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**陰にて爪を研ぐ ◆nig7QPL25k 「そうか……分かった、すぐに行く」  報告を雅緋が受けたのは、0時半を過ぎ、1時が近づこうとした頃だった。  公衆電話からの着信を受け取り、短く返事をして受話器を置く。  椅子に無造作にかけていた、黒いジャケットに袖を通す。  前のボタンをかけようとして、ほんの少し、手こずった。  胸元が少しばかりきつい。ワンサイズ上のものを買っておけばよかったかもしれない。 「思ったよりも早かったな」  そう言うのはライダーのサーヴァントだ。  来客用のソファに腰掛けていた、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが、雅緋の支度を見て立ち上がる。 「ああ。派手に動いた奴がいてな。間抜けにも火事まで起こしたらしい」 「結構なことだ。パフォーマンスは派手な方がいい」  その方が客の目にもつくと、ルルーシュが言った。 「それで、場所は?」 「行政地区。南の橋の程近くだ」 「警察のお膝元か? それは……少し予想外だな」  ここに来てルルーシュは、初めてその目を丸くする。  行政地区といえば、軍や警察、裁判官などが出入りする、文字通りお役所仕事の中心街だ。  そこで大きな行動を起こせば、すぐに警察が出張ってきて、周囲を捜索し始める。  そうなれば、戦闘に勝ったとしても、動きにくくなることは間違いない。  それを分かって戦ったというのか。そこで火事を起こした連中は。 「仮にそこに住んでいる誰かを、誰かが襲撃したとして……襲った奴は相当な馬鹿か、あるいは逃げおおせる自信があったか。そのどちらかになるな」 「たとえばマスターは表に出ず、サーヴァントのみを差し向けた場合か。我々サーヴァントは霊体化によって、人の目を避けることができるからな」 「お前の宝具のように使い魔を放ち、捨て駒として扱える者だった可能性もある」  コートを羽織りながら、雅緋が言った。  ルルーシュの保有する宝具は、『我は世界を創る者(ぜったいじゅんしゅのギアス)』だけではない。  無数のしもべを召喚し、敵を襲わせる対軍宝具――『我は世界を変える者(オール・ハイル・ルルーシュ)』というものもある。  そうして遠隔操作できる使い魔を呼び出し、足の付かない鉄砲玉として、送り込んだ可能性もゼロではない。  もっとも、さすがにルルーシュがそれをやれば、目立つことこの上ないだろうが。 「それでどうする」 「連れて行くのは、二~三人でいいだろう。我々で見つけられなかった場合は、警察が勝手に捕まえてくれる」 「そうして騒ぎになってくれれば、あとはそこを押さえればいい、ということか」 「そういうことだ。行くぞ。ぐずぐずしている暇はない」  そう言うと、雅緋は返事を待つよりも早く、玄関の方へと足を進める。 「本当にそれでいいんだな?」  そしてその歩みを、止められた。  背後からかけられた言葉が、雅緋に鋭く突き刺さった。  お前はそれでいいのかと。  戦う理由に迷ったお前は、戦うことができるのかと。 「………」  正直、今でも迷いはある。  死者の復活という禁忌を、聖杯に願うということが、果たして許されることなのか。  そうしたとして、母は本当に、喜んでくれるのだろうかと。 「……問題はない。願いも迷いも何もかも、勝ってから考えればいいことだ」  それでも、雅緋はそうした躊躇いを、今は心に閉じ込めた。  どの道この戦いに勝利し、栄光を手にするという目的は、今も変わってはいないのだ。  その後で何を願うかなど、それこそ戦いに勝利しなければ、何ら意味のないことなのだ。 「悪の誇りを舞い掲げる。それだけが、私の成すべきことだからな」  そうして話を締めくくると、雅緋はドアノブに手を伸ばし、夜の町並みへと向かった。 ◆  歓楽街は夜の街だ。  日が沈み深夜を回っても、娯楽を求めてやって来る者が、随所で街を照らしている。  そんな歓楽街の一角に、何人かの人影が集まっている。  