Gと呼ばれていた事が遠い時代のように思えると、その男は思った。
 年齢は初老に掛かり、一線を張っていた頃の屈強な肉体は、見る影もなく弛んでいる。腰も曲がりはじめているし、ここのところ視力も落ちてきたようだ。


 尤も、全盛期とて彼は有力なレイヴンだったわけではない。
 上位層には歯が立たないものの、下位層には入らないという、中途半端な中堅レイヴン。それが、Gと呼ばれていたころの、彼のレイヴンとしての位置だった。


 それでも、レイヴンとして手にした報酬は破格のものだった。
 彼はそれを元手に、小規模ながらも作業MTを三台持つ会社――企業とは呼べないレベルだが――を設立し、安価な賃金で様々な作業を承っていた。
 今ではレイヴンとして過ごした時間よりも、作業用MTの硬椅子に座っていた時間の方が長い。
 
 聞けば、烏大老は未だに前線を張っているらしい。
 若き頃はトップランカーに迫る実力を持っていた彼は、今も軽量機体を駆り、有力レイヴンとして活躍しているそうだ。
 最近はナービス領でも活躍し、老いを経験で補って着々と順位を上げつつあるらしい。
 若い頃の大暴れ振りは見る影もないが、烏大老という仰々しい名前には相応しい活躍ぶりだ。


 もっとも、それに関心を持っても、老人はレイヴンに戻ろうとは思わなかった。
 そも、ランカーの中ではさほどの実力があったわけではなかった。加えて老いたこの身体では、まともに戦う事すら叶うまい。


 一応、昔組み上げたACは今もガレージにあるが、そろそろ売ってしまおうかとも思っている。
 乗り手がいないのならば、如何に優れた兵器であっても無用の長物だ。
 並のMTに比べれば、優れた機体ではあるが、所詮は旧式。ナービス領の下位レイヴンのそれにすら劣るだろう。


 実際、資金に困った時はパーツを売ってやりくりもしていた。
 今ではライフルとロケット、それにブレードにレーダーと基本パーツしか残っていない。
 かつての高火力短期決戦など臨むべくもなく、これでは今更レイヴンにカムバックしたところで、若者に討たれるのが関の山だ。


 そう理解しつつも、レイヴンの事を意識せざるを得ないのは、男に未練があるからではない。
 ナービス領、ナービスとミラージュ、そしてクレストが争いあい、キサラギやOAEが虎視眈々と権威を狙う煉獄の如き鉄火場。
 そこが老人にとっての仕事場であり、またレイヴンの活躍場所でもあるからだ。


 企業の命を受けたレイヴンが大暴れすれば、それだけ建築物の破壊や、道を埋める瓦礫も増える。それの修繕や撤去が、今の彼の主だった仕事だった。


「よいしょ、と」


 作業用MTを操縦する姿は、かつてレイヴンだった男のものとは到底思えない。戦場の風、硝煙の匂い。そういうものにはあまりに似つかわしくない。
 もともと、戦場に向いていなかったのだろう。今の仕事は、まさに彼にとっての天職と言えた。


 安物のラジオから聞こえるノイズはいつもの事だ。ACを売り払ってもうちょっと性能のいいものを購入しようと思う。
 幸い、今回の仕事でパーツショップとの渡りも着けられそうだ。あとは丸ごと売り払えば、かなりの額になってくれるだろう。


 そんな未来を脳裏に描き、男は笑みを浮かべる。そうなれば、戦場で瓦礫の撤去など行わなくても、余生を過ごせるだけの資金は手に入るだろう。
 そうなれば、この会社を社員に任せて引退するのも悪くない。


 ――そう考えていた矢先の事だった。空の色が変わったのは。


 最初は朝焼けだと考えた。だが、それにしては早すぎる。まだ空は深夜の曇天だ。にも拘わらず、空に混じる赤色は何事か。
 点々だったそれは次第に群れとなり、視認が確認できる距離にまで近づいてくる。ミサイルともMTともつかぬ奇怪な機械。
 それは、それこそが己の天命なのだと言うように、老人率いる三体のMTへと突っ込んできた。


 悲鳴が挙がった。自分のものだった。
 絶叫が挙がった。社員の、断末魔の悲鳴だった。


 MTの腕と足がもがれ、胴体だけになったMTが爆風で吹き飛ばされた。戦闘機もかくやというGが掛かり、男の身体を安物の硬椅子へと押し付ける。
 ぐるぐると回転する視界に混乱し、男は必死にMTを操縦しようとするが、手足を失ったそれが動く筈もない。


