「三浦さん、だまして悪いが仕事なんでな、残業してもらう」
エムロード社のオフィスの一室、今日も山のような仕事を上司から貰い、当然の様に一人で残業する。
彼は今まで、それに何も文句を言わずに仕事をこなしてきた。何を言われても、ハスキーボイスで淡々と返事をして、無表情に、事務的に、作業を繰り返した。
レイヴンという存在を知るまでは。

今日も一人夜中までオフィスに残っていた三浦は、エムロード社専属レイヴンの募集要項を見つけた。
本来はアリーナに登録されているレイヴンに向けて送られる筈の文章だったが、本当に偶然に、その文章が彼の目に止まる。

レイヴンという文字を見た時、彼の心の中でレイヴンという言葉に関するのイメージが次々と浮かんだ。
このエムロード社もACパーツを作っている、レイヴンの作戦オペレーションも行っている。レイヴン、大空を自由に飛び回ながら、銃を撃ち、華麗にブレードで敵を切り刻む。
その様はまるで、大空を自由に舞う烏のように美しいのだろう。

「レイヴンになる?所詮平社員が…」
今日、三浦はエムロード社に辞表を出すと同時に、エムロード社専属レイヴンへ応募した。
専属レイヴンになる為にはまずレイヴンにならなければならない。普通は試験用に最安価なACが与えられて、それに搭乗し実戦形式による試験を受ける。
だが専属レイヴンへの応募では、最安価なACの代りに、自由にエムロード社パーツを使ってACを組んで良い事になっている。

三浦「レイヴン…俺もレイヴンになるのなら…烏のような機体が良い…」
迷わず脚部は軽量二脚を選んだ。武装も軽量化を計る為にハンドガンのみ、そして左手には、烏の鉤爪となるブレードを装備する。

彼のレイヴン像は限り無く美化されていた。生き残る事と金の為なら、どんな手口も甘んじて行う野蛮さを知らなかった。

機体が組み上がると、彼はACに搭乗し、コックピットの感触を確かめる。レイヴン試験は明日だ、今日はこのままコックピットで寝てしまってもいい。そんな事を考えながら、夢見る烏の雛は眠りについた。

ストラング「市街地に逃げ込んだMTを排除してくれ、失敗した時は、死ぬだけだ。」
ストラング「私は試験官として同行するが一切手出しはしないのでそのつもりで。」

「メインシステム、戦闘モード、起動します。」

敵は鈍重で非力なMTが数体。三浦は夢で見た通りに機体を操作する、イメージするのは飛び回る烏。しかし彼の機体はぎこちなく動くだけだった。
当然だろう、ACを操縦できない人間も多数居るのに、まだ初めて操縦する三浦がACを滑らかに飛ばせる訳が無い。

三浦「レイヴン…こんな筈じゃ無い…俺は烏になる…」
ぎこちない動きでハンドガンを撃ちMTをなんとか掃討する。そしてリーダー格のMTも倒し、なんとか彼は試験に合格した。
結果から言えばレイヴンになれた、だが今日の結果は、三浦にとってレイヴンというものの認識を大きく改めなければならない結果だった。

レイヴン試験が終わり、三浦は試験官のストラングというレイヴンと事務手続きをしながら話をした。
三浦「ストラングさん…」
ストラング「何だ?」
三浦「レイヴンというのは…大空を飛ぶ烏の様な存在ですよね…」
ストラング「ある意味…そうだな…」
ストラング「だが…私は任務遂行の為ならどんな汚い手でも使ってきた。」
ストラング「それに…本当にレイヴンとして成功できる奴は数少ない…」
ストラング「大抵は…アリーナ下位を低迷した後…何かしらの依頼で死んで行く…」
三浦「そうですか…」
ストラング「俺がレイヴン試験官をやっている、理由は、極端に強い奴が現れるのを見たいからだ…色んな事情があってな…」
ストラング「俺の経験から言わせて貰うと…残念だが君は…」
三浦「…」
ストラング「だが何も頂点だけがレイヴンじゃない、お前なりに何か在るなら、良いんじゃないか?」
三浦「…そうですよね…ありがとうございます…」

