第十一話 レンナ=フォーチュン

レンナはカナミを妹のように思っていた。
初めて会った時、レンナはカナミを、なんて世間知らずの子だろうと思った。
レンナはレイヴンになった日から、その日まで、力の無き者は全て見捨ててきた。
それが、この世界での自分のできる在り方だと思っていたからだ。
それは非常な心からではなく、全てに絶望し、他人に構う余裕すら無かったレンナの心がそうさせていた。
だがしかし、カナミに会った日、レンナにはどうしてもカナミを見捨てる事ができなかった。
レンナはいつまでもその理由がわからなかったが、カナミと付き合い始めてから流れた時は、悪くないと思っていた。

「ターゲットの消滅を確認しました。テストモードを終了します。」
空色に統一されたカラーリングのACのCOMが、自分の主人に対して告げる。
「腕は衰えてないわね。」
その声の主は、オペレーターになってからしばらくACに乗っていなかったが、操縦の方法は体が覚えていたようだった。
「さぁ、よろしく頼むわよ。今度こそ、私は運命に決着をつけるんだから、、。」
声の主は自機にそう言うと、アークのAC用ガレージから出撃していった。

『ん、んん、、、。』
少女が目を覚ます。自分の部屋、もう見飽きたようにも思えるこの空間。
だがしかし前日、生と死の狭間にいた少女には、妙に目覚めの朝の光が、まぶしく感じられた。
『レンナさん、、、?』
少女はふと胸に寂しさを覚え、呼びかけるが、返事は無い。
少女が探しに行くと、リビングの机の上に、一枚の書置きがあった。

―――――――――――――――――――――――――――――――

 かなみちゃんへ。

 あなたがこれを見ている時は、私は再びレイヴンになっているでしょう。
 と、言っても今日が、本当に最後の仕事。
 昨日の任務で出現した部隊は、昨日私が話した施設の生き残りのようです。
 再び彼らが私の前に現れた時、
 私は私の運命に、決着をつけなくちゃならないと思った。
 だからちょっと、お出かけしてきます。

 そうそう、牛泥棒についてですが、
 私が独自に調べた情報によると牛泥棒はどうやら、
 これから決着をつけにいく施設の所属部隊だったようです。
 ついでにやっつけてきます。

 おそらく私は帰らないでしょう。
 今日まであなたと一緒にいて、楽しかったです。
 久しぶりに、人としての普通の幸せに気づけた気がします。

 ありがとう。

 少しばかりのお礼に、私のレイヴンとしての残った全財産を、
 かなみちゃんに寄付しておきました。
 牛泥棒もいなくなるし、金銭面でも寺杷牧場は安泰になると思います。
 かなみちゃんは、もうレイヴンなんて辞めて、
 普通の幸せを掴んでください。私からのお願いです。

 かなみちゃんは、私にとって妹みたいな存在でした。
 寝言とはいえ、お姉さんみたいって言われて、すごく嬉しかったよ。

 さようなら。

―――――――――――――――――――――――――――――――


カナミの顔が、その書置きを見て、みるみる青ざめていく。
カナミはすぐにレンナを追いかけようと、支度をしに急いで部屋へ戻ろうとする。
『痛ッ、、?!』
全身に激痛が走る。先日の影響だ。たまらずその場に、うつぶせに転んでしまう。
カナミの目から涙が出てくる。
『なんで、、なんでいつも、こういう時に無力なの、、、?』
父が死んだ時、そしてレンナが危険であろう今、カナミはあまりにも無力だった。
それでも、カナミはなんとかしたかった。そして、我が身にムチを打つ気持ちで立ち上がった。
支度をなんとか整えたカナミは、ふらふらとACのガレージへ行く。
『よかった、、修理終わってる。』
カナミはAC・INNOCENTに乗り込んだが、ここにきて重大な事を思い出した。
『あ、、レンナさんの行った場所がわかんない、、。』
万事休す、と思ったが、カナミは閃いた。
『キサラギの研究機関を調べればいいんだ、、。
 ここの近くで、前の依頼のACが来た方角にある施設を、、。』
カナミはACのCOMをネットワークに繋げ、アークがレイヴンに無償で提供しているデータバンクにアクセスする。
カナミは自分の住む場所付近の、キサラギの研究所の検索を開始し、その間に自分の貯金額を確認した。
すると、カナミの目に、とんでもないものが目に入る。カナミは思わず、目を疑った。
『ひゃ、1250000C、、、?』
とんでもない金額だった。レンナが寄付した金額だとすぐに察したが、
長年レイヴンをしないと貯められないような大金だった。
『そっか、、レンナさんの恋人が残した遺産も、この中に、、。』
そう思うと納得できる金額だった。
『もらえないよ、レンナさん、、。』