 地面に叩きつけられ、男は胃袋のものを逆流させる。三半規管がぐらつくような錯覚と、白む視界に男は呻く。
 一体何が起きているのか。この時ほど、男がラジオの購入を控え、安物を使っていた事を後悔した日はなかった。


 再び男のMTに迫る突撃兵器。それが、キサラギによって目覚めさせられた古代兵器なのだとは知る由もない。
 そして、手足を失ったMTにそれを避けられる道理もまた、ない。


 こんな訳も分からず死ぬのか――? 男の脳裏に、不条理への怒りと、逃れられぬ死への諦観が浮かぶ。
 すでに目前に迫った兵器。それへの恐怖に思わず目蓋を瞑り。


 ――瞬間、放たれた青い閃光に目蓋を焼かれた。


「な――――?」

 救助部隊か何かか? そう考え、男は背後を見やる。
 そこには、タンク型の足にブレード型の武器腕、そしてプラズマキャノンを装備した、ACと思しき機体があった。
 茶色というよりは赤に近い色合いで塗り固められたそれは、さながら機械のような正確さで突撃兵器を打ち落としていく。
 タンク特有の劣悪な機動性も、その卓越した射撃能力の前ではハンデにもならない。


「レイヴン、か……?」


 だが、こんな機体に乗っているレイヴンなど聞いた事がない。
 一説にはジノーヴィーにも勝ると言われるアイアンL-OWもタンクACの使い手だった筈だが、それもこんな機体ではなかった筈だ。


 いや、そもそもその機体のパーツは、ACの基準に当て嵌まっていない。古いとはいえレイヴンであったからこそ、男はそれを悟る事が出来た。


 タンク型の機体は、さながら男の乗るMTを守るかのように、突撃兵器の矢面に立った。
 そして、雨あられと降り注ぐそれらに対して、プラズマキャノンと両手のブレードで迎撃する。
 月光のそれを思わせる青白い輝きが、血を思わせる赤を薙ぎ払う姿は、男が命の危険を忘れ魅了される程、流麗な姿だった。


『ハヤク、逃ゲテ……』


 空耳かと疑う程にか細い、機械めいた女性の声。それが、自身のラジオから流れてきたのだと男が気付くのには、少々の時間が掛かった。
 そして、その機体からの通信だと気付き、そしてその機体が自分を守ってくれているのだと確信するのには、さらに時間が掛かった。


 指示に従い、もはや意味を為さないMTを下りる。
 生身で突撃兵器の雨の中を進むなど自殺行為だが、それでもこの機体に守られている限り、自分は安全だという確信が男にはあった。


 生体反応すらも感知するのか、MTを下りた男に対し、突撃兵器が特攻する。
 その凶刃を、タンク型の機体は悉く阻み、男を守りながら後退した。
 機体の乗り手は、男の持つ安物のラジオを使って男を巧みに誘導し、ついに彼を特攻兵器の届かぬ安全区域――後にサークシティと呼ばれる場所の地下へと案内した。



 サークシティの地下には、古代文明によって築き上げられた都市が存在する。それを知る者は極々僅か、あるいは知る者すらもいないのかもしれないが、確かに存在する。
 男は、その存在を知った数少ない人間の一人となった。

『ファウスト、ココガ私ト数多クノ私ノ住ム場所、インターネサインデス』

 ラジオから声が聞こえ、男はタンク型の機体の、顔と思しき場所から向けられるカメラアイに視線を向け、頷いて見せた。
 その表情には、古代文明への純粋な驚きと、感動があった。


 道中、タンク型の機体は男に様々な事を語ってくれた。
 ――自分がかつて人間によって作られた自動成長型自立兵器『パルヴァライザー』である事。
 ――自身のAIは人間のそれと変わらぬ思考体系を持っている事。
 ――しかし、彼らは口を封じられ、同胞との会話すら困難なのだと言う事。
 ――男のラジオが中古の安物だったからこそ、意思を電波に乗せて受信させる事が出来たという事。
 ――自分が人間と戦いたくなどないという事。
 ――インターネサインの命令には逆らえない事。
 ――自立兵器の一部が、人間の手によって目覚めさせられ、暴走を始めている事を。

