ジナイーダ、というレイヴンがいる。一部では随分と評判の新人だ。実力の程も悪くないらしい。
 その俊才ぶりにレイヴン達は戦々恐々とし、アーク残党はその力を引き込もうと躍起になっているらしい。無論、水面下での話だが。

 所詮は新人であり、こなしてきたミッションの数は少ない。だからこそ、運だけなのか、実力なのか、皆が計りかねている。
 だからこそ、大々的にではなく水面下で交渉を行っているのだ。腕がよければ知名度の低さを利用して工作任務を行わせる。悪かったのなら、激戦区に放り込んで戦死させればよい。
 アーク残党の指導者、セレスチャル卿はそう判断していると、彼は聞いていた。

「……だからと言って、私もそうだとは思わないで欲しいのだがね」

 アーク残党の持つ都市の一つ、サークシティ。その市庁の客室は、この混迷の時代にあっても優雅の色を残していた。
 今となっては高級品どころではなくなった牛革のソファ。そこに腰を沈めつつ、初老の男は煙草を咥える。立ち上る紫煙が、空調に吸い込まれて消えていく。

 男の名はMxS7HGS。かつてナービス領第二位を保持し続けた伝説的なレイヴンである。

 ジノーヴィー、そして続くトップランカーも、彼には手を焼いたという。それは、彼の持つ権力ではなく、れっきとした力によるものだ。
 そして、彼を上回っていたトップランカーもナービス領の戦乱の終幕、特攻兵器に呑まれて消えた。

 つまり、彼は特攻兵器襲来後のトップランカーだという事である。
 アークが武装組織の色を濃くしてから、順位による企業からの評価はなくなった。それでも彼は恐れられている。

 現状における、最強のレイヴンとして。アーク残党にもアライアンスにも属さぬ、天災のようなものとして、恐れられている。

 その最強のレイヴンの視線の先には、一人の女性の姿がある。
 けばけばしくない、海のように深い青に染め上げられた短髪の下には、美麗と称してもいい顔があった。
 だが、そこに浮かぶ不適な笑みは、顔に似つかわしくないふてぶてしさに満ちている。それでも嫌味を感じないのは、彼女の才能の賜物だろう。

「アイアン先生を引き込もうなんて誰も思いませんよー。交渉員が半殺しで返って来た、なんてのは、もうごめんです」

 女性はそう言って口の端を歪める。その邪気のない言葉に、MxS7HGSはばつが悪そうに咳払いをした。

「ふん。彼奴らが私を脅してきたから、それに応えてやったまでよ。ところでラートシカ。アイアン先生はやめてくれと言っていたと思うが」
「いいじゃないですか。名前、嫌いなんでしょう? 機体の名前もアイアンL-OWだし、ぴったりじゃないですか?」
「……レイヴンとはいえ、もう少し年上を敬う精神を持って欲しいと、私は切に願うよ」
「持っているから、先生って呼ぶんですよ。同い年だったらアイアンちゃんって呼んでます」

 額に手を置き嘆くMxS7HGSに、ラートシカと呼ばれた女性は笑いで応えた。
 その笑みを見て、MxS7HGSの顔はますます暗く、憂鬱になった。

 女性の名は、ラートシカ武威という。ナービス領における中級レイヴンの一人だ。
 二挺のショットガンを装備した軽量AC、クラーケンアズールを駆り、特攻兵器の襲来を生き延びた、腕利きではないが経験豊富なレイヴンである。
 多くのレイヴンの命が失われ、ベテランが失われたアークにとって、ラートシカは貴重な戦力の一つと言えよう。

 無論、中級だけあって名だたる実力者達には劣るが、特攻兵器による被害が最も多かったナービス領で生き延びただけあって、決して腕は悪くない。
 むしろ、才覚だけに頼るレイヴンよりも、地獄の中で見出した経験則を持つラートシカの方が、役に立つ局面もあった。

