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「鋼人相打つ」(2016/07/27 (水) 21:47:39) の最新版変更点
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*鋼人相打つ
生きることを諦める気はない。
ここから生きて帰るためにも、戦う覚悟はできている。
それでも、きっとそれだけでは駄目だ。
ただ襲ってきた敵を、戦って倒すだけでは駄目なのだ。
ルイズ・フランソワーズもそうだった。あの両備もまたそうだった。
彼女達は皆、何らかの願いを携えて、この戦いの場に集った。
そうした者達と戦うということは、願いを叶えたいという意志と、戦いねじ伏せるということなのだ。
だからこそ、このままではいられない。
何も知ろうともしないまま、黙っているわけにはいかない。
彼女も願いがあると言った。それは聖杯でなければ、叶えられないとまで言い切った。
それを知らぬふりをしたまま、無情に踏みにじることなど、自分には到底できるはずもない。
戦う覚悟はできている。
次に決めるのは、背負う覚悟だ。
なればこそ、今取るべき行動は――
◆
格下が格上の周囲を回る――ある者が語った戦いの常道だ。
力と力がぶつかり合うなら、力の弱い者の方が、付け入る隙を探そうとするからだ。
そして今まさにスバル・ナカジマは、その理屈をその身で実践していた。
(夕べの奴もすごかったけど……)
モーター音を轟かせる。
不整地をガリガリと削りながら、ローラーブレードを走らせる。
黄金のサーヴァントは確かに手強かった。
あれだけ激烈なパワーの持ち主には、そうそう巡り合うことはないだろうと、一瞬前まではそう思っていた。
しかし違う。あれは違う。
今まさに周囲を回って、隙を探している相手は、もっと根本的に違う相手だ。
『――グレートタイフーンッ!!』
拡声器越しの雄叫びが上がった。
轟――と唸って襲いかかるのは、恐るべき破壊力を宿した竜巻だ。
読んで字のごとく龍のような、巨大で苛烈な風の叫びが、スバルめがけて襲いかかる。
「っ!」
跳躍。飛び退って回避。
されど規模が桁違いだ。一度跳んだだけでは避けられない。
家屋を伝う。更に伝う。
襲いかかるテンペストは、たっぷり建物三軒分を経て、ようやく鼻先を掠めるに至った。
瞬間、猛烈な余波が体を煽り、スバルを勢いよく吹き飛ばす。
地を離れればウィングロードは出せない。『進化せし鋼鉄の走者(マッハキャリバーAX)』 のエンジンを噴かせ、空中で強引に軌道修正。
勢いを殺し宙に浮いて、スバルは改めて敵を見た。
眼下で金色の瞳を光らす、黒鉄の巨人の姿を見据えた。
『どうしたどうした! もう終わりかァ!』
スーパーロボット、『偉大な勇者(グレートマジンガー)』。
コックピットで息を巻く、あのライダーのサーヴァントはそう言ったか。
その口から巨大な竜巻を吹き出し、大地に悠然とそそり立つのは、AIが算出した身長が、25メートルにも及ぶ大巨人だ。
いくら何でもめちゃくちゃだと、何度目とも知れない感想を、スバルは胸中で繰り返した。
天を貫くほどの巨体からは、地を砕くほどの技が繰り出され、世界樹を大いに揺さぶっている。
直接接触を避けている以上、夕べの敵とは比較しようもないが、あれとは明らかに別問題の存在だと、それだけは認識できている。
レギュレーションギリギリ最上限というよりは、凶器持ち込みで失格だとか、そういう類の反則ではないのか。
サーヴァント同士の戦いに、ああいうスーパーロボットを持ち込むというのは。
『追いかけっこが望みなら付き合ってやるぜ! アトミックパンチ!!』
鋼鉄の巨腕が持ち上げられる。
漆黒の鉄拳が突き出される。
瞬間、火を噴き発射されたのは、腕そのものを弾頭として、放つ必殺のロケットパンチだ。
それも10倍上のサイズ差があっては、当たりでもすればひとたまりもない。
「このっ!」
道路に着地すると同時に、『進化せし鋼鉄の走者(マッハキャリバーAX)』をフルアクセル。
ジグザグに通りを進みながら、迫り来るアトミックパンチを巻かんとする。
しかし駄目だ。逃れられない。
敵も間抜けではないのだ。自在に飛び回る鉄拳は、敵に狙いを定めれば最後、当たるまで追い続けるホーミングミサイルだ。
建物を次々と薙ぎ倒し、立派なお屋敷を貫通し、なおも拳は勢いを増して、スバルへと襲いかかってくる。
(これ以上被害を拡げるわけには!)