 パルヴァライザーは男をファウストと呼んだ。初めて会話に成功した人間だから、ファウストらしい。
 どうにも、パルヴァライザーは相手の言葉を聞き取る“耳”の機能を持っていないらしい。
 故に、男はパルヴァライザーの言葉を聞き、頷きや手振り、表情などでコミュニケーションをとった。
 恐るべきは、それだけで意思を汲み取るパルヴァライザーのAIだろう。


 相手の名前を知らず、また知る事も出来ないパルヴァライザーは、道中、男の事をファウストと呼び続けた。
 男も、パルヴァライザーの名乗った複雑怪奇な型式番号など覚えていられず、パルヴァライザーと読んでいたから、その点は似たようなものかもしれない。


「パルヴァライザー、大したもんだよ、ここは。こんなものは見た事がない」


 無意識に言葉が口をつき、同時にパルヴァライザーが耳を持たない事を思い出す。
 それでも、身振り手振りや表情から意思を汲み取ったのか、パルヴァライザーは『喜ンデモラエテ大変嬉シイ』と、機械でありながら喜色の滲む声色で応えた。


 実際、そこは男にとって未知の空間だった。
 大破壊によって失われた技術の宝庫とも言えたそれは、機械に関しての知識が豊富な男の興味を激しく刺激し、さながら子供が新しい玩具を手に入れた時のようにはしゃがせた。
 無論、危険な装置を弄くるような真似はしないし、パルヴァライザーにも止められた。しかし、見るだけでも十分な威容が、そこにはあった。


 特に中央にある建造物だ。多くの人間が住んでいたのか。今も駆動する設備は男を驚かせた。
 スポーツジムで汗を流し、プールで泳ぎ、旧式ACの情報が保存されたアーカイブを覗いて、かつての戦史を学んだりもした。


 だが、始まりには終わりがあるように、その平穏もいつかは潰える。


 ジャック・O。生き残ったレイヴンズアークの支配者。それがインターネサインを発見したのだ。
 彼がこちらを利用する気なのかどうかを計る為、男は偶然この街を発見し隠れていた元レイヴンの技術者を装い、彼の思惑を聞いた。


 彼も、この時は言葉の重大さに気付いていなかったのだろう。
 後にそれを悟ったジャック・Oは、彼を実力に不相応な戦場に立て続けに送り込み、ほとんど差異的に戦死させた。
 それほどまでに、その一言は彼にとって不用意な発言だった。


「このような場所は人間を再び滅亡させるだけだ。破壊しなければならない」


 その言葉は、ジャック・Oにとっても、パルヴァライザーにとっても、そして男にとっても不幸な運命に巻き込む言葉だった。





 タンク型以外のパルヴァライザーは、この発言を知って、人類滅亡の意思を固めた。
 自立兵器の暴走もその気になれば止められたが、人類がこちらを滅ぼす気ならば止めない方がよい。
 これは最早生存競争だ。勝手に目覚めさせられ、そしてまた勝手で滅ぼされるなどとても容認できないと、パルヴァライザーたちは息巻いた。


 それでも、ファウストが殺されなかったのは、彼が自らの同胞だと判断していた事もあったし、何よりタンク型パルヴァライザーの進言もあった。
 彼は数少ない穏健派であり、ファウストと意思疎通が行えたように、人類との和解も可能だと考えていた。
 無論、安物ラジオの発言では証明力に欠けるが、パルヴァライザーの成長機構を利用すれば、通信に特化したパルヴァライザーが製造される希望がある。
 その時を待つべきだと、タンク型パルヴァライザーは口にした。


 だが、単独の意思など封殺される。
 パルヴァライザーの過激派は、ジャック・Oの結成したバーテックスに対し、これこそ我らを滅ぼす策だと断定し、人類に対して攻撃を開始した。


 しかし、パルヴァライザー達は各地で敗北を重ねる。
 ライウン、烏大老、Ω、ンジャムジ。バーテックスの中でも腕利きのレイヴン達にとって、パルヴァライザーは全くは敵わなかったのだ。
 ある者はライウンのキャノン砲によって蒸発し、あるものは烏大老によって蜂の巣にされた。
 ンジャムジに叩き潰された者もいれば、Ωによって形も残さぬ程に破壊された者もいた。


