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空戦 -DOG FIGHT- ◆nig7QPL25k


 学術地区に存在する、一般学生向けの中学校。
 魔術都市にこのような学校があるのを、意外に思う人間もいるかもしれない。
 しかし魔術師の街とはいえ、全員が魔術を使えるわけではないのだ。
 たとえば才能に恵まれなかった者。兄弟に継承者の座を譲り、自身はそうでない人生を送ることを選んだ者。
 あるいは一般人でありながら、たまたま魔術師に嫁いだ末に、このユグドラシルへ移り住むことになった者。
 故に魔術都市においても、魔術が使えない人間というのは、決して珍しい存在ではないのだ。
 だからこそ、それに合わせた職業や、教育機関というものも、この街ではきちんと用意されていた。

「おはよう、さやかちゃん」

 鹿目まどかも美樹さやかも、そんな一般学校に通う、魔術を使えない中学生だった。
 少なくとも、表向きには。

「おはようまどか。昨日は本当に大丈夫だった?」
「えーっと、うん、大丈夫。ちょっと危なかったけどね」

 騒がしいホームルーム前の教室の中、二人は前日の一件について話す。
 純粋に心配してということもあるが、もちろんさやかの側にとっては、理由はそれだけには留まらない。
 事故から生還したというのが、本当に起きた出来事なのか。
 彼女は襲撃を免れた、サーヴァントのマスターなのはではないのか。
 会話の中で、確かめようとしたのだ。戦うことができずとも、せめてそれだけでも知るためにも。

「あっ、鹿目さんおはよー」
「ねー昨日どうしたの? 学校にも連絡なかったって聞いたけど」
「あー、えっとね、その……」

 やがて他の学生達が、まどかが登校したことに気付き、口々に昨日の欠席の理由を問う。
 事故という鮮烈なワードは、子供達の関心を強く刺激し、あっという間に人だかりができた。
 一応会話に矛盾がないか、聞き耳を立て確かめることはできる。
 だがこうなると、踏み込んだ質問を、さやか自身が行うことはできなさそうだ。

(………)

 そんなことを考えながら、セイバーのサーヴァント――レオン・ルイスは、その光景を傍観していた。
 隣の男子の机の上に、霊体化した不可視の体で、無造作に腰を下ろしながら。

(サーヴァントの気配は……ない)

 念のため、周囲を見回してみる。
 相手が霊体化していれば、その気配を察知することは困難だ。それは理解している。
 しかし同じ教室に、自分と同じサーヴァントが、息を潜めている可能性があると考えると、どうしても意識せずにはいられなかった。
 この温厚そうな少女がマスターであるなら、いきなり派手な行動を起こすことはないはずだ。そう信じたい。

(にしても……)

 そうして教室を見渡していると、別のことが気になってくる。
 具体的には、数十もの席が並んでいる、この学校の教室というものがだ。
 レオンの暮らした時代には、こんな大掛かりな教育機関などなかった。
 中世ヨーロッパにおいては、学校とは職人や僧侶を育てるための教室であったらしく、現代とは大きく意味合いが異なっている。
 らしい、というのは、他ならぬレオン・ルイス自身が、学校に通ったことがないからだ。
 彼自身は特殊な事情を抱えてはいたが、彼のように学校に通えない子供や、さやかの歳で働いている子供ですらも、全く珍しいものではなかった。

(変われば変わるもんだな)

 それが良い変化なのか、悪い変化なのかは分からない。現代は自分の時代に比べて、何かと面倒になっているらしい。
 それでも、読み書きや算数を分けけ隔てなく、誰でも学べるというのは、羨ましい時代だと思った。
 父親に習っていた自分とは、大違いだ。
 そんなことを考えながら、レオンは賑やかな学び舎を、一人静かにぐるりと見渡す。

(……そういえば、アイツがいないな)

 そうしていると、ふと、あることに気がついた。
 まどかと入れ替わるようにして、姿が見えなくなった人間がいるのだ。
 昨日さやかが話しかけ、まどかのことを尋ねていた、車椅子の少女がいない。
 確か、あの娘の名前は――


《そうですか……やっぱり、登校していましたか》

 東郷美森が、バルクホルンから念話を受け取ったのは、キャスター達の元を離れて、しばらくしてからのことだった。
 学校には向かわず、不審な建物を調べてみたが、もしかしたらその間に、鹿目まどかが姿を現しているかもしれない。
 そう考え、自らのサーヴァントを先行させて、学校の様子を探らせていたのだが、どうやら当たりだったようだ。
 まどかは無事に登校し、美樹さやから級友と共に、教室で授業を受けている。
 突如姿を消した時には、マスターでないかと疑ったのだが、無事に生きて帰ったからには、その可能性は高そうだ。

《どうする? 仕掛けるにしても、こんなところで、派手に行動を起こすわけにもいかないだろう?》

 バルクホルンが指示を求めてきた。
 最後の確認をするのなら、やはり直接攻撃を仕掛けて、出方を伺うのが分かりやすい。
 だがそれには、相手サーヴァントからの反撃という、大きなリスクがつきまとう。
 おまけにマスターでなかった場合、悪目立ちするだけに終わるため、これまた損だけが残るのだ。
 さて、これをどうするか。この場は大人しく見逃すべきか。

(そういえば……)

 そこまで考えた、その時。
 それらのデメリットを解消する、便利なアイテムがあることを、東郷美森は思い出した。
 ポケットに入れていたキャスターの宝具――『機界結晶(ゾンダーメタル)』を取り出す。
 三つしか持っていないこれを、いきなり使ってしまうのは、もったいないことかもしれない。
 それでも、使うべき時は間違いなく今だ。第一なくなったものは、また彼らに会って、ねだればいいだけの話だ。

《渡したいものがあります。一度戻ってきてください》

 東郷はそう決断し、バルクホルンへと念話を飛ばす。

《……あれを使うんだな》

 アーチャーのサーヴァントからの返事は、ほんの一拍だが、遅れていた。

《その通りです》
《本当にいいのか?》

 問いかけは先の同盟を非難したような、鋭い口調のものではない。
 人の道を外れた行いをする自分を、気遣っている声色だ。
 たとえNPCであっても、その尊厳を穢す行為は、勇者の使命とは相反するものだ。
 本当にそんなことをしていいのかと、心配してくれているのだ。

《構いません。今更後戻りはできませんから》

 その心遣いは、嬉しいと思う。
 英霊の魂を受け継ぐサーヴァントが、精霊とは違うものであることを、ようやく実感できたとは思う。
 されど、今はそれを受け入れるわけにはいかない。
 東郷は不退転の決意と共に、この場に銃を携えているのだ。
 使えるものは全て使う。良心などいくら引き裂けても構わない。
 そうしなければ、結城友奈を救うという、己が大望は果たせないのだ。

《合流地点を指定します。すぐにそこまで来てください》

 令呪はもったいないから使えない。車椅子での移動速度には限りがある。
 であれば、ストライカーユニットとやらを履いているバルクホルンの方に、戻ってきてもらう方が手っ取り早い。
 指示を出すと、東郷美森は、指定した場所へと進み始めた。
 最愛の仲間たちを救うための、外道の道を歩むために。


(不甲斐ないな、今の私は)

 ゲルトルート・バルクホルンは思う。
 日陰の壁にもたれかかりながら、アーチャーのサーヴァントは思考する。
 今の自分の行動の、どこに正義があるのだろうと。
 少女一人止められない自分は、ひどく情けなく見えるのだろうと。
 同じカールスラント軍の友人であれば、もっと器用にたしめられたかもしれない。
 リベリアンの悪友からは、嘲笑われてしまうかもしれない。

(せめて彼女の目的だけでも、聞き出すことができたなら)

 後戻りはできないと、彼女は意味深に口にしていた。
 その心さえ分かったならば、声をかけられたかもしれない。
 手段を選ばず、性急に、勝利と聖杯を求める東郷を、諭し導くことができたかもしれない。
 それでも、それはかなっていない。未だ彼女はその心を、固く閉ざしたままでいる。
 悲しいかな、不器用な性分の自分では、その扉の内側を、察してやることができない。
 何と声をかけるべきか、どうすれば止まってくれるかも、今のバルクホルンには分からない。

