キサラギ反対派前線基地、現地警戒室。
未だ攻撃対象の『母』に対して、詳しい情報を持たないレイヴン達。
そんな彼等がこの醜い『母』の姿と本性を知った時、どんな顔をするのだろう……?
そんな無意味な事を考えながら、彼等に説明する為の準備を進めていく。

「会長ッ!」

ドタドタと隣の管制室から、白衣の研究者が一人血相を変えて飛び込んできた。
喜びと焦りが入り交じったような表情で、一瞬躊躇った後、彼は言葉を続けた。

「目標が施設機能を掌握したようで、それで、その……砲撃です! 偵察機が撃墜されたんですよぉ!」

彼の言葉に、ウィルソンだけでなく、周りの人間全てが凍りついた。
動揺と焦燥が、まるで伝染病のように広がっていく。
予測は出来ていた事でも、最悪の事態は往々にして悪い冗談のようにすら聞こえる。

二十四時間体制で常に監視していた無人偵察機からの映像が、先程ぷっつりと切れてしまった。
最後の記録映像からは、確かに砲撃らしき閃光が空港だった場所から放たれている。

「……通信中継装置の埋め込み作業は済んでいるな?」
「そっちは大丈夫です。40分前に完了しました」
殲滅作戦を実行する為には、現場と司令部の密接な連携は必要不可欠だ。
その為にまず、空港周辺の地中深くに通信用の端末を設置。
空中からや接近しての指揮は、敵の性質上危険過ぎる。今回の砲撃騒ぎで、それがますます明るみになった。
その為、遠い司令部からの指示が届くようにする必要があった。

(くそ……まだ始まってすらいないのに、早くもバッドニュースを伝えねばならんとは)

「……そろそろ行きましょうか」
約束の半時間が経ち、レミントンは皆に移動に促す。
ちょっとした世間話に花を咲かせていたヘクトと三銃士は、
まるで教室に連れて行かれる学生のように、べらべらとお喋りをしながら移動していった。

忙しく駆け回る白衣の研究員達を尻目に、レイヴン達は部屋の奥へと向かう。
駆け回る研究員達の中心となって指揮を取っていたウィルソンは、彼等の集合を確認すると
近くの研究員に指揮を任せてレイヴン達の下へと急いでやってきた。

「すまんな。少々トラブルが起きた」
「何があったんです?」
ウィルソンのトラブルという言葉に、険しい表情ですぐさまレミントンは尋ねた。
「砲撃だ。奴の侵食速度は予想以上らしい……少々急ぐ必要が有りそうだ」

二人の会話から完全に取り残された七人。
一応、ジョーとスウィフトは目標の姿を見た事があるものの、その本質については全く聞かされていない。
全てはこれから、ウィルソンの口から聞かされるのだ。

「ああ、悪いな。全てこれから話そう。まずはこれを見て欲しい」
自体を飲み込めていない様子の七人を視線に気付き、ウィルソンは解説を始める。
まず最初に彼等の排除するべき敵のありのままの姿を、頭上に設置されたスクリーンに映し出した。

「うおっ!」
「こいつぁ……」
「ううっ!」
初めて目にした三銃士、プロジェクター、ヘクトは三者三様の反応を見せる。
そのあまりにも醜い姿に、ヘクトは腰のポケットにしまい込んでいたビニール袋を取り出し、部屋の隅へと駆けて行った。

その後やや間をおいて、あげぇぇぇぇ……と不快な嘔吐の音が部屋に響く。
ひとしきり吐き終わると、駆け寄ったレミントンと共に洗面所へと向かった。

(無理もない……あれだけ弱ってたんだ。いくらなんでもこんなモノ見せられちゃ、な)
彼女の突然の嘔吐により、『母』の解説はのっけから中断を余儀無くされた。
頭上の巨大スクリーンには、真っ白い大蛇……それも鱗や模様などが全く無い、純白の大蛇が映っている。
紙粘土を長く引き伸ばしたような体の先端に、真っ赤なルージュを引いたような口があるだけの、異形の生物が。

生物の範疇から、明らかに外れているとしか言いようがない。
周りの物質全てを自らの体に取り込み、そこからウイルスのように己の細胞を侵食させ、
時折、ジュル、ジュルと怪音を響かせながら静かに蠢いている。

2、3分程経つと、ヘクトを連れたレミントンが帰って来た。
出す物は全て出したのだろう。ヘクトの表情は、やや明るさを取り戻していた。
彼女の側から離れたレミントンは、ウィルソンの隣へと向かう。彼も解説に加わるのだ。