厳つい男達を引き連れているのは、うら若い東洋風の女性だ。 《奴が動いたようだぞ、黒咲》  そしてその女の横顔を、駆紋戒斗は見逃さなかった。  ランサーのクラスで現界した彼は、黒咲隼のサーヴァントだ。  何をするでもなく、壁にもたれかかっていた黒咲は、霊体化した戒斗の念話を聞くと、そちらの方へと歩み寄る。  角越しに見える女の姿は、間違いなくあのお山の大将だ。  白髪にスーツ姿の女など、この歓楽街には他にいない。 「こんな時間に仲間連れか……」 《揉め事の対応ではないだろうな。一強支配のこの街で、今更対立が起こるとは考えにくい》 「となると、狩りが目的か」  聖杯戦争を戦うライバルを見つけ、そいつを襲うために動き出した。  つまりあの雅緋もまた、自分と同じくサーヴァントを駆る、聖杯戦争のマスターなのだと。 《日の当たらない世界での暗躍……確かに他のマスターには、そうそう気取られることはないだろう》  同輩にとっては別だがなと、戒斗が黒咲に同意する。  普通に生活しているマスターにとっては、不良やマフィアのいざこざなど、目にもとまらぬことだろう。  されど、当事者として闇に巣食い、目の当たりにした黒咲にとっては、事情が大きく変わってくる。  突然姿を現して、次々とグループを制圧し、己が手足と変えた女――こんな奴が不審でなくて、一体何だというのだろうか。  そんな設定をされたNPCなど、当然存在するはずもない。  であれば、意志持つ人間だ。自分と同じマスターだ。 「追うぞランサー」 《勝算はあるのか?》 「奴が獲物を見つければ、当然戦いが始まる。弱ったところに飛び込めば、倒せない道理はないはずだ」 《不意打ちか。無様な弱者の発想だな》  黒咲の口にした考えを、戒斗は容赦なく嘲笑う。  一度切り結ぶと決めたなら、真っ向から戦うべしというのが、駆紋戒斗の主義だった。  拠点に忍び込むために、敵の目を盗んだことは何度もある。  されど敵と戦うために、敵の目を盗んで忍び寄ることを、戒斗は一度もしなかった。  卑劣な弱者を忌み嫌い、強者たらんとした彼からは、決して出ることのなかった発想だ。 「それは貴様の戦い方だ」  されど黒咲は否定する。  戒斗の嘲笑を一蹴する。 「どんな手を使ってでも勝つ。敗者が全てを失うのなら、選り好んでいる暇などない」  右の拳に、力がこもった。  眉間に皺を寄せながら、瞳を鋭く光らせながら。 「たとえ泥にまみれようとも、最後に全てを取り戻せるなら……俺は手段を選ばない……!」  あくまで声を殺しながら、されど猛禽のごとき形相で、黒咲隼は言い放った。  黒咲隼の戦いとは、生死を賭けた戦場の戦いだ。  街を炎で焼き払い、笑顔を悲鳴に変えてきた、邪悪な侵略者との戦いだった。  無勢の黒咲が行ったのは、抵抗組織に加わってのゲリラ戦だ。  弱者が強者の足を掬い、力差を策略で覆す、まさしく卑怯者の戦法だった。  だとしても、黒咲はそれを恥じない。命と未来がかかった戦で、手段の善悪を問うことは、愚行以外の何物でもないのだ。  それは魔力をほとんど持たぬまま、魔術のノウハウも知らずに放り込まれた、この聖杯戦争においても同じだった。 《………》 「……奴らを尾けろ。俺は準備を整えてくる」  話は終わりだと言わんばかりに、黒咲は言いながら踵を返した。  紺色のコートを翻し、戦うための装備を隠した、自分の仮住まいへと向かった。 《いいだろう。趣味ではないが、今回はその策に乗ってやる》  意外にも、戒斗の口をついたのは肯定だった。  一瞬沈黙こそしたものの、脳内に伝わる声色には、決して嫌悪の響きはなかった。 (弱いなりに、よく吠える)  それが黒咲には知る由もない、駆紋戒斗の感想だ。  自分の弱さを認めた上で、それでも諦めるわけにはいかないと、己を強く奮い立たせる。  弱さを憎み認めようとせず、強くあらんと振る舞い続けた、戒斗とは正反対の戦い方だ。  それでも、繋がるものはある。  勝利に対する執着心――何者にも負けられないという気概だ。  内側で轟々と燃えたぎる、不死鳥(フェニックス)の両翼だ。  