「アーマードコア3の世界か…」 二脚型ACのパイロットは慣れた口調で言う。 言うやいなや機体は頭部のアイに光を宿した、所謂起動の合図だ。 「ここは…どこかの工場?いえ、施設内部みたいね」 「…待って、凄い量の熱源反応…MTどころかACまで複数機配備されてるわ」 オペレーターは落ち着いた語調で情報を伝えてくれた。 情報の証拠に施設の壁越しに銃撃や破壊、ブレードの特異な音まで詳細に伝わってくる。 「シーラ、状況が分からない 一体どうなっているんだ?」 「これは…レイヴン、どうやら多数のACがこの施設の制御を破壊しようとしているみたい」 「それにしてもこれだけの量をよく雇う気になれたわね…報酬も多いんでしょうね、きっと」 いつもの悪い癖だ。 シーラはこの手の話になるといつも… 「カスケード・レインジ E33へ向かってくれ」 急に通信が入った。随分と齢を重ねた男の声だった。 それよりも俺の機体名が呼ばれたことだ。多分E33というのは施設のブロックの一つのことだろうが… 「私たちもこのミッションに参加していることになっているようね」 「これがこの世界の役割…ということで良いのか?」 「そういうことね とりあえず指示された場所へ急行しましょう」 腕部マニピュレーターの細微な動き、鈍重とした脚部の歩行、ジェネレーター、ラジエータ それら機体の全ての正常な動作を確認後、背部のブースターをゆっくりと点火させる。 どうやら機体に不備はないようだ、通信者の語調も少し荒かったことだし急いでやらないとな… 「了解、カイザー 次は…」 各ブロック間の移動の最中、俺は心ここにあらずだった。 このアーマードコア3の世界のレイヴンのことを考えていた。 俺は本来、アーマードコアラストレイヴンの世界のレイヴンだったらしい。 それがふとしたことからこんな珍道中をするハメになってしまったのだ。 「カスケード・レインジ、お前には崩壊の危機にある各々の世界を救うため旅に出てもらう」 あの赤いACは一体何だったのか? あのACの話によるそれぞれ分裂していたアーマードコアの世界が融合を始めているということ それによって世界に異変が起き、パラレルワールドとして世界が出来上がっていくということらしい そもそもどうして俺が… 「E33クリア 次はN41…」 「レイヴン、考え事をしているの?」 「ああ、ちょっとな」 「やっぱり…世界の破壊者、って話?」 「それ以外に何があるんだよ」 このオペレーターのシーラは俺の専任のオペレーターであり、この世界を巡る旅の同行者でもある。 正直、別のオペレーター、もしくは自分ひとりだけで行くべきだったとも考えていた。 「C13だ ジョーカー急げ!…」 「各々の世界を救う旅って…具体的にはどういうことをすれば救ったということになるのかしら」 「さあな、ミッションをこなしていけばいつか救ったことになるんじゃないか?」 「…はぁ、それにこの世界のACは私たちのACと同義で考えていいのかしら」 シーラの好奇心に適当に受け答えしていると、急に施設の動力が停止し全てのゲートが開いていった。 「…よし 全施設の制圧を確認 皆、よくやってくれた 心から感謝する」 「どうやら作戦は終わったみたいね、報酬はいくら貰えるのかしら…」 シーラの悪癖にまた適当な相槌で答え、機体を戦闘モードから通常モードに移行させようとしていると レーダーに点が二つ、友軍信号を放ちながら出口のあるこちらへ向かってきていた。 「…姐さん!見てくれました?俺の戦績!」 「…ええ、いい加減分かったからその姐さんとかいうのやめなさい」 鈍そうな重量二脚型ACとACにしては珍しくスマートで形の整った白い軽量機体が通信をやり取りしているのを確認できた。 こいつらも俺と同じく依頼を受けていたレイヴンということだろう、…重量機の方の左腕の武器は何だ? 「あれ?