ガレージで自分の機体を見上げながら、夜が更けて行くのを惜しむ様に空を見上げる三浦。
三浦「ちょっと急ぎすぎたかな…」
三浦「…衝動買いというのか?…」

三浦は今の自分と昔の自分を比べてみる。昔は、何をしたいとも思わず、ただ着実に仕事をこなし、その事を疑問にも思わなかった。
今の自分は、理想のレイヴンになれない事が判っているレイヴン。
後悔していると言って間違い無い。いくらなんでも急すぎた。
しかし、殆ど付き合いのない同僚達はなんて思っているのだろう…明日正式に専属レイヴンになった事を社に伝えに行こう…。
そして三浦のレイヴンとして初めての夜は更けて行った。

「騙して悪いが、レイヴンになったらしいじゃないか、祝わせて貰うぞ。」
会社に行くなり彼は同僚に囲まれてしまった。
「良かったじゃないか、新米レイヴンさん、昔からの夢が叶って。」
「俺達デスクの中からレイヴンが排出されたとはな、君はここのスターだ。」
かなり社内の噂になっていたようだ。きっと、レイヴンになった事を後悔してるなんて、ここにいる誰も知らないだろう。
想像すらできないに違いない、今まで無口で真面目一徹な彼が唐突にレイヴンになったのだ、余程レイヴンへの思いが強かったのだろうとしか思えない筈だろう。

三浦「今日から本社専属のレイヴンになりました…今までありがとうございました…」
「お疲れ様!暖かく見守ってるぜ」

同僚達は本当に暖かく見守ってくれているらしい。雰囲気からも嘘の無い事が伺える。
三浦「ありがとう…じゃあ俺、本社に行くよ…」
「頑張れよ~」

「ごきげんよう、エムロード社直属の新米レイヴン。」
「君のパイロットネームはクリス・ミウラだ。どうだ、カッコいいだろう。」
「早速だが依頼が来ている。頼んだぞ。」

今日からクリス・ミウラとしての人生が始まるのか…そう思いながら依頼を眺める。

「大した依頼じゃない、程々に施設防衛して帰ってこいよ。」

正直言って不安だ。でも、今こうしてレイヴンとして依頼を受けていると、理想のレイヴンになれなくても、理想が在るだけで、俺の人生は充実しそうな気がする。
クリス・ミウラ、良い名前だ。俺の初仕事、俺の第二の人生、存分に満喫してこようじゃないか。


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古びたAC関連施設の応接間のような部屋の中で、二人の熟練レイヴンが数年振りの邂逅を果たしていた。

ストラング「わざわざ呼び出して済まない、今回の依頼は細かい打ち合わせが必要なのでな。」

ストラング。彼は重量二脚のACにバズーカ、連動付き垂直ミサイル、チェインガンといった、どんな状況でも適格に迎撃できるようにした機体を操る手練のレイヴン。
また、今まで受けた依頼は全て完遂させており、作戦面での秀才さも併せ持っている。もはやその手口の適格さは狡猾と言って良い程だろう。

エヴァーファイター「昔からの仲じゃないか、そのくらい気にするな。」
エヴァーファイター、彼は安定した性能の中量二脚にライフル、ミサイル、ロケット、迎撃ミサイルを搭載した限り無くシンプルな機体を操る。
経験豊富な彼に相応しい、シンプルながら何処までも確実な勝利の見込める機体だ。

彼らは過去に二人でコンビを組んで活躍した程の仲だ。二人とも堅実な計画を立て、堅実な動きで確実に依頼を遂行する、その姿に憧れてレイヴンになった者も多い。
だが、最近になってストラングがクラインと接触してから、コンビで活動する事は殆ど無くなった。
エヴァーファイターはアリーナで堅実で正正堂堂とした試合を続け、彼の評判は清いままだったが、ストラングの方は、奇怪な行動や狡猾な手口が目立ち始め、不気味な存在として人々に思われる様になっていった。
エヴァーファイターはそんなストラングを内心心配していた。このままではいつかストラングはドジを踏む、こんな事を続けて良い事が起こる筈がない。今日の邂逅に向けて、エヴァーファイターはストラングにクラインと縁を切る様に奨めるつもりだった。
しかしそんな思いを知ってか知らずか、ストラングは淡々と話し始めた。

ストラング「旧友の誼を暖めたい気持ちも山々だが、早速本題に入ろう。今回の依頼はクラインからの依頼で、イレギュラーを抹殺するという物だ。」
エヴァーファイター「クラインか…」
暗い顔をするエヴァーファイター、クラインは何を考えているのか判らない男だ、そしておそらく…非常に恐ろしい事を考えているのだろう…