 有数の腕利きであったタンクパルヴァライザーであれば勝利も可能だったかもしれないが、彼女は決して戦おうとはせず、ジリ貧が続いた。


 成長を待つにしても、このままではレイヴンの力を勝る前に滅亡する。
 さらには、ジャック・O率いるバーテックスが自らの本拠の真上に陣取っているのである。
 パルヴァライザーの危機感は次第に募り、さらに攻撃を苛烈なものへと変えていった。


 このままでは、人類が滅ぶか、パルヴァライザーが滅ぶかの二択しかなくなる。
 そう考えた男は、タンク型パルヴァライザーの考える、理想論とも言える和平案に手を貸す事を決めた。
 レイヴンに復帰し、バーテックスに組する。そして、タンク型パルヴァライザーと共に動き、パルヴァライザーに対する認識を改めてもらう。


 これは危険な賭けだった。アライアンスが勝利すれば、バーテックスの秘密兵器として接収されるか破壊されるかの運命しかない。
 バーテックスが勝利しても、ジャック・Oが認識を改めない限り、滅亡は目に見えている。


 それでも、男とタンク型パルヴァライザーは千載一遇の機会に賭けた。
 男はレイヴンとして復帰すると共に、一時的にパルヴァライザー全体に対して剣を収めてもらえるように交渉した。
 言葉の通じぬ相手に身振り手振りで伝えるのは困難を極めたが、パルヴァライザー達も最終的には合意し、男の計略に応じて攻撃の手を緩める事に同意した。


 だが、パルヴァライザー達はこうも釘を刺した。
 男の策が成功しなければ、今度こそ全力で人類を滅ぼす事。
 そして、男とタンク型パルヴァライザーの戦闘データを提供してもらい、いざという時の抑止力とする事を。


 こうして、バーテックスに一人の老兵が参加した。
 G・ファウスト。AC・パンツァーメサイア。
 己がかつて名乗った名前と、パルヴァライザーに名付けられた名前を繋げた名を得た老兵は、『機械の救世主』の名を冠したACを駆り、バーテックスの所属レイヴンとなった。





 やはりACよりもMTの方がいい。そう思いながら、男――G・ファウストはACを走らせた。
 今回の任務は、施設に侵入したACの排除だ。聞けば、ここ何時間でかなりの活躍をしている腕利きらしい。
 何人かのレイヴンも、奴に首を取られ、懐を暖める賞金となった。


 それを差し置いても、彼は危険な存在だった。恐ろしい事に、彼はジャック・Oに目を掛けられているらしい。
 だが、それにしては依頼主を選ばなさ過ぎる。
 つまり、それはドミナント候補――パルヴァライザー破壊の切り札と考えている、戦闘好適者であるという事だ。生かしておくわけにはいかない。


 だが、それでも狭い室内では動きは鈍くなるだろう。
 加え、室内戦を想定し、ロケットとブレードを装備した機動ACならば、傷ついたACを破壊する事も不可能ではない筈だ。
 これがジャック・Oによる自分の排除作戦の一環である事は理解しているが、逆に言えば倒せばかなりの躍進にもなるという事でもある。


 自分が、実力に相応しくない戦功を挙げ、バーテックスから興味の視線を向けられている事は知っている。
 ここで、それを確実なものとしなければならない。パルヴァライザーが人間との共存が可能である事を示す足場を固めるには、絶好の機会だ。


 命の危険も、また大きいが、後詰としてタンク型パルヴァライザーが来ている。彼女が来るのならば、勝利は確実だ。


「……暗いな、暗視モード」


 キーボードを弾き、頭部に兼ね備えられた暗視モードを起動する。とっくに施設はやられているらしい。
 予想以上に足が早いと、G・ファウストはまだ見ぬ敵に肝を冷やす。本当に倒せるのかと、不安が鎌首をもたげ始める。


「……今更何を。私はレイヴンだ。死ぬ覚悟は出来ている」


 嫌な予感を振り払うように、G・ファウストは自分に言い聞かせた。暗い施設内を進み、そこそこに広い機動戦が行えそうな場所で待機する。
 これで、後はパルヴァライザーが来てくれれば、彼女が来てくれれば磐石だ。


 安心したのも束の間、熱源反応の探知をパンツァーメサイアが告げた。早すぎる。これは本当にドミナント、戦闘好適者なのか。
 彼女がいない今、ここで無理をせずに後退するべきか?