姐さん、見ない型のACが…」 「一応味方みたいね、挨拶くらいはしておきましょう」 「…いや、あれは…カスケード・レインジ…?」 重量二脚のほうの動きがぴたっと止まった。 俺の機体に見覚えがあるのか?しかし俺のいた世界とこの世界は違うはずだ。 白い軽量二脚の方も不思議そうに重量機を見ながら動きを止めていた。 「あら、私たちのことは知っているのね」 「私はこのAC、カスケード・レインジのオペレーターで…「やはりお前か!悪魔!」 友軍信号が消滅した。 その瞬間、重量機とは思えないスピードでブースターを燃やしながらこちらへ突っ込んできた。 視認した限りでは側肩部のエクステンションも起動させていたところを見ると両肩のデュアルミサイルを斉射するつもりだろう。 もちろんのこと、俺は反応すらできずに全弾直撃を受けてしまうという醜態を晒してしまった。 ≪コア、損傷≫ 「貴様、いきなり何を…!」 「ロイヤルミスト!どういうつもり!?」 怒号は二方面から重量二脚に集中した。 当然、一方は直撃によって少し雑音混じりの俺の怒声、もう一方は重量機に味方であろう軽量機の方からだ。 本当に何のつもりだ、話を聞くつもりもないのか重量二脚はコアのイクシードオービットを展開し始めた。 「聞いていた通りだな、悪魔!」 「何が悪魔だ!」 「いつか現れると聞いていた!全てのレイヴンを倒すために…!」 やっぱり俺が悪魔というのは正しいらしい、誰が言いふらしているって言うんだ… それにしてもこいつ…動きが素早い、それに武器の特性を完全に知り尽くしている! 距離を離すために後退しているはずなのに距離をどんどん縮め、肩部のミサイルで翻弄、接近しながらのダブルトリガーで着実にAPを減らしてくる。 ≪機体損傷率、50% 危険です≫ 「レイヴン!とにかく迎撃しないと…!」 「そんなこと言われなくても分かってるんだよ!」 「いい加減にやめなさい!ロイヤルミスト!」 「姐さんもこの悪魔を倒すのに加勢してください!」 せめてイクシードオービットだけでも潰そうとしているはずなのにいくら撃っても敵機のコアが損傷しない。 それどころかどこか一部でも損傷が起こっていい筈なのに全く外見が変わらない、どうなっているんだこの世界のACは… 「この世界から消えてなくなれ!悪魔ぁーっ!!」 ≪右腕部、破損≫ 「くそっ!俺のレールガンが…!」 「レイヴン!ここは撤退…!…何?あの白い重量二脚ACは…?」 レーダーを確認すると範囲ギリギリに熱源を探知できた、だがそんなこと構っている訳には… ≪頭部、損傷≫ その時、白い重量機から通信が入った。 おそらくシーラやあちらの二人のレイヴンにも届いているだろう。 「遅かったじゃないか…」 「カスケード・レインジ…貴様はこの世界に不要なのだ」 「貴様の為に特別なレイヴンを用意した、ここで消えてもらおう…」 どういうことだ?あいつもここの世界のレイヴン…? 特別なレイヴンってどういうことだ?あいつも俺を悪魔とか思っているのか? その時、濁った半透明の壁が白い重量二脚の方から現れ、こちらに迫ってきた! 「あれもお前の罠か!悪魔め!」 「俺の知ったことか!」 こいつも知らないということはあの機体はこの世界のレイヴンの物ではない…? そうこうやり取りをしている間に俺たちは半濁の壁に飲み込まれていった。 何事もなかったかのように壁が通り過ぎていった、一体何だったんだ? その時、俺はレーダーを確認してぎょっとした。 「熱源を二つ確認、ACよ!」 「バスカー こんなところにもいたな、レイヴンが…!」 「あぁ… 行くぜ、VOLA」 次回、アーマードコア カスケード・レインジ! 「貴様…VOLAを笑ったなぁ…!」 「全てを破壊する存在…カスケード・レインジ」 「レイヴンが…」 「誰かを笑顔にしたい、その為に戦っているんだ!」 全てを破壊し、全てを繋げ!