦う機会は、訪れるだろうと考えてはいた。
(強い……ッ!)
それがこの場で、こんな形でだとは、マリアも想定していなかったのだが。
敵マスターの豪剣に、防ぐ槍と手を震わせながら、マリア・カデンツァヴナ・イヴは冷や汗を流した。
「誰が為にこの声、鳴り渡るのか……ッ!」
「この程度か! そのご大層なカラオケも、所詮はただのお飾りか!」
アームドギアを押しのけながら、白髪のマスターが轟然と吼える。
妖刀の黒炎をより強くしながら、マリアの守りを意にも介さず、じりじりとにじり寄ってくる。
「あぁッ!」
遂に距離はゼロへと詰まった。
唸りを上げる左の拳が、マリアを容赦なく殴り飛ばした。
悲鳴を上げ吹き飛ぶ彼女に、容赦なく忍の追撃が迫る。
なんとか態勢を立て直し、懸命にガングニールを握って、その攻撃に対処する。
(忍者の力は、シンフォギアよりも強いというのッ!?)
戦闘能力ではあちらが上だ。
神話の武具の力を宿した、FG式回天特機装束・シンフォギア。
その奇跡を具現化した甲冑よりも、今は忍の技の方が、明らかに強い。
東洋の神秘とはこれほどのものか。自分達F.I.Sは、こんな怪物相手に、喧嘩を売っていたというのか。
(違う……これは私の弱さだ……ッ!)
しかしマリアは、その思考を、即座に自ら否定する。
扱いきれていないにせよ、ガングニールのスペックは、平時より上がっているはずなのだ。
にもかかわらず只人ごときに、こうして遅れを取っているのは、自身が原因に他ならない。
迷いと躊躇いに鈍った刃が、女一人倒せないほどに、神話の槍を貶めているのだ。
常勝不敗と謳われた槍を、脆弱なものに変えているのは、他ならぬマリア自身の歌なのだ。
「喰らえ!」
敵マスターが突っ込んできた。開いた距離を詰めてきたのだ。
直線的な攻めだ。今なら間に合う。遠距離からの必殺技で、迎撃することができる。
「カデンツァの――ッ!」
そこまで考えて、手が止まった。
脳裏に蘇った炎の海に、槍を繰り出す手が止められた。
ここで引き金を引いてしまえば、また同じ結果を招くのではないか。
一瞬前と同じ炎が、目の前の敵を焼き殺し、悲劇を引き寄せるのではないか。
巡る懸念が思考を鈍らせ、紡ぐ歌を止めさせる。
「悦ばしきInfernoッ!!」
その隙を見逃してくれるほど、東洋の忍は甘くはなかった。
黒き魔刃がその火力を増す。より一層の火を纏った刀が、唸りを上げて襲いかかる。
一撃。二撃。更に三撃。次々と繰り出される必殺剣を、止められるだけの根性はマリアにはない。
「くぁあああッ!」
情けない悲鳴を上げながら、マリアは遂に直撃を受けた。
マントの防御すら間に合わず、全身をずたずたに引き裂かれ、傷口を炎で炙られた。
漆黒に染まった装束は、黒き炎の刃の前に、遂に崩れ落ち膝をついた。
「もう少し楽しめるかと思ったが……期待外れだったな」
金の眼光がマリアを見下ろす。
白装束に黒炎を纏う、モノクロのコントラストの武人が、冷たい視線と言葉を放つ。
強い。
何度となく抱いた感想だ。
その拳にも刃にも、迷いが一切感じられない。
私は強い。私は勝てる。むしろ絶対に勝たなければならない。
その凄まじい覚悟と気迫が、刃を燃やす炎となって、弱いマリアの身を焼き焦がしてくる。
(私とは、まるで違う)
ほぼタメ歳だというのに随分な違いだ。
これが今の自分に欠けているものか。
むしろこれこそが、今の自分が、持っていなければならないものだったのか。
無様に地べたに跪きながら、陽炎の向こうに立つ忍の姿を、マリアはじっと見上げていた。
◆
(マスターは無事なのか……!?)
マリアとの念話が途切れてから、それなりの時間が経過している。
恐らくはエデンの予測通り、敵の襲撃を受けてしまい、それどころではなくなったのだろう。
あちらが受信できないのであれば、令呪による強制転移もできない。であれば、自分が力を尽くして、彼女の元へ戻らねばならない。
「邪魔だっ!」
そのためにも、倒さねばならない敵がいる。
青紫のロボットの胴体に、勢いよく鉄拳を叩き込んだ。
拳から小宇宙を爆裂させる。機体の内側で迸る雷が、内部メカを焼き尽くす。
機能を失ったブリキ人形は、エデンが離脱すると同時に、力なくうつ伏せに倒れた。
これでもまだ倒したのは二機目だ。青紫の陸戦機に限っても、まだ六機ほど残っている。
更に頭上を見上げれば、先ほどのライダーのそれとも違う、新たな黒いロボットが二機。
(大した敵ではないはずだ!)
単純火力も耐久力も、ライダーが直接駆っていた、あの黒き邪神の方が勝っている。
にもかかわらず苦戦しているのは、連戦がパフォーマンスの低下を招き、エデンが弱っているからか。
いいや違う。これは戦い方の差だ。
先程から敵は見透かしたかのように、こちらが攻められたくない位置とタイミングで、次々と攻撃を仕掛けてくる。
あのサーヴァントもとんだ策士だ。自らパイロットをやるよりも、後方で手下を操る方が、よほど手強いではないか。
「チィッ!」
だだだだだっ、と機銃が唸る。
ロボットサイズのマシンガンが、雄叫びを上げて凶弾を放つ。
鉛弾ところか砲弾サイズだ。大きく舌打ちを打ちながら、エデンはこれを飛び退って回避。
「がはっ!」
しかしその背後から襲ったのは、痛烈な衝撃の一打だった。
跳ね返る体をなんとか捻り、着地するより早く敵を見やる。
別の青紫のロボットだ。腕に仕込まれたトンファーを、背中に叩きつけてきたのだ。
あの程度の攻撃を食らってしまうとは、いよいよヤキが回ってきたらしい。
(このままでは……!)