 それ故に、彼女のアーク残党内での地位は悪くない。
 尤も、その地位を有効活用しないのが彼女らしいとは言えた。

「まったく。機体構成が安くなっているから、何事かと尋ねたのがケチの付き始めだったな」
「いやー、先生に惨敗した後、貢いでた男に振られるは、依頼が来なくなるはで散々でしたよー。事情を知った先生がやって来たときは、正直殺されるのかも、って怯えてたんですよ?」
「男に貢いで破産するなど、レイヴン全体の恥だ。まあ、それを叱りに行ったのは、私の軽挙だったが」
「でも、そのお叱りのお陰で今の自分があるわけですよーアイアン先生」
「そう思うなら少しは敬ってくれたまえ」
「敬ってるじゃないですか」

 ラートシカは笑い、MxS7HGSは苦笑した。

「さて、こんな雑談ばかりで時間を潰すのは、今の君の立場から見て厳しいと思う。故に、本題に入らせてもらおう」
「全然時間は余裕ですよー。ですが、本題に入らせてもらいますね」

 途端に、ラートシカの顔が引き締まった。その顔は、生き残った女性レイヴンとしての顔であり、アーク残党に長く席を置く者としての責任感の滲む顔だった。
 そこに、先程までの可愛らしさや甘さは欠片もない。人々がレイヴンに抱く硬いイメージ。その体現が、ここにあった。

 それを受けた同業者が、構えられない筈がない。MxS7HGSは眼光を鋭く細め、厳しさをその顔に乗せた。

「独立都市コンコードを知っていますか」

 MxS7HGSは頷く。そこに戸惑いの色は見られない。
 当然である。レイヴンであり、それなりの実力者でもある彼女が他のレイヴンの力を借りるとすれば、コンコードしかないと推測していたのだ。

 独立自治都市コンコード。天国、その都市は、似つかわしくない程に堅牢な防御を誇っている事で、昔から有名だった。
 半径十二キロにもなる巨大都市コンコード。それを覆うドーム上の特殊装甲は計一万二千枚にも及び、装甲の隙間から除く対空砲の数は五千を数える。要塞にも匹敵せんばかりの防衛武装だ。
 それでも、ナービスが発見した資源を巡る紛争、『ナービス紛争』の際に、この都市がさほど注目されなかったのは、その歴史によるところが大きい。

 ナービス領とされる中でも国境線の端、それも戦線にさほど影響しない地点に位置するこの巨大都市は、旧世代技術によって建造されたと思われる古代都市である。
 ナービス紛争は、新資源の独占を目論んだナービスと、それを得ようと圧力を掛けたミラージュとの軋轢が原因で行われた戦争だが、開戦の前にも大きな諍いはあった。

 当時、まだ戦力が十分とは言えない状況だったナービスは、戦争を避けるために、旧世代技術の結晶であるコンコードを、他の企業と合同研究する事を決めた。
 ミラージュとの開戦を遅延させるナービスの策略である事は、誰の目にも明らかであったが、だからといって無碍にするのはあまりに旨味がない。
 しかも、他の企業との合同研究という名目で、クレスト、キサラギ、OAEといった勢力をもナービス領に引き込んだのである。下手に動けば、他企業をも敵に回してしまう。

 これにより、ミラージュは圧倒的に劣るナービスという小企業に対し、二の足を踏まざるを得なくなった。
 もし無理に開戦すれば、他企業からの抗議は明白で、ともすれば他企業が同盟を組むという最悪の結末もありうる。そうなっては、新資源の利潤などという話では済まない。

 如何にミラージュが巨大企業とはいえ、クレストを敵に回して無傷でいられる程、無敵ではない。
 小規模とはいえ、相手はACすらも保有している。その脅威を無視して開戦するほど、ミラージュは愚かではない。
 故に、彼らはナービスの提案に同意しつつ、来るべき開戦の為にレイヴンズアークとの関係を深めていった。

 そうして、コンコードは企業連盟によって粗方研究し尽くされた。コンコードに使われていた旧世代の技術はほとんどが吸収され、他者の技術に生かされていった。
 開戦への時間稼ぎに、保有する技術の全てを吐き出したコンコードは、拠点としての価値もなかったが為にナービス紛争においても無視され、戦火の中にありながら平和を享受していた。

 故に、ナービス領にありながら紛争で消耗する事のなかったコンコードは、持ち前の防衛力で、特攻兵器の襲来をも防いだ。
 そして、その後の企業の支配力の低迷を受け、独立組織の名乗りを上げたのだ。
 無論、一都市だけの小規模組織である事に変わりはないが、その防衛力は侮れない。

