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――音が聞こえる。様々な音が、分厚い金属の壁を通してコクピットに響く。
  人々は音色を奏でる。戦場という舞台で。「兵器」という楽器を、一心不乱にかき鳴らす。
  人々は自らを奏でる。命の限り演奏する。そして傷つき、壊れ…やがて音色を失う――


小さな頃から音が好きだった。大切な人達と過ごす「当たり前の生活」。
そこで聞こえた音は安らぎに満ちて、ひどく心地よかった。
でも、やがてそれは止んだ。「彼ら」の手によって。「彼ら」は私の「音」を、
自らの自由の為に止めてしまった。

後日知った。「彼ら」の名はレイヴンだということ。
この町に潜伏していたテロリストを排除する為だったということ。
町は守られたのだということ。
でも、みんなはもう音を出さなくなってしまった。何も聞こえなくなってしまった。


――そして彼は、生きる為に、音を作り出す存在になる。破壊と、創造の音を――


 さびれたガレージで一人の男が端末に向かっている。
片手にコーヒーカップを持ち、片手でキーボードを叩く。
手慣れた手つきで、朝方の静かな空間に乾いた音を響かせる。
アスタシア=エルレバイン。
テロリストの間で彼のことを知らない者は誰もいないという噂だった。

ほどなくして、ガレージの奥から一人の女性が、まだ覚醒しきっていない顔のまま歩いてきた。
ハニーブロンドの長髪をなびかせながら。年は20代半ばといったところだろうか。

「あなた、もうこんな時間からお仕事?熱心なことねぇ…夕べあれだけ動いてたのに」

朝方の空気に負けない、澄んだ声。男は手を休め、だるそうにする彼女に方に椅子を向ける。

「セラシア、修理と弾薬の補給はどうなっている?」

男の肩には、「レイヴン」を表すエンブレムが静かに日の光で輝いている。

「問題ないわ。昼前には業者から届くはずよ……あなたこそ昨日の「仕事」のレポート、依頼主に送ったの?」
男はまた端末に椅子の向きを変える。

「ああ…しかし最近やけにテロの動きが目立つ。今月に入って7件目だ。まだ15日だというのに。」

彼の声からはどこか憤りを感じる。

「…そうね。例の「特攻兵器」で「企業」の力が随分と弱ってきてるからじゃないかしら?
 テロなんてうまくいくはずないのに、おバカさん達ね…」

実際、テロの芽はレイヴン達によって摘まれてゆく。


 そう遠くない過去に、新興企業「ナービス」の所有する採掘施設からおびただしい数の特攻兵器が出現した。
生物ともいえるような「それ」は、各地で無差別に破壊活動を行っている。
そして、程なくナービスは倒れた。そして各企業にも、かつての力は無い。

「どうにも解せんな…やはりキサラギが一枚噛んでいそうだ」
端末に向かって男は表情を曇らせる。モニターにはキサラギの発表した記事。

「あーあ…なんか心配ねぇ…」

彼女は欠伸をしながら、着替えに戻っていく。

「確かにコイツ等は何をするかわからんな」

生物兵器なんてものを実験しているという。探求心とは恐ろしいものだ。
彼女は立ち止まり、真剣な顔でつぶやく。

「いいえ……世界がよ」



 冷たい空気をかき混ぜながら、輸送ヘリ――クランウェルが一機のACを吊り下げ、青空を翔ける。
ACという鉄の揺りかごの中で、アスタシアはコクピットに響く多種多様な音を聞いていた。
風に揺られて軋む機体の音 ヘリのローターが空を断ち切る音 エンジンの力強い音…
これが彼なりの集中力の高め方だという。
そしてコクピットに専属オペレーター・セラシアの聞き慣れた声が流れる。

「アスト、聞こえる今回の依頼の確認をするわね。依頼主はミラージュ。
 占拠した同社の資材保管施設を拠点にするテロリストを強襲、これを殲滅。
 主力はMT十数機、リーダー格はACのようだけど、テロの頭止まりよ。問題ないわ。
 合流地点は変更なし、まもなく領域よ。さっさと終わらせてあなたのピアノ、聞かせてちょうだい」

そう、彼は――似合わないと言えば失礼だが――よくピアノを弾く。
美しく、どこか悲しげな、しかし力強い旋律を奏でる。まるで自身の生き様を反映したかのような、そんな旋律を。

「了解した。…システム移行、FCS起動。出力安定…全戦闘システムの正常起動を確認。投下してくれ」

「いってらっしゃい、「指揮者」さん」

彼の白いACが静かに舞い降りる。曲を奏でるために。

この領域を舞台に、この戦場を譜面に、今、指揮者の手は上がる――




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