祈りと呪い ◆nig7QPL25k
遠くで誰かが呼んでいる。
助けを求める声がする。
助けなきゃ。
この手で救わなきゃ。
救いを求める人の手を、この手で掴んで引き寄せて。
安全な場所まで一直線に、送り届けてあげなくちゃ。
それは善意?
それとも義務?
あるいはその手は贖罪のため?
血と鉄の匂いが染み付いた、この右手を伸ばす理由は――何?
◆
気がつけば、闇の中にいた。
私はどこか暗がりの中で、一人立ち尽くしていた。
少しばかり、埃っぽい。
ぱらぱらと何かが崩れる音もする。
事故? 戦闘? 何か大掛かりな破壊の痕跡だ。
けれど今は、何もない。僅かな環境音以外、目にも耳にも飛び込んでこない。
そんな静寂にただ一人、私は放り出されていた。
「ぅあああ……っ!」
誰かの声が聞こえてくる。
遠くから声が響いてくる。
これは泣き声だ。誰かが涙する声だ。
私は声のする方へ向かった。明かりもない闇の只中を、声だけを頼りに歩いていった。
そこにいたのは、一人の少女だ。
私と同い年くらいの、青い髪の少女だ。
事故に巻き込まれたものか。戦いで身に受けたものか。
薄着の少女は、血と涙を流し、一人座り込んでいた。
助けなきゃ。
何があったか知らないけれど、早くここから連れ出さなくちゃ。
怪我をしているというのなら、ちゃんと手当てをしなくちゃならない。
そもそもこんな危ない場所に、一人で置いておくわけにはいかない。
私は前に進もうとした。少女の元へと歩み寄って、その血まみれの手を取ろうとした。
邪魔な瓦礫をすり抜けて、時に脇へと転がして、私は奥へ奥へと進んだ。
そして、私は見てしまった。
その姿を目の当たりにした時、一瞬、その手が止まってしまった。
左腕を深々と抉る、その傷跡を目にした時。
血と肉のその奥から覗き、ぱちぱちと光を放っている、その鈍色を見てしまった時。
「―――」
金色の瞳が、こちらを見た。
涙を流すその瞳が、私の両目とぴったりと合った。
吸い込まれるようなその瞳に、全てを見透かされているような。
そんな気がして、私の夢は、そこで暗転し終わりを告げた。
◆
夢の中身を、まだ覚えている。
目を覚ました時に、そう感じたのは、随分と久しぶりのことかもしれない。
逆に自分がいつ寝たのかは、上手く思い出せないのだけれども。
「………」
見上げたのは、寮の天井だ。
体には布団の感触がある。自室のベッドで眠っていたらしい。
当たり前のことだけれど、何故だか違和感を感じる。
そう思って、立花響は、身を起こそうと力を入れる。
腕の力で持ち上げる体が、えらく重たく痛いと思った。
視線を落とし、着ていたのがいつものパジャマではなく、簡単な肌着だったことに気付く。
「あ……」
あからさまに自分ではなく、誰かに着せられた格好を見た時。
自分は誰かの手によって、介抱されていたのだと気付き。
立花響は自室ではなく、戦場で倒れたのだと、ようやく彼女は思い出した。
「ッ!」
がばっと身を捩り、枕元を見やる。
時計の針が指すのは九の時。学校のチャイムすら鳴っている時間帯だ。
なんということだ。正確に断言はできないが、どう見積もっても八時間は経っているではないか。
私はそんなにも長い間、あの場をほったらかしにしていたというのか。
こうしてはいられない。すぐさまベッドから飛び降りる。
足が痺れたのは無視した。壁際のタンスへ駆け寄って、下着を取り出す時間すら惜しかった。
適当に目についたものを引っ掴んで、次はシャツを脱ごうとしたその瞬間。
「――すごいね。もうそんなに動けるんだ」
背後から聞こえた声に、びくりと震えた。
シャツにかけた手を離しながら、声のする方へ振り返る。
そこに立っていたのは、一人の少女。
金の瞳を光らせて、響の心を覗き込む、青く短い髪の少女。
血みどろで戦場に座り込み、悲しみに涙を流し続けた、■■仕掛けの――
「キャスター……さん」
違う。そんな歳ではない。
次の瞬間には、響の瞳は、その姿を正確に捉えていた。
