立花響&セイバー ◆HOMU.DM5Ns


 ◇



人の願いを叶える者。
もし英雄とは何かと問われたのなら、俺はこう答えるだろう。



絶大な力を持つ者は、自らの為に戦うべきではないと俺は思う。
無敵の躰(にく)と偉大な剣。あまりに圧倒的で膨大な力。
積み重ねた功績は数知らず。戦の傷は数の内にも入らない。
勝利する。達成する。獲得する。
兵士も、国も、竜すらもが骸に伏す。眩い伝説をいくつも打ち立てていく。
それはさながら天秤の皿に黄金を乗せるかの如く。
組した側に必ず傾く、運命に等しい重り(ちから)だった。


故に。英雄として成熟した俺は自らに縛りをかけた。
自らの意志で自らの願いを叶えず、他者からの願いにこそ己の力を振るうと。


英雄は人の形をしていても内に秘めた力は人の埒外にあるほど強力で、巨大だ。
欲望のままに動くようであれば、残る轍と起こる波紋は時として災厄を生む。
地を震わせるように、大波を引き起こすように。意識無意識の区別なく、ただ在るだけで世を動かしてしまう現象と化す。

大いなる力には、大いなる責任が伴う―――誰が言った言葉だったか。
その通りだと思う。竜が人と関わるには、己の巨躯で踏み潰さないよう気を払わなければならない。
力の代価に心を封じる。苦痛ない。俺は多くのものに恵まれ、愛された。
ならこの手に残った力は、自分以外の為にのみ使われるべきだ。

災害に遭い、涙に暮れる少女が手を伸ばせば、その手を握り締めよう。
魔獣に怯える村の住人に救いを乞われれば、その通りに戦い、救い上げよう。
求める声(ねがい)が絶えず聞こえる。俺の力が必要と必死に叫んでいる。
―――断る理由はなかった。彼らは足りず、餓えているからこそ他の助けを求めている。応えたいと思うのは当然だ。
助けを求める人を救うのに、間違いはないと信じていた。


求められるべき事を成す。
願いはただ願いでしかない。善も悪も、真も偽も、大も小も関係ない。
人を助けるのは趣味や意志ではなく、そうするよう求められただけ。
取るに足らない一人の声でも、国の民の総意であろうとも柄を握る手に緩みはない。
剣を振るう。敵を落とす。
賞賛を浴びる。願いを聞く。
歩く先々は苦難の連続で、その足跡(ライン)は光り輝く金色の道となり、やがて人類の歴史に刻まれる伝説と昇華された。



耳朶に鳴り響く歌を聴く。
後の世に悲劇として伝わる歌劇(オペラ)を聴く。
偉大なる作家に人生を彩られる……光栄の限りの筈なのに、何かが感動を妨げる。
胸の奥のある一点が、穴があいたように響かない。歌劇を聞く度に溝は癒えるどころか益々裡を広げていく。



―――ああ、そうか。



理由に気付く。
それは願望器の如き生き方をしていて忘れたもの。
人が持ち得るべき当たり前のものを、遠い場所に置き忘れた感覚。
その欠落が穴を生み、冷たく荒ぶ風となり俺を苛やましていた。

これほど俺の事を謳っているというのに。
これだけ俺を讃える歌があるというのに。



―――俺の胸には、歌がない。







 ◇


詰まる所。彼の命はここで摘み取られ、養分(まりょく)に変えられる為だけの人生だった。
街の構成を司る住人、NPCとして生み出された男が、彼だ。
しかしこの街の前提が願望器を巡る戦劇―――聖杯戦争の為だけに造られた舞台てある以上、端役に過ぎない彼の役割も決定していた。
即ち、魔力の糧。サーヴァントの存在を維持し、能力を保たせる生きた贄。
歴史に名を馳せた英霊の化身にすれば、この街に住みつく命はすべて『それ』だ。
火にくべる薪、使い捨ての乾電池、その程度の価値でしかない。