 加え、多くの都市が壊滅した中で、数少ない生き残りである事が大きい。
 食料生産を始めとした資源を売りつつ、強奪せんと襲い掛かる野盗を退けるコンコードは、組織の規模に似つかわしくない重要性を帯び始めていた。

 ドーム状に囲まれた、外からは見えない閉塞した世界。
 そこに眠る、特攻兵器の襲来より守られてきた富を求める者は多かった。

「コンコードはアークの補給の三割を担っている都市です。彼らの機嫌しだいで、アークの命運は大きく左右されると言っても過言ではありません」
「他組織に頼るとは、アークも脆くなったものだ」
「そうですね。でも関係は悪くありませんし。なにより、治めているのがDr.?であるという事が大きくて」
「ドクターが?」

 旧い名前に、MxS7HGSの眉が上がる。

 Dr.?。ナービス紛争初期に三位を記録していたレイヴンで、相応の実力者として名を馳せていた男だ。
 旧来のそれとは違うAC操縦法、通称『A操作』を発明した事で、有名な科学者でもある。

 だが、それよりも重要なのは、Dr.?はミラージュの命を受けて派遣されたレイヴンによって殺されているという事実だ。
 特攻兵器の襲来の以前に戦死した者の名が口に出される。その異様さに、MxS7HGSは思わず疑問を口にしていた。

「ナービスの上級ランカーであったドクターが、コンコードの実質的な指導者を務めています」
「だが、ドクターはマレア砂漠での戦いで、当時のトップランカーに殺された筈だ」
「瀕死の重傷だったそうです。今も、それが祟ってACには乗れないのだとも聞いています」
「……信じがたいな。そんな重傷者が、どうやって特攻兵器の襲来を生き延びたというんだ」
「コンコード市に逃げ込んでいたそうです。かの都市の守りはまさに鉄壁。故に、ドクターは九死に一生を得た、と」

 煙草の吸殻を灰皿に押し付けつつ、MxS7HGSは苦笑した。
 あまりにも出来すぎた話だ。マレア砂漠とコンコードの距離は確かに短い。だが、ACを破壊され死に体の人間が、強化されているとはいえ辿り付ける距離ではない。
 奇蹟が何個あれば足りるのか分からない話だ。そして、その話が示す可能性は二つ。

 Dr.?が本当に数多の奇蹟に恵まれたのか、それとも話に嘘が含まれているのか。
 そもそも、その男が本当にDr.?なのか。

「それが真実かどうか探って欲しい、と?」
「……ええ。ここのところ、コンコードが水面下で動いているらしいとの情報が入っています。
 セレスチャル卿は放置しろとの命令を出しましたが、コンコードは我々にとって最重要地区。もし刃を向けられれば、戦略方針の切り替えは避けられません。
 調べる必要があると、上層部は判断したんです。彼らが、叛意を持っているかどうかを」
「だが、如何にコンコードが潤沢な資源を保有しているとは言っても、兵力の方はそうでもないのだろう? ならば、防衛こそすれ、侵略はあり得ぬのでは?」

 MxS7HGSの疑問に、ラートシカは首を横に振る事で応える。

「彼らは我々だけではなく、アライアンスとも交易を営んでいます。
 そして、我々やアライアンスに対する資源の輸出と引き換えに、防衛戦力として軍隊を派遣させています。
 兵力の少なさを理由にしてはいますが、その実、彼らが保有する戦力は未知数です。当初の発表より、さらに増えていてもおかしくありません」
「……それが分かっていながら、よくアライアンスもアークも、派遣に同意したものだ」
「コンコードの資源に頼っているのは、どちらの組織も同じですからね。交易に悪影響を与えたくないが故に、兵力を派遣せざるを得なかったんです。
 それに、両組織にとって、コンコードは中立勢力。戦争が泥沼に陥った時の交渉に打ってつけなんですよ」

 苦笑混じりの声には、微かに疲弊が滲んでいた。

「……終戦条約の締結には、確かにいいだろうな。だが、部隊同士の諍いが火種になる可能性もある」
「そこは厳しい軍規がありますので。コンコードの面前で銃弾を交わせば、心証が悪くなるでしょう? そうなれば、交易にも影響が出ます。
 それを承知の上で、コンコードは我々とアライアンスに派遣を要請したんでしょうね。
 どちらかの組織が裏切り、銃をコンコードに向ける事がないように、互いの組織を牽制させあっている。危ういですが、均衡は保たれています」