ストラング「まず、私と「目標」の二人でMTを掃討する。そこへジオ社側のレイヴンとして君が現れて「目標」を攻撃して欲しい。」
ストラング「もし君が負けるような事が在れば…「目標」をイレギュラーと認定して、私が責任持って排除しよう。」
ストラングは顔の筋肉一つ動かさず作戦内容を伝えた。この作戦はエヴァーファイターを捨て駒にすると言っているのと同じ事だというのに。
エヴァーファイター「…本気で言ってるのか?…」
ストラング「あぁ、俺は本気だ。君の実力を知っているから君にこの役を受けて欲しいんだ。」

エヴァーファイター「…今日はお前にクラインの事で話が在ったんだが…」
ストラング「どんな事だ?」
ストラングの質問には答えず、エヴァーファイターは半ばあきらめた様な調子で続けた。
エヴァーファイター「私が何を言いたいか判っているだろう…そして私もどんな答えが返って来るか判ってる…」
ストラング「…」
エヴァーファイター「…一度受けた依頼、どんな役目でも正正堂堂戦ってやるとしよう…」
ストラング「感謝する…」
エヴァーファイター「だが…お前も変わってしまったな…」
そう言うとエヴァーファイターは返事をする間すら与えず、ACの調整に向かって行った。

一人取り残されたストラング、事務的な表情を崩すと、彼の顔に哀しげな表情が現れた。
ストラング「済まないな…だが世界の理想の為だ…」
エヴァーファイターと同じく機体調整の為ガレージに向かうストラング、もう彼の顔は元の冷徹な表情に戻っていた。

ストラング「私の受けた依頼に対する協力者を募集する…」
「目標」の依頼受諾を確認し、二人はACに乗り込んだ。
エヴァーファイター「こちらホーリーマザー、いつでもいけるぞ」
ストラング「こちらツェーンゲボーテ、私は「目標」とコンタクトを取るから先に行ってくれ。」
エヴァーファイター「了解した…」
出撃するホーリーマザーは、ツェーンゲボーテが見えなくなる直前で振り返り、通信を行った。
エヴァーファイター「ストラング、決して死ぬんじゃないぞ!」
そしてホーリーマザーは飛び去って行った。
ストラング「…判っているさ…」
ストラング「…判ってても、俺たちはこうするしか無いのさ…」
ストラング「なあ…クライン…そうなんだろ?」


ストラング「久しぶりだな…良く来てくれた」
ストラング「私は反対側の丘にいる。協力して部隊を挟撃する」
ストラング「では行くぞ!」

「目標」がMT部隊を殲滅していく。あまりにも弱く脆いMT達、ストラングは「目標」との通信を切り、エヴァーファイターとの通信を始めた。
ストラング「そろそろだ…準備は良いな?」
エヴァーファイター「あぁ…万全さ、これで最後でも悔いは無いってくらいにな」
ストラング「…それは良かったな。」
通信を「目標」に切り換えるとストラング。
ストラング「ランカーAC、ホーリーマザーを確認、ジオ社側のレイヴンだ。」
すぐに「目標」とホーリーマザーとの戦闘が始まる。
ホーリーマザーは遠距離ではミサイル、中距離ではライフルとメリハリの在る迎撃を展開するも、「目標」は正確に高火力なロケットを当てて来る。
ホーリーマザーはブーストを吹かし地上を走り急接近、ブレードを振り抜いたが、「目標」はそれを難なく躱し、隙のできたホーリーマザーをブレードで切り返す。

エヴァーファイター「ストラング…これがイレギュラーの力か…」
ホーリーマザーには一発逆転を狙える様な兵器は無い、全て安定してダメージを与える兵器ばかり、彼の負けは既に決まっていた。
エヴァーファイター「死ぬ前に良い物が見れたな…」
負けは決まっても、ホーリーマザーは中距離から正確にライフルを撃ち相手の機体の耐久力を削り続ける。
エヴァーファイター「俺はお前には生き残って欲しい…これがせめてもの…」
そしてホーリーマザーからの通信が途絶えた。

