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この手の刃は光れども」(2015/10/26 (月) 01:18:01) の最新版変更点

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**この手の刃は光れども ◆nig7QPL25k  行政地区と一言に言っても、用意されたスペースを、役所だけが埋め尽くしているわけではない。  勤務する人々に向けた集合住宅や、彼らが食事をするための飲食店など、多種多様な施設が点在している。  マリア・カデンツァヴナ・イヴの暮らすアパートもまた、そうした施設の一つだった。 『ロールス・ロイス社は19日に、これまでにない新たな発想の……』 「………」  風呂あがりのしっとりとした肌に、薄い部屋着を身に着けて。  ベッドの上に腰掛けながら、ぼんやりとした顔でテレビを見る。  魔術都市の娯楽としては、このテレビが最も文明的なものだ。  といっても、当然ユグドラシルの街には、ローカルのテレビ局など存在しない。  故にどことも知れない周辺国から受信した、この街には何ら関わりあいのないニュースを、こうやって見せられている。  ワイドショーで紹介されるスポットも、当然樹の下にあるものばかりだ。  これではそれこそバラエティしか、見る番組がないではないか。 (どうでもいいことか)  だが、突き詰めて言ってしまえば、そんなことは重要ではない。  リモコンをベッドに放り出すと、自身もごろりと横になる。  部屋の明かりはつきっぱなしだ。寝ようとしていたわけではなかった。 《間もなく本戦の始まる時間だが》  頭に念話が響いてくる。部屋の外で見張りをしている、キーパーのエデンが問いかけてくる。  現在の時刻は23時半。これがテレビ番組について、呑気に考えられない原因だった。 《とりあえず、私も1時までは起きてるわ。何もなかったらそのまま寝る。そしたらキーパーも休んでちょうだい》 《それは駄目だ。マスターが眠っている間に、襲撃があったらどうする》 《でも、貴方だって寝ないと体に毒よ?》 《サーヴァントに睡眠は必要ない。一晩寝なかった程度で、不調になることはないんだ》  何しろ幽霊だからなと、エデンは言った。  言われてみれば、既に死んでいる人間に対して、健康を説くのも野暮な話だ。  人間扱いしていないようで、少々心が痛んだが、そういうことならと了承すると、マリアはエデンとの念話を終える。 (いよいよか……)  とうとう本戦が始まるのだ。  最後の一人になるまで戦う、血塗られたバトルロイヤルが幕を開けるのだ。  ルールを鵜呑みにするならば、サーヴァントのみを対象にすれば、マスターが死ぬことはない。  しかし戦力差を考えれば、マスターを狙う方が正道だ。命懸けの戦いの中で、相手の生死を気にかける者など、恐らく誰もいないだろう。 (本当に、これでいいのかしら)  犠牲の数は確かに減る。  しかし人の命とは、足し引きで計算できるものではない。  地球を救うという理想を、この戦いに願うのは、本当に正しいことなのだろうか。  何度となく繰り返した自問を、再び胸中で問いかける。 「………」  少し、気分を入れ替えよう。  そう思って立ち上がり、部屋の窓を軽く開ける。  そしてミネラルウォーターを取り出すために、冷蔵庫のある調理場へと向かった。  考えてみれば、水道水を直飲みしないのも、随分と久しぶりなことのように思えた。  まだ日本で行動を起こしてから、それほど経っているわけでもないのに。 ◆ 「………」  夜風が服の裾を揺らす。  不可視の英霊・サーヴァントが、暗い街並みを見下ろしている。  オリオン星座の聖闘士――エデン。  彼はアパートの屋上に立ち、敵の襲撃に備えて、周囲を見渡し目を光らせていた。 (このユグドラシルの地に降り立ってから、妙な気配を感じている)  左手の手袋を見やり、思った。  紫の宝石があしらわれたそれは、本来不要になったはずのものだ。  その石の名は聖衣石(クロストーン)。  かつて暗黒神アプスの発した、闇の小宇宙に反発し、聖衣が変異した姿である。  しかしエデンの『巨人星座の青銅聖衣(オリオンクロス)』 は、このくらいの年の頃には、既に聖衣石化から解き放たれていたはずだ。 (障害となるものがある)  であれば、再び聖衣の力を、抑えつけている何かがある。  それがユグドラシルの地に流れる、魔力に感じた違和感だ。  戦闘自体には支障はないが、全く無視していいものではない。  いずれマスターにも相談し、探りを入れなければならないか。 「……?」  そこまで考えた、その時。  視界の中に、影が見えた。  建物と建物の間を飛び交う、赤い人影を視界に捉えた。 (只人の動きではない、か)  俊敏華麗な身のこなしは、明らかにNPCのものではない。  その上どうにもこちらへと、真っ直ぐ向かっているように見える。 《マスター、敵襲だ。すぐに応戦する》  時刻は0時を回ってすぐ。開幕に合わせてきたというのは、律儀と言うべきか何と言うか。  エデンは自らの霊体化を解くと、迫り来る影を迎えに出た。 「止まれ」  制止の声をかけながら、向かい合う相手を見定める。  金属の光沢を放つ、赤を基調とした装束の男だ。  額の真ん中に取り付けられた、丸鋸のような物体が、妙な存在感を醸し出している。  サーヴァントの気配は、感じられない。であれば、キャスターか何かの使い魔か。 「この先に何の用がある。答え次第では、引き返してもらうことになるぞ」 「………」  エデンの声にも答えない。赤い使い魔は全くの無言だ。  友好的な相手であるなら、ここで押し黙る理由はない。  であれば、やはり敵対者か。眉間に皺が刻まれる。空気がぴりぴりと張り詰める。 「!」  その時だ。  赤い男が懐から、煌めく銀色を取り出したのは。  あれは武器だ。鋭利な刃物だ。  額についているものと同じ、ぎざぎざとした丸鋸だ。 「――ッ!」  びゅんっ、と風を切る音が鳴る。  文字通り夜風を切り裂いて、二枚の刃が投擲される。  狙いはエデンだ。殺意の刃だ。  光は盛大な爆音を上げ、街の石畳を打ち砕き、周囲を粉塵の闇で満たす。  これが直撃したのであれば、いかな英霊サーヴァントとて、無傷というわけにはいかないだろう。 「――『巨人星座の青銅聖衣(オリオンクロス)』!」  もっとも、当たっていればの話だが。  闇を暴くのは雷光だ。眩い光が煙を引き裂き、夜の空へと跳び上がる。  星空の下に舞い踊るのは、パールのような光を放つ、白い戦闘甲冑だ。  聖闘士の鎧、青銅聖衣(ブロンズクロス)。それを解き放ち纏ったエデンが、眼下の敵を睨み据える。 「ヒーラ・マスティーア!」  雷撃が赤い男を襲った。  エデンの左手から放たれたのは、眩い稲妻の光だ。  牽制の放電攻撃を放ち、自らは自由落下で敵に迫る。  10m、5m、そしてゼロ距離。音速の拳の射程内。 「ふんっ!」  繰り出す拳が、敵を捉えた。  