店に並ぶ菓子をつまむ程度で消費される命。
それだけの人生。それだけの存在。
悲嘆を嘆く機会すら与えられない。効率の名の元に、彼は闇から出た影に骨の髄まで食い殺される。



故に。
彼が決定的な瞬間から先に命を永らえ、生きている事態こそ異常と呼ぶ他ないのだった。

「大丈夫。へいき、へっちゃらです」

無様に腰を抜かし尻餅をつく彼を支えるのは、信じがたいことに少女だった。
年端もいかない若い声。一般学区に通う学生が通している制服。
彼と同じ、被捕食者でしかない筈の凡人。
気休め以下の激励に、何故だか萎えた心を立ち上げた。
まるで少女の紡ぐ言葉に血が通っているかのように、それは熱く己の血をも滾らせた。

「だから、生きるのを諦めないで!」

闇から爪牙が躍り出る。
正真の怪異を前にして、少女は怯みもせず彼を庇う形に足を進めた。
無謀すぎる。鼠が猫に挑むより結末が分かり切った行動だ。
……なのに、少女の柔肌が爪に引き千切られる未来を、彼は何故だか想像し得なかった。
彼が知る由もない事実として。
サーヴァントのを止められる道理は、ただ一つの可能性しかあり得ない。

「――――――」

何言かの、紡ぎ。
詠い奏でられた文言がトリガーと化して、少女の体を包み込む。
瞬間の後、少女であった体は既に戦場(いくさば)に揃う防人の姿となっていた。


そして。
転身した少女すら印象に留めない程、圧倒的な存在が少女の更に前にいた。
いったいいつの間に現れ、そこにいたのか。そんな些末な疑問すら消し飛ばさん限りの、燦然と輝く気配。
躰を覆う鎧を意に介さない程の鍛え抜かれた褐色の体躯。
露出した背中に浮かぶ蛍火の紋章。
背にかけられた鞘収めの大剣。
そこには何一つとして、虚偽がない。
見目通りの硬度と破壊力が備わった、今の時代にはあり得べからざる、本物の騎士だった。

顔だけが振り返り、男が視線を向ける。
男がしたのはたったその行為だけ。なのに彼は、この時、あらゆる恐怖から解放された気分になった。
無慈悲に食い潰される声なき叫びに、救いが表れたのだと。



……そこから先の話は言うまでもない。
少女は歌い、男は振るう。
闇は蹴散らされ、残るのは光あるもののみ。
それは、誰もが夢見、当然のように忘れ去られる幻想の詩篇。
御伽噺の中にしかいない、正義の味方のようであった。






 ◇


英雄になりないと、思った事はない。
そんなものがいらない世界のほうがいいと、私は思ってる。



人助けはただの趣味で、つまるところは自分がそうしたいと願っただけ。
頼まれたわけでもなく、やりたい事は胸から湧いてくる。

困っている人を見ればつい手を差し伸べてしまう。
迷子の保護から人類への災害の対策まで、範囲はこまごま。
人を助けるのに大きいも小さいもない。
手を伸ばせば届く人を、見過ごすのは嫌だった。
結果として人類を救って、事情を知る方々に英雄呼ばわりされる時がある。
褒められるのは嬉しいけど、自分にその称号は荷が勝ちすぎるというのも承知していた。

戦う力があるのは、受け継いだから。
戦う意志を持てたのは、支えられたから。
生きることを諦めるなと。帰る場所になってくれると。
周りを取り巻く多くの人から少しずつもらって、私は生きている。

私だけが特別で、一番で、なんでも出来たことなんてひとつもない。
大人が、友達が、皆が頑張って私も頑張った。だから起きた奇跡。
助けられたばかりの私が、英雄だなんて事はない。
偉大な事を成し遂げた人が英雄なら、この星にいた皆が英雄だ。なので自分が英雄呼ばわりされるのは、まったく見当違いなのである。


