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「次の試合は、アラン・スミシー対SAMSARAです。」
アナウンスが流れる中、ヴァッハフントは観客席に座った。

今回対戦するアラン・スミシーはヴァッハフントの相棒でもありアリーナでのライバルでも在る。
二人は同時期にレイヴンになり、ミッションそっちのけでアリーナを駆け上がって行った。
期待の新人コンビとして持て囃される二人だったが、アリーナでの順位は常にアランの方が上で在り、ヴァッハフントは絶えずアランの存在を意識せざるを得なかった。
今日もアランはきっと勝つ、いつも俺の前を行く男、ヴァッハフントは苦い顔をしながら相棒の試合を見る。


アランの機体は武器腕レーザーを軸に、肩には簡素なミサイルとロケットを詰んだ軽量四脚。
対するSAMSARAの機体は限り無くシンプルな中量二脚にプラズマライフルとブレード、肩には四発同時発射型ミサイルのみを積んだ物。

お互い強力なEN兵器を主体とした機体だが、アランの機体は武器腕で防御力が殺がれているとは言えEN防御に優れていて、対するSAMSARAの機体は実弾防御に優れている。
試合はおそらくアランの勝ちだろう。ヴァッハフントは更に溜め息をついた。

ヴァッハフントは共同ミッションの時こそアランと協力するものの、最近のアリーナでの順位の事で、アランと良い関係だとは言えなくなっていた。
どちらが悪いかと言われればヴァッハフントの妬みが一方的に悪いとしか言えないだろう。それは本人にも判っている。
それでも、好戦的なヴァッハフントは、常に冷静で自分より上を行くアランを見るとイライラしてしまう。

今日、ヴァッハフントはアランの試合が終わったら彼に詫びようと思っていた。
アランがいるから自分もここまで勝ち上がって来れた気がしているし、何より露骨に腹を立てたのは自分が悪い。
彼はそう思って、観客席からアランの試合を見に来た。

また悪い癖が出て謝れなかったらどうしよう。
そんな不安が無い訳では無かった。しかし今臨戦態勢になっているアランの機体を見て、素直に応援したくなる所を見ると、多分大丈夫だろう。そう思っているうちに、騒がしいアナウンスが流れ始めた。
頑張れよ、そう心の中で声を掛け、耳をすます。

「間もなく試合を開始します!3!2!1!GO!」
試合が始まった。

両者距離を取りミサイルで牽制しあう。アランは横方向に広がる四つのミサイルを飛んで躱し、中型ミサイルを打ち返す。
SAMSARAはそれを容易く躱しながらプラズマライフルの狙いをつける。
だが、SAMSARAは撃とうとはしない。その間にアランが中距離からロケットを当ててきても、まだ撃とうとはしない。
アランは内心警戒する。あのプラズマライフルと高火力なブレード、一回のミスが命取りになる。
だがまだ経験の浅いアランは、我慢しきれず武器腕の火力に頼って不用意に近付いてしまった。
武器腕レーザーを浴びながらSAMSARAは至近距離でプラズマライフルを撃ち、ブレードを振り、距離を話さずまたプラズマライフルを叩き込む。
勝負は一瞬でついた。

上には上が居るものだ。
今日はアランと奴への対策でも語り明かそう。
思いながらヴァッハフントはアリーナの控え室に向かおうと席を立ったが、アリーナの方を再度振り返った時、驚くべき光景が広がっていた。

既に戦闘意志の無いアランの機体をSAMSARAが執拗に攻撃している。壊れた機体をブレードどめちゃめちゃに切り刻み、機体の腕で直接コアを殴つける。

ヴァッハフントは気がつくとアリーナへ走り出していた。
同時にアリーナの職員がアランの救出に向かう。
アリーナでこういった過度の暴力行為は禁止されている筈だった。

それなのに何故アランが、何故、何故、何故。
ヴァッハフントが見たのは、ぼろぼろになったコアから運び出される悲惨なアランの姿だった。
担架と並走しながらヴァッハフントは叫ぶ。
「ごめんよ、俺が悪かったよ、俺まだお前に謝れてないよ、アラン、アラン?アラン?」
強引にアランの体を揺さぶるヴァッハフントをアリーナの職員が抑えこむ。
ヴァッハフントは倒れこむと腹の底から泣き声を張り上げた。
「なんでだ、なんでお前がこんな目に会わなきゃいけないんだよ、あんな良い奴だったお前が、なんで、なんでだよ!」
憎しみのこもったまなざしでSAMSARAの方を見る。まだ彼は崩壊した機体を片っ端から切り刻んで居る。
「なんでだよ、なんでなんだよ、なんで、なんで、」
ヴァッハフントはそこで意識を失った。