同時にスバルを襲ったのは、焦りだ。
ここに生きている人間のほとんどは、命を持たないデータに過ぎない。
しかし今まで壊された家屋に、記憶を失ったままでいる、生身の人間がいたとしたら。
そう考えると、これ以上逃げ回り続けて、いたずらに被害を拡げるわけにはいかない。
非合理的な判断だが、そのお人好しと甘さこそが、スバル・ナカジマという人間なのだ。
「はっ!」
地を叩く。光を放つ。
ウィングロードを展開し、上方に向かって駆け上がる。
速く、早く。敵のロケットパンチが反応し、こちらに方向を転換するより。
舵を取って空を駆け、唸りを上げるアトミックパンチと、すれ違う軌道へとロードを生成。
一瞬の直感に身を任せ、鉄拳に飛び降り跨ると、左手を勢いよく振りかざした。
「ソード・ブレイク!」
やるべきことは先程と同じだ。
南無三と胸中で唱えながら、パンチに超振動をぶつける。
先ほどとはサイズも強度も違うが、試すなら同じ要領でいけるはずだ。
あとはこの宝具の神秘性に、このスキルが通じうるかどうか。
『チッ、やりやがったな!』
結果は見事成功だ。
舌打ちと忌々しげな声が聞こえた。
迸る衝撃は鋼を伝い、光沢を放つ装甲板に、無惨な亀裂を走らせていく。
たまらずアトミックパンチは、急速に方向転換して本体へ戻った。
あまりの勢いに乗りかかったスバルが、振り落とされてしまったほどだ。
宝具を傷つけるともなると、容易ではあるまいとは思っていたが、ともあれ奴のロボットには、通用することは明らかになった。
ならばこの隙は逃さない。奴が態勢を立て直す前に、一気に決着をつけてやる。
「うぉおおおっ!」
アトミックパンチが引っ込む前に、エンジンを全開で噴かせて突撃。
逃げる時とは対照的に、一直線に疾駆する。
『ネーブルミサイル!!』
それでも、敵も引き下がらない。
腹部のハッチを開くや否や、襲い来るのはミサイルの雨だ。
炎の尾を引く弾頭が、次々と腹から発射され、スバル・ナカジマの行く手を阻む。
「リボルバーシュートッ!」
なるべくなら回避せず済ませたい。されどこれだけのサイズ差だ。シールドで受け止め続けるのはしんどい。
すぐさまカートリッジをロードし、魔力弾にて撃墜を図る。
一発、二発、五発、十発。
青く輝く弾丸が、続々とリボルバーナックルから放たれ、上空に真っ赤な花火を咲かせる。
《キャスターさん、聞こえますかッ!?》
その時だ。
不意にスバルの脳内に、マスターの念話が飛び込んできたのは。
《聞こえるよ。どうしたの、響?》
リボルバーシュートの手は緩めず、意識だけを念話に向けて、スバルは返事の言葉を送る。
《できればでいいんですが、そのままロボットの相手を、お任せしてもいいですか?》
《? どうして?》
《……風ちゃんとの話が、まだついてません。私はもう一度、あの子と話をしてみます》
一瞬、眉がぴくりと動いた。
反応が遅れ、取り逃がしたミサイルを、やむなく跳躍して回避した。
爆風が容赦なく巻き起こり、足元からスバルへ襲いかかる。
ばたばたとバリアジャケットを煽られながらも、次なるカートリッジをロードし、残る標的に照準を定める。
《あの子の言った願い事を、私はまだ知りません。
それが私達の戦いの理由に、本当になってしまうものなのか……それを知らなきゃ、知らない顔で、戦うことなんてできません》
《それが本当に、響の道と、交わらないものだったとしても?》
