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祈りと呪い」(2015/12/07 (月) 20:54:06) の最新版変更点

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*祈りと呪い ◆nig7QPL25k  遠くで誰かが呼んでいる。  助けを求める声がする。  助けなきゃ。  この手で救わなきゃ。  救いを求める人の手を、この手で掴んで引き寄せて。  安全な場所まで一直線に、送り届けてあげなくちゃ。  それは善意?  それとも義務?  あるいはその手は贖罪のため?  血と鉄の匂いが染み付いた、この右手を伸ばす理由は――何? ◆  気がつけば、闇の中にいた。  私はどこか暗がりの中で、一人立ち尽くしていた。  少しばかり、埃っぽい。  ぱらぱらと何かが崩れる音もする。  事故? 戦闘? 何か大掛かりな破壊の痕跡だ。  けれど今は、何もない。僅かな環境音以外、目にも耳にも飛び込んでこない。  そんな静寂にただ一人、私は放り出されていた。 「ぅあああ……っ!」  誰かの声が聞こえてくる。  遠くから声が響いてくる。  これは泣き声だ。誰かが涙する声だ。  私は声のする方へ向かった。明かりもない闇の只中を、声だけを頼りに歩いていった。  そこにいたのは、一人の少女だ。  私と同い年くらいの、青い髪の少女だ。  事故に巻き込まれたものか。戦いで身に受けたものか。  薄着の少女は、血と涙を流し、一人座り込んでいた。  助けなきゃ。  何があったか知らないけれど、早くここから連れ出さなくちゃ。  怪我をしているというのなら、ちゃんと手当てをしなくちゃならない。  そもそもこんな危ない場所に、一人で置いておくわけにはいかない。  私は前に進もうとした。少女の元へと歩み寄って、その血まみれの手を取ろうとした。  邪魔な瓦礫をすり抜けて、時に脇へと転がして、私は奥へ奥へと進んだ。  そして、私は見てしまった。  その姿を目の当たりにした時、一瞬、その手が止まってしまった。  左腕を深々と抉る、その傷跡を目にした時。  血と肉のその奥から覗き、ぱちぱちと光を放っている、その鈍色を見てしまった時。 「―――」  金色の瞳が、こちらを見た。  涙を流すその瞳が、私の両目とぴったりと合った。  吸い込まれるようなその瞳に、全てを見透かされているような。  そんな気がして、私の夢は、そこで暗転し終わりを告げた。 ◆  夢の中身を、まだ覚えている。  目を覚ました時に、そう感じたのは、随分と久しぶりのことかもしれない。  逆に自分がいつ寝たのかは、上手く思い出せないのだけれども。 「………」  見上げたのは、寮の天井だ。  体には布団の感触がある。自室のベッドで眠っていたらしい。  当たり前のことだけれど、何故だか違和感を感じる。  そう思って、立花響は、身を起こそうと力を入れる。  腕の力で持ち上げる体が、えらく重たく痛いと思った。  視線を落とし、着ていたのがいつものパジャマではなく、簡単な肌着だったことに気付く。 「あ……」  あからさまに自分ではなく、誰かに着せられた格好を見た時。  自分は誰かの手によって、介抱されていたのだと気付き。  立花響は自室ではなく、戦場で倒れたのだと、ようやく彼女は思い出した。 「ッ!」  がばっと身を捩り、枕元を見やる。  時計の針が指すのは九の時。学校のチャイムすら鳴っている時間帯だ。  なんということだ。正確に断言はできないが、どう見積もっても八時間は経っているではないか。  私はそんなにも長い間、あの場をほったらかしにしていたというのか。  こうしてはいられない。すぐさまベッドから飛び降りる。  足が痺れたのは無視した。壁際のタンスへ駆け寄って、下着を取り出す時間すら惜しかった。  適当に目についたものを引っ掴んで、次はシャツを脱ごうとしたその瞬間。 「――すごいね。もうそんなに動けるんだ」  背後から聞こえた声に、びくりと震えた。  シャツにかけた手を離しながら、声のする方へ振り返る。  そこに立っていたのは、一人の少女。  