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第五話 寺杷牧場の最も長い一日

「AP10% 危険です。」
テラワロースが火花を散らし、煙をあげながら、体全体で重い悲鳴をあげていた。
「ふん、そろそろくたばれ。これでトドメだ。」
相手のACがレーザーライフルの照準を、テラワロースに向ける。
『まさか、こんな事が、、。』

  • 数時間前
『かなみ、今日はおとうさん、お休みにするからな。』
寺杷がそう言うと、かなみはものすごい笑顔を一瞬浮かべたかと思うと、寺杷を疑うような顔で見た。
「お父さん、熱でも出たの?」
ひどい言い草だ。
「毎日牧場が一番のおとうさんが、仕事を休んで私と遊んでくれるなんて、、
 突然死んだりしないよね?おとうさん。」
そこまでかまっていなかったのか、と寺杷は少し反省した。これからは休日を多くしようと思った。
15回目の攻撃から、牛泥棒も気配を見せないし、これからは大丈夫かもしれないとも、寺杷は思っていた。

だが寺杷の読みは、最悪の形で外れる事になった。

その日、寺杷は今までしてやれなかった事を、自分が思いつく限り、カナミにしてあげた。
カナミのすごく幸せそうな顔を見るだけで、寺杷は満足だった。幸せだった。
「おとうさん。おとうさんは、どこにも行かないよね。」
カナミが寺杷に抱きつきながら、寺杷に聞いた。
『あぁ、どこにも行かないよ。』
寺杷は、あの日の事を思い出していた。妻の、ヒロエが死んだ日を。

 『ヒロエ!』
寺杷はその時、自分の目が信じられなかった。
突然、男が放った一発の凶弾が、ヒロエの胸を貫いたのだった。
「え、、、?」
重く力の無い音が、その場にこだまし響いたかのように、寺杷には聞こえた。
寺杷が周囲を見渡すと、既にその男はいなかった。
「私、、死ぬのかな。」
『バカやろう!喋るな!!今救急車を呼んだからな!!』
撃たれた位置的に、ヒロエはまだ助かる傷だった。
だがしかし、救急車はいつまでも来なかった。
『なぜだ?!なぜこないんだ!!』
雨が降ってきた。
『ちくしょう!これじゃあ!!』
レイヤード内なら、このような事件が起きたさい、絶対に雨を降らすような事をせず、
事故の被害者を尊重する対策を天候システムにとらせるが、ここは地上の都市で天候を操る事はできなかった。
携帯電話で、先ほど救急車を要請した病院に電話をかけるが、連絡がとれない。
『なぜだ、、なぜなんだ、、。』
「あ、、な、、た、、、。」
ヒロエが寺杷の頬に手をあて、静かに言った。
「かなみに、すぐ帰ってくるって言ったのに、、ダメみたい。」
今日は外出する時、妙にかなみが泣きわめいていた。
すごく不安そうにしていたが、すぐ帰ってくると言うと、やっと納得したのだった。
『バカヤロウ!そんな事を言うな!!』
「私、あなたを愛してる。あなたのおかげで、すっごく幸せになれた。
 少しも悔いは、、ないよ。ありがとう。
 あ、一つだけあったかな。あなたが作るって言ってた、牧場、、見たかった。」
ヒロエの手が力なく地に堕ちた。
『ヒロエエエエエエェェェェェェェェェェェェーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!』

事件からしばらくして、ヒロエが死んだ事件で救急車が来なかったのは、
ヒロエが男に撃たれた時、近くにあったキサラギの研究所でも事故が起きており、
寺杷が救急車を要請した直後に、事故の巻き添えで病院が破壊されたからだと聞いた。
キサラギはその事故の詳細を、公開していない。
ヒロエを殺した男は、以前からヒロエをストーキングしていたストーカーだった。
犯行動機は、交際を断ったヒロエに逆上したとの事だった。

ヒロエがいなくなってから、一家からは笑顔が消え、カナミは元気が無くなった。
元気が無くなったカナミは、学校の同級生からいじめを受け、登校拒否になり、ストレスから倒れた事があった。
カナミが倒れた時 寺杷は、自分だけは悲しみ続けるのをやめ、カナミだけの事を考えようと思った。
それからは、カナミの幸せだけを想い行動してきたつもりだった。
だがしかしそのために仕事ばかりになり、逆に悲しい想いばかりさせていたのだと、寺杷は後悔した。

「おとうさん、なに考えてるの?」
『いや、なんでもないよ。』
思えば、あの日に比べ、今はカナミは元気になったと、寺杷は思っていた。
だがしかし、やはりまだ幼いのだ、自分は近くに常にいてあげねばならないなとも思った。

「、、社長。」
雇った従業員が、寺杷にその日行う業務を全て終えた報告をしてきた。
『わかった、全員帰っていいぞ。システムのほうは万全だな。』
「はい。」
寺杷の牧場は、レイヤード生産区のシステムを利用した自動性であり、
餌や物資、燃料、調整したプログラムを人が用意してやれば、あとは全て機械がやってくれるため、
機械の整備士と、他に雑務の社員が数人いれば事足りる、少人数制の牧場だった。
それでも牛肉の品質にこだわる寺杷は機械まかせにせず、
人の感覚で判断した、微妙で繊細な管理も毎日、牛達にしていた。
だが今日は特別だったので、完全にシステムまかせにする事にした。

