これを読む前に言っておくッ!
                  おれは今このSSをほんのちょっぴりだが体験した
                   い…いや…体験したというよりはまったく理解を超えていたのだが……
         ,. -‐'''''""¨¨¨ヽ
         (.___,,,... -ァァフ|   あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
          |i i|    }! }} //|
         |l、{   j} /,,ィ//|    『おれはクイン・クラフティ萌えのSSを書いて居たと
        i|:!ヾ、_ノ/ u {:}//ヘ     思ったらいつのまにかオリキャラが居た』
        |リ u' }  ,ノ _,!V,ハ |
       /´fト、_{ル{,ィ'eラ , タ人      な… 何を言ってるのか わからねーと思うが
     /'   ヾ|宀| {´,)⌒`/ |<ヽトiゝ     おれも何をされたのかわからなかった…
    ,゙  / )ヽ iLレ  u' | | ヾlトハ〉
     |/_/  ハ !ニ⊇ '/:}  V:::::ヽ     頭がどうにかなりそうだった…
    // 二二二7'T'


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クイン・クラフティというレイヴンが居る。
レイヴンという稼業の都合上、彼女は金に困る事は無かったが、彼女の家の家事は、夫である次郎・クラフティが行っている。
家政婦を大勢雇える程の稼ぎ口を持つのに、夫が主夫として働く背景には、夫の家の家訓である「一に節約、二に節制、三四が無くて五に貯蓄」の精神が在る様だ。


次郎は朝起きると、まず自分の布団を畳み、妻を起こさぬ様に忍び足で台所に向かう。
朝炊けるように予約した炊飯器を開け、濃厚な米の香りに口を綻ばせると、底に溜まった湯気で米が水膨れを起こさぬ様深くかき混ぜる。

その場で次郎は少量のご飯を茶碗に盛り、梅干しをおかずに手早く自分の分の朝飯を済ませると、じっくりと妻の分の朝飯の用意に取り掛かる。
味噌汁は朝の渇いた体の為に少し味を濃く仕上げ、納豆とご飯と一緒にテーブルに載せると、そこで始めてクインを起こす。

「クイン、朝飯出来たぞ~」

返事は無い、次郎の間延びした声がただ響いただけだった。

クイン・クラフティは朝が苦手なのだ。次郎が注意する度に、「男はなった事無いかもしれないけど、私貧血気味で辛いの」と言ってまるめこまれてしまう。
次郎は元々押しの強い男では無いし、女は女の尺度で生きて居ると割り切って考える昔気質な所が多々在ったので、そこから何らかの反論を思い付く事はできなかった。

「クイン、朝だぞ~、飯が冷めるぞ~」

こういう時、次郎は十分間待って起きなかったら揺り起こす事にしている。今起こしても寝ぼけて殴られるのが関の山だ。

次郎は昔、律義に揺り起こし続けた所、思い切り裏拳を食らった為、半ばトラウマになっている様だ。
レイヴンとして鍛えてあるクインの拳を、平均より少し低いくらいの身長の次郎が受ければ、どのような結果になるのか、想像に難くない。

次郎は、貴重な朝の十分間を有効的に利用するべく、窓際に沢山置いてある小さな観葉植物に水をやりはじめた。
クインは、すぐ飽きて自分で水をやらずに枯らしてしまうのに、毎晩の様にこういった草花の類いを買ってくる。

それを見かねた次郎が、枯らすのは勿体ないと手入れをし始めた所、ごく自然に次郎が草花の飼育係にされてしまったのだ。
内心クインの責任感の無さを嘆きつつも、次郎は世話を続ける。元々次郎とて草花が嫌いではない、成長ぶりを確認すると、無意識に口の端を緩ませながら水をやった。

まだ十分経っていない。次郎はテレビを付け朝のニュースを見る。
大抵のニュースは自分と関係が無いと知りつつも、次郎はなんとなくニュースを見る。

今まで次郎がニュースを見て得した事と言えば、せいぜい事件に対する見解を表明し合って共感を得るという、下らない会話のネタになった事くらいだろう。
だが次郎はぼんやりとニュースを眺める事で、主夫として世間から遠ざかっている自分に社会との連帯感の様な物を得る。
ニュースを見ていれば、かろうじて自分が社会的に孤立していないという意識を保つ事ができる。ニュースを見る事は次郎の無意識な欲求だった。