検索が終了し、キサラギの研究所のデータがディスプレイに表示される。
表向きは環境改善のための実験施設らしく、かなりの大規模のもので、キサラギの重要施設の一つだと思われた。
その分、データに表示されている警備網も厳重で、
詳細な数は不明だったが、かなりのMTと、少数のACに守られている様子だった。
『こんなの死んじゃうよ、、!レンナさん、、、。無茶だよ!!』
すぐに助けに行こうと思ったが、レイヴンとして赤子も同然のカナミが助けに行っても、
足手まといにしかならない事が予想できた。
『どうしたら、、。』
苦悩し、アークの端末をいろいろいじって模索し始める。
すると、ディスプレイにレイヴンに向けられた数々の依頼が表示された。
『そうだ、依頼だ、、!私もこのお金で、凄腕のレイヴンを雇えばいいんだ!!』

カナミはすぐに行動を移した。
アークに緊急の依頼を送り、返事を待つ。
カナミは焦った。こうしている間にも、レンナは討ち死にしようとしているからだ。
一分一秒でも惜しい。そう感じられた。
「ピコン!」
突如、メールが届く。
『誰からだろう。』

―――――――――――――――――――――――――――――――

 From:リム・ファイヤー
 to:寺杷

 アークが珍しい依頼にレイヴンを募集していたが、
 レイヴンがレイヴンへ、レイヴンの救援の依頼か。
 笑わせる。

 こんな罠としか見えない依頼、誰が受けるというんだ。
 リスクから考えて、おそらく誰も受けないだろう。
 受ける奴がいれば、よっぽどのお人よしだ。

 だがしかし、興味が湧いた。
 俺が受けてやる。

 もしも罠ならば、そんな姑息なレイヴンは、
 貴様とグルになったレイヴンを含め息の根は俺の手で止めてやる。
 覚悟しておくんだな。

―――――――――――――――――――――――――――――――

『こ、怖い、、。』
レイヴンに脅されたことが今までなかったカナミにとって、そのメールはあまりにもショッキングだった。
しかもリム・ファイヤーはランカーレイヴンだった。
今にもカナミは逃げ出したい気分だったが、耐える。
複数のレイヴンを募集したので、他のレイヴンからも連絡が来るのを期待する事にした。
『どうか、優しい人来て!!』
だがしかしカナミの期待は空しく、リムの言うとおり、他のレイヴンは誰も受ける気配がない。
メラが依頼を受けてくれる事も期待していたが、どうやらメラは他の任務に出撃していたようだった。
時間が惜しかったカナミは仕方なく、リム・ファイヤーと共に出撃する事にした。

キサラギの研究所がある街の区画の一角で、
リム・ファイヤーがACパレットライフでカナミと合流する。
「作戦領域に到着。」
リム側のオペレーターが言う。カナミ側は、COMが冷徹にそれを告げていた。
「貴様が依頼者か。」
リムがINNOCENTに通信を飛ばす。
カナミはその声に聞き覚えがあった。
『あれ、、あなた、アリーナの人、、?』
リムもその声を聞いて、驚いた。
「お前は、、あの子供か。」
カナミはたとえ一回会っただけとはいえ、知っている人が依頼を受けてくれた事で安心した。
『あの、罠じゃないっていう証拠は無いです。でも、信じてくれますか、、?』
リムはそれを聞き、少しの間沈黙し、答えた。
「たとえ子供でも、レイヴンは信用しない。もしも少しでも裏切る気配を見せれば、殺す。」
カナミは少し困ったが、キサラギ研究所にACを進めていった。

「敵襲!敵襲!!」
突然のACの襲撃に、研究所の所員達は慌てふためいている。
「いいか、貴様が前だ。俺が後ろだ。わかったな。」
リムがカナミに指示する。後ろから撃たれたくないのだろう。
『私の事信じてください、、。』
「無理だ。」
リムは簡潔にそう答えると、パレットライフの肩のチェインガンで、MTを手際よく始末していく。
カナミはそんなリムを見て関心した。
『すごく怖い人だけど、、やっぱりランカーレイヴン、強いなぁ、、、。』
カナミもアリーナでそれなりに場数を踏んでいたが、
リムの強さはそれよりも何枚も上手だと感じた。
『メラ君と比べるのは失礼だけど、、メラ君が挑んでも一瞬でやられちゃいそう、、。』
それだけリムの強さは圧倒的だった。INNOCENTがまるでその場にいないような錯覚に落ちいるほどに。
別の依頼中のメラがこの時くしゃみをしたが、それはカナミの知るところではなかった。