気がつくとヴァッハフントは病院に居た。目の前に何処か眠たげなアランが居る。
「アラン?アラン?無事だったのか?」
また強引にアランの体を揺さぶるヴァッハフント。それに対してアランは不思議そうな目を向けるだけだった。
医者らしき人物がヴァッハフントにアランの状況を伝えた。
―記憶喪失―
ヴァッハフントの中で時間が止まる。
レイヴンになった事も、何もかも覚えて居ない。ヴァッハフントと共に勝ち上がったアリーナの事も、アランをここまで痛め付けた奴の事も、彼は覚えて居ない。
何故アランがこんな目に会わなきゃならないのか。何度目か判らない。頭をよぎる疑問。
それに対して何の答えも出て来ない。出て来るのは、憎しみと、悲しみだけだった。


彼のレイヴン復帰は相当先の話になるらしい。記憶喪失の事もあるが肉体的ダメージの方も深刻な上、彼の機体は完全に破壊されてしまった。
アリーナ側が修理費を負担するという話が馬鹿らしい程に、細切れに破壊されてしまった。

ヴァッハフントはその日からアリーナに出場する事は無くなり、順位は「不戦勝」という形で最底辺まで落ちていった。

それから時が流れ、アランは記憶喪失のままだが、体が直ると、彼は体が機体を覚えて居るのか、保険金で同じ機体を買い、アリーナに参戦した。

その頃、ヴァッハフントはアリーナの最下位クラスで、たまに出場しては、味気無い勝ち星を得るような生活をしていた。

アラン参戦の話を聞き、ヴァッハフントの頭にあの惨劇がよぎる。またアランは同じ目に会うんじゃないか、そしてまた記憶喪失になり、輪廻の如く彼は苦しみ続けるんじゃないだろうか。本人はそれを全く自覚しないまま。


何故こんな目に会うんだろうか。ヴァッハフントの中で、ついにその問いに今答えが出た。それは、レイヴンだからだ。頂点を目指すレイヴンである限り、頂点以外の人間は争い苦しみ続ける。そして頂点に君臨する物、ナインブレイカーは、他の誰よりも苦しむだろう。

ヴァッハフントは、今まで最下位付近で、アリーナに理想を抱いて、目を輝かせて参戦してくるレイヴンを沢山見て来た。
そして、早く彼らにこの苦しみの連鎖を、アリーナの厳しさを教える事こそ、彼の義務のような気がした。

「次の対戦は、ヴァッハフント対アラン・スミシーです。帰って来た期待の新人、アラン・スミシーと、新人キラーのヴァッハフントの注目の一戦です。」

ルーキーブレイカー。アランと同じコアを使い、武器腕を軸にした、新参者にアリーナの厳しさを教える機体。
その機体は時に残虐だが、何処か悲しげで、何処か寂しげだった。

その機体の前にアランが立つ。ヴァッハフントの事などもう少しも覚えて居ないだろう。
アランは常にヴァッハフントの上を行く。それでもヴァッハフントは、ここでできる限り苦しむ人間を減らさねばならない。

ヴァッハフントはアランに通信を入れる。自分の事など覚えていないと判っていても、アランと話したい気分だった。
ヴァッハフント「アラン…久しぶりだな…」
アラン・スミシー「…新人を痛ぶるあなたには…負けませんよ…」
ヴァッハフント「アラン…つれない奴だ…」
そろそろ試合開始が近い、ルーキーブレイカーは万全だった。
勝ち負けなど関係ない、彼は自分の務めとばかりに言い放つ。
ヴァッハフント「上がれば上がる程、お前は絶望する事になる。」
ヴァッハフント「その事を忘れるな!」

