Bリーグトップの決戦の後、僕ら皆で、大騒ぎをしにバーへ入った。
最高の気分だった。円陣組んだまま馬鹿の集団のように円状のテーブルにぐるぐる囲って、片手にビールジョッキを持ちながら回る回る。
……ちょっと気持ち悪かった。
ひとしきり店内で暴れまわったあと、席に落ち着き、今までの戦いの軌跡を皆で語り合った。

僕が新人アーキテクトとしてこのチームに入ってきたときの事。
少ない援助体制で連戦連敗のつらい日々。
快進撃の始まり。
そして今日の対戦、最高の一日だった。

と、男だけのむさい集まりの中、突然の来訪者が現れた。
「ええっと…お邪魔してもよろしいですか?」
「…シルティ、何考えてるのよ……」
対戦相手であるグラスバードのアーキテクト、シルティとその姉が現れた!

―――――……
さっきまで敵だった相手なのだが、どうしても今日の良き対戦相手として礼を言いたかったという彼女らに対し、僕ら(というか整備員が半場無理に進めて)のこの席に落ち着かせたのだ。
さっきまで敵だった相手と一緒にパーティやってるわけだから、なんか変な気がしないでもないが。

「ウチのチーム、女いねえからよぉ、よかったよかったぁ!」
「しかもでらべっぴんさんだしなぁー」
「ふふ、お邪魔しますねっ。」
「……なんでこんなことになってるのよ。」
「いいじゃない、姉さ~ん。」
「猫なで声を出すなっ」

……ま、いいか、なんかもう途中から完全になじんじゃってるし。

「ええっと、姉妹で参加しているってのは聞いてたんだけど…お姉さんのほう……」
「カーティアよ。」
「あ、カーティアさんね、いや、あんまり表に出てこない人だから、どんな人かと思ったんだけど。」
「…何?」
「そっくりですね、ふたりとも。」
グラスバードの美人姉妹は、本当にそっくりだった。違いといえば、妹が柔和な優しい顔立ち、服装もちゃんと正装なのに対して、姉は厳しい顔、鋭い目つきをしている。服装もチームグラスバードとエンブレムが描かれたチームユニフォームのままだ。
もし、二人がまったく同じ格好をしたら、後姿だけで判断するとまったくわからないかもしれない。
「私たち、双子なんです。」
「あーなるほど、だからそっくりなのか。」
「双子だが、アタシ達が似ているのは外見だけよ。」
「確かに……カーティアさんは、いろいろときつそうな性格してそうだね……」
「なにしみじみいってるのよ…?」
「でもー、私と姉さんの違いは、性格と顔だけじゃないんですよー」
なんかアルコールが入ってるせいなのか、シルティの目が少し浮いている気がする……
「それ以外に違いが…?」
「えぇーそうなんです。今服装がふたりとも違うんですけどぉ、もし同じサイズの服を着たら、わかっちゃうようなことですよぉ。」

“同じサイズの服”という言葉が口から出た瞬間、口にグラスを運んでいたカーティアさんの手がピタリと止まる。

「同じサイズ……つまり…」
「つまりはですねぇ、私と姉さんの決定的違いは、む……むぐぅぅぅぅ!」
「……それ以上言ったら、アンタ、堕とすわよ?」
目が浮いてて楽しそうな妹と、慌ててその口を押さえ込む姉。

「決定的な違いは……む…」
「違いはむ……」
「む、か……」
「む、ね……なるほど。」

「む」の謎掛けの答えは、僕と整備員たちの視線の先にあった。

妹は、確かにすごい。あんなのに戦場で出会ったら悩殺されてしまうかもしれない。だが姉は……
「西瓜と……バレーボール…」
僕の口からぽろっと出た瞬間、ビシャッと水が飛んできた。そして今度は僕の首が絞められる。

「アンタねぇ!!!!今日初めて会った相手にッ!!ちょっとッ!!失礼じゃ、ないっのっ!?!?小さくなんかないわよ!!」
「うっううっがっ、た、くる、くるくっくるしっ!!!!!」

ひと通り暴れまわったカーティアさんは、最終的にテーブルを「バンッ!」と叩き、泣き浄土に入ってしまった。
「アタシのっむね…ううぅ、シルティ返してぇぇぇぇ!!!」
「姉さん、私のせいじゃないないですよぉ、それに胸が小さい…」
「胸とか小さいって言わないで!!!!!」

「胸」と「小さい」はNGワードらしい。

ここはぼくが大人の対応で、彼女を慰めなければ!

