全ては、そこから始まった。
大地を響かせてゆっくりと前進するそれは、次第にその歩く速度を速めた。
早歩きのようなスピードに達した時、それは簡単に宙を飛んだ。
道路の脇に停めてあった乗用車を軽く浮き上がらせる程の衝撃と共に。

__時を遡る事数時間。
放課後、内藤は1人学校の敷地内。グラウンドの端をうろついていた。
別段目的が在る訳ではなく、うろつくのはさして珍しい事でもない。
明日から夏休みが始まる。
今年はいつにもまして暑く、各地で記録的な「何か」が相次いで起こっていた。
内藤は感覚的に、今迄過ごしてきた人生の中で最も暑い夏だと感じていた。

校庭に植えてあった桜はいつもより早く咲いた。
どういうわけか、梅雨前線は未だに襲って来る気配がない。
実に喜ばしい事だった。
ジメジメした梅雨を好む人間等そうそう居ない。勿論、内藤も好まない。

「…にしても暑過ぎる」
Yシャツの襟元に手をかけ、多少乱暴に風を入れる。
が、面倒くさくなってボタンを全部外す。
大きく伸びをし、照りつける太陽を睨みつける。
睨みつけてもどうにもならないので、大人しく目を逸らす。
暑さからくるため息を吐き出しながら、芝生に座り、見るでもなく周りを見やる。
グラウンドでサッカー部がサッカーボールを蹴っている。
野球場で野球部が何かをしている。(内藤は、野球にあまり興味が無い
トラックで陸上部が走ってる。
これぞまさしく。
「平和だな」

にしても、暑い。

様々な部活の活動を眺めるのに飽きた自称帰宅部部長の内藤も、部活動を開始した。
鞄を持つ手もだらしなく、格好そのものもだらしない事この上無い。
暑いんだから、しょうがない。
歩く内藤の姿はまるで負傷者だ。
足を引きずり、手をだらしなく下げ、顔もなんだか青白い。
全ては暑さのせいだ。
帰路につくだけで死にそうになる。
なるべく植木のそばの日陰を通ってトボトボ歩く。

内藤の通う高校はそれなりの都会にあった。
通行量の多い駅前通りとそれを囲う大小様々なビル。
休日になるとただでさえ多い人が更に多くなり、車の数も飛躍的に上がる。
「はーはは…」
ビルの真上に今だ燦々と照りつける太陽を見て、情けない声を出す。
そんな内藤を、通り過ぎる人々は気にもとめない。
だから、また日陰を求めつつ、植木の下を延々歩くのだ。

雑踏、雑踏、また雑踏。
車の通行音、横断歩道のピーポー鳴る奴、足音、足音、足音。
機械的な人々の行列が、なんともつまらない。
ただでさえ暑いのに軍隊みたいな行進の音が非常に耳障りだ。
畜生。いっそ何か事件でも起きないかな。
どっかで何か起きたら野次馬が集まって足音少しは軽くならないかな。
ああ、でもそんな面白い事があったら俺も野次馬しちゃうな。駄目だな。
なんかさ、ほら…ゴジラとか。
こう、あんな風にビルの間からでっかい何かが…

「あれ?」
一瞬、足が止まった。
次いで、目をゴシゴシやる。おかしなものが見えた時によくやるアレだ。
大抵、これをやると見た者が消えてるか、未だにあるかのどちらか。
そして今回は運良くか、悪くか、後者だった。

内藤が見たのはビルの間から出て来た何かだった。
ゴジラとは違う、まったくの機械。ロボット?
電信柱くらいの大きさの青いソレは、ゆっくりと足を挙げ、踏み出した。
二足歩行だ。足らしき部分が二つある。
青い…四角っぽいフォルムだが背中と呼べる部分に大砲のようなものがくっついている。
内藤は慌てて周りを見回した。
これが自分にだけ見えている幻覚なのか、それとも現実なのか。

足音は止まり、車の急ブレーキ音ばかりが駅前通りを支配していた。
道路の真ん中に躍り出た機械は、まっすぐ駅の方面へと向かう。
車から降りて驚きのあまり口をあんぐり広げ見上げていたドライバーの横。
彼の乗っていた車を、機械はあっさり踏みつぶした。