神話のオリオンの棍棒の如く、肥大化した左腕のアーマーが、ターゲットに叩きこまれたのだ。  よろめく敵に追撃を放つ。素早く右の拳を繰り出す。  命中。そして再び追撃。  しかし次なる左手は、さすがに防御に阻まれてしまった。 「フォルゴーレ……ルネッサンス!」  それでもそのままでは終わらない。  小宇宙を左手に集中し、雷光と変えて爆裂させる。  防御の上から放たれた光は、防御ごと赤い男を吹き飛ばす。  石畳を蹴り、前へ進んだ。崩れた姿勢の隙を突かんと、迷わず懐へ飛び込んだ。 「!!」  吹き飛びながらも赤い男は、鋸をこちらへ投げつけてくる。  このままでは正面衝突だ。加速のついた状態では回避できない。 「トニトルイ・サルターレッ!」  ならば取るべき手は迎撃だ。  電撃の弾丸を両手に生じ、同じく標的へ投げ放つ。  鋼と雷は軌跡を描き、闇の只中で激突を果たした。  爆音。スパーク。奪われる五感。 「でぇぇやッ!」  光の晴れた虚空の中で、拳と拳が打ち合っていた。  建物の壁を蹴った使い魔が、真っ向から飛び込んできていたのだ。  お互いの拳を、振り払う。スピードに従い交錯し、地に降りて再び標的へ向かう。  イーブンになった条件下で、脚と拳がぶつかり合った。幾合も繰り返させる衝突が、火花で暗い夜道を照らした。 (強い……)  ただの使い魔にしては強敵だ。  応酬を途切れさせることなく、オリオン座の聖闘士は思考する。  恐らく敵の実力は、サーヴァントと同等と言えるだろう。  違うのは宝具がないことくらいか。使い魔にしては、破格と言っていい性能だった。 (ならば機を見て、大技で――、ッ!?)  しかし、その時轟音が迫る。  背後から迫り来る爆音に、咄嗟に振り返った瞬間。 「ぐぁあっ!?」  ぶぉん――と轟くエンジン音に、正面から迫られ吹き飛ばされた。  痛む体に鞭を打ち、なんとか地面に踏みとどまる。  現れたのは青い影だ。赤い使い魔の攻撃ではない。新たな敵影が現れたのだ。  がちゃがちゃと身を変形させるのは、タイヤやマフラーの意匠を有した、車のようなロボットだった。  やはり、サーヴァントの気配はない。赤い奴と同様に、何者かの使い魔であるらしい。 (厄介だな)  実力まで同等であるとするなら、サーヴァント二騎を相手取ると同義か。  赤と青を視界に収めながら、エデンは身を起こし思考する。  こうなると宝具による一掃が、いよいよ現実味を帯びてきたか。  しかしあれは魔力消費が激しい。マスターの承認なしに、容易く放っていいものではあるまい。 「ムン――ッ!」  エデンの判断より早く、敵の使い魔が行動を起こした。  それぞれに攻撃態勢を取り、こちらに向かって飛びかかってきた。  やむを得ない。ここは迷わず使うべきだ。  己が奥義を放つべく、小宇宙を練り上げ始めた瞬間。 「Granzizel bilfen gungnir zizzl――」  戦場に、響き渡る歌があった。 ◆  奇跡は鎧の形をなす。  調べは呪文の言葉となって、神話の神秘を呼び覚ます。  振りかざす手に掲げるものは、遠き神代の時代の槍。  己が正義をなさんがためにと、悪を貫くと誓った意志。 「はぁああああッ!」  裂帛の気合を穂先に込めて、轟音と共に振り下ろした。  金と黒に輝く槍は、赤い鋸男の体を、真っ二つに叩き割った。  ばちばちとスパークの音が鳴る。断面から覗く金属が、危険な光を放ち始める。 「なっ……!?」  驚愕にエデンが瞠目した瞬間、赤い人影は爆裂した。  真紅の爆炎を炸裂させて、瞬きの間に四散した。  炎と風を受けはためくものは、闇に溶け込むような漆黒のマント。  桃色の髪をなびかせるのは、マリア・カデンツァヴナ・イヴだ。 「マスター! 何故出てきた!?」 「言ったでしょうッ! 任せっきりは性分でないとッ!」  エデンの元に駆け寄ると、庇うように槍を構える。  背後でたなびき蠢くマント――中・近距離用の防護兵装が、大きく広がり道を塞ぐ。 「フンッ!」  残された青い影が生じたものは、真っ赤に燃える炎のリングだ。  それを赤い影がしたように、こちら目掛けて投げつけてくる。  上等だ。敵はサーヴァントではない。ただの使い魔であるのなら、どうにか凌ぎ切ってみせる。 「このッ、胸に宿った、信念の火は――ッ!」  呪文の歌を歌い奏でた。  音楽に合わせて言葉を紡いだ。  シンフォギアとは音の鎧だ。装束が奏でる戦の調べに、祝詞の歌を乗せることで、初めて真価を発揮するのだ。  マントを前面に誘導し、迫る火の玉を受け止める。 「誰もぉッ、消すことは、できやしないッ!」  痛烈な衝撃に歌声が揺らいだ。  押し飛ばされそうになるのを、槍を地に刺して踏みとどまった。 「永劫のブレイズッ!」  力任せにマントを開き、焼けつくリングを左右に引き裂く。  予想以上の威力だったが、何とか防ぎきることはできた。  石畳から槍を引き抜くと、マリアは再び構え直し、油断なく敵の姿を睨む。 「フガァアアアアアッ!」  その時、横合いから雄叫びが響いた。  咄嗟にそちらの方を向き、そして驚愕に目を見開いた。  あれは何だ。あの巨人は。これまでに出てきた連中の、軽く倍はある巨体ではないか。  透き通るような全身は、まるで氷の細工のようだ。であればあの使い魔は、山奥から降りてきた雪男か。 「ふんっ!」  背後から声と雷鳴が響く。  エデンの投げ放った雷球が、新たに姿を現した、3体目の使い魔に直撃する。 「奴は僕が相手をする!」 「キーパーッ!」 「無理だと思ったら、すぐに後方に下がるんだ。いいな!」  そう言うと、エデンはマントを飛び越え、雪男へと殺到した。  両肩から伸びる装飾の布が、闇夜にばたばたとはためいて、見る見るうちに遠ざかった。  無理だと思ったらということは、今は構わないということか。  ならば青いのは任せてもらう。受け入れられたというのなら、その役割を果たしてみせる。 「闇に惑う夜にはッ! 歌を灯そうかッ!」  襲い来る敵へと槍を放った。  アームドギアを投擲し、空中で姿勢を崩させた。  マントを纏って自ら飛び込む。転がり落ちた槍を拾い、すぐさま追撃態勢に移る。 「力よ宿れ――ッ!」  槍と腕とがぶつかり合った。鋼と鋼の激突が、火花となって目の前を散らした。  大槍を強引に引き戻し、次の攻撃に備える。  敵の攻撃に槍をぶつけて、反発と同時に構え直す。  突き出した一撃をかわされた。がら空きの胴に鉄拳が迫った。  反射的にマントを回す。なんとか直撃は避けられたものの、勢いは殺しきれずに地を滑る。 (ギアがいつもよりも重い……ッ!)  踏みとどまったその場所で、ぜいぜいと肩で息をした。  もとよりマリア・カデンツァヴナ・イヴは、シンフォギアを纏える人間ではない。  低すぎる適合率を薬で補い、どうにか戦えている状態だ。  だがそれにしても、普段であれば、もっと自由に戦えたはずだ。  これは一体どうしたことだ。制御薬LiNKERの効力が、思ったよりも薄れているのか。 「ぐぅっ!」  その時、エデンの声が聞こえた。  見れば両足が氷に包まれ、地面に固定されている。  不可解な現象の正体は、氷の巨人の放つ凍気だ。