三様の想い ◆nig7QPL25k


 一般のジュニアハイスクールに通う、日本人の少女・鹿目まどか。
 謎の失踪を遂げた彼女を、美樹さやかは、結局自力では見つけられなかった。
 無事を確認したのは、捜索を打ち切って家に帰り、まどかの家に電話をかけた時のことだ。
 家に帰っていたまどかは、学校に来られなかった理由として、事故に遭っていたと話していた。

「あのさ……ひょっとして、何か危ないことに、巻き込まれたりしてない? ほら、最近物騒だからさ」

 もしかしたら、サーヴァントの襲撃を受け、命を脅かされていたのではないか。
 そういう意図を込めた質問には、曖昧な返事しか返ってこなかった。


 いつも通りに夕食を食べ、いつも通りに宿題を解く。
 いつも通りに風呂に入って、着替えをし自室へと戻る。
 行動はいつも通りのものだ。違うことといえば、聖杯戦争の本戦が、この夜から始まったということだろうか。

「……サーヴァントに襲われたなんて、言えないよねー……」

 ベッドに転がりながら、美樹さやかは言う。
 恐ろしい化け物に襲われたなど、たとえマスターでなかったとしても、そうそう言えることではない。
 何しろそんなことを言っても、信じてもらえないからだ。
 だから、ああいう曖昧な返事になったのも、仕方ないと言えば仕方ないのだろう。
 そうなのだと、彼女は信じたかった。

「――随分あっさりと、あいつのことを信じるんだな」

 そこに水を差したのが、さやかの従えるサーヴァントだった。
 燃える業火の中生まれ落ちた、炎の剣騎士、レオン・ルイス。
 その赤い瞳は冷たく光り、さやかの抱く考えを、甘いものだと一蹴したのだ。

「何よ」
「普通に考えておかしいだろ。何の力もないNPCが、サーヴァントから逃げ切ったなんてことは」
「それはその……たとえば、また別のサーヴァントが乱入してきて、放っておかれたとか」
「ない話じゃない。けどな、あくまで可能性の一つだ」

 偶然よりは必然の方が、確率としては高いぞと、レオンは厳しく言い放つ。
 死ぬはずだった人間が、たまたま生き残ったというよりは。
 逆に襲われた人間の方が、生き残るべき勝者となった。
 鹿目まどかはマスターで、他のマスターの攻撃を受け、辛くも勝利し自宅へと帰った。
 そう考えた方が不自然はないと、己のマスターに向かってそう言ったのだ。

「………」
「……まぁ、認めたくないのは分かる。お前のことだからな」

 思い返すのは、出会った日に聞いた、暁美ほむらへの想いだ。
 明らかに敵である彼女に対しても、さやかは殺すという選択肢を躊躇った。
 それはひとえに、かつてのほむらが、さやかの仲間だったからだ。
 であれば、現在進行形で友人であるまどかを、容易く敵と見なせるはずもない。
 それはレオン・ルイスにも、理解できていたことだった。

「だがだとしても、その可能性から、決して目を逸らさないことだ。殺したくないなら、どうすればいいか、自分の頭で考えろ」

 それでも、それだけは言っておかねばならなかった。
 まどかを殺したくないにせよ、殺さずに済む方法を、何か考えなければならない。
 それを怠り、ただ現実逃避を続けていては、変えられる状況も変えられないのだ。

「……分かってるわよ」

 憮然とした表情を作りながら、さやかはレオンへと返した。
 ため息をつきながらも、レオンはそれで納得し、霊体となって姿を消す。
 部屋に残されたさやかは、明かりを消すと、そのまま布団へと潜り込んだ。

(どうすればいいか、か……)

 答えはすぐには出せそうにない。
 サーヴァントを倒して強制退場させる、というのも手だ。しかし、安全だと明言されていないのは、不思議と気になる。
 割り切れれば楽なのだろうが、あれは自分の友達だ。
 まだ知り合って間もないといえど、親友と呼べるほどの相手でないにせよ、友人の一人には間違いないのだ。

「……やめよう」

 これ以上考えてもこんがらがるだけだ。
 頭をリフレッシュさせるためにも、今夜はこのまま寝ることにしよう。
 一度気分を落ち着かせて、それからまた明日考えればいい。
 問題を先延ばししているだけだとは分かっていたが、それでも今日はそうしたかった。
 そうしてさやかは、仰向けになると、そのままゆっくりと目を閉じた。



【C-2/一般住宅街・美樹家/一日目 深夜】

【美樹さやか@[新編]魔法少女まどか☆マギカ 叛逆の物語】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]やや貧乏(学生の小遣い程度)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れる
1.今夜はこのまま寝る。明日のことは明日考える
2.まどかに対して……?
3.人を襲うことには若干の抵抗。できればサーヴァントを狙いたい
[備考]
※C-2にある一軒家に暮らしています
※サーヴァントを失い強制退場させられたマスターが、安全に聖杯戦争から降りられるかどうか、疑わしく思っています
※鹿目まどかがマスターではないかと疑っています(あまりマスターだとは考えたくない)

【セイバー(レオン・ルイス)@牙狼-GARO- 炎の刻印】
[状態]健康
[装備]魔戒剣
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターを守って戦う
1.明日の行動方針を考える
2.鹿目まどかに対して不審。同時に、彼女を敵だと思いたくないさやかに対して懸念
[備考]
※鹿目まどかがマスターではないかと疑っています




 天に煌めく星座を望む。
 屋根の上に腰掛けて、頭上に広がる夜空を見上げる。
 ロングコートをはためかせるのは、アーチャーのサーヴァント――射手座(サジタリアス)の星矢。
 身に受けた傷を隠すように、コートを纏った青年は、一人鹿目家の屋根の上で、またたく星空を見ていた。

《さっきの電話は、君の友人か?》

 屋根の下へと念話を送った。
 相手はこの地に降り立って、自分と契約を果たした、鹿目まどかというマスターだ。
 己の小宇宙が、自分自身ではなく、他人の身から供給されるというのは、なんとも不思議な感触ではあった。

《はい、そうです》
《そうか……いい友を持ったな、まどかは》
《はい……元の世界にもいた友達なんですけど、転校してきたばかりの私にも、よくしてくれてるんです》

 この偽りの仮想世界には、顔見知りと同じ姿をした人間が、何人かNPCとして再現されているらしい。
 その一人が電話をしてきた、美樹さやかという友人なのだそうだ。
 そう語るまどかの声音は、少し弾んだように聞こえていた。

《帰らなくてはいけないな……その友人達のもとへ》
《……そうですね》

 鹿目まどかには願いがない。
 聖杯にかけるほどの大望もなく、この世界樹へと招かれて、戦いを強いられてしまっている。
 そうして彼以前のサーヴァントを喪い、命の危機に瀕したまどかには、それとは別の想いが芽生えていた。
 元の世界へと帰りたい。
 聖杯などはどうでもいいから、一刻も早く脱出したい。
 それこそが鹿目まどかという少女の、偽らざる心からの願いだった。

《俺は君のためにも、身を隠さなければならない。だから、常に君の隣にいることはできないだろう》
《分かりました。でも、何かあったら……》
《そうだ。すぐに俺を呼んでくれ。たとえ令呪を使ってでもな》

 まどかから聞いたことだが、正規のサーヴァントでない星矢には、足りない能力があるらしい。
 それが自らの体を透化し、気配を消す霊体化という力なのだそうだ。
 これを使えない星矢には、姿を消してまどかの傍に立ち、その身を守ってやることができない。
 わざわざ体を蝕む傷――魔傷をコートで隠したのも、そういう事情があってのことだった。

(できないことは多い)

 もどかしい。
 守るべきマスターのまどかに、不自由を強いている自分が、情けないとは思っている。
 だとしても、守り抜かねばならないと思った。
 邪心を持つ他のマスターの、優勝するための糧とさせないためにも。
 自分自身もここから抜け出し、邪悪な神々と戦うためにも。
 何より、地上の愛と平和を守る、聖闘士の使命を果たすためにも。
 地上に住む人間の命を――鹿目まどかという少女の命を、決して見捨てるわけにはいかないのだ。
 偽りの夜空の向こうにある、あるべき世界の姿を見据え、星矢は決意を強く固めた。



【B-4/一般住宅街・鹿目家/一日目 深夜】

【鹿目まどか@[新編]魔法少女まどか☆マギカ 叛逆の物語】
[状態]
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]やや貧乏(学生の小遣い程度)
[思考・状況]
基本行動方針:帰りたい
1.とりあえず寝る
2.あまり戦いたくない
3.何かあったら星矢を呼ぶ。令呪による強制転移もケチらずに使う
[備考]
※B-4にある一軒家に暮らしています
※美樹さやかがマスターであることに気付いていません

【アーチャー(星矢)@聖闘士星矢Ω】
[状態]魔傷
[装備]『射手座の黄金聖衣(サジタリアスクロス)』
[道具]コート
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターを守り抜く
1.世界樹から脱出し、元の世界へ帰る方法を探す
2.霊体化ができない以上、どうにかして身を隠す。マスターに呼ばれればすぐに駆けつける
3.聖杯を悪用しようとする者がいれば、戦って阻止する
[備考]
※霊体化を行うことができません




 その様を、見ていた者がいた。
 正確には己の使い魔を通し、報告を受け取ることによって、把握していた者がいた。

《驚いたわね。あからさまに怪しい人間が、本当に彼女の家にいたわ》

 あれは間違いなくサーヴァントよと、美国織莉子が語りかける。
 学生寮のワンルームで、報告を受け取っているのは、黒髪を伸ばした中学生の少女だ。
 元・魔法少女、暁美ほむら。
 世界を神の手から簒奪し、己が箱庭へと変えた悪魔。
 鹿目まどかという少女とは、因縁浅からぬ存在である。

《そう……ご苦労様。貴方はそのままその場所で、まどかの監視に当たってちょうだい》
《夜通し? いいのかしら、貴方自身を守らなくても?》
《必要ないわ。自分の身くらいは守れる》
《大層な自信だこと》

 くすくすと笑う織莉子の声が、念話越しに聞こえてきた。
 忌々しい煽りを今は無視し、ほむらは問題ないと告げる。
 大幅に制限されてこそいるものの、この手には並のマスター共よりも、遥かに強力な力がある。
 空を飛んで弓を射る、という程度の括りには、今の彼女の力は収まらないだろう。
 魔力で大地をひっくり返し、石つぶての雨あられを降らせるくらいなら、世界への干渉も可能だ。
 仮に襲撃されたとしても、織莉子と合流するまでの間、逃げ切るくらいのことはできるはずだ。

《まぁいいわ。マスターがそう言うのなら、今は彼女を見守ってあげる》
《気のない返事ね》
《聖杯が欲しいというのなら、切り捨ててしまった方が、貴方にとっては気が楽になるはずよ》

 それはかつての最悪の魔女を、嫌悪するが故の言葉ではない。
 好悪の感情を全て切り捨て、効率のみを考えた、極めて冷静な意見だった。

《貴方になら理解できるでしょう。たとえ一部に過ぎないものでも、いずれ取り返せるものだとしても、切り捨てるという発想からして論外なのよ》

 それでも、そうするわけにはいかなかった。
 なにせ相手はまどかなのだ。
 最も大切な存在で、最愛最高の友達なのだ。
 いずれ聖杯の力を手にすれば、まどかの全てを掌握し、その使命から解放することができる。
 彼女という一部が犠牲になっても、世界の大勢には影響はない。
 だが、そんな風に蔑ろにする時点で、彼女を愛する者としては、0点以下の失格者なのだ。
 全てのまどかを受け入れて、全てのまどかを愛し抜く。
 たとえほんの一部であっても、それは尊い全部の中の一部だ。であればその一部であるまどかも、同様に尊く想うべきだ。

(貴方を切り捨てたりはしない)

 故にまどかを殺害し、ただ一人の優勝者となる気はない。
 選ぶとするなら両方だ。まどかを生存させた上で、聖杯戦争を管理する者から、聖杯を強引に奪い取る道だ。
 そのことに対して、暁美ほむらは、一切の迷いも躊躇いもなかった。



【C-4/学術地区・中学校の学生寮/一日目 深夜】

【暁美ほむら@[新編]魔法少女まどか☆マギカ 叛逆の物語】
[状態]健康
[令呪]残り二画
[装備]ダークオーブ
[道具]財布
[所持金]普通(一人暮らしを維持できるレベル)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れる
1.まどかを殺すことなど考えられない。他のマスターからまどかを死守する
2.まどかを生かしつつ、聖杯を手に入れる方法を模索する
[備考]
※鹿目まどかがマスターであると知りました


【B-4/一般住宅街/一日目 深夜】

【美国織莉子(セイヴァー)@魔法少女おりこ☆マギカ】
[状態]健康
[装備]ソウルジェム
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、聖杯を手に入れる
1.とりあえずはほむらの言う通りに動く
2.ほむらの命令に従い、鹿目まどかを監視し、護衛する
3.まどかを生かすことは、道徳的な意味ではともかく、戦略上はさほど重要視していない
[備考]
※令呪により、「マスターに逆らってはならない」という命令を課せられています
※鹿目まどかがマスターであると知りました



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