「ゾンダァァァ……」

 呻くような声が聞こえる。
 蠢く金属の光沢が見える。
 それが学校の校舎裏へと戻った、バルクホルンを我に返らせる。
 既に作戦準備は整ってしまった。後は彼女が指示を出すだけだ。
 今更なかったことにしようにも、『機界結晶(ゾンダーメタル)』を植えつけたNPCは、もはや元には戻らない。

(そうだ)

 今は進むしかないのだ。
 それ以外の道を見つけられないまま、ここまで来てしまったのだ。
 であれば、迷いも躊躇いも捨てろ。これしかできないというのなら、今はそのことに集中するのだ。

「――行け」

 短く放った命令が、作戦開始のコマンドだった。
 バルクホルンの指示を受けた、紫色のゾンダー人間は、建物の入り口へと進み始めた。
 全ては命令を実行するために。
 この学校を襲撃し、盛大に暴れ回ることで――鹿目まどかの正体を、白日のもとに晒させるために。


「きゃぁあああっ!」

 八方から響き渡る悲鳴と、押し合いへし合いの人混みの中。
 思ったより派手好きな奴がいたものだと、暁美ほむらは思考する。
 得体の知れない化物が、隣のクラスに現れた。
 その事実はジュニアハイスクールを、一気にパニックへと陥らせていた。

《セイヴァー、まどかのことはマークしている?》

 まさに隣のクラスにいたまどかのことは、混乱の中で見失ってしまった。
 姿を隠しているサーヴァントへ、ほむらは念話で問い掛ける。

《大丈夫よ。見えているわ》
《ならそのまままどかを守りなさい。私はこの騒動を起こした犯人を探す》

 美国織莉子の返事を聞くと、ほむらはそのように指示した。
 現れたのは怪物だそうだ。明らかにサーヴァントではない。
 であれば、その怪物を操るサーヴァントが、学校のどこかに潜んでいるはずだ。
 そしてそのマスターも、恐らくは同じように身を隠している。
 事を起こした何らかの意図の下、手下へ的確な指示を出すために。

《構わないけれど、しばらくこのまま、様子を見させてもらっていいかしら?》

 反抗ではなく、意見具申。
 それならば令呪の制約の外ということか。

《何故?》

 思わぬ織莉子の提案に、ほむらは人混みを押しのけながら、眉をしかめてそう尋ねる。
 それはつまり、まどかを助けず、放置しておくということだからだ。

《彼女が死亡する未来は、未だ予知できていない。であれば、鹿目まどかの死の未来を、誰かが食い止めているということになるわ》
《……まどかの家にいたサーヴァントね》
《彼が現れるというのなら、今後のためにもその力を、見せてもらいたいと思わない?》

 一理ある。
 まどかのサーヴァントの力は未だ未知数。彼女を守り抜く上で、どの程度あてにしていいものかは不明瞭だ。
 彼が脅威を払うというのなら、その戦いの瞬間を織莉子に見せ、対応を考えさせるのも手ではある。
 理屈の上では、間違いなくそうだ。

《……好きにしなさい》

 もっとも、まどかを囮に使っているようで、心理的には最悪な気分だったが。
 不承不承ながらも了承した、暁美ほむらの顔立ちは、随分と不愉快そうに歪んでいた。


「ゾンダァァァッ!」

 金属の体が不気味に光る。
 意味も分からない雄叫びが、一層の恐怖心を煽る。
 おぞましい気配を纏うヒトガタ崩れが、爛々と光る瞳でこちらを睨む。
 血だまりの中心で蠢いているのは、人間大の怪物の姿だ。
 美樹さやかの教室に現れ、教師を嬲り殺した紫の魔物だ。
 それは突然に忍び寄り、教室の扉を叩き割り、二時間目の授業に乱入してきたのだ。

「くっ……!」

 恐慌に包まれた教室の中、さやかは敵の姿を睨む。
 誰が何のために呼び寄せた、いかなる魔物であるのかは知らない。
 だがその誰かというものが、聖杯戦争の参加者であることは、間違いないと断言できた。

「なんだよっ、なんだよこれぇ!」
「ひぃぃっ!」

 NPC達が騒ぎ立てる。
 混乱の渦中に落とされた教室で、紫の怪物が蠢く。
 どうする。どうすればいい。
 ここにいる者のほとんどはただのデータだ。だがもしかしたら、予選を通過できなかった、本物の人間もいるかもしれない。

「あ、ああ……!」

 何より壁際で竦んでいるまどかは、人間である可能性がかなり高い。
 どうすべきだ、美樹さやか。
 このままでは遠からず全滅だ。本物の人々も、鹿目まどかも、恐らくは等しく食い殺される。

(やっぱり、ここは……!)

 抗する術は魔法しかない。
 ソウルジェムの魔力を解き放ち、変身して斬りかかるしかない。
 ここで正体を明かせば、程なくして正体がばれるだろう。そうなれば聖杯戦争を戦う上で、不利になることは間違いない。
 だが、これしか手がないのだ。自分の命可愛さに、友達を見殺しにできるほど、さやかは薄情ではないのだ。
 左手の指輪を光らせる。
 内なる魔力を渦巻かせる。
 魔法少女の本体にして、力の源たるソウルジェム。
 命を対価に奇跡を具現し、結晶化させたその宝石が、光と共に解き放たれる――

《――待て!》

 と思われた、その瞬間。
 斬――と鋭く音が鳴った。
 念話の声と重なって、視界の中心で白い衣と、赤い炎が舞い踊った。
 赤は燃える炎の色。
 そして男の髪の色。
 振り向く瞳もまた赤く。猛る炎のごとく熱く。

「セイバー……!」

 そうだ。すっかりと忘れていた。
 今の自分は一人ではない。一人きりで戦っているのではない。
 誰一人仲間のいない世界でも、新しくできた仲間がいる。
 最優のクラスと共に現界した、黄金騎士のサーヴァント。
 燃える剣騎士、レオン・ルイス――今はその力が、共に在る!


《さやかは何もするな。ここは俺が押さえる》
《えっ!? それは……》
《今なら俺の顔が割れただけで済む。このまま身を隠していれば、お前の正体は隠し通せるはずだ》

 主へと念話を送りながら、レオンは油断なく気配を探った。
 この学校内に蠢く気配は、今の一つきりではない。
 同じ邪気を纏った魔物が、まだ他の学生を襲っている。
 それがいつ美樹さやかを捕捉し、襲いかかってくるか分からない。
 であれば、ここは戦うべきだ。この刃で全てを斬り伏せるべきだ。

「早く行け! 学校の外まで逃げろ!」

 怯える学生達に叫んだ。
 言うやレオンは跳躍し、教室を出て廊下を走った。
 霊体化によって実体をなくし、人混みの中を駆け抜ける。
 人の波にも臆することなく、姿なき疾風へと変わる。
 魔力の気配はこの下からだ。
 ねじれた階段を下ることなく、三階の廊下から飛び降りると、見事に二階へと着地した。

「ゾンダァァァ!」

 姿を見せたその瞬間、現れたのは紫の魔物だ。
 飛びかかる鋼鉄の亡者に、レオンは刃を振りかざす。
 突撃の勢いを利用した剣は、微動だにすることもないまま、魔物の肉体を両断した。
 ソウルメタルによって鍛え上げられた、心の映し身、魔戒剣。
 守りし者としての修練を積み、曇りなき信念で固められた刃にとっては、鋼であっても土くれ同然。
 塵となり消えた敵には目もくれず、レオンは次なる獲物を探る。
 研ぎ澄まされた神経の前では、たかだか使い魔崩れの動きなど、赤子のそれも同然だ。

(こいつらを操っている奴は、どこだ)

 三体目の怪物を捉えながら、レオン・ルイスは思考する。
 この程度の連中ごときが、サーヴァントであるはずがない。
 であれば、これはただの使い魔だ。操っている本体が、この近くのどこかにいるはずだ。
 どこかで戦いを見ていた奴が、さやかの命を狙ってきたのか。
 あるいは自分達と同じように、まどかに目をつけていたのか。
 斬り伏せた三体目の魔物を、踏みつけ床へと押しつけた瞬間。

(――そこか!)