今のままでは敗北する。
戦場の主導権は完全に、ライダーの陣営が握っている。
このまま突破口を見出せないようでは、マリアを殺され脱落だ。
何とかしなければ。
そう思いながらも、それでも何ともできない自分に、エデンは下唇を噛んだ。
未だ顔も見ていないライダーが、高らかに嘲笑う姿が、脳裏に浮かんでくる気がした。
◆
そしてそれらの戦況を、一人見下ろす者がいる。
ゴーグルとスカーフで顔を隠し、紺色のコートを夜風に揺らし、ビルの上に立つ男がいる。
劣勢を強いられるキーパー側と、優勢に事を進めるライダー側。
彼はそのどちらでもなかった。全くの第三者だった。
「そうやって見下すことしかしないから、貴様らは足元を掬われる」
故に彼は純粋に、打算だけを考えて、その後の行動を決定した。
このまま野放しにしておいて、危険な存在になるのはどちらか。
たとえこの場で見逃したとしても、野垂れ死ぬのがオチなのはどちらか。
それは誰の目にも明白だ。故に男は弱者ではなく、強者の方に狙いを定めた。
「ならばその驕りを抱えたまま――潔く地の底へと沈め!」
かちり、と乾いた音がする。
それは彼がその手に握った、リモコンのボタンの音だった。
直後戦場に響いたのは、キーパーでもライダーによるものでもなく、設置式の爆弾によって生じた、鋭い爆発音だった。
◆
「何が起きた……!?」
地を埋める瓦礫の只中で、苦々しげに顔を歪めながら、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは呟く。
現象だけなら簡単だ。何らかの爆発によって、背後のビルの一部が崩落し、瓦礫がルルーシュへと降り注いできた。
それだけならば問題はない。幽霊であるサーヴァントには、石くれの雪崩など蚊ほども効かない。
今確認を取るべきなのは、それが誰によって起こされたかだ。
キーパーも、そのマスターさえも、戦場からは動いていない。彼らにはルルーシュを攻撃することはできない。
「キィイイイ――ッ!」
その時だ。
鳥の鳴き声を思わせる、甲高い声が聞こえてきたのは。
「使い魔か!?」
果たして姿を現したのは、奇妙な姿を持った怪鳥だ。
金属のパイプやエンジンを有した、機械仕掛けの猛禽である。それが二羽、三羽と現れ、ルルーシュの周囲を飛び交っている。
実体はない。されど質量は感じる。魔力の気配は感じられないが、本物のロボット鳥でないのは確かだ。
であれば、未知のサーヴァントによる、何らかの召喚術である可能性がある。
自分が神秘の欠片もない、ナイトメアフレームを呼び寄せ、意のままに操っているように。
「S-1! 私の直掩に回れ! 新手が現れた可能性がある!」
ルルーシュは無線を観測兵に繋ぐと、自らの護衛に回るよう指示した。
戦況の確認を担っていた、最初に召喚したサザーランドが、すぐさまルルーシュの元へと戻る。
万一キーパーらに視認されていたら、自分の位置を気取られかねない手だ。
だが、既に相当量のナイトメアフレームを召喚し、雅緋の魔力を使ってしまっている。
自分の身を守るために、『我は世界を壊す者(しんきろう)』で戦い続ける余力はない。であれば、今ある手駒を使うしかない。
そうした判断に対しては、ルルーシュは迷いのない男だった。
しかし、それとは違った意味で、この選択が誤りだったことを、彼は遠からず知ることになる。
◆
雅緋は正しく勝ち誇っていた。
よほどつまらない勝負だったのか、その顔に浮かぶ感情は薄い。
ただしその冷酷な眼差しは、既に黒服の女をライバルではなく、屠るべくゴミとして見下していた。
後は黒刀を振り下ろすだけだ。
逆転あどあり得るはずもない。無様に膝をついた槍の女は、その一刀で絶命する。
故に雅緋のその態度は、自分の勝利を疑うことなく、戦いの終わりを確信しきっていた。
《――注意は引きつけた! やれ、ランサー!》
そういう状況下の人間こそ、最も警戒が薄れるものだ。
ランサーのサーヴァント――駆紋戒斗は、その隙を見逃す男ではなかった。
「おおおおっ!」
「何っ!?」
気付いた時にはもう遅い。
真紅のボディを固く覆った、金と銀色の鎧が光る。
地を蹴り物陰から飛び出してきた、甲冑の戦士の得物が唸る。
駆紋戒斗の戦闘形態――その名も、アーマードライダー・バロン。
『掲げよ、騎士の黄槍を(バナナアームズ)』をその身に纏い、豪槍を振りかぶる赤熱の男が、一直線に駆け抜けてくる。
その勢いを殺すことなど、雅緋にはできようはずもなかった。
あの殺気の塊のような女が、今まさにこの瞬間だけは、それほどに警戒を緩めていたのだ。
「フンッ!」
「がぁああああーっ!」
振り下ろす切っ先が、身を切り裂く。
甲高い悲鳴が闇夜に木霊し、真っ赤な鮮血が暗黒を彩る。
胴体を狙ったその一撃は、しかし両断には至らなかった。
さすがにユグドラシルの闇のボスだ。咄嗟にその身をよじることで、直撃だけは免れたのだ。
「ぐぅ……っ!」
それでも、ただでは済まされない。破れ飛んだ衣服の下では、胸元から腹のあたりまでにかけて、痛ましい傷跡が刻まれている。
露出した胸元の傷口からは、令呪すらも塗り潰す勢いで、どくどくと血が流れ落ちている。
「え……?」
「仕損じたな」
だとしても、即死で終わらせるつもりだった戒斗にとっては、それすらも不本意な結果だった。
戸惑うもう一人の女を無視し、アーマードライダーは舌打ちをする。
「令呪をもって、命ずる……来い……ライダーッ!」
そして雅緋の行動は、戒斗のそれよりも早かった。
胸の谷間の令呪を光らせ、強制転移の命令を下す。
声を張り上げたその勢いで、気力を使い果たしたのか、今度は雅緋が膝をついた。
「なかなかに無茶を言ってくれる!」
瞬間、闇夜に広がったのは光だ。
人間大の白い光が、徐々にその大きさを増して、新たな存在を現出させる。
現れたのは黒いロボット。恐らくはライダー自身の駆る宝具か。
強制転移と同時に発動し、攻撃を受けるリスクを避けたのは、さすがと言うべきかなんと言うべきか。
『この勝負、預けるぞ!』
次に聞こえてきた声は、先ほどとは異なり、スピーカー越しに発せられたものだ。
屈辱の色の濃い声を上げ、主人を拾い上げた漆黒の巨神は、すぐさまそのまま飛び去っていった。
追いかける術は、戒斗にはない。オーバーロードならまだしも、アーマードライダーにその力はない。
(収穫なし、か)
己のポリシーを曲げてまで、息巻いて飛び込んできた割には、この程度の結果しか得られなかった。
プライドの高い戒斗にとって、そのあまりにもお粗末な結果は、彼のヘソを曲げさせるには、あまりにも十分すぎるものだった。
◆
「すまない、マスター。僕としたことが、迂闊だった」
聖衣を解いて帰還してきた、エデンが放った第一声は、そんな謝罪の言葉だった。