金の瞳を光らせて、響の心を覗き込む、青く短い髪の少女。  血みどろで戦場に座り込み、悲しみに涙を流し続けた、■■仕掛けの―― 「キャスター……さん」  違う。そんな歳ではない。  次の瞬間には、響の瞳は、その姿を正確に捉えていた。  夢の幻影の向こうにいたのは、自分が従えているサーヴァントだ。  未だ癒えない傷跡を、人間の包帯を巻いて隠した、痛ましい姿の相棒だ。 「とりあえず、食欲あるんだったら、朝ごはんにしよっか」  それでも、緑の瞳のスバル・ナカジマは、いつものように穏やかな顔で、相も変わらず笑っていた。 ◆ 『マスターの魔力量は既に、80パーセント近くまで回復しています。驚異的な回復速度です』  ガングニールの治癒能力は、肉体的なダメージのみならず、魔力というのにも影響するらしい。  テーブルに置かれた宝具――『進化せし鋼鉄の走者(マッハキャリバーAX)』の言葉を、響は椅子に座って聞く。  武器が喋るというのを目の当たりにした時、最初は面食らったものだった。  高度な人工知能と言われても、そんなものは現実ではなく、SFの世界の話だと思っていたのだ。 「そっか」 『相棒は心配していました。マスターは先の戦いで、魔力をほとんど空になるまで、使いきってしまったのですから』 「ごめんね。マッハキャリバーにも、心配させちゃったみたいで」  それでも、最終的には慣れてしまい、結果としてこうやって普通に向き合い、会話する仲にまで落ち着いている。  たとえ水晶のペンダントだとしても、これも響を支えてくれる、れっきとした仲間の一人なのだ。 『理解していただけて何よりです』 「もー、余計なことばっか言わないの」  マッハキャリバーの言葉を遮るようにして、スバルが食卓へとやって来る。  台所から運んできたのは、緑が眩しいレタスのサラダと、ロールパン。卵はスクランブルエッグにしてあった。  病み上がりの響を気遣ってか、いつもよりも、軽めのメニューだ。  普段ならカリカリのベーコンの上に卵を落として、目玉焼きにして食べていたのだが、油物は避けてくれたらしい。  いただきます、と挨拶をして、パンへと手を伸ばし、食べる。  これでもマシな部類なのだが、西洋のパンは日本より硬い。  友人から聞いた話によると、欧州の人と日本人とでは、物の噛み方が違うらしい。恐らくこの世界樹の人々にとっては、この硬さこそが適正なのだろう。 「明け方に特級住宅街まで、偵察に行ってたんだけどね」  ややあって、スバルが口を開いた。  食べる手はそのままに、目線を合わせて耳を傾ける。それは今の響にとって、最も気がかりなことだった。 「メンターさん達の姿は見当たらなかったけど、敵の気配ももうなかった。多分、逃げ延びたんだと思う」  戦闘は終わったということか。  ルイズ達の安否は気になるが、ひとまず、一つの疑問は解消された。  安堵にほっと息をつくと、スクランブルエッグを口に運ぶ。  軽くぴりりとするのは、胡椒の風味だ。体に差し障りない程度の辛味が、朝の意識を目覚めさせてくれる。  格別に優れた品ではないが、作った人間の気遣いが見えるような、そういう料理だ。 「……スバルさん」  そうなると、気がかりなことがある。  敢えてスバルの真名を呼んで、響は会話を切り出した。  夢の中で目の当たりにした、恐らくはスバル・ナカジマの過去の姿。  それと現在の姿との、埋めようのないギャップについてだ。 「どしたの?」 「こんな時に聞くべきかどうかは、ちょっとアレなんですけれど……気を失ってる時、多分、スバルさんの夢を見ました」  唐突に過ぎる話だとは思う。  それでも、今聞いておきたかった。  はっきりとさせておかなければ、今後に差し支えが出るかもしれない。  認めたくない自分だが、あの時あれを見た響は、伸ばした手を引っ込めてしまった。  同じことが起きないというのも、ないとは、言い切れなかったのだ。  だからこそ、疑問に思ったことは早いうちに、解決しておくべきだと思った。 「あの時見た、スバルさんの左手……その時の傷は……」  白い制服の下から覗く、左手の包帯を見ながら、言う。  夢の中の幼い彼女は、今と同じ左腕に、大きな傷を負っていた。  