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余りにも唐突過ぎる出来事で、誰一人として冷静な者は居なかった。
無線では怒号が飛び交い、その声も次々と消えていく。
「何故だ、何処が攻めてきた!」
「敵勢力はかなりの規模のMT部隊・・・」
「これは・・・クレストの部隊?・・・」
「クレスト?馬鹿な、クレストは味方の筈・・・」
「しかし・・もうここも持ちません!」
本社側も状況を把握できず、前線の戦力も恐慌状態に陥っている。


そんな中、彼は人型の指揮官MTに搭乗し、黙って戦況を見つめている。
しばらくの後、彼は悔しげに唇を噛み締めると。無線に向かって大声で指示を出す。
「ナービスの全部隊に告ぐ、この場での応戦は無意味!各機迅速にペイロードシティから脱出しろ!
ペイロードシティを脱出後はボルボス採掘場方面のナービス領へ落ち延びるんだ!」
そう言うと彼はロケットを肩に構え、撤退を援護するべく前線へ飛び込んでゆく。

ペイロードシティに駐留していたナービスのMT部隊は完全に不意と突かれた形になる。
ヌクレオ地区方面のナービス領は、旧資源を狙うミラージュの部隊に侵攻されていた。
クレストはその背後を突きミラージュの駐屯地を攻撃、さらに侵攻の準備をするべく軍備を増強。
ペイロードシティのナービス側は、今後クレストと共謀してミラージュに攻勢をかける物だと思っていた。
しかし皮肉にも、増強されたクレストの軍備はナービス側へと向けられてしまった。
圧倒的な戦力差の前にペイロードシティは壊滅、撤退を余儀なくされた。

彼は混乱する前線部隊を統率し、応戦を始めた。
既に後方の部隊は既に脱出路へ向けて移動を始めている。
その間、前線部隊はなんとしても持ちこたえなくてはならない。

しかし、破竹の勢いのクレスト部隊を前に、前線部隊は次々と撃墜されていく。
後方部隊が脱出路へ到着する頃には、彼の周囲に居るMTはほんの数機だけになっていた。

彼は周囲を見回すと、再び無線に大声で指示を出す。
「この戦力では脱出路まで撤退する事は叶わない、各機迅速に地下の倉庫へ逃げ込め!」


そうして落ち延びた先が、この地下倉庫だった。
倉庫の入り口は小さな扉が一つだけ、倉庫内にはある程度物資も在る。
立て篭もるには絶好の場所だった。

クレストの部隊も今はまだ倉庫へ攻め入る動きを見せない。
おそらく篭城する残党に無駄な勢力を割きたくないのだろう。
ようやく倉庫の中のナービス部隊内に余裕が生まれてきた。

彼は周囲を見回し、生き残ったMTを確認する。
「・・・生き残ったのはこれだけか・・・・」
人形のMTがたった四機だった。
四機・・・MTが四機、たった四機。
他に何か役に立つ物は・・・倉庫の警備システムの小型無人MTと天井についた自動小銃
余りにも貧弱な勢力だった。

無線の回線からよく通る若い声が聞こえてくる。
「なんとか、生き残ったんですね。」
摩れた感じの中年声がそれに応じる。
「ああ、死ぬかと思ったね。しかし今回の戦闘は一体何だったんだ?」
それに彼が答える。
「敵はクレストのMT部隊だった。おそらく、ペイロードシティをミラージュ侵攻の拠点にするのだろう。」
そう言うと突然、無線に甲高い笑い声が入ってきた。
「俺たちはまんまと騙された訳だ、勝手にクレストを味方と思い込んで、勝手に騙された訳だ。
そしてこんな辛気臭い場所に逃げ込んだ、今頃後方部隊は拾った命の重さでも感じてるんだろうよ。」
そう言うと甲高い声は笑い続ける。余りにも耳障りな声だった。

「・・・そんな事、今言わないでくださいよ!!」
若い声が反駁する。
「第一、私たちはまだ死ぬと決まった訳じゃない・・・」
「死ぬと決まった訳じゃない?たった四機で何が出来る、いずれ俺たちは殺されるんだよ。」
その言葉は不気味に響き渡り、重い沈黙が四人を繋ぐ無線を覆っていった。
「ほら、結局俺たち前線部隊は使い捨てなんだよ、笑っちまうだろ?」
一人笑う甲高い声。三人は沈黙を守り続ける。
一瞬が経ち、甲高い笑い声が笑い疲れて口を閉じる。今度は甲高い声も笑い出さなかった。


「・・・指揮官、今後どうするんだ、それに、他のナービス部隊は何をしている?」
中年声が弱弱しく沈黙を破る。
「今後・・・か。」
彼は後方部隊の無線を受信し始める。
「・・・後方部隊はペイロードシティの一般人を連れ、この街から脱出を図っているようだ。」
「順調・・・という事ですね。」
若い声が安堵の声を出した。
「もしかしたら、採掘場で合流した部隊が助けに来てくれるかもしれません、
採掘場側のナービス部隊には優秀なレイヴンも居ますから、そうですよね?指揮官。」
「ピン・ファイヤーか。だが、いかに彼が優秀でも、ミラージュとクレストを同時に相手取るのは不可能だ。
ナービス本社もたかが数機のMTを助けに来る程馬鹿じゃないな。」
「・・・でも、もしかしたらって事も在りますよね?クレストとナービスが提携するとか、他にも、」
若い声が焦りながらまくしたてる。それを中年声が遮った。
「・・・うるさい、今の状況を見てから、考えろ・・・
今の状況を・・・よく見てから・・・な・・・」
若い声が黙るのを確認すると、中年声が、喉の奥から捻り出すような声で話し始めた。
「投降・・・という手段は無いのか?」
「このMTも提供して・・・命だけは助けてもらえれば・・・」
「結局そんな下らない事を考えてるのかよ、つまんない奴だな」
焦りと苛立ちの感じられる甲高い声が中年声に割って入る
「俺たちはもう、ナービスにもクレストにも必要とされてないんだよ、判ったら黙れ。」
「でも・・・死にたくは無いだろ?・・・」
「死にたくなかったら、そんな甘い考えは捨てろよ!」
苛立ちのピークを迎えた甲高い声が叫ぶ。
「今更何言ってんだよ、助かる筈が無いだろ?せめて後一秒でも長く生き残れる努力でもするんだな!」
甲高い声が息を切らす、そして四人の上には再びやるせない静寂が訪れた。