 ですが、とラートシカは顔を曇らせる。

「均衡はコンコードが、これからも中立の組織として刃を収めている事を前提としたもの。
 もし、此度のコンコードの動きが何らかの理由で刃を掲げるものであった場合、この均衡は崩れ去り、我々はアライアンスと銃火を交える事となるでしょう」
「火種が広がれば、戦線は拡大するな」
「ええ。そして少数精鋭による奇襲戦法を主とするアークに、それを支えられるだけの兵力はありません。対応するにも、それなりの時間を要するでしょう。
 アライアンスも、膨大な兵力の補給を維持するには、コンコードの協力が必要不可欠です」

 ラートシカの言葉に、MxS7HGSは眼を細めた。
 つまり、どちらに転んでも、コンコードにとって利になるという事だ。それを理解したが故に、MxS7HGSの顔は険しいものとなっていた。

 戦争に力を傾ける両組織に、高値で資源を売りさばく事による利潤は確かに大きい。
 だが、相手の隙を突いて略奪する利益は、短期的に見れば、交易よりも遥かに効率がいいものだ。

 加え、どちらか一方の組織に楯突いたとしても、これまで通り片方の組織には資源を売りさばく事が出来る。
 戦争による地益と、外交による金益。その利益は計り知れないものになるだろう。

 外交手段に一考する必要はあるだろうが、どちらかの組織との関係を断つには十分な魅力がある。
 ラートシカの語った水面下の動きというのも、これに関係したものである可能性は、決して低くない。

 問題は、コンコードがアライアンスに組するつもりなのか、アークに組するつもりなのか、それとも今までどおり中立を保つつもりなのかという事だ。
 彼らの意思一つで、戦局は劇的に変わりかねない。
 いや、変わるのは戦局だけではない。コンコードの、その意思が全てを変えるのだ。

 それ故に、ラートシカはらしくもない焦燥を露にしているのだろう。MxS7HGSはそう結論しつつ、二つ目の煙草を口に咥えた。
 火は付けない。ただ、包装とその内にある乾燥した葉だけを噛み締める。

「で……私は何をしたらいいのかな、ラートシカ」
「とりあえず、私ともう一人のレイヴンと一緒に、派遣部隊としてコンコードに向かってもらいます。アイアン先生には防衛に専心してもらい、彼らの目を引きつけてください。
 先生は、現状における最強のレイヴンですから、コンコードの注目も集められるでしょう。」
「お褒めに預かり真に光栄、だ。若い人に褒められるのは久しぶりだよ」

 煙草を口から離し、灰皿に押し付けた。まだ吸える筈の煙草がぐにゃりと曲り、吸殻へと変わる。
 押し潰しつつ、MxS7HGSはラートシカを見やった。空気を変える為に、軽く咳払いをする。

「依頼を受諾させてもらおうか、ラートシカ」
「ありがとうございます、アイアン先生! これで交友費の方もなんとかなります!」

 ラートシカの言葉に、弛緩しかけた空気が凍りつく。
 MxS7HGSの顔に苦いものが浮かび、それを受けたラートシカが乾いた笑いを浮かべる。MxS7HGSの手がわなわなと震え始める。

「……ラートシカ。もう一度叱責が欲しいようだね?」
「い、いえいえ! 今度は男女関係の類じゃないですよ! だからそう怖い顔はよしてほしいかなーなんて」
「ほう? じゃあ一体何なのかね?」
「愛の為の投資!」

 MxS7HGSの手が強く握り締められ、拳骨となってラートシカの頭へと飛んだ。



 * * *



 宇宙、という概念がある。空の大気を突き破った遥か彼方に広がる無限世界。永遠にも等しい距離と、様々な星が混迷する闇の空間。
 我々が世界だと踏みしめるこの大地も、宇宙という概念から見れば小さな星に過ぎない。その中にあって、小さな星の覇権を争うなど、馬鹿のする事だ。
 そんな馬鹿が蔓延する今の時代に、私は嘆きを抑えられない。

