三様の想い ◆nig7QPL25k
一般のジュニアハイスクールに通う、日本人の少女・鹿目まどか。
謎の失踪を遂げた彼女を、美樹さやかは、結局自力では見つけられなかった。
無事を確認したのは、捜索を打ち切って家に帰り、まどかの家に電話をかけた時のことだ。
家に帰っていたまどかは、学校に来られなかった理由として、事故に遭っていたと話していた。
「あのさ……ひょっとして、何か危ないことに、巻き込まれたりしてない? ほら、最近物騒だからさ」
もしかしたら、サーヴァントの襲撃を受け、命を脅かされていたのではないか。
そういう意図を込めた質問には、曖昧な返事しか返ってこなかった。
◆
いつも通りに夕食を食べ、いつも通りに宿題を解く。
いつも通りに風呂に入って、着替えをし自室へと戻る。
行動はいつも通りのものだ。違うことといえば、聖杯戦争の本戦が、この夜から始まったということだろうか。
「……サーヴァントに襲われたなんて、言えないよねー……」
ベッドに転がりながら、美樹さやかは言う。
恐ろしい化け物に襲われたなど、たとえマスターでなかったとしても、そうそう言えることではない。
何しろそんなことを言っても、信じてもらえないからだ。
だから、ああいう曖昧な返事になったのも、仕方ないと言えば仕方ないのだろう。
そうなのだと、彼女は信じたかった。
「――随分あっさりと、あいつのことを信じるんだな」
そこに水を差したのが、さやかの従えるサーヴァントだった。
燃える業火の中生まれ落ちた、炎の剣騎士、レオン・ルイス。
その赤い瞳は冷たく光り、さやかの抱く考えを、甘いものだと一蹴したのだ。
「何よ」
「普通に考えておかしいだろ。何の力もないNPCが、サーヴァントから逃げ切ったなんてことは」
「それはその……たとえば、また別のサーヴァントが乱入してきて、放っておかれたとか」
「ない話じゃない。けどな、あくまで可能性の一つだ」
偶然よりは必然の方が、確率としては高いぞと、レオンは厳しく言い放つ。
死ぬはずだった人間が、たまたま生き残ったというよりは。
逆に襲われた人間の方が、生き残るべき勝者となった。
鹿目まどかはマスターで、他のマスターの攻撃を受け、辛くも勝利し自宅へと帰った。
そう考えた方が不自然はないと、己のマスターに向かってそう言ったのだ。
「………」
「……まぁ、認めたくないのは分かる。お前のことだからな」
思い返すのは、出会った日に聞いた、暁美ほむらへの想いだ。
明らかに敵である彼女に対しても、さやかは殺すという選択肢を躊躇った。
それはひとえに、かつてのほむらが、さやかの仲間だったからだ。
であれば、現在進行形で友人であるまどかを、容易く敵と見なせるはずもない。
それはレオン・ルイスにも、理解できていたことだった。
「だがだとしても、その可能性から、決して目を逸らさないことだ。殺したくないなら、どうすればいいか、自分の頭で考えろ」
それでも、それだけは言っておかねばならなかった。
まどかを殺したくないにせよ、殺さずに済む方法を、何か考えなければならない。
それを怠り、ただ現実逃避を続けていては、変えられる状況も変えられないのだ。
「……分かってるわよ」
憮然とした表情を作りながら、さやかはレオンへと返した。
ため息をつきながらも、レオンはそれで納得し、霊体となって姿を消す。
部屋に残されたさやかは、明かりを消すと、そのまま布団へと潜り込んだ。
(どうすればいいか、か……)
答えはすぐには出せそうにない。
サーヴァントを倒して強制退場させる、というのも手だ。しかし、安全だと明言されていないのは、不思議と気になる。
割り切れれば楽なのだろうが、あれは自分の友達だ。
まだ知り合って間もないといえど、親友と呼べるほどの相手でないにせよ、友人の一人には間違いないのだ。
「……やめよう」
これ以上考えてもこんがらがるだけだ。
頭をリフレッシュさせるためにも、今夜はこのまま寝ることにしよう。
一度気分を落ち着かせて、それからまた明日考えればいい。
問題を先延ばししているだけだとは分かっていたが、それでも今日はそうしたかった。
そうしてさやかは、仰向けになると、そのままゆっくりと目を閉じた。
【C-2/一般住宅街・美樹家/一日目 深夜】
【美樹さやか@[新編]魔法少女まどか☆マギカ 叛逆の物語】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]やや貧乏(学生の小遣い程度)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れる
1.今夜はこのまま寝る。明日のことは明日考える
2.まどかに対して……?