それから数秒後、10機はいたであろうMT達が鉄くずになっていた。
リムは的確にMT達の急所を狙っていた事で、チェインガンの弾数はまったく減っていなかった。
「さぁ、いくぞ。先にお前が研究所内部を進んでいくんだ。」
カナミは言われるがままに研究所に進入できる経路を探す。
通風口を見つけ、そこを破壊し、INNOCENTが突入していく。それに続けてパレットライフも突入した。

『なんか警備が手薄ですね。』
「話しかけるな。」
『、、、。』
カナミとリムは研究所内部に進入したが、入り口に比べ警備がまったくと言ってよいほど無い。
しばらく進むと、ずっと黙っていたリムが重い口を開く。
「貴様の仲間が別の箇所から突入した事で、防衛網がそちらにほとんど向いているようだな。」
カナミはなるほど、と思った。
『って、あなただって話しかけてるじゃない!』
「俺からはいい。」
『、、、。』
カナミは正直やりにくくて仕方が無かったが、逆にリムが冷たい態度をとればとるほど、
どうしてリムがレイヴンをそこまで毛嫌いしているのか気になった。
『リムさんは、、』
「話しかけるなと言っている。」
『どうして、そんなにレイヴンを嫌ってるんですか?』
パレットライフの動作が一瞬止まる。
「そんな事を聞いてどうするつもりだ。」
『気になったから、、。』
「レイヴンに父が殺された。それが理由だ。
 これ以上貴様に語る理由は無い。これ以上聞けば今すぐ貴様を始末する。」
カナミはリムがレイヴンを憎む理由を理解できたが、どうやらリムを怒らせてしまったようだった。
レイヴンを憎む理由をレイヴンに聞かれた事で、逆鱗に触れたのだろう。

『同じですね、、。』
だがしかし、他のレイヴンならここで会話が終わってしまっただろうが、カナミは違った。
カナミも同じ理由で、父を失っていたから。
「同じとはどういう事だ?」
『私の父も、レイヴンに殺されたんです。
 私は、守りたいモノのためにレイヴンになり死んでしまった父の生きた証を守りたくて、
 父のレイヴンネームを借りてそのままレイヴンを続けています。
 あなたは、レイヴンネームじゃなくてそのACを引き継いだ。そこは私と違うけど、
 ほとんど私と同じだな、って。』
リムが再び沈黙する。
『父が死んだ後、私はある人にお世話になったんです。
 そしてその人が、今回助けて欲しい人なんです。
 父が死んでから初めて、家族みたいに思えた人だから、、死なせたくない。』
カナミのその言葉は、涙交じりだった。
リムはそれを聞いて、その渋い声で静かに言った。
「本気で助けるつもりはもとより無かったが、、気が変わった。
 お前のために、俺も命を懸けて戦おう。お前の名前を聞かせてくれ。」
『かなみ、、寺杷かなみです。』
「わかった。俺が道を切り開く。ついてこい、かなみ!!」
その瞬間、パレットライフの動きがさらに良くなり、すさまじい機動性と火力で防衛網を破壊していく。
『さっきまでの動きも本気じゃなかったの、、?嘘みたい、、。』
リムが本気になった事で進行が容易になり、研究所の最深部へとものすごいペースで近づいていく。
「遅いぞ!何をモタモタしている。」
カナミはそんなリムに、ついていくだけでやっとだった。
パレットライフはさきほどまで地上からしか撃っていなかったチェインガンも、
今では空中からも縦横無尽に発射し、警備網を破壊している。
『ど、どうやってるの、、?あれ。』
カナミの常識外の動きをするパレットライフを見て、カナミはランカーレイヴンのいる世界を垣間見た気がした。