十分が経った、次郎はクインを起こしに向かう。
少し足音を強調しながら寝室に向かうと、クインの肩にそっと手をやる。


「おい、クイン、朝だぞ、おい」

最初は気を損ねない様に揺れるか揺れないか程度揺すり起こす。
「おーい、朝だぞー」

徐々に力を強め、柱時計の振り子が振れる程度の振りになった頃、クインは寝ぼけた声を出した。

「んー、うーん、あー嫌。」
返事があるだけでも、次郎はチャンスとばかりに揺すり続ける。

「朝だよ、早く支度しないと」

「あー、わかった。わかった~。」

まるで豆腐の様な反応しか見せないクインを眺めながら、次郎はポケットから切り札を取り出す。


「ほら、ニッキ飴だ。」
そういうと次郎はモゴモゴと動くクインの口にニッキ飴を押し込む。
これで寝起きの機嫌の悪いクインも、ピリピリとした味でシャキっと起きて、さらに飴の甘さでクインの機嫌も良くなるのだ。
クインの歯の健康にはあまり良くないのかもしれない。そう思う事はよくあるが、一石二鳥のこの切り札は、次郎の朝の無事故を、何よりも確かに保証してくれる。
「あひがとう、もう行くから」
ニッキ飴に口を綻ばせるクインに笑顔で応じると、次郎はテーブルに向かった。


次郎はふと思う、もしクインが事故に遭ったらどうしようと。レイヴンの世界がどういう物か、次郎にも判らない訳では無い。だからこそ、次郎は余計に心配になる。
昔、クインと次郎が籍を入れる前、次郎はクインにレイヴンを止めるよう奨めた事がある。
その時クインは、まず一通り笑うと、急に真面目な顔で「私はレイヴンじゃなかったら何なの?」と言われ、それ以来レイヴンの話をするのもはばかられるようになった。
クインの言い分も判る、確かにレイヴンとして自立してるクインに「次郎の妻」という枠を押しつける事は良くないのだろう。

だが世間では妻として夫をサポートしてくれる女も居る。次郎はそういった慎ましい幸せを築いて行きたいタイプの人間だった。

「おはよう。」
「あぁ、おはよう。」
そんな次郎の心配や苦悶をよそに、クインはさっぱりした顔で食卓に向かう。

私は妻の生き方をサポートしている。次郎は自分にそう言い聞かせながらも、不安は拭えなかった。
レイヴンの世界、いつ、誰が死んでもおかしくない。次郎が死んでも、果たしてクインは悲しんでくれるのだろうか。


次郎は慌てて首を振り、考えを掻き消す。妻が悲しむ事を望むのは、褒められた事ではない。

次郎は元気良く飯をかき込むクインを見る。その姿は、綺麗だった。

「なぁ、今日、休みだったよな。」

「あー、そうだっけ。」

「今日は、話したい事があるんだ。」

「そう。」

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次郎は一人皿を洗いながら、また考え事をしている。クインは二度寝する気なのか寝室へ戻ってしまった。
次郎はクインと色々と突っ込んだ事について話したかったのだが、黙々と家事をこなす次郎は話を切り出すタイミングを逃してしまったのだ。

次郎は皿を洗う、水道水が指先を冷やし、洗剤が次郎の指の脂を根こそぎ落として行く。

今までクインが洗い物をした事は全くと言って良い程無かった。そのせいかクインの手はとても滑らかな感触を保っている。
あの手は果たして次郎のお陰なのだろうか、それとも、ただ天候のせいなのだろうか。
次郎はやるせない気持ちに駆られながら、皿を洗い終え、蛇口をひねる。
水垢でくすんだ蛇口に、ぼんやりと引き伸ばされた次郎の顔が写った。
唐突に現れた、人を小馬鹿にしているような顔に閉口しつつ、次郎は台所を後にした。

次郎は今まで、ただ手をこまねいていた訳ではない。何かしらクインのサポートができるように努力はした。
ガレージの整備士から始めて、果てはオペレーターにまでなろうと思ったが、元々機械が苦手な次郎はどれも上手く行かなかった。


そういう訳で次郎は今、こうして主夫としての仕事に甘んじている訳である。

洗い物を終えた次郎は一人椅子に腰掛け、浮かない顔をしている。
もう少し、次郎に機械の知識が在れば、その勤勉な性格もあいまって良い整備士になれたかもしれない。そんな事を考えると、次郎は憂鬱な物思いに沈んで行く。

