祈りと呪い ◆nig7QPL25k


 遠くで誰かが呼んでいる。
 助けを求める声がする。

 助けなきゃ。
 この手で救わなきゃ。
 救いを求める人の手を、この手で掴んで引き寄せて。
 安全な場所まで一直線に、送り届けてあげなくちゃ。

 それは善意?
 それとも義務?
 あるいはその手は贖罪のため?

 血と鉄の匂いが染み付いた、この右手を伸ばす理由は――何?


 気がつけば、闇の中にいた。
 私はどこか暗がりの中で、一人立ち尽くしていた。

 少しばかり、埃っぽい。
 ぱらぱらと何かが崩れる音もする。
 事故? 戦闘? 何か大掛かりな破壊の痕跡だ。
 けれど今は、何もない。僅かな環境音以外、目にも耳にも飛び込んでこない。
 そんな静寂にただ一人、私は放り出されていた。

「ぅあああ……っ!」

 誰かの声が聞こえてくる。
 遠くから声が響いてくる。
 これは泣き声だ。誰かが涙する声だ。
 私は声のする方へ向かった。明かりもない闇の只中を、声だけを頼りに歩いていった。

 そこにいたのは、一人の少女だ。
 私と同い年くらいの、青い髪の少女だ。
 事故に巻き込まれたものか。戦いで身に受けたものか。
 薄着の少女は、血と涙を流し、一人座り込んでいた。

 助けなきゃ。
 何があったか知らないけれど、早くここから連れ出さなくちゃ。
 怪我をしているというのなら、ちゃんと手当てをしなくちゃならない。
 そもそもこんな危ない場所に、一人で置いておくわけにはいかない。
 私は前に進もうとした。少女の元へと歩み寄って、その血まみれの手を取ろうとした。
 邪魔な瓦礫をすり抜けて、時に脇へと転がして、私は奥へ奥へと進んだ。

 そして、私は見てしまった。
 その姿を目の当たりにした時、一瞬、その手が止まってしまった。
 左腕を深々と抉る、その傷跡を目にした時。
 血と肉のその奥から覗き、ぱちぱちと光を放っている、その鈍色を見てしまった時。

「―――」

 金色の瞳が、こちらを見た。
 涙を流すその瞳が、私の両目とぴったりと合った。
 吸い込まれるようなその瞳に、全てを見透かされているような。
 そんな気がして、私の夢は、そこで暗転し終わりを告げた。


 夢の中身を、まだ覚えている。
 目を覚ました時に、そう感じたのは、随分と久しぶりのことかもしれない。
 逆に自分がいつ寝たのかは、上手く思い出せないのだけれども。

「………」

 見上げたのは、寮の天井だ。
 体には布団の感触がある。自室のベッドで眠っていたらしい。
 当たり前のことだけれど、何故だか違和感を感じる。
 そう思って、立花響は、身を起こそうと力を入れる。
 腕の力で持ち上げる体が、えらく重たく痛いと思った。
 視線を落とし、着ていたのがいつものパジャマではなく、簡単な肌着だったことに気付く。

「あ……」

 あからさまに自分ではなく、誰かに着せられた格好を見た時。
 自分は誰かの手によって、介抱されていたのだと気付き。
 立花響は自室ではなく、戦場で倒れたのだと、ようやく彼女は思い出した。

「ッ!」

 がばっと身を捩り、枕元を見やる。
 時計の針が指すのは九の時。学校のチャイムすら鳴っている時間帯だ。
 なんということだ。正確に断言はできないが、どう見積もっても八時間は経っているではないか。
 私はそんなにも長い間、あの場をほったらかしにしていたというのか。
 こうしてはいられない。すぐさまベッドから飛び降りる。
 足が痺れたのは無視した。壁際のタンスへ駆け寄って、下着を取り出す時間すら惜しかった。
 適当に目についたものを引っ掴んで、次はシャツを脱ごうとしたその瞬間。

「――すごいね。もうそんなに動けるんだ」

 背後から聞こえた声に、びくりと震えた。
 シャツにかけた手を離しながら、声のする方へ振り返る。
 そこに立っていたのは、一人の少女。
 金の瞳を光らせて、響の心を覗き込む、青く短い髪の少女。
 血みどろで戦場に座り込み、悲しみに涙を流し続けた、■■仕掛けの――