「カーティアさん、胸が小さくったって、そんな貴女を想ってくれる趣向の変わった人が、いつかかならず現れまッ!?」

強力な強撃が僕の顔をめがけて襲い掛かり、僕はそれをモロに喰らい一回転半してものすごい勢いで吹っ飛んでいった。


――――……
「……なんかすごくよくわからない展開のままだったけど。」
「そうだね、アハハハハ……」
「乾いた笑いはもういいから……イルス、アナタに聞きたかったことがあったんだよ。」
カーティアさんが、鼻血がでて絆創膏で鼻を押さえてる僕に問う。
「アンタ達のチーム、イリオモテ……アタシ達グラスバードに勝って、Bリーグの頂点に立ったけど……本当にチームは解散してしまうのか?」
「……うん、今シーズンの試合が終ったら、それと同時にイリオモテは解散、これはずっとまえから決まっていたことなんだ。
「ふーん…・・・」
カーティアさんは、空になったグラスの中で氷をカラカラと回しながら聞いている。

「……正直ちょっと寂しいけどね。スポンサーがひどいだけで、チームとしての能力は、十二分にもっている。だから、本当のところは解散は……したくないよ。」


―――――……
「えーと、1番と2番が、キッスッ、をするぅー♪」
「1番は……俺だ。」
「…2番……」
「げぇぇぇぇぇなんで2番が主任なんだよぉぉぉぉぉ!!!!!!」

ちらっと横目で見たら、シルティと整備員がほぼ泥酔状態で王様ゲームをしていた。

「……妹さん、なんかウチのチームとやってるけど、いいの?」
「いいわよ、シルティのことはどうでも。」
「どうでもって……」
「それよりも、解散したくないのに、どうしても解散しなくちゃいけないの?これだけ実力もあって、人気もあるのに?」
「全てのアーキテクトが、環境に恵まれているわけじゃない。僕のところはスポンサーがまるでフォーミュラFに対して理解を示していなかった。」
「そっか……それじゃしょうがない……か。残念だなぁ。」
「ん、なにが?」
「アタシ達に勝った相手に、リベンジマッチもできないままいなくなっちゃうなんて……」
「あ、そうか……ごめん。」
「別にアンタが謝ることじゃないでしょ。アタシ達は誰かスポンサーが付いていないと活動すらできないからね……」

そう、僕らアーキテクトは、結局のところなにかしらの援助をしてもらえる団体がいないと、とてもじゃないけど活動ができない。
フォーミュラFに出場しているアーキテクトは、皆何かしらの援助を受けている。
個人で出場しているアーキテクトは、よっぽどの物好き出ない限り、ほとんどいない。

「あーあ、これじゃアタシ達のチームは自動的にトップに逆戻り……勝ちもせず。」
「あ、あはは、なんか勝ち逃げみたいだね……」
「勝ち逃げみたい、じゃなくて勝ち逃げよ。トップになっても……うれしくもなんともない。もう、戦えないんだよね、解散しちゃうんだから。アーキテクト、やめちゃうんでしょ?」
「そんなことはないよ、カーティアさん。」
「え?」
「チームはもう無くなってしまうけど……僕はアーキテクトをやめるわけじゃない。」
「……どういうこと?」
「僕は、チーム解散と同時に、別のチームに行く事になってるんだ。」
「え、そうなの…?」
「うん、だから、もう戦えないってことはないよ。」

それを聞くと、辛気臭い顔していたカーティアさんがパァッと明るい顔に戻った。
「ということは……いつかリベンジすることもできるのね!?」
「そういうことになるね。」
「そっか……よし。」
ガタッと突然立ち上がるカーティアさん。そしてビシッと僕を指差して宣言した。
「イルスッ!!!!次はアタシ達がッ勝つわよ!!!」

……突然大声を出したので、店全体が何事かとこっちをみてシーンと静まり返った。
「……カーティアさんの意気込みはわかった……うん、わかったよ。でもとりあえず座ってくれないかな……ほら、他の人、こっち見てるから。」

そこで自分の状況を把握したカーティアさんは、「あっ……」と小さく洩らして少し赤くなって座った。
「……ご、ゴメンナサイ…」
「いや、気にしない……すいません、冷たいお茶をふたつお願いします。」
とりあえず、お酒以外の飲み物を頼んどいた。
「とりあえず、カーティアさんの意気込みはわかった。この先また対戦相手としてぶつかったときは、全力を尽くす。約束するよ。」

「……なんか違和感感じてたんだけど、やっとわかった。」
「ん?」
「そのカーティアさんってのやめてもらえない?」
「いや、今日会ったばっかりだし。」
「もう知り合いでしょ?さんづけはヤメヤメ。」
「……わかったよ。よし、カーティア、次に会うときも全力を尽くす。そのときまで、お互い更なる高みに上がれるように……」