 突如として、迫る気配を感じた。
 何もないところから現れた気迫だ。これまでとは比較にならない殺気だ。
 セイバーとしてのレオンに与えられた、高ランクの直感スキルは、襲撃者の存在を見逃さなかった。
 刃を携えて振り返る、その先に実体となって現れたのは――

「うぉぉぉりゃあああああッ!」

 パンツだ。
 否、女性の臀部だ。
 こちらに尻を向けた女が、怒号と共に突っ込んでくる。
 一瞬の光景だ。ツッコミすら浮かんでこなかった。
 その動作が、脚部の推進装置を逆向きにして、急制御をかけるためのものだったことにも、レオンは気付くことはなかった。
 理性で状況を受け止めるより早く、女がこちらに放った何かが、炸裂し爆音と業火を生じた。


(あれが本当に、奴のサーヴァントなのか?)

 あまりにも呆気無い幕切れだ。
 ロケットランチャーの爆炎を見ながら、バルクホルンは思考する。
 姿を現した白衣の剣士は、それほど強そうな相手ではなかった。
 あれが鹿目まどかを救い、本戦へと進ませた力だとは、到底信じられなかった。
 この程度の爆撃で、為す術もなく吹っ飛ぶようなら、それこそ労力の無駄というものだ。
 東郷美森の指示通り、『機界結晶(ゾンダーメタル)』全てを使う価値が、あの男にあったとは思えない。

(まぁいい。これで任務は完了だ)

 思考し、パンツァーファウストの発射筒を引っ込める。
 あのサーヴァントは明らかに、鹿目まどかの教室に姿を現した。
 戦闘能力がどうであれ、彼女はサーヴァントを失い、聖杯戦争から脱落したのだ。
 あとは姿を見られる前に、とっとと退散してしまおう。

「……っ!?」

 そう思考した、瞬間だった。
 彼女の周囲を取り巻く空気が、まばたきの間に一変したのは。
 振り返り視線から逸れた炎が、ごうごうと渦を巻き始めたのは。

「これは……!?」

 我知らず、ゲルトルート・バルクホルンは呟く。
 うねる真紅の光の向こうに、ただならぬ何者かの存在を感じる。
 その気配は敵を射殺し、竦ませる殺気などではない。
 相対する者に畏怖を抱かせ、ひれ伏させる神々しき威容だ。
 刹那、赤は金へと変わった。
 突風と共にほとばしる光が、熱気をことごとく吹き飛ばしたのだ。

「――フンッ!」

 豪腕が灼熱を吹き飛ばす。
 翻るマントが炎を払う。
 燃える業火の真っ只中から、姿を現したのは、黄金。
 目もくらむ太陽のごとき甲冑を、その身に纏った剣の騎士だ。
 その堂々たる威容は、さながら神話の英雄譚から、そのまま飛び出したかのようであり。
 されども頭部をすっぽりと覆った、人狼のごときフルフェイスヘルムのみが、獰猛な眼光を放っていた。

「それがお前の本当の姿か」

 狼の瞳は、赤く燃える。
 それは先程爆弾を浴びせた、恐らくはセイバークラスであろうサーヴァントの真紅だ。
 恐らくは自分のそれと同じ、ステータスをアップさせる類の宝具だろう。
 事実として、黄金騎士の纏うオーラは、一瞬前に感じたそれとは、桁外れのものになっていた。
 ただ鎧を着ただけではない。そんな生やさしいものではない。
 油断をすれば呑まれそうな――否、その顎によって食い千切られそうな。
 強く気高く猛々しく、迫り来る全てを退ける。まさに最優の剣騎士に相応しい、堂々たる風格を身に纏っていた。
 これが神代の時代を戦い抜いた、古の英霊の威容というものか。
 長く戦ってこそきたものの、自分など未だ若輩であることを、否が応にも思い知らされる。

「そういうお前の方こそ、アイツらを操っていた奴で間違いないな」

 言いながら、金のセイバーは剣を構える。
 右手で刃を正面に向け、左手を沿わせる独特な構えだ。
 刃金と黄金の鎧が擦れ、細かな火花が虚空に散った。
 ぎりぎりと聞こえる金属の音は、獣の威嚇のようにも聞こえた。

「さてな。自分で確かめてみることだ」

 冷や汗を感じた。
 されどにやりと不敵に笑った。
 呑まれれば負けだ。バルクホルンは己を律し、両手に愛用の機関銃を生じる。
 大型機関銃、MG42S。本来ならばウィッチであっても、二丁で用いるような代物ではない。
 されど身体強化を得意とする、ゲルトルート・バルクホルンは、それすらも難なく実現してみせる。

「………」

 空気が、見る間に固まった。
 互いにそれぞれの得物を構え、油断なく睨み合い、間合いをはかる。
 先に動くのはどちらだ。相手はどのような手で来るか。それに対処することはできるか。
 思考が交錯し、緊迫が張り詰め、びりびりと振動する錯覚すら覚える。

「――ッ!」

 先に動いたのはセイバーだ。
 床を蹴り、本物の狼のように、一挙に間合いを詰めてきた。
 見るや否や、バルクホルンも動く。前進する敵とは逆に引き下がる。
 アーチャーの武装は遠距離用だ。剣の間合いに入られては、その威力を発揮することはできない。
 トリガーを引き、弾丸を放つ。
 だだだだだっ――と途切れることなく、殺意の銃弾が遠吠えを上げる。
 異なる世界の戦場においては、電動鋸とあだ名され、恐れられた名銃だ。
 破壊力も連射性も申し分ない。その弾丸は人間はおろか、魔獣ネウロイであったとしても、一瞬で蜂の巣へと変える威力を有する。

「オォォォォ――ッ!」

 その、はずだった。

(凌ぐのか!? この弾丸を!?)

 されど、セイバーは止まらなかった。
 剣をかざし、鎧で受け止め、黄金の騎士はなおも走った。
 獰猛な獣と化したサーヴァントは、迫り来る必殺の魔弾ですらも、まるで意に介さず突っ走る。

「ダァッ!」

 壁が迫り、減速したバルクホルンに追いついた金狼は、遂にその牙を振り下ろす。
 荘厳に輝く黄金の剣は、身をかわすアーチャーの背後の壁を、轟音と共に爆砕した。
 斬ったのではない。砕いたのだ。
 切り傷をつけるどころか、完全に刃を貫通させて、壁を粉々に吹き飛ばしたのだ。

(ここでは埒があかん!)

 身を立て直しながら、バルクホルンは思う。
 サーヴァントとの交戦は初めてではない。
 だが、さすが本戦まで勝ち残った相手というべきか。その時に危なげなく倒した敵とは、まるで別次元の強さだ。
 あれをシールドで受け続けるのにも、閉所でかわすことにも限度があるだろう。
 屋内という戦場が大きなハンデだ。
 なれば、場所を変えるべきだ。

「ぬぉおおおっ!」

 雄叫びと共に、銃弾を放つ。
 マシンガンの咆吼とともに、後退ではなく、敢えて突っ込む。
 単純な攻め手だ。通じるはずもない。当然セイバーは剣を振りかざし、弾丸のことごとくを捌いてのける。

「りゃあッ!」
「!?」

 だが、本命はそれではない。今のはあくまで牽制なのだ。
 銃を消し突っ込むバルクホルンは、敵の脇腹へと飛び込む。
 掴みかかったタックルの姿勢で、なおも推進力を増大させる。
 光り輝くのは魔力の光だ。固有魔法・身体強化を、全開で発揮した証明だ。
 不意打ちに面食らったセイバーは、呆気無いほどに押し出され、虚空へとその身を放り出される。
 そうだ。虚空だ。
 ゲルトルート・バルクホルンの狙いは、敵ごと廊下の外へと飛び出すことだ。
 大きな窓ガラスをかち割り、躍り出た空間は、すなわち空。
 宙を舞う術を持たないセイバーは、重力の魔の手に引きずられ、校庭へと見る間に落下していく。

「フン!」

 壁面に剣を突き立てた。
 それが勢いを殺すブレーキになった。
 腕力で重力を強引に殺し、セイバーはその身を減速させて、粉塵を纏いながら着地する。
 剣を引き抜き、埃を払い、すぐさま戦闘態勢へと戻った。
 再び武器を取り出して、眼下を睨むバルクホルンと、赤い瞳が向き合った。

(もう言い訳は許されん)

 開けた空中はバルクホルンの戦場だ。
 逆に言えば、これで負ければ、完全に実力での敗北ということになる。
 銃と共に覚悟を携え、仕掛けた得意の空中戦。
 果たして黄金の英霊は、この状況に対して、どう出るか。