「……さて、今君たちが見上げているこの白い蛇のようなモノが、君達に排除してもらいたい『目標』だ。
 我々、キサラギ社の者は『母』、つまりマザーと呼称している」
『母』という呼称には、もちろんそれ相応の意味がある。

「プロジェクターさん、貴方ならマザーの周りで蠢くモノが何であるか、分かると思いますよ」
レミントンからの突然の名指しを受け、プロジェクターに視線が集中する。
周りで、蠢くモノ……その言葉を頼りに、あまり注視したくは無い頭上の映像を注意深く見つめる。
時折、白い巨体、いや巨木のように根を張っている身体の上半身から、何かが落ちて行く。
まるで果実のなる木のように、上半身から何かが生えては落ちる。
落下した小さな塊は、ひとりでに動く粘土のように蠢き、その姿を変貌させて行った。

「う、こりゃあ……『B998a』C型、『B1037f』C型、それに、『スカウタ・フリー』まで……
 って事は……いた、『AMIDA』だ! なんじゃこりゃ!? 生体兵器のデパートじゃねえか!」
『母』の周辺には、台風一過の林檎の木のように、似たような塊が大量に蠢いている。
蜘蛛の形をしたモノから、何かの卵のようなモノ、ギエンクレーターで交戦した蟻……
そして、ベイロードシティでの断水騒ぎ以来、キサラギ社が大量に生産を行なっている現行の生体兵器、『AMIDA』

「流石に良く知っているな。ならば話は早い。我が社の生体兵器技術の集大成と言ったろう?
 ……見ての通りだ。そのデータを元に、やたらめったら複製を繰り返している。
 そして、こいつはとある施設に寄生している状態だ。君達が知っている通り、バルガス空港にな」
バルガス空港での特殊輸送機を巡る作戦……ヘクト達にとっては耳の痛いあの作戦だ。
あの時の輸送機に積まれていたのは、マザーそのものだった。
投下されたマザーは、そのまま空港の地下深くへと潜り、静かに目覚めの時を待つ事になる。

そして今、マザーは目覚め、人類には見当もつかない『何か』をしようと動き出した。
人の手におえない存在へと変貌してしまう前に、息の根を止めなければならないのだ。

「……なるほど。敵さんがどえらいモンだというのは、よ~くわかりました。
 で、具体的な攻略方法はあるんでしょ? 早い所教えて下さいよ」
早い話が、難しい事はわからんので仕事の内容だけ教えてくれ、とラッシュがうんざりした表情で言う。
敵の生態等に興味は無いのだ。ラッシュだけでなく、他のレイヴン達も基本的には同意見だった。

「了解だ。本題に入ろう……まずはこれを見て欲しい」
ウィルソンはそう言って、頭上のスクリーンの映像を切り替える。
作戦領域である元バルガス空港周辺の映像、そして施設一帯の断面図へと。

「……簡単に言おう。マザーを殺すには、生命核を消滅させるしかない。
 たとえ空港一帯を火の海にしたとしても、奴は再生する。つまり、元を断たねばならんのだ」
手元の端末を操作しつつ、言葉を続ける。

「我々が調査した結果、奴の生命核は施設の動力炉にある可能性が最も高いという結果が出た。それが、この場所だ」
スクリーンに映った断面図に、赤い光点が表れる。
その光点は、地下深くの施設最深部を指し示していた。

「さぁ、ここからが本番だ。どうやって、こんな地下深くの物を叩くか……?」
もったいぶるウィルソンに、半ばキレ気味のスウィフトが思い切り睨みつける。
もちろん、「さっさと言え」というメッセージだ。

「……無論、単純に突っ込んでいけば、マザーを防衛する子機からの攻撃に晒される事になる。
 それではあまりにも無謀だ。しかし、奴を仕留めるには……こいつを直接ぶち込むしかない」
そう言って彼が懐から取り出したのは、小さなカプセル。
これには、マザーの細胞データから作成したウイルスが詰まっている。
ウイルス……簡単に言うと「毒」、病原菌だ。
これをそのまま大型化した弾頭をACのインサイドに積み込み、直接打ち込む。

――それが、マザーを討つ唯一の武器だとウィルソンは言うのだ。
しかし、どうやってマザーの生命核のある最深部まで行くのか?
子機からの攻撃に晒される、と彼は言ったのに。

――なら、どうやって……? レイヴン達共通の疑問に、彼は言葉を続ける。

「二段、いや三段構えの作戦だ。二つに分けた陽動部隊と、君達攻撃部隊の三つで作戦は行なわれる」
口を動かしながらも、端末を操作する手を休める事無くウィルソンは続ける。

「まず、陽動の第一波として、これを施設周辺へとばら撒く」
そう言って、スクリーンに表示したモノを見上げる。
スクリーンに映った甲虫のような姿をしたモノに、先程と同じ様にプロジェクターが反応した。

