内藤文夫。
微妙な高さの偏差値の私立高校に通う2年生。
現在17歳。
特技、これといって無し。
不愉快な"能力"を所持。

彼は自分の意志に関係無く、彼に触れた人間の意志を感じ取る事が出来る。
幼い頃に交通事故にあい、3日間の昏睡状態に陥った。
意識を取り戻した彼は、いつのまにかこの能力を身につけていた。
しかし、これは彼にとっての大きな苦痛となる。
彼が人と触れている間、常にその人物の意志・記憶・思念・怨念
ありとあらゆる感情が勝手に内藤の中へと流れ込んでいる。
赤の他人のどうでもいい感情が流れ込んで来ることは厄介だった。
真に恐ろしいのは、家族や友人に触れられる事。

内藤は昏睡状態から回復した時に、両親にしっかりと手を握られた。
その際、彼は両親の記憶の一部を受け取った。
彼は自らの意志に関係無く、また二人の意志に関係無く。
自らが二人の実の子ではないことを知った。
いつかは知る事だったのだろうか。知らずに人生を終えていたのだろうか。
幼い内藤にとって両親と血がつながっていないという事実は、大きな衝撃だった。

何がなんだか解らない内に自らの素性の一変を知ってしまう内藤。
それから彼は何者にも触れようとはせず、また、触れられるのを拒んだ。
只一人。他人を俄に拒絶し始めた内藤を見守る少女が居た。
内藤の幼馴染で柚木葵。
勝気な性格の活発な少女で、内藤に最も近い存在だった。
彼女は、内藤の能力を知りつつも自ら彼に触れた。
内藤にとっても、唯一気兼ねなく接する事の出来る人間だった。

いつからか、両親の事などどうでもよくなっていた。
内藤は高校生になった。
図らずも、葵とは常に同じ学校・クラスという腐れ縁っぷりだ。
内藤は友達を作らなかった。
クラスの仲の良い人が居たとしても、やはり何かの隔てがあるかのように接した。
決して触れる事はしなかった。
しかし、言う程簡単ではない。
あくまでなるべく触れないようにする努力。が内藤に出来る精一杯であった。

高校に入る少し前から、内藤と葵の関係が少し変わって来た。
お互い腐れ縁の幼馴染という関係。
いくらなんでも常に触れ合っている事などない。
普通の人間同士としての生活を送れるただ一人の相手であった。
が、いつの頃からか葵が内藤と距離を置き始めたのだ。
同時に、内藤に少々辛くあたるようにもなってきた。
内藤にはまったく理解出来ない事態。
別に彼女の機嫌を損ねた訳でもなく、恨みを買った覚えも無い。
悩んだ挙げ句、彼のとった行動は「彼女に触れる事」
感情を少々読み取る間、少し手でも肩でも触れれば良かった。

内藤の選択は意外な結果を生んだ。
葵の感情を読み取る事に成功し、自分に対して抱いていたのが好意であると知る。
好意の裏返しの、突然の対応変化。
触れられ、好意を知られた葵は顔を真っ赤にして内藤を睨みつける。
全てを知った内藤に、それはただの照れ隠しとしか写らなかったし、事実そうだった。
この時を境に、二人の関係が少々変化した。
正式に交際しているわけでもない、なんだか所帯じみた雰囲気が二人に漂う事になる。
素直になれない葵と、それを全部理解できてしまう内藤。

「ふーっ…」
白い煙を、吐き出す。
右手に握る煙草から、同じく白い煙が立ち上る。煙草の煙だ。
幸い、バレるような所で吸わないだけの知識もあったし、出所となるのはせいぜい葵だけだ。
しかも、彼が吸うのは決まって廃校の屋上。
街の中心部から少し外れた場所にある。
誰も訪れないような場所。
少し遠くを見やれば壊れた駅と大通りが見える。

あれは一体なんだったのか。
あれから3日経った。
TVや新聞で報道されているものは、どうでもいいようなものばかりだ。
一人の少年が重要参考人として警察に厄介になっている事。
結局、「青色」と「銀色」の正体はまったく解らない事。
なにより、何故この街に突然現れたのかさえ。
ただ、少年の正体だけは解っている。
同じ高校に通う学生。しかも生徒会長。越前裕という少年。
これは、解ってもどうしようもない事だった。

内藤の耳に、物音が飛び込んだ。
高い、断続的に響く。これは、足音?
こんな所に自分以外が来るとは思っても見なかった。
知り合いだとしたらいささか以上にまずい。未成年者の喫煙だ。
「…と、ヤバイヤバイ」
隠れる場所もない開けた屋上では、煙草を急いで靴で踏みつぶし、隠す程度が限界だった。
それにしても、こんな所に一体誰が?何の用で?