研究施設の最深部へ到達すると、急に壁等の雰囲気が変わる。
最深部のゲートを開けると、さらに道が続いていた。
「どうやらまだ奥があるようだな。」
そのゲートから少し進むと、途中に無理矢理こじあけられたゲートを発見した。
「レーザーブレードで破壊したらしき跡がある。おそらく かなみの仲間は、ここから侵入したようだな。」
そこから壁にはいくつもの銃創が続いており、通路でどんな激戦が繰り広げられたのかが、容易に想像できた。
「さぁ、急ぐぞ。」
『はい。』
いつもならここで気の弱いカナミは不安になってしまうのだが、リムと一緒にいる事でそれが無いのを、カナミは感じていた。
だがそれで一瞬カナミは油断しまい、INNOCENTは防衛網からの大型ロケットの直撃をくらい、吹き飛ばされる。
「大丈夫か?」
倒れたINNOCENTを、左手の銃を外し起こすパレットライフ。
『あ、ありがとうございます、、。優しいんですね。』
「そんな事はない。普段はレイヴン相手にこんな事をしはしない。」
リムは否定するが、カナミはリムが、思ったほど悪い人ではない事を感じていた。
だからこそ罠の可能性がある依頼に来てくれたのだと、カナミはわかっていた。
『リムさんって、素直じゃないんですね。』
「なぜそう思う。」
『なんとなく!』
笑顔でそんな風に言うカナミに、リムは困った調子で逃げるように話題を切り替える。
「調子の狂う奴だ。さぁ、近いぞ。レーダーに反応が見えてきた。突っ込むぞ!!」
パレットライフは床に置いた銃を再び拾うと、すぐに再び滑らかな動きで侵攻を開始して行く。
通路の突き当たりにゲートがあったが、パレットライフは動きを止めずチェインガンでゲートを破壊すると、
煙の中に見える敵影の群れの中へと突っ込んでいく。
部屋の中にはACが一機とMTが5機いた。そのACは、いつかの罠で遭遇したACだった。
「貴様ら!何をしに?!」
敵ACに乗る、女が叫ぶ。

「かなみ。先に行け。ここはまかせろ。」
リムがそう言うと、カナミはさらに奥のゲートへと近づく。
「行かすか!」
女のACがそれを阻止しようとするが、それは無理だった。
「この俺から逃げれる奴はいない。」
パレットライフが敵ACに急接近し、両手の銃WH03M-FINGERを一斉発射する。
銃弾の雨に吹き飛ぶ敵AC。
「ぐずぐずするな!」
カナミはゲートを開け、進んでいく。
ゲートは閉じていき、パレットライフの姿がその中へ消えていく。
「お前の守りたいものを守りぬけ。レイヴン、、、!」
リムの最後の一言に、カナミは背中を押された気がした。
暗い、とても暗い通路を、INNOCENTが進んでいく。
そのうち、一筋の光が見え、進んでいくほど明るくなっていく。
どうやら、通路の奥が、地下の部屋の屋根に繋がっているらしい。
INNOCENTは、そこから部屋へと突入した。

部屋の中では、漆黒のACと、空色のACが銃激戦を繰り広げていた。
互いにハイレーザーライフルの弾だったが、
漆黒のACはWH04HL-KRSW、空色のACはWR09HL-SPIRITからレーザーを発射していた。
「やるわね、、、。」
空色のACにはレンナが乗っていた。
レンナはSPIRITを撃っていくも、漆黒のACにはほとんど当たらない。
それはレンナが銃の扱いが下手だったわけではなく、漆黒のACの動きが狭い室内でありながらも絶妙だったからだ。
レンナも相手のKRSWを回避しようとしていたが、直撃はせずとも何回か機体をかすめ、
その度に強力なレーザーの威力に機体を焼かれていた。
「強すぎる、、。私の攻撃が、読まれているみたい、、。」
漆黒のACは、たまにレンナが攻撃を発射した瞬間に、回避の行動を起こしていた。
その動きは、反射神経と言えるようなレベルの反応ではなく、まさに攻撃する瞬間がわかっているかのような動きだった。
「これが、、キサラギの最新の強化人間の力なの、、?」
レンナのACのAPがついに10%を切り、地に膝をつくと、漆黒のACがレンナのACにトドメを刺そうと、近づいてゆく。
「もう、、ダメなの、、?こんな、、所で、、、。
 全てを終わらせるつもりだったのに、、。私も、甘かったのね、、、。
 今、あなたの元へ行くわ、クロード、、、。そしてさようなら、かなみちゃん、、、。」

レンナが他界した恋人の名を呼び、カナミに別れの言葉を発し全ての覚悟を決めたその瞬間、
一機のACがその部屋へ乱入し、落下してきた。
『大丈夫ですか?レンナさん!!』
それは、カナミのAC、INNOCENTだった。
来るはずがない、来れるはずがないと思っていたカナミが、今自分が死のうとしている瞬間に、目の前にいる。
レンナは一瞬我が目を疑ったが、それを現実と認識すると、カナミへと叫んだ。
「カナミちゃん!来ちゃダメ!!あなたじゃかなわない!!」
カナミがレンナの叫びを聞き、二機のACへと目を向けたその時、漆黒のACは既に空色のACを切り裂く動作に入っていた。
『だ、だめぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!』
漆黒のACのレーザーブレード、CR-WL88LB3が空色のACを切り裂いていく。
『ぁ、ぁぁ、、そんな、、、。』
空色のACの切り裂かれた破片は空を舞い、部屋の中に散乱していく。

カナミの心を、絶望が支配した。

続く。





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