「キャスター……さん」

 違う。そんな歳ではない。
 次の瞬間には、響の瞳は、その姿を正確に捉えていた。
 夢の幻影の向こうにいたのは、自分が従えているサーヴァントだ。
 未だ癒えない傷跡を、人間の包帯を巻いて隠した、痛ましい姿の相棒だ。

「とりあえず、食欲あるんだったら、朝ごはんにしよっか」

 それでも、緑の瞳のスバル・ナカジマは、いつものように穏やかな顔で、相も変わらず笑っていた。


『マスターの魔力量は既に、80パーセント近くまで回復しています。驚異的な回復速度です』

 ガングニールの治癒能力は、肉体的なダメージのみならず、魔力というのにも影響するらしい。
 テーブルに置かれた宝具――『進化せし鋼鉄の走者(マッハキャリバーAX)』の言葉を、響は椅子に座って聞く。
 武器が喋るというのを目の当たりにした時、最初は面食らったものだった。
 高度な人工知能と言われても、そんなものは現実ではなく、SFの世界の話だと思っていたのだ。

「そっか」
『相棒は心配していました。マスターは先の戦いで、魔力をほとんど空になるまで、使いきってしまったのですから』
「ごめんね。マッハキャリバーにも、心配させちゃったみたいで」

 それでも、最終的には慣れてしまい、結果としてこうやって普通に向き合い、会話する仲にまで落ち着いている。
 たとえ水晶のペンダントだとしても、これも響を支えてくれる、れっきとした仲間の一人なのだ。

『理解していただけて何よりです』
「もー、余計なことばっか言わないの」

 マッハキャリバーの言葉を遮るようにして、スバルが食卓へとやって来る。
 台所から運んできたのは、緑が眩しいレタスのサラダと、ロールパン。卵はスクランブルエッグにしてあった。
 病み上がりの響を気遣ってか、いつもよりも、軽めのメニューだ。
 普段ならカリカリのベーコンの上に卵を落として、目玉焼きにして食べていたのだが、油物は避けてくれたらしい。
 いただきます、と挨拶をして、パンへと手を伸ばし、食べる。
 これでもマシな部類なのだが、西洋のパンは日本より硬い。
 友人から聞いた話によると、欧州の人と日本人とでは、物の噛み方が違うらしい。恐らくこの世界樹の人々にとっては、この硬さこそが適正なのだろう。

「明け方に特級住宅街まで、偵察に行ってたんだけどね」

 ややあって、スバルが口を開いた。
 食べる手はそのままに、目線を合わせて耳を傾ける。それは今の響にとって、最も気がかりなことだった。

「メンターさん達の姿は見当たらなかったけど、敵の気配ももうなかった。多分、逃げ延びたんだと思う」

 戦闘は終わったということか。
 ルイズ達の安否は気になるが、ひとまず、一つの疑問は解消された。
 安堵にほっと息をつくと、スクランブルエッグを口に運ぶ。
 軽くぴりりとするのは、胡椒の風味だ。体に差し障りない程度の辛味が、朝の意識を目覚めさせてくれる。
 格別に優れた品ではないが、作った人間の気遣いが見えるような、そういう料理だ。

「……スバルさん」

 そうなると、気がかりなことがある。
 敢えてスバルの真名を呼んで、響は会話を切り出した。
 夢の中で目の当たりにした、恐らくはスバル・ナカジマの過去の姿。
 それと現在の姿との、埋めようのないギャップについてだ。

「どしたの?」
「こんな時に聞くべきかどうかは、ちょっとアレなんですけれど……気を失ってる時、多分、スバルさんの夢を見ました」

 唐突に過ぎる話だとは思う。
 それでも、今聞いておきたかった。
 はっきりとさせておかなければ、今後に差し支えが出るかもしれない。
 認めたくない自分だが、あの時あれを見た響は、伸ばした手を引っ込めてしまった。
 同じことが起きないというのも、ないとは、言い切れなかったのだ。
 だからこそ、疑問に思ったことは早いうちに、解決しておくべきだと思った。