それだけは、悪くないと思えた。  ほんの一時的とはいえ、自分の意志を預けるには、及第点くらいはやれると思えた。  故に戒斗は賛同し、卑怯者の戦法に、敢えて乗ることを決めたのだ。 《急げ黒咲。奴ら、車を持ち出す気だぞ》  そんなことは知りもせず、黒咲は念話を受け取りながら、自らの家路へと向かう。  どの組のものかは知らないが、奴め自動車まで持っていたか。  ガソリンが貴重なこの街では、販売台数も数少ない、高級嗜好を通り越した奇特な趣味だ。  パトカーや消防車ならともかく、この魔術都市ユグドラシルでは一般車など、数えるほどしか見たことがない。 (車輪には車輪、か)  まさか使うことになるとは思わなかった。  そんなものを持ち出していては、それこそ悪目立ちするからだ。  そんな風に思いながら、黒咲は自室のあるアパートに着くと、階段脇で小山を作った、一台の布を取り去った。  それはボスから気に入られ、足に使えと渡されたもの。  自動車と同じく、このユグドラシルでは、ほとんどお目にかかれない貴重品。  黒咲隼の目の前では、街の照り返しを受けて、漆黒のバイクが煌めいていた。 【D-9/歓楽街/一日目 深夜】 【雅緋@閃乱カグラ SHINOVI VERSUS -少女達の証明-】 [状態]健康 [令呪]残り三画 [装備]コート [道具]妖刀、秘伝忍法書、財布 [所持金]そこそこ裕福(マフィアの運営資金を握っている) [思考・状況] 基本行動方針:優勝を狙う 1.行政区画に現れたというマスターを探す。警察の動きも利用しながら、人海戦術で捜索。 2.聖杯にかける願いに対する迷い [備考] ※行政地区で、マスター同士が戦ったことを把握しました。その場にいた面々の容姿は確認していません ※数人の部下を連れながら、自動車を手配しています 【ライダー(ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア)@コードギアス 反逆のルルーシュR2 】 [状態]健康 [装備]なし [道具]なし [所持金]なし [思考・状況] 基本行動方針:雅緋を助け、優勝へと導く 1.行政区画に現れたというマスターを探す。警察の動きも利用しながら、人海戦術で捜索。 2.雅緋の迷いに対して懸念 [備考] ※行政地区で、マスター同士が戦ったことを把握しました。その場にいた面々の容姿は確認していません 【黒咲隼@遊戯王ARC-Ⅴ】 [状態]健康 [令呪]残り三画 [装備]オートバイ [道具]カードデッキ、デュエルディスク [所持金]やや貧乏 [思考・状況] 基本行動方針:優勝し、聖杯を手に入れる 1.自室に戻り、戦闘準備を整える 2.雅緋を追跡する。他のマスターと戦闘を始めたら、疲弊したところに奇襲をかける [備考] ※D-9にあるアパートに暮らしています ※雅緋がマスターだと考えています ※雅緋が他のマスターを発見し、捜索に向かったと考えています 【ランサー(駆紋戒斗)@仮面ライダー鎧武】 [状態]健康 [装備]なし [道具]戦極ドライバー、ゲネシスドライバー、ロックシード(バナナ、マンゴー、レモンエナジー)、トランプ [所持金]なし [思考・状況] 基本行動方針:優勝する 1.生身では自動車には追いつけない。霊体化した状態で雅緋達を監視し、目的地だけでも突き止める。 2.黒咲と合流後、本格的に雅緋を追跡する。趣味ではないが、他のマスターと戦闘を始めたら、疲弊したところに奇襲をかける [備考] ※雅緋がマスターだと考えています ※雅緋が他のマスターを発見し、捜索に向かったと考えています ---- |BACK||NEXT| |[[この手の刃は光れども]]|[[投下順>本編目次投下順]]|[[強盗と仮面とベルト]]| |[[この手の刃は光れども]]|[[時系列順>本編目次時系列順]]|[[強盗と仮面とベルト]]| |BACK|登場キャラ|NEXT| |[[カーテン・コール]]|[[雅緋]]|-| |~|ライダー([[ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア]])|-| |~|[[黒咲隼]]|-| |~|ランサー([[駆紋戒斗]])|-|