夢の幻影の向こうにいたのは、自分が従えているサーヴァントだ。
未だ癒えない傷跡を、人間の包帯を巻いて隠した、痛ましい姿の相棒だ。
「とりあえず、食欲あるんだったら、朝ごはんにしよっか」
それでも、緑の瞳のスバル・ナカジマは、いつものように穏やかな顔で、相も変わらず笑っていた。
◆
『マスターの魔力量は既に、80パーセント近くまで回復しています。驚異的な回復速度です』
ガングニールの治癒能力は、肉体的なダメージのみならず、魔力というのにも影響するらしい。
テーブルに置かれた宝具――『進化せし鋼鉄の走者(マッハキャリバーAX)』の言葉を、響は椅子に座って聞く。
武器が喋るというのを目の当たりにした時、最初は面食らったものだった。
高度な人工知能と言われても、そんなものは現実ではなく、SFの世界の話だと思っていたのだ。
「そっか」
『相棒は心配していました。マスターは先の戦いで、魔力をほとんど空になるまで、使いきってしまったのですから』
「ごめんね。マッハキャリバーにも、心配させちゃったみたいで」
それでも、最終的には慣れてしまい、結果としてこうやって普通に向き合い、会話する仲にまで落ち着いている。
たとえ水晶のペンダントだとしても、これも響を支えてくれる、れっきとした仲間の一人なのだ。
『理解していただけて何よりです』
「もー、余計なことばっか言わないの」
マッハキャリバーの言葉を遮るようにして、スバルが食卓へとやって来る。
台所から運んできたのは、緑が眩しいレタスのサラダと、ロールパン。卵はスクランブルエッグにしてあった。
病み上がりの響を気遣ってか、いつもよりも、軽めのメニューだ。
普段ならカリカリのベーコンの上に卵を落として、目玉焼きにして食べていたのだが、油物は避けてくれたらしい。
いただきます、と挨拶をして、パンへと手を伸ばし、食べる。
これでもマシな部類なのだが、西洋のパンは日本より硬い。
友人から聞いた話によると、欧州の人と日本人とでは、物の噛み方が違うらしい。恐らくこの世界樹の人々にとっては、この硬さこそが適正なのだろう。
「明け方に特級住宅街まで、偵察に行ってたんだけどね」
ややあって、スバルが口を開いた。
食べる手はそのままに、目線を合わせて耳を傾ける。それは今の響にとって、最も気がかりなことだった。
「メンターさん達の姿は見当たらなかったけど、敵の気配ももうなかった。多分、逃げ延びたんだと思う」
戦闘は終わったということか。
ルイズ達の安否は気になるが、ひとまず、一つの疑問は解消された。
安堵にほっと息をつくと、スクランブルエッグを口に運ぶ。
軽くぴりりとするのは、胡椒の風味だ。体に差し障りない程度の辛味が、朝の意識を目覚めさせてくれる。
格別に優れた品ではないが、作った人間の気遣いが見えるような、そういう料理だ。
「……スバルさん」
そうなると、気がかりなことがある。
敢えてスバルの真名を呼んで、響は会話を切り出した。
夢の中で目の当たりにした、恐らくはスバル・ナカジマの過去の姿。
それと現在の姿との、埋めようのないギャップについてだ。
「どしたの?」
「こんな時に聞くべきかどうかは、ちょっとアレなんですけれど……気を失ってる時、多分、スバルさんの夢を見ました」
唐突に過ぎる話だとは思う。
それでも、今聞いておきたかった。
はっきりとさせておかなければ、今後に差し支えが出るかもしれない。
認めたくない自分だが、あの時あれを見た響は、伸ばした手を引っ込めてしまった。
同じことが起きないというのも、ないとは、言い切れなかったのだ。
だからこそ、疑問に思ったことは早いうちに、解決しておくべきだと思った。
「あの時見た、スバルさんの左手……その時の傷は……」
白い制服の下から覗く、左手の包帯を見ながら、言う。
夢の中の幼い彼女は、今と同じ左腕に、大きな傷を負っていた。
そこに見てしまったものが何なのか、問いたださなければならないと思った。
だって、あれは。