「あの時見た、スバルさんの左手……その時の傷は……」

 白い制服の下から覗く、左手の包帯を見ながら、言う。
 夢の中の幼い彼女は、今と同じ左腕に、大きな傷を負っていた。
 そこに見てしまったものが何なのか、問いたださなければならないと思った。
 だって、あれは。
 あの時目の当たりにしたあれは。
 血と肉の赤の向こうに覗いた、あのあってはならないものの正体は。

「そっか。見たんだ、あれを」

 問いかけに、スバルが口を開く。
 どこか困ったような、寂しげなような。
 いつものそれに比べると、力のない苦笑を浮かべながら。

「多分、響の想像は合ってると思う。あたしの体、生まれた時から、何割か機械でできてるんだ」

 左腕の袖をまくりながら。
 包帯を巻いたその腕を見せ、言う。
 その向こうに響が見たものの正体――機械のフレームとケーブルを示唆して。

「戦闘機人、って言ってね。魔導師みたいな優れた才能を、人の手で与えた子供を作れないかって、そういう研究があったの」
「それで、その研究で生まれたのが……」
「そ。あたしと、二つ上のお姉ちゃんは、その実験体の生き残りだった」

 多くの犠牲が積み上げられた。
 有機物と無機物の融合を果たすには、それほどのハードルを越えなければならなかった。
 最初から機械に適合するよう、遺伝子を調整するという方法が実を結ぶまで、相当な数の命が消えていった。
 そうして生まれた完成体が、タイプ・ゼロというコードで呼ばれる、スバル達二人の少女だった。
 そうまでして勝ち取られた成果も、その名の通り戦うための――人殺しの兵器として作られた命だ。
 そんな呪われた命を生み出すために、流されるべきでない血が、あまりにも多く流されてしまった。
 スバル・ナカジマという存在は、生まれながらに十字架を背負った、犠牲の上に立つ罪人なのだ。

「……ごめんなさい。言いにくいことを、聞いちゃって」
「ううん、気にしなくてもいいよ。この体のことだって、今ではきちんと受け入れてるから」

 余計なことを聞いてしまった。
 自分のわがままで、触れてはいけない領域に、勝手に踏み込んでしまった。
 そう考えて顔を曇らせる響を、スバルは笑顔を浮かべて宥める。

「あたしもさ、こんな体に生まれたことが、最初は嫌だったんだけどね。
 だけど、戦うためのこの力も、人助けのためにだって使えるんだって、あのメンターさんからそう教わった」

 力は力だ。
 現象そのものに善悪はない。使う者の意志こそが、神と悪魔を隔てる差になる。
 殺戮を求めた開発者の意志は、紛れもない悪だと言い切れた。
 されども、平和な世界に拾い上げられた時点で、スバル・ナカジマの意志と力は、そこからは既に切り離されている。
 故に今度はスバル自身が、神と悪魔を分かつ側になった。
 力の使い方は一つではないと、エース・オブ・エース――高町なのはに、身をもって教えられたのだ。
 それこそがスバルが彼女に抱く、大きな恩の正体だった。

「だからあたしは、最終的に、レスキューの仕事に行き着いたんだ」

 何物でもない真っさらな力を、何に使うべきかと考えた末に、彼女は人を救うことを選んだ。
 痛いことは嫌いだが、誰かを痛くするのはもっと嫌い。
 誰かが痛がるのが嫌ならば、それを止められるようになればいい。
 そう語るスバルの表情には、後ろ暗さなど何一つなかった。

「………」

 この人は、紛れもなく人間だ。
 冷徹な機械などではない。暖かい心を持った人間なのだ。
 そう理解できたことは嬉しかった。それを否定する理由はない。
 されどその一方で、同時に響の胸に浮かんだのは、もう一つの疑問だった。
 浮かんだというよりは、思い出したというべきか。
 それまで感じていたことに、答えらしきものが見えたような、そんな気がしていたのだ。