「それを言うなら、私もそう……結局貴方に、負担をかけることしかできなかった」
そんな申し訳なさそうな顔をされると、こちらまでいたたまれなくなってくる。
元はといえば、マリアがちゃんと戦えていたならよかった話だ。
二人でライダーを追っていたなら、戦力を分断されることもなく、共に戦えたはずだったのだ。
だからこそガングニールを解いたマリアは、謝る必要はないと、エデンにそう返したのだった。
「………」
ちらと、エデンは脇を見やる。
鉄仮面のランサーは、未だ逃げることなくそこにいた。
臨戦態勢を解いたマリア達と異なり、恐らくは宝具か何かであろうその鎧を、未だその身に纏ったままでだ。
「やるつもりか。今のお前ら程度なら、俺一人でも事足りるぞ」
離れずにいたのは、手負いごとき敵ではないという、ランサーの自信の表れか。
悔しいが、こちらは満身創痍だ。確かに二人がかりで挑んでも、万全の敵を相手取るには、厳しいものがあるだろう。
《……マスター、僕に提案がある》
それ故かもしれない。
エデンがマリアに対して、念話でそう語りかけたのは。
◆
「えっ?」
キーパーなるサーヴァントのマスターが、驚いたような表情を作った。
どうやら念話で、何かしらの作戦会議を行っているらしい。
戦闘態勢に戻っていないことを考えると、どうやら正面から戦う気はなさそうだ。
どちらでもいい。何をしてこようと、正面から叩き伏せるだけのことだ。
そうして戒斗は、その光景を傍観し、相手の次の言葉を待った。
「……あの、ランサー。これはよかったらでいいのだけれど……私達と、同盟を組まないかしら?」
しかし実際に、相手のマスターの口から出た言葉は、少々予想外のものだった。
アーマードライダーのマスクの下で、戒斗は軽く、目を見開く。
「僕達はお互い、聖杯を得るために戦っている。
しかしそのライバルはあまりに多い……ならば、せめて一時的にでも手を組むことで、共にその数を減らしていくのが、得策だとは思わないか?」
マスターに続くように、キーパーが言った。
なるほど、つまりはそういうことか。
勝ち目が薄いというのなら、味方につけてしまえばいいということか。
生き残りを賭けたデスゲームである以上、そういう選択肢は、考えていなかった。
確かに、最後の二組になるまでという条件なら、同盟を組むという行為も自然にはなる。
「なるほど。悪くはない提案だ」
言いながら、戒斗は変身を解いた。
赤いスーツと鎧が消えて、黒と赤を基調とした、ロングコートの姿へと戻る。
平時ならばそのような提案、戒斗は一笑に付していただろう。
しかし状況が状況だ。雅緋一人を警戒する自分達に、手段を選んでいる余裕はない。
何よりも、敢えて徒党を組むと決めたなら、その状況をしかと受け止め、活用できるだけ活用する――駆紋戒斗はそういう人間だった。
「だが、俺はあくまでもサーヴァントだ。マスターの意志を聞かずして、結論を出すわけにはいかない」
「承知している」
応えたのはマスターではなく、サーヴァントだった。
主導権を握っている。これはマスター自身の考えではなく、キーパー側の提案ということか。
さすがに、傀儡になっている、とまではいかないだろうが。
「さてどうする、マスター殿?」
言いながら、戒斗は背後を振り返る。正確には後方に建っている、背の低い建物の上の方にだ。
そこには一つの人影があった。
紺色のコートを身に纏い、天上の月を背負う男。相も変わらず警戒を解かず、がちがちに顔を隠した男。
戒斗のマスター――黒咲隼が、高みからキーパーらを見下ろしていた。
「……好きにしろ。ただ、俺は貴様らと馴れ合うつもりも、ましてや助けてやる気もない。それだけはよく覚えておけ」
吐き捨てるようにそう言うと、黒咲はすぐさま身を翻した。
それで終わりだと言わんばかりに、彼は会話を拒絶して、その場から立ち去っていった。
「だ、そうだ。お互いに相互不可侵ということで、この場は納得してもらおうか」
敵対関係を貫くとは言わない。ただし協力することもない。
それはすなわち、お互いをターゲットとしては認識せず、手を出さないということだ。
戒斗の要約に、キーパー達も納得し、首を縦に振って了解した。
「詫びの代わりに、一つ教えてやる。あの女の名は雅緋。この街のゴロツキを束ねる親玉だ」
リベンジを挑むつもりがあるなら、歓楽街を探してみれば、奴を見つけられるんじゃないかと。
戒斗はそれだけを言い残して、同じく身を翻し立ち去った。
《喋りすぎだ》
黒咲の苛立たしげな念話が聞こえる。しかし戒斗は、それを無視した。
奴らに戦う意志があるのなら、雅緋と潰し合うことで、こちらの手間を省いてくれるだろう。
仮にそうでなかったとしたら、どの道遠からず野垂れ死ぬ。その程度の器だったというだけの話だ。
(無償の取引など存在しない)
手を組みたいというのなら、働ける分だけは働いてもらう。
それが駆紋戒斗なりの、同盟関係の条件だった。
【H-6/行政地区/一日目 深夜】
【マリア・カデンツァヴナ・イヴ@戦姫絶唱シンフォギアG】
[状態]ダメージ(大)、疲労(大)、魔力残量5割
[令呪]残り三画
[装備]ガングニール
[道具]アガートラーム、外出鞄(財布、肌着、タオル、通帳)、特殊武器チップ(メタルマン)
[所持金] 普通
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れ、月の落下を止めたい
1.他のマスターにも居場所を悟られているかもしれない。しばらくの間、身を隠す
2.ランサー(=駆紋戒斗)達とは相互不可侵。助けられるなら助けたい
3.夜が明けたら、足りない生活用品を買い揃える。特に下着が欲しい
4.ガングニールに振り回されている、弱い自分に自己嫌悪
[備考]
※H-6にあるアパートに暮らしています
※ガングニールのロックが外れ、平時より出力が増大していることに気付きました
※ランサー(=駆紋戒斗)組と相互不可侵の関係を結びました
※ランサーのマスター(=黒咲隼)の顔と名前を知りません
※ライダー(=ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア)の顔を見ていません
※雅緋が歓楽街を縄張りにしていると聞きました
※殺人鬼ハリウッドの一人を倒しました。罪歌を受けなかったため、その特性には気付いていません
【キーパー(エデン)@聖闘士星矢Ω】
[状態] ダメージ(中)
[装備] 『巨人星座の青銅聖衣(オリオンクロス)』
[道具] なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに従う
1.他のマスターにも居場所を悟られているかもしれない。しばらくの間、身を隠す
2.ランサー(=駆紋戒斗)達とは相互不可侵