ストラングは少し余韻を楽しむかの様に間を置いた後、通信を「目標」に切り換える。
ストラング「よくやってくれた、敵は全滅したようだな。」
ストラング「・・・大した腕になったものだ。」
ストラング「クラインが言っていた事も、あながち杞憂では無いという事か」
ストラング「君は危険だ」
ストラング「消えてもらおう」


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ストラング「君は危険だ」
ストラング「消えてもらおう」
そう言うと通信を切り、ストラングは「目標」に対してバズーカを構える。
「目標」はライフル、ミサイル、ロケット、ブレードを装備した、ホーリーマザーを最新装備にしたような機体だった。

つい先程死んだ旧友が蘇ったような感覚に襲われながら、必死に冷静さを取り戻そうとしているストラング。
「お前には死んで欲しくない…」
そう言った旧友が自分に襲いかかって来る様な、嫌な感覚だった。

ストラングに遠くからミサイルを撃つ「目標」。
それに反応しストラングもミサイルを構え、発射する。
ストラングの機体の方が回避の点で劣っていて、ストラングには不利な状況の筈だった。
しかしストラングの放ったミサイルは、垂直方向の一つに加え、横方向に展開した四つが連動している、対して「目標」のミサイルは積載の関係で単発型の軽い物を選択している。
ストラングは火力、「目標」は回避、それぞれ優位な状況だが、数発ミサイルを撃つうち優劣は明らかになった。

ストラングは単発型のミサイルを右に左に揺さぶって躱すが、「目標」は他方向から迫る圧倒的な数のミサイルを対処しきれず被弾してしまう。遠距離ではストラングの圧倒的有利な状況だった。

ストラング「このまま終わる訳はない…俺がレイヴンにした奴だからな…」

中距離戦に移行すると踏んでストラングはバズーカを選択し待ち構える。
読み通り「目標」はライフルを構え若干接近しつつ、一定距離を保ちながら射撃する。
ストラングのバズーカは非常に弾速が遅い為、殆ど躱されてしまう。対してストラングがいかに上手く回避をしても、重量級の機体に対して絶え間なく撃たれるライフルを全て避ける事はできない。
ストラングが一方的に被弾する展開だったが、ストラングにはチェインガンを選択できない理由が在った。
もしこの中距離でチェインガンを選択すれば、一気に近距離に詰め寄られ、重量級の弱点である旋回戦に持ち込まれてしまう。そうなれば百戦錬磨のストラングでも勝機は無に等しかった。
幸いバズーカの弾数は豊富で、牽制目的で撃つ事に向いている。そしていくら弾速が遅くても、バズーカを撃っている限り「目標」は被弾せずに距離を詰められない。

ストラング「このままでは…」
装甲の堅いストラングの機体も、一方的なライフルの射撃の前に少しづつ耐久力を削がれつつ在った。
だがこの状況を打開する手段もない。

しかし、唐突に「目標」のライフルの射撃が止んだ。
弾切れか、或いはフェイクか、或いはロケットによる一撃を狙っているのか。
そんな事はストラングにとってどうでも良かった。
まだストラングの機体はロケットの数発では沈まない耐久力が残っているのに対して、「目標」の耐久力はエヴァーファイターの正確な射撃とミサイルによってかなり疲弊している。
イレギュラーであろうが何であろうが、機体の性能だけは誤魔化せない。
ストラングはバズーカを選択したままOBを起動する。
そのOBの勢いのまま「目標」へ突っ込むとバズーカを近距離から確実に撃ち込む。
ストラングもロケットを被弾したがまだ耐久力はある。
そのままストラングはOBで遠ざかり、お互い旋回を始め、当然「目標」が先にストラングを捕らえロケットをさらに当て続ける。
だが、ストラングが「目標」をロックオンした時に、彼の勝利は決まった。

もし「目標」に非があるとすれば二体のACを相手に真向勝負を受けた事くらいだろう。
ストラングは、ロケットによりかなり損傷した機体で、チェインガンをロックし比較的近距離から発射した。
そして当然旋回戦に持ち込もうとする「目標」だったが、ストラングはブーストで後退し、ロックしている続ける時間をギリギリまで稼ぐ。
比較的近距離からの連射武器の射撃により、既に疲弊した「目標」の耐久力は確実に削り取られ、ロックが外れた瞬間に「目標」は大破した。