そこに見てしまったものが何なのか、問いたださなければならないと思った。  だって、あれは。  あの時目の当たりにしたあれは。  血と肉の赤の向こうに覗いた、あのあってはならないものの正体は。 「そっか。見たんだ、あれを」  問いかけに、スバルが口を開く。  どこか困ったような、寂しげなような。  いつものそれに比べると、力のない苦笑を浮かべながら。 「多分、響の想像は合ってると思う。あたしの体、生まれた時から、何割か機械でできてるんだ」  左腕の袖をまくりながら。  包帯を巻いたその腕を見せ、言う。  その向こうに響が見たものの正体――機械のフレームとケーブルを示唆して。 「戦闘機人、って言ってね。魔導師みたいな優れた才能を、人の手で与えた子供を作れないかって、そういう研究があったの」 「それで、その研究で生まれたのが……」 「そ。あたしと、二つ上のお姉ちゃんは、その実験体の生き残りだった」  多くの犠牲が積み上げられた。  有機物と無機物の融合を果たすには、それほどのハードルを越えなければならなかった。  最初から機械に適合するよう、遺伝子を調整するという方法が実を結ぶまで、相当な数の命が消えていった。  そうして生まれた完成体が、タイプ・ゼロというコードで呼ばれる、スバル達二人の少女だった。  そうまでして勝ち取られた成果も、その名の通り戦うための――人殺しの兵器として作られた命だ。  そんな呪われた命を生み出すために、流されるべきでない血が、あまりにも多く流されてしまった。  スバル・ナカジマという存在は、生まれながらに十字架を背負った、犠牲の上に立つ罪人なのだ。 「……ごめんなさい。言いにくいことを、聞いちゃって」 「ううん、気にしなくてもいいよ。この体のことだって、今ではきちんと受け入れてるから」  余計なことを聞いてしまった。  自分のわがままで、触れてはいけない領域に、勝手に踏み込んでしまった。  そう考えて顔を曇らせる響を、スバルは笑顔を浮かべて宥める。 「あたしもさ、こんな体に生まれたことが、最初は嫌だったんだけどね。  だけど、戦うためのこの力も、人助けのためにだって使えるんだって、あのメンターさんからそう教わった」  力は力だ。  現象そのものに善悪はない。使う者の意志こそが、神と悪魔を隔てる差になる。  殺戮を求めた開発者の意志は、紛れもない悪だと言い切れた。  されども、平和な世界に拾い上げられた時点で、スバル・ナカジマの意志と力は、そこからは既に切り離されている。  故に今度はスバル自身が、神と悪魔を分かつ側になった。  力の使い方は一つではないと、エース・オブ・エース――高町なのはに、身をもって教えられたのだ。  それこそがスバルが彼女に抱く、大きな恩の正体だった。 「だからあたしは、最終的に、レスキューの仕事に行き着いたんだ」  何物でもない真っさらな力を、何に使うべきかと考えた末に、彼女は人を救うことを選んだ。  痛いことは嫌いだが、誰かを痛くするのはもっと嫌い。  誰かが痛がるのが嫌ならば、それを止められるようになればいい。  そう語るスバルの表情には、後ろ暗さなど何一つなかった。 「………」  この人は、紛れもなく人間だ。  冷徹な機械などではない。暖かい心を持った人間なのだ。  そう理解できたことは嬉しかった。それを否定する理由はない。  されどその一方で、同時に響の胸に浮かんだのは、もう一つの疑問だった。  浮かんだというよりは、思い出したというべきか。  それまで感じていたことに、答えらしきものが見えたような、そんな気がしていたのだ。 「もしかして、スバルさんが、私のことを気にかけてくれてるのって……」  思い切って、口に出す。  無償の善意というものを否定はしない。響だって、困っている人には、手を差し伸べてあげたいと思う。  だがそれにしては、スバルの態度は、やけに優しいと思っていた。  安らかに眠れていたはずの魂を、無理やり起こした赤の他人を、彼女はいやに気にかけてくれた。  上手く言えないが、それは地の部分のお人好しよりも、もっと深い理由があるのではないか。  心のどこかで、スバルに対して、そういう風に考えていた。