次郎は主夫になる前は何処にでも居る様な会社員だった。会社を辞めて主夫になったのは、単純に稼ぎの差というしかない。
レイヴンと一般人の恋愛は、それこそ昔話の貴族と平民の恋愛くらいのギャップがある。次郎は口にこそ出さないが、かなり肩身の狭い思いをしている。

クインは次郎との生活に大いに満足しているし、次郎が肩身の狭い思いをしているなんて毛頭思っていないだろうが、次郎はクインの思惑に関係無く肩身が狭いのだ。それはほぼ男のサガである。

具体的な次郎の今後の策は、クインに色々な思いを打ち明けて、気が済むまで話をする事ぐらいしか無かった。クインはレイヴンを辞める訳が無いし、次郎が機械音痴なのも変わらない。

次郎は覚悟を決め、クインの居る寝室に向かう。ノックをすると返事がある、寝ている訳では無い様だ。次郎は寝室に入ると、手持ち無沙汰に自分のベッドに腰掛けて話し始めた。

「なぁクイン、俺さ」
尻切れトンボに言葉に詰まる次郎、一呼吸置いてまた話し続ける。

「心配なんだよ、レイヴンっていう命懸けの仕事をやってるお前が。」

クインは不思議そうな顔をしながら応じる
「何を今更、私はレイヴンを辞める気は無いわ。」

クインの緊張感の無い顔に次郎はやきもきする。

「いや、違うんだ、ただ、俺は心配で心配で仕方ないし、俺自身、こうして家事でしかお前の為になれないのは、やはり、こう、やるせないんだ。」

滑舌の悪い次郎にクインは苦笑いのような顔をした。
「私だって死ぬ気は無いわ、今もできるだけ安全な依頼を堅実にこなしてるから大丈夫よ。」
「それに、肩身の狭い思いなんて感じる必要は無いわ。考えすぎよ。次郎には本当に感謝してる。」

次郎と対称的にすらすらと話すクイン、その軽い調子に次郎のやるせなさは積もり積もって行く。


次郎も自分がどうしたいのか、あまり分からなかった。ただ、自分の卑しい見栄も、過剰な心配も、全てクインに理解して欲しかった。
それは、異常な物を異常と言われたいのではなく、異常な物でも線を引かずに認めて欲しいような欲求だった。

「いや、違うんだ、少し、違うんだ。」
話の下手な次郎をまたクインは苦笑いで応じる。
「大丈夫よ、少し休んだら?」

「…判った。ちょっと話したかっただけなんだ。」

そう言うと、次郎は部屋を出て行った。




次の日、次郎はレイブンズ・アークに居た。

「新規レイヴン試験受験者募集」
その紙に必要事項を記入し、窓口の前の椅子に腰掛けて居る。
次郎は機械音痴だ。だが、機械を組み立てる事は出来なくても、操縦は出来る筈。次郎はその紙を見返す。

パイロットネーム:次郎・クラフティ。レイヴンになるには履歴書も資格も要らない。ただ識別する為の名前と、操縦する体が在れば良い。


クインはどう思うのだろう、ふと次郎は想像してみる。だが、次郎の関心はすぐ別の方向へ行ってしまった。
クインの為ではない、ただ自分の為に試験を受ける。クインの反応を想像する方が無粋という物だろう。

今、次郎に必要なのは、結果よりも行動だった。特別レイヴンになりたいと思って居る訳では無い。ただ次郎の安っぽい自尊心が悲鳴を上げている、それだけに突き動かされる様に、次郎は行動を起こした。
最早迷いは無い、次郎は爽やかな顔で窓口に応募用紙を出すと、軽い足取りでその日の夕飯の食材を買いに行った。


それから何日か経ち、レイヴン試験を明日に控えた次郎は、操縦法暗記の追い込みに追われていた。
まだクインにはレイヴン試験の事を伝えて居ないので、次郎は深夜、クインが寝静まった後に気付かれぬ様勉強している。

昔のレイヴン試験は生き残れば合格だが、今は失敗しても救助され死ぬ事は滅多に無い。
良い時代になったものだと次郎は思う。教材もアークから借りる事が出来る、筆記試験で点数を稼ぐ事も出来る。

努力している男の背中は、いつの時代も格好良い物である。次郎は一人更けて行く夜も大切にしようと思った。





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