来たばかりのコールド・ティーのグラスを上げて、

「乾杯!」「乾杯!」

カチンッとグラスが心地よい音を立てた。


そして過ぎていく夜の時間。

「2番とぉー5番さんがぁー熱い抱擁をかわすぅー」
「5番……」
「…2番……えぇぇぇぇぇぇぇぇえぇぇまた主任かよぉぉぉこれで3回目だぞ!?ふざけんな!!!」


……賑やかに過ぎていく。



―――――……
1年後……

『グリッド1、行動不能。グリッド2の勝利。』

二脚の赤いACが肩膝をつき、煙を吹いた。その正面にいるのは、バズーカを構えた黒いAC。

「ふーむ、近接攻撃に関しては申し分ないみたいだな。」
「でも、このままの構成じゃ遠距離に逃げられてしまうと苦戦してしまいますね。機動性面で上を行かれるとなおさら、です。」
「うーん、このままの状態でも十分活躍できる戦力ではあるんだが。イルス、どう思う?」
「僕はもう少しAIを見直してみたいですね。前シーズンでも機動性能の差でやられてしまったこともありましたし。弱点はなるべく潰しておきたいですしね。」
「とりあえずは、戦闘データの収集をするか。」
「あ、ブラウさん。もう一回テストする前に、アセンブリをスナイパーライフルとミサイル主体の遠距離型にしてもらえます?」
「OK、今よりも過酷な状態にするわけだな、AIも遠ざけられるとやっかいな戦法をとるようにしたほうがいいな。」
「そうですね……ボーダーアウトとかで、出来る限り遠くへ離れてもらえたほうがいいですね。」
「わかった、調整し直すから少し待ってくれ。」
「こっちも少し調整しなおしますから、1時間後にもう一度テストしましょう。」


イリオモテが解散した後、僕はすぐにブラウさん達のチーム、ブルーネメシスへサブアーキテクトとしてチームに入った。
初めはちょっと新しい環境に戸惑ったが、1年ブルーネメシスの皆と戦い抜いた頃にはすっかりチームの一員になっていた。

「とりあえず、AIのチェックっと……あれ、カーティアからメールが……おぉ、グラスバードが、ついにレギュラーリーグに進出!」
「なにっ!あのグラスバードが?」
「おわっ、ブラウさんいつのまに後ろに!そして人のメールを覗き見しない!」
「あぁ、すまん……しかし、グラスバードがついにRリーグか。」
「えぇ、そうみたいですね。メールでは、来シーズンから参戦するみたいですよ。」

シルティ、カーティアの二人はその後「勝ちなしのトップ返上に価値は無い」と自らBリーグを去った。だが、彼女らの人気は非常に高く、FFAがその人気チームをほっとくわけも無く、Rリーグへ遂に足を踏み入れたのだった。
ちなみに、僕のいたチーム・イリオモテは解散したが、かつての仲間である整備員はそれぞれ元いた部署に戻る者もいれば、企業をやめ、他のアーキテクトの下で整備員スタッフをするものもいた。
その先には、グラスバードも含まれていた。「優秀なスタッフを野放しにするのは勿体無かった」らしい。

「……ん?なんか店の名前が…鳥の泣き所?ハハーン、イルス……」
「……なんですか?」
「うまくやってるようだな、カーティアちゃんと!!」
「そ、そんなんじゃないですよ……」
「いやー若いっていいなぁ~」
「……だから違うって。」

ひとしきり「ウンウン」とブラウさんは謎の頷きをしていた。

「で、今日一緒に御飯でも食べに行こうってわけか。だったら今日は早めに切り上げるか。」
「うーん、いいんですか?」
「ああ、どうせまだオフシーズンだしな。友人との繋がりは大事にしといたほうがいいぜ。」
「……ありがとうございます。」
「だから俺にもなんかいい女紹介してくれ!」
「結局そこですか……キャリーさんが聞いたら怒りますよ?」
「あー……弱点を突くか。」
「相手の弱点を見つけて突くのがアーキテクトですよ。」
「うまいこというね……よし、とにかくもう一回テストするか。そしたら今日はもうあがっていいぜ。」
「そうですか……それじゃ、そうさせてもらいますよ。!」
「その代わり女を……」
「またそこにもどりますかっ!」


僕は、アーキテクトの高みを目指し、今も先も切磋琢磨している。
そしていつか、フォーミュラFの頂点に立つ日が来るまで、僕の挑戦は止まることはない。

僕の戦いの全てに、知識の女神が微笑むようになるまで。


叔父の言葉を思い出した。

「…確かに今は辛い時期かもしれない。だが、明けない朝は無い。そのカクテルのように、最初は辛(ツラ)いかもしれない、だがいずれその辛さは過ぎる。
朝焼けを見ることができれば、その先はよく晴れた青空だ。」

僕は今、晴れた青空の下を歩いている。その先では、また暗雲が立ち込めたり、長い闇が待っているかもしれない。

でも、僕は諦めない。
諦めなければ、かならず道は開ける。

朝焼けは、その闇の先にあるのだから。




――――END――――――――――





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