「面白い。この状況、利用させてもらうとしよう」






「はあ、はぁっ……!」

 混乱の最中、まどかは走った。
 名前を呼ぶさやかとははぐれてしまったが、それでも必死に出口を目指した。
 ここには守ってくれるアーチャーがいない。この身一つで逃げるしかない。
 サーヴァントのマスターであったとしても、鹿目まどか自身には、戦う力など何一つないのだ。
 できることと言えば、こうやって、敵から逃げることくらいしかない。
 自分のために戦ってくれる、あの黄金のサーヴァントの、足を引っ張らないためにも。

「うわぁああっ!」

 前方から少年の悲鳴が聞こえた。
 すぐさまそれは血しぶきへと変わった。
 下駄箱へと向かう曲がり角から、姿を現したのは、新手だ。

「ォオオオオ……!」
「えっ……!?」

 その姿は、怪物ではない。
 鎧を纏い、瘴気を放つ、中世の兵士達のような軍団だ。
 黒々としたオーラを纏い、呻き声を上げるその姿からは、生気というものが感じられない。
 ホラー映画に出てくるゾンビ――装いはだいぶ違っているが、雰囲気はあれに近いのか。
 先ほど校舎に現れたものとは、どこか違うものを感じる相手だ。
 されど命を狙うべく、姿を現したことだけは、間違いなく共通していると言えた。

「あ、ああ……!」

 ここまで来ておいて、出てくるのか。
 あと一歩で校舎から出られる、そんなところで阻まれるのか。
 数が多い。十人くらいはいるかもしれない。これでは逃げることができない。

「グォオオオオ……!」

 敵はおぞましい唸りを上げて、じりじりと間合いを詰めてくる。
 もはやここまでか。
 これで何もかも終わりか。
 大切な家族達のところへも戻れず、こんな得体の知れない地で死ぬのか。

――すぐに俺を呼んでくれ。たとえ令呪を使ってでもな。

 胸に、蘇る声があった。
 それはあの夜にそう言ってくれた、心強い男の言葉だ。
 そうだ。まだ手は残されている。たった三回しか使えない手だが、今使わずして何とする。
 こんなところでは死ねない。絶対に帰らなければならない。
 左手の甲に光が走った。三画のエンブレムの一つが消えた。
 絶対に生きて帰る。そのために力を貸してくれる人がいる。
 まどかは強く決意を固めた。ほとんど悲鳴に近い声で、その名をめいっぱいに叫んだ。

「来て――アーチャーッ!」

 瞬間、視界を金色が覆った。
 ほとばしる黄金の閃光は、幾千幾万の拳撃となって、死霊の兵士達をなぎ倒していた。


 空を飛べるという利点。
 それは単に、移動が楽になるだとか、そんな低次元なものではない。
 地上の者は縦と横の、二次元的な行動しか取れない。
 たとえ跳躍したとしても、それもただ上に跳ぶだけだ。二次元よりも更に狭い、直線的な動きでしかないのだ。
 対して空を飛ぶ者は、縦横のみならず高さすらも、自在にコントロールすることができる。
 つまり陸の者が地を走るよりも、更に行動の自由度が高いのだ。
 三次元と一次元。その動きの自由度の差は、戦闘においては絶対的なものと言えた。

「オォォォッ!」

 レオン・ルイスが跳躍する。
 黄金騎士ガロが天へと躍る。
 振りかざす牙狼剣の一閃は、触れれば万物を両断する、文字通り必殺の一撃だ。

「っ!」

 されど、それは当たればの話。
 一直線の攻撃であれば、回避するのは容易いこと。
 ゲルトルート・バルクホルンは、最小限の動作で難なくかわし、反撃の一打を叩き込んでくる。
 構えた銃口は大柄な、MG151のもの。もはや歩兵の武器にすらとどまらない、戦闘機向けの機関砲だ。

「ガァッ!」

 ばりばりと轟く弾丸を浴びては、魔戒騎士であってもひとたまりもない。
 脇腹にクリーンヒットしたそれは、太陽のごとき光であっても、容易に地面へと叩き返す。
 そうだ。ガロは太陽そのものではない。空を舞うようには生まれていないのだ。
 土埃を上げ転がりながらも、レオンは何とか立て直し、身を起こして片膝をつく。

「これもだ!」

 地上に向けて雄叫びが響いた。
 バルクホルンの追撃は、先ほど放ったものと同じ爆弾だ。
 パンツァーファウストという正式名も、レオン・ルイスには知るよしもない。
 現代に生きていない黄金騎士は、予備知識を与えられているだけだ。それ以上のことは分からなかった。

「フッ!」

 白煙を上げて迫る爆弾を、バックステップにて回避。
 熱風にばたばたとマントを揺らし、炎の先の敵を睨む。
 厄介な敵だ。現代の銃というものが、これほどの性能の武器に変貌していたとは。
 その上相手は空を飛べる。遠距離戦に長けた武器を、こちらの手の届かない位置から、自由自在に放ってくる。
 自分にないものを数多持った、疑いようもない難敵だった。

(翼の鎧は……使えないか)

 一瞬、炎の翼を思う。
 かつてメンドーサとの戦いで用いた、金と銀のガロを回想する。
 あの姿になって戦えたならば、恐らくはこれほど苦戦することもなく、逆転することができただろう。
 だが、それはかなわない。翼を纏い飛ぶためのピースが、今のレオンには欠けている。

(やっぱり、あの鎧はアイツのものだ)

 歳の離れた弟を想った。
 ガロが空を飛ぶためには、もう一つの魔戒騎士の鎧――『絶影騎士・ZORO(ゾロのよろい)』が必要不可欠だ。
 されどその鎧は当の昔に、別の人間に受け継がれている。
 本来の継承者ではなく、あくまで借りただけのレオン・ルイスに、与えられているはずもない。

(無いものねだりはしてられない……か!)

 とはいえ、そのことを悔いている暇はない。
 手札が揃っていないのならば、ないなりに戦うしかないのだ。
 確かにアーチャーは素早い。空を飛ぶことに関しては、間違いなくスペシャリストだろう。
 翼を持たない魔戒騎士には、あれほど器用な立ち回りはできない。

(だが)

 だとしても、それがどうした。
 魔戒騎士の相手とは、条理から外れたホラーなのだ。
 奴らはあらゆる場所に息を潜め、舌なめずりし人を狙う。
 それは陸地のみならず、時には夜の闇空から現れ、深き水底からも現れる。
 陸も空も海ですらも、ホラーの戦場となりうるのだ。
 そして黄金騎士ガロは、それらをことごとく討滅してきた。
 あらゆる戦場での経験が、レオンには蓄積されているのだ。
 自身に空を飛ぶ術はない。
 されど空飛ぶ敵との戦いに関して、レオン・ルイスは百戦錬磨だ。

「ウォオオオッ……!」

 内なる魔力を炎へ変える。
 魔界の炎を解き放つ、烈火炎装と呼ばれる技だ。
 煌々と燃え盛る緑の炎が、ガロの鎧を眩く染めて、やがて牙狼剣をも包み込む。

(仕掛けてくるか!)

 もちろん、対するバルクホルンも、このまま終わるとは思っていない。
 あれほどの気配を纏う敵だ。必ず反撃をしてくるはずだ。その警戒は抱き続けていた。
 あの炎が何であるかなど、初対面のバルクホルンには、到底知るよしもない。
 だとしても、満を持して現れたあれが、状況打開の切り札であると、予想できない馬鹿でもなかった。


「ハァッ!」

 剣を振るう。
 炎が躍る。
 切っ先を照らしていた炎は、スイングに合わせて魔弾へと変わる。
 牙狼剣から放たれた炎が、そのまま飛び道具へと変貌して、バルクホルンへと襲いかかった。

「これしき!」

 だが、あくまでもそれだけのこと。
 見た目も大きさも派手だが、決してかわせない攻撃ではない。
 身をよじってすぐさま回避。そのまま反撃へと転じる。
 背後で爆裂の音が響いたが、そんなものには構うことなく、機関砲の射程距離を詰めた。

「フン!」

 対するレオンも跳躍する。
 黄金騎士ガロが加速する。
 互いに真っ向からの突撃。銃撃で返している暇はない。
 されどゲルトルート・バルクホルンは、まっすぐしか飛べない敵とはわけが違う。
 狙いをつけるより早く、容易く回避することが可能だ。現に牙狼剣は届かず、両者の影は交錯した。
 明後日の方向へ跳んだガロへと、バルクホルンは向き直る。今ならあの無防備な背中に、容赦なく銃弾を浴びせられる。

「何ぃっ!?」

 その、はずだった。
 こともあろうに、目の前の鎧は、空中で停止していたのだ。
 否、それはあくまでも一瞬のこと。ガロは次の瞬間には、再びこちらへと飛びかかってきた。
 回避不可能。間に合わない。シールドで受け止めるしかない。
 魔力の光を展開し、円形の盾として生成する。

「オォォッ!」
「ぐぁっ!」

 衝突の勢いは、ガロが勝った。
 なにしろフルスピードで突っ込んできたレオンと、ターンのために立ち止まったバルクホルンだ。
 踏ん張りも追いつかず、圧力を真っ向から食らったバルクホルンは、悲鳴と共に吹っ飛ばされる。
 それでも彼女は屈することなく、空のレオンをなんとか睨んだ。
 瓦礫の降り注ぐ空の中、マントをはためかす騎士を見据えた。
 そしてようやく目の当たりにしたのだ。奴が空中制御を可能とした、そのとんでもない理由と原理を。

(そんな馬鹿な!?)