その一歩が、合図だった。

悲鳴、足音、急ブレーキ音。
これこそ、ゴジラとの唯一の共通点。逃げ惑う人々。
「嘘だろ…」
内藤は鞄を手から落とし、数10メートル先にそびえ立つ機械を呆然と眺めていた。
どうしてだか、逃げる気にならなかったのだ。
彼はとある事情で人とあまり触れたくはない。
幼い頃から染み付いた習慣故、彼は人ごみを避ける。
逃げ惑う人々の中に混じる事を、長年の経験と習性が引き止めた。
が、機械はまっすぐこちらへ向かって来る。

つーか、コレは何だ。宇宙人の侵略兵器とか?某国の最新兵器か?
巨大なアシモをあそこが開発したのか?
向かってるのはまっすぐだ、駅へ行くのか?
どうする?
後から後から涌いてでてくるのは、現状に対する疑問だけだった。
急いで周りを見渡す、こちらへ向かって走ってくる人々。
その奥でゆっくりと車を時々踏みつぶしながら進んで来る何か。
自分は、植木の日陰で間抜けにつったっている。

これは、マズイ!

人には、触れたくない。
というか、この流れは駅方面だ。奴の進行方向も駅方面だ。
ふと、側にそびえ立つビルを見た。
人が居る。窓の周り、おそらくカフェとかレストランだろう。
驚きの表情でアレを見つめている客と店員。
「中は…もしかしたら安全か…?」
考えている暇は無い。
直感で内藤は自動ドアへ向かって走り出した。
そして、開いたドアへ飛び込んだと同時に、人とすれ違ったのだ。

「…なっ!おい!」
すれ違う。つまり、中から外へ出た人間。
彼もまた、走っていた。飛び出したのだ。
内藤は彼を止めようと手を伸ばしたが、一瞬躊躇した。
触れては、いけない。
不愉快な習性が彼を止める邪魔をした。
残った内藤は、ただ彼の後ろ姿を馬鹿みたいに眺めているだけだった。
同じ、学生。顔は良く見えなかったが、同じ学校の生徒だ。
彼は、何故外に。外の方が安全だと思ったのだろうか。

「文夫!」
呼ばれた内藤は、びっくりして振り返った。
「…ああ」
「何が、ああ…よ!バッカじゃないの?」
「はぁ…そうだ。今、ここを出て行った奴誰だか解る?」
聴かれた少女は数秒、悩み。口を開いた。
「顔は…あまり見えてない…いきなり出て行ったから私もびっくりしてたし」
「そうか」
答えて、内藤はエレベーターへと歩いて行った。
後から、少女も付いて来た。
彼女は、内藤が自ら触れるただ一人の人物。

窓の外を眺める。
今、まさに目の前を通りすぎていく巨大な機械はまっすぐ進んでいく。
内藤は、冷静だった。
自分が自分であるからこそ、自分が少々特殊な人間であるからこそ、冷静だった。
自分がこうだから、きっと世界のどこかにこんなのがあるんじゃないか。
漠然とした何かを、ずっと心の隅に抱えていた。
この機械が自分に何か関係があるのか考えていた。
だけど、機械は自分を通り過ぎ、駅へと向かって行く。
よく解らない。
まるで、自分は映画の観客だ。

「何なのかな…アレ」
「俺に聞かれてもなぁ、今んとこ害は…車を数台踏みつぶしてるくらいか」
無惨にも潰された車が、いくつか転がっている。
道ばたで見かける踏みつぶされたガムみたいだ。色も様々。
「どうしよう…」
少女の顔は青ざめていた。彼女の家は駅の向こう側にあるのだ。
このままアレが駅を越えて行くと、彼女の家の方向に進む事になる。
今のところ律儀に道路の上を直進しているが、急に進路を変えないとも言い切れない。
訳の分からないものに自分の家を潰されるなんてまっぴらごめんだ。俺だってそう思う。
だけど、何もできやしない。
こうして見てるだけの存在なんだ。それが、観客だ。