見た目通りに氷を操り、敵を凍てつかせる使い魔だというのか。  あのままでは追撃を受ける。 「キーパーッ!」  あの巨体にまともにぶつかられては、彼もただでは済まないはずだ。  そうはさせない。お互いギリギリだというのなら、さっさと終わらせてやる。 「覚悟をッ、今構えたらッ!」  槍を構えて穂先を拡げる。  変形されたアームドギアが、エネルギーの奔流を生み出す。  歌女の放つ必殺技――超火力の砲撃・HORIZON†SPEARだ。  渦巻く暴力的な熱量は、立ちはだかる敵を撃ち貫かんと、一直線に解き放たれた。 「誇り、と――ぉおおおッ!?」  されど、上がるのは歌ではなく、悲鳴。  紡ぎ上げられたリズムが狂い、マリアの顔が驚愕に染まる。  何だこれは。どうしたというのだ。  いつも通りに放ったはずだ。QUEENS of MUSICのステージにおいても、適切に使えた技だったはずだ。  それがどうしてこうなっている。  こんな結果を招いている。  放たれるHORIZON†SPEARの威力は――ここまで強大ではなかったはずだ! 「ウガァッ!?」  光線が使い魔を捉える。腹へと一直線に命中する。  膨大なまでの破壊力は、マリアの倍以上の巨体を、紙くずのように吹き飛ばす。  しかしそれだけではとどまらなかった。あまりにも大きすぎる力は、敵を倒すだけでは収まらなかった。 「ぐっ……ぅあああああああああああ――ッ!!」  悲痛な叫びがマリアから上がる。  破壊係数に振り回されて、体をよじって倒れ伏す。  紫色の光線は、槍の動きに従って、並ぶ建物を薙ぎ払った。  眩い暴力は阻む全てを、焼き尽くし粉微塵に吹き飛ばした。 「マスター!」  エデンの叫びが聞こえた気がした。それすらも明瞭には聞き取れない。  目の前で巻き起こる炎の熱が、マリアの意識をぼやけさせる。  力の抜けた虚脱感と、無理やり身を動かした痛み。  思考することもままならぬまま、マリアは立ち上がることもかなわず、無様に地に這いつくばっていた。 ◆  製作者(クリエイター)アルバート・W・ワイリーは、A級の製作スキルの持ち主だ。  小型の監視用ロボットを作り出し、戦況を映像中継させるなど、彼には朝飯前である。  無論彼の放った戦闘ロボと、キーパーのサーヴァントの戦闘も、そうして筒抜けになっていた。  もっとも、訪れた結末は、ワイリーにもそのマスターにも、少々予想外なものだったが。 「あれは、本当に人間か?」  目を丸くしながら、ワイリーが言う。  無論、身体能力だけならば、ここまで驚くことはない。  実際、ロボット以上に動ける者は、自分のすぐ隣に座っている。  問題はマリア・カデンツァヴナ・イヴが、纏い戦った装束の力だ。  生身の人間がビームを放ち、市街地を焼き尽くすなど、ワイリーにとっては前代未聞だ。  英霊ならば分からないでもないが、何しろ現代人である。  恐らくは魔術も使うことなく、あれほどの力を発揮する者が、今の世にいたとは信じられない。 「無論、人間だ。私がこの目で確かめておる」  そのワイリーの言葉を否定するのが、軍司令官キング・ブラッドレイだ。  元々彼女の元にナンバーズを差し向け、偵察するよう進言したは、直接マリアと会った彼である。  昼間にも気配や呼吸など、五感で感じられる全ての情報が、人間のものであったと確認は取っている。  故に得体の知れない力を使おうと、彼女は間違いなく人類なのだ。  あのような奇っ怪な力が、この舞台に存在していたことには、彼も少々驚かされたが。 「まぁそれなら認めるしかないがな……」 「だが、彼女とて自分の持つ力を、完全に制御できてはおらんらしい」  であるなら恐れるには値しないと、キング・ブラッドレイは断言した。  あの程度の腕前であるなら、攻撃を避けるのは容易だ。  サーヴァント戦のセオリー通り、直接相対することがあれば、マスター同士で決着をつければいい。  そうするに値する気概が、あの娘にあればの話だが。 「あれだけ派手にやったからには、じき他のマスターも動くだろう。ナンバーズの修理、くれぐれも頼んだぞ」 「フン! 言われんでも分かっておるわい」  ブラッドレイの言葉にそう返すと、ワイリーはロボット達へと帰還を指示した。  弱点属性を突かれたメタルマンは、既に修復不可能だ。  最初から手駒を一体失ったのは、少々どころではない痛手だったが、幸い他二体は健在である。  ターボマンもフロストマンも、今から修理に取りかかれば、すぐに調子を取り戻すはずだ。  忙しくなるぞとつぶやきながら、クリエイターのサーヴァントは、自らの工房へと向かった。 【G-4/特級住宅街・ブラッドレイ邸/1日目 深夜】 【憤怒のラース(キング・ブラッドレイ)@鋼の錬金術師】 [状態] 健康 [令呪]残り三画 [装備] 刀×4 [道具] なし [所持金] 裕福 [思考・状況] 基本行動方針:ホムンクルスとして、人間と心行くまで戦う 1.ターボマンとフロストマンの修復を待つ 2.ひとまず今夜は睡眠を取り、起床後改めて、今後の方針を考える [備考] ※G-4にある豪邸に暮らしています ※マリア・カデンツァヴナ・イヴがマスターであると知りました 【クリエイター(アルバート・W・ワイリー)@ロックマンシリーズ】 [状態] 健康 [装備] なし [道具] なし [所持金] なし [思考・状況] 基本行動方針:世界征服のために聖杯を狙う 1.ターボマンとフロストマンを修復する 2.マリア・カデンツァヴナ・イヴの戦闘能力に興味 [備考] ※マリア・カデンツァヴナ・イヴがマスターであると知りました 【『DWN(ドクター・ワイリー・ナンバーズ)』 】 【DWN.056 ターボマン@ロックマン7】体力90%・現在地H-6 【DWN.062 フロストマン@ロックマン8】体力60%・現在地H-6 &color(red){【DWN.009 メタルマン@ロックマン2 大破】} ◆  特級住宅街と行政地区を結ぶ、橋のすぐ下にある陰。  目の前に水路が流れるその場所で、シンフォギアを解除したマリアは、息を切らせながら座り込んでいた。  遠くで聞こえるサイレンの音は、戦場に駆けつけた消防車だろうか。  誰もが魔術師でないからには、そういうものも必要になるのだろう。 「水だマスター。タオルもある」  傍らに現れたエデンが、彼女にペットボトルを差し出した。  それを引ったくるように受け取ると、焦る手つきで蓋を開いて、思いっきり中の水を飲んだ。  口からこぼれるのもお構いなしに、みっともなく水分を貪る。  ややあって口からボトルを離すと、エデンが持っていたタオルを受け取り、顔周りに浮かんだ汗を拭いた。 「しばらく家には戻れないだろう。財布と着替えを取ってきた。それと、これは戦いの跡地で拾ったものだ」  取っておいてくれ、と言いながら、エデンが持ってきたものを一通り渡す。  着替えの入った鞄と、財布。それから赤い機械のチップだ。  少し落ち着いたマリアは、まず鞄を受け取って、中に入ったものを確かめる。 「……下着がないわ」 「っと……すまない。うっかりしていた」 「いいのよ。