「社員さんたちは皆帰っちゃうの?」
心配そうな顔で、かなみが聞く。
『あぁ。それがどうかしたか?』
「ううん、ちょっと不安で、、。」
毎日こんな感じなのだが、いつもは気にしないのに今日はどうにも不安を訴えてくる。
普段こんな事をしないせいだろうかと、寺杷は思った。
『はは、おとうさんが幸せにしすぎたせいだな?かわいいヤツめ。』
「ちょっ、、ちがうよぉ!」
カナミはすごく照れながら、痛くないパンチを父親に何度もした。

その時、親子のふれあいを切り裂くかのように、警報装置が警告を告げる。
『なんだ!?』
寺杷が警備装置の統括ディスプレイに目をやると、
牧場の入り口のゲートが破壊されている。
監視カメラの映像に目をやると、生産区から他の区画へ移るための通路を通っていた車両等も、犠牲になったようだった。
そしてその中には、牧場の社員がまとめて移動するのに使うバスも混じっていた。
『、、、ッ!?』
ヒロエが死んだ時を思い出した。
カナミがあの時も不安だと言っていて、ヒロエは死んだ。
今回も同じ事が起きた。ただの偶然だとは思えなかった。
『とりあえず、何が原因で破壊されたのか調べなければ、、。』

寺杷が原因を調べると、どうやらACのレーザーブレードで破壊されたらしい痕跡が多く見つかった。
『ばかな、、まさか、、。』
寺杷は、急いでACガレージに行こうとした。
「おとうさん、待ってよ!!どこ行くの?!」
『ごめんカナミ、従業員の人達がどうなったか見てこないと!』
「ダメだよ危ないよ!!レスキュー隊の人にも連絡したんだし、おとうさんが行ってもしょうがないじゃない!!」
それはそうだった。だが、娘にACガレージに行くためにごまかす理由が他に思いつかなかった。
『これは、社長の義務なんだ。わかってくれ。』
「ダメだってばぁ!お母さんが死んだ時と、同じ感じがするの!!行かないでぇ!!!」
寺杷は、ヒロエに感じたモノと同じ不安を、カナミが自分にも抱いたのだと思うと急に恐怖が襲ってきた。
だがしかし、行かないわけには行かなかった。
おそらくACに乗っているであろうレイヴンの目的は、この牧場の破壊だからだ。
『大丈夫だよ、カナミ。おとうさんは、すぐ帰ってくるから。
 なに、ほんの20分から一時間くらいだ。そのくらい、留守番していられるだろう?』
寺杷は、レイヴンとして勉強した知識から、AC戦闘が2分から3分、長くてもほとんど30分以内には決着がつく事を知っていた。
「行かないで、ね、お願い。待てない。留守番なんてしたくないの!!
 おとうさんもいなくなっちゃったら、やだぁ!!」
『すまん、かなみ、、、。』
寺杷は泣き叫ぶカナミを振りほどき、ACガレージへと走った。

『頼むぞ、テラワロース』
寺杷はテラワロースのシステムを起動させ、ガレージの外に出ると、レーダーに目をやり、敵影がいる事を確認した。
寺杷はACであろう敵影に、通信を送った。
『そこの貴様、何のためにココにやってきた。』
返信はすぐにやってきた。
「ココを破壊するためだ。」
寺杷の予想は当たった。
『なぜだ!ただの牧場だぞ!!なぜ、貴様の依頼主はレイヴンを雇ってまで、ここを破壊するんだ!』
「貴様に理由を話す義務はない。」
当たり前の返事だ。自分にされた依頼内容を他人に話すレイヴンは、あまりいない。
「私からも質問しよう。貴様が最近、ここを守備するレイヴンだな?」
『あぁ、そうだ。』
「そうか、、なら、貴様も消去せねばならないな。」
『なぜだ。』
「話す義務は無いと言ったはずだが、、。しょうがない、これだけは教えてやろう。
 貴様は、"感染者"だ!!」
そう敵レイヴンが叫んだ瞬間、敵ACが移動を開始した。
『仕掛けてくるようだな。仕方ない。まだ話を聞きたかったが、、!』

「メインシステム、戦闘モードを起動します。」
ACが戦闘システムを起動し、ディスプレイの情報が急激な変化をする。
武器の情報等が表示され、戦闘に最善の状態になる。
「敵AC、"タラダムチェイン"を確認。
 敵ACはレーザーライフルを装備、被弾時の熱に注意してください。
 脚部に軽量二脚を装備、機動力を活かした戦闘スタイルかと思われます。」
『そんな事言われなくともわかる!』
興奮していた寺杷は、思わずCOMに八つ当たりしてしまった。
ACのコンピュータは、敵ACの装備を分析し、大体の事を教えてくれるが、
ほとんど目視でもわかるレベルだ。目視がほとんどできない夜間等では役に立つが、
レイヤードは照明系統も操作できるので、実質レイヤードでは意味がない。