 旧世代の技術を以ってしても全てを知り得なかった世界。広大にして、人の知の及ばぬ遥かな領域。それを知った時、自分と自分の学友は歓喜を覚えたものだ。
 旧世代技術の研究を進めたのも、そもそもは広大な地を求めての事だった。サイレントラインを越え、地上の支配を進めた人類は、新たなステージとして宇宙を求めた。
 サイレントラインにおける紛争は企業間の結託を生み、開拓は人々の平穏に発展という彩りを添えていた。だからこそ、人々は信じていたのだ。

 人類が、宇宙へと上がるその時を。

 だが、宇宙を目指す為のものであった旧世代技術の発掘は、いつしか技術そのものが目的となった。
 技術を吸収し、兵器に生かし、更なる技術を求めて争い合う。そんな時代になるのに、それほど時間は掛からなかった。

 宇宙は遠いものになった。
 それでも、私には学友がいた。共に天文学を学び、無用の長物となった後も研究を進める学友がいた。研究に遅延はあっても、滞る事はなかった。

 だが、研究には金が必要だった。我々の研究が頓挫するのは、至極当然の事だった。
 そうして、我々はレイヴンとなった。金を求めるという、あまりにも俗的な理由によって。

 学術的な見地から磨いた、理論的な戦術構築。ダブルトリガーに適応した操作方法。その全ては、私と学友が考案し、形にしていったものだ。
 私たちは、近代のAC戦術の祖とも言えなくはない。無論、そんな称号は求めていないが、そう称された事もあった。

 そうして、我々はレイヴンとして活躍する傍ら、集めた資金で研究を進めていった。いつか見た夢、宇宙に出るという夢想を現実とする為に。

 だが、学友は私を裏切った。
 彼は宇宙への進出ではなく、現状維持へと思想を変えた。変革の為に行った努力に背を向け、レイヴンとして一時代に埋没するを良しとした

 アストロフィジック。天文の名を冠す愛機で、地を滑るを良しとした。
 我が友は、それを良しとしたのだ。宇宙を忘れ、地上に這い蹲る事こそ人類の道だと。

 私には、そうは思えない。特攻兵器の襲来によって荒廃した大地を見れば、尚のこと理解できない。
 人類は宇宙へ向かうべきだ。荒れ果てた大地ではなく、宇宙という次世代に向けて飛翔するべきだ。

「ドクター。貴方は何を企んでいるのです?」

 投げかけられる声に、私は意識を現実へと戻した。
 視線を円卓の奥に広がる闇に注げば、そこには三つの人影が立っている。紅蓮の髪を持つ青年ヴィールヒ。白髪の老人ウラガーン。黒髪の老女タルナーダ。
 その誰もが、コンコードの統治者として改造され、長らく生きてきた化け物どもだ。

「ふむ。……私が統治者の頂点に立った事が、そんなに不満かね?」
「……コンコードの意思で選ばれた以上、文句は言わんよ。管理者の言葉は、我らにとって絶対だ。
 だが、常人である貴様が何を企もうと、超人である我らが阻む。それだけを伝えに来たのだ」

 白髪の老人、ウラガーンが私を睨みつけながら言う。言葉とは裏腹に、そこに篭められた憎悪は随分と濃い。
 よほど私が頂点に立ったのが不満だと見える。外来のレイヴン風情に従わなければいけない事への怒りを、憎しみへと転換しているのだろう。
 だが、反乱はあり得ない。彼もまた、コンコードの管理者に忠誠を誓う身であるからだ。不老と引き換えに埋め込まれた爆弾は、彼らに忠義を強制する。

「管理者に私は選ばれた。そして、埋め込まれた爆弾も破裂していない。
 ……という事は、だ。これは、私の企みがコンコードの意思に合致するものだと、そうは考えないのかね?」

 その言葉と共に、三人は沈黙する。
 彼らは管理者の崇拝者だ。だからこそコンコードの統治者として選ばれたのだし、そうであるからこそ私の言葉には逆らえない。

「……私の邪魔をしてくれるなよ統治者ども。コンコードに忠誠を誓うならば、秩序ある世界を願うのならば、逆らう事こそ害悪だろう?」

 歯噛みする音を聞きつつ、私は笑みを浮かべた。

 ――――待っていろ、セレスチャル卿よ。もうすぐ、宇宙に手が届くぞ。





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