お金があれば、店で買えるから」  財布を回収してくれたから、足りないものは購入が可能だ。  欲を言うなら、通帳もセットで欲しかったが、それは夜が明けてから頼めばいい。 「職場にも出られないとなると、周りから怪しまれそうね……」 「大丈夫か」  エデンの問いかけに、無言で頷く。  シンフォギアのバックファイアは、既に落ち着いている。問題があるとするならば、せいぜい体力の消耗くらいだ。 「あの時のガングニールは、明らかに異常を来たしていた……」  待機形態のペンダントへ戻った、己がシンフォギアを見ながら、言う。  ギアを重たく感じたのは、自分が弱っていたからではない。  自分の身に余るほどに、ギアが強くなっていたからだ。  シンフォギアシステムには、装者の肉体を保護すべく、301655722種類ものロックが存在している。  その中のいくらかのリミッターが外れ、マリアに制御できないほどの力が、溢れ出してしまっていたのだろう。  そんなことは、装者自身の意志ですら、実行することは困難だというのに。 「そうか……すまないな、もっと早くに気付くべきだった」 「気付く、って何を?」 「マスターの持つガングニールは、元は世界樹ユグドラシルの枝から作られた槍だった……それは知っているか?」 「ええ、まぁ……ということは、まさか……」 「そう。仮にこの街を支える世界樹が、ユグドラシルを元に作られたものだったとしたら……何らかの形で共鳴しても、不思議ではないということだ」  たとえば、世界樹の中で渦巻く魔力が、枝の魔力に干渉し、その力を高めるかもしれない。  あるいは、枝が幹へと戻ろうとして、より大きな反応を示すかもしれない。 「……そう……」  悪夢のような推論だった。  肌着姿のマリアは、膝をぎゅっと抱え込む。  そんな危険な状態なのか。この漆黒のガングニールは。  これでは技を放つことなど、恐ろしくてとてもできやしない。  いいや、普通に使うことすら、この先続けられるかどうか。 (結局私はどこへ行っても、何も貫けないというの……?)  状況は好転したはずだった。  自分一人が戦うだけで、世界は救われるはずだった。  けれどこの身の力は及ばず、出しゃばっていても引き下がっても、キーパーに迷惑をかけている。  剣にもフィーネの器にもなれない、半端者の力では、何も成し遂げることはできないというのか。 (セレナ……)  妹の声が聞きたかった。  優しく慰めてほしかった。  彼女のためになると信じて、戦い始めたというのに、その彼女を頼っている自分が、一層情けなく思えた。 ◆ (今の話には続きがある)  失意のマリアを見下ろしながら、エデンは一人思考する。  世界樹ユグドラシルの神話は、人間の世界で語られている、表向きの物語だ。  しかし、聖闘士エデンの知る神話には、更に隠された真実がある。  大神宣言・グングニル――それは遠い北欧の大地・アスガルドに伝わる究極の神器。  邪悪な大樹ユグドラシルが、地上の小宇宙を吸い上げることで、それを養分に生み出す槍だ。  そしてそのユグドラシルには、更にこのような逸話もあった。 (アスガルドに広がる世界樹の根は、信徒たる戦士に力を授け、逆に異教徒の力を奪う……)  父・マルスが蜂起した数年前、アスガルドの神闘士と、死んだはずの黄金聖闘士が、戦いを繰り広げたことがあった。  その時世界樹ユグドラシルは、黄金聖闘士達の小宇宙を吸い上げ、弱体化させていたというのだ。 (この件は僕にとっても、無関係ではないのでは……?)  聖衣の力を抑え込み、聖衣石へと変異させた力。  この世界樹に漂う魔力は、あるいはアスガルドの神話と、何か関係があるのではないか。  左手の聖衣石を見やりながら、エデンはそれにつきまとう何かを、見定めようとしていた。 【H-6/行政地区・橋の下/1日目 深夜】 【マリア・カデンツァヴナ・イヴ@戦姫絶唱シンフォギアG】 [状態]ダメージ(小)、疲労(大)、魔力残量8割 [令呪]残り三画 [装備]ガングニール [道具]アガートラーム、外出鞄(財布、着替えセット、タオル)、特殊武器チップ(メタルマン) [所持金] 普通(現在は財布の中身のみ) [思考・状況] 基本行動方針:聖杯を手に入れ、月の落下を止めたい 1.他のマスターにも居場所を悟られているかもしれない。しばらくの間、身を隠す 2.夜が明けたら、足りない生活用品を買い揃える。特に下着が欲しい 3.状況が落ち着いたら、エデンに通帳を取りに行ってもらう 4.ガングニールに振り回されている、弱い自分に自己嫌悪 [備考] ※H-6にあるアパートに暮らしています ※ガングニールのロックが外れ、平時より出力が増大していることに気付きました 【キーパー(エデン)@聖闘士星矢Ω】 [状態] ダメージ(小) [装備] 『巨人星座の青銅聖衣(オリオンクロス)』 [道具] なし [所持金]なし [思考・状況] 基本行動方針:マスターに従う 1.他のマスターにも居場所を悟られているかもしれない。しばらくの間、身を隠す 2.ユグドラシルの空気に違和感。何かからくりがあるのかもしれない [備考] ※世界樹の大元になっている樹が、「アスガルドのユグドラシル」なのではないかと考えています ◆  轟々と燃え盛る炎が、魔術の都市を赤く照らす。  集まった野次馬たちは皆、一様に不安な表情を浮かべて、その光景を見上げていた。  世界樹の魔力は強大だ。それが守りになっているから、炎で焼け落ちることはない。  されど建物はそうはいかない。現に立ち並ぶ小さなビルは、炎と黒煙を上げている。 「間違いないんだな?」  そしてその地獄絵図の中で、冷静な者が二人だけいた。  明らかに堅気ではない雰囲気を漂わせる、厳つい顔をしたゴロツキ達だ。 「ああ。遠目にだがバッチリ見た。この辺りを飛び回る人影も、ビルを焼いた光もな」 「そうか。それなら決まりだな」  男達は踵を返して、群衆に背を向け立ち去っていく。  冷静な口調で話していたが、しかし二人の双眸は、どこか焦点が定まらず、ぼんやりとしているようにも見えた。  そして二人の両目には、微かに赤い彩りが宿り光っているようにも見えた。 「ああ、そうだとも」 「早く戻ってあの方に――ミヤビさんに報告しないとな」 [全体の備考] ※H-6にて、火災が発生しました。消防隊による消化活動が進んでいます。 ※ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアに洗脳されたマフィア二人が、H-6で起きた戦闘を目撃しました。  放置すると、雅緋の元へと報告に向かい、情報が伝わってしまいます。 ---- |BACK||NEXT| |[[カーテン・コール]]|[[投下順>本編目次投下順]]|[[陰にて爪を研ぐ]]| |[[カーテン・コール]]|[[時系列順>本編目次時系列順]]|[[陰にて爪を研ぐ]]| |BACK|登場キャラ|NEXT| |[[カーテン・コール]]|[[マリア・カデンツァヴナ・イヴ]]|[[百機夜行]]| |~|キーパー([[エデン]])|~| |~|[[憤怒のラース]]|-| |~|クリエイター([[アルバート・W・ワイリー]])|-|