「『B7723』! 確かに、こいつなら囮になるかもしれんが……」
――「B7723」C型。キサラギ社が管理者の手によって管理されていた時代に作り出した耐性生物。
耐性と呼ばれるだけあって、驚異的な生命力と耐久力を併せ持つ生体兵器の一種だったが、
酸に対しては非常に脆弱であるという、致命的な欠点を持つ『失敗作』だった。

「心配無い。こいつは『改良種』さ。完全な耐性を持たせ、かつ囮としての機能を高めた品種改良品だ。
 酸への耐性は勿論、マザーの生み出す生体兵器に対しての『撒き餌』としての機能も備えている」
「分かり易く言うと、フェロモンのようなものです。
 それを、この耐性生物から分泌・放出させ、その他の生体兵器を引きつけるという事ですね」
驚異的な生命力と耐久力を兼ね備え、その上囮としての能力を持った耐性生物。それが陽動の第一陣となる。
そして、『盾』にしかならない耐性生物の攻撃力をカバーする為の第二陣として送り込まれるのは……
「その後、我が社のルシャナ隊が突入。敵が囮にお熱の間に、少しでも数を減らすのだ」
「RUSYANAの機動性は信頼出来ます。我々は安心して飛び込む事が出来るでしょうね」

ガレージに大量に配備されていたAC、ルシャナの存在意義が、その瞬間に確定した。
人脚型でありながらフロートに近い機動力を持つルシャナならば、陽動作戦には的確だろう。

……しかし、肝心なのはここからだ。いかにして地中深くの最深部まで移動するのか?
まともにやっていては、陽動部隊がもたないだろう。目標を倒す事が出来ても、帰る事が出来なければ意味が無いのだ。

「そして最後の第三陣ッ! 君達とACを『コイツ』に積み込み、目標地点にブチ込むッ!」
急上昇したテンションと共に、スクリーンに巨大な『黒い塊』が映る。
長方形の箱に、二本の杭が先端を突き出して並んでいるという、奇怪な機械。

「――ッ!! ってこりゃ『NIOH』じゃねぇか! 何考えてんだオメェは!?」
その見覚えのあるシルエットに、思わず吹き出してしまうプロジェクター。
キサラギが技術を独占している実ブレード、通称パイルバンカーと呼ばれるAC用の武装パーツだ。

「ほぉ~っ、なかなかいい目をしているな。その通り! これは『仁王』を模して作られている。
 『飛天』の事といい、君は良いお得意さんとしてやっていけそうじゃないか」
「ビジネスの話は後にして下さい。……これは姿形こそ仁王ですが、サイズは全く異なります。
 現行のACが約10機、大型機を詰め込んでも8機は収納可能なスペースがあります。
 もちろん、巨大な削岩機としての機能もしっかり備えていますよ」
……またスペックの話へとずれていく。解説好きは他人に知識を披露しないと気がすまないのだろうか?
そんな彼等に、再度スウィフトのメンチが切られ、脱線した解説を修正させる。
一呼吸置いて、ウィルソンの口がまた激しく動き出した。

「この『大魔神』に君達を載せ、この基地のカタパルトから射出するのさ。
 そのまま空港施設ごと地形をブチ抜いて、目標のいる最深部動力炉にゴール・インって訳だ」

「待てよッ! 言いたい事はべらぼうに有るが、いくら二段構えの陽動をかけるからってそりゃ無茶過ぎるぜ!」
「対空攻撃で落ちないって保証は無いんだろ?」
実際に乗る側にとっては、あまりにも理不尽な作戦に非難の嵐が殺到する。
だが、ウィルソンは表情一つ変えずに、待ってましたと言わんばかりに語り始めた。

「心配ご無用! この『大魔神』を構成している物質は、全て耐性生物の甲殻を流用した物だ。
 並みの強度じゃないぞ。ちょっとやそっとじゃ、落ちやしない。安心したまえ」
胸を張って高らかと宣言するウィルソン。どうやら精神は既にややあっちへ逝っているようだ。

「おっさん、それって信用できんのかよ?」
耐性生物に対しては全くの無知である三銃士は、その判断をプロジェクターに委ねるしか無かった。

「……まぁ、今の状況じゃこれ以上無い位の条件だろうな。保証なんざどこにも無いが……」

――保証なんて、無い。
結局、生き死にの狭間で飯を食っているレイヴンには、縁の無い物なのだろう。
常に死と隣り合わせであるという事に、変わりは無いのだから。


「こっちのキサラギも空気読めないのね……」
「可愛い隊長さん、何か言ったかね?」





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