「もしかして、スバルさんが、私のことを気にかけてくれてるのって……」

 思い切って、口に出す。
 無償の善意というものを否定はしない。響だって、困っている人には、手を差し伸べてあげたいと思う。
 だがそれにしては、スバルの態度は、やけに優しいと思っていた。
 安らかに眠れていたはずの魂を、無理やり起こした赤の他人を、彼女はいやに気にかけてくれた。
 上手く言えないが、それは地の部分のお人好しよりも、もっと深い理由があるのではないか。
 心のどこかで、スバルに対して、そういう風に考えていた。それは否定できない事実だった。

「うん。似てるんだ。あたしと、響とは」

 響が言わんとしていることは、言うまでもなく伝わっていた。
 響にとっては知る由もないが、それは高町なのはに対して、スバルが己が口で語ったことだ。
 その在り方が、よく似ている。
 共に人ならぬものを取り込んで、人ならざる何かとなった者同士。
 人ならぬ力を私欲ではなく、人を守るために使うと誓った者同士。
 そして、人ならぬその身が生まれたことに、暗い理由を抱えた者同士。

「響もあたしと一緒で、人助けをしたくて、ガングニールの力を使ってるんだよね?」

 スバルの問いかけに対して、響は頷く。

「大きな犠牲が出た中で、生き残った私は、その分だけ頑張らなくちゃならない……それが最初の理由でした」
「今は違うつもりだけど、でも今も、戦えない自分自身に対して、無力と責任を感じてる」

 見透かされている。
 故に返す言葉がなかった。
 自分が戦えればと、どうしても考えてしまう。
 だから夕べの戦いにも、響はギアを纏って飛び込んでしまった。
 結果的にそれがいい方向に作用したが、それでも無茶をしたことに変わりはない。
 でなければ、こんな時間まで、倒れていることもなかった。

「そのことが心配なんだ、あたしは」

 気づけば朝食を食べる手が、スバルも響も止まっていた。
 大食漢の二人が揃って、食べ物に手をつけずに話をしている。
 少なくともここに来てからは、初めての光景だった。

「災害救助をしていると、どうしても、助けられなかった人が出てくる」

 英霊といえど人間だ。全てを救えるわけではない。
 現場に駆けつけるのが遅れて、救助が間に合わなかった人がいる。
 災害が起きた瞬間に、既に命を落としてしまっていた人もいる。
 最善を尽くしてそれでもなお、救えなかった人もいる。

「どうしようもなかったこともあるし、そういうのに慣れてしまえば、きっと楽だったんだろうけどね」
「ってことは、まさか……」
「うん。どうしても、慣れることができなかった」

 その時の笑顔を、見たような気がした。
 今にも泣き出しそうなその笑顔は、強がっているのだということが、響にも分かった。
 きっとその話の中で一番、雄弁な表情だったかもしれない。
 スバルの浮かべた悲しげな笑みは、言葉よりも深く確かに、響の胸に突き刺さっていた。

「恥ずかしい話だけどさ。あたしはその度に何度も、自分の無力を責めてきた」

 救えなかった苦しみに、幾度も胸を痛め続けた。
 苦しみ逝った人々の心を思い、悲しみに涙を流し続けた。
 同じ後悔を繰り返さないように、今度は助け出せるようにと、その度に己を苛め抜いた。

「きっと全てを投げ出せば、そんな思いもせずに済んだんだろうけど……それだけは、どうしてもできなかったんだ」

 そうして人々を見捨てる方が、きっともっと苦しいだろうから。
 そう語るスバルの顔は、これまでの勇猛さが嘘のように、脆く、弱々しく見えた。

(それは……)

 痛いことは嫌いだが、誰かを痛くするのはもっと嫌い。
 誰かが痛がるのが嫌ならば、それを止められるようになればいい。
 それが救いになるのなら、自分が痛んだって構わない。
 その正義は祈りではなく、呪いだ。
 正しい行いや善き行いは、どうしようもない悪意によって虐げられる、弱者の祈りから生まれるもののはずだ。

(なのにこの人は、呪われている)