**この手の刃は光れども ◆nig7QPL25k  行政地区と一言に言っても、用意されたスペースを、役所だけが埋め尽くしているわけではない。  勤務する人々に向けた集合住宅や、彼らが食事をするための飲食店など、多種多様な施設が点在している。  マリア・カデンツァヴナ・イヴの暮らすアパートもまた、そうした施設の一つだった。 『ロールス・ロイス社は19日に、これまでにない新たな発想の……』 「………」  風呂あがりのしっとりとした肌に、薄い部屋着を身に着けて。  ベッドの上に腰掛けながら、ぼんやりとした顔でテレビを見る。  魔術都市の娯楽としては、このテレビが最も文明的なものだ。  といっても、当然ユグドラシルの街には、ローカルのテレビ局など存在しない。  故にどことも知れない周辺国から受信した、この街には何ら関わりあいのないニュースを、こうやって見せられている。  ワイドショーで紹介されるスポットも、当然樹の下にあるものばかりだ。  これではそれこそバラエティしか、見る番組がないではないか。 (どうでもいいことか)  だが、突き詰めて言ってしまえば、そんなことは重要ではない。  リモコンをベッドに放り出すと、自身もごろりと横になる。  部屋の明かりはつきっぱなしだ。寝ようとしていたわけではなかった。 《間もなく本戦の始まる時間だが》  頭に念話が響いてくる。部屋の外で見張りをしている、キーパーのエデンが問いかけてくる。  現在の時刻は23時半。これがテレビ番組について、呑気に考えられない原因だった。 《とりあえず、私も1時までは起きてるわ。何もなかったらそのまま寝る。そしたらキーパーも休んでちょうだい》 《それは駄目だ。マスターが眠っている間に、襲撃があったらどうする》 《でも、貴方だって寝ないと体に毒よ?》 《サーヴァントに睡眠は必要ない。一晩寝なかった程度で、不調になることはないんだ》  何しろ幽霊だからなと、エデンは言った。  言われてみれば、既に死んでいる人間に対して、健康を説くのも野暮な話だ。  人間扱いしていないようで、少々心が痛んだが、そういうことならと了承すると、マリアはエデンとの念話を終える。 (いよいよか……)  とうとう本戦が始まるのだ。  最後の一人になるまで戦う、血塗られたバトルロイヤルが幕を開けるのだ。  ルールを鵜呑みにするならば、サーヴァントのみを対象にすれば、マスターが死ぬことはない。  しかし戦力差を考えれば、マスターを狙う方が正道だ。命懸けの戦いの中で、相手の生死を気にかける者など、恐らく誰もいないだろう。 (本当に、これでいいのかしら)  犠牲の数は確かに減る。  しかし人の命とは、足し引きで計算できるものではない。  地球を救うという理想を、この戦いに願うのは、本当に正しいことなのだろうか。  何度となく繰り返した自問を、再び胸中で問いかける。 「………」  少し、気分を入れ替えよう。  そう思って立ち上がり、部屋の窓を軽く開ける。  そしてミネラルウォーターを取り出すために、冷蔵庫のある調理場へと向かった。  考えてみれば、水道水を直飲みしないのも、随分と久しぶりなことのように思えた。  まだ日本で行動を起こしてから、それほど経っているわけでもないのに。 ◆ 「………」  夜風が服の裾を揺らす。  不可視の英霊・サーヴァントが、暗い街並みを見下ろしている。  オリオン星座の聖闘士――エデン。  彼はアパートの屋上に立ち、敵の襲撃に備えて、周囲を見渡し目を光らせていた。 (このユグドラシルの地に降り立ってから、妙な気配を感じている)  左手の手袋を見やり、思った。  紫の宝石があしらわれたそれは、本来不要になったはずのものだ。  その石の名は聖衣石(クロストーン)。  かつて暗黒神アプスの発した、闇の小宇宙に反発し、聖衣が変異した姿である。  しかしエデンの『巨人星座の青銅聖衣(オリオンクロス)』 は、このくらいの年の頃には、既に聖衣石化から解き放たれていたはずだ。 (障害となるものがある)  であれば、再び聖衣の力を、抑えつけている何かがある。  それがユグドラシルの地に流れる、魔力に感じた違和感だ。  戦闘自体には支障はないが、全く無視していいものではない。  いずれマスターにも相談し、探りを入れなければならないか。 「……?」  そこまで考えた、その時。  視界の中に、影が見えた。  建物と建物の間を飛び交う、赤い人影を視界に捉えた。 (只人の動きではない、か)  俊敏華麗な身のこなしは、明らかにNPCのものではない。  その上どうにもこちらへと、真っ直ぐ向かっているように見える。 《マスター、敵襲だ。すぐに応戦する》  時刻は0時を回ってすぐ。開幕に合わせてきたというのは、律儀と言うべきか何と言うか。  エデンは自らの霊体化を解くと、迫り来る影を迎えに出た。 「止まれ」  制止の声をかけながら、向かい合う相手を見定める。  金属の光沢を放つ、赤を基調とした装束の男だ。  額の真ん中に取り付けられた、丸鋸のような物体が、妙な存在感を醸し出している。  サーヴァントの気配は、感じられない。であれば、キャスターか何かの使い魔か。 「この先に何の用がある。答え次第では、引き返してもらうことになるぞ」 「………」  エデンの声にも答えない。赤い使い魔は全くの無言だ。  友好的な相手であるなら、ここで押し黙る理由はない。  であれば、やはり敵対者か。眉間に皺が刻まれる。空気がぴりぴりと張り詰める。 「!」  その時だ。  赤い男が懐から、煌めく銀色を取り出したのは。  あれは武器だ。鋭利な刃物だ。  額についているものと同じ、ぎざぎざとした丸鋸だ。 「――ッ!」  びゅんっ、と風を切る音が鳴る。  文字通り夜風を切り裂いて、二枚の刃が投擲される。  狙いはエデンだ。殺意の刃だ。  光は盛大な爆音を上げ、街の石畳を打ち砕き、周囲を粉塵の闇で満たす。  これが直撃したのであれば、いかな英霊サーヴァントとて、無傷というわけにはいかないだろう。 「――『巨人星座の青銅聖衣(オリオンクロス)』!」  もっとも、当たっていればの話だが。  闇を暴くのは雷光だ。眩い光が煙を引き裂き、夜の空へと跳び上がる。  星空の下に舞い踊るのは、パールのような光を放つ、白い戦闘甲冑だ。  聖闘士の鎧、青銅聖衣(ブロンズクロス)。それを解き放ち纏ったエデンが、眼下の敵を睨み据える。 「ヒーラ・マスティーア!」  雷撃が赤い男を襲った。  エデンの左手から放たれたのは、眩い稲妻の光だ。  牽制の放電攻撃を放ち、自らは自由落下で敵に迫る。  10m、5m、そしてゼロ距離。音速の拳の射程内。 「ふんっ!」  繰り出す拳が、敵を捉えた。  神話のオリオンの棍棒の如く、肥大化した左腕のアーマーが、ターゲットに叩きこまれたのだ。  よろめく敵に追撃を放つ。素早く右の拳を繰り出す。  命中。そして再び追撃。  しかし次なる左手は、さすがに防御に阻まれてしまった。 「フォルゴーレ……ルネッサンス!」  