本当の人助けは、自分一人の力だけじゃ無理だ。
助ける方だけが懸命だと思うのは、助けられる方は何もしないと思うのは傲慢でしかない。
人の手と手は近いようで遠い。どちらかが伸ばすだけじゃ届かない時がある。
お互いが伸ばすからこそ、確かに人と手を繋げられる。

助け合うとはそういうことだ。
不理解に嘆き、増える傷に涙し、折れた心を立ち直してまた歩き出す。
触れ合い、話し合い、笑い合い、ぶつかり合い、傷つけ合い、分かり合う。
世界はきっと、そういうもので出来ている。


戦いは、好きじゃない。話し合いで丸く収まるならそれが一番だ。
それでも、戦場に身を乗り出すだけの理由を持つ人がいる。戦わなきゃいけないと思う人がいる。
世界にある痛みを、この身は知っている。

そんな人達に自分が出来る事は、はそう多くない。
せめて偽る事だけはしないように。
最速で、最短で、一直線に。
心からの言葉と思い、そして拳をぶつけるぐらい。
器用な方じゃないから、他に上手いやり方は知らない。

どこまでいっても、それは暴力でしかないかもしれない。
誰かの笑顔を守る為に誰かの、笑顔を歪ませる。
戦う事で、自分の笑顔を望む人を悲しませてしまっている。
殴る度に拳が痛む。心が軋む。自己矛盾に硝子の体が罅割れる。
だから知らなくちゃいけない。戦う意義を。握った拳の意味を。
それを忘れない限りは、まだ先に進んでいける。



風を鳴らす音が響く。
奏でられる歌は遠く、遠く、果ての果てまで回っていく。


……そうだ。私は信じている。


独りじゃないと信じている。
戦いがない世の中。英雄がいらない未来。
歴史が痛みと嘆きを果てしなく繰り返すとしても、人は繋がれるのだと信じている。

なぜなら、いまも―――



この世界には、歌がある。






 ◆



魔術都市ユグドラシル。魔術師により作り上げられた魔術の都市。
北欧の世界樹の名を取るのも誇張ではない、霊樹から溢れ出す魔力が満ち溢れる、魔術師にとってのユートピア。
一般には魔術師でない者も多いが、何の関わりも持たない者は逆にそう多くない。
街の何処からでも見渡せる、天をも突かんとする大樹を見れば、誰あろうと気付く。
自分達が住む街には人が発明した科学に相反する、異端の技術が深く根付いているのだと。
地上では西暦を数度遡らなければ見ることのできない、人が魔術を受け入れた世界。
星を超えて隔たれた、月の頭脳体の中の意味も込めて、なるほどここは幽世における妖精郷と呼ぶに相応しい。
それが魂を賭けた殺し合いの闘技場という事実を知ったとしても、やはり彼らは喜び勇んで飛び込むのだろう。
奇跡を冠した月の果実。あるいは誘蛾灯。食虫花の芳醇な香りに誘われた虫が辿る末路と同様だとしても。

遥かなる神代を思い起こさせる大樹の上にある街の一角。
ユグドラシル内で最も俗世に塗れ、神秘の濃度も薄い一般用の学術地区。
何の変哲もない学生寮の屋上の傍に、その男はいた。


地面―――正確には街自体が樹木の上になるが―――から突き出た枝に寄り添うように、鎧で身を固めた美丈夫が立っていた。
中世に建てられたような絢爛な城であれば屈強な門番にも見えたろうが、コンクリートを健在にした二十一世紀風の住宅の前に佇む姿は、
仮装大会に出た帰りとでも言った方が通じるほど滑稽なものだった。
だが、実際に男を目にしたらその発想は一瞬にして雲散霧消する他ない。
降りかかる災いをただそこにいるだけで遠ざける守り神。
それこそがこの騎士の真の印象に相応しい。事実そのままに、騎士は今この家を守る任を全うしていた。
平凡なれど幸福を受ける少女こそ、今生における彼の契約者。
男は現世を生きる者にあらず。過去に消えた、伝説として蘇りし仮初の命。