3.ユグドラシルの空気に違和感。何かからくりがあるのかもしれない
[備考]
※世界樹の大元になっている樹が、「アスガルドのユグドラシル」なのではないかと考えています
※ランサー(=駆紋戒斗)組と相互不可侵の関係を結びました
※ランサーのマスター(=黒咲隼)の顔と名前を知りません
※ライダー(=ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア)の顔を見ていません
※雅緋が歓楽街を縄張りにしていると聞きました
※殺人鬼ハリウッドの一人を倒しました。罪歌を受けなかったため、その特性には気付いていません
【黒咲隼@遊戯王ARC-Ⅴ】
[状態]魔力残量9割5分
[令呪]残り三画
[装備]ゴーグル
[道具]カードデッキ、デュエルディスク、オートバイ
[所持金]やや貧乏
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、聖杯を手に入れる
1.帰宅する。その後、今後の方針を練る
2.キーパー(=エデン)達とは相互不可侵。積極的に助けに行くつもりはない
[備考]
※D-9にあるアパートに暮らしています
※キーパー(=エデン)組と相互不可侵の関係を結びました
※ライダー(=ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア)の顔を見ていません
【ランサー(駆紋戒斗)@仮面ライダー鎧武】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]戦極ドライバー、ゲネシスドライバー、ロックシード(バナナ、マンゴー、レモンエナジー)、トランプ
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:優勝する
1.帰宅する。その後、今後の方針を練る
2.キーパー(=エデン)達とは相互不可侵。積極的に助けに行くつもりはない
[備考]
※キーパー(=エデン)組と相互不可侵の関係を結びました
※ライダー(=ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア)の顔を見ていません
◆
戦闘者の肉体とは、重いものだ。
基本的に筋肉というものは、脂肪よりも重たいものである。
そのため戦いのために己を鍛え、筋肉の鎧を纏った者は、必然体重も重くなってくる。
何もしない一般人よりは、確実に体格はよくなっているはずだ。
「重いぞ、マスター」
とはいえ、その発言をしたのは、頭でっかちのルルーシュである。
あるいは普通の人間であっても、膝の上に寝転ばれていては、同じ感想を漏らしたかもしれない。
「お互い、様だ。キーパーから逃れる時……お前を抱えてやったのを、忘れたか」
ひゅうひゅうと細く息を吐きながら、顔にびっしりと汗をかいて、雅緋は従者の悪口に返した。
『我は世界を壊す者(しんきろう)』にて戦場を離脱し、街の上空を飛ぶ両者は、今はまっすぐに歓楽街を目指していた。
ナイトメアフレームの機動力だ。到着に時間はかからないだろう。
あとはこのデカブツが、上手く着陸できる場所を、どこか探さなければならない。それだけが当面の問題だった。
「とにかく……部下を、退かせなければならないな。あのまま放置しては、足がつく……」
「馬鹿か。その前に医者だ。マスターが死んでは元も子もないだろう」
口調が素のものに近づいているのは、余裕のなさの表れだろうか。
ルルーシュに魔術の心得はない。人間の医者を頼らない限り、雅緋を治療することはできない。
表面上は平静を装いながらも、内心でライダーのサーヴァントは、それなりに切羽詰まっていた。
(らしくないミスをした)
先の戦闘を省みる。
あの時奇襲を仕掛けた者は、敵サーヴァントなどではなかった。
恐らくはサーヴァントのマスターだ。それが自らを囮にし、なおかつ正体を悟らせることなく、巧みに陽動を実行したのだ。
信じがたい、とは今でも思う。雅緋じゃあるまいし、とは思ってしまう。
その思考自体が、マスターは基本後方支援に徹するものと、無意識に決めつけてしまった結果だ。
自分達という例外が、唯一無二の存在であると、勝手に思い込んでしまったが故のミスだ。
(固定観念の隙を突くことこそ、小兵の取れる唯一の策)
かつてテロリストを率いていた自分なら、それは分かっていただろうに。
その固定観念に縛られたことこそが、勝利の目前まで迫ったゲームを、敗北したも同然の形で、こうして投げ出す結果を招いた。
同じ轍は二度と踏むまい。膝もとに力なく横たわる、己がマスターの痛ましい姿に、ルルーシュはそう固く誓った。
(それに、他にもクリアすべき条件がある)
更に今回の戦いにおいては、もう一つの問題点が浮上した。
それは自らの宝具の燃費の悪さだ。
十機近いナイトメアフレームを使役し、『我は世界を壊す者(しんきろう)』を二度召喚し、マスターにも前線で戦わせた。
神秘性に乏しいとはいえ、ナイトメアフレームは大質量兵器だ。その消費は無視できないものがあった。
結果として今回の戦いだけで、雅緋の魔力残量は、半分以下にまで減少してしまった。
『我は世界を壊す者(しんきろう)』と『我は世界を変える者(オール・ハイル・ルルーシュ)』の同時使用。それがルルーシュの理想だ。
しかしこの燃費の悪さでは、たとえ雅緋がマスターであっても、とても賄いきれるものではない。
(対策を打たねばならないな)
魔力が要る。
それも魂喰いなどという、効率の悪い手段を、ちまちまと取ってもいられない。
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアにとっては、その方法を探るのが、当面の課題となるだろう。それは重々承知していた。
【F-8/行政地区上空・『我は世界を壊す者(しんきろう)』コックピット内部/一日目 深夜】
【雅緋@閃乱カグラ SHINOVI VERSUS -少女達の証明-】
[状態]胴体にダメージ(大)、魔力残量4割
[令呪]残りニ画
[装備]コート
[道具]妖刀、秘伝忍法書、財布
[所持金]そこそこ裕福(マフィアの運営資金を握っている)
[思考・状況]
基本行動方針:優勝を狙う
1.歓楽街に戻る。その後何らかの手段で部下に連絡し、行政地区から撤退させる
2.聖杯にかける願いに対する迷い
[備考]
※ランサー(=駆紋戒斗)の顔を見ていません
【ライダー(ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア)@コードギアス 反逆のルルーシュR2 】
[状態]健康
[装備]『我は世界を壊す者(しんきろう)』