 驚くべきことに、黄金の騎士は、空中の瓦礫を蹴って進んできたのだ。
 跳躍とは足場を蹴ることによって行われる。地面を蹴れば必然的に、上に向かってしか跳べない。
 しかし空中で他のものを蹴り、別方向へと跳躍すれば、空中でも軌道を変えることは可能だ。
 問題はそんな理屈など、ただの屁理屈でしかないということだが。

「ハッ!」

 それでも奴はやってのけた。
 降り注ぐ瓦礫を次々と蹴り、着実に角度を修正してきた。
 このままではまた激突する。同じように直撃をもらう。

「させるかぁぁぁっ!」

 そんなものはまっぴらごめんだ。
 あんなちまちまとした小細工ごときに、空のプロが追いつかれてたまるか。
 怒号と共に制御をかけて、落下する体を強引に操る。
 着地するスレスレで横向きに加速し、地表を滑るように飛行する。

「うぉおおおおっ!」

 マシンガンを斉射した。
 上空より迫る騎士を狙った。
 魔力によって強化された、大口径の弾丸は、瓦礫すら粉微塵に吹き飛ばす。
 たまらずガロも瓦礫を蹴って、横合いへと大きく回避する。
 立て直したバルクホルンは身を起こし、再び上空へと舞い上がった。
 今度こそ届きもしない高度へ、一直線に上昇するためだ。

「ヌォオオオッ!」
「なぁっ!?」

 それでも、レオンは止まらない。
 黄金騎士は引き下がらない。
 こうなると本当に獣のようだ。
 今度は何をするかと思えば、校舎の壁面に足を貼り付けたように、垂直に壁を走って上がってきたのだ。

(飛ぶ以外のことなら何でもアリか!?)

 これ以上相手の距離には付き合えない。
 必殺の覚悟でパンツァーファウストを取り出し、金の鎧目掛けて発射する。
 爆裂。炎上。煙が上がる。
 砕け散った校舎の壁が、無数の瓦礫になって宙を舞う。
 これでやったか。さすがに止まるか。

(――こんなもので!)

 それでも、奴はやって来る。
 黄金の魔戒騎士・ガロは、必ず立ち上がり舞い戻る。
 黒き煙を切り裂いて、金の光が天に躍る。
 壁を蹴って、瓦礫を蹴って、次々と飛距離を稼ぎながら、空の敵へと襲いかかる。
 金色に輝く騎士の鎧は、最強の魔戒騎士の証だ。
 誰よりも多くの敵を倒し、誰よりも多くの命を守る。遥かな古から受け継がれてきた、最も優れた騎士の証だ。
 それが止まることなど許されるものか。
 こんな程度の苦境ごときで、立ち止まることなどできようものか。

「ウゥゥオオオオオッ!」
「ぐぅ……っ!」

 遂に距離がゼロへと詰まる。
 振りかざされた金の剣が、バルクホルンのシールドへ叩きこまれる。
 吹き飛ばしはしない。離れない。
 緑の炎と魔力の光が、弾け合い眩いスパークを散らせた。
 このまま地上に落ちるまで押し込み、限界までシールドに負荷をかける。
 忌々しい盾をぶち破り、今度こそとどめを刺してやる。

(そんなこと……!)

 それが騎士の目論見だろう。
 だがそんなことを許すものか。
 襲いかかる衝撃の中、歯を食いしばりながら、バルクホルンは思考する。
 相手が神話を戦い抜いた、歴戦の英雄であったとしても、そんなことは知ったことか。
 こちらもカールスラントの、全ての民の命を背負い、命を懸けて戦ってきたのだ。
 これ以上私の戦場で、好き勝手をさせてなるものか。
 これ以上この大空を、我が物顔で走らせてたまるか。
 私を誰だと思っている。
 ゲルトルート・バルクホルンだ。
 帝政カールスラントの、誇り高き軍人なのだ。

「カールスラント軍人を――」

 瞬間、バルクホルンの姿が消えた。
 いいやレオンの視界の外へと、ふわりと身を翻したのだ。
 それは回避運動ではない。推進力をカットして、重力に任せて落下したのだ。

「何っ!?」

 驚愕にガロが目を見開く。
 三次元の戦いとは、何も上に昇るだけではない。
 高さを支配するということは、どこまでも上昇するだけでなく、時に下降することも意味する。
 敢えて自らの高度を落として、敵の懐へと潜り込んだ。
 飛び上がることしか知らないレオンには、思い至らなかった発想だ。
 これが空を戦うということだ。
 カールスラント軍のウィッチの、空の戦闘技術なのだ。

「――なめるなぁぁぁッ!」

 怒号と共に、光が走る。
 黄金騎士ガロの腹部を、痛烈な衝撃が襲う。
 それは弾丸の直撃ではない。伸びてきたのは大きな筒だ。
 バルクホルンの身の丈に、倍するほどの長さを有した、巨大に過ぎるほどの砲身だ。

「なっ――」

 レヌスメタルBK-5・50mmカノン砲。
 ウィッチの常識を軽々と凌駕し、本来ならバルクホルンすらも、まともに扱えない超巨大兵器。
 その重量を制御するには、通常のストライカーユニットでは、魔力の供給が追いつかない。
 されど今はゼロ距離だ。狙いをつける必要も、支え続ける必要もない。
 この一発だけを叩き込めれば、今はそれだけで十分だ。

「吹き飛べぇぇぇぇーッ!!」

 雄叫びが上がった。爆音が上がった。
 炸薬が弾け弾頭が飛び立ち、圧倒的な暴力が炸裂した。
 巨大砲塔のゼロ距離射撃は、過たずレオン・ルイスに直撃し、学校全体を轟音で揺らした。


「すごいわね……」

 東郷美森の感想だ。
 学校から少し離れた建物の上で、スナイパーライフルのスコープ越しに、戦況を見ていた東郷の言葉だ。
 勇者となり現場に追いつきこそしたものの、この戦闘には、彼女は参加していなかった。
 それはレオンがさやかを制止し、戦闘に参加させなかった理由と同じだ。
 考えなしに飛び込んでいれば、正体を晒すことになっただろう。
 そうなれば、学園に姿を現した、あの黄金の騎士のマスターに、命を狙われることになる。
 もっとも彼女は、レオンを従えるマスターを、鹿目まどかではないかと考えていたのだが。

(それでも状況によっては、加勢に出た方がいいかもしれない)

 戦況は全くの互角だ。
 いいや、切り札の50mmカノン砲を、無理やりに使っているからには、バルクホルンの方が不利かもしれない。
 もう一つの宝具を使わせる手もあるが、あれは正真正銘の奥の手だ。
 これほどの戦いの後で使い、いたずらに魔力を消耗するくらいなら、直接出向いた方がいい。

(ならば、ここは――)

 枝先に行かねば熟柿は食えぬ。
 リスクを恐れていたならば、勝てる戦いも勝てはしない。
 幸いにしてセイバーは、己のマスターを引き連れていない。こちらが先に出て二対一になれば、大きく有利になるはずだ。
 そう考え、学校へ接近すべく、スナイパーライフルを引っ込めようとした瞬間。