騎士の名をセイバー。
その正体を『ニーベルングの歌』に名高き、竜殺し(ドラゴンスレイヤー)たる勇者、ジークフリート。
聖杯戦争に添えられる七つのクラスの中で、『剣』を象徴にしつらえられた英霊である。

『セイバーさん、もう準備出来ますよ!』

そんな伝説の騎士に、契約者(マスター)の声が明朗快活に己の名を呼ぶ。
セイバーは短く了承の声を返し、肉体を構成する霊子の結合を解いた。
霊体化した躰は底の壁を抜けて個室へと移り瞬時に再形成される。
玄関前には、朝の登校の支度を整えたマスターが律儀にも待ち受けていた。

「おはようございます、今日も張り切って行きましょうッ!」

制服に身を包んだ少女は、陽だまりを思わせる笑顔でなんとも元気に挨拶を告げる。
何でもない会話を交わし、平凡な日常を送れる事が喜びとばかりに。

少女の名を立花響。
聖遺物の欠片から生み出されし、歌を力に変える回天特機装束、シンフォギアを纏う防人が一人。
そして、世界樹の上で催される決闘儀式、聖杯戦争に招かれた参加者の一人である。




 ◆


学園への登校の道程には、他愛もない会話を続ける。
直接声に出さず念話で済ますのも、最初は戸惑っていたが『一度、やったことあるし』と言ってすぐに順応してのけた。
互いに取り決めたわけでもないが、気付けば日課のようになっていた。

『……でですね、やっぱ朝ごはんは一日の資本ですし、セイバーさんも食べた方がいいって思うんです!
 腹が減っては戦は出来ないっていうし、いやあ昔の人はいいこと言うなあ~』

今回は、どうやら以前からしていた自分の分の食事についてらしい。
サーヴァントに食事行為は必要無い、とは無論説明済みだ。まったくの無意味ではない、と言えば嘘になるが、補給される量は微々たるものだ。
だがマスターの方は何か納得いかないのか、こうして度々了承を求めようとする。
魔力の供給は順調……どころか、少し異常な程なのだが、やはり受けた方がいいのかもしれない。
思えば、誰かからの頼みを保留のままにしているのは初めてかもしれない。戸惑い、といってもいいだろう。

『む。ひょっとして、私を料理下手ガサツ系女子だと思ってますね?ふっふっふー、甘い、甘いですよ
 私だって女子力の鍛錬は日々精進してるんですから!そりゃ未来には負けるけど、今ならかなりものの筈!
 なにせ毎日、ご飯食べて、アニメ見て、寝る………………………あれ、料理、してない……?』

不快や退屈を感じている訳ではないが、どう答えていいものか分からず、少し心苦しい。
自分に答えれるのは短い相槌ぐらいのものった。

軍功のような華々しいものではない、野に根付く花のような、穏やかな時間が流れる。
語られるのは実に取りとめもない話題で、その度に一喜一憂する。
……死後でなくとも、自分とはあまりに遠い物語だ。


『マスター。昨夜の戦いについてだが、いいだろうか』


結局。
話題に出来るのは無骨で血がけぶる、事務的な内容でしかなかった。
案の定、マスターの表情に曇りがかかる。

『……すまない。空気が読めていないのは分かっているのだが、切り出すタイミングが掴めなくてな』
『……ごめんなさい』
『咎めてるわけではないんだ。ただ、あそこで身を挺して行かずとも問題はなかった。
 我らサーヴァントはマスターの剣であり、盾だ。主であるマスターが矢面に出る危険を冒すことはない』

昨夜傷を受けた左腕―――そしてもう、痕も残っていない―――を支えて俯く。
登校時での会話が朝の日課なら、街の巡回警備は夜の日課だった。
聖杯戦争を理解し、マスターとサーヴァントの関係を把握して数刻。
立花響が最初に決めた方針は、思い描いた予想図と完全に異にしていた。