それでもそのままでは終わらない。  小宇宙を左手に集中し、雷光と変えて爆裂させる。  防御の上から放たれた光は、防御ごと赤い男を吹き飛ばす。  石畳を蹴り、前へ進んだ。崩れた姿勢の隙を突かんと、迷わず懐へ飛び込んだ。 「!!」  吹き飛びながらも赤い男は、鋸をこちらへ投げつけてくる。  このままでは正面衝突だ。加速のついた状態では回避できない。 「トニトルイ・サルターレッ!」  ならば取るべき手は迎撃だ。  電撃の弾丸を両手に生じ、同じく標的へ投げ放つ。  鋼と雷は軌跡を描き、闇の只中で激突を果たした。  爆音。スパーク。奪われる五感。 「でぇぇやッ!」  光の晴れた虚空の中で、拳と拳が打ち合っていた。  建物の壁を蹴った使い魔が、真っ向から飛び込んできていたのだ。  お互いの拳を、振り払う。スピードに従い交錯し、地に降りて再び標的へ向かう。  イーブンになった条件下で、脚と拳がぶつかり合った。幾合も繰り返させる衝突が、火花で暗い夜道を照らした。 (強い……)  ただの使い魔にしては強敵だ。  応酬を途切れさせることなく、オリオン座の聖闘士は思考する。  恐らく敵の実力は、サーヴァントと同等と言えるだろう。  違うのは宝具がないことくらいか。使い魔にしては、破格と言っていい性能だった。 (ならば機を見て、大技で――、ッ!?)  しかし、その時轟音が迫る。  背後から迫り来る爆音に、咄嗟に振り返った瞬間。 「ぐぁあっ!?」  ぶぉん――と轟くエンジン音に、正面から迫られ吹き飛ばされた。  痛む体に鞭を打ち、なんとか地面に踏みとどまる。  現れたのは青い影だ。赤い使い魔の攻撃ではない。新たな敵影が現れたのだ。  がちゃがちゃと身を変形させるのは、タイヤやマフラーの意匠を有した、車のようなロボットだった。  やはり、サーヴァントの気配はない。赤い奴と同様に、何者かの使い魔であるらしい。 (厄介だな)  実力まで同等であるとするなら、サーヴァント二騎を相手取ると同義か。  赤と青を視界に収めながら、エデンは身を起こし思考する。  こうなると宝具による一掃が、いよいよ現実味を帯びてきたか。  しかしあれは魔力消費が激しい。マスターの承認なしに、容易く放っていいものではあるまい。 「ムン――ッ!」  エデンの判断より早く、敵の使い魔が行動を起こした。  それぞれに攻撃態勢を取り、こちらに向かって飛びかかってきた。  やむを得ない。ここは迷わず使うべきだ。  己が奥義を放つべく、小宇宙を練り上げ始めた瞬間。 「Granzizel bilfen gungnir zizzl――」  戦場に、響き渡る歌があった。 ◆  奇跡は鎧の形をなす。  調べは呪文の言葉となって、神話の神秘を呼び覚ます。  振りかざす手に掲げるものは、遠き神代の時代の槍。  己が正義をなさんがためにと、悪を貫くと誓った意志。 「はぁああああッ!」  裂帛の気合を穂先に込めて、轟音と共に振り下ろした。  金と黒に輝く槍は、赤い鋸男の体を、真っ二つに叩き割った。  ばちばちとスパークの音が鳴る。断面から覗く金属が、危険な光を放ち始める。 「なっ……!?」  驚愕にエデンが瞠目した瞬間、赤い人影は爆裂した。  真紅の爆炎を炸裂させて、瞬きの間に四散した。  炎と風を受けはためくものは、闇に溶け込むような漆黒のマント。  桃色の髪をなびかせるのは、マリア・カデンツァヴナ・イヴだ。 「マスター! 何故出てきた!?」 「言ったでしょうッ! 任せっきりは性分でないとッ!」  エデンの元に駆け寄ると、庇うように槍を構える。  背後でたなびき蠢くマント――中・近距離用の防護兵装が、大きく広がり道を塞ぐ。 「フンッ!」  残された青い影が生じたものは、真っ赤に燃える炎のリングだ。  それを赤い影がしたように、こちら目掛けて投げつけてくる。  上等だ。敵はサーヴァントではない。ただの使い魔であるのなら、どうにか凌ぎ切ってみせる。 「このッ、胸に宿った、信念の火は――ッ!」  呪文の歌を歌い奏でた。  音楽に合わせて言葉を紡いだ。  シンフォギアとは音の鎧だ。装束が奏でる戦の調べに、祝詞の歌を乗せることで、初めて真価を発揮するのだ。  マントを前面に誘導し、迫る火の玉を受け止める。 「誰もぉッ、消すことは、できやしないッ!」  痛烈な衝撃に歌声が揺らいだ。  押し飛ばされそうになるのを、槍を地に刺して踏みとどまった。 「永劫のブレイズッ!」  力任せにマントを開き、焼けつくリングを左右に引き裂く。  予想以上の威力だったが、何とか防ぎきることはできた。  石畳から槍を引き抜くと、マリアは再び構え直し、油断なく敵の姿を睨む。 「フガァアアアアアッ!」  その時、横合いから雄叫びが響いた。  咄嗟にそちらの方を向き、そして驚愕に目を見開いた。  あれは何だ。あの巨人は。これまでに出てきた連中の、軽く倍はある巨体ではないか。  透き通るような全身は、まるで氷の細工のようだ。であればあの使い魔は、山奥から降りてきた雪男か。 「ふんっ!」  背後から声と雷鳴が響く。  エデンの投げ放った雷球が、新たに姿を現した、3体目の使い魔に直撃する。 「奴は僕が相手をする!」 「キーパーッ!」 「無理だと思ったら、すぐに後方に下がるんだ。いいな!」  そう言うと、エデンはマントを飛び越え、雪男へと殺到した。  両肩から伸びる装飾の布が、闇夜にばたばたとはためいて、見る見るうちに遠ざかった。  無理だと思ったらということは、今は構わないということか。  ならば青いのは任せてもらう。受け入れられたというのなら、その役割を果たしてみせる。 「闇に惑う夜にはッ! 歌を灯そうかッ!」  襲い来る敵へと槍を放った。  アームドギアを投擲し、空中で姿勢を崩させた。  マントを纏って自ら飛び込む。転がり落ちた槍を拾い、すぐさま追撃態勢に移る。 「力よ宿れ――ッ!」  槍と腕とがぶつかり合った。鋼と鋼の激突が、火花となって目の前を散らした。  大槍を強引に引き戻し、次の攻撃に備える。  敵の攻撃に槍をぶつけて、反発と同時に構え直す。  突き出した一撃をかわされた。がら空きの胴に鉄拳が迫った。  反射的にマントを回す。なんとか直撃は避けられたものの、勢いは殺しきれずに地を滑る。 (ギアがいつもよりも重い……ッ!)  踏みとどまったその場所で、ぜいぜいと肩で息をした。  もとよりマリア・カデンツァヴナ・イヴは、シンフォギアを纏える人間ではない。  低すぎる適合率を薬で補い、どうにか戦えている状態だ。  だがそれにしても、普段であれば、もっと自由に戦えたはずだ。  これは一体どうしたことだ。制御薬LiNKERの効力が、思ったよりも薄れているのか。 「ぐぅっ!」  その時、エデンの声が聞こえた。  見れば両足が氷に包まれ、地面に固定されている。  不可解な現象の正体は、氷の巨人の放つ凍気だ。見た目通りに氷を操り、敵を凍てつかせる使い魔だというのか。  あのままでは追撃を受ける。 「キーパーッ!」  あの巨体にまともにぶつかられては、彼もただでは済まないはずだ。  そうはさせない。