「……あれは……?」

 不意に、レンズに映るものがあった。
 視界がズレたその先に、姿を現す何者かがいた。
 マスターである東郷の瞳は、その正体を正確に見抜く。
 そんなはずはない。鹿目まどかのサーヴァントは、あの剣騎士であったはずだ。
 であれば、第三者の存在か。はたまた自分の読み違えか。

「新しい、サーヴァント……?」

 いるはずのないもう一人の弓騎士。
 想定しなかった三人目の戦士。
 自分のバルクホルンと同じ、アーチャーのクラスを持つサーヴァントの姿に、東郷の目は釘付けになっていた。


「はぁ……はぁ……」

 土煙から浮き上がりながら、バルクホルンは肩で息をする。
 無理やり放ったカノン砲は、容赦のない反動を発揮し、彼女を校庭へと叩き落としていた。
 エースの肌に土をつけたのは、敵ではなく自分自身の武器だったのだ。
 全くもって情けない。こんな真似をしなければならないとは。

「はぁ、はぁ……」

 おまけにそれほどの無理をしてなお、未だ敵を倒せてはいない。
 対峙する黄金のサーヴァントもまた、息を切らせているものの、五体満足のまま生存している。
 であれば、これからどうするか。
 マスターの援護を要請し、二対一で仕留めにかかるか。
 あるいはもう一つのストライカーを使い、純粋なパワーで圧倒するか。
 果たして考えている余裕を、あの黄金騎士が与えてくれるか。

「――そこまでだ」

 その時だ。
 聞き覚えのない新たな声が、戦場に割って入ったのは。
 そしてこれまでに覚えのない気配が、バルクホルンに襲いかかったのは。

「っ……!?」

 ぞわり、と肌の産毛が逆立つ。ジャーマンポインターの使い魔の、長い尻尾がぴんと立つ。
 彼女とセイバーのサーヴァントが、声の方を向いたのは同時だった。
 振り向いた先にあったのは、学校の校舎の入り口だ。
 そこから、誰かが歩いてくる。ゆらゆらと揺らめく大気の向こうから、煌々と近寄る光がある。

「これ以上事を荒立てる気なら、今度は俺が相手になる」

 がちゃり、がちゃりと具足の音。
 地の石を踏み潰す金属の音。
 そこから現れた男は――またしても、黄金の鎧だった。
 違いがあるとするならば、巨大な翼を背負っていることと、兜を被っていないことだろうか。
 剥き出しになった男の顔は、扶桑の人間の顔立ちか。鋭い視線は真っ直ぐに、自分達へと向けられている。

(何だ、あいつは……!?)

 対峙するセイバーの宝具も、相当な気配を纏っていた。
 だが今現れた鎧の男は、その男ともまた別の存在だ。
 纏っている気配の濃さが違う。噴き出る魔力の絶対量が、自分達とは次元が違う。
 翼を広げた金色の姿が、二倍にも三倍にも感じられた。
 数多のネウロイと対峙し、死闘を繰り広げてきたバルクホルンが、この瞬間だけは完全に、確実に敵の気配に呑まれていた。

(あれはまずい)

 本能がそう告げている。
 このまま戦ってはいけない。
 少なくとも疲弊した現状で、まともにやり合える相手ではない。

《マスター、援護を!》

 すぐさまバルクホルンは念話を送った。
 すぐ近くまで来ているであろう、東郷美森へと声を飛ばした。
 このままタイマンを張るのは危険だ。少しでも勝機に近づくためには、頭数を増やすしかない。
 守るべきマスターを頼る情けなさを、ぐっと堪えながらも呼びかける。

《いえ、すぐに離脱してください。彼が構えるその前に》

 しかし返ってきたものは、交戦でなく撤退の指示だった。

《しかし、この作戦の目的は……!》
《鹿目まどかの排除は成りませんでしたが、マスターであることは判明しました。
 その情報を、キャスターへの手土産にすれば、成果としては十分でしょう》

 東郷の言葉はやや早口だ。
 このジュニアハイの敷地に入っていない以上、恐らく敵の恐るべき気配を、直接感じているわけではないだろう。
 傷を負ったバルクホルンの前に、二騎目のサーヴァントが現れた。それ自体が重要な問題なのだ。

《……了解した》

 マスターの命令だ。
 であれば、逆らうわけにはいかない。
 セイバーにも新たなサーヴァントにも一言も告げず、バルクホルンは霊体へと変わる。
 不可視の状態となったバルクホルンは、そのまま速やかに天へと上がり、東郷の居場所へ向かって離脱した。

(なんてザマだ)

 情けない。
 初戦からこれほどの苦戦を強いられ、おまけにおめおめと逃げ帰るとは。
 東郷の心配をする前に、まず自分の無力さを、気にかけるべきだったではないか。
 己の不甲斐なさが許せない。涙すら零れそうになる。
 しかしそれだけは堪えた。カールスラント軍人たる者、泣き言を言ってなどいられないのだ。

(思ったよりも早く、使い時が来るかもしれない)

 己の戦いを振り返る。
 己が愛機たる『天に挑みし白狼の牙(フラックウルフ Fw190)』が、優れたストライカーユニットであるのは確かだ。
 しかし初戦からこの調子では、それだけでは届かない相手にも、遠からずぶち当たることになるかもしれない。
 そうなれば、使うことになるだろう。
 己がもう一つの宝具を。
 呪いのかかった忌まわしき機体を。
 重大な欠陥をその身に宿し、不採用の烙印を押された赤い靴。
 かつてその身を蝕んだ、試作型ジェットストライカー――『蒼天に舞え赤鉄の靴(Me262v1)』を。



【D-4/学術地区・一般中学校周辺/一日目 午前】

【東郷美森@結城友奈は勇者である】
[状態]魔力残量6割
[令呪]残り三画
[装備]勇者の装束、『機界結晶(ゾンダーメタル)』(肉体と融合)
[道具]通学鞄
[所持金]やや貧乏(学生のお小遣い程度)
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、聖杯の力で人類を滅ぼす
1.中学校から撤退し、キャスター(=パスダー)の元へと向かう。その際、放置していた車椅子を回収する
2.未来達と協力し、他のサーヴァントに対処する
3.金色のサーヴァント達(=レオン・ルイス、星矢)を警戒
[備考]
※『機界結晶(ゾンダーメタル)』によって、自身のストレス解消(=人類を殲滅し、仲間達を救う)のための行動を、積極的に起こすようになっています。
 『機界結晶(ゾンダーメタル)』を植え付けられていることには気づいていません。
※レオン・ルイスか星矢のどちらかが、鹿目まどかのサーヴァントであると考えています
※小日向未来&パスダー組と情報を交換し、同盟を結びました。
 同盟内容は『他のサーヴァントが全滅するまで、協力し敵を倒す』になります。
※D-4の路地裏のどこかに、車椅子を放置しました

【アーチャー(ゲルトルート・バルクホルン)@ストライクウィッチーズ】
[状態]ダメージ(中)
[装備]『天に挑みし白狼の牙(フラックウルフ Fw190)』
[道具]ディアンドル
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、聖杯を手に入れる
1.中学校から撤退し、キャスター(=パスダー)の元へと向かう
2.金色のサーヴァント達(=レオン・ルイス、星矢)を警戒。特に星矢を強く危険視
3.未来およびキャスターに対する不信感
4.自分でも使いたいとは思うが、聖杯はマスターに優先して使わせる
[備考]
※美森の人類殲滅の願いに気付いていません。言いにくいことを抱えていることは、なんとなく察しています
※レオン・ルイスが鹿目まどかのサーヴァントであると考えています
※小日向未来&パスダー組と情報を交換し、同盟を結びました。
 同盟内容は『他のサーヴァントが全滅するまで、協力し敵を倒す』になります。




 撤退したアーチャーのサーヴァントが、どの方角へ行ったのかなど分からない。
 故にレオンは目で追うことをせず、目前の相手を真っ直ぐに見据える。
 突如として姿を現した、黄金の光を放つサーヴァント。
 魔戒騎士と似通っていながら、しかし根本的に異なる意匠を有した、謎の甲冑を纏うサーヴァント。
 武器は持っていない。故にクラスが推測できない。
 身に纏う気配も相まって、得体の知れない相手だった。何をしでかすか分からない恐ろしさがあった。

「彼女は退いたが、お前はどうする」

 低く、されどよく通る声だった。
 退かなければ安全は保障しないと、言外に伝えていることは、誰の耳も理解できただろう。
 涼しく構えているものの、それだけの凄みが宿っていた。