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ヴァッハフント「もううんざりだ…」
アランに負けて帰って来た彼は、うわ言の様にそう呟きながら床に寝転がる。
自分は今まで何をしたくて、新参者を痛め付けて、アリーナの厳しさを教えようとしていたんだろうか。そんな疑問ばかりがヴァッハフントの頭に浮かぶ。
確かにアランは記憶喪失になる程ひどい目に在った。アリーナに居る限り、どんなレイヴンもアランの様な不幸と隣り合わせだろう。
だがそれを教えて果たして何になるんだろうか。どんな目にあってもアランは上を目指す事を止めないだろう。今まで自分が痛め付けた弱いレイヴン達も、何度も諦めずに挑んで来る。
果たして自分のやっている事に意味はあるのだろうか。ヴァッハフントという名前は、ただの悪趣味な戦闘狂にしか聞こえないのだろうか。アランが言った通り、ただの初心者を苛める悪者なんだろうか。

そんな事ばかりが頭をよぎる。今まで信じて来た物が全部偽者だったような、釈然としない気分だった。

不意に寒気がして震えてみる。ふと、もうこんな事は止めた方が良い様な気がして、ヴァッハフントはそのまま眠りについた。


ヴァッハフント「…」
目が覚めると、かなり長い時間寝ていたようで、既に日が眩しかった。

ヴァッハフントはその日から、ロクに依頼も受けず、ただ惰性で生きているだけの様な日々を送るようになった。
昨日何をしたか全く覚えておらず、また何をしたか思い出す気もさらさら無いような日々。見知らぬ世界に一人投げ出されて置いて行かれたような感覚を、何も考えない事で紛らわしながらも、耐え切れずに胸をかきむしりたくなるような日々。

アランがアリーナでの順位を着実に上げても、今までヴァッハフントが壁となってアリーナの順位を上げられなかった初心者が、不戦勝で一斉にヴァッハフントの上に行こうとも、彼の孤独な静寂に介入する物は何一つ無かった。

彼が今まで持っていた、アリーナの苦しみを初心者に教えるという理想は壊れ、彼の唯一無二の友人の記憶喪失は治る気配が無いのだから、ヴァッハフントがこうなるのも至極自然な事かもしれなかった。
むしろ、今まで彼が生きてこれた事に疑問符が生じるくらい、彼のあらゆる欲は貧弱で底浅い物だった。


クリス・ミウラ「…」
ヴァッハフントと対称的に気持ちの良い朝を迎えたクリス・ミウラ。
ガレージの中の機体が良く見える位置に据え付けたベッドから起き上がり、自分の機体を見ると無意識に微笑みを浮かべる。
彼は未だにレイヴンという物に理想を持って生きている。既に沢山の依頼を受け、その大半を挫折してきた彼だが、決して夢を諦める事は無かった。
レイヴン、それは大空を自由に舞う烏の様な存在。そんな夢はいつまでも彼の中に根付いていた。昔と違いレイヴンの世界の厳しさや汚さを知っていたが、そういう世界を知れば知る程彼は自分の中の理想を大切にしようと考えていた。

現在のクリス・ミウラの順位はヴァッハフントの一つ下。クリス・ミウラが勝ち上がって来たというより、ヴァッハフントが落ちて来たという方が正しい。
ヴァッハフントに戦う意思が無い以上、本来ならこのまま不戦勝によってヴァッハフントの上に行っても良いのだが、クリス・ミウラはかつてトップクラスまで上り詰めたという彼と試合をしてみたいとアリーナ側に頼み込み今の順位を維持している。


トゥルルル、カチャ
ヴァッハフント「…もしもし」
「こちらアリーナ管理局ですが…」
ヴァッハフント「…」
「あなたとどうしても試合をしたいと言う方がいらっしゃいまして…」
ヴァッハフント「…無理だ」ガチャン

何度目か判らない電話、随分暇な奴が居るらしい。ヴァッハフントは留守電ボタンを押すと再び力が抜けたように寝転がる。
もう何日もこういった催促が来ている。それに最近はどうも一人の暇人が粘着しているようだ。
気分が悪くなる。さっさと上に行けば良いのにと思いつつ、またヴァッハフントは眠りにつく。