**陰にて爪を研ぐ ◆nig7QPL25k 「そうか……分かった、すぐに行く」  報告を雅緋が受けたのは、0時半を過ぎ、1時が近づこうとした頃だった。  公衆電話からの着信を受け取り、短く返事をして受話器を置く。  椅子に無造作にかけていた、黒いジャケットに袖を通す。  前のボタンをかけようとして、ほんの少し、手こずった。  胸元が少しばかりきつい。ワンサイズ上のものを買っておけばよかったかもしれない。 「思ったよりも早かったな」  そう言うのはライダーのサーヴァントだ。  来客用のソファに腰掛けていた、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが、雅緋の支度を見て立ち上がる。 「ああ。派手に動いた奴がいてな。間抜けにも火事まで起こしたらしい」 「結構なことだ。パフォーマンスは派手な方がいい」  その方が客の目にもつくと、ルルーシュが言った。 「それで、場所は?」 「行政地区。南の橋の程近くだ」 「警察のお膝元か? それは……少し予想外だな」  ここに来てルルーシュは、初めてその目を丸くする。  行政地区といえば、軍や警察、裁判官などが出入りする、文字通りお役所仕事の中心街だ。  そこで大きな行動を起こせば、すぐに警察が出張ってきて、周囲を捜索し始める。  そうなれば、戦闘に勝ったとしても、動きにくくなることは間違いない。  それを分かって戦ったというのか。そこで火事を起こした連中は。 「仮にそこに住んでいる誰かを、誰かが襲撃したとして……襲った奴は相当な馬鹿か、あるいは逃げおおせる自信があったか。そのどちらかになるな」 「たとえばマスターは表に出ず、サーヴァントのみを差し向けた場合か。我々サーヴァントは霊体化によって、人の目を避けることができるからな」 「お前の宝具のように使い魔を放ち、捨て駒として扱える者だった可能性もある」  コートを羽織りながら、雅緋が言った。  ルルーシュの保有する宝具は、『我は世界を創る者(ぜったいじゅんしゅのギアス)』だけではない。  無数のしもべを召喚し、敵を襲わせる対軍宝具――『我は世界を変える者(オール・ハイル・ルルーシュ)』というものもある。  そうして遠隔操作できる使い魔を呼び出し、足の付かない鉄砲玉として、送り込んだ可能性もゼロではない。  もっとも、さすがにルルーシュがそれをやれば、目立つことこの上ないだろうが。 「それでどうする」 「連れて行くのは、二~三人でいいだろう。我々で見つけられなかった場合は、警察が勝手に捕まえてくれる」 「そうして騒ぎになってくれれば、あとはそこを押さえればいい、ということか」 「そういうことだ。行くぞ。ぐずぐずしている暇はない」  そう言うと、雅緋は返事を待つよりも早く、玄関の方へと足を進める。 「本当にそれでいいんだな?」  そしてその歩みを、止められた。  背後からかけられた言葉が、雅緋に鋭く突き刺さった。  お前はそれでいいのかと。  戦う理由に迷ったお前は、戦うことができるのかと。 「………」  正直、今でも迷いはある。  死者の復活という禁忌を、聖杯に願うということが、果たして許されることなのか。  そうしたとして、母は本当に、喜んでくれるのだろうかと。 「……問題はない。願いも迷いも何もかも、勝ってから考えればいいことだ」  それでも、雅緋はそうした躊躇いを、今は心に閉じ込めた。  どの道この戦いに勝利し、栄光を手にするという目的は、今も変わってはいないのだ。  その後で何を願うかなど、それこそ戦いに勝利しなければ、何ら意味のないことなのだ。 「悪の誇りを舞い掲げる。それだけが、私の成すべきことだからな」  そうして話を締めくくると、雅緋はドアノブに手を伸ばし、夜の町並みへと向かった。 ◆  歓楽街は夜の街だ。  日が沈み深夜を回っても、娯楽を求めてやって来る者が、随所で街を照らしている。  