あの時目の当たりにしたあれは。
血と肉の赤の向こうに覗いた、あのあってはならないものの正体は。
「そっか。見たんだ、あれを」
問いかけに、スバルが口を開く。
どこか困ったような、寂しげなような。
いつものそれに比べると、力のない苦笑を浮かべながら。
「多分、響の想像は合ってると思う。あたしの体、生まれた時から、何割か機械でできてるんだ」
左腕の袖をまくりながら。
包帯を巻いたその腕を見せ、言う。
その向こうに響が見たものの正体――機械のフレームとケーブルを示唆して。
「戦闘機人、って言ってね。魔導師みたいな優れた才能を、人の手で与えた子供を作れないかって、そういう研究があったの」
「それで、その研究で生まれたのが……」
「そ。あたしと、二つ上のお姉ちゃんは、その実験体の生き残りだった」
多くの犠牲が積み上げられた。
有機物と無機物の融合を果たすには、それほどのハードルを越えなければならなかった。
最初から機械に適合するよう、遺伝子を調整するという方法が実を結ぶまで、相当な数の命が消えていった。
そうして生まれた完成体が、タイプ・ゼロというコードで呼ばれる、スバル達二人の少女だった。
そうまでして勝ち取られた成果も、その名の通り戦うための――人殺しの兵器として作られた命だ。
そんな呪われた命を生み出すために、流されるべきでない血が、あまりにも多く流されてしまった。
スバル・ナカジマという存在は、生まれながらに十字架を背負った、犠牲の上に立つ罪人なのだ。
「……ごめんなさい。言いにくいことを、聞いちゃって」
「ううん、気にしなくてもいいよ。この体のことだって、今ではきちんと受け入れてるから」
余計なことを聞いてしまった。
自分のわがままで、触れてはいけない領域に、勝手に踏み込んでしまった。
そう考えて顔を曇らせる響を、スバルは笑顔を浮かべて宥める。
「あたしもさ、こんな体に生まれたことが、最初は嫌だったんだけどね。
だけど、戦うためのこの力も、人助けのためにだって使えるんだって、あのメンターさんからそう教わった」
力は力だ。
現象そのものに善悪はない。使う者の意志こそが、神と悪魔を隔てる差になる。
殺戮を求めた開発者の意志は、紛れもない悪だと言い切れた。
されども、平和な世界に拾い上げられた時点で、スバル・ナカジマの意志と力は、そこからは既に切り離されている。
故に今度はスバル自身が、神と悪魔を分かつ側になった。
力の使い方は一つではないと、エース・オブ・エース――高町なのはに、身をもって教えられたのだ。
それこそがスバルが彼女に抱く、大きな恩の正体だった。
「だからあたしは、最終的に、レスキューの仕事に行き着いたんだ」
何物でもない真っさらな力を、何に使うべきかと考えた末に、彼女は人を救うことを選んだ。
痛いことは嫌いだが、誰かを痛くするのはもっと嫌い。
誰かが痛がるのが嫌ならば、それを止められるようになればいい。
そう語るスバルの表情には、後ろ暗さなど何一つなかった。
「………」
この人は、紛れもなく人間だ。
冷徹な機械などではない。暖かい心を持った人間なのだ。
そう理解できたことは嬉しかった。それを否定する理由はない。
されどその一方で、同時に響の胸に浮かんだのは、もう一つの疑問だった。
浮かんだというよりは、思い出したというべきか。
それまで感じていたことに、答えらしきものが見えたような、そんな気がしていたのだ。
「もしかして、スバルさんが、私のことを気にかけてくれてるのって……」
思い切って、口に出す。
無償の善意というものを否定はしない。響だって、困っている人には、手を差し伸べてあげたいと思う。
だがそれにしては、スバルの態度は、やけに優しいと思っていた。
安らかに眠れていたはずの魂を、無理やり起こした赤の他人を、彼女はいやに気にかけてくれた。
上手く言えないが、それは地の部分のお人好しよりも、もっと深い理由があるのではないか。