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:雅緋を助け、優勝へと導く
1.歓楽街に戻る。その後雅緋を病院へ運ぶ
2.魔力確保の方法を探る
3.雅緋の迷いに対して懸念
[備考]
※ランサー(=駆紋戒斗)の顔を見ていません
[全体の備考]
※H-6の橋の周辺で、大規模な戦闘が発生し、街に被害が出ました。周辺住民の間で、噂になる可能性があります。
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|~|キーパー([[エデン]])|~|
2016-07-27T23:28:27+09:00
1469629707
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冷たい伏魔
https://w.atwiki.jp/yggdrasillwar/pages/110.html
*冷たい伏魔 ◆nig7QPL25k
気になるものを見た。
ゲルトルート・バルクホルンから、東郷がそうした報告を受けたのは、聖杯戦争本戦が開幕する、数時間前のことだった。
よほど間が悪かったのか、街全体を回ってみても、それらしい人影には巡り会えず。
結局折れた東郷が、これ以上は無駄だと判断し、帰投の指示を出したのち。
その時偶然バルクホルンが、視界に入れた光景が、その「気になるもの」というものだった。
「確かに、これはちょっと気になるわね……」
自然保護区の家を出て、学校へは通うことなく、通学路を外れ市街地へ。
そうして辿り着いた先で、東郷はそう呟いていた。
そこは一般住宅街の片隅にある、人の住んでいない廃屋だ。
ここから高校生くらいの女子が、一人で出てきたというのが、バルクホルンの見た光景だった。
秘密基地か何かのように、生活感があるというわけでもない。
そんな場所に理由もなしに、子供が出入りするということはあり得ない。
少なくとも、システム化されたNPCには、あまりにらしくない行動だった。
あるはずのない常識外――奇しくもそれは、鹿目まどかの失踪と、同質のイレギュラーだった。
「敵マスターの陣地かもしれない、と思ったのだが……それらしい気配もないとはな」
「その人はここで、一体何をしていたんでしょうか」
無人の廊下を進みながら、東郷とバルクホルンは言う。
意味もなくこんな場所に来るはずがない。相手が人間であるなら、間違いなく理由があるはずだ。
そう考えながら周りを見ても、どうしても答えには行き着かない。
もしやこれもハズレなのか。そう思い始めた、その時。
「……地下室、だな」
一階の更に下へ向かう階段が、廊下から伸びているのが見えた。
それも乱雑に転がったダンボールに、塞がれるような形でだ。
車椅子目線の東郷は、バルクホルンに障害物をどけてもらって、初めて視認することができた。
「隠しダンジョン、というのが相場ですね」
「そうなのか?」
テレビゲームを引き合いに出したたとえだ。
テレビすらない時代のバルクホルンは、遊んだことのないゲームの単語に、首を傾げながら問う。
「下りてみましょう。何かがあるかもしれません」
手伝ってもらえますか、と言いながら、東郷が言った。
怪力の魔法を持つバルクホルンには、ストライカーユニットを履かずとも、それぐらいのことは造作も無い。
車椅子を持ち上げると、アーチャーのサーヴァントはマスター共々、地下の闇へと沈んでいった。
◆
「これは、すごいな」
驚嘆を隠そうともせずに、バルクホルンが呟きを漏らす。
地下で東郷らを待ち構えていたのは、予想だにしなかった光景だ。
階段を下った先にあったのは、部屋でも廊下ですらもなかった。
もともとあった地下室は、とうの昔に失われ、世界樹の内側と一体化していたのだろう。
しかし、これはどうしたことだ。何故樹木を掘り進んだ先に、こんな光景が広がっているのだ。
「恐らくはこれが、アーチャーの見た人の、本当の陣地……」
そこにあったのは木ではなく、機械だ。
無数のパイプや金属が、洞窟の360度全てを、びっしりと覆い尽くしている。
単なる工場や基地といった、建物の壁ともまた違う。まるで血管か何かのように、機械が張り巡らされている。
どちらかというと、生物の体内を、そっくりメカに置き換えたようだ。直感的に東郷は、そのような感想を浮かべていた。
「陣地作成のスキルを持っていたのは、確かキャスターでしたっけ」
「どうだろうな。あれは自分に有利な空間を作るだけで、普通は物理的な変化を伴うものではないんだが」
そんな風に会話をしながら、バルクホルンは車椅子を押す。
パイプまみれの地面は、決して道が良いとは言えない。東郷美森を乗せた椅子は、時折かたかたと揺れていた。
紫色の金属が、延々続く道を見据え、アーチャーのサーヴァントは思考する。
(それにしても、妙な感覚だ)
この陣地は見てくれだけでなく、その纏う気配も異常だと。
試してはいないが、床の感触からいって、恐らくはこの機械の壁を、霊体化ですり抜けることは不可能だろう。
それは陣地の特性なのかもしれないし、あるいはこれ自体が、なんらかの宝具なのかもしれない。
しかし、どうにも違う気がする。この粘着くような感触は、そういう無機質なものとは、どことなく違う気がする。
丸呑みされた記憶はないが、ここはそれこそ見てくれ通り、巨大な生物の腹の中のようだ。
あるいは考えたくもないが、この空間そのものが――
「っ!?」
その時だ。
ぐいっ、と何かに手を引かれ、バルクホルンが車椅子から離れたのは。
「アーチャー!?」
「く……何だ、これは!?」
それはほんの一瞬だ。
どこかから伸びたケーブルが、触手のように絡みつき、バルクホルンを引っ張った。
そうして彼女と東郷との間に、無理やり距離が作られたのは、ほんの一瞬のことだった。
しかしこの陣地の主にとっては、その一瞬が稼げただけで、どうやら十分すぎたようだ。
「なっ……!?」
ずぅん、と大きな音が鳴る。
いたはずの人影が視界から消える。
バルクホルンの目の前に、突如として姿を現したのは、やはり金属製の大きな壁だ。
それがバルクホルンと東郷の前に現れ、二人を分断してしまったのだ。
「マスター! 無事かマスターッ!?」
触手を払って壁に駆け寄り、どんどんと壁を叩きながら言う。
しかし声は届かない。念話を使って呼びかけようにも、何かがジャミングをしているらしい。
霊体であるはずのサーヴァントに、接触し拘束することができるケーブル。
霊体化による透過や念話を阻み、行動を抑制する壁や床。
荒唐無稽な直感が、異様なリアリティを伴う。
バルクホルンの感じていた気配が、徐々に明確な形を作って、確信へと近づいていく。
(やはりここは、陣地でも宝具でもなく……巨大なサーヴァントの体内なのか……!?)