もしロックが外れても「目標」が大破しなければ、ストラングは確実に死んでいただろう。
だがストラングは、エヴァーファイターとの戦いの時から「目標」の耐久を計算し、この勝利のタイミングを狙っていたのだ。
ストラングの冷静さとエヴァーファイターの命を賭けた射撃の前に、イレギュラーは死んで逝った。

ストラング「クライン…お前の読みも外れたみたいだな…」
崩壊寸前の機体を駆って素早く戦場から離脱するストラング。彼はこの戦場で大切な三つの物を失った。
友と、弟子と、それにクラインへの信頼。

クラインの計画を知っている人間は、フライトナーズを入れたとしても、ストラングただ一人だろう。
火星を「管理」する。競争の無い世界の為に、フォボスに直接アクセスし、火星全体を統制する。
フォボスへ向かう為に、フライトナーズを手駒として使い、イレギュラー要素はクライン自ら排除する。

その計画は完璧な筈だった。
ストラングはイレギュラー審査の最終試験官として、自らの命と旧友の命を賭けて「目標」がイレギュラーかどうか確かめる筈だった。

だがイレギュラーは死んだ。

内心ストラングは、自分が試験した「目標」がイレギュラーである事を望んでいたし、テストしてきたレイヴンの中に「目標」を超えるレイヴンは居なかった。
つまり、クラインの計画は既に破綻していた事になる。

ツェーンゲボーテの置かれているガレージには、彼らしくなく衰弱し動揺したストラングの姿が在った
ストラング「まさかな…」
考えられる結論は一つだった。自分がイレギュラーだという事。本来「目標」が為すべきだった役を自分が演じる事。
余りにも唐突で不可解な任務だとストラングは思う。

そもそもクラインはイレギュラーという絶対的な存在に何を以て対抗しようとしていたのだろう。
クラインの言質によれば、フォボスを以てしても、イレギュラーを止める事はできない筈だった。
もしかしたらクラインには本当の思惑があるのかもしれない。

それを知る為には、自らがクラインの敵となり、イレギュラーを演じなければならない。

そう考えると、ストラングは素早く地球政府の依頼を確認し、迷い無く依頼を遂行しに出撃した。

クラインが何を考えているのか知らなければ、散って逝った友と「目標」に申し訳が無かったから。ただそれだけの為に、彼はイレギュラーを演じようと決心した。


今、ストラングはフォボスへ向かう依頼を受けている。
「先程、レオス・クライン自身から通信がありました。
彼は現在火星の衛星フォボスにいるようです。
通信の内容は実に驚くべきものでした。」
ストラング「…」
既に計画を知っている彼には余りにも稚拙な説明だと感じられた。ざっと依頼を把握して出撃しようと思うと、依頼後半部に違和感のある内容が聞こえて来る。
「今回の件が決着したらレイヴンに自由を与えます。
我々の管理下を離れて、自由と独立を保った傭兵として生きることができることを約束します。
レイヴンにとって最高の報酬でしょう。
他に選択肢はありません。
あなたの帰還を心待ちにしています。」

急に笑いがこみあげてくる。
クラインにとってイレギュラーも予測の範疇だった、彼に管理された世界を実現させる気など毛頭なかったんだ。
ただ確かなのは、クラインも一人のレイヴンだったという事だった。
今までの依頼でも事務的な計画通りの会話しかしなかったが、この依頼文はクラインと話したどの言葉よりも、確かにクラインの目的を示していた。

これで友や弟子の所に行ける、クラインと共に最高の土産を持って。
そう考えるとストラングは、フォボスへ出撃する前に、ある一人のレイヴン、夢を持って羽ばたこうとしてるレイヴンの声が聞きたくなった。
おもむろに電話を掛けると幸い留守ではなく、すぐに返事が帰って来る。
クリス・ミウラ「もしもし、お久しぶりです…」
ストラング「久しぶりだな、君はまだレイヴンとしての理想を捨ててないかい?」
クリス・ミウラ「……はい。それが何か…」
ストラングは愉快さ極まって、電話を唐突に思いきり切った。
レイヴン、そう、イレギュラーもクラインも、俺もエヴァーファイターも、結局一人のレイヴンだった。それ以外の何者にもなれない、不器用な存在だった。

ストラングはツェーンゲボーテに乗り込み戦闘モードを起動する。
何もかもが愉快だった。きっとクラインも、今頃にやけているに違いない。

ストラングは冷静さを取り戻すと、イレギュラーとしてフォボスへ出撃して行った。





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