恐らく響の胸にあるのは、脱落したルイズとなのはのことだ。
彼女らの願いは、響のそれとは、奇跡的にかち合わなかった。
だからこそ争いを回避し、同盟を結ぶことができたのだ。
ひょっとしたら、犬吠埼風相手にも、同じように力になれるかもしれない。
《構いません。戦い以外に道がなくても……それでも私は、きちんと相手と向き合いたい》
たとえそれが、本当に、響にもスバルにも救えないものでも。
恐らくは自分達と同じように、戦いをよしとしないであろう彼女が、それだけの覚悟を固めたというなら、それを真正面から受け止めたい。
それが響の願いであり、スバルへのわがままの理由だった。
《……しょうがないな。でも、長くはもたないかもよ?》
非合理なのは分かっている。
それでも、同じ甘ちゃん同士、否定することなどできようか。
爆発四散するミサイルの炎に、スバルは我が身を突っ込ませる。
灼熱の煙を引き裂いて、再び地面へと向かう。
《平気ですッ! 最短で最速で真っ直ぐに――》
《――一直線で間に合わせます、だよね?》
《……はいッ!》
最後に聞こえてきた響の念話は、少し弾んでいるように聞こえた。
それでいい。天真爛漫とした彼女には、ハの字の眉毛は似合わない。
彼女が笑顔で戦えるなら、己の決断を誇れるのなら、それこそが自らの存在の意義だ。
着地しグレートを目指しながら、スバル・ナカジマはそう思った。
風にマスターを攻撃する意思はない。グレートマジンガーの攻撃も、彼女のいる方向には向けられていない。
それでも、困難な道なのは確かだ。
だとしても、進むと彼女は決めたのだ。
「どぉりゃあああッ!」
なればこそ、その決意に応えずして、何が英霊スバル・ナカジマか。
再び飛び上がり、左手をかざす。
遂に猛攻を突破し、目前にまで迫ったスバルが、ソードブレイカーを解き放つ。
周波数は解析済みだ。叩きこめば容赦なく、あの装甲をぶち割ることができる。
裂帛の気合を込めた一撃が、遂にグレートマジンガーへと、突き出されたその瞬間。
「……えっ?」
何も、起こらなかった。
叩きつけられた左腕は、しかしその黒い装甲を、僅かに揺さぶっただけだった。
これは何だ。効いていないのか。どうしてこんなことが起こる。
一度通用した攻撃が、二度目は通じなかったなどということは、生前にも起こらなかったはずだ。
『俺のグレートは特注品でな! 超合金ニューZの装甲は、素粒子レベルで姿を変えて、グレートマジンガーの武器となる!』
「なっ!?」
『つまり性質を変えちまえば、音波や振動波の攻撃にも、対処可能って寸法よ!』
瞬間、驚愕するスバルを鉄拳が襲った。
丸太をも凌駕するサイズの腕が、鋼鉄の質量で殴りかかったのだ。
生身なら嘔吐していただろう。脳髄すら揺さぶる衝撃に、容赦なくスバルは吹き飛ばされる。
(傷が、ない……!?)
そして意識が薄れる直前、一瞬に視界をよぎったものを、スバルは決して見逃さなかった。
家屋の壁に叩きつけられ、目を覚ましたスバルが思い出したのは、亀裂の消え去った装甲板だ。
今の一撃に対策を打たれ、ソードブレイカーの効力を、極限まで殺されたことは認めよう。
しかしそれ以前に負わせた傷まで、回復しているというのはどういう理屈だ。
『そして空中元素固定装置! こいつが実現した回復機構は、このくらいのダメージなら、本体に戻った瞬間に修復可能!