そんな歓楽街の一角に、何人かの人影が集まっている。  厳つい男達を引き連れているのは、うら若い東洋風の女性だ。 《奴が動いたようだぞ、黒咲》  そしてその女の横顔を、駆紋戒斗は見逃さなかった。  ランサーのクラスで現界した彼は、黒咲隼のサーヴァントだ。  何をするでもなく、壁にもたれかかっていた黒咲は、霊体化した戒斗の念話を聞くと、そちらの方へと歩み寄る。  角越しに見える女の姿は、間違いなくあのお山の大将だ。  白髪にスーツ姿の女など、この歓楽街には他にいない。 「こんな時間に仲間連れか……」 《揉め事の対応ではないだろうな。一強支配のこの街で、今更対立が起こるとは考えにくい》 「となると、狩りが目的か」  聖杯戦争を戦うライバルを見つけ、そいつを襲うために動き出した。  つまりあの雅緋もまた、自分と同じくサーヴァントを駆る、聖杯戦争のマスターなのだと。 《日の当たらない世界での暗躍……確かに他のマスターには、そうそう気取られることはないだろう》  同輩にとっては別だがなと、戒斗が黒咲に同意する。  普通に生活しているマスターにとっては、不良やマフィアのいざこざなど、目にもとまらぬことだろう。  されど、当事者として闇に巣食い、目の当たりにした黒咲にとっては、事情が大きく変わってくる。  突然姿を現して、次々とグループを制圧し、己が手足と変えた女――こんな奴が不審でなくて、一体何だというのだろうか。  そんな設定をされたNPCなど、当然存在するはずもない。  であれば、意志持つ人間だ。自分と同じマスターだ。 「追うぞランサー」 《勝算はあるのか?》 「奴が獲物を見つければ、当然戦いが始まる。弱ったところに飛び込めば、倒せない道理はないはずだ」 《不意打ちか。無様な弱者の発想だな》  黒咲の口にした考えを、戒斗は容赦なく嘲笑う。  一度切り結ぶと決めたなら、真っ向から戦うべしというのが、駆紋戒斗の主義だった。  拠点に忍び込むために、敵の目を盗んだことは何度もある。  されど敵と戦うために、敵の目を盗んで忍び寄ることを、戒斗は一度もしなかった。  卑劣な弱者を忌み嫌い、強者たらんとした彼からは、決して出ることのなかった発想だ。 「それは貴様の戦い方だ」  されど黒咲は否定する。  戒斗の嘲笑を一蹴する。 「どんな手を使ってでも勝つ。敗者が全てを失うのなら、選り好んでいる暇などない」  右の拳に、力がこもった。  眉間に皺を寄せながら、瞳を鋭く光らせながら。 「たとえ泥にまみれようとも、最後に全てを取り戻せるなら……俺は手段を選ばない……!」  あくまで声を殺しながら、されど猛禽のごとき形相で、黒咲隼は言い放った。  黒咲隼の戦いとは、生死を賭けた戦場の戦いだ。  街を炎で焼き払い、笑顔を悲鳴に変えてきた、邪悪な侵略者との戦いだった。  無勢の黒咲が行ったのは、抵抗組織に加わってのゲリラ戦だ。  弱者が強者の足を掬い、力差を策略で覆す、まさしく卑怯者の戦法だった。  だとしても、黒咲はそれを恥じない。命と未来がかかった戦で、手段の善悪を問うことは、愚行以外の何物でもないのだ。  それは魔力をほとんど持たぬまま、魔術のノウハウも知らずに放り込まれた、この聖杯戦争においても同じだった。 《………》 「……奴らを尾けろ。俺は準備を整えてくる」  話は終わりだと言わんばかりに、黒咲は言いながら踵を返した。  紺色のコートを翻し、戦うための装備を隠した、自分の仮住まいへと向かった。 《いいだろう。趣味ではないが、今回はその策に乗ってやる》  意外にも、戒斗の口をついたのは肯定だった。  一瞬沈黙こそしたものの、脳内に伝わる声色には、決して嫌悪の響きはなかった。 (弱いなりに、よく吠える)  それが黒咲には知る由もない、駆紋戒斗の感想だ。  自分の弱さを認めた上で、それでも諦めるわけにはいかないと、己を強く奮い立たせる。  弱さを憎み認めようとせず、強くあらんと振る舞い続けた、戒斗とは正反対の戦い方だ。  それでも、繋がるものはある。  勝利に対する執着心――何者にも負けられないという気概だ。  