心のどこかで、スバルに対して、そういう風に考えていた。それは否定できない事実だった。
「うん。似てるんだ。あたしと、響とは」
響が言わんとしていることは、言うまでもなく伝わっていた。
響にとっては知る由もないが、それは高町なのはに対して、スバルが己が口で語ったことだ。
その在り方が、よく似ている。
共に人ならぬものを取り込んで、人ならざる何かとなった者同士。
人ならぬ力を私欲ではなく、人を守るために使うと誓った者同士。
そして、人ならぬその身が生まれたことに、暗い理由を抱えた者同士。
「響もあたしと一緒で、人助けをしたくて、ガングニールの力を使ってるんだよね?」
スバルの問いかけに対して、響は頷く。
「大きな犠牲が出た中で、生き残った私は、その分だけ頑張らなくちゃならない……それが最初の理由でした」
「今は違うつもりだけど、でも今も、戦えない自分自身に対して、無力と責任を感じてる」
見透かされている。
故に返す言葉がなかった。
自分が戦えればと、どうしても考えてしまう。
だから夕べの戦いにも、響はギアを纏って飛び込んでしまった。
結果的にそれがいい方向に作用したが、それでも無茶をしたことに変わりはない。
でなければ、こんな時間まで、倒れていることもなかった。
「そのことが心配なんだ、あたしは」
気づけば朝食を食べる手が、スバルも響も止まっていた。
大食漢の二人が揃って、食べ物に手をつけずに話をしている。
少なくともここに来てからは、初めての光景だった。
「災害救助をしていると、どうしても、助けられなかった人が出てくる」
英霊といえど人間だ。全てを救えるわけではない。
現場に駆けつけるのが遅れて、救助が間に合わなかった人がいる。
災害が起きた瞬間に、既に命を落としてしまっていた人もいる。
最善を尽くしてそれでもなお、救えなかった人もいる。
「どうしようもなかったこともあるし、そういうのに慣れてしまえば、きっと楽だったんだろうけどね」
「ってことは、まさか……」
「うん。どうしても、慣れることができなかった」
その時の笑顔を、見たような気がした。
今にも泣き出しそうなその笑顔は、強がっているのだということが、響にも分かった。
きっとその話の中で一番、雄弁な表情だったかもしれない。
スバルの浮かべた悲しげな笑みは、言葉よりも深く確かに、響の胸に突き刺さっていた。
「恥ずかしい話だけどさ。あたしはその度に何度も、自分の無力を責めてきた」
救えなかった苦しみに、幾度も胸を痛め続けた。
苦しみ逝った人々の心を思い、悲しみに涙を流し続けた。
同じ後悔を繰り返さないように、今度は助け出せるようにと、その度に己を苛め抜いた。
「きっと全てを投げ出せば、そんな思いもせずに済んだんだろうけど……それだけは、どうしてもできなかったんだ」
そうして人々を見捨てる方が、きっともっと苦しいだろうから。
そう語るスバルの顔は、これまでの勇猛さが嘘のように、脆く、弱々しく見えた。
(それは……)
痛いことは嫌いだが、誰かを痛くするのはもっと嫌い。
誰かが痛がるのが嫌ならば、それを止められるようになればいい。
それが救いになるのなら、自分が痛んだって構わない。
その正義は祈りではなく、呪いだ。
正しい行いや善き行いは、どうしようもない悪意によって虐げられる、弱者の祈りから生まれるもののはずだ。
(なのにこの人は、呪われている)
スバル・ナカジマは呪われている。
己が正義によって呪われている。
兵器として生まれた彼女の魂は、正義を振りかざさない限り、自身の良心によって傷つけられる。
たとえその正義が、彼女の心を、引き裂くものであったとしてもだ。
行くも地獄。退かぬも地獄。スバル・ナカジマの人生は、どう歩んでも苦しみから逃れられない、正義の呪縛に囚われていたのだ。
奇しくも奇跡という名の猛毒に、身を冒され殺されようとしている、今の立花響のように。
機械仕掛けの傷口を晒し、痛みに涙する彼女の姿は、過去のスバルのそれではなく。
彼女の人生の全てを、暗示していたのではないかと、響にはそんな風に思えた。
「あたしの周りには、そんなあたしを、気遣ってくれた人がいた」
そんな人生でも悪くはなかったと、それでもスバルは言葉を続ける。
「どうにか折れずにやっていけたのは、みんなのおかげだと思ってるし……みんなに心配かけちゃったのも、申し訳ないなと思ってる」
彼女の人生には常に、仲間達の姿があった。
それは高町なのはであり、そして響が見たことのない、幾人もの仲間達の姿だ。
聖杯戦争が始まる前、昔のことを聞いた時に、そんな話をしていたような気がする。
もっとも、こういう暗い話題には、決して触れたことはなかったけれど。
「だからそういう人達のことは、大事にしなきゃいけないし……響は絶対に、あたしみたいになっちゃいけない」
それが人生の先輩からの忠告だと、真剣な面持ちになって、スバルは言った。
立花響とスバル・ナカジマは、違う時代を生きた人間だ。
されど二人は、鏡写しのように、似通った人生を生き抜いてきた。
共に呪いをその身に受けて。
共に呪いを祈りに変えて。
共に祈りという呪いに縛られている。
同じ人間であるのなら、響もいつかスバルのように、絶望に突き当たる時が来る。
スバルが踏みとどまった地獄へと、そのまま堕ちてしまうこともある。
それだけは絶対にいけないと、人生を生き抜いた英霊は、己のマスターへとそう言った。
「私は……」
ガングニールは人を救うための力だ。
この力を振るい戦うことに、今は後悔を抱いていない。
それでも響のその正義が、いつまでも貫けるものだと、断言することができるだろうか。
自責と重圧に押し潰されて、壊れてしまう日が来ないと、言い切ることができるだろうか。
(祈りが呪いに変わってしまえば、同じ絶望に突き当たる……)
肝に銘じなければならないと思った。
生涯を絶望と共に送り、笑顔の下に涙を隠した、この英霊の人生を。
その中でスバル・ナカジマを支え、その笑顔を守り続けてきた、仲間達の存在を。
響の笑顔を守ってくれる、大切な仲間達の存在を、決して無碍にしてはならないと。
◆
特級住宅街へと向かう。
体調の戻った響にとって、他に選択肢はなかった。
どうせ今から学校に行っても、遅刻という結果は避けられないのだ。
故にここは、あの場へ戻って、ルイズ達の安否を確かめる。
そのためにも特級住宅街にあるという、ヴァリエール邸を訪ねてみる。
食事を終えて着替えを済ませ、身支度を整えた響が、導き出した結論だった。
スバルもまたそれを了承し、共に南を目指すことになった。
「あたしはさ、響」
そんな響が出かける時、ふと、スバルが声をかけた。
「あたし自身は、メンターさんと違って、地味な人生送ってきたから……きっと普通だったら、こんな所には、呼ばれなかったんだと思う」
突き詰めればスバル・ナカジマとは、いちレスキュー隊員に過ぎない。
一時代において無双を誇った、正真正銘の英雄に比べれば、霊格も功績も大きく劣る。
後の世に語られることのない、無銘の戦士であったスバルは、普通ならサーヴァントにはなれなかっただろうと。
「それでもここに呼ばれたのは、きっとそこに響がいて、呼んでくれたからだと思うんだ」
そんな彼女を引き寄せたのは、立花響の魂だろうと。
同じ人生を生きてきた、鏡合わせの二人だからこそ、こうして呼び合ったのだろうと。
正規の聖杯戦争においては、特定の英霊を呼ぶ依代がなかった場合、マスターと近い精神性を持った英霊が、引き合うようにして呼ばれたのだそうだ。
故にあるはずのない召喚が、この世界樹の頂で叶えられた。
因果で結ばれた宿命の二人が、このユグドラシルで奇跡的に、呼び合い並び立ったのだろうと。
「だから守るよ。呼んでくれたからには、必ず」
その奇跡を無駄にはしない。
立花響は絶対に、スバル・ナカジマが守り抜く。
その身も心も、責任を持って、キャスターのサーヴァントが守ると誓う。
そのために自分はここにいるのだと、スバルはそう宣言した。
「……多分、それが英霊ってことなんですよ」
ああ、この人は英雄だ。
口では否定しようとも、どうしようもなくヒーローだ。
立花響はそう思い、微笑を浮かべて玄関を開く。
救いを求める人がいれば、駆けつけてその手を差し伸べる。
たとえ心を傷つけたとしても。たとえ誰に語られずとも。
その在り方は、どうしようもなく、英雄という呼び名そのものだった。
そうあれたらと心から思える、眩しくて誇り高い在り方だった。
正義の代償の苦しみを、忘れたわけではないけれど。
本当は英雄なんてものが、必要とされないような平和な世界が、響の望みではあるのだけれど。
(やっぱり、気が合うってことなのかな)
やはり自分とこの人とは、似た者同士の人間なのだ。
その在り方を貫いた、スバル・ナカジマの魂は、自分の憧れるものだったのだ。
その心意気に惹かれている、立花響という人間を、否定することはできなかった。
【E-4/学術地区・学生寮・響の部屋/一日目 午前】
【立花響@戦姫絶唱シンフォギアG】
[状態]魔力残量8割、ダメージ(小)
[令呪]残り三画
[装備]ガングニール(肉体と同化)
[道具]学校カバン
[所持金]やや貧乏(学生のお小遣い程度)
[思考・状況]
基本行動方針:ガングニールの過剰融合を抑えるため、メンターから回復魔法を教わる
1.ルイズ達の安否を確認するため、ヴァリエール邸に向かう
2.学校の時間以外は、ルイズと一緒にメンターの指導を受ける
3.ルイズと共に回復魔法を無事に習得できたら、聖杯戦争からの脱出方法を探る
4.両備の復讐を止めたい
5.出会ったマスターと戦闘になってしまった時は、まずは理由を聞く。いざとなれば戦う覚悟はある
6.スバルの教えを無駄にしない。自分を粗末には扱わない
[備考]
※E-4にある、高校生用の学生寮で暮らしています
※シンフォギアを纏わない限り、ガングニール過剰融合の症状は進行しないと思われます。
なのはとスバルの見立てでは、変身できるのは残り2回(予想)です。
特に絶唱を使ったため、この回数は減少している可能性もあります。
※ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが脱落していることに気付いていません
【キャスター(スバル・ナカジマ)@魔法戦記リリカルなのはForce】
[状態]全身ダメージ(小・回復中)、脇腹ダメージ(中・回復中)
[装備]『進化せし鋼鉄の走者(マッハキャリバーAX)』、包帯
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:ルイズ・なのは組と協力し、マスターの願いを叶えて元の世界に帰す
1.なのは達の安否を確認するため、ヴァリエール邸に向かう
2.金色のサーヴァント(=ハービンジャー)を警戒
3.ルイズと響に回復魔法を習得させる
4.戦闘時にはマスターは前線に出さず、自分が戦う
5.ルイズと響が回復魔法を習得できたら、聖杯戦争からの脱出方法を探る
6.万が一、回復魔法による解決が成らなかった場合、たとえなのはと戦ってでも、聖杯を手に入れるために行動する
[備考]
※4つの塔を覆う、結界の存在を知りました
※ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール&高町なのは組と情報を交換し、同盟を結びました。
同盟内容は『ルイズと響に回復魔法を習得させ、共に聖杯戦争から脱出する』になります
※予選敗退後に街に取り残された人物が現れ、目の前で戦いに巻き込まれた際、何らかの動きがあるかもしれません。
※明け方に特級住宅街へ向かい、戦闘が終わっていたことを確認しています。
ただし、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが脱落していることには気付いていません。
最終更新:2015年12月07日 20:54