お互いギリギリだというのなら、さっさと終わらせてやる。 「覚悟をッ、今構えたらッ!」  槍を構えて穂先を拡げる。  変形されたアームドギアが、エネルギーの奔流を生み出す。  歌女の放つ必殺技――超火力の砲撃・HORIZON†SPEARだ。  渦巻く暴力的な熱量は、立ちはだかる敵を撃ち貫かんと、一直線に解き放たれた。 「誇り、と――ぉおおおッ!?」  されど、上がるのは歌ではなく、悲鳴。  紡ぎ上げられたリズムが狂い、マリアの顔が驚愕に染まる。  何だこれは。どうしたというのだ。  いつも通りに放ったはずだ。QUEENS of MUSICのステージにおいても、適切に使えた技だったはずだ。  それがどうしてこうなっている。  こんな結果を招いている。  放たれるHORIZON†SPEARの威力は――ここまで強大ではなかったはずだ! 「ウガァッ!?」  光線が使い魔を捉える。腹へと一直線に命中する。  膨大なまでの破壊力は、マリアの倍以上の巨体を、紙くずのように吹き飛ばす。  しかしそれだけではとどまらなかった。あまりにも大きすぎる力は、敵を倒すだけでは収まらなかった。 「ぐっ……ぅあああああああああああ――ッ!!」  悲痛な叫びがマリアから上がる。  破壊係数に振り回されて、体をよじって倒れ伏す。  紫色の光線は、槍の動きに従って、並ぶ建物を薙ぎ払った。  眩い暴力は阻む全てを、焼き尽くし粉微塵に吹き飛ばした。 「マスター!」  エデンの叫びが聞こえた気がした。それすらも明瞭には聞き取れない。  目の前で巻き起こる炎の熱が、マリアの意識をぼやけさせる。  力の抜けた虚脱感と、無理やり身を動かした痛み。  思考することもままならぬまま、マリアは立ち上がることもかなわず、無様に地に這いつくばっていた。 ◆  製作者(クリエイター)アルバート・W・ワイリーは、A級の製作スキルの持ち主だ。  小型の監視用ロボットを作り出し、戦況を映像中継させるなど、彼には朝飯前である。  無論彼の放った戦闘ロボと、キーパーのサーヴァントの戦闘も、そうして筒抜けになっていた。  もっとも、訪れた結末は、ワイリーにもそのマスターにも、少々予想外なものだったが。 「あれは、本当に人間か?」  目を丸くしながら、ワイリーが言う。  無論、身体能力だけならば、ここまで驚くことはない。  実際、ロボット以上に動ける者は、自分のすぐ隣に座っている。  問題はマリア・カデンツァヴナ・イヴが、纏い戦った装束の力だ。  生身の人間がビームを放ち、市街地を焼き尽くすなど、ワイリーにとっては前代未聞だ。  英霊ならば分からないでもないが、何しろ現代人である。  恐らくは魔術も使うことなく、あれほどの力を発揮する者が、今の世にいたとは信じられない。 「無論、人間だ。私がこの目で確かめておる」  そのワイリーの言葉を否定するのが、軍司令官キング・ブラッドレイだ。  元々彼女の元にナンバーズを差し向け、偵察するよう進言したは、直接マリアと会った彼である。  昼間にも気配や呼吸など、五感で感じられる全ての情報が、人間のものであったと確認は取っている。  故に得体の知れない力を使おうと、彼女は間違いなく人類なのだ。  あのような奇っ怪な力が、この舞台に存在していたことには、彼も少々驚かされたが。 「まぁそれなら認めるしかないがな……」 「だが、彼女とて自分の持つ力を、完全に制御できてはおらんらしい」  であるなら恐れるには値しないと、キング・ブラッドレイは断言した。  あの程度の腕前であるなら、攻撃を避けるのは容易だ。  サーヴァント戦のセオリー通り、直接相対することがあれば、マスター同士で決着をつければいい。  そうするに値する気概が、あの娘にあればの話だが。 「あれだけ派手にやったからには、じき他のマスターも動くだろう。ナンバーズの修理、くれぐれも頼んだぞ」 「フン! 言われんでも分かっておるわい」  ブラッドレイの言葉にそう返すと、ワイリーはロボット達へと帰還を指示した。  弱点属性を突かれたメタルマンは、既に修復不可能だ。  最初から手駒を一体失ったのは、少々どころではない痛手だったが、幸い他二体は健在である。  ターボマンもフロストマンも、今から修理に取りかかれば、すぐに調子を取り戻すはずだ。  忙しくなるぞとつぶやきながら、クリエイターのサーヴァントは、自らの工房へと向かった。 【G-4/特級住宅街・ブラッドレイ邸/1日目 深夜】 【憤怒のラース(キング・ブラッドレイ)@鋼の錬金術師】 [状態] 健康 [令呪]残り三画 [装備] 刀×4 [道具] なし [所持金] 裕福 [思考・状況] 基本行動方針:ホムンクルスとして、人間と心行くまで戦う 1.ターボマンとフロストマンの修復を待つ 2.ひとまず今夜は睡眠を取り、起床後改めて、今後の方針を考える [備考] ※G-4にある豪邸に暮らしています ※マリア・カデンツァヴナ・イヴがマスターであると知りました 【クリエイター(アルバート・W・ワイリー)@ロックマンシリーズ】 [状態] 健康 [装備] なし [道具] なし [所持金] なし [思考・状況] 基本行動方針:世界征服のために聖杯を狙う 1.ターボマンとフロストマンを修復する 2.マリア・カデンツァヴナ・イヴの戦闘能力に興味 [備考] ※マリア・カデンツァヴナ・イヴがマスターであると知りました 【『DWN(ドクター・ワイリー・ナンバーズ)』 】 【DWN.056 ターボマン@ロックマン7】体力90%・現在地H-6 【DWN.062 フロストマン@ロックマン8】体力60%・現在地H-6 &color(red){【DWN.009 メタルマン@ロックマン2 大破】} ◆  特級住宅街と行政地区を結ぶ、橋のすぐ下にある陰。  目の前に水路が流れるその場所で、シンフォギアを解除したマリアは、息を切らせながら座り込んでいた。  遠くで聞こえるサイレンの音は、戦場に駆けつけた消防車だろうか。  誰もが魔術師でないからには、そういうものも必要になるのだろう。 「水だマスター。タオルもある」  傍らに現れたエデンが、彼女にペットボトルを差し出した。  それを引ったくるように受け取ると、焦る手つきで蓋を開いて、思いっきり中の水を飲んだ。  口からこぼれるのもお構いなしに、みっともなく水分を貪る。  ややあって口からボトルを離すと、エデンが持っていたタオルを受け取り、顔周りに浮かんだ汗を拭いた。 「しばらく家には戻れないだろう。財布と着替えを取ってきた。それと、これは戦いの跡地で拾ったものだ」  取っておいてくれ、と言いながら、エデンが持ってきたものを一通り渡す。  着替えの入った鞄と、財布。それから赤い機械のチップだ。  少し落ち着いたマリアは、まず鞄を受け取って、中に入ったものを確かめる。 「……下着がないわ」 「っと……すまない。うっかりしていた」 「いいのよ。お金があれば、店で買えるから」  財布を回収してくれたから、足りないものは購入が可能だ。  欲を言うなら、通帳もセットで欲しかったが、それは夜が明けてから頼めばいい。 