敵ACに目をやると、小さいステップを何回も繰り返しながら、寺杷に近づいてくる。
その動きだけで、相手が腕利きのレイヴンの一人である事が、寺杷には理解できた。
『まずい、、俺は、レイヴンと戦った事が無い。どう対処すればいいんだ?』
他の情報を、寺杷はCOMに求めた。
「敵ACは、YWL03LB-TAROSを装備。
 高出力のレーザーブレードです。
 接近して戦うのは危険です。」
接近してはいけないと警告されたが、寺杷は、敵ACから距離を離すのがが不可能な事だと理解していた。
なぜならメイン武器はエネルギーマシンガンであり、バックウェポンも設置型オービットで、
遠距離から攻撃するのに向いていないACだったからだ。
敵ACがレーザーライフルを装備している時点で、遠くにいる事は一方的に攻撃される事を選ぶ事でもあった。
寺杷は、接近するのは危険だが、接近して戦うしかないと、果敢にも敵ACに突入していった。
「ほう、そんなACでこの俺に接近戦を仕掛けるか。なめおって。」
マシンガンの最も有効距離ギリギリで、最も離れた位置から寺杷は攻撃しようとした。だが、、。
「くく、バカめ。」
敵ACは、即座にオーバードブーストを展開、急接近をしてきた。
『しまった!』
寺杷もオーバードブーストで逃れようとしたが、時すでに遅く、レーザーブレードの一閃が、
テラワロースを切り裂いた後だった。
なんとかエネルギーシールドで防ぎ、大事には至らなかったが、痛い一撃をもらってしまった。
「重量級のACほど、倒すのが楽なものはないな。」
敵レイヴンからの、テラワロースを罵倒する声が聞こえた。
『くそ、なんとかしなければ、、。』
寺杷は、設置型オービットを展開する。
「MT相手ならまだしも、ACにそんなものが有効だと思うのか?」
設置型オービットからレーザーが数本発射されたが、敵ACは全て回避した。
『ありえん、、。』

寺杷は、テラワロースが対AC戦を苦手なのはわかっていたが、ここまで無力だとは思っていなかった。
「そろそろ遊ぶのにも飽きた。いかせてもらおう。」
そういうと、敵ACは再びレーザーブレードを振りかざす。
『くっ!』
即座に回避行動をとるが、受けてしまう。
「右碗部破損」
唯一敵ACに対して、有効な攻撃と思われるエネルギーマシンガンを装備した右碗部が損壊した。
今の寺杷にとって、致命的であり絶望的な一撃だった。
『そんな、、。』
「その目障りな左碗部も斬り落としてやろう。」
ブレードが一閃。
「左碗部破損」
寺杷は諦めて回避行動を止めたわけではなかったが、あがきもむなしく敵の言葉どおりにされてしまった。
「くっくっく、重二脚ACにお似合いの姿だな。」
敵ACに乗るレイヴンは、重二脚ACに対して何かの想いを持っていたようだが、
敵の心中を気にかける余裕は、今の寺杷には無かった。
『くそっ。』
寺杷は設置型オービットを連続射出し続けるが、まったく効果が無い。
「絶望とは、まさにこの事だな。そのミジメな姿を晒しながら、牧場と共に朽ちるがいい。」
寺杷は、何も知らず、理由もわからず、ヒロエを失ったかのように、牧場も、命も、そしてカナミも失ってしまうのだろうかと考えた。

「AP10% 危険です。」
テラワロースが火花を散らし、煙をあげながら、体全体で重い悲鳴をあげていた。
「ふん、そろそろくたばれ。これでトドメだ。」
相手のACがレーザーライフルの照準を、テラワロースに向ける。
『まさか、こんな事が、、。』
このままでは、全てが終わってしまうと、寺杷は思った。そして、、。
「なんだ?オーバードブースト?まだあがくつもりか。攻撃手段も無いだろう。」
テラワロースが最後の叫びをあげるかのごとくオーバードブーストをし、
敵レーザーを受けながら、相手に特攻していった。
「な、コイツ?!まさか、バカな!死ぬ気か!!」
『娘が助かるなら本望だ!貴様だけでも道連れにする。娘を生かすためにな!!』
もはや限界を迎えたテラワロースが炎を上げながら、最高速度で敵ACに衝突した。
「うぐっ、動けん!どけ!!」
『それはできん。このACは爆発するが、このまま貴様のACに覆いかぶさっていれば、
 巻き添えをくらわせる事ができるだろう。この重量ならば、いくらACでも逃れる事はできん。
 共に逝ってもらうぞ。』
「ば、ばかな、、こんなところで、、、!」
それから少しの間、敵ACタラダムチェインがしばらく嫌な音をあげながらもフルパワーで逃れようとしていたが、
それは叶わず、テラワロースの爆発と共に、その運命を終えた。

                                                     続く




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