グレートマジンガーを倒してぇのなら、一撃で吹っ飛ばすくらいの気概でかかってきな!』
慢心ではない。これは威圧だ。
突きつけられたその答えは、絶望的な現実だった。
要するに、こうか。
グレートマジンガーは、一度浴びせられた超振動に対し、即座に対策を講じてくる。
その上その都度チューニングを行い、異なる振動をぶつけたとしても、ダメージはすぐさま回復されてしまう。
超合金ニューZだけならまだいい。攻撃側と防御側で、位相を書き換え合うチューニング合戦に持ち込むだけだ。
しかしそこに超再生と、絶大なパワーが加われば、もはやその差は生半可なものでは、埋めがたいものになってくる。
(可能性があるとするなら、マスターにかかる魔力負荷か……)
もちろん、これほどの絶大な威力を誇る宝具だ。
犬吠埼風が超人だったとしても、この力を維持するだけでも、相当な負担がかかるだろう。
だからこそ、ライダーは最初からグレートを出さず、ブレーンコンドルで挑んできたのだ。
(……でも、ちょっとまずいかも)
かといって、魔力切れを悠長に待てるほど、こちらが持ちこたえられるかどうか。
町を守り、響を守り、あれだけの鉄巨人の猛威の前に、耐え抜くことができるのか。
大見得を切ってみたはいいが、請け負ったこの仕事は少しばかり、キャパシティオーバーだったかもしれない。
空へと聳える黒鉄の勇姿を、土埃を払い見上げながら、スバルは苦々しげに笑った。
◆
駆ける。走る。前へと進む。
瓦礫の山を飛び越えながら、風の飛び去った方角を目指す。
スバルは了承してくれたが、彼我の実力差を読み取れないほど、立花響も間抜けではない。
わがままを通しているからには、彼女が力尽きる前に、速やかにカタをつけなければ。
「――風ちゃんッ!」
そして、遂に響は見つけた。
灰色のコンクリートジャングルの中で、一輪だけ咲いたオキザリスを。
太陽のごとき彩りを放つ、犬吠埼風の黄装束を。
「っ! 響、さん……」
「よかった、見つかった……」
「……何をしに来たんですか。敵だって、あたし言いましたよね」
警戒し、大剣を突き出しながら、風は響に尋ねてくる。
シンフォギアを使うつもりはない。敵意を真っ向から向けながらも、立花響は未だ無手だ。
使えないという理由もあるが、マスターを殺す気はないという彼女の言葉に、嘘偽りがないのなら、その剣はただのポーズのはずだ。
そうなのだと、響は信じたかった。
「ちゃんと、聞いてなかったからさ。聖杯がなくちゃ叶わない、風ちゃんの叶えたい願いを」
だからこそ、立花響はストレートに、用件を犬吠埼風へとぶつけた。
「そのためだけに、こんな……?」
「大事だと思ったんだ。助け合って解決するためにも……それが本当に叶わなくって、戦わなくちゃいけなくなったとしても」
思い返すのは、夕べの戦いだ。
憎しみのオッドアイで睨みつけてきた、あの両備という少女の姿だ。
彼女の復讐という動機に対して、どのようなリアクションを取ればいいのか、響にはどうしても分からなかった。
それでも、もしもそれを聞くことがなければ、どんな言葉をかければいいかと、考えることすらもできなかっただろう。
それは恐らく、彼女に対して、とても失礼なことだと思った。
どれほど両備が――犬吠埼風が、余計なお世話だと拒絶したとしても。
願いを懸けてぶつかり合うなら、いずれ踏みにじるかもしれない願いを、背負っていかなければならないのだ。
「……これです。聖杯で叶えたい、あたしの願いは」
一拍の間を置いて、風が言う。
剣を握っていない方の手が、左目を覆う眼帯をめくった。
瞳自体は健在だ。しかし、恐らく見えていない。