それは否定できない事実だった。 「うん。似てるんだ。あたしと、響とは」  響が言わんとしていることは、言うまでもなく伝わっていた。  響にとっては知る由もないが、それは高町なのはに対して、スバルが己が口で語ったことだ。  その在り方が、よく似ている。  共に人ならぬものを取り込んで、人ならざる何かとなった者同士。  人ならぬ力を私欲ではなく、人を守るために使うと誓った者同士。  そして、人ならぬその身が生まれたことに、暗い理由を抱えた者同士。 「響もあたしと一緒で、人助けをしたくて、ガングニールの力を使ってるんだよね?」  スバルの問いかけに対して、響は頷く。 「大きな犠牲が出た中で、生き残った私は、その分だけ頑張らなくちゃならない……それが最初の理由でした」 「今は違うつもりだけど、でも今も、戦えない自分自身に対して、無力と責任を感じてる」  見透かされている。  故に返す言葉がなかった。  自分が戦えればと、どうしても考えてしまう。  だから夕べの戦いにも、響はギアを纏って飛び込んでしまった。  結果的にそれがいい方向に作用したが、それでも無茶をしたことに変わりはない。  でなければ、こんな時間まで、倒れていることもなかった。 「そのことが心配なんだ、あたしは」  気づけば朝食を食べる手が、スバルも響も止まっていた。  大食漢の二人が揃って、食べ物に手をつけずに話をしている。  少なくともここに来てからは、初めての光景だった。 「災害救助をしていると、どうしても、助けられなかった人が出てくる」  英霊といえど人間だ。全てを救えるわけではない。  現場に駆けつけるのが遅れて、救助が間に合わなかった人がいる。  災害が起きた瞬間に、既に命を落としてしまっていた人もいる。  最善を尽くしてそれでもなお、救えなかった人もいる。 「どうしようもなかったこともあるし、そういうのに慣れてしまえば、きっと楽だったんだろうけどね」 「ってことは、まさか……」 「うん。どうしても、慣れることができなかった」  その時の笑顔を、見たような気がした。  今にも泣き出しそうなその笑顔は、強がっているのだということが、響にも分かった。  きっとその話の中で一番、雄弁な表情だったかもしれない。  スバルの浮かべた悲しげな笑みは、言葉よりも深く確かに、響の胸に突き刺さっていた。 「恥ずかしい話だけどさ。あたしはその度に何度も、自分の無力を責めてきた」  救えなかった苦しみに、幾度も胸を痛め続けた。  苦しみ逝った人々の心を思い、悲しみに涙を流し続けた。  同じ後悔を繰り返さないように、今度は助け出せるようにと、その度に己を苛め抜いた。 「きっと全てを投げ出せば、そんな思いもせずに済んだんだろうけど……それだけは、どうしてもできなかったんだ」  そうして人々を見捨てる方が、きっともっと苦しいだろうから。  そう語るスバルの顔は、これまでの勇猛さが嘘のように、脆く、弱々しく見えた。 (それは……)  痛いことは嫌いだが、誰かを痛くするのはもっと嫌い。  誰かが痛がるのが嫌ならば、それを止められるようになればいい。  それが救いになるのなら、自分が痛んだって構わない。  その正義は祈りではなく、呪いだ。  正しい行いや善き行いは、どうしようもない悪意によって虐げられる、弱者の祈りから生まれるもののはずだ。 (なのにこの人は、呪われている)  スバル・ナカジマは呪われている。  己が正義によって呪われている。  兵器として生まれた彼女の魂は、正義を振りかざさない限り、自身の良心によって傷つけられる。  たとえその正義が、彼女の心を、引き裂くものであったとしてもだ。  行くも地獄。退かぬも地獄。スバル・ナカジマの人生は、どう歩んでも苦しみから逃れられない、正義の呪縛に囚われていたのだ。  奇しくも奇跡という名の猛毒に、身を冒され殺されようとしている、今の立花響のように。  機械仕掛けの傷口を晒し、痛みに涙する彼女の姿は、過去のスバルのそれではなく。  彼女の人生の全てを、暗示していたのではないかと、響にはそんな風に思えた。 