 スバル・ナカジマは呪われている。
 己が正義によって呪われている。
 兵器として生まれた彼女の魂は、正義を振りかざさない限り、自身の良心によって傷つけられる。
 たとえその正義が、彼女の心を、引き裂くものであったとしてもだ。
 行くも地獄。退かぬも地獄。スバル・ナカジマの人生は、どう歩んでも苦しみから逃れられない、正義の呪縛に囚われていたのだ。
 奇しくも奇跡という名の猛毒に、身を冒され殺されようとしている、今の立花響のように。
 機械仕掛けの傷口を晒し、痛みに涙する彼女の姿は、過去のスバルのそれではなく。
 彼女の人生の全てを、暗示していたのではないかと、響にはそんな風に思えた。

「あたしの周りには、そんなあたしを、気遣ってくれた人がいた」

 そんな人生でも悪くはなかったと、それでもスバルは言葉を続ける。

「どうにか折れずにやっていけたのは、みんなのおかげだと思ってるし……みんなに心配かけちゃったのも、申し訳ないなと思ってる」

 彼女の人生には常に、仲間達の姿があった。
 それは高町なのはであり、そして響が見たことのない、幾人もの仲間達の姿だ。
 聖杯戦争が始まる前、昔のことを聞いた時に、そんな話をしていたような気がする。
 もっとも、こういう暗い話題には、決して触れたことはなかったけれど。

「だからそういう人達のことは、大事にしなきゃいけないし……響は絶対に、あたしみたいになっちゃいけない」

 それが人生の先輩からの忠告だと、真剣な面持ちになって、スバルは言った。
 立花響とスバル・ナカジマは、違う時代を生きた人間だ。
 されど二人は、鏡写しのように、似通った人生を生き抜いてきた。
 共に呪いをその身に受けて。
 共に呪いを祈りに変えて。
 共に祈りという呪いに縛られている。
 同じ人間であるのなら、響もいつかスバルのように、絶望に突き当たる時が来る。
 スバルが踏みとどまった地獄へと、そのまま堕ちてしまうこともある。
 それだけは絶対にいけないと、人生を生き抜いた英霊は、己のマスターへとそう言った。

「私は……」

 ガングニールは人を救うための力だ。
 この力を振るい戦うことに、今は後悔を抱いていない。
 それでも響のその正義が、いつまでも貫けるものだと、断言することができるだろうか。
 自責と重圧に押し潰されて、壊れてしまう日が来ないと、言い切ることができるだろうか。

(祈りが呪いに変わってしまえば、同じ絶望に突き当たる……)

 肝に銘じなければならないと思った。
 生涯を絶望と共に送り、笑顔の下に涙を隠した、この英霊の人生を。
 その中でスバル・ナカジマを支え、その笑顔を守り続けてきた、仲間達の存在を。
 響の笑顔を守ってくれる、大切な仲間達の存在を、決して無碍にしてはならないと。


 特級住宅街へと向かう。
 体調の戻った響にとって、他に選択肢はなかった。
 どうせ今から学校に行っても、遅刻という結果は避けられないのだ。
 故にここは、あの場へ戻って、ルイズ達の安否を確かめる。
 そのためにも特級住宅街にあるという、ヴァリエール邸を訪ねてみる。
 食事を終えて着替えを済ませ、身支度を整えた響が、導き出した結論だった。
 スバルもまたそれを了承し、共に南を目指すことになった。

「あたしはさ、響」

 そんな響が出かける時、ふと、スバルが声をかけた。

「あたし自身は、メンターさんと違って、地味な人生送ってきたから……きっと普通だったら、こんな所には、呼ばれなかったんだと思う」

 突き詰めればスバル・ナカジマとは、いちレスキュー隊員に過ぎない。
 一時代において無双を誇った、正真正銘の英雄に比べれば、霊格も功績も大きく劣る。
 後の世に語られることのない、無銘の戦士であったスバルは、普通ならサーヴァントにはなれなかっただろうと。

「それでもここに呼ばれたのは、きっとそこに響がいて、呼んでくれたからだと思うんだ」

 そんな彼女を引き寄せたのは、立花響の魂だろうと。
 同じ人生を生きてきた、鏡合わせの二人だからこそ、こうして呼び合ったのだろうと。
 正規の聖杯戦争においては、特定の英霊を呼ぶ依代がなかった場合、マスターと近い精神性を持った英霊が、引き合うようにして呼ばれたのだそうだ。
 故にあるはずのない召喚が、この世界樹の頂で叶えられた。
 因果で結ばれた宿命の二人が、このユグドラシルで奇跡的に、呼び合い並び立ったのだろうと。