そんな日が何度も続いたが、一週間後にはヴァッハフントの方が折れた。
直接クリス・ミウラが尋ねて来たのだ。
ヴァッハフントが静かに座って居ると、突然騒々しくドアを叩く音がした。
クリス・ミウラ「ヴァッハフントさん!試合の件でお話があります!」

居留守をしようと心に決めたヴァッハフントだが、声は止む気配が無い。外出さえ余りしないヴァッハフントは家に居ると感づかれて居る様だった。
渋々ドアを開けると、思いの他年を取った壮年男性が息を弾ませて立っていた。


クリス・ミウラ「こんにちは…」
余りに薄暗い部屋を前にクリス・ミウラは少したじろいだ様だった。
ヴァッハフントはお構いなしに部屋へ招き入れると椅子に座り、ぶしつけに話始める。
ヴァッハフント「…試合についてのお話というのはどんな楽しいお話で?」
見るからに不機嫌そうなヴァッハフントに負けじと声を冷静な声で応じるクリス・ミウラ。
クリス・ミウラ「どうしても、あなたと試合がしたい。」
年に似合わず芯の通った声でクリス・ミウラは話始めた。
クリス・ミウラ「かつてはトップクラスに居て、その後新参者の壁として立ちはだかったあなたに、私と直接試合をして、壁としての教義を教えて欲しいんです。」
すらすらとクリス・ミウラは言い切った。
ヴァッハフントはあからさまに眉をしかめる。
ヴァッハフント「その教義を既に無くしてしまったと言ったら?」
クリス・ミウラ「戦って肌で感じるまでです。」
ヴァッハフントは夢見がちなクリス・ミウラを腫れ物の様に思った。こちらの弄られたくない領域に、土足で踏み入られた様な感じだった。
その後ヴァッハフントは不機嫌そうに対応したが、クリス・ミウラは全く帰る気配を見せなかった。


「次のアリーナ対戦は、ヴァッハフント対クリス・ミウラです。帰って来た初心者キラーヴァッハフントと、初心者代表のクリス・ミウラ。注目の一戦です。」

そして結局ヴァッハフントが折れて今に至る。

最初、ヴァッハフントは機体の操縦感覚が殆ど抜け落ちて居る事実に愕然としていたが、少ない時間で機体テストをしていくうちに、ヴァッハフントは徐々に昔の感覚を取り戻していった。

ACに触れる事で条件反射の様に昔の事が思い出される。

アランが記憶喪失になったあの試合、初心者にアリーナの厳しさを教えようとやっきになっていた頃、そしてアランとの試合。

機体に触っただけで、かなりの情報が頭を錯綜する。やはり俺は腐ってもレイヴンだったという訳か。一人ごちると薄ら笑いを浮かべる。
クリス・ミウラ。良いオッサンの年なのに、とても真っ直ぐな奴だった。世間は彼を馬鹿と呼ぶかもしれないが、彼は誰よりも賢い生き方をしているのかもしれない。
意外と良い試合ができるかもしれない、ヴァッハフントはふと、そう思った。


クリス・ミウラも念願のヴァッハフントとの試合に向けて綿密な調整を行っていた。

ヴァッハフントはかなりの古参株、彼はきっと自分に無い物を沢山知っているに違いない。負けても自分なりの成果が上げられれば良い、彼からできるだけ沢山の物を試合の中で学べれば良い。
正直言ってクリス・ミウラは勝てる気は余りしていなかった。自分はアリーナランク最下位付近の弱小レイヴン、対して相手は初心者キラー。才能に恵まれて居ない事は自分でもかなり自覚している。おそらくロクにサイトに捉えることができないまま負けてしまうだろう。
それでも、彼はこの一戦にとても期待している。彼は誰よりもレイヴンという存在に満足しているのかもしれない。

そろそろ試合が始まる。クリス・ミウラは武者震いを抑えながらアリーナへ向かう。
ヴァッハフントもきっとACに触れれば、レイヴンとしての何かに気付くだろう。それを想像してみただけで全身がまた震えだす。

きっと良い試合になるだろう。クリス・ミウラはふと思った。




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