「……俺だって馬鹿じゃない。この体で、あんたとやり合うつもりはないさ」

 こちらは手負い。あちらは無傷。
 であれば、他に選択肢などない。
 攻撃の意志がないことを示すため、鎧を解除しながら、レオンは言う。
 黄金の甲冑が虚空へと消え、白いコートの姿へと戻る。

「俺も目的は果たした。潔く退散させてもらう」
「……そうか」

 信用してもらえたのだろう。
 翼の鎧を着たサーヴァントは、その場から壁伝いに跳び上がると、校舎の向こうへと姿を消した。
 そうして誰もかれもいなくなって、校庭にただ一人になり。

《セイバー! 大丈夫!?》

 たっぷり五秒ほどは経った後に、マスターからの念話が届いてきた。
 恐らくはこれまでの戦況を、校舎の窓あたりから見ていたのだろう。逃げろと言ったのに、しょうがない主人だ。

《ああ、とりあえず敵は追い払えた。俺もまだ何とか生きてる》

 返事をしながら、レオンもまた、自らの体を霊体化させた。
 その辺りをきょろきょろと見回して、さやかのいる場所を特定すると、そちらに向かって歩き出す。

《それにしても、すごかったね今の……》
《多分あの金色の鎧が、鹿目まどかのサーヴァントだ》
《あれが!? まどかの!?》

 空飛ぶサーヴァントも難敵ではあった。だが今それ以上に気がかりなのは、あの黄金の鎧を着たサーヴァントだ。
 彼は自分達をこの学校から、明らかに遠ざけようとしていた。
 それは奴の守るべき者が、学校にいることの証明に他ならない。
 学校を攻撃した女と、学校を守ろうとした男。どちらがまどかのサーヴァントかは、考えるまでもなく明白だった。

《そっか……本当に、まどかが……》

 返ってきたさやかの声は、暗い。
 当然だ。守るべきだと考えていた友が、敵であると決まってしまったのだから。
 あの美樹さやかのことだ。恐らくこのことに対して、悩み続けることになるだろう。
 宿敵の命すら救って、仲間に戻ろうとする少女だ。元からの友人の命など、犠牲にできるはずもない。

(何とかしなくちゃならない、か)

 真剣に考える必要があった。
 この先美樹さやかに対して、どのように接していくのかを。
 そして同時に自分自身も、この先どのように戦うのかを。
 自分と互角以上に渡り合い、手傷を負わせた空飛ぶ女。
 戦場に突如として割り込んできた、翼持つ黄金の鎧の男。

(特にアイツと戦うのなら……恐らくは、死力を尽くすことになる)

 気がかりなのは後者の方だ。
 あの絶大な魔力の気配は、明らかに並のサーヴァントのそれではなかった。
 恐らくはかのヘラクレスやアーサー王のような、最上級クラスの大英霊。
 それほどのライバルがよりにもよって、マスターと同じ学校にいるというのは、はっきり言って最悪だった。
 奴と戦うというのなら、こちらも万全を期さなければならない。
 持てる力の全てを尽くして、対峙しなければならないような、そういう類の強敵だ。
 こうなるとなお、最大の切り札――『双烈融身(ひかりのきし)』を使えないことが、惜しくてならないと思える。

(それにしても……)

 しかし、そのように考えると、別のことが気になってきた。
 それほどの力を有していながら、何故奴は直接戦おうとせず、自分達を追い払うにとどめたのか。
 傷を負った自分達ならば、たとえ一人であったとしても、撃退できたのではないか。

(そうまでして、戦いたくない理由があるのか?)

 考えにくい話ではあった。
 それでも、考えなければならないと思った。
 あのサーヴァントの正体を探ることは、すなわち、鹿目まどかとの接し方にも、大きく関わってくることなのだから。



【D-4/学術地区・一般中学校校庭/一日目 午前】

【セイバー(レオン・ルイス)@牙狼-GARO- 炎の刻印】
[状態]ダメージ(中)
[装備]魔戒剣
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターを守って戦う
1.さやかと合流し、今後のことを考える
2.空飛ぶ女サーヴァント(=ゲルトルート・バルクホルン)、および翼の鎧のサーヴァント(=星矢)を警戒
3.翼の鎧のサーヴァントの行動が気になる。もしかしたら、おいそれと戦えない理由があるのかもしれない
4.まどかを敵だと思いたくないさやかに対して懸念
[備考]
※星矢が鹿目まどかのサーヴァントであると考えています
※ゲルトルート・バルクホルンが、中学校を襲撃した犯人であると考えています


 怪物騒ぎから、謎の戦闘。
 立て続けに事件が起こったことで、中学校の生徒達は、一様に疲弊しきっていた。
 それはまどかも例外ではない。
 星矢のおかげで切り抜けたものの、ギリギリの死線を彷徨ったことは間違いないのだ。

「まどか、大丈夫?」

 合流したさやかが声をかけてくる。
 自身も大変な思いをしただろうに、他人の心配をしてくれるなんて。
 その優しさが嬉しくもあり、同時にその気丈さに対して、申し訳ないとも思えていた。

「うん……ごめんね、さやかちゃん」
「ばっか、何で謝るのよ」

 額を小突かれ、軽く悲鳴を上げる。
 にひひと笑うさやかの顔は、空元気だとしても、元気そうだ。
 情けない。本当はマスターである自分にこそ、これくらいの力が必要なのに。
 何もできずに逃げ惑っていた自分が、これまでにないほどに貧弱で、惨めな存在に思えていた。

(そういえば、アーチャーさん……)

 その時、ふと思い出した。
 結局あの後アーチャー――星矢は、一言だけ念話を飛ばして姿を消した。
 もう心配はない。また何かあったら呼んでくれ。
 それだけを短く言い残して、顔を合わせることもなく、即座に学校から離れたのだ。

(やっぱり、無理させちゃったのかな)

 理由は察することができる。彼が身に負った怪しげな傷だ。
 あれが力の行使を阻害し、魔力を使おうとする星矢の体を、傷つけてしまっているのだという。
 であれば、姿を消した星矢は今頃、どこかで苦しんでいるのかもしれない。
 逃げられなかった自分のせいで、代わりにサーヴァントの彼が、痛みに喘いでいるのかもしれない。

(私って、本当にダメだ)

 自分一人では何もできず、迷惑ばかりをかけている。
 そんな自分が情けなくて、一層強く、膝を抱えた。



【D-4/学術地区・一般中学校・一階廊下/一日目 午前】

【美樹さやか@[新編]魔法少女まどか☆マギカ 叛逆の物語】
[状態]魔力残量6割5分
[令呪]残り三画
[装備]財布
[道具]なし
[所持金]やや貧乏(学生の小遣い程度)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れる
1.レオンと合流し、今後のことを考える
2.翼の鎧のサーヴァント(=星矢)を警戒
3.まどかに対して……?
4.人を襲うことには若干の抵抗。できればサーヴァントを狙いたい
[備考]
※C-2にある一軒家に暮らしています
※サーヴァントを失い強制退場させられたマスターが、安全に聖杯戦争から降りられるかどうか、疑わしく思っています
※星矢が鹿目まどかのサーヴァントであると考えています
※ゲルトルート・バルクホルンが、中学校を襲撃した犯人であると考えています

【鹿目まどか@[新編]魔法少女まどか☆マギカ 叛逆の物語】
[状態]魔力残量9割、自己嫌悪
[令呪]残り二画
[装備]財布
[道具]なし
[所持金]やや貧乏(学生の小遣い程度)
[思考・状況]
基本行動方針:帰りたい
1.あまり戦いたくない
2.何かあったら星矢を呼ぶ。令呪による強制転移もケチらずに使う
3.何もできない自分に対して、強烈な自己嫌悪
[備考]
※B-4にある一軒家に暮らしています
※美樹さやかがマスターであることに気付いていません




《凄かったわ、彼女のサーヴァントは。恐ろしいほどの力を見せていた》

 美国織莉子からの念話を、暁美ほむらは静かに受け取る。
 それは察していたことだ。屋上に立っている彼女は、あの金色のアーチャーの姿も、現実に目の当たりにしていた。
 これまでに相対してきたどの相手とも、明らかに次元の異なる存在だ。
 あれこそが神秘を具現化した、サーヴァントというものなのかもしれない。