―――まずはマスターになった人と会って、きちんと話し合いたいと思っています。
   どんな人なのか、どうして戦おうとするのかを、ちゃんと知りたいんです。私が手を貸してそれで解決するなら、きっとそれが一番だから。


まず始めに『対話』すると言ってのけた事に、少なからず衝撃を受けたのは忘れない。
武勇の優劣にもとらない、騎士であった自分には思いもつかない発想だった。
それ自体は素晴らしい考えだ。だが同時に無謀極まる行為だ。
戦場で剣も鎧も持たずに向かう事に等しい。条約の特使ならばともかく、自分以外のマスターは全て首級となるここでは自殺と謗られても文句は言えまい。
だから当然問うた。正義の為に悪を貫く矛盾者。譲れぬ願いを持ち、戦いを止めぬ者と相対した時、どうするのかと。


―――戦います。そうでなくちゃ伝えられないなら、私も拳に思いを乗せて私の歌を伝えます。


毅然とした目つきでそう言った少女は、確かに戦士の顔をしていた。
誰かに強制されてでも、頼まれてでもない、彼女自身の内から生じた思い……彼女の言うところの『歌』を聞かせると。

自分の為ではなく、誰かの為に戦う者。
それでいながら自分を見失わない者。
叶える願いを持たず、他者の願いを気に掛けるこの少女を―――己はマスターとして共に歩む道を選んだ。
かくして『他のマスターとの接触』『街で起きた事件の調査、及び解決』の二点を兼ねた、夜の警備を開始した。


経過と結果は、戦いの数が物語るだろう。
水面下で権謀術数を張り巡らすマスター達を尻目に堂々とサーヴァントを連れて往来を闊歩するマスターがいるのだ。
何らかの『絡み』を起こしてくるのは必然といえた。
壁越しに観察する視線、使い魔の群れ、時にはサーヴァントかマスター自身。
無関係の襲われていた一般人に手を差し出して事態を大きくしたのも一度ではない。
刃が、魔術が、殺意が飛び交う渦中で、少女は覆すことなく前言を実行してのけた。
反応の大半は嘲笑だった。もう半分は理解できないものを見る目、といったとこか。
聖杯戦争というルールそのものへの犯行ともいえる行為なのだ。尋常なる魔術師、成就すべき願いを持つ側からすれば当然の帰結。
大抵は小競り合いで終わり、使い魔を撃退こそするがサーヴァントと撃破した事はない。

『生半可な攻撃では俺は傷つかないが、マスターは違う。君はもう少し、自身の体を厭うべきだ』
『はい……』

竜の血を浴びて以来無敵となった体は宝具と昇華され、これまでの戦いでもその伝説通り傷負うことないままでいる。
しかしマスターは、英霊も目を見張るだけの能力を持つとはいえ人間だ。人間で、いられている。
付け足せば、温かみのある人の好さも戦いでは突き入れられる弱点に変わる。無傷でいられるはずはない。

「……セイバーさんはやっぱり強いなあ。ぜんぜん、傷ついてなかったし」

ぽつり、とこぼれた声。
契約した者同士の念話ではない、生の声帯からの声。
聞き慣れた賞賛、けれど去来するのはまた別の感情。

「私はまだまだ未熟だから、戦いの後はいつも傷だらけで、友達を心配させっぱなしで……。
 分かってもらえてるけどやっぱり悲しませちゃうのは嫌だから―――」

あなたみたいに、強くなれたらいいのに。

声にも念話にも乗らぬ声。
聞こえたわけでもないのに、そんな言葉が聞こえた気がした。

『……そう、気負うものではない』

自身にまつわる願いは無いとマスターは答えた。
聖杯にかける願いがない、という点では自身と同種といえる。
しかし呼ばれた以上は理由があるは必然。世界樹に招かれた人物がまったく願いがないとは思えない。
この少女も例外ではない。
共に語らい、過ごし、戦えば、見えるものもある。
そして契約した時から繋がった因果線(ライン)から、僅かに覗く情景。
魔力と共に流れてくるのは、胸に刺さったままの傷。そこに空いた穴を『ねぐら』にした暴れる竜―――