「いや……やれる筈だ。敵は弱っている筈」


 AC用のライフルを構え、扉越しに照準を合わせる。FCSのサイトが敵のロックを示す赤色に染まった。
 扉を開けた瞬間、ライフル弾を叩き込んで先制、ブレードをコアに突き立てる。狭い室内から抜けた後だ。それで終わる筈だと、G・ファウストの経験が語る。


 扉が開き、中からACが姿を現す。ドミナントと目される若きレイヴン、ジナイーダとも並ぶとまでいわれる、レイヴンの中でも有数の戦力。


「お前もレイヴンなら、戦場で死ぬ覚悟は出来ているな」


 しかし、この場所なら勝る。そのようにアセンブルを組み上げたのだ。敵の死を確信し、彼はライフルのトリガーを引くようにACを操作する。
 狙い通り、ライフルは着弾した。このライフルは敵の動きを硬直させる能力にも長けている。この隙にブレードを叩き込めば、それで終わりだ。


 だが、動きを固める筈だったライフルは本来の役目を果たさず、敵に僅かなダメージを与えるに留まった。必中を確信していた斬撃が、むなしく空を切る。
 G・ファウストの知識は、古すぎた。すでに脚部パーツの発展は進み、彼の持つライフルでは敵の動きを止める役目は果たせないのだ。
 経験則に頼った老兵の、致命的な読み違えだった。


「なに!?」


 同時に背後からリニアライフルによる衝撃とリボルバーによる衝撃の二重攻撃が叩き込まれる。慌てて背面を狙うも、遅い。
 すでに敵レイヴンは頭上を浮遊し、手に持つリニアライフルとリボルバーハンドガンで、弾丸の雨を降り注がせている。


 頭部が破損し、暗視能力が消えた。視界が、一面の暗闇に満ちる。


「くそっ!」

 苛立ちと共にライフルを振り回す。視界が消えた以上、FCSによるロックオンだけがG・ファウストに残された目だ。それに頼るしか勝ち目はない。
 だが、それは相手も承知している事。故に、敵はブレードによってパンツァーメサイアの右腕を切り飛ばし、完全にG・ファウストの目を潰した。


 これで、敵の姿は完全に見えなくなった。撤退しようにも、施設の複雑な機構の所為でままならない。


「ええい、ままよーーーっ!!」


 唯一残されたロケットに全てを掛け、G・ファウストは勘に頼って射撃する。
 同時に、着弾した場所に向けて急速接近、最期の賭けとばかりにブレードにエネルギーを収束させる。


 駆動するブレードのプラズマが、暗闇に閉ざされていた室内を明るく照らし出す。その瞬間、彼は絶望が胸を支配した事を知った。
 敵の姿は、側面にあり、ブレードの間合いから外れている。


 こちらの無様を敵が笑う声を、G・ファウストは聞いた気がした。同時に、リニアライフルとリボルバーの弾丸が、パンツァーメサイアの装甲を抉る音も聞こえる。
 抵抗しようにも、パンツァーメサイアに一発逆転の火器は搭載されていない。
 G・ファウストは、見当違いの方向にロケットを乱射し、ブレードを空振りし、避ける事もままならず敵の弾幕を浴びて、いつしか沈黙した。


「なんと……!」


 G・ファウストは、パルヴァライザーと人間の共存を望んだ愚かな老人は、機械の救世主は。
 ――――――――死んだ。




 彼女は、施設を脱出した敵レイヴンに対して、肩部に装備されたプラズマキャノン砲を構えた。
 彼女は悲しんでいた。もし口があれば、天をも震わす泣き声を上げていただろう。
 彼女は絶望していた。これで人間とパルヴァライザーの共存は失われた。
 彼女は憎悪していた。ファウストを殺した敵のレイヴンを。


 人間と争う事を好まなかったパルヴァライザー。自身の一族の為に老兵と共に戦った機械仕掛けの女は、戦友の仇を討つべく覚悟を決めた。


 他の誰を逃しても。
 他の誰にやられようとも。

 貴様だけは、殺してやる。




 だが、彼女の装甲は脆く、また怒りに我を失った彼女の攻撃は散漫に過ぎた。そこに、かつて老兵を守った時の熟達した動きはなく、まるで素人そのものだった。
 結局、その隙を見出したレイヴンに言い様に嬲られ、彼女もまた命を落とした。ドミナントになりつつある彼にとって、彼女は格好の的でしかなかったのだ。


「レイヴン、お疲れ様」


 その行動が、パルヴァライザー達を最終戦争へと決断させる事になったとも知らず、レイヴンは帰営した。35000Cというはした金を手にして。






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