内側で轟々と燃えたぎる、不死鳥(フェニックス)の両翼だ。  それだけは、悪くないと思えた。  ほんの一時的とはいえ、自分の意志を預けるには、及第点くらいはやれると思えた。  故に戒斗は賛同し、卑怯者の戦法に、敢えて乗ることを決めたのだ。 《急げ黒咲。奴ら、車を持ち出す気だぞ》  そんなことは知りもせず、黒咲は念話を受け取りながら、自らの家路へと向かう。  どの組のものかは知らないが、奴め自動車まで持っていたか。  ガソリンが貴重なこの街では、販売台数も数少ない、高級嗜好を通り越した奇特な趣味だ。  パトカーや消防車ならともかく、この魔術都市ユグドラシルでは一般車など、数えるほどしか見たことがない。 (車輪には車輪、か)  まさか使うことになるとは思わなかった。  そんなものを持ち出していては、それこそ悪目立ちするからだ。  そんな風に思いながら、黒咲は自室のあるアパートに着くと、階段脇で小山を作った、一台の布を取り去った。  それはボスから気に入られ、足に使えと渡されたもの。  自動車と同じく、このユグドラシルでは、ほとんどお目にかかれない貴重品。  黒咲隼の目の前では、街の照り返しを受けて、漆黒のバイクが煌めいていた。 【D-9/歓楽街/一日目 深夜】 【雅緋@閃乱カグラ SHINOVI VERSUS -少女達の証明-】 [状態]健康 [令呪]残り三画 [装備]コート [道具]妖刀、秘伝忍法書、財布 [所持金]そこそこ裕福(マフィアの運営資金を握っている) [思考・状況] 基本行動方針:優勝を狙う 1.行政区画に現れたというマスターを探す。警察の動きも利用しながら、人海戦術で捜索。 2.聖杯にかける願いに対する迷い [備考] ※行政地区で、マスター同士が戦ったことを把握しました。その場にいた面々の容姿は確認していません ※数人の部下を連れながら、自動車を手配しています 【ライダー(ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア)@コードギアス 反逆のルルーシュR2 】 [状態]健康 [装備]なし [道具]なし [所持金]なし [思考・状況] 基本行動方針:雅緋を助け、優勝へと導く 1.行政区画に現れたというマスターを探す。警察の動きも利用しながら、人海戦術で捜索。 2.雅緋の迷いに対して懸念 [備考] ※行政地区で、マスター同士が戦ったことを把握しました。その場にいた面々の容姿は確認していません 【黒咲隼@遊戯王ARC-Ⅴ】 [状態]健康 [令呪]残り三画 [装備]オートバイ [道具]カードデッキ、デュエルディスク [所持金]やや貧乏 [思考・状況] 基本行動方針:優勝し、聖杯を手に入れる 1.自室に戻り、戦闘準備を整える 2.雅緋を追跡する。他のマスターと戦闘を始めたら、疲弊したところに奇襲をかける [備考] ※D-9にあるアパートに暮らしています ※雅緋がマスターだと考えています ※雅緋が他のマスターを発見し、捜索に向かったと考えています 【ランサー(駆紋戒斗)@仮面ライダー鎧武】 [状態]健康 [装備]なし [道具]戦極ドライバー、ゲネシスドライバー、ロックシード(バナナ、マンゴー、レモンエナジー)、トランプ [所持金]なし [思考・状況] 基本行動方針:優勝する 1.生身では自動車には追いつけない。霊体化した状態で雅緋達を監視し、目的地だけでも突き止める。 2.黒咲と合流後、本格的に雅緋を追跡する。趣味ではないが、他のマスターと戦闘を始めたら、疲弊したところに奇襲をかける [備考] ※雅緋がマスターだと考えています ※雅緋が他のマスターを発見し、捜索に向かったと考えています ---- |BACK||NEXT| |[[この手の刃は光れども]]|[[投下順>本編目次投下順]]|[[強盗と仮面とベルト]]| |[[この手の刃は光れども]]|[[時系列順>本編目次時系列順]]|[[強盗と仮面とベルト]]| |BACK|登場キャラ|NEXT| 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