『マスターは信じる道を行けばいい。俺はそれに従おう』

誰しも他人には触れられたくない傷がある。歪みとて人の成り立ちだ。
今ここでそれを暴き立てようとは思わない。必要としても、その役目は自分ではないだろう。
所詮この身は仮初の稀人。傷を癒せる者は、より相応しい人がいる。


進めば進むほど棘が刺さる茨の選択。
小さな身体に待ち受けるのは無数の傷。肉を裂き、心を抉る戦争の渦。
飲み込まれた嵐に全身全霊を震わせても―――弱々しく、灯る光。
いつまで残るとも知れず、だが決して消えることのない輝き。
そこに俺は、寄る辺を見た。

己が思い描く理想の強さと少女は言う。
だが俺の理想とするものは、いったいなんだったのか。

我が生涯に後悔はなく、絢爛に満ちた人生は誇りであると確信している。
ただひとつだけ、残ったものが、否、生まれた思いがあった。
誰かのものではない、永らく失われていた、他ならぬ俺自身から生じたひとつの『願い』。
もし、二度目の生があるのなら。
ひたむきに、我が志を追いかけたい。
胸にある、何かの餓えを癒したい。

正義を信じて、握り締めて。
夢見た理想を持つ君と共に歩んで行こう。










月の上。世界を支える大樹の頂。
戦姫の絶唱に乗せて、ニーベルングの歌は奏でられる。





 ◆





【クラス】セイバー
【真名】ジークフリート
【出展】Fate/Apocrypha
【性別】男性
【属性】混沌・善

【パラメーター】筋力B+ 耐久A 敏捷B 魔力B- 幸運E 宝具A

【クラス別スキル】
対魔力:-
 「悪竜の血鎧」を得た代償によって失われている。

騎乗:B
 騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、
 魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。

【固有スキル】
黄金律:C-
 人生において金銭がどれほどついて回るかの宿命。
 ニーベルンゲンの財宝によって金銭には困らぬ人生を約束されているが、
 幸運がランクダウンしている。

仕切り直し:A
 戦場から脱出する能力。
 不利な状況から脱出する方法を瞬時に思い付くことができる。
 また、不利になった戦闘を戦闘開始ターン(1ターン目)に戻し、技の条件を初期値に戻す。

竜殺し:A
 ドラゴンスレイヤー。地上の最強種を倒した者の称号。
 竜種、ないし竜の因子を持つ相手に与えるダメージが増加し、相手から受けるダメージが減少する。

【宝具】
『悪竜の血鎧(アーマー・オブ・ファヴニール)』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
 ――悪竜の血を浴びた逸話を具現化した宝具。
 Bランク相当の物理攻撃及び魔術を無効化する。
 Aランク以上の攻撃も、Bランク分の防御数値を差し引いたダメージとして計上する。
 正当な英雄から宝具を使用された場合は、B+相当の防御数値を得る。
 ただし血を浴びていない背中は防御数値が得られず、隠すこともできない。
 たとえば全身を覆う防御魔術をかけても、背中の部分だけ露出してしまう。

『幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1~50 最大捕捉:500人
 竜殺しを達成した呪いの聖剣。
 原典である魔剣『グラム』としての属性も併せ持っており、
 手にした者によって聖剣、魔剣の属性が変化する。
 柄の青い宝玉には神代の魔力(真エーテル)が 貯蔵・保管されており、
 これを解放すると黄昏色の剣気を放つ。
 平均的な対軍宝具と比べても溜めの速度が圧倒的に早いのが特徴。
 それでもサーヴァントとして現界した際に特質はかなり欠落しており、
 生前はそれこそ、息をする速度で剣気を撃ち放っていたという。
 また竜殺しの逸話を持つため、竜種の血を引く者に追加ダメージを負わせる。