視力を伴っているのなら、機能しているはずの目を、わざわざ隠すはずもない。
「あたし達は、神樹の勇者……こことは違う別の世界で、町の人達を守るために、怪物と戦ってきました」
犬吠埼風は静かに語る。立花響とは似て非なる、護国の戦いの記憶を。
大規模なバイオハザードの発生により、外界から隔絶された四国――それが風達の故郷だった。
しかし、脅威はそれだけではなかった。外なる世界からは、バーテックスなる怪物が、神の結界を壊さんと、次々と襲いかかってきたのだ。
それと戦うために、風と仲間達は、神樹の力を授けられ、勇者となって戦ってきた。
強大な力の代償として、己が体の機能の一部を、供物と変えて捧げながら。
「あたしだけならまだよかった。片目が見えないくらいなら、どうってことはありません。それなりに苦労はしたとしても、面白おかしく生きてはいけます」
されど、違う。事の本質はそこにはない。
問題は自分以外の仲間達に、降りかかった悲劇の方だ。
ある者は不自由な体から、片耳の聴覚まで奪われた。
ある者は味覚を喪失し、食べる楽しみを失ってしまった。
そしてある者に至っては、歌手を夢見ていたというのに、声を出すことが叶わなくなった。
「全部、あたしの責任です……あたしが巻き込んだばっかりに、みんなは自由を、喜びを……夢と生き甲斐までなくしてしまった」
「風、ちゃん……」
「だからあたしは聖杯が欲しい! 神様に持っていかれたものも、同じ神話の力なら、取り戻せるかもしれないから!」
それが勇者部部長として、皆に居場所と喜びを与え、同時に大切なものを奪った、犬吠埼風の責任だから。
たとえ皆が許してくれても、取り戻せる可能性があるのなら、手を伸ばさなければならないのだ。
そうでなければ、胸を張って、皆のもとへと帰れるものか。
「これがあたしの願いです。響さん……貴方にはあたしのこの願いを、受け止める覚悟がありますか?」
光と湛えた右の瞳と、光を失った左目と。
決意を込めた風の視線が、真正面から響を射抜く。
「私は……」
動揺し、響は言葉に窮した。
両備のそれとも大きく異なる、健全で、かつ切実な願いだ。
それも自分の体と共に、聖杯に治癒を願ってやるとは、到底言い出せない覚悟の重さだ。
甘かった。予想外の返答に、声を詰まらせた。
この中学生の幼い体に、途方もない業を背負った少女に、響は何と答えればいい。
自らに、改めて問い直した。
背負う覚悟は胸にあるか。
この願いを踏みにじってでも、己を貫ける覚悟はあるか。
◆
『ニューZの真髄を食らいな!』
大気を引き裂く音がする。
びきびきと音を響かせながら、グレートマジンガーが変質していく。
人体を模していたはずの右腕は、大きな槍の穂先へと変わった。
螺旋を描くそのフォルムは、諸共に纏っている空気すらも、切り裂いている錯覚すら覚えた。
『ドリルプレッシャーッ!!』
巨大な衝角が炎を放つ。
どんっ――と鼓膜を揺さぶりながら、猛烈な勢いで回転しながら、それはスバルへと襲いかかる。
あれは槍などではなかった。弓より放たれる鏃だ。
文字通りの巨大なドリルと化した、グレートマジンガーの右腕が迫る。
「くっ……!」
あれはさすがにどうしようもない。
あんなものを向けられては、バリアで受け止めることもできない。
疲弊した体に鞭を打ち、飛び上がり回避することを選んだ。
既に限界が近かった。動いて戦うことならできても、攻撃に対処し続けるのが無理だ。
そして一度でもしくじったなら、まともに直撃を受けたのならば、その瞬間スバルは絶命する。
即死にまでは至らずとも、致命傷にはなるはずだ。二撃目を回避する余裕を失い、どの道死を迎えることになるのだ。
(もう、ここまでかな……!)