◆
念話による意思疎通は行えない。
よほどの防音性があるのか、声も届く気配がない。
令呪による強制転移も考えたが、もったいない使い方だと考え、やめた。
どうせ自分の思惑は、バルクホルンには理解できないものなのだ。
万一拗れた時のために、拘束力は残しておいた方がいい。
「………」
念のため、勇者の姿へと変身する。
外出時に着ていた制服が消え、青を基調とした戦闘装束が姿を現す。
しかしその臨戦態勢は、壁を壊すためのものではない。
これがサーヴァントの力であるのなら、マスター風情には壊せないはずだ。
リボンを足代わりに使い、車椅子から離れると、東郷は一人前進を始めた。
虎穴に入らずんば虎児を得ず。
単独先行は危険な賭けだが、かといってこの場所にとどまったとしても、いい結果が得られるとは考えにくい。
それよりも、当初の調査目的を優先するため、先に進むべきだと考えたのだ。
(サーヴァントを引き離し、生じた隙間を、正確に狙っての分断……)
自動的に機能するトラップにしては、少し融通が利きすぎている。
恐らく敵マスターかサーヴァント、そのどちらかには、侵入を悟られていると考えるべきだろう。
警戒はしなければならない。明確な意志を伴って、戦力を分断したからには、何かしらの意図があるはずだ。
(ここは……)
ややあって、開けた場所へと行き着く。
廊下を抜けたその場所は、丸いホールのような部屋だ。
歯車やチューブが折り重なった、大仰なモニュメントが造られているのが、印象深い場所だった。
機械でできているはずなのに、臓物を練り固めたように感じられて、酷く不愉快に感じられた。
「――ゾンダァァァ……」
「!?」
その時、不意に声が響く。
反射的に拳銃を生じ、構えながら周囲を見渡す。
東郷の周りに現れたのは、醜悪な姿をした化物だった。
人間大の生き物が、異様な鉄の皮膚を有した、機械のゾンビのような怪物だ。
それが何事かを呻きながら、次々と姿を現している。
四方を取り囲むように六体。見た目には鈍重な印象を受けるが、どうするか。
「ここを訪れる者が現れるとは。想定よりも早かったな」
新たな声が頭上から響いた。
東郷のいる部屋の天井は、巨大なモニターだったのだ。
そこに映し出されたのは、顔。
しかしその両目はレンズで、皮膚の下に覗くものはチューブだ。
無数の機械を蠢かせる、おぞましくも醜い金属の顔が、大写しになって姿を現していた。
「……私は戦いに来たのではありません」
直感的に理解する。
これがこの空間を支配する、サーヴァントの正体なのだと。
身を守るバルクホルンはいない。令呪で召喚したとしても、もはや敵の攻撃の方が早い。
手にしたピストルを消し去ると、東郷は両の手を掲げて、頭上の顔へと語りかける。
「私の名前は東郷美森。ここへは情報を得るために来ました」
力が通じないのであれば、言葉で命を繋ぐことだ。
東郷は目的を正直に告げた。
◆
パスダーの体内に侵入者が現れた。
その知らせは、通学する気でいた小日向未来に対して、大きな衝撃を与えた。
鞄の準備も投げ出して、すぐさま家を飛び出しアジトへ向かう。
あの巨体だ。さすがにそう簡単に攻め落とされはしないだろうが、どうなるか分かったものではない。
《つまり貴方は、自分の代わりに戦う手足を欲していると?》
《その通りだ。我が身は未だ完全ではない……マスターを矢面に立たせることも、危険であることは理解している》
その未来の苛立ちを煽るのは、念話によって中継される、侵入者とのやり取りだ。
事もあろうにパスダーは、包囲したはずの侵入者に対して、同盟交渉を持ちかけだしたのだ。
戦う意志がないのなら、という、奴の前置きは理解できる。
だがもしもそれが建前で、本当は反撃の機会を、虎視眈々と狙っていたのなら、一体どうするというのだ。
(でも、確かに今の私では……)
それでも、どうしても思ってしまう。
これで上手くいったならば、確かに心強くはなるだろうと。
悔しいが、現状の自分達の戦力が、心もとないのは事実だ。
烏合の衆のゾンダー人間に、自らは動くことができないパスダー。前線に立つ自分の力も、恐らくはサーヴァントには敵わない。
それが他の陣営と、一時的とは協力できるなら、確かにぐっと楽にはなるだろう。
頑張ると決めたはずなのに、そんな風に思ってしまう。そんな自分が情けなかった。
《見返りとしてお前には、私の軍勢の一部と、いずれ満ちる我が力を、貸し与えることを約束しよう》
《断るのなら、このまま……ということですか》
《好きに受け取ればいい。私が求めているのは思考ではなく、答えだ》
やがて入り口となる廃屋が見えてくる。
もっと近くに作っておくべきだったか。この日ばかりは、己の判断を呪った。
開けっ放しの入り口に飛び込み、ダンボールの撤去された、地下室への階段に向かう。
《……分かりました。その同盟、お受けしましょう》
その言葉が聞こえてきたのは、最初の一段目に踏み込む直前だ。
結局侵入者との同盟は、マスターである自分が、一言も意見を発することなく締結された。
何事もなく事態が終息した――その事実は彼女をほっとさせるのと同時に、軽く苛立たせもしていた。
《マスター。そこにいるサーヴァントを、私の元へと案内してもらおう》
その上、ようやく自分に話しかけたと思ったら、今度は雑用のお申し付けときた。
断ることのできない自分に、またしても情けなさを覚えながらも、未来はパスダーの要求に応じる。
果たして階段を降りた先に、もうもうと立ち込めていたのは、火薬の匂いと煙だった。
「……貴様か、こいつのマスターは!」
灰色の闇の向こうには、一つの人影が見えている。
軍服をかっちりと着込んだ、若い女性の姿があった。
その身に携えた装備は、大仰なロケットランチャーと、無骨に光る機関銃。
そして足元をすっぽりと覆い、光のプロペラを回転させる、ロケットのような形状のブーツだ。
厳格な上半身に反比例し、何故か下半身の方は、ビキニパンツ一枚という格好なのが、ひどく印象に残るサーヴァントだった。
◆
「正気か、マスター!? こんな得体の知れない奴と、同盟関係を結ぶなどと!」
当然のように怒られた。
マスターだという高校生の少女が、連れてきたバルクホルンの第一声が、これだ。
彼女を悪く言うわけではないが、あの場に置いてきた東郷の判断は、正解だったのかもしれない。
「あくまでも、他のサーヴァントを倒すまでの関係です。いずれ敵に戻るのを承知しているのなら、見た目は関係ないと思いますが」
「それはまぁ、確かに正論だが……だが、だからといって限度があるだろう!」
バルクホルンは直感的に、この陣地そのものだというキャスターに対して、危険性を感じているようだ。
それはもちろん理解できる。真っ当な相手であるのなら、あんなトラップを使いはしない。
「改めまして、アーチャーのマスターの東郷美森です。短い間になるでしょうが、よろしくお願い致します」
「……キャスターのマスターの、小日向未来よ。よろしく」
「マスター!」
だがだからとて、同盟を断っていたならば、殺されていた可能性もあったのだ。
バルクホルンの糾弾を無視し、傍らのキャスターのマスターに対して、東郷は挨拶の言葉を述べた。
毒を食らわば皿まで、とも言う。
この同盟が自分にとって、本当に有益かどうかは分からない。
だがだとしても、締結してしまった以上は、最大限に利用するしかない。
そうしなければ、己が大望を果たすことなど、夢のまた夢でしかないのだから。
「これを」
小日向未来と名乗った少女から、手渡されたものがある。
紫色の光を放つ、小さくも禍々しい結晶体だ。
魔力とやらを帯びたそれが、キャスターの存在に由来するものだということは、直感的に理解できた。
「それこそ我が『機界結晶(ゾンダーメタル)』。私の軍団を生み出す力だ」
キャスターが言うには、この宝具は、NPCの人間に、接触させて用いるのだそうだ。