《あれだけの強さなら、彼女のことは、任せてもいいんじゃないかしら》
《だったら私と合流しなさい。今から行くべきところがある》

 まどかから目を離すのは心苦しいが、それでも今のほむらには、為さなければならない用事があった。
 故に彼女は織莉子に対して、護衛の任を解かせて合流を指示した。

《行くべきところ?》
《敵のマスター……恐らくは、空飛ぶアーチャーのマスターを見つけた》
《あら、そうなの》

 意外だ、と言わんばかりの返答だった。
 当然と言えば当然だろう。
 仮に学校内にマスターがいれば、未来予知の使える織莉子が、移動中にマスターに遭遇する未来を予知する可能性がある。
 それがかなわなかったからこそ、彼女はマスターを、見つけられないと考えていたのだろう。

(敵は学校の外にいた)

 実際、標的は校内にはいなかった。
 たまたま三階の窓から、偶然校外のビルを見た時、そこに人影を見出したのだ。
 彼女が人のいる校内ではなく、誰もいない屋上に立っていたのには、そういう理由が存在した。

(けれど、あれは……)

 確かに、マスターの所在は校内ではない。
 されどそこにいたマスターは、学校と無関係な人間ではなかった。
 魔法少女を思わせる、奇妙な装束を身にまとった、黒髪と大きな胸が特徴的な少女。
 自分の隣のクラスにて、まどかと共に授業を受けていた、車椅子を使っていた少女。
 この日奇しくも、学校を休んでいたはずだった、東郷美森がそこにいたのだ。



【D-4/学術地区・一般中学校/一日目 午前】

【暁美ほむら@[新編]魔法少女まどか☆マギカ 叛逆の物語】
[状態]魔力残量9割
[令呪]残り二画
[装備]ダークオーブ
[道具]財布
[所持金]普通(一人暮らしを維持できるレベル)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れる
1.一度まどかの守りを金色のアーチャー(=星矢)に任せ、自身は東郷を追跡する
2.まどかを殺すことなど考えられない。他のマスターからまどかを死守する
3.まどかを生かしつつ、聖杯を手に入れる方法を模索する
[備考]
※星矢が鹿目まどかのサーヴァントであると知りました
※東郷美森が、何らかの特殊能力を持っていることを把握しました。
 同時に状況から察して、ゲルトルート・バルクホルンのマスターではないかと考えています

【美国織莉子(セイヴァー)@魔法少女おりこ☆マギカ】
[状態]健康
[装備]ソウルジェム
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、聖杯を手に入れる
1.とりあえずはほむらの言う通りに動く
2.一度まどかの守りを金色のアーチャー(=星矢)に任せ、敵マスター(=東郷)の追跡に向かう
3.まどかを生かすことは、道徳的な意味ではともかく、戦略上はさほど重要視していない
[備考]
※令呪により、「マスターに逆らってはならない」という命令を課せられています
※星矢が鹿目まどかのサーヴァントであると知りました




「ぐぅっ……!」

 がちゃり、と金属音が鳴る。
 路地裏でうずくまった黄金の男が、壁に手をつきながら呻く。
 身に纏う豪奢な甲冑を、輝きと共に解除しながら、男は額に汗を流した。
 コート姿のサジタリアス星矢は、膝をついた態勢で、ぜえぜえと苦しげに息を吐いた。

(やはり、この傷は無視できないか……)

 外套の下で蠢く闇に、視線を落とし思考する。
 マルスによってつけられた魔傷は、小宇宙の燃焼を阻害し、聖闘士を傷つける呪いだ。
 故に星矢は、無駄な戦いを避け、敵を威嚇することを選んだ。
 割と多くの魔力を一度に燃やし、必要以上に気配を大きくしてみたが、どうやら少々やり過ぎたらしい。
 敵を退散させることには成功したものの、結局魔傷から少なからず、ダメージをもらうことになってしまった。

(それでも)

 背負ったハンデはあまりにも大きい。
 だとしても、苦しんでいる暇などないのだ。
 あのいたいけな少女を守り抜き、共にそれぞれの世界に帰るためにも、立ち上がらなければならないのだ。
 身を起こし、コートを整えると、星矢はやや覚束ない足取りで、路地裏の闇を進んでいく。

(そういえば……)

 その時になってようやく、思い出した。
 聖衣石になって懐に収まった、己が『射手座の黄金聖衣(サジタリアスクロス)』を見やった。
 あの校舎で、死霊の兵士をなぎ倒した時、聖衣が妙な反応を示していた。
 何を伝えたいのかは、具体的には分からなかったが、それでも何かを知っているような、そんな印象を抱いたのだ。

(奴らを知っているのか、アイオロス……?)

 黄金聖衣はただの聖衣ではない。
 その身にはこれまで選ばれてきた、黄金聖闘士達の意志が宿されている。
 かつてこの聖衣を纏い戦った、偉大なる前任者の魂が、警告を告げているような。
 聖衣石を見つめる星矢には、そんな気がしてならなかったのだ。



【D-4/学術地区・路地裏/一日目 午前】

【アーチャー(星矢)@聖闘士星矢Ω】
[状態]ダメージ(小)、魔傷
[装備]『射手座の黄金聖衣(サジタリアスクロス)』(待機形態)
[道具]コート
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターを守り抜く
1.世界樹から脱出し、元の世界へ帰る方法を探す
2.霊体化ができない以上、どうにかして身を隠す。マスターに呼ばれればすぐに駆けつける
3.聖杯を悪用しようとする者がいれば、戦って阻止する
4.中学校に現れた敵(=エインヘリヤル)が気になる
[備考]
※霊体化を行うことができません
※『反魂の葬送騎士団(エインヘリヤル)』について、『射手座の黄金聖衣(サジタリアスクロス)』から、おぼろげに警告を受けています




「そうか、あの男は手負いか」

 ユグドラシル政庁・フレスベルグ。
 その市長室でくつくつと、一人笑う男がいる。
 赤髪を長く伸ばした男は、ルーラー――アンドレアス・リーセだ。
 彼は市長室の席から、事の全てを見下ろしていた。
 星矢のマスターが通う中学校で、怪物騒ぎが起きた時、星矢について調べるいい機会だと思った。
 故に『反魂の葬送騎士団(エインヘリヤル)』を発動し、亡霊の兵士達を何名か、中学校のまどかへとぶつけた。

「どう処分したものかと考えていたが……おかげで妙案が浮かんだぞ」

 その結果手に入れた成果は二つ。
 何らかの呪いを受けた星矢が、小宇宙を燃焼させることで、身にダメージを追うようになっていること。
 そして怪物の襲撃事件の現場に、星矢が現れたという事実だ。
 これは使える。
 たとえ最強の聖闘士であったとしても、その力が削がれているのなら、他のサーヴァント達で倒すことができる。
 特にキーパーのクラスで現界した、牡牛座の黄金聖闘士の例もある。
 同等の存在であるのなら、健康体でいるキーパーの方が、星矢より優位に立つのは必定だ。

「見ているがいい、射手座(サジタリアス)」

 既に大義名分は整った。
 戦場に居合わせた主従は三組しかいない。
 おまけに真相を全て把握しているのは、パスダーの宝具を使用した、ゲルトルート・バルクホルンの組だけだ。
 下手人さえ口を塞いでいれば、いくらでも誤魔化しようはある。
 そもそも自分の存在を隠したいなら、こちらの報告に異を唱え、真実を伝えようとする理由などない。

「今にこの街の全てが、お前とお前のマスターの敵になる」

 学術地区の中学校で、大規模な襲撃事件が起きた。
 大勢のNPCが一度に殺害されたことで、ユグドラシルを維持するに当たり、若干の問題が生じるようになった。
 このまま犯人を野放しにしていれば、聖杯戦争そのものの続行が危ぶまれる。
 犯人は黄金の鎧を着た、アーチャークラスのサーヴァント。
 このサーヴァントを排除した者には、今後聖杯戦争を勝ち抜く上で、有利になる報酬を与えよう。

「ははは……」

 それがアンドレアス・リーセの紡いだ、事の偽りの筋書きだった。



[全体の備考]
※D-4の中学校にて、怪物の襲撃事件及び、サーヴァントの戦闘が発生。大勢の死傷者が出ました
※第一回放送にて、鹿目まどか&アーチャー(星矢)組の討伐令が発令されることになりました



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カーテン・コール アンドレアス・リーセ 第一回定時放送