ここが矛の納めどころか。
今すぐ響に念話を飛ばし、撤退を指示するべきタイミングか。
だが、退くことを決めたとしてどうする。背中を向けた自分たちを、やすやすと見逃してくれるだろうか。
吼えるドリルプレッシャーが、眼下を突き抜け家屋を貫く。
深々と石畳をえぐりながら、爆音を立てる一撃を尻目に、スバルはひたすらに退路を探った。
『何だ、アイツらはっ!?』
その時だ。
瞬間、ライダーの声色が変わった。
はっとしてスバルが振り返ると、そこに姿を現したのは、見覚えのない2つの影だ。
片や氷のように透き通る、巨大な装甲を纏った男。
片やF1カーのような、タイヤとマフラーを身に着けた男。
それらが倒壊した屋敷の方から、同時に姿を現して、こちらに向かって突っ込んでくる。
いいや、着地したスバルをスルーし、彼方のグレートマジンガーへと、一直線に突き進んでいく。
(今しかない!)
何だか知らないが、これは好機だ。
あれがグレートを引きつけてくれるなら、その隙に離脱するしかない。
スバルの行動は素早かった。すぐさまウィングロードを展開し、響のいる方向へと走った。
《響! 悪いけどもう時間切れ! 撤収するよ!》
「スバルさんッ!?」
マスターへ送った念話の返事は、肉声によって届けられた。
つまりはまさに目鼻の先だ。剣をその手に携えた風と、丸腰のままの響とを、レンジに捉えた状態だ。
手出しはしない。そこは死守する。
しかしマスターの安全だけは、確実に確保させてもらう。
「わぷッ!?」
ヴァリエール邸を脱した時のように、響を強引に小脇に抱えた。
そのままロードの方向を、反転させて走り去った。
「響さん! くっ……!」
背後からはうめきが聞こえる。やはりグレートの維持のために、相当な魔力を浪費したらしい。
追いかける余力がないのなら、ここは互いの安全のためにも、遠慮無くトンズラさせてもらう。
(ここは、感謝した方がいいのかな……)
そしてグレートマジンガーと対峙する、見知らぬ人影を背後に見ながら、スバルはそう思考した。
彼女も、そしてライダーも知らない。
フロストマンとターボマンという、あれらが与えられた名前を。
あれらが未知のサーヴァントによって、作られ命を与えられた、生きた宝具であることを。
そして彼らは彼我の事情も、まるきり理解せぬままに、マスターの拠点を守るという命を、ただ実行しているに過ぎないということも。
◆
(少しばかり、飛ばしすぎたな!)