「職場にも出られないとなると、周りから怪しまれそうね……」 「大丈夫か」  エデンの問いかけに、無言で頷く。  シンフォギアのバックファイアは、既に落ち着いている。問題があるとするならば、せいぜい体力の消耗くらいだ。 「あの時のガングニールは、明らかに異常を来たしていた……」  待機形態のペンダントへ戻った、己がシンフォギアを見ながら、言う。  ギアを重たく感じたのは、自分が弱っていたからではない。  自分の身に余るほどに、ギアが強くなっていたからだ。  シンフォギアシステムには、装者の肉体を保護すべく、301655722種類ものロックが存在している。  その中のいくらかのリミッターが外れ、マリアに制御できないほどの力が、溢れ出してしまっていたのだろう。  そんなことは、装者自身の意志ですら、実行することは困難だというのに。 「そうか……すまないな、もっと早くに気付くべきだった」 「気付く、って何を?」 「マスターの持つガングニールは、元は世界樹ユグドラシルの枝から作られた槍だった……それは知っているか?」 「ええ、まぁ……ということは、まさか……」 「そう。仮にこの街を支える世界樹が、ユグドラシルを元に作られたものだったとしたら……何らかの形で共鳴しても、不思議ではないということだ」  たとえば、世界樹の中で渦巻く魔力が、枝の魔力に干渉し、その力を高めるかもしれない。  あるいは、枝が幹へと戻ろうとして、より大きな反応を示すかもしれない。 「……そう……」  悪夢のような推論だった。  肌着姿のマリアは、膝をぎゅっと抱え込む。  そんな危険な状態なのか。この漆黒のガングニールは。  これでは技を放つことなど、恐ろしくてとてもできやしない。  いいや、普通に使うことすら、この先続けられるかどうか。 (結局私はどこへ行っても、何も貫けないというの……?)  状況は好転したはずだった。  自分一人が戦うだけで、世界は救われるはずだった。  けれどこの身の力は及ばず、出しゃばっていても引き下がっても、キーパーに迷惑をかけている。  剣にもフィーネの器にもなれない、半端者の力では、何も成し遂げることはできないというのか。 (セレナ……)  妹の声が聞きたかった。  優しく慰めてほしかった。  彼女のためになると信じて、戦い始めたというのに、その彼女を頼っている自分が、一層情けなく思えた。 ◆ (今の話には続きがある)  失意のマリアを見下ろしながら、エデンは一人思考する。  世界樹ユグドラシルの神話は、人間の世界で語られている、表向きの物語だ。  しかし、聖闘士エデンの知る神話には、更に隠された真実がある。  大神宣言・グングニル――それは遠い北欧の大地・アスガルドに伝わる究極の神器。  邪悪な大樹ユグドラシルが、地上の小宇宙を吸い上げることで、それを養分に生み出す槍だ。  そしてそのユグドラシルには、更にこのような逸話もあった。 (アスガルドに広がる世界樹の根は、信徒たる戦士に力を授け、逆に異教徒の力を奪う……)  父・マルスが蜂起した数年前、アスガルドの神闘士と、死んだはずの黄金聖闘士が、戦いを繰り広げたことがあった。  その時世界樹ユグドラシルは、黄金聖闘士達の小宇宙を吸い上げ、弱体化させていたというのだ。 (この件は僕にとっても、無関係ではないのでは……?)  聖衣の力を抑え込み、聖衣石へと変異させた力。  この世界樹に漂う魔力は、あるいはアスガルドの神話と、何か関係があるのではないか。  左手の聖衣石を見やりながら、エデンはそれにつきまとう何かを、見定めようとしていた。 【H-6/行政地区・橋の下/1日目 深夜】 【マリア・カデンツァヴナ・イヴ@戦姫絶唱シンフォギアG】 [状態]ダメージ(小)、疲労(大)、魔力残量8割 [令呪]残り三画 [装備]ガングニール [道具]アガートラーム、外出鞄(財布、着替えセット、タオル)、特殊武器チップ(メタルマン) [所持金] 普通(現在は財布の中身のみ) [思考・状況] 基本行動方針:聖杯を手に入れ、月の落下を止めたい 1.他のマスターにも居場所を悟られているかもしれない。しばらくの間、身を隠す 2.夜が明けたら、足りない生活用品を買い揃える。特に下着が欲しい 3.状況が落ち着いたら、エデンに通帳を取りに行ってもらう 4.ガングニールに振り回されている、弱い自分に自己嫌悪 [備考] ※H-6にあるアパートに暮らしています ※ガングニールのロックが外れ、平時より出力が増大していることに気付きました 【キーパー(エデン)@聖闘士星矢Ω】 [状態] ダメージ(小) [装備] 『巨人星座の青銅聖衣(オリオンクロス)』 [道具] なし [所持金]なし [思考・状況] 基本行動方針:マスターに従う 1.他のマスターにも居場所を悟られているかもしれない。しばらくの間、身を隠す 2.ユグドラシルの空気に違和感。何かからくりがあるのかもしれない [備考] ※世界樹の大元になっている樹が、「アスガルドのユグドラシル」なのではないかと考えています ◆  轟々と燃え盛る炎が、魔術の都市を赤く照らす。  集まった野次馬たちは皆、一様に不安な表情を浮かべて、その光景を見上げていた。  世界樹の魔力は強大だ。それが守りになっているから、炎で焼け落ちることはない。  されど建物はそうはいかない。現に立ち並ぶ小さなビルは、炎と黒煙を上げている。 「間違いないんだな?」  そしてその地獄絵図の中で、冷静な者が二人だけいた。  明らかに堅気ではない雰囲気を漂わせる、厳つい顔をしたゴロツキ達だ。 「ああ。遠目にだがバッチリ見た。この辺りを飛び回る人影も、ビルを焼いた光もな」 「そうか。それなら決まりだな」  男達は踵を返して、群衆に背を向け立ち去っていく。  冷静な口調で話していたが、しかし二人の双眸は、どこか焦点が定まらず、ぼんやりとしているようにも見えた。  そして二人の両目には、微かに赤い彩りが宿り光っているようにも見えた。 「ああ、そうだとも」 「早く戻ってあの方に――ミヤビさんに報告しないとな」 [全体の備考] ※H-6にて、火災が発生しました。消防隊による消化活動が進んでいます。 ※ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアに洗脳されたマフィア二人が、H-6で起きた戦闘を目撃しました。  放置すると、雅緋の元へと報告に向かい、情報が伝わってしまいます。 ---- |BACK||NEXT| |[[カーテン・コール]]|[[投下順>本編目次投下順]]|[[陰にて爪を研ぐ]]| |[[カーテン・コール]]|[[時系列順>本編目次時系列順]]|[[陰にて爪を研ぐ]]| |BACK|登場キャラ|NEXT| |[[カーテン・コール]]|[[マリア・カデンツァヴナ・イヴ]]|[[百機夜行]]| |~|キーパー([[エデン]])|~| |~|[[憤怒のラース]]|[[森の向こうに目が潜む]]| |~|クリエイター([[アルバート・W・ワイリー]])|~|

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