「あたしの周りには、そんなあたしを、気遣ってくれた人がいた」  そんな人生でも悪くはなかったと、それでもスバルは言葉を続ける。 「どうにか折れずにやっていけたのは、みんなのおかげだと思ってるし……みんなに心配かけちゃったのも、申し訳ないなと思ってる」  彼女の人生には常に、仲間達の姿があった。  それは高町なのはであり、そして響が見たことのない、幾人もの仲間達の姿だ。  聖杯戦争が始まる前、昔のことを聞いた時に、そんな話をしていたような気がする。  もっとも、こういう暗い話題には、決して触れたことはなかったけれど。 「だからそういう人達のことは、大事にしなきゃいけないし……響は絶対に、あたしみたいになっちゃいけない」  それが人生の先輩からの忠告だと、真剣な面持ちになって、スバルは言った。  立花響とスバル・ナカジマは、違う時代を生きた人間だ。  されど二人は、鏡写しのように、似通った人生を生き抜いてきた。  共に呪いをその身に受けて。  共に呪いを祈りに変えて。  共に祈りという呪いに縛られている。  同じ人間であるのなら、響もいつかスバルのように、絶望に突き当たる時が来る。  スバルが踏みとどまった地獄へと、そのまま堕ちてしまうこともある。  それだけは絶対にいけないと、人生を生き抜いた英霊は、己のマスターへとそう言った。 「私は……」  ガングニールは人を救うための力だ。  この力を振るい戦うことに、今は後悔を抱いていない。  それでも響のその正義が、いつまでも貫けるものだと、断言することができるだろうか。  自責と重圧に押し潰されて、壊れてしまう日が来ないと、言い切ることができるだろうか。 (祈りが呪いに変わってしまえば、同じ絶望に突き当たる……)  肝に銘じなければならないと思った。  生涯を絶望と共に送り、笑顔の下に涙を隠した、この英霊の人生を。  その中でスバル・ナカジマを支え、その笑顔を守り続けてきた、仲間達の存在を。  響の笑顔を守ってくれる、大切な仲間達の存在を、決して無碍にしてはならないと。 ◆  特級住宅街へと向かう。  体調の戻った響にとって、他に選択肢はなかった。  どうせ今から学校に行っても、遅刻という結果は避けられないのだ。  故にここは、あの場へ戻って、ルイズ達の安否を確かめる。  そのためにも特級住宅街にあるという、ヴァリエール邸を訪ねてみる。  食事を終えて着替えを済ませ、身支度を整えた響が、導き出した結論だった。  スバルもまたそれを了承し、共に南を目指すことになった。 「あたしはさ、響」  そんな響が出かける時、ふと、スバルが声をかけた。 「あたし自身は、メンターさんと違って、地味な人生送ってきたから……きっと普通だったら、こんな所には、呼ばれなかったんだと思う」  突き詰めればスバル・ナカジマとは、いちレスキュー隊員に過ぎない。  一時代において無双を誇った、正真正銘の英雄に比べれば、霊格も功績も大きく劣る。  後の世に語られることのない、無銘の戦士であったスバルは、普通ならサーヴァントにはなれなかっただろうと。 「それでもここに呼ばれたのは、きっとそこに響がいて、呼んでくれたからだと思うんだ」  そんな彼女を引き寄せたのは、立花響の魂だろうと。  同じ人生を生きてきた、鏡合わせの二人だからこそ、こうして呼び合ったのだろうと。  正規の聖杯戦争においては、特定の英霊を呼ぶ依代がなかった場合、マスターと近い精神性を持った英霊が、引き合うようにして呼ばれたのだそうだ。  故にあるはずのない召喚が、この世界樹の頂で叶えられた。  因果で結ばれた宿命の二人が、このユグドラシルで奇跡的に、呼び合い並び立ったのだろうと。 「だから守るよ。呼んでくれたからには、必ず」  その奇跡を無駄にはしない。  立花響は絶対に、スバル・ナカジマが守り抜く。  その身も心も、責任を持って、キャスターのサーヴァントが守ると誓う。  そのために自分はここにいるのだと、スバルはそう宣言した。 「……多分、それが英霊ってことなんですよ」  ああ、この人は英雄だ。  口では否定しようとも、どうしようもなくヒーローだ。  立花響はそう思い、微笑を浮かべて玄関を開く。  救いを求める人がいれば、駆けつけてその手を差し伸べる。  