気付けば感じ取れる風の気配が、かなり弱々しくなっている。
どうやらキャスターとの戦いで、相当に魔力を搾り取ったらしい。
情けない。こんなザマがプロの仕事か。
己をきつく戒めながら、ライダーのサーヴァント――剣鉄也は、迫り来る敵の姿を見やった。
「フン!」
「フガァッ!」
炎のリングを飛ばしてくる相手と、氷の塊をぶつけてくる相手。
どちらもグレートマジンガーを、揺るがすには至らない敵だが、このまま放っておくのも鬱陶しい。
風の余力を考えるなら、下手に時間はかけられない。邪魔者は一撃で消し飛ばすべきだ。
「目障りだ、失せなっ! サンダーフィィィルドッ!!」
叫びを上げたその瞬間、上空の空模様が一変した。
グレートマジンガーの力は、時に天候すらも操り、己が最大の武器を呼び寄せる。
ライダーの宝具の最強武装は、天より注ぐ雷を、自らの力と変えたものだ。
轟――という音を置き去りにして、光と雷電がグレートを撃つ。
必殺パワー、サンダーブレーク。本来は直射すべきそれを、自身の機体へと纏わせ、無敵の矛と盾を両立する術だ。
「グォォッ!」
「フンガァアア……ッ!」
そして至近距離の敵に対してなら、グレートを伝う雷のヴェールは、それだけで範囲攻撃となり得る。
相応に出力は絞ったが、それでも最強武装の転用だ。
名も知らない2体のアンドロイド――フロストマンとターボマンは、断末魔の悲鳴だけを残して、あっという間に消滅した。
「チッ!」
もはやキャスターの姿は見えない。探したところで追うつもりもない。
ブレーンコンドルを切り離し、グレートを表舞台から引っ込める。
さながら蜃気楼のように、巨人が影も形もなく、ユグドラシルから姿を消した。
そしてそれを確かめもせぬまま、鉄也はブレーンコンドルを、猛スピードで風へと向けた。
「マスター、無事か!」
着陸など待てないと言わんばかりに、鉄也は操縦席から飛び降りる。
直後に、着陸シーケンスに移ったブレーンコンドルが、背後で道路へと降り立つ。
そのバーニア音をバックにしながら、鉄也は風へと駆け寄って、その安全を確かめた。
「平気よ、ライダー……ちょっと動くのは、億劫だけど」
大きな剣を杖にしながら、風が鉄也を迎え入れる。
そしてグレートマジンガーが、そこにないことを確かめると、変身を解除し装束を戻した。
家から出る時に着ていた、学生服姿へと戻ると、支えを失った体は、軽くふらつき前のめりになる。
命には別状はないようだが、これほど疲弊した状態となると、徒歩での撤収は難しいだろう。
「ブレーンコンドルで、適当なところまで飛んでく。乗れるか?」
戦闘中かなりの数の住民が、逃げていく様を見ているが、兵隊や高位の魔術師が、ここに現れないとも限らない。
風が無言で頷くのを確かめると、背中を軽く押しながら、足早にブレーンコンドルへと向かった。
魔力切れに気を配り、速攻で仕留めると決めておきながら、全くなんという有様だ。
それなりに追い込んだつもりだが、こちらも追い込まれてしまった。これではまるで痛み分けだ。
「ズルいこと、言っちゃった」
操縦席に乗り込みながら、ぽつりと、風が呟いた。
意識を向けていなければ、聞き逃していたかもしれない、弱い声音だ。
「あのマスターにか」
「試すような……っていうか、脅すようなこと言っちゃってさ。ヤな奴よね、あたし」
笑ってはいる。
つとめて軽い口ぶりでいる。
それでも疲労の残る顔に、色濃く浮かび上がっているのは、強い自己嫌悪の念だ。
この顔を、忘れまいと思った。
剣鉄也はあくまで戦士だ。カウンセラーでない以上、人の心の機微にはどうしても疎い。
それでも、自分がしっかりとしていれば、こんな顔をさせる間もなく、敵を倒すことができた――それは間違いないことだ。
(二度と)
二度とこんなヘマは犯さない。
次はこんな失策は犯さず、確実に仕事を遂行してみせる。
次の命を仮定する時点で、戦闘者として二流ではあるが、それでも今の剣鉄也は、そう思わずにはいられなかった。
【G-4/特級住宅街・ブラッドレイ邸近く/一日目 午前(放送直前)】
【立花響@戦姫絶唱シンフォギアG】
[状態]魔力残量6割、戸惑い
[令呪]残り二画
[装備]ガングニール(肉体と同化)
[道具]学校カバン
[所持金]やや貧乏(学生のお小遣い程度)
[思考・状況]
基本行動方針:ガングニールの過剰融合を抑える方法を探す
1.スバルと共に自宅へ戻る
2.風に対して……?