3.人を襲うことには若干の抵抗。できればサーヴァントを狙いたい
[備考]
※C-2にある一軒家に暮らしています
※サーヴァントを失い強制退場させられたマスターが、安全に聖杯戦争から降りられるかどうか、疑わしく思っています
※鹿目まどかがマスターではないかと疑っています(あまりマスターだとは考えたくない)
【セイバー(レオン・ルイス)@牙狼-GARO- 炎の刻印】
[状態]健康
[装備]魔戒剣
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターを守って戦う
1.明日の行動方針を考える
2.鹿目まどかに対して不審。同時に、彼女を敵だと思いたくないさやかに対して懸念
[備考]
※鹿目まどかがマスターではないかと疑っています
◆
天に煌めく星座を望む。
屋根の上に腰掛けて、頭上に広がる夜空を見上げる。
ロングコートをはためかせるのは、アーチャーのサーヴァント――射手座(サジタリアス)の星矢。
身に受けた傷を隠すように、コートを纏った青年は、一人鹿目家の屋根の上で、またたく星空を見ていた。
《さっきの電話は、君の友人か?》
屋根の下へと念話を送った。
相手はこの地に降り立って、自分と契約を果たした、鹿目まどかというマスターだ。
己の小宇宙が、自分自身ではなく、他人の身から供給されるというのは、なんとも不思議な感触ではあった。
《はい、そうです》
《そうか……いい友を持ったな、まどかは》
《はい……元の世界にもいた友達なんですけど、転校してきたばかりの私にも、よくしてくれてるんです》
この偽りの仮想世界には、顔見知りと同じ姿をした人間が、何人かNPCとして再現されているらしい。
その一人が電話をしてきた、美樹さやかという友人なのだそうだ。
そう語るまどかの声音は、少し弾んだように聞こえていた。
《帰らなくてはいけないな……その友人達のもとへ》
《……そうですね》
鹿目まどかには願いがない。
聖杯にかけるほどの大望もなく、この世界樹へと招かれて、戦いを強いられてしまっている。
そうして彼以前のサーヴァントを喪い、命の危機に瀕したまどかには、それとは別の想いが芽生えていた。
元の世界へと帰りたい。
聖杯などはどうでもいいから、一刻も早く脱出したい。
それこそが鹿目まどかという少女の、偽らざる心からの願いだった。
《俺は君のためにも、身を隠さなければならない。だから、常に君の隣にいることはできないだろう》
《分かりました。でも、何かあったら……》
《そうだ。すぐに俺を呼んでくれ。たとえ令呪を使ってでもな》
まどかから聞いたことだが、正規のサーヴァントでない星矢には、足りない能力があるらしい。
それが自らの体を透化し、気配を消す霊体化という力なのだそうだ。
これを使えない星矢には、姿を消してまどかの傍に立ち、その身を守ってやることができない。
わざわざ体を蝕む傷――魔傷をコートで隠したのも、そういう事情があってのことだった。
(できないことは多い)
もどかしい。
守るべきマスターのまどかに、不自由を強いている自分が、情けないとは思っている。
だとしても、守り抜かねばならないと思った。
邪心を持つ他のマスターの、優勝するための糧とさせないためにも。
自分自身もここから抜け出し、邪悪な神々と戦うためにも。
何より、地上の愛と平和を守る、聖闘士の使命を果たすためにも。
地上に住む人間の命を――鹿目まどかという少女の命を、決して見捨てるわけにはいかないのだ。
偽りの夜空の向こうにある、あるべき世界の姿を見据え、星矢は決意を強く固めた。
【B-4/一般住宅街・鹿目家/一日目 深夜】
【鹿目まどか@[新編]魔法少女まどか☆マギカ 叛逆の物語】
[状態]
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]やや貧乏(学生の小遣い程度)
[思考・状況]
基本行動方針:帰りたい
1.とりあえず寝る
2.あまり戦いたくない
3.何かあったら星矢を呼ぶ。令呪による強制転移もケチらずに使う
[備考]
※B-4にある一軒家に暮らしています
※美樹さやかがマスターであることに気付いていません
【アーチャー(星矢)@聖闘士星矢Ω】
[状態]魔傷
[装備]『射手座の黄金聖衣(サジタリアスクロス)』
[道具]コート