開いたままの屋上へ通じる扉から現れたのは、なんと女性だった。
しかも、若い。どう見積もっても20代か、へたすると19とかそんなだ。
そしてなによりも重要なのは、その格好だ。
「…け、警官!?」
婦警だった。
「あらー?私以外にこんなとこ来る奴が居たのか…」
「そりゃ…こっちの台詞」
小さく呟いた。

「たまぁにサボるとここに来るんだわー」
屋上の鉄柵に寄りかかりながら、婦警は軽々しく言った。
「誰も来ないし、今色々と面倒だし…」
「アレ、ですか」
内藤は彼女の隣で胡座をかいて座っている。尻の下に、煙草の吸いがらを隠しているせいだ。
「アレ、なんなんですか。警察でもやっぱり良く解ってない…とか?」
意外な出会いを果たした二人は、お互いがお互いを珍しく思った。
「ははっ、なーんにもさ。と、私にはこう言うしかないんだけどね」
この婦警がどうにも軽い人間で、内藤もなんだか知らず知らずの内にこんな状況だ。
「守秘義務…って奴ですか」
「いんや、本当になーんもわかってないだけさ」
言いながら、彼女は懐を探る。
「ゴジラでも来てくれた方が楽っちゃ楽さね…っと、切れてたか」
残念そうに彼女は空の煙草の箱を懐に戻す。
「ああ…ありますよ」
内藤は、自然に煙草を一本差し出した。

「んむ、ありがとう。見た所吸ってよさそうな年齢じゃあないが、まあいいか」
あんた、警官だろ。
差し出す俺も、俺だけどな。
「どうせなら全部持って行きますか?押収、ってことで」
「何?いらないの?」
はは、と軽く笑う。
「こんなん吸っててもなんにもならない、ってよーく解りましたから」
「あーん、悟ったような口を聞くじゃないか少年。とりあえず、そう言うなら貰う」
内藤は、煙草を全部彼女に手渡した。

実を言うと、出会い頭に彼女に一瞬触れてしまったのだ。
おかげで、彼女がどういう人間なのかの一部分を知り得た。
もの凄いヘビースモーカーであることと、警察の風上にもおけないような人だということ。
だから内藤は、煙草を差し出した。
好きで吸ってるわけでもなかったから、惜しくもなかった。

「あーあ…私もこんな所でサボってる場合じゃないんだよなぁ」
そりゃ、そうだろう。
アレのせいで色々世間は騒がしくなっているのだから、尚更だ。
もう少しここに居ても良かったが、残る理由も無い。
この婦警と一緒に居て、何かを得られるわけでもない。
なにより、お互い一人になりたくて此処に来たわけだ。触れたからこそ解る。
「じゃ、俺は帰ります」
「おう。っと、煙草ありがとさん」
彼女は鉄柵に身を乗せたまま、右手を宙でひらひら舞わせる。
「あー、そこにある荷物。踏まないでくれな、痛がるから」
「は?」
「いや、なんでもない。とにかく踏まないでくれや」

荷物、これか。
小さなバッグだ。色々入っているのだろう…化粧品とか。
痛がる、ってどういうことだ?
荷物がか?ペットでも入れて来たのか?
子犬とか、ここで遊ばせる為にわざわざ?
いや、俺には関係ないことか。
色々な事が浮かんでは消え、結局はどうでもいい事として処理する。
内藤は、屋上をあとにした。

「……お、出て行ったな」
1人屋上に残った婦警は、3本目の煙草に火を点ける。
鉄柵から眼下に先ほどの少年を捉えると、自分のバッグの元へと歩き出す。
「まさかこんな所に人が居るなんてなー…出て来なよ」
もぞもぞと、バッグが蠢く。
子犬でもない、ペットですらない。
出て来たのは、ぬいぐるみ。
「狭かった?悪いね。さぁ、詳しく話を聞かせてもらおうか__」

「__オメガさんとやら」





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