3.両備の復讐を止めたい
4.出会ったマスターと戦闘になってしまった時は、まずは理由を聞く。いざとなれば戦う覚悟はある
5.スバルの教えを無駄にしない。自分を粗末には扱わない
[備考]
※E-4にある、高校生用の学生寮で暮らしています
※高町なのはを殺害した犯人(=忌夢および呀)の、外見特徴を把握しました
※シンフォギアを纏わない限り、ガングニール過剰融合の症状は進行しないと思われます。
なのはとスバルの見立てでは、変身できるのは残り2回(予想)です。
特に絶唱を使ったため、この回数は減少している可能性もあります。
【キャスター(スバル・ナカジマ)@魔法戦記リリカルなのはForce】
[状態]全身ダメージ(大)
[装備]『進化せし鋼鉄の走者(マッハキャリバーAX)』、包帯
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れて、響を元の世界へ帰す
1.響を連れて自宅へ戻る
2.金色のサーヴァント(=ハービンジャー)、グレートマジンガー(=剣鉄也)を警戒
3.戦闘時にはマスターは前線に出さず、自分が戦う
[備考]
※4つの塔を覆う、結界の存在を知りました
※予選敗退後に街に取り残された人物が現れ、目の前で戦いに巻き込まれた際、何らかの動きがあるかもしれません
※高町なのはを殺害した犯人(=忌夢および呀)の、外見特徴を把握しました
※グレートマジンガーの持つ武装と、魔神パワー「再生」「変態」の存在を把握しました
【犬吠埼風@結城友奈は勇者である】
[状態]魔力残量2割、衰弱、自己嫌悪
[令呪]残り三画
[装備]ブレーンコンドル(搭乗中)
[道具]スマートフォン、財布
[所持金]やや貧乏(学生の小遣い程度)
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、聖杯を手に入れる
1.鉄也と共に自宅へ戻る
2.響を突き放した自分への自己嫌悪
3.人と戦うことには若干の迷い。なるべくなら、サーヴァントのみを狙いたい
4.魔力消費を抑えるため、『偉大な勇者(グレートマジンガー)』発動時は、戦闘は鉄也に一任する
5.鉄也の切り札を使うためにも、令呪は温存しておく
[備考]
※D-3にある一軒家に暮らしています
※『魔術礼装を持った通り魔(=鯨木かさね)』『姿の見えない戦闘音(=高町なのは)』の噂を聞きました
※『姿の見えない戦闘音』の正体が、特級住宅街に居を構えていると考えています。既に脱落していることには気付いていません
【ライダー(剣鉄也)@真マジンガーZERO VS 暗黒大将軍】
[状態]健康、屈辱
[装備]ブレーンコンドル(操縦中)
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:サーヴァントという仕事を果たす
1.風と共に自宅へ戻る
2.風の魔力を必要以上に浪費した、自分の不甲斐なさに苛立ち
3.グレートマジンカイザー顕現のためにも、令呪は温存させる
[備考]
※『魔術礼装を持った通り魔(=鯨木かさね)』『姿の見えない戦闘音(=高町なのは)』の噂を聞きました
※『姿の見えない戦闘音』の正体が、特級住宅街に居を構えていると考えています。既に脱落していることには気付いていません
【『DWN(ドクター・ワイリー・ナンバーズ)』 】
&color(red){【DWN.056 ターボマン@ロックマン7 大破】}
&color(red){【DWN.062 フロストマン@ロックマン8 大破】}
[全体の備考]
※特級住宅街全域に、甚大な被害が発生しました。
無数の家屋、およびG-4のブラッドレイ邸の一部が破壊されています。
※剣鉄也が宝具『偉大な勇者(グレートマジンガー)』で戦闘を行いました。
尋常じゃないほどに悪目立ちしたため、「特級住宅街の巨大ロボット」の噂が、急速に広まりつつあります。
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|[[出撃! 偉大な勇者]]|[[立花響]]|-|
|~|キャスター([[スバル・ナカジマ]])|-|
|~|[[犬吠埼風]]|-|
|~|ライダー([[剣鉄也]])|-|