「とりあえず、敵襲に備えて、MTから降りない方がいいだろう。
長丁場になりそうだから、交代で見張りと睡眠を取る事にしよう。」
指揮官が口を切る。
「何か外に動きがあれば、随時私が知らせる。とりあえず皆、気を強く持ってくれ。」
「了解。」
「了解。」
若い声と中年声が返事をする。


長い時間が過ぎた。しかし、誰も眠った気配は無い。

「嫌な予感は・・してたんだけどな。」
甲高い声が神妙に話し始めた。
「とっても嫌な・・・危険な予感が。」
「まさかぁ・・・そんなの後付でしょう・・・」
「いや、本当に嫌な感じだったよ・・・」
甲高い声が取り付かれたように呟く。
「だから俺は嫌だったんだ、戦争なんて・・・」
誰も答える者は居なかった。


「今、一般人と共に脱出中の部隊から、クレストの部隊に襲われたとの連絡が在った。
レイヴンを雇い護衛に当たらせたようだが、クレストは一般人をも殺す理由が在るらしい。」
「・・・」
「私たちの投降を受け入れる理由なんて・・・全く無い様だな。」
「・・・了解」
中年声は泣きそうな声で応じる。
「もう、終わったんですね。思ったより早かったかな。」
若い声が一人呟く
「終わった、あー疲れた、本当に疲れましたよー。」


長い長い沈黙が続く、とても長い沈黙が続く。
何時間経ったかも判らない。そんな時、再び声が響く。
「点呼を取る、今起きている者は返事をしろ。」
一拍置いて甲高い返事が一つだけ来る
「ああ。」
「他の二人は眠ったようだな・・・。」
「そうみたいだな。」
甲高い声は妙に落ち着いている。
「今、ナービス採掘場が攻略された。ピン・ファイヤーは、ミラージュの雇ったレイヴンに殺された。」
「そうですか。」
「もうナービスは終わりかもしれないな・・・」
「そうですねぇ・・・」

「俺達、このまま終わっちゃっていいんですか?」
「・・・」
「もしかしたら、他のナービス部隊も、追い詰められてこんな思いしてるのかもしれませんよ。」
「・・・」
「ここで負けたら、他の部隊に負けてるみたいで、悔しいじゃないですか。」
「・・・」
「俺は悔しいです。」
「・・・」

「・・・私も、悔しいかな。」
「・・・ああ、悔しい。」
指揮官に続き、いつ起きたのか、中年声も賛同する。

「・・・悔しい、ああ悔しいね、最後に一泡吹かせてやりたいです。」
若い声も力強い声で応じた。

「じゃあ、指揮、頼みます。」
甲高い声から、興奮と、恐怖を押し殺している事が判る。
「ああ。判った。一泡どころか二泡でも吹かせてやろうじゃないか」


倉庫には、コンテナの入った棚が所狭しと並べられている。
部屋は二つに分かれており、二つの部屋の間には、人型機体が一機通る事が出来るぐらいの細い通路が通っている。
手前の部屋の棚はそのままにして、奥の部屋の棚は、部屋の入り口を囲む様にバリケード状に並べた。
そしてその背後に、若い声と、中年声と、甲高い声の人型MTが備える。
装甲の硬い指揮官機はレーダーに反応しないようジェネレーターを停止させ、手前の棚のコンテナの一つに隠れる。
「たった四機で、この狭い空間だ、これくらいの作戦しか立てられない。済まないな。」
「いえ、これで十分です。十分過ぎるくらいです。」
細い通路を戦闘場所に選んだのは、多数の敵勢と対等に渡り合う為だ。
単純すぎる作戦だったが、十分理に叶った作戦だった。


彼らはその状態で長い間待った、どれだけ時間が経っても、誰も話し出そうとはしない。
会話など、初めから無意味な物だった。死という物は、余りにも個人的すぎる問題だった。
そして、ついにその時は訪れた。


「敵反応1!たった一機?」
「警備システムの自律兵器を全て出すんだ、各機作戦通りに頼むぞ!」
「まさか・・・一機という事は・・・」

四人の間に緊張が走る、相手はおそらく、AC、だった。
倉庫に敵機が侵入してくる、敵機の詳細を確認する。
やはり、AC、だった。

「ACか・・・」

AC相手では、余りにも部が悪い。MT四機でACに勝つ事は不可能に近かった。
だが、彼ら四人にはそんな事は関係無い。

そのACは床を走る自律兵器を的確に破壊していく。
コンテナに入って隠れている指揮官機には気付いていない様だ。

順調に進むAC、手前の部屋の自律兵器を掃討し終わると、細い通路の扉を開ける。

少し遅れて指揮官機は戦闘システムを起動し、細い通路へ進入する。
それと同時にACは奥の部屋の扉を開けた。

間取りの違う棚に困惑したのか、ACに一瞬の隙が生まれる。
その瞬間、バリケード状の棚の間から、そしてACの背後の通路から、四人の最後の一斉射撃が始まった。

「だが、こちらにも意地がある事を教えてやろう!」




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