「だから守るよ。呼んでくれたからには、必ず」

 その奇跡を無駄にはしない。
 立花響は絶対に、スバル・ナカジマが守り抜く。
 その身も心も、責任を持って、キャスターのサーヴァントが守ると誓う。
 そのために自分はここにいるのだと、スバルはそう宣言した。

「……多分、それが英霊ってことなんですよ」

 ああ、この人は英雄だ。
 口では否定しようとも、どうしようもなくヒーローだ。
 立花響はそう思い、微笑を浮かべて玄関を開く。
 救いを求める人がいれば、駆けつけてその手を差し伸べる。
 たとえ心を傷つけたとしても。たとえ誰に語られずとも。
 その在り方は、どうしようもなく、英雄という呼び名そのものだった。
 そうあれたらと心から思える、眩しくて誇り高い在り方だった。
 正義の代償の苦しみを、忘れたわけではないけれど。
 本当は英雄なんてものが、必要とされないような平和な世界が、響の望みではあるのだけれど。

(やっぱり、気が合うってことなのかな)

 やはり自分とこの人とは、似た者同士の人間なのだ。
 その在り方を貫いた、スバル・ナカジマの魂は、自分の憧れるものだったのだ。
 その心意気に惹かれている、立花響という人間を、否定することはできなかった。



【E-4/学術地区・学生寮・響の部屋/一日目 午前】

【立花響@戦姫絶唱シンフォギアG】
[状態]魔力残量8割、ダメージ(小)
[令呪]残り三画
[装備]ガングニール(肉体と同化)
[道具]学校カバン
[所持金]やや貧乏(学生のお小遣い程度)
[思考・状況]
基本行動方針:ガングニールの過剰融合を抑えるため、メンターから回復魔法を教わる
1.ルイズ達の安否を確認するため、ヴァリエール邸に向かう
2.学校の時間以外は、ルイズと一緒にメンターの指導を受ける
3.ルイズと共に回復魔法を無事に習得できたら、聖杯戦争からの脱出方法を探る
4.両備の復讐を止めたい
5.出会ったマスターと戦闘になってしまった時は、まずは理由を聞く。いざとなれば戦う覚悟はある
6.スバルの教えを無駄にしない。自分を粗末には扱わない
[備考]
※E-4にある、高校生用の学生寮で暮らしています
※シンフォギアを纏わない限り、ガングニール過剰融合の症状は進行しないと思われます。
 なのはとスバルの見立てでは、変身できるのは残り2回(予想)です。
 特に絶唱を使ったため、この回数は減少している可能性もあります。
※ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが脱落していることに気付いていません

【キャスター(スバル・ナカジマ)@魔法戦記リリカルなのはForce】
[状態]全身ダメージ(小・回復中)、脇腹ダメージ(中・回復中)
[装備]『進化せし鋼鉄の走者(マッハキャリバーAX)』、包帯
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:ルイズ・なのは組と協力し、マスターの願いを叶えて元の世界に帰す
1.なのは達の安否を確認するため、ヴァリエール邸に向かう
2.金色のサーヴァント(=ハービンジャー)を警戒
3.ルイズと響に回復魔法を習得させる
4.戦闘時にはマスターは前線に出さず、自分が戦う
5.ルイズと響が回復魔法を習得できたら、聖杯戦争からの脱出方法を探る
6.万が一、回復魔法による解決が成らなかった場合、たとえなのはと戦ってでも、聖杯を手に入れるために行動する
[備考]
※4つの塔を覆う、結界の存在を知りました
※ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール&高町なのは組と情報を交換し、同盟を結びました。
 同盟内容は『ルイズと響に回復魔法を習得させ、共に聖杯戦争から脱出する』になります
※予選敗退後に街に取り残された人物が現れ、目の前で戦いに巻き込まれた際、何らかの動きがあるかもしれません。
※明け方に特級住宅街へ向かい、戦闘が終わっていたことを確認しています。
 ただし、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが脱落していることには気付いていません。



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