たとえ心を傷つけたとしても。たとえ誰に語られずとも。  その在り方は、どうしようもなく、英雄という呼び名そのものだった。  そうあれたらと心から思える、眩しくて誇り高い在り方だった。  正義の代償の苦しみを、忘れたわけではないけれど。  本当は英雄なんてものが、必要とされないような平和な世界が、響の望みではあるのだけれど。 (やっぱり、気が合うってことなのかな)  やはり自分とこの人とは、似た者同士の人間なのだ。  その在り方を貫いた、スバル・ナカジマの魂は、自分の憧れるものだったのだ。  その心意気に惹かれている、立花響という人間を、否定することはできなかった。 【E-4/学術地区・学生寮・響の部屋/一日目 午前】 【立花響@戦姫絶唱シンフォギアG】 [状態]魔力残量8割、ダメージ(小) [令呪]残り三画 [装備]ガングニール(肉体と同化) [道具]学校カバン [所持金]やや貧乏(学生のお小遣い程度) [思考・状況] 基本行動方針:ガングニールの過剰融合を抑えるため、メンターから回復魔法を教わる 1.ルイズ達の安否を確認するため、ヴァリエール邸に向かう 2.学校の時間以外は、ルイズと一緒にメンターの指導を受ける 3.ルイズと共に回復魔法を無事に習得できたら、聖杯戦争からの脱出方法を探る 4.両備の復讐を止めたい 5.出会ったマスターと戦闘になってしまった時は、まずは理由を聞く。いざとなれば戦う覚悟はある 6.スバルの教えを無駄にしない。自分を粗末には扱わない [備考] ※E-4にある、高校生用の学生寮で暮らしています ※シンフォギアを纏わない限り、ガングニール過剰融合の症状は進行しないと思われます。  なのはとスバルの見立てでは、変身できるのは残り2回(予想)です。  特に絶唱を使ったため、この回数は減少している可能性もあります。 ※ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが脱落していることに気付いていません 【キャスター(スバル・ナカジマ)@魔法戦記リリカルなのはForce】 [状態]全身ダメージ(小・回復中)、脇腹ダメージ(中・回復中) [装備]『進化せし鋼鉄の走者(マッハキャリバーAX)』、包帯 [道具]なし [所持金]なし [思考・状況] 基本行動方針:ルイズ・なのは組と協力し、マスターの願いを叶えて元の世界に帰す 1.なのは達の安否を確認するため、ヴァリエール邸に向かう 2.金色のサーヴァント(=ハービンジャー)を警戒 3.ルイズと響に回復魔法を習得させる 4.戦闘時にはマスターは前線に出さず、自分が戦う 5.ルイズと響が回復魔法を習得できたら、聖杯戦争からの脱出方法を探る 6.万が一、回復魔法による解決が成らなかった場合、たとえなのはと戦ってでも、聖杯を手に入れるために行動する [備考] ※4つの塔を覆う、結界の存在を知りました ※ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール&高町なのは組と情報を交換し、同盟を結びました。  同盟内容は『ルイズと響に回復魔法を習得させ、共に聖杯戦争から脱出する』になります ※予選敗退後に街に取り残された人物が現れ、目の前で戦いに巻き込まれた際、何らかの動きがあるかもしれません。 ※明け方に特級住宅街へ向かい、戦闘が終わっていたことを確認しています。  ただし、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが脱落していることには気付いていません。 ---- |BACK||NEXT| |[[愛の叫びが聞こえるか]]|[[投下順>本編目次投下順]]|[[空戦 -DOG FIGHT-]]| |[[森の向こうに目が潜む]]|[[時系列順>本編目次時系列順]]|[[空戦 -DOG FIGHT-]]| |BACK|登場キャラ|NEXT| |[[不屈]]|[[立花響]]|-| |~|キャスター([[スバル・ナカジマ]])|-|

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