【人物背景】
竜殺しを成し遂げた英雄。
自らの願いを持たず、他人の多くの願いを叶えた男。


【サーヴァントとしての願い】
己の信じるものの側に立ち、そのために戦おう。
今は、立花響の信じる道と共に。



【マスター】立花響
【出典】戦姫絶唱シンフォギアG
【性別】女性
【令呪の位置】左手の甲

【マスターとしての願い】
聖杯戦争のマスターと話し合い、傷つけ合うことなく戦いを終わらせたい。自分が叶えたい願いはない。
……ない、はずだ。

【weapon】
『シンフォギア』
装着者の旋律―――歌により力を引き出す、聖遺物から作られたFG式回天特機装束。
認定特異災害ノイズに対抗しうる唯一の装備。
響が所有するのは第三号聖遺物、北欧の軍神オーディンの槍ガングニール。
名の通り本来は槍を主武装とするが、『誰かと手を繋ぐ』という響の意志から、
武器を用いず徒手空拳のスタイルへと変化している。

【能力・技能】
『融合症例』
体内(心臓)に聖遺物を取り込んだ者が至った特殊体質。新人類とも呼称される。
ガン細胞のように広く侵食したガングニールの破片は響の肉体を変質させ、
爆発的なエネルギー出力や特異な回復力(四肢再生)等、常人を大きく逸脱したパワーの源として機能している。
……当然、それは人間には耐えられない変質だ。
体に竜を飼うようなもので、いずれ内から食い破られる運命の時限爆弾でしかない。
仮に耐えきれたとしても、そこにあるのは人の形をした、人ならぬ何かである。

『格闘技・混合型』
風鳴弦十郎から師事した格闘技を習得。
複数のジャンルを混合した……というか、古今のアクション映画の動きを基にしたごった煮(ミラクル)拳法。
しかし弦十郎のスペックが段違いなためか、憲法に抵触しかねないレベルにまで達している。
融合症例の恩恵(弊害)を受ける響の能力もまた、人間離れした領域にある。

【人物背景】
月落としを防いだ少女。
世界を救ったが、決して英雄ではない少女。


【基本戦術、方針、運用法】
積極的に事態に介入しておいて、各陣営との対話をスタンスとする少々特異な方針を持つ。
ただ無抵抗主義ではなく、いざとなれば全力パンチをぶちかましていく。
既にそこそこ戦いを経験してるため、無駄に認知度が上がってる可能性がある。

性能面でいえば、マスター、サーヴァント共に上級。どちらも積極的に攻めていけるスペックを誇る。
特にマスターの響は技量こそ未熟だが、瞬間最大火力に限っていえばサーヴァントに比肩する。
ジークフリートの特徴はその固さで、守りに入ると動く城塞ばりの堅牢さ。
常に飛び込みがちな響とはそういう意味で相性はいい。
魔力の値が上がってるのはマスターからの過剰供給のため。ただ安定しないのでマイナス判定がついている。
あまりに有名な背中の弱点だが、そもそも背中を取られた時点で致命傷なのであまり気にする必要もなかったりする。
何よりジークフリートはこの弱点を恐れていない。加えてマスターの援護もあるのだから。

能力だけ見れば隙の無い二人だが、諸々の面で大きな穴がある。
中でも響の融合症例による暴走、自滅は最大の爆弾。最悪の災厄が起こりかねない。
また精神面でも決して問題がないとはいえない。心の傷を内にしまい込みがちな響と、
求められない限り応えられないジークフリートでは、親交を築けてはいるが、本質的な信頼関係には至れていないのだ。

二人が聖杯に引き合わせられたのは、互いに『自分に欠けているもの』を持つ者だからだ。
響は"理想の強"さをジークフリートに見て。
ジークフリートは"理想の姿"を響に見ている。
それに気付き、手を伸ばし合い、互いの力を束ね合わせた時こそ、無敵の旋律は鳴り渡る。
即ち相互理解―――バラルの呪詛を打ち破ることが、二人の最大の鍵である。