とりあえず、表面上だけでも
「なんとか、なんとか…うーん…」
どうにもできない。俺の言葉に意味は無いのだ。
不意に、少女の右手が内藤の左手を掴んだ。
普段なら全力を持って回避するが、彼女にだけはしない。
一度触れてしまうと、何度触れても同じだ。
「あ!」
彼女が、何かを指差した。
少年、先ほどすれ違った少年が居た。
目で追うも、曲がり角で姿を見失った。
「思い出した、確か…せい…え?」
「なんだ…?」

一瞬の出来事だった。
少年が曲がり角を曲がった。
数秒後、そこからまたしても巨大な機械が躍り出て来た。
しかも今度は人の形をしている。
足が二つ、手も二つ、頭らしき部分もある…が巨大な筒状の何かを握っている。
銃…銃か?
対峙する青色の機械より一回り大きい、色は楠んだ銀色。

呆気にとられている内に事態は進展した。
青色の機械の方が前進をやめ、背負った大砲らしきものから弾丸を発射したのだ。
轟音と共に肉眼で確認できる大きさのモノが目の前を通り過ぎた。一瞬だ。
だが、銀色の奴はそれを躱したのだ。
一瞬、ブレるように横へ移動。瞬間移動かと疑うスピード。

「す…」
すげぇ、と言いたかった。単純に驚嘆の声をあげようとした。
しかし、良く考えるとこれはまずい。
弾丸を躱したのだ。当たり前に弾丸はそのまま突き進む。
予想通り。遥か遠く、駅に着弾した。
駅方面へと逃げていった人達がそれを合図にバラバラに散って各々逃げた。
同じくして、隣に立つ彼女の身体が一瞬ビクリと震えた。
多分、俺もだ。
そして、今この周りにいる人達からもどよめきの声が。

ドン。そんな音が聞こえた。また、発射の音だ。
青いのがまた大砲をぶっ放した。
今度は銀色のが避けようとしない、そのまま着弾したがピンピンしていた。
どうやらそこらの建造物よりはよっぽど頑丈らしい。
いや、大砲の直撃を受けて平気なのだから…結局良く解らない。
両者の距離は100mと離れていない。
だからってそんな頑丈な…
どうにもならない事を考えているうちに、銀色のが動いた。

一歩。また、一歩。
「銀色」はゆっくりと歩いた。
次第にその速度をあげ、早歩きのようになっていく。
そして、跳んだ。
周りにあった「青色」に潰されていない車をついでに吹き飛ばした。
背中から炎が吹き出してる。まるでロケットを背負っているようだ。
一気に加速した「銀色」は右手に構えた銃をまっすぐ突きつけ、「青色」に迫る。
瞬く間に縮まった両者の距離。
「青色」は大して動くこともできず、銃の先端を突きつけられ爆破した。
接射したのだろう、と俺は予想したが。いまいち良く解らない。
もう、全てのことが良く解らない。理解出来る範疇を越えた出来事だった。
だから、どうやって家に帰ったのか覚えて無い。
ここ、どこだ。俺の住んでた街じゃ、無いのか。

突如街中に現れた2体のロボットは、片方が片方を壊すという奇妙な結果に終わった。
数分して駆けつけた警官達がみたのは結果だけ。
そびえ立つ「銀色」と、粉々になった「青色」の破片。潰れた車、半壊した駅。
暫くして、一人の少年が突如現れ「銀色」の元へ走った。
あまりに突然だったため、近くに居た警官は彼を取り押さえる事が出来なかった。
後ろからの静止の声を振り切った少年は「銀色」の足に触れる。
またも不可思議な事が起きた。
一瞬に「銀色」の姿は消え、残ったのは少年だけ。
少年はその手のうちに、ぬいぐるみのような「生物」を抱えていた。

少年は越前裕と名乗り、警官達に自分が「銀色」と関係があると語った。
そして当の「銀色」である、と彼が差し出したぬいぐるみのようなソレは
自らを「ジャック・O」と名乗る。





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