これと融合を果たしたNPCは、たちどころに心身を乗っ取られ、あのゾンビの姿に変異するのだという。
作り物であるとはいえ、一般市民を巻き込むという、勇者らしからぬ行動に、一瞬東郷の心は揺らいだ。
「ありがたく頂戴します」
だが、それも一瞬だけだ。
すぐさま思考を切り替えて、美森はそれらを受け取った。
何しろ東郷美森とは、既に人類の守護者ではない。
「結城友奈の安寧のために」、「人類を滅ぼす」と誓ったのだ。
たかだかその程度のことに、感傷など覚えてはいられなかった。
そうだ。その通りだ。己はそうあるべきなのだ。
「友奈を救う」ことに対して、迷いを抱いてなどいられないのだ。
手の中で淡く光を放つ、三つの『機界結晶(ゾンダーメタル)』の紫を、東郷はしばし見つめていた。
◆
「もう二度と、こんなことはしないでちょうだい」
己がマスターである小日向未来が、パスダーの独断専行を諌める。
今回の行動に対して、不満を抱くだろうというのは、予想できたことではあった。
「案ずるな。もう次はない」
しかし、今回ばかりはそうしてでも、彼女を手に入れたい理由があった。
それは青い装束を纏い用いる、未知の戦闘技術を得たかったから、というだけの小さな理由ではない。
既にこの場から立ち去った、あの娘の放っていた気配の方が、魅力的だと感じたからだ。
(奴のマイナス思念は使える)
東郷美森という少女は、その身から普通の人間以上の、強いマイナス思念を放っていた。
ストレスを解消へと誘導する、ゾンダーの特性を考えるならば、それは魅力的な感情だ。
それだけの思念を誘導し、目的のために動かせたならば、きっと頼もしい戦力になる。
命を落とすことさえ厭わない、勇猛果敢な鉄砲玉として、目的に殉じてくれるだろう。
なればこそ、パスダーは東郷を欲した。これほど都合のいい駒は、そうそう見つかるものではなかったのだ。
「……勇者を名乗る存在と、手を組むことになるとはな」
「キャスター?」
「古い記憶だ」
マスターが気にする必要はないと、パスダーは未来に向かって言う。
勇者。
彼女が名乗った称号は、パスダーにとっては特別な、それでいて忌々しい響きを持つ。
緑の星の遺産を用いた、宿敵達の名乗った名前だ。
それを己のしもべとして、使うことになる日が来るとは、なんとも皮肉なものだった。
とはいえ、あれはカインの遺産を使う、くろがねのロボット達とは違う。
奴が勇者を名乗ろうと、忍び込ませた呪縛に対して、抗う術などないのだから。
彼女がアーチャーの目を離れ、キャスターと対峙したその時。
既に四つ目の『機界結晶(ゾンダーメタル)』は、東郷美森の装束に付着し――その身にて息を潜めている。
【E-2/一般住宅街・廃屋前/一日目 早朝】
【東郷美森@結城友奈は勇者である】
[状態]魔力残量9割5分
[令呪]残り三画
[装備]スマートフォン、『機界結晶(ゾンダーメタル)』(肉体と融合)、車椅子
[道具]通学鞄、『機界結晶(ゾンダーメタル)』×3
[所持金]やや貧乏(学生のお小遣い程度)
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、聖杯の力で人類を滅ぼす
1.未来達と協力し、他のサーヴァントに対処する
2.状況に応じて『機界結晶(ゾンダーメタル)』を用い、手駒を増やす
[備考]
※『機界結晶(ゾンダーメタル)』によって、自身のストレス解消(=人類を殲滅し、仲間達を救う)のための行動を、積極的に起こすようになっています。
『機界結晶(ゾンダーメタル)』を植え付けられていることには気づいていません。
※鹿目まどかの生存に気付いていません
※小日向未来&パスダー組と情報を交換し、同盟を結びました。
同盟内容は『他のサーヴァントが全滅するまで、協力し敵を倒す』になります。
【アーチャー(ゲルトルート・バルクホルン)@ストライクウィッチーズ】
[状態]健康
[装備]ディアンドル
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、聖杯を手に入れる
1.自分でも使いたいとは思うが、聖杯はマスターに優先して使わせる
2.未来およびそのサーヴァント(=パスダー)に対する不信感
[備考]
※美森の人類殲滅の願いに気付いていません。言いにくいことを抱えていることは、なんとなく察しています
※鹿目まどかの生存に気付いていません
※小日向未来&パスダー組と情報を交換し、同盟を結びました。
同盟内容は『他のサーヴァントが全滅するまで、協力し敵を倒す』になります。
【???/地下・パスダーの体内/一日目 早朝】
【小日向未来@戦姫絶唱シンフォギアG】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]神獣鏡、『機界結晶(ゾンダーメタル)』(神獣鏡と融合)
[道具]『機界結晶(ゾンダーメタル)』×5、ゾンダー人間×10
[所持金]やや貧乏(学生のお小遣い程度)
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、聖杯を手に入れる
1.パスダーの準備が整うまでは、自分が矢面に立って戦う
2.一応東郷とは協力し合う
3.勝手な行動を取ったパスダーに対して苛立ち
[備考]
※『機界結晶(ゾンダーメタル)』によって、自身のストレス解消(=響が戦わずに済む世界を作る)のための行動を、積極的に起こすようになっています。
『機界結晶(ゾンダーメタル)』を植え付けられていることには気づいていません。
※鹿目まどかを倒したと思っています
※東郷美森&ゲルトルート・バルクホルン組と情報を交換し、同盟を結びました。
同盟内容は『他のサーヴァントが全滅するまで、協力し敵を倒す』になります。
【キャスター(パスダー)@勇者王ガオガイガー】
[状態]健康、魔力確保30%
[装備]なし
[道具]ゾンダー人間×6
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、聖杯を手に入れる
1.世界樹と融合し、宝具発動に必要な魔力を確保する
2.東郷達を利用する
3.いざという時には『機界結晶(ゾンダーメタル)』を使い、未来と東郷の思考を誘導する
[備考]
※東郷美森&ゲルトルート・バルクホルン組と情報を交換し、同盟を結びました。
同盟内容は『他のサーヴァントが全滅するまで、協力し敵を倒す』になります。
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|BACK||NEXT|
|[[背負う覚悟は胸にあるか]]|[[投下順>本編目次投下順]]|[[不屈]]|
|-|[[時系列順>本編目次時系列順]]|-|
|BACK|登場キャラ|NEXT|
|[[カーテン・コール]]|[[東郷美森]]|-|
|~|アーチャー([[ゲルトルート・バルクホルン]])|-|
|~|[[小日向未来]]|-|
|~|キャスター([[パスダー]])|[[第一回定時放送]]|
2016-07-27T23:28:04+09:00
1469629684
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【1日目】
https://w.atwiki.jp/yggdrasillwar/pages/99.html
*【一日目・深夜】
|No|タイトル|登場キャラクター|場所|時間|作者|
|001|[[この手の刃は光れども]]|憤怒のラース、クリエイター(アルバート・W・ワイリー)、メタルマン、ターボマン、フロストマン&br()マリア・カデンツァヴナ・イヴ、キーパー(エデン)|G-4・特級住宅街・ブラッドレイ邸&br()H-6・行政地区・橋の下|一日目・深夜|◆nig7QPL25k|
|002|[[陰にて爪を研ぐ]]|雅緋、ライダー(ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア)&br()黒咲隼、ランサー(駆紋戒斗)|D-9・歓楽街|一日目・深夜|◆nig7QPL25k|
|003|[[強盗と仮面とベルト]]|衛宮士郎、キャスター(神崎士郎)、仮面ライダーベルデ、仮面ライダータイガ、仮面ライダーインペラー&br()葛葉紘汰、セイバー(アルファモン)|C-7・歓楽街と商業地区の境|一日目・深夜|◆V8Hc155UWA|
|004|[[振り返るもの、向き合うべきもの]]|羽佐間カノン、シールダー(我愛羅)|B-5・一般住宅街・橋付近|一日目・深夜|◆nig7QPL25k|
|005|[[虎の穴を前にして]]|犬吠埼風、ライダー(剣鉄也)&br()両備、キーパー(ハービンジャー)|D-3・一般住宅街・犬吠埼家&br()F-3・特級住宅街|一日目・深夜|◆nig7QPL25k|
|006|[[師弟再び]]|ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、メンター(高町なのは)&br()立花響、キャスター(スバル・ナカジマ)|F-3・特級住宅街・橋の上|一日目・深夜|◆V8Hc155UWA|
|007|[[三様の想い]]|美樹さやか、セイバー(レオン・ルイス)&br()鹿目まどか、アーチャー(星矢)&br()暁美ほむら、セイヴァー(美国織莉子)|C-5・一般住宅街・美樹家&br()B-4・一般住宅街・鹿目家&br()C-4・学術地区・中学生の学生寮|一日目・深夜|◆nig7QPL25k|
|008|[[闇に吠える氷の呀]]|忌夢、バーサーカー(呀)|I-4・自然保護区|一日目・深夜|◆nig7QPL25k|
|009|[[The∞Ripper∞NighT ]]|鯨木かさね、セイバー(アヌビス神)|G-3・特級住宅街、ラ・ヴァリエール邸近く|一日目・深夜|◆yy7mpGr1KA|
|010|[[背負う覚悟は胸にあるか ]]|ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、メンター(高町なのは)&br()立花響、キャスター(スバル・ナカジマ)&br()両備、キーパー(ハービンジャー)|F-3・特級住宅街&br()E-3・学術地区|一日目・深夜|◆nig7QPL25k|
|012|[[不屈]]|立花響、キャスター(スバル・ナカジマ)&br()両備、キーパー(ハービンジャー)&br()忌夢、バーサーカー(呀)&br()ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、メンター(高町なのは)|E-3/学術地区・路地裏&br()F-3・特級住宅街&br()G-3・特級住宅街・ラ・ヴァリエール邸近く|一日目・深夜|◆nig7QPL25k|
|013|[[百機夜行]]|雅緋、ライダー(ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア)&br()黒咲隼、ランサー(駆紋戒斗)&br()マリア・カデンツァヴナ・イヴ、キーパー(エデン)|H-6・行政地区&br()F-8・行政地区上空・『我は世界を壊す者(しんきろう)』コックピット内部|一日目・深夜|◆nig7QPL25k|
|015|[[愛の叫びが聞こえるか]]|シノン、アーチャー(シエル・アランソン)&br()湊耀子、アーチャー(円環の理)|E-2・一般住宅街・アパート・シノンの部屋&br()F-2・自然保護区|一日目・深夜|◆nig7QPL25k|
*【一日目・早朝】
|011|[[冷たい伏魔]]|東郷美森、アーチャー(ゲルトルート・バルクホルン)&br()小日向未来、キャスター(パスダー)|E-2・一般住宅街・廃屋前&br()???・地下・パスダーの体内|一日目・早朝|◆nig7QPL25k|
|019|[[ホライズン]]|天羽奏、バーサーカー(トーマ・アヴェニール)&br()羽佐間カノン、シールダー(我愛羅)&br()衛宮士郎、キャスター(神崎士郎)、仮面ライダータイガ、仮面ライダーインペラー、仮面ライダーガイ、仮面ライダーライア|C-5・学術地区・一般高校&br()B-8・歓楽街・安ホテルの一室|一日目・早朝|◆nig7QPL25k|
*【一日目・午前】
|014|[[森の向こうに目が潜む]]|憤怒のラース、クリエイター(アルバート・W・ワイリー)&br()キリト、アサシン(ヘルマン・ルイス)|G-8・行政地区・軍司令部・司令官室&br()G-8・行政地区|一日目・午前|◆nig7QPL25k|
|016|[[祈りと呪い]]|立花響、キャスター(スバル・ナカジマ)|E-4・学術地区・学生寮・響の部屋|一日目・午前|◆nig7QPL25k|
|017|[[空戦 -DOG FIGHT-]]|東郷美森、アーチャー(ゲルトルート・バルクホルン)&br()美樹さやか、セイバー(レオン・ルイス)&br()鹿目まどか、アーチャー(星矢)&br()暁美ほむら、セイヴァー(美国織莉子)&br()ルーラー(アンドレアス・リーセ)|D-4・学術地区・一般中学校周辺&br()D-4・学術地区・一般中学校&br()D-4・学術地区・路地裏|一日目・午前|◆nig7QPL25k|
|018|[[求める未来を目指せ]]|葛葉紘汰、セイバー(アルファモン)&br()サガラ|C-6・商業地区・商業地区と学術地区を繋ぐ橋近辺&br()???・???|一日目・午前|◆7CTbqJqxkE|
|020|[[刻まれるカウント]]|忌夢、バーサーカー(呀)&br()両備、キーパー(ハービンジャー)|D-5・学術地区・魔術大学・図書室&br()F-2・自然保護区・両備の家|一日目・午前|◆nig7QPL25k|
|021|[[出撃! 偉大な勇者]]|立花響、キャスター(スバル・ナカジマ)&br()犬吠埼風、ライダー(剣鉄也)|G-3・特級住宅街・ラ・ヴァリエール邸近く|一日目・午前|◆nig7QPL25k|
|022|[[恋は盲目、愛は鷹の眼]]|シノン、アーチャー(シエル・アランソン)&br()憤怒のラース、クリエイター(アルバート・W・ワイリー)&br()鯨木かさね、セイバー(アヌビス神)|E-2・一般住宅街&br()G-8・行政地区・軍司令部|一日目・午前|◆yy7mpGr1KA|
|023|[[空白の騎士と暗黒の騎士]]|葛葉紘汰、セイバー(アルファモン)&br()忌夢、バーサーカー(呀)|C-6・商業地区・廃ビルが並ぶ町|一日目・午前|◆lkOcs49yLc|
|024|[[膠着期間]]|雅緋、ライダー(ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア)&br()黒咲隼、ランサー(駆紋戒斗)|C-9・歓楽街&br()B-8・歓楽街・病院|一日目・午前|◆nig7QPL25k|
|025|[[鋼人相打つ]]|立花響、キャスター(スバル・ナカジマ)&br()犬吠埼風、ライダー(剣鉄也)&br()ターボマン、フロストマン|G-4・特級住宅街・ブラッドレイ邸近く|一日目・午前|◆nig7QPL25k|
*【第一回定時放送】
|026|[[第一回定時放送]]|サガラ&br()ルーラー(アンドレアス・リーセ)&br()マリア・カデンツァヴナ・イヴ、キーパー(エデン)&br()キャスター(パスダー)&br()?????|-|-|◆nig7QPL25k|
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2016-07-27T23:24:59+09:00
1469629499