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターを守り抜く
1.世界樹から脱出し、元の世界へ帰る方法を探す
2.霊体化ができない以上、どうにかして身を隠す。マスターに呼ばれればすぐに駆けつける
3.聖杯を悪用しようとする者がいれば、戦って阻止する
[備考]
※霊体化を行うことができません
◆
その様を、見ていた者がいた。
正確には己の使い魔を通し、報告を受け取ることによって、把握していた者がいた。
《驚いたわね。あからさまに怪しい人間が、本当に彼女の家にいたわ》
あれは間違いなくサーヴァントよと、美国織莉子が語りかける。
学生寮のワンルームで、報告を受け取っているのは、黒髪を伸ばした中学生の少女だ。
元・魔法少女、暁美ほむら。
世界を神の手から簒奪し、己が箱庭へと変えた悪魔。
鹿目まどかという少女とは、因縁浅からぬ存在である。
《そう……ご苦労様。貴方はそのままその場所で、まどかの監視に当たってちょうだい》
《夜通し? いいのかしら、貴方自身を守らなくても?》
《必要ないわ。自分の身くらいは守れる》
《大層な自信だこと》
くすくすと笑う織莉子の声が、念話越しに聞こえてきた。
忌々しい煽りを今は無視し、ほむらは問題ないと告げる。
大幅に制限されてこそいるものの、この手には並のマスター共よりも、遥かに強力な力がある。
空を飛んで弓を射る、という程度の括りには、今の彼女の力は収まらないだろう。
魔力で大地をひっくり返し、石つぶての雨あられを降らせるくらいなら、世界への干渉も可能だ。
仮に襲撃されたとしても、織莉子と合流するまでの間、逃げ切るくらいのことはできるはずだ。
《まぁいいわ。マスターがそう言うのなら、今は彼女を見守ってあげる》
《気のない返事ね》
《聖杯が欲しいというのなら、切り捨ててしまった方が、貴方にとっては気が楽になるはずよ》
それはかつての最悪の魔女を、嫌悪するが故の言葉ではない。
好悪の感情を全て切り捨て、効率のみを考えた、極めて冷静な意見だった。
《貴方になら理解できるでしょう。たとえ一部に過ぎないものでも、いずれ取り返せるものだとしても、切り捨てるという発想からして論外なのよ》
それでも、そうするわけにはいかなかった。
なにせ相手はまどかなのだ。
最も大切な存在で、最愛最高の友達なのだ。
いずれ聖杯の力を手にすれば、まどかの全てを掌握し、その使命から解放することができる。
彼女という一部が犠牲になっても、世界の大勢には影響はない。
だが、そんな風に蔑ろにする時点で、彼女を愛する者としては、0点以下の失格者なのだ。
全てのまどかを受け入れて、全てのまどかを愛し抜く。
たとえほんの一部であっても、それは尊い全部の中の一部だ。であればその一部であるまどかも、同様に尊く想うべきだ。
(貴方を切り捨てたりはしない)
故にまどかを殺害し、ただ一人の優勝者となる気はない。
選ぶとするなら両方だ。まどかを生存させた上で、聖杯戦争を管理する者から、聖杯を強引に奪い取る道だ。
そのことに対して、暁美ほむらは、一切の迷いも躊躇いもなかった。
【C-4/学術地区・中学校の学生寮/一日目 深夜】
【暁美ほむら@[新編]魔法少女まどか☆マギカ 叛逆の物語】
[状態]健康
[令呪]残り二画
[装備]ダークオーブ
[道具]財布
[所持金]普通(一人暮らしを維持できるレベル)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れる
1.まどかを殺すことなど考えられない。他のマスターからまどかを死守する
2.まどかを生かしつつ、聖杯を手に入れる方法を模索する
[備考]
※鹿目まどかがマスターであると知りました
【B-4/一般住宅街/一日目 深夜】
【美国織莉子(セイヴァー)@魔法少女おりこ☆マギカ】
[状態]健康
[装備]ソウルジェム
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、聖杯を手に入れる
1.とりあえずはほむらの言う通りに動く
2.ほむらの命令に従い、鹿目まどかを監視し、護衛する
3.まどかを生かすことは、道徳的な意味ではともかく、戦略上はさほど重要視していない
[備考]
※令呪により、「マスターに逆らってはならない」という命令を課せられています
※